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戦士の宴  作者: 高橋 連
四章 後編 「シャンピニオン山の戦い 其之四」
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ジョルジュ

【ジョルジュ】


 ジョルジュの声は雨の様に降り注ぐ稲妻の轟音にかき消されたが、鼠賊討伐や地方貴族の叛乱鎮圧などで実戦経験を積んでいる精鋭部隊だけあり、敵の攻撃に即応して散開し、〈騎操兵〉の後方に退避した。それでも、死傷者は歩兵二個中隊約二百名のうち半数近くに及んでいた。

 ジョルジュは降り注ぐ稲妻が静まったのを確認すると、歩兵部隊に後方への退却を指示した。

『歩兵は全部隊戦闘区域より退避! 死傷者を運びつつ、後方の本隊に合流し援軍を求めよ』

(凄まじい魔力だな……。〈竜殺し〉の異名で呼ばれるだけの事はある。クロードはまだしも、エミールは動揺しているだろうな……)

 歩兵達が一斉に後方に退くと、ジョルジュは左右に控える部下の〈騎操兵〉に、声を荒げて叱咤した。

『人間に竜を殺せるはずがあるまい! 恐れるな、〈騎操兵〉に敵は無し!!』

 さらに、照明信号で作戦を指示した。

『サンホウコウ ヨリ ゼンソクホコウ ニテ ゼンシン』

 二機の〈騎操兵〉より、了解の合図が返されると、三機の〈騎操兵〉は同時に走り出した。 

 ジョルジュの搭乗する〈騎操兵〉は正面から迫り、クロード兵長の〈塔型騎操兵〉は左より、エミール中兵の〈道化型騎操兵〉は右より、三機の〈騎操兵〉はそれぞれ歩調を合わせて三方向から包囲する様に〈竜殺し〉に迫った。

 大地に一人立つ〈竜殺し〉の左腕が輝いたかと思うと、大地が隆起し、ジョルジュの〈騎操兵〉に襲い掛かってきた。

(あの腕の輝きが魔術発動の合図か!)

 大地が隆起し現れた物は、岩で造られた無数の巨大な牙であった。それは〈騎操兵〉の背丈の倍程の大きさがあり、時に固く尖り、時に蛇の如くしなやかに蠢き、〈騎操兵〉に襲い掛かってきた。

 ジョルジュは右手に装備していた〈魔導筒〉を腰の後ろに仕舞うと、左右の腰に装備されていた二本の剣を抜き放ち、両手に剣を構えた。そして、唸りをあげて襲い来る岩の牙を、双剣を縦横無尽に操り次々と砕きながら駆けた。

 岩の牙を破壊しながら左右を確認すると、クロード兵長とエミール中兵もそれぞれ大剣や〈魔導筒〉を駆使して、次々と岩の牙を打砕いていた。幾つかはクロードとエミールの隙をついて〈騎操兵〉にその牙を突き立てたが、岩の牙は二人の大型〈騎操兵〉の装甲の前に砕け散った。

 部下の無事を確認したジョルジュが視線を〈竜殺し〉に戻すと、〈竜殺し〉の姿は消え失せていた。

(どこだっ!?)

 ジョルジュが部下に気を取られている一瞬の隙をついて、〈竜殺し〉は高速でクロード兵長の〈騎操兵〉の後方に移動し、右腕を真っ直ぐにクロード兵長の〈騎操兵〉に向けて伸ばしいていた。

(しまった!) 

 その右腕が蒼く輝いた後、伸ばした右腕の掌が更に目映く輝いた。

『クロード! 後ろだ!!』

 ジョルジュの〈騎操兵〉から危険を知らせる声が発せられる一瞬前に、〈竜殺し〉の右腕から超高熱の炎の塊が、槍の様な形を取って放たれた。

 完全に後方からの不意をついた攻撃だったが、クロード兵長の〈騎操兵〉は脚部に魔力を集中すると、急速回転して後背の〈竜殺し〉に向き直り、左腕の盾で超高熱の火炎の槍を受け止めた。

 対魔導結界術式を施された大型の盾が、超高熱の火炎の槍を防ぐと、火炎の槍はその形を崩して周囲に拡散した。その様は、まるで炎の壁の様であった。

 クロード兵長は脚部の魔導回路に魔力を集中させ、先ほど見せた驚異的な機動力を発揮し、炎の壁を突き破る様に〈竜殺し〉に向かって突進した。〈騎操兵〉の巨体は、僅かだが地面より浮きながら地を蹴る様に突き進んでいた。

(やるな、クロード)

 ジョルジュは部下の動きに目を見張った。そして、クロード兵長の反撃を補助するようにエミール中兵に照明信号で指示を送りながら、双剣を仕舞うと、〈魔導筒〉を装備して移動を開始した。

 ジョルジュとエミール中兵の操る〈騎操兵〉も、クロード兵長の〈騎操兵〉と同じように脚部の魔導回路に魔力を集中し、〈竜殺し〉が使った飛翔術の様に地面の上を僅かに浮き上がりながら、驚くべき瞬発力で〈竜殺し〉の後方に回り込んだ。

 その動きに気づいた〈竜殺し〉は、両腕より先ほどと同じ火炎の槍をジョルジュとエミールに放ったが、ジョルジュとエミールの〈騎操兵〉はそれを易々とかわした。

 エミール中兵は回避運動をとりながら照準を定め、回避と同時に両肩の上に装備された大型の〈魔導筒〉を発射した。その瞬間、〈竜殺し〉の両肩が輝いて周囲に魔術防御結界が張られたが、エミールの大型の〈魔導筒〉から放たれた巨大な魔力の塊はその防御結界を薄紙を破るように貫いて〈竜殺し〉に迫った。しかし、〈竜殺し〉の体を貫き砕く寸前に惜しくもかわされてしまった。

 だが、〈竜殺し〉がエミール中兵の〈魔導筒〉をかわした時に出来る隙を、ジョルジュは見逃さなかった。

(そこだっ! この間合いなら魔導の術をだす間もあるまい!)

 ジョルジュの〈魔導筒〉から放たれた一撃は、エミール中兵の放った魔力の塊をかわした〈竜殺し〉の隙を完全についた狙撃だった。よしんば〈竜殺し〉が察知しても、それを防ぐ魔導の術を詠唱する間もない筈だった。

 しかし、〈竜殺し〉は詠唱も魔法陣も無しに、またも両腕を蒼く輝かせたかと思うと、大地を隆起させて巨大な岩で造られた盾を出現させてジョルジュの放った魔力の塊を防いだ。

(奴は詠唱なしに魔導の術を使えるのか!? アーナンドさんが忠告してくれたあの蒼く輝く腕に秘密がありそうだな……)

 ジョルジュは部下に照明信号を送った。

『ジンケイ ゼロ ゼロ イチ』

 ジョルジュの照明信号を見た二機の〈騎操兵〉のうち、クロードの〈騎操兵〉は脚部に魔力を集中して〈竜殺し〉に近接戦闘を挑み、エミールの〈騎操兵〉は、〈竜殺し〉と一定距離を保ちながら円を描くように動いて、その両腕に装備された中型の〈魔導筒〉で遠距離より〈竜殺し〉を狙い撃った。

 ジョルジュは近接戦闘をするクロードと、遠距離より狙撃するエミールとの中間距離に位置を取り、二機の補助をしながら〈竜殺し〉に襲い掛かった。

 〈竜殺し〉はその双腕を蒼く輝かせながら幾多の呪文を繰り出し、三機の〈騎操兵〉を相手に一歩も引く事無く立ち向かって来た。

 巨大な岩の塊が、時には盾に、時には刃にと、様々に形を変えて飛び交い、その合間を縫って〈竜殺し〉の腕が蒼く輝く度に、稲妻や炎が宙を舞った。

(〈騎操兵〉三機相手に生身で戦う人間か。〈竜殺し〉……まさかな……)

 ジョルジュは〈騎操兵〉という圧倒的な力を具現化した鎧に身を包みながらも、その背中に嫌な汗をかいていた。


読んで下さって有難うございます^^

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