竜殺し
【竜殺し】
〈竜殺し〉は大地を隆起させて造りだした岩石球で〈騎操兵〉の繰り出す大剣と盾を受けながら、溶岩の槍を無数に操り、白銀に輝く巨大な〈騎操兵〉と互角以上に闘っていた。
(おい、エドワードよ。この巨体と近接戦闘は危険ではないか?)
〈シータ〉の言葉に、〈竜殺し〉は楽しそうな笑みを浮かべて答えた。
(これだけ接近して闘っているからこそ、他の〈騎操兵〉が手を出せないのだ。それに、これだけ熱くなれる闘いは久々だ。少しは楽しませてもらおうか)
〈竜殺し〉の言葉に、〈シータ〉は問い返した。
(ならばなぜ溶岩の槍しか繰り出さん? 貫通力ならば火炎系の術の方があるだろう?)
(隊長機らしき〈騎操兵〉は中距離型の様に見受けられる。いつ突っ込んでくるかもしれぬ故、そちらへにも備えねばならぬからな)
(あんまり遊んでいると痛い目に遭うぞ。仕留められる時に確実に仕留めとけよ!)
〈シータ〉の言葉に、〈竜殺し〉が溜め息混じりに答えた。
(はいはい、仰せの通りに。こいつもそろそろしくじるだろう。お前の言う通りその時は確実に仕留める事にしよう)
〈竜殺し〉と〈シータ〉のやり取りから幾らも経たぬうちに、大剣を持った〈騎操兵〉は〈竜殺し〉の攻撃に焦りを感じたのか、〈竜殺し〉が繰り出した無数の岩石球を正面から受け止め様として体勢を崩した。
その僅かな隙を〈竜殺し〉は見逃しはしなかった。
(こいつの相手もそろそろ飽いた。これで終わりとするか……)
〈竜殺し〉は両腕に魔力を集めると、それを更に凝縮して爆発させた。左右の腕に彫られた魔導術式と魔法陣が蒼く光り、まっすぐに伸ばした〈竜殺し〉の掌に空間を歪める程の魔力が集まった
その魔力が魔導術式と魔法陣によって変換され、超々高熱の光体へと変化しようとした時、〈竜殺し〉に高密度の魔力の塊が飛んできた。
(エドワード!)
(怒鳴るな。わかっている)
〈シータ〉の怒号に〈竜殺し〉は落ち着いて答えると、発動させようとした呪文の術式を切り替え、光の盾を造りだして飛んできた魔力の塊を弾いた。
弾かれた魔力の塊は大地を抉り、轟音と共に盛大な土埃を巻き上げた。
『クロード、距離をとれ!』
その轟音に紛れて、隊長機と思われる〈騎操兵〉から怒号が聞こえた。その声に反応して、体勢を崩していた大剣を持った〈騎操兵〉は体勢を整えると、宙を浮いて大地を蹴るように後退して〈竜殺し〉との距離をとった。
(逃がすなよ!)
〈シータ〉の言葉に答える間もなく、〈竜殺し〉は新たな呪文で後退する大型の〈騎操兵〉を倒そうとしたが、後方に待機する両肩に〈魔導筒〉を装備した〈騎操兵〉の猛烈な射撃によって断念した。
(ちっ、遊びがすぎたか……)
(だから言っただろうが。これで奴ら、これからは距離をとって三機掛かりで襲ってくるぞ!)
〈シータ〉の言葉の後に、隊長機が叫んだ。
『クロード、近接戦闘では援護ができん。腕の射程を使って近距離戦闘に切り替えろ!』
その声に、大剣を持った〈騎操兵〉が答えた。
『了解!』
(ほれみろ!)
(俺の相手をするには、三機位で丁度いいんだよ!)
〈竜殺し〉は〈シータ〉にそう大見得を切ると、魔力を全身に駆け巡らせて爆発させた。その魔力に呼応して、両腕の魔導術式と魔法陣が、今まで以上に目映く蒼く輝いた。
魔力を全開にした〈竜殺し〉は凄まじかった。
〈竜殺し〉はその魔力を使って先程の倍以上の数の岩石球を造りだすと、周囲に回転させて〈騎操兵〉達の攻撃を防御させながら、時には岩石球を縦横無尽に操って〈騎操兵〉に叩きつけて戦った。
それに抗して〈騎操兵〉達が大剣や〈魔導筒〉によって岩石球を砕いても、際限無く瞬時に無数の岩石球を造り出すと共に、砕かれた巨大な破片さえをも操ってそれを〈騎操兵〉に叩きつけ、その隙を突いて攻勢にでた。
しかし、大剣を持つ〈騎操兵〉や両肩に〈魔導筒〉を装備した〈騎操兵〉に襲い掛かると、隊長機らしき〈騎操兵〉が援護に回って邪魔をし、その隊長機の〈騎操兵〉に襲い掛かると、大剣を持った〈騎操兵〉と両肩に〈魔導筒〉を装備した〈騎操兵〉二機が、共に援護に回って呪文を放つ〈竜殺し〉の隙を突いてきた。
〈シータ〉に大口を叩くだけあって、〈騎操兵〉三機を相手に一歩も引けを取らぬ〈竜殺し〉ではあったが、決め手にも欠けており、闘いは膠着状態であった。
(おい、どうする気だ? 向こうは疲れを知らぬ機械仕掛けだが、こっちは生身なのだぞ。いつか後手に回る事になるぞ!)
(機械仕掛けだからこそ、奴らの動力源である魔力が先に枯渇すると思うがな……)
〈竜殺し〉は〈シータ〉にそう答えながらも、この膠着状態を打破する策を考えていた。
師であるイディオタの教えと目がある上に、無思慮で無茶をする弟分の〈銀の槍〉が居た為、〈竜殺し〉はいつも冷静な判断をする様に己を律していた。しかし、本来は〈銀の槍〉以上に短気で激情家であり、その闘いぶりも猛列な攻勢を得意としている〈竜殺し〉にとって、この膠着状態は想像以上にその神経をすり減らす作業であり、苦痛であった。
〈竜殺し〉は、入り乱れ闘う乱戦の最中に、三機の〈騎操兵〉を細かく観察し、その闘い方の癖や人為を見極めていた。
(決めた。あの後ろの奴からぶっ殺すぞ!)
〈竜殺し〉の言葉に、〈シータ〉はまた無茶をするのではないかと心配になった。
(おい、どうするつもりだ?)
(あの後方の〈騎操兵〉の両肩に載っかった〈魔導筒〉が厄介だ。あれから潰す。どうやらあの〈騎操兵〉の搭乗兵は実戦にも不慣れな様だしな)
(おい、だからどうやって潰すつもりだ? また他の〈騎操兵〉の邪魔がはいるぞ。無理押しすれば、呪文を放った直後の隙を突かれてこちらが潰されるぞ!)
(どうやってって、正面からぶっ潰してやるのよ!)
〈竜殺し〉はそう答えると、両腕を蒼く光らせながら飛翔術を唱え、後方の両肩に〈魔導筒〉を装備した〈騎操兵〉に向かって宙を駆ける様に飛んだ。
(おい、人の話を聞け! この馬鹿が!)
(わかってるよ!)
〈竜殺し〉は〈シータ〉の怒号に答えながら、後方を振り返ると、〈竜殺し〉の後背を突こうと駆けだした〈騎操兵〉二機に向かって岩石球を叩きつけた。
二機の〈騎操兵〉が岩石球を砕く隙を突いて、それぞれに向かって、〈竜殺し〉は右腕と左腕を突きだした。
突きだした両腕の肘から先が蒼く輝き、その光が消えたと同時に二機の〈騎操兵〉の眼前に氷で造られた巨人が現れ、〈騎操兵〉に向かって猛然と襲い掛かった。
〈竜殺し〉が造りだした氷の巨人は、大型の〈騎操兵〉を越える巨体であった。その体の表面は鏡面の様に滑らかで陽光を受けて輝きを放ち、両腕は肘から先が巨大な剣の様になっていた。
氷の巨人の鏡の様に磨かれた体表は、〈騎操兵〉の〈魔導筒〉から放たれる魔力の塊を滑る様に弾き、両腕の剣は〈騎操兵〉の装甲に傷を負わせるほど鋭利で頑丈だった。
(氷の巨人か。少し術式を変えている様だが……。あれで〈騎操兵〉を仕留められるのか?)
(いや、所詮は〈操兵〉だ。〈騎操兵〉を倒すのは無理だろうな。しかし、あの〈騎操兵〉を潰す位の間は足止めになるだろうよ!)
〈竜殺し〉は後ろを振り返る事なくそう言うと、両肩に〈魔導筒〉を装備した〈騎操兵〉に向かって更に速度を増して飛んだ。
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明日は14時にアップ予定です!!