ユィン
【ユィン】
(あれを一体どうやって……)
まるで太陽の欠片の如く燃え盛る、人外の力で創り出されたかの様な灼熱の塊を、〈銀の槍〉は己が闘気の槍一本で消し去ったのだった。それを目の当たりにしたユィンは茫然自失となっていた。
(闘気の槍で叩き切ったのだろう。奴の闘気が、お前の火炎の魔力より強かっただけだ。呆けている暇はないぞ! 次の術を急げ!)
そんなユィンを〈オメガ〉の声が現実に引き戻した。だが、現実に引き戻されたユィンは、またも呆けた様に呟いた。
(今ので打ち止めだ……。魔力が尽きた……)
(お前はやはり大馬鹿だ! だから魔力は大丈夫かといったのだ!)
度重なる〈オメガ〉の怒号に、今度はユィンも怒号で返した。
(まさか消されるなんて思わないだろうが!)
(どうする気だ?)
(さっきも言っただろ。もう魔力がないんだ。となれば、魔力を補充するしかない。〈オメガ〉も手伝ってくれ!)
そう言うと、ユィンは地面に座し、短い詠唱を唱え始めた。
(この馬鹿が! 補充するって、敵の目の前で座り込んで大地から魔力を補充する気か? 殺されるぞ!)
(いいから手伝え!)
〈オメガ〉はしぶしぶ黙ってユィンの魔力補給を手伝った。しかし、〈オメガ〉が言う通り、〈銀の槍〉は輝きを増した闘気の槍を手に突進してきた。
分身の二人のユィンが迎え撃つが、闘気の活性化によってその生命力をも燃え上がらせた〈銀の槍〉が相手では、幾ばくの時間稼ぎにもならずに槍で貫かれて消え去った。
(おい、くるぞ!)
(慌てるな、〈オメガ〉は魔力補充に専念してくれ。俺に策がある)
そう言ったユィンの周りに、幾つもの光輝く魔法陣が浮かび上がった。しかも、それらは見た事もない文字で描かれた魔法陣であった。
それらの魔法陣は次第に数を増し、ユィンの周りをおびただしい数の光輝く魔法陣が取り囲み、ユィンをあたかも光の柱の様に照らし出した。
(おい、お前の策ってこれか!?)
(ああ)
ユィンの頭の中で、〈オメガ〉は呻きとも吐息ともつかぬ小さく擦れた声で呟いた。
(だめだこりゃ……)
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