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戦士の宴  作者: 高橋 連
四章 前編 「王城の守護者」
143/211

レオナール

【レオナール】


 〈騎操兵〉完成の報告と、近衛軍上層部へのお披露目をかねて、近衛修練場での演習を行う事となった。

(〈シグマ〉殿、長い間のご協力、ありがとうございます。本日の演習が無事終われば、〈騎操兵〉はとりあえず完成となります)

 〈シグマ〉は、レオナールの傍らで宙に漂い光りながら、珍しくレオナールを誉めた。

(イディオタが頼むから協力したが、今はお前の研究を手伝えて光栄に思っているよ。イディオタが弟子にするだけはあるな。あの〈騎操兵〉は大した物だぜ)

 口悪く人を罵る事はあっても、誉める事など無い〈シグマ〉から誉められたレオナールは、素直に礼を述べた。

(ありがとうございます。その様に言っていただけると、少しはイディオタ様やヴィンセント殿下の期待に応えられたのかなと、自信がわきます。演習を一緒にご覧になっていただいた後、イディオタ様の元までお送りする予定です)

(そうか。お前の研究を見られなくなるのは少し寂しいが、口うるさい〈ガンマ〉の声を聞かなくて済むかと思うと嬉しいぜ)

 〈シグマ〉の言葉に、〈ガンマ〉は怒鳴り返した。

(貴方は本当に失礼な方ですね!)

(またお説教がはじまりやがった……)

(しかし、貴方の能力がなければレオナール殿の研究も実を結ばなかったと思います。私からもお礼を申し上げます。ありがとうございました)

 〈ガンマ〉の言葉に、〈シグマ〉は答える変わりに淡く光った。寂しげな光であった。

「では、行きましょうか!」

 レオナールは〈騎操兵〉とその装備類を荷台に積み込んだのを確認すると、研究員とジョルジュ達実験小隊の近衛兵と共に近衛修練場へと向かった。

 近衛修練場に着いたレオナール達は、急ぎ演習の準備を始めた。局員と実験小隊が準備している間、レオナールは観覧席でヴィンセントや近衛軍上層部の者達に、〈騎操兵〉の簡単な仕組みや、その戦力、更には製造や搭乗員育成など運用面についても説明した。

 〈騎操兵〉の演習を視察に来ていた近衛軍上層部の者達が驚いたのは、何よりその姿形であった。

 大きさは直立すれば人間の四人分程の背丈があった。その姿形は、開発当初のずんぐりとした姿から大幅に変更されていた。

 元々、〈騎操兵〉は対人戦闘を想定して開発されていた。それ故、その巨大な質量さえも武器とする為、短く太い堅牢な下半身によって機動力を犠牲にする代わりに安定性や突進力を重視した設計となっていたのである。

 だが、レオナールは他国がいずれ技術的に〈騎操兵〉と同じ様な兵器を開発する可能性や、イディオタの三高弟の様に人の身で〈騎操兵〉と対等に戦える者との戦闘までをも考慮して設計し直したのであった。

同等の戦闘力を持つ相手との戦闘、特に白兵戦では機動力の優劣が重要と判断し、下半身を大幅に設計変更して運動性の高い、脚が長く関節の多い下半身に変更されていた。

 その為、胴体の形も卵を逆さまにした様な胴体から、羽を広げた鳥の様な横に広く平べったい胴体へと変更され、更にはその新たな形の胴体から異様に長い手足が伸び、その姿は巨人と言うよりも手足の生えた白銀に輝く鳥の様であった。

 科学者の報告書に対し、半信半疑だった近衛軍上層部の者達も、〈騎操兵〉の異様な姿形を目の当たりにすると、口を閉じ、実際に動き演習する様を見てからは、レオナールを賞賛する様になった。

 演習は無事終わり、〈騎操兵〉開発計画は近衛軍上層部より成功と判断され、新たに量産計画を進める為の製造研究に取り掛かる事となった。

(〈シグマ〉殿、無事終わりました。今から〈騎操兵〉がアルベール王の石像の前に集合し、ヴィンセント殿下のお言葉を賜れば演習は終了です。後の片づけは局員達に命じておきますので、我々はこのままイディオタ様の元に赴きましょう)

 レオナールは胸飾りとして身につけていた〈シグマ〉にそう言って、アルベール王の石像の前に集まる〈騎操兵〉に視線を移した時、〈シグマ〉が答えた。

(その前に、少し試してみるか……)

 〈シグマ〉の言葉に、レオナールは問い返した。

(何をですか?)

(あいつ等をだよ)

(あいつら?)

 〈シグマ〉はレオナールの言葉には答えずに、強力な思念を〈騎操兵〉実験機に搭乗するジョルジュ達に発した。そして、更に念を強めた。

 すると、一機の〈騎操兵〉が突然動き出した。

(やはりあいつか……)

 ジョルジュが搭乗する〈騎操兵〉が突然動きだし、目の前のアルベール王の石像を叩き壊したのだ。

 その動きに一時修練場は騒然となったが、直ぐにヴィンセントが言葉を発してその場を納めた。

「はーはっはっはっはっはっは! 前から兄上も私も、修練場にその様な巨大な石像は邪魔だと申していたのだ。だから撤去する予定だったが、その手間が省けたわ。しかし、頭から粉々とは、はっはっはっはっは!」

 ヴィンセントの取り計らいで、この日の事件は不問とされて演習は終了し、〈騎操兵〉の量産化が正式に決定された。

 観覧席からヴィンセントと近衛軍上層部の面々は退出した後、レオナールの胸元の〈シグマ〉は七色に光りながら、大笑いを始めた。

(はーははははっはっはっはっはっは! 本当に石像を叩き壊すとは、あいつは大馬鹿野郎だな)

(〈シグマ〉殿! 貴方が何かされたのですね!)

 〈ガンマ〉は怒鳴って〈シグマ〉を責めたが、〈シグマ〉はそれには一切答えずに、レオナールに向かって言った。

(イディオタの所へ帰るのは延期だ。俺は暫くあいつの所で過ごす事にする。レオナールよ。俺をあいつ専用に開発した制御石という事にして、あいつに渡してくれ。〈騎操兵〉内部の制御石も外しておけよ。補助石はそのままでいいや)

 〈シグマ〉の言葉を理解できないレオナールは、気持ちを落ち着けると〈シグマ〉に聞き返した。

(あいつとは、ジョルジュ殿でしょうか?)

(お前は馬鹿か? 俺の思念に反応したのは奴しかいないだろうが。ごちゃごちゃ言わずに、さっさとしろよ!)

 〈シグマ〉の言葉に、〈ガンマ〉がまた怒鳴った。

(その言い方はレオナール殿に失礼ではありませんか! 大体貴方はいつも勝手な事ばかり……)

 〈シグマ〉は〈ガンマ〉の言葉を遮るように、レオナールに言った。

(俺達〈賢者の石〉は、自由に融合者を選べるのはお前も知っているよな? だからこそ、お前も〈ガンマ〉と融合できた。そうだろ?)

(はい。イディオタ様にも聞いて知っております。貴方達〈賢者の石〉ご本人が選んだ者こそが、もっとも適した融合者だと)

 レオナールの答えに、〈シグマ〉は言葉を続けた。

(そうだ。俺の念は特殊でな。それを奴は、ジョルジュとかいったか? 奴だけは感じ取ったのだ。適応者の素質があると見て間違いあるまい。完全融合の資格があるか、そばについて暫く様子をみる)

 レオナールは〈シグマ〉の説明に納得した。彼ら〈賢者の石〉には特殊な相性の様な物があり、誰でも適応できるわけではなかったし、更には完全融合できる適応者となると、探すのは容易ではなかったからだ。

(分かりました。イディオタ様には私からご報告しておきます。それよりも、〈騎操兵〉の制御石を外しても大丈夫でしょうか?)

 レオナールの言葉に、〈シグマ〉は笑って答えた。

(俺を使って〈騎操兵〉を動かす事位は今の奴でも出来るだろう。それ位出来なければ、側にいる価値も無いって事さ)

(では、ジョルジュ殿の〈騎操兵〉の制御石は取り外し、〈シグマ〉殿を試験的に開発したジョルジュ殿専用の制御石と言う事にして、この首飾りのまま渡す事にいたします)

 〈シグマ〉は楽しげに答えた。

(ああ、すまんな。これからも暫くは退屈しなくて済みそうだぜ)


四章前編も遂に大詰めです!

明日は四章前編の最終話で、明後日からは四章後編が始まります!!



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