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戦士の宴  作者: 高橋 連
四章 後編 「シャンピニオン山の戦い 其之四」
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ジョルジュ

【ジョルジュ】


 吹き荒れる竜巻を打ち砕き、ジョルジュの目の前に現れた竜は、伝説によって語り継がれてきた四肢で大地に立つ巨大な蜥蜴の様な姿とは違った。

 全身を灰色だが仄かに光輝く鱗で覆われ、頭部には巨大な角が幾つも生え、鰐の様な顎に爪と牙、長大な尾、それらはまさに語り継がれる竜と同じだったが、ただ一点、目の前の竜の姿は伝説と違っていたのだ。人と同じ様に、大地に二本の脚で立っていたのである。

 その姿は、巨大で強大な荒ぶる魔獣ではなく、神々しい巨人の様だった。

(あ、あれが竜……)

 驚き言葉をなくすジョルジュに、〈シグマ〉が尋ねた。

(お前、竜を見るのは初めてか?)

(当たり前だろ! 竜なんて見た事あるわけがないだろう。それに、まさか本当に竜がいるなんて……)

 頭の中で話しかけてくる〈シグマ〉と名乗る声に答えていた時、ジョルジュの中で声の主への疑問が沸き起こった。

(おい! お前は一体何者なん……)

 ジョルジュの問いを遮るように、〈シグマ〉の言葉が頭の中で響いた。

(あの野郎、恐怖に呑まれた様だぞ)

 その言葉に、ジョルジュがクロードの〈騎操兵〉を見ると、恐怖に我を失ったのか大剣も盾も全てを投げ捨てて全速で走り出していた。

(集中しろ! 動くぞ!!)

 〈シグマ〉の言葉で視線を〈竜殺し〉に戻した時には、そこに〈竜殺し〉の姿はなかった。

(速いっ! 飛んだのか!?)

 〈竜殺し〉は〈騎操兵〉の二倍以上もあるその巨体からは想像もつかない速度で移動すると、逃げ出すクロードの〈騎操兵〉の前に回り込み、右腕を振り降ろした。

 〈竜殺し〉の右腕の一撃は、クロードの〈騎操兵〉を砂糖菓子の様に、いとも簡単に砕き潰した。

『クロード!!』

 眼前でクロードを殺されたジョルジュは、怒りに我を忘れ、全身から殺気を漲らせて走り出していた。

(おい! 落ち着け! 馬鹿野郎!)

 〈シグマ〉の言葉を無視して正面から迫るジョルジュに、〈竜殺し〉は強大な力を持って迎え撃った。

(くるぞ! 避けろ!!)

 〈竜殺し〉の巨大な顎が開いたかと思うと、全てを燃やし尽くす紅蓮の炎の息が吹き出され、ジョルジュの〈騎操兵〉を包み込む様に襲い掛かってきた。

 ジョルジュの〈騎操兵〉は、〈竜殺し〉の放った炎の息が機体を包み込む直前に急停止し、それと同時に真横に移動して炎の息をかわした。ジョルジュは更にそのまま左方向に旋回しながら〈竜殺し〉の右側面に回り込むと、〈魔導筒〉を連射してその巨躯に叩き込んだ。

(そんな玩具の攻撃で、〈竜殺し〉の鱗を打ち抜けるわけが無いだろうが! まずは距離を取れ)

 クロードの死と、いまだかつて直面した事がない恐怖と強大な魔獣、そして〈シグマ〉と名乗る何者かによって覚醒された体から沸き起こる力。それら全てがジョルジュの脳細胞を沸騰させていた。

(うるさいっ!! 頭の中でわめくな! 体の奥底から力が沸き上がってくる……。いまなら、こいつが竜でも……、やれる!)

(おい! たしかに俺との融合によってお前の精神感応力は高まっている。それに応じて、〈騎操兵〉の力も飛躍的に高まっているだろう。だがな、そんな程度で勝てる様な相手じゃなねぇんだよ! せっかく俺が拾ってやった命を無駄にするな、馬鹿が!)

 だが、〈シグマ〉の言葉を裏切るように、ジョルジュが〈魔導筒〉から放った魔力の塊は〈竜殺し〉の鱗を打ち抜きその身を灼いた。

「グオオォォォォ!」

 ジョルジュの放った魔力の塊によって身を穿たれ灼かれた〈竜殺し〉から、その巨躯にふさわしい荒ぶる咆哮が轟いた。

(見ろ! いける! クロードとエミールの仇、討たせてもう!!)

 ジョルジュは機動力を活かして〈竜殺し〉の周囲を旋回しながら、〈魔導筒〉から幾つもの魔力の塊を撃ち放った。

 〈竜殺し〉は巨躯に似合わぬ素早さでそれらをかわしたが、幾つかは魔力の塊をその身に受け、またも血を流した。

(馬鹿な……。いくら俺との融合で力を増したとはいえ、竜の鱗を打ち砕くなどあるはずがない……)

 〈シグマ〉の言葉に、ジョルジュが興奮した様子で叫び返した。

(まだ言っているのか。お前の話は後で聞く。今は俺が竜殺しになるのを見ていろ!)

 ジョルジュの体から更に力が沸き起こった。己の力を知覚し、滾らせる程に沸き上がってくる様だった。

 ジョルジュは〈騎操兵〉の速度を引き上げ、〈竜殺し〉へと突進した。

 恐ろしくも巨大な翼を広げ、何者をも打ち砕く牙と爪、最強の闘気と魔力、最高の叡智を兼ね備え、二本の脚で大地に立つ巨人の様なその姿は、神と呼んでも差し支え無い程に神々しかった。その竜に向かっていく〈騎操兵〉は、まるで魔獣に挑む勇敢な騎士の様であった。

 しかし、勇敢に立ち向かうジョルジュの心の中に恐怖や迷いが無いわけではなかった。体の内から沸き上がる力が、それらを覆い隠してくれただけだったし、決して全てが隠れたわけでもなかった。

 力の奔流の僅かな隙間から、恐怖が覗き見、迷いがその手を伸ばそうとした。だが、それらに向き合ってなお、ジョルジュは〈竜殺し〉へと突き進んだ。

(恐れは恥ではない。迷いは弱さではない。それらから目を背けるのは強さではない)

 己にそう言い聞かせて、震える手に力を込めながら……。


恐れや迷いに正面から立ち向かいながら、懸命に戦うジョルジュ!!


彼は果たして伝説に謳われる最強の生物である竜に打ち勝てるのか!?


今後とも宜しくお願い致します^^


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