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戦士の宴  作者: 高橋 連
三章 後編 「シャンピニオン山の戦い 其之参」
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銀の槍

【銀の槍】


 見苦しい足掻きをやめ、負けを認めたユィンの体を、凄まじい勢いで黒い闘気が覆い始めた。それは闇をも吞む程に暗く深かった。そして、その暗黒の帳の中から、突然に異形の者が現れた。

 視る者に嫌悪と恐怖を抱かせ、心の闇の、更にその奥底の闇を掴まれる様な衝撃を与える異形の姿。だが、その瞳にはどこか悲しげで、己を侮蔑する感情の欠片が浮かんでいた。

「〈銀の槍〉よ、行くぞ……」

 それは、ユィンの声だった。

「てめぇ、何者だ!」

 〈銀の槍〉の問いに、ユィンは答えなかった。

(〈銀の槍〉よ、奴の闘気は今までと全く異質なものじゃぞ! それにあの姿はイディオタ様の……)

(そんなもの、みりゃわかるぜ!)

 押し黙るユィンに、〈銀の槍〉は少年のように目を輝かせながら更に声を掛けた。

「へへへ。しかし凄ぇな。なるほど、じじぃが〈オメガ〉を託すわけだ…。てめぇ、格好良いじゃねえか!」

「格好良い……? この姿がか……?」

 〈銀の槍〉の言葉に、ユィンは戸惑いを隠せぬようであった。〈銀の槍〉はその戸惑いが不思議だった。

「ああ。だってよ、凄まじく強そうじゃねぇか。当然強くなってんだろ?」

「ああ……。しかし、それが一体……?」

「強いってのが、格好悪いわけねぇじゃねぇか! いくぜぇーー!」

 〈銀の槍〉は渾身の力を込めて、闘気の槍を突き出した。空間をも切り裂く無敵の槍。その切っ先で貫けぬ物はないはずだった。しかし、その切っ先を易々と掴まれた。

(離れろ!)

 〈ゼータ〉の言葉に従って距離を取った〈銀の槍〉は、子供の様にはしゃぎながら〈ゼータ〉に問いかけた。

(ありゃなんだ! 俺の槍を、この闘気の固まりを簡単に掴みやがった! ははははははは! 凄え、凄えぜ!)

〈ゼータ〉はその問いに答えるように、異形と化したユィンの危険さを〈銀の槍〉に警告した。

(〈銀の槍〉よ、今の一撃で分かったはずだ。今の奴の力はお前より上だ)

(そんな事は分かってるよ。だから面白れぇんじゃねぇか!)

 〈銀の槍〉は眼前に凄まじい力をもった強敵が現れた事を、まるで玩具を与えられた子供の様に喜んでいる様子であった。

(馬鹿な事を言うな! 分かっているならここは一旦退がるのじゃ!)

(退がる? 〈ゼータ〉こそ馬鹿な事を言うなよ)

 〈銀の槍〉の言葉に、〈ゼータ〉は必死になって言葉を続けた。

(死ぬ気か!? 奴は無駄に命を取るような真似はすまい。ここは退がれ!)

(俺に命乞いしろってか!? 冗談じゃねぇ!それに、今あの凄えのとやってるおかげで、何かが掴めそうなんだ。何かこう……上手くは言えねぇが、何かが……)

(死ぬぞ……)

(死ぬかもな。だがそれでも俺は引かねぇぜ! 長い付き合いなんだ。俺の性格は知ってるだろ?)

 〈銀の槍〉の言葉に、〈ゼータ〉は説得を諦めた。あとは、己の見込んだ融合者を全力で補助し、その天分に賭けるしかなかった。

(あぁ……知っておる)

(じゃあ、全力でいくぜ! 小細工は無しだ。頼むぜ!)

(ああ! 任せておけ。お主と儂に勝てる者などおらぬわ!)

(へへへ。その意気だぜ!)

 〈銀の槍〉は全ての生命を、全ての闘気を、細胞の一つ一つを、燃え尽きる程に爆発燃焼させた。

 既に人の領域を越えていた〈銀の槍〉の闘気が更に輝き、白銀から白に、限りなく真っ白に輝きだした。その白い闘気に包まれた〈銀の槍〉の体は、己の闘気によって損傷し、そしてその凄まじい闘気の力で活性化した回復力で回復するという事を繰り返していた。

(早くけりをつけねば、体がもたぬぞ)

(分かってるよ! だがまだだ。何か頭の奥底の霧に包まれた様な何かが、もうちょっとで掴めそうなんだ。あの凄えのとやれば、きっと掴めるはずだ……)

 〈銀の槍〉は真っ白な塊となって、異形の者と化したユィンに向かっていった。だが、闇夜を吞み喰らう様なユィンが纏う漆黒の闘気は、〈銀の槍〉の白い闘気の輝きを持ってしても、貫く事は叶わなかった。

 強者と弱者の立場は一転した。

 〈銀の槍〉の全ての攻撃は悉く通じなかった。〈銀の槍〉は満身創痍となり、その闘気や生命力までもが尽きかけようとしていた。

 そして、遂には全ての力を使い果たした〈銀の槍〉は、まるで糸の切れた人形の様に崩れ落ちた。

 戦いが全てだった男の人生の幕が降りようとしていた。

(〈ゼータ〉……、すまねぇな……。やっと何か掴めそうなのに、力がもう出ねぇぜ……)

 〈銀の槍〉の言葉に、〈ゼータ〉が突然別れの言葉を口にした。

(ジュリアン、別れの時がきた様じゃな……。この力を、ここを逃れ、生き延びる為に使って欲しいが、お主の性格ならそうはいくまいな……。致し方あるまい……)

(おい、何を言ってやがる。〈ゼータ〉、おい! 返事をしやがれ!)

 その時、〈銀の槍〉の体の中で、何かが砕ける音がした。そして、〈銀の槍〉の体中に生命力が漲った。

(おい、〈ゼータ〉! なんだよ! なんだよこれは! おい!!)

 〈銀の槍〉の必死の叫びにも、〈ゼータ〉の返事はなかった。それどころか、その存在さえも感じ取れなかった。

(馬鹿野郎!!)

 〈銀の槍〉は悟った。己の中にある〈ゼータ〉が、その命を呉れたのだと。

 正確に言えば、古代兵器である〈ゼータ〉は己を破壊して、自分の中のエネルギーを〈銀の槍〉の体内に直接注いだのだ。故に、命とは言えないのかもしれなかった。しかし、〈ゼータ〉という存在だった物を保っていた何かを、自分の為に使ってくれたのだ。己の存在が消えるとしても……。

(〈ゼータ〉、分かってるじゃねぇか……。お前に貰った命、きっちり使ってあの化け物ぶっ殺してやるぜ!)

 指一本動かす力もなかった〈銀の槍〉の体が、ゆっくりと起きあがった。だが、手に持っていた闘気の槍も、その体を包んでいた純白の輝く闘気も、全てが消え失せていた。


明日で三章後編が終了予定です!!


ユィンと銀の槍の戦いを、最後まで読んでやって下さい^-^


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