ジョルジュ
【ジョルジュ】
ジョルジュが実験に参加してから地獄の様な日々が数年続き、その間に蓄積された膨大な実験情報を元に、細部の部品や〈騎操兵〉本体の形状から、制御中枢である兜に嵌め込まれている宝石――〈騎操兵〉の制御石――など、ありとあらゆる部分に改良が加えられ、〈騎操兵〉完成の日がやってきた。
この頃には、実験にはジョルジュ以外の近衛兵が二名加えられ小隊編成扱いとなり、ジョルジュは中尉に昇進し、この〈騎操兵〉実験小隊の隊長に任命されていた。
実験小隊に配属された兵は、ファビアン兵長とクロード中兵の二名であった。
兵の階級も、指揮官である将校と同じく、大中小の三階級があり、兵の中でも認められた者は、指揮官と兵の中間である兵長という階級に任命された。この兵長は後に下士官と呼ばれ、実戦で指揮官に代わり指揮をする事も多かった。
恐らく、〈騎操兵〉が量産され実戦配備された時は、この小隊が〈騎操兵〉部隊の最精鋭部隊として前線で活躍する事になるのであろう。
その指揮官とは軍人として最高の栄誉であったが、ジョルジュの心の中はそのような事より、レオナールの手元からやっと解き放たれる喜びに満ち満ちていた。
「ジョルジュ殿、貴方達のおかげで、〈騎操兵〉がようやく完成しました。明日は近衛修練場で、ヴィンセント殿下に〈騎操兵〉の演習を見せます。よろしくお願いします」
悪魔として憎しみ抜いた相手だったが、〈騎操兵〉完成と解放される喜びから、ジョルジュは笑顔で答えた。
「もちろんです! レオナール殿の造りだした〈騎操兵〉の素晴らしさを、ヴィンセント殿下に必ずやお伝えします!」
「ありがとうございます。明日は大事な演習なので、今日は早めに切り上げて休んでください。お疲れさまです」
レオナールがそう言って最終実験を終えた時、すでに日は暮れ、空には満点の星々が輝いていた。
ジョルジュと部下達は、ふらつく足取りで宿舎に戻ると、そのまま床に倒れこんで眠りについた。
そして翌朝、近衛兵の礼服に身を包んだ実験小隊は、〈騎操兵〉を荷台に乗せて布で厳重に覆うと、近衛修練場へと向かった。
近衛修練場へと到着すると、その日は近衛兵の訓練は中止され、修練場は厳重な警備の元、ヴィンセント殿下と近衛軍幹部達が観覧席に座って、〈騎操兵〉演習が始まるのを待っていた。
観覧席でレオナールがヴィンセント達に〈騎操兵〉の技術的な説明をしている間に、ジョルジュ達は〈騎操兵〉に乗り込むと、観覧席から見下ろす形に広がる修練場に入場した。
観覧席から驚きの声があがる。
完成した〈騎操兵〉には、大型の〈魔導筒〉や巨大な剣、盾等の他に、照明や拡声器、その他様々な装備が取り付けられていた。
ジョルジュは、〈騎操兵〉に取り付けられた照明による信号で部下達に命令を伝達しながら、歩行、走行、剣撃、射撃、荷物運搬及び陣地造営等の演習を行った。それらは全て完璧に遂行され、ヴィンセント達に〈騎操兵〉完成と、その兵器としての能力の高さを認めるさせる事に成功した。
全ての演習項目が終了し、実験小隊が修練場の観覧席正面に設置されたアルベール王の巨大な石像前に集合して〈騎操兵〉による敬礼をしていた時、ジョルジュの頭の中に強烈な声の様な意識が流れ込んできた。
(その石像を破壊して最後に〈騎操兵〉の力を見せるのだ!)
その意識にジョルジュが戸惑っていると、頭の中に流れ込む意識は強くなり、更にそれはヴィンセントの声の様に感じるようになった。
(叩き壊すのだ! ジョルジュよ、これは命令だ!)
ジョルジュは疑問に思いながらも、ヴィンセント殿下の命ならばと思い、アルベール王の巨大な石像を〈騎操兵〉の剛腕で叩き壊した。
石像が崩れ落ちる音が響くと、観覧席のヴィンセントや近衛軍幹部達は驚愕の表情で立ち上がり、破壊された石像を呆然と見つめていた。
それらを見て正気に返ったジョルジュは、己のしでかした事の重大さに気がつき、顔が青ざめた。
(ヴィンセント殿下のお声が聞こえた気がしたが……。殿下が陛下の石像を叩き壊せなどと言うはずないか、しまったな……。疲労は言い訳にはならないだろうな)
周囲の空気が凍り付く中、ヴィンセントの笑い声が止まった時を動かした。
「はーはっはっはっはっはっは! 前から兄上も私も、修練場にその様な巨大な石像は邪魔だと申していたのだ。だから撤去する予定だったが、その手間が省けたわ。しかし、頭から粉々とは、はっはっはっはっは!」
ヴィンセントの取り計らいで、この日のジョルジュの行いは不問とされた。そして、〈騎操兵〉は完成し、これより細部や製造技術の研究を行って量産化を目指す事となった。
レオナールや兵器開発局員達はこれからがさらに研究の正念場であり、ジョルジュ達にとっても、さらなる操縦技術の訓練が待っていた。
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