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戦士の宴  作者: 高橋 連
四章 後編 「シャンピニオン山の戦い 其之四」
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竜殺し

【竜殺し】


 〈竜殺し〉は周囲を岩石球で防御しながら、後方の左右の腕と両肩に〈魔導筒〉を装備した遠距離型の〈騎操兵〉に正面から迫った。

 その〈騎操兵〉の激烈な〈魔導筒〉の射撃をかわしながら、凄まじい殺気を放って〈竜殺し〉は宙を駆けた。

(あの〈騎操兵〉の〈魔導筒〉の装填時間を計っている様だが、気をつけろよ)

(わかっている。あれしきの偽装に引っかかるわけもないだろう)

 〈竜殺し〉も〈シータ〉も、敵の〈騎操兵〉が両肩の〈魔導筒〉の発射間隔を偽装して、〈竜殺し〉を罠に掛け様としている事に既に気がついていた。

(わかっていてその動きをしているという事は、奴の稚拙な罠を逆手にとるつもりか?)

(ああ、あの〈魔導筒〉、特に両肩の〈魔導筒〉は厄介だ。あれは岩石球でも防げぬからな)

 〈竜殺し〉は〈シータ〉にそう言いながら、何事か呪文を詠唱し始めた。

(お主が呪文の詠唱とは珍しいな)

(腕の術式紋様は楽だが、呪文の発動を悟られるからな。逆に紋様を発動させねば、敵は俺の呪文に気がつくまい)

 〈騎操兵〉の放つ魔力の塊をかわし、岩石球で防御しながら、〈竜殺し〉は〈騎操兵〉の至近へと接近した。そこに、〈騎操兵〉の両肩の〈魔導筒〉が発射され、〈竜殺し〉の周囲の岩石球を打ち砕いた。

(今だな)

(ああ!)

 〈竜殺し〉は両腕の肩、肘、手の甲に彫られた魔法陣に魔力を流し込み、それらを蒼く輝かせると、砕かれた岩石球の破片に魔力を注ぎこんだ。岩石球の破片は、宙を舞う様に〈騎操兵〉の両腕に絡み付くと、その動きを完全に封じた。

 そして、〈竜殺し〉は己の姿と気配を破砕された岩石球の破片で隠すと、あらかじめ呪文を詠唱して自身の姿に似せて造りだしていた土人形を、〈騎操兵〉の正面に飛びこませた。

 先ほどまでの発射間隔ではまだ充填が終わっていないはずの両肩の〈魔導筒〉から、高密度の魔力の塊が凄まじい勢いで発射され、〈竜殺し〉の姿に似せられた土人形を粉々に打ち砕いた。

 魔力の幻影で血飛沫と肉片を撒き散らして地面に叩きつけられた様に見えた土人形だったが、地面に転がる頃には、砂と化して消え去った。

 それは僅かな時間であったが、〈竜殺し〉が右腕に魔力を集中し、〈騎操兵〉の懐に潜り込んで呪文を叩き込むには十分な時間であった。

『化け物めっ!!』

 敵の〈騎操兵〉から、悲鳴の様な声が響いた。

 〈竜殺し〉はその声を無視すると、ゆっくりと宙を飛んで、遠距離型の〈騎操兵〉に近づいた。そして、蒼く輝く右腕を差し出し、〈騎操兵〉の胸にその魔力が溢れ出す掌を狙い向けた。

 溢れ出す魔力が莫大な熱量へと変換されるとそれは赤色から白色へと変化し、やがて超高温で燃え盛る炎の如き光の塊が現れた。

(光の槍か。それなら〈騎操兵〉の装甲も軽く貫くな)

 〈竜殺し〉が〈シータ〉の言葉に頷きながら光の槍を放とうとした時、〈騎操兵〉の脇、腰、膝辺りから小さな突起物が飛び出した。

(往生際の悪い奴め!)

 〈騎操兵〉の体から飛び出した小さな突起物から、細い光が発射された。それは〈騎操兵〉が装備している中型や大型の〈魔導筒〉と比べると、密度も低く、大きさも小さい魔力の塊であったが、周囲に防御結界も岩石球もなかった〈竜殺し〉の体を貫くには十分な威力であった。

 しかし、幾多の死線を潜り抜けてきた〈竜殺し〉にとって、いくら不意に、しかも至近からの射撃とはいえ、それらの小型の〈魔導筒〉から放たれた魔力の塊をかわす事は難しくなかった。

 結界術等は間に合わない為、〈竜殺し〉は宙空でその体を自在に閃かせて、敵の〈騎操兵〉の体に仕込まれていた幾つもの小型の〈魔導筒〉から放たれた魔力の塊を紙一重でかわした。かわしたはずだった。

「ぐはっ!」

 だが、かわしたはずの魔力の塊の一つが、突如として考えられぬ動きで〈竜殺し〉の脇腹を貫いた。脇腹を貫かれた衝撃で〈竜殺し〉の動きが一瞬止まった所に、さらに無数の魔力の塊が襲い掛かってきた。

 〈竜殺し〉の体を無数の魔力の塊が貫くと、〈竜殺し〉の体は真っ赤な霧に包まれた様に血を吹き出し、大量の血反吐を吐いた。しかし、その右腕に込められた魔力の輝きは、衰える様子はなかった。

(まさか……、放った後に……その軌道を曲げるとは……能力者か……)

 血塗れになりながらも斃れぬ〈竜殺し〉に止めを刺そうと、〈騎操兵〉の体から飛び出した小さな突起物からまたも魔力の塊が放たれるのと同時に、〈竜殺し〉の右腕からも光の槍が放たれた。

〈騎操兵〉の放った魔力の塊が〈竜殺し〉の体を貫くのと同時に、〈竜殺し〉の放った光の槍も眼前の〈騎操兵〉の体を撃ち抜いた。

 〈竜殺し〉の光の槍に搭乗部を撃ち抜かれ、〈騎操兵〉の搭乗兵は即死したのであろう。〈騎操兵〉はゆっくりと膝を折る様に崩れ落ちた。

(たった一機しか……仕留められぬ……とは、俺も……腕が落ちたか……)

(エドワード! ここは一旦退がれ!)

 〈シータ〉の言葉に、〈竜殺し〉は首を振りながら答えた。

(目が……霞んできやがった……。俺の魔力が……途切れて、氷の巨人も……溶けだしている……頃だろう。〈騎操兵〉二機相手……に、逃げ切れまい……)

 〈竜殺し〉は力尽き、地面に倒れ伏した。

(致し方あるまい……。イディオタ様探索の緊急条項と、お主の生存権の発動により、封印の解除を許可する!)

 〈シータ〉はそう言うと、今まで使用していなかった、正確に言えばある一点の事に全力を注いでいた為に使用できなかった、通常の〈賢者の石〉の能力を全開にし、〈竜殺し〉の体の中で活動し始めた。

(はは……、そう……こなくっちゃ……な……)

(軽口を叩いている場合じゃないぞ! 封印を解くのだから、この後は国に戻り、それ相応の立場に立たされるぞ)

(ふう、仕方ないな……。力が戻ってきた……、では解放と……いくか……!)

 血だるまになって地面に転がる〈竜殺し〉の体を、異常な魔力と闘気が包み込み、さらには地上の生物には考えられぬ程の生命力が溢れだした。それらが結界の様に〈竜殺し〉の体の周囲を激しく回転しながら包み込み、その激流は大地を砕き巻き上げながら、大きく広がっていった。

 その巨大な竜巻の中で、〈竜殺し〉の体の影が大きく膨らんでいく様に見えた。


ブックマークして下さった方、有難うございます!!


遂に竜殺しの真の姿が!!!


今後とも宜しくお願いします^^


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