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戦士の宴  作者: 高橋 連
四章 後編 「シャンピニオン山の戦い 其之四」
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クロード

【クロード】


 〈騎操兵〉という圧倒的な力の象徴に搭乗しながらも、たった一人の生身の人間との戦いによってクロード兵長の心には焦りと不安が充満し、それは徐々に恐怖へと変化し始めていた。

 

 〈騎操兵〉の腕部の関節は、人間の腕と比べ関節が一つ多く造られており、更にはその可動範囲も広く大きかった。それによって〈騎操兵〉は人間の関節では考えられない動きを可能としていた。

その腕部の動きと、脚部の魔導回路による機動力を駆使し、クロードは大剣と丸型の巨大な盾をもって〈竜殺し〉に猛撃を浴びせていた。

 クロードは〈騎操兵〉の右腕を鞭の様にしならせながら、〈竜殺し〉の頭部を狙って大剣を薙払った。当たれば頭部どころか、〈竜殺し〉の体が砕け肉塊と化す一撃である。

 〈竜殺し〉はその一撃を、クロードの〈騎操兵〉の右の懐に潜り込む様に体を回転させながらかわすと、両腕を蒼く光らせて無数の小さな稲妻を呼び出し、それらを束ねるようにして大きな稲光る槍に形造ると、クロードに向かって投げ放ってきた。

 稲妻で造られた槍が、至近距離からクロードの〈騎操兵〉の右脇腹を貫こうと迫った。

(ちっ!)

 クロードは〈騎操兵〉を右に半回転させながら半歩後退し、稲妻の槍を左腕の盾で弾くと、その勢いを駆って更に機体を回転させて又も右腕の大剣で〈竜殺し〉を狙った。

 それに対し〈竜殺し〉は、今度は大地を隆起させると、岩石で出来た球体の様な物を幾つも造り出し、その一つで大剣の一撃を弾き逸らした。そして、他の岩石の球体を先端が尖った円錐形に変化させると、両の手から放った火炎でその円錐形の岩を包み込んだ。

 火炎に包まれた円錐形の岩は、燃え上がる灼熱の溶岩と化してその姿を変化させ、燃え盛る槍へと姿を変えた。その燃え盛る溶岩の槍は、今にもクロードに向かって飛び迫りそうであった。

 クロードは〈竜殺し〉が溶岩の槍を放つ前の隙を突いて、右腕をしならせその手に持つ大剣を〈竜殺し〉の頭上から叩きつけた。

(喰らえっ)

 呪文を放とうとした〈竜殺し〉の隙をついた筈だったが、落ち着いた様子で〈竜殺し〉は頭上から迫る大剣を溶岩の槍で防いだ。

 大剣を受け止めた溶岩の槍は、火山がその息吹を轟かした様な凄まじい音を響かせて砕け散った。

(まだまだっ! 次は〈騎操兵〉の体重を乗せた盾をぶち当ててやる!)

 クロードは機体を左右に振って激しく揺れる振り子の様に動かすと、その勢いと〈騎操兵〉の関節の可動域を利用して、今度は左腕の巨大な盾を〈竜殺し〉に向かって叩きつけた。

 クロードの〈騎操兵〉の巨大な盾が〈竜殺し〉を打ち砕くと思った瞬間、〈竜殺し〉の左腕がまたも蒼く光った。

大地が隆起して先ほどの岩石の球体が現れ、クロードの〈騎操兵〉が渾身の力を込めて叩きつけた盾を受け止めた。幾らか砕けた岩の破片が飛び散ったが、砕ける事なくクロードの一撃を受け止めた様だった。

 盾の一撃を受け止められたクロードだったが、機体の動きを緩める事無く〈騎操兵〉を半歩後退させると、今度は機体を回転させて巨大な駒の様に回転しながら〈竜殺し〉に襲い掛かった。しかも、先程までは鞭の様にしならせていた両腕を短く畳んで関節の可動域を最大限に活かしながら、回転する勢いを乗せた大剣の一撃を〈竜殺し〉の死角から繰り出した。

 しかし、〈竜殺し〉も一歩も引く事なくクロードの〈騎操兵〉と同じ様に体を捻って回転するようにクロードの攻撃を避け、時に岩石の球体で防御しながら、溶岩の槍を造りだしてはクロードに向かって投げ放ってきた。

 クロードの〈騎操兵〉と〈竜殺し〉は、互いに舞う様に回転し入り乱れながら闘い、鉄と岩がぶつかり合う轟音を響かせながら幾合も打ち合った。

(距離を取って闘うならまだしも、この至近で俺の〈騎操兵〉と打ち合うとは、化け物か……)

 クロードの心を焦りと不安が満たし、それが恐怖に変化し始めたその時、心の動揺が隙を生んだ。

 精神的に押され始めたクロードは、〈竜殺し〉が連続で放った岩石の球体を〈騎操兵〉の巨躯をもって強引に押し返そうとした。心に芽吹いた恐怖心が勝負を急いだのだ。

 幾つもの岩石の球体が重なり巨大な質量となっていたそれを、クロードの〈騎操兵〉は押し返せなかった。高速で回転する独楽が急にその回転を止められた様に、クロードの〈騎操兵〉は岩石の球体にその回転を止められ、体勢を崩した。

 それを見逃す〈竜殺し〉では無かった。体勢を崩して隙の出来たクロードの〈騎操兵〉に、〈竜殺し〉の必殺の一撃が迫った。

(しまった!)

 クロードの〈騎操兵〉が態勢を立て直す前に、〈竜殺し〉の両腕に恐るべき魔力が溢れだした。

 〈騎操兵〉の感覚器を通じてその魔力を感じたクロードは、〈竜殺し〉がその魔力によって放つ呪文が己の〈騎操兵〉の装甲を貫く事を確信した。

 クロードは己の最後を覚悟し、瞳を閉じた。

(隊長、御武運を……)

 その時、〈魔導筒〉から放たれた魔力の固まりが大地を穿つ轟音と共に、ジョルジュの声が響き渡った。

『クロード、距離を取れ!』

 クロード兵長はその声に瞬時に反応すると、脚部の魔導回路に魔力を集中して後方に退がり、ジョルジュとエミールの狙撃によって動きを封じられている〈竜殺し〉から距離を取った。

 クロードが〈竜殺し〉を侮って互いの間合いに入り乱れての近接戦闘をしていた為、今までジョルジュやエミールの〈騎操兵〉は援護できなかったのだ。しかし、クロードが体勢を崩しその動きが止まった為、今やっと二機の〈騎操兵〉が援護すべく戦闘に割って入ったのだった。

『クロード、近接戦闘では援護が出来ぬ。腕の射程を使って近距離戦闘に切り替えろ!』

『了解!』

 〈騎操兵〉の拡声器を通してクロードはジョルジュに答えると、脚部に魔力を集中して〈竜殺し〉との距離を保ちながら、長い腕を生かして大剣を振るった。その動きに合わせて、ジョルジュの〈騎操兵〉も〈魔導筒〉や剣で〈竜殺し〉に襲い掛かり、後方で狙撃体勢を整えたエミールが、幾つもの〈魔導筒〉で〈竜殺し〉を狙った。

 功を焦り、敵を侮って陥った危機から抜け出したクロードだったが、〈騎操兵〉三機による完全な連携という圧倒的優位な体勢を整えた今でも、その心を覆う恐怖を拭う事は出来なかった。


読んで下さって有難うございます^^

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