ユィン
【ユィン】
ユィンは火焔の巨人が〈銀の槍〉を足止めしている間、座して瞑想し、最後の呪文を発動させるべく〈オメガ〉と共に呪文の詠唱作業を進めていた。
(ユィン、やばそうだぞ。〈銀の槍〉の動きが急に変わった。火焔の巨人が造り出した火蜥蜴が全滅しそうだ)
(あと少し、あと少しもってくれれば……)
その時、膨らんだ風船が破裂する様な音が聞こえた。
(あの野郎すげえな。三体の火焔の巨人を一撃で倒しやがった。ユィン、くるぞ!)
〈オメガ〉の警告と同時に、溶岩の様に溶けた大地を駆け抜けて、白銀に輝く〈銀の槍〉が向かってきた。〈銀の槍〉が進む度に、石壁に巨大な金槌を叩きつける様な音が響いた。
(ユィン駄目だ。防壁結界も、今の奴には造作も無く突破されてしまう。足止めにもなりはしないぞ!)
ユィンが予め敷いた防壁結界を、薄紙を破る様に突き進む〈銀の槍〉がユィンを間合いに捉える寸前に、座していたユィンが立ち上がった。そして、後方に飛び退がって距離を取りながら組上げていた魔術を発動させた。
(間に合ったか!)
〈オメガ〉の叫びに、ユィンは答えながら次の指示を出した。
(ああ! 発動するぞ。〈オメガ〉、呪文の暴走を押さえてくれ。いくぞ!)
(まかせろ!)
術を発動させたユィンの前面に、魔術の心得の無い者にも分かる程の膨大な魔力が集まって空間を歪め始めた。そして、その歪みは徐々に一カ所に集まり、球体をなそうとしていた。
(ユィン、成功だ! やったな! この呪文に抗する術は最早ない。勝ったな!)
今にも踊りだしそうに嬉々とした〈オメガ〉の叫びに、ユィンは今まで以上に緊張した声音で答えた。
(ああ。後は〈銀の槍〉を倒した後、俺達が無事で済むかどうかだな……)
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