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戦士の宴  作者: 高橋 連
三章 後編 「シャンピニオン山の戦い 其之参」
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ユィン

【ユィン】


 結界魔法陣を発動させて一息ついたユィンは、己の中にいる〈賢者の石〉の〈オメガ〉に捲くし立てた。

(〈オメガ〉、お前あいつが闘気を具現化して武器にできるって知っていたな!)

 ユィンの勢いに怯む事無く、〈オメガ〉は落ち着いて答えた。

(当たり前だろ。前にも言ったが、俺はイディオタの中にいたんだぞ)

(ならなんでもっと早く教えなかった、死ぬところだったじゃないか!)

 更に語気を強めるユィンに対し、〈オメガ〉は落ち着き払った口調で教え諭した。

(前にも言っただろ。死線を己で越えた時にこそ、その先の何かを掴めるのだと……)

(そうだが……しかし……)

 更に文句を言おうとするユィンに、〈オメガ〉はそれを遮るように怒鳴り返した。

(ごちゃごちゃ煩い野郎だな! 文句を言うなら己の未熟さに言え! それに、お前を死なせない様にこうやって回復してやってるだろうが! お前は黙って時間を稼ぐ事に集中していろ! ほれ、奴がそろそろ結界を抜け出てくるぞ!)

 〈オメガ〉の言葉通り、〈銀の槍〉は凄まじい闘気を漲らせて結界魔法を打ち砕くと、ユィンに駆け迫って来た。

「おい、もうてめぇを守る壁はねぇぜ!」

 勝ち誇って叫びながら迫る〈銀の槍〉を前にして、ユィンは落ち着き払っていた。ユィンとて〈オメガ〉に文句を言いながらも、己の武器の一つである驚異的な回復力と、融合している〈賢者の石〉の〈オメガ〉の補助を最大限に活かし、致命傷であった腹部の傷を回復させていたのだ。

 傷を回復させたユィンは、うずくまっていた姿勢から立ち上がると、新たな呪文の詠唱を始めた。それを見た〈銀の槍〉は、その顔に驚愕の表情を浮かべながらその足を止めて口を開いた。

「てめぇ、どうやってあの傷を……」

 〈銀の槍〉の問いを笑みで返し、ユィンは口早に呪文を唱えながら、左右の手で複雑な印を描いた。

(ユィン、回復に大分魔力を使ったが、行けそうか?)

(問題ない。あれをやるぞ!)

 ユィンが詠唱を唱え終わると同時に、ユィンの両の手の指先が光りだし、ユィンはその指先で虚空に魔法陣を描くような手振りで、さらに複雑な呪文を唱えた。

 それを見た〈銀の槍〉は、ユィンの新たな呪文を阻止すべく更に駆け迫ってきたが、その呪文は〈銀の槍〉の攻撃がユィンを襲う前に完成した。そして、ユィンは完成と同時に又も更なる呪文を詠唱し始めた。

「させるかよっ!」

 〈銀の槍〉の怒号と共に、ユィンの頭上に〈銀の槍〉の闘気の槍が振り降ろされた。

 呪文を詠唱するユィンの頭上に振り降ろされた闘気の槍を、突然現れたユィンの分身が受け止めた。

突然の分身の出現に〈銀の槍〉は驚きで目を見開いていた。その〈銀の槍〉を無視するかの如く、本体のユィンは、分身のユィンが受け止めた闘気の槍の下で呪文の詠唱を続けた。

「ふざけやがって!」

 叫びながら〈銀の槍〉は更に攻撃を繰り出してきた。

闘気を具現化した槍を自在に操り、全身を闘気の光で輝かせて襲い掛かる〈銀の槍〉の力は既に人を越えていた。その攻撃を受け止めたユィンの分身は、〈銀の槍〉の攻撃の威力を受け流せずに体勢を崩した。

「まずは片方からだ!」

 〈銀の槍〉が体勢を崩した分身に闘気の槍を降り降ろそうとした時、呪文の詠唱を唱え終えたユィンがそれを受け止めた。それと同時に、更にもう一体の分身が現れ、〈銀の槍〉の後ろに回り込むと強烈な一撃を繰り出した。三人のユィンに囲まれた〈銀の槍〉は、たまらずその場から身を翻して距離をとった。

(おいおい、いきなり分身を二つも造るとは。魔力は持つのか?)

(途中で回復しながら戦うさ)

 〈銀の槍〉の前に、三人のユィンが並んだ。

三人のユィンは、それぞれ呪文を詠唱し、片手で複雑な印を結びながら、正面と左右の三方向から〈銀の槍〉に襲い掛かった。

 正面から襲い掛かった本体のユィンは、両手に燃え盛る火炎球を持ち、それを〈銀の槍〉に向かって投げ放った。轟音と大爆発が起きるなか、〈銀の槍〉は上空に飛んで逃げた。

 それを見た右から襲い掛かった分身のユィンは、腕から黒く細長い物を取り出し、それに黒い闘気を注ぎ込んで槍に変化させると、その槍を唸らせながら空中の〈銀の槍〉を貫こうと襲い掛かった。そして、左から襲い掛かった分身のユィンも、右から襲い掛かった分身と同じく、腕から黒く細長い物を取り出し、それに闘気を注ぎ込んで弓に変化させると、空中の〈銀の槍〉を狙い撃った。

 〈銀の槍〉は槍を持つ分身のユィンの一撃を受け止めながら、寸での所で身を捻って矢を避けると、槍を持つ分身のユィンを蹴り飛ばしてその反動で地面に逃れ様とした。

 その〈銀の槍〉の動きを見た〈オメガ〉が、珍しく感嘆の言葉を口にした。

(さすがはイディオタが見込んだ男だけはある。〈銀の槍〉め、なかなかやるな)

 本体のユィンは、火炎球を放った直後から新たな詠唱を唱え始めていた。今度は両の手で複雑な印を結びながらかなり長めの呪文を早口に詠唱していた。そして、凄まじい速さで呪文の術式を完成させると、両の腕を突き出しながら、〈銀の槍〉の見事な動きを誉める〈オメガ〉の言葉を打ち消すかの様に頭の中で〈オメガ〉に叫んだ。

(これで詰みだ!) 

 ユィンの突き出した両の手の先には、先程放った火炎弾と比べものにならない程の大きさの激しく燃え盛る豪炎の塊が揺らめいていた。しかも、その豪炎の塊は、白く燃え光って輝いており、あたりの地面はすでにその熱量で溶けだしていた。

(いかに奴とて、これを防ぐ術はあるまい!)

 ユィンは凄まじい怒号と共に、強大な魔力によって生み出した灼熱の小さな太陽を、〈銀の槍〉が地面に着地する瞬間を狙って放った。


読んで下さり有難うございます!


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