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戦士の宴  作者: 高橋 連
三章 後編 「シャンピニオン山の戦い 其之参」
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ユィン

【ユィン】


 ユィンは、増大する〈銀の槍〉の闘気を見ながら、〈オメガ〉に話し掛けていた。

(人間はあそこまで強くなれるのだな……)

(なんだ? もう観念したのか?)

(馬鹿を言うな。相手の強さを認めただけだ)

 ユィンは〈銀の槍〉の闘気の輝きを見、正面からぶつかる愚を悟って魔術主体の戦闘に切り替えた。

(魔力は大分と回復した。一気に行くぞ!)

(しかし、あの〈銀の槍〉を仕留める術となれば、長大な詠唱かそれを補助する魔法陣が必要となるだろう。だが長い詠唱をする隙はないし、魔法陣を描きながらの戦法はもう通用しないぞ)

(ああ、分かってるよ。詠唱の事は俺に考えがある)

(お前の考えはろくなものじゃないが……。仕方が無い、任せた。来るぞ!)

 全身を光輝く槍と化した〈銀の槍〉が大地を踏み砕くように駆け迫ってきた。それを迎え撃とうと、ユィンは決死の覚悟を漲らせて叫んだ。

(俺は呪文に集中する。〈オメガ〉は回復を任せた。魔力は気にしなくていい、全力で回復を頼むぞ!)

(応、任せておけ!)

 通常、魔術を使用する際には、言葉による呪文の詠唱、もしくは魔法陣の使用、またはそれら両方によって魔術を発動させる。

 当然、強力な魔術ほどより多くの魔力を必要とし、更には、より長い呪文の詠唱や幾つもの大きな魔法陣が必要となる。その為、通常術者は一度に一つの魔術しか発動できない。

しかし、優れた魔導師の中には、詠唱呪文を分割して唱えたり複雑な魔法陣を駆使する事で、同時に複数の魔術を発動させる事ができる者もいた。

 ユィンは生まれ故郷である東方の国で覚えた、手による複雑な動きで印を結ぶ呪印を併用する事で、最大三つの魔術を同時に発動する事ができた。

 ユィンは左右の手で複雑な呪印を結びつつ長大な呪文を詠唱しながら、〈銀の槍〉の攻撃を凌ぎ続けた。だが、実際には致命傷になっていないだけで、幾つもの深手を受けていた。しかし、〈オメガ〉がユィンの膨大な魔力を使い回復に専念しているおかげで、ユィンはなんとか動きを止める事なく術式組立の作業を続行できた。

 だがそうは言っても受けた傷が回復するだけで、傷を受けた際の痛みは防ぎようもなかったし、失った体力を回復する余裕まではなかった。それでも、ユィンは精神を振り絞って集中力を持続させ、優れた体術で巧みに〈銀の槍〉の槍を凌ぎながら、その足運びによって大地に幾つもの結界魔法の魔法陣を描いた。

 それは並々ならぬ集中力と、天が与えた類稀な才能の二つが揃って初めて成し得た奇跡だった。

(おい、目の前で魔法陣を描かせるほど〈銀の槍〉は甘くはないぞ)

(ああ、分かっているさ。詠唱の事は俺に任せろって言っただろ。〈オメガ〉は回復に集中してくれ)

(お前の策を信用するだなんて、難しい事を要求しやがる……)

 ユィンは微笑みで、〈オメガ〉の愚痴に答えた。

 ユィンが〈銀の槍〉の攻撃から致命傷のみを避けながら地面に描いた魔法陣は、〈銀の槍〉によって次々と潰されていった。

「同じ手は喰わねぇぞ! 俺様をなめやがって、馬鹿野郎がっ!」

 〈銀の槍〉の罵声にも答えず、ユィンは黙々と詠唱を唱えつつ両の手で呪印を結び、何度魔法陣を消され潰され様と必死に魔法陣を描き続けた。

(ユィン、受ける傷がでかくなってきたぞ。このままじゃそう長くは持たないぞ)

(大丈夫、間に合ったよ)

 ユィンが〈オメガ〉にそう答えると、右手にはまるで生きているかの様な炎が現れ、大きな固まりとなっていった。ユィンはその炎を遠く離れた地面に放り投げると、左手で描いていた呪印を発動させた。

 大気が震える程の凄まじい爆発と共に、炎の固まりを放った場所に大きな火柱が立ち、それはやがて巨大な人の形を取り始めた。

(炎の巨人、いや、火焔の巨人か! しかし、一体魔法陣無しでどうやって……。そうか、なるほどな!)

 何事かに気がついた様子の〈オメガ〉に、ユィンはまるで遊んでいるかの様に楽しげな声で答えた。

(はははは。そういう事さ。こいつで足止めをし、最後にあの術で決着をつける)

(あの術ってあれか!? イディオタでも不安定だったのだぞ、使えるのか?)

(わからん。できなきゃ死ぬだけだ)

(ユィン、お前はやっぱり馬鹿だ。でも、大した馬鹿だ。大馬鹿野郎だよ!)

 突然出現した火焔の巨人に、怯む様子もなく〈銀の槍〉は挑みかかってきた。

 先の灼熱の炎の塊同様、白熱に輝き燃える姿から、火焔の巨人の熱量の凄まじさが伺えた。火焔の巨人の周囲の大地は、火焔の巨人の放出する超高熱によって溶け崩れ溶岩の様になっていた。

 〈銀の槍〉の闘気を具現化させた槍で火焔の巨人は何度も貫かれ斬り崩されたが、白く輝く炎はすぐに元の型にもどって巨人となり、〈銀の槍〉に襲い掛かった。

 そうしているうちに、ユィンは同じ火焔の巨人を更に造り出し、しばらくしてもう一体をも造り出す事に成功した。こうして、合計三体の火焔の巨人が〈銀の槍〉に襲い掛かった。

 この間も、ユィンはずっと複雑な呪文を詠唱していたが、火焔の巨人の術を終えた事により両手が使える様になった為、最後の魔術の発動に向けて両の手の呪印を駆使して詠唱完成を急いだ。そのユィンの周りには、大気を歪めるほどの魔力が集中していた。それが、この術が尋常ならざるものである事を物語っていた。

(ユィン、火焔の巨人が〈銀の槍〉をうまく足止めしているようだ。俺も回復から詠唱補助にまわるぞ)

(ああ、頼む。〈オメガ〉は詠唱の綻びの修正と魔力の暴走を押さえてくれ)

(任せろ! 俺様がついているんだ。上手くいく)

 ユィンは〈オメガ〉の補助を得て、魔術発動の最後の段階に至ろうとしていた。


読んで下さって有難うございます^^

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