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戦士の宴  作者: 高橋 連
三章 後編 「シャンピニオン山の戦い 其之参」
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銀の槍

【銀の槍】


(〈銀の槍〉よ、奴の周囲に多重防壁結界が敷かれておるぞ)

 〈ゼータ〉の警告に、〈銀の槍〉はユィンへと迫る速度を緩める事無く答えた。

(関係ないさ、このまま突き進む)

(ふむ……。まあ、今のお主なら問題あるまい)

 〈銀の槍〉が突進する度に、石壁に巨大な金槌を叩きつける様な音が響いた。ユィンが予め用意した防壁結界が破られる音だった。人の領域を越えた闘気を纏う〈銀の槍〉にとっては、如何に強力な多重結界といえど薄紙ほどのものでしかなかった。

 多重結界を突き破って駆け進む〈銀の槍〉が、あと少しでその手に持つ闘気の槍の間合いにユィンを捕らえるという時に、ユィンは立ち上がると後方に飛び退がった。

(ちっ!)

 今一歩で得物を逃した〈銀の槍〉は、舌打ちしながらも更に駆け迫ろうとして異変に気付いた。その様子に、思わずその足も止まっていた。

 恐らく、後ろに飛び退がって距離を取ったユィンが何かの術を発動させたのだろう。ユィンの前面に強烈な魔力が集まりだした。そして、その魔力の量と密度が尋常ならざる為か、その魔力が集まる周囲の空間が異様に歪み始めた。

 その歪みをみた途端、〈銀の槍〉の頭の中に〈ゼータ〉の怒鳴り声が響いた。

(やはりあの術か! 〈銀の槍〉よ、あの術を発動させてはならん!)

(しかしそうは言っても、既に詠唱を終えて術の発動が始まってやがるぞ。それに、どんな術か知らねえが今の俺には通用しねえぜ)

 だが、先程ユィンが張り巡らせた防壁結界の時とは違い、〈ゼータ〉は〈銀の槍〉の過信をたしなめた。

(馬鹿者! 如何にお前の闘気が強大とはいえ、あの術だけはまずい!)

(でもよ、詠唱を終えた術をどうしろってんだよ!)

 〈銀の槍〉と〈ゼータ〉が話しているうちに、空間の歪みは一カ所に集まって球体を成そうとしていた。それは綺麗な球形ではなく楕円形をしており、良く見るとこちらを見つめる怪しい瞳の様にも見えた。

(儂の中には幾万もの戦闘の情報が詰まっておる。勿論、イディオタ様の術の情報もな! 心眼を開いたお主なら見えるじゃろう。あの歪みが形作る眼の魔力の流れが)

 〈ゼータ〉の言葉に、魔力感知の感覚を研ぎ澄ませて眼の様に見える歪みを観察した〈銀の槍〉が、怪訝な表情で答えた。

(あれは……、あの歪みは眼なのか? 確かにそんな風にも見えなくもないな……。俺には完全には感知できないが、〈ゼータ〉の言う通り何かが薄っすらとあの歪みの中心に向かって流れるのが見えるぜ……)

(その流れが、魔術発動の魔力の流れじゃ。魔術は発動後も魔力を必要とする。その魔力の流れを断ち切れば、その術が発動していようと消滅させられるのじゃ! だが、通常は発動後の魔力と術は一体化しておる故、断ち切るなど不可能な事だが……)

(だが……、俺の闘気の槍なら断ち切れるって事だな!)

 ユィンの発動させようとしている術が余程に危険なのか、〈ゼータ〉は憶えの悪い生徒を叱る教師の様に〈銀の槍〉に怒鳴った。

(そうじゃ! 分かったのならさっさとやれい!)

 〈銀の槍〉は闘気の槍を握りなおした。

 闘気を鎮めるとその闘気を練って圧縮し、具現化させた闘気の槍の刃をより研ぎすませた。そして、一気に駆けると、歪みが集まって形作る球体の周囲の空間にその存在を感じる血管の様な大小の魔力の路の中でも一際大きく太い路を、闘気の槍で斬り裂いた。

 〈銀の槍〉はその手に、まるで巨大な生物の動脈を断ち切りその命を止めた様な不思議な感覚を覚えた。

(この感覚か!?)

 〈銀の槍〉の驚きに、〈ゼータ〉が今までとは打って変わった落ち着き払った声で答えた。

(そうじゃ。その感覚を良く覚えておけ。魔力通路の遮断を会得すれば、魔導師との戦いでは最早遅れを取る事は無かろう)

(しかし、一体どうなるんだ?)

(目の前の空間の歪みを良く見ておれ)

 〈銀の槍〉が切りつけた空間は何事も無かったかの様に見えた。

 しかし、数瞬の間を置いて、〈銀の槍〉が斬りつけた空間が大きく口を開けた様に割れたかと思うと、その裂け目の周囲で雷が弾ける様な音が幾つも木霊し、ユィンの前面にあった球形の空間の歪みは跡形もなく消滅した。


読んで下さって有難うございます^^

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