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戦士の宴  作者: 高橋 連
三章 後編 「シャンピニオン山の戦い 其之参」
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ユィン

【ユィン】


(おい、お前の策ってこれか!?)

(あぁ)

 ユィンの頭の中で、〈オメガ〉は呻きとも吐息ともつかぬ、小さく擦れた声で呟いた。

(だめだこりゃ……)

 その〈オメガ〉の言葉に、ユィンは納得いかぬ様子で食って掛かった。

(おい! 駄目だとはどういう事だ!)

 しかし、〈オメガ〉はその言葉がまるで聞えぬかの様に無視し、溜息混じりに愚痴るばかりであった。

(はあ……、お前に期待した俺が馬鹿だった……)

 だが、〈銀の槍〉の様子を見たユィンの顔には笑みが浮かんでいた。そして、それに気付かぬ〈オメガ〉に、ユィンは自身に満ちた声で呼びかけた。

(いや、そうでもないさ。見てみろよ)

 ユィンが言ったとおり、圧倒的優位に立ち、後一歩でユィンを仕留められる所まで追い込んでいたはずの〈銀の槍〉が、ユィンの発動させた光り輝く魔法陣を警戒し、距離をあけて様子をみていた。

 だが、それでもまだ〈オメガ〉は納得しなかった。

(こんなもの、魔力感知されたらすぐばれるだろ!)

(そう思って、読めない文字で魔法陣を描いているだろ。〈銀の槍〉はまだしも、奴の中の〈ゼータ〉ってのは、きっとこの見た事がない文字に気を取られるはずだ。俺の中に〈オメガ〉、お前がいるのを知っているからな)

 そのユィンの言葉に、〈オメガ〉も思案を巡らせ始めた。

(ユィン、この文字はどこの文字だ? イディオタの経験情報を受け継いでいる俺でさえ見た事がないぞ)

(当たり前だ。いま適当に考えたのだからな)

(これで生き延びられたら、お前を見直すよ……)

 負けを認めた様な〈オメガ〉の言葉にも、ユィンは浮かぬ顔で答えた。

(魔力を補充できても、生き残れるかは分からないがな……)

(魔力を補充できただけでも十分見直してやるよ。まさか、照明に使う魔術で描いただけのこけおどしの魔法陣で、あの〈銀の槍〉と〈ゼータ〉を騙くらかして足止めするなんて、イディオタでも思いつかないだろうさ)

 ユィンは魔力を補充しながら、照明魔術で描いた魔法陣が消える度に新たな魔法陣を描き足した。

これは洞窟など明かりの無い所で照明代わりに使う灯りの魔術で、初心者でも使える簡単な魔術であった。その証拠に、慣れた者であれば詠唱せずとも使用する事もできた。最近は、大道芸人がこの灯りの魔術を応用し、空間に光りで絵を描く見せ物が人気を博していた。ユィンはその芸を真似ただけにすぎなかったのだ。

(ユィン、そろそろ向こうもおかしいと思って気づく頃だぞ。魔力はどうだ?)

 〈オメガ〉の問いに、ユィンは笑顔で答えた。

(ああ、完全とは言わぬが、十分に補充できた)

(ではもう一勝負といくか!)

 威勢よく答える〈オメガ〉に、ユィンの冷ややかな声が突き刺さった。

(おい、その前に、なにかあるだろ)

 ユィンの言葉に〈オメガ〉はため息を吐くと、やれやれといった感じで言葉を返した。

(お前は馬鹿じゃないよ、大した奴だ)

(やっと分かったみたいだな)

 ユィンは〈オメガ〉の言葉に思わず笑いだした。その時、〈銀の槍〉を包む闘気が一段と輝きを増した。

(ユィン、気づかれたようだ。くるぞ!)


読んで下さって有難うございます^^

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