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戦士の宴  作者: 高橋 連
三章 後編 「シャンピニオン山の戦い 其之参」
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銀の槍

【銀の槍】


 手に持つ槍が砕けた瞬間、〈銀の槍〉は闘気を更に高め、光輝く槍の形を造り出した。そして、槍が砕けた時を狙い襲い掛かってきたユィンをめがけて、その闘気の槍を繰り出した。

〈銀の槍〉の闘気で創り出された輝く闘気の槍は、水袋が破れるような音をさせてユィンの腹を貫き、血飛沫と腸をぶちまけさせた。 

 〈銀の槍〉が繰り出した闘気の槍は、油断し突っ込んできたユィンの胴を真っ二つにするはずだったが、ユィンが驚異的な反応でとっさに身を捻ってかわした為、その腹を貫くに留まった。しかし、大量の血と腸をぶちまけたその傷は深く、あきらかに致命傷であった。

 本来なら動く所か言葉を発する事さえ叶わぬ程の傷であったが、ユィンは最後の力を振り絞り〈銀の槍〉に話し掛けてきた。

「槍は砕いたはず……だ……。はぁはぁ……どうして……」

(〈銀の槍〉よ、油断するなよ)

(ああ、分かっている)

 〈ゼータ〉の言葉に、〈銀の槍〉は頭の中で短く答えると、油断無くユィンとの間合いを計りながら、口を開いた。

「お前を貫いたのは、俺の闘気を具現化して作り出した闘気の槍さ」

 闘気とは生命エネルギーの一種であり、使用者の力量次第で武器や己の肉体を極限まで強化できる反面、闘気の入れ物となる器が必要であった。

 それがある者は武器であり、ある者は己の肉体であった。その闘気自体を圧縮して物質として具現化するなど、通常では考えられず、技術的に可能であったとしても、それには器となる武器に注ぎ込む闘気の量とは比べものにならない程の大量の闘気が必要であった。また、その高純度の闘気を創り出せたとしても、闘気の消費が激し過ぎる為に余程小さな物でなければ長時間の維持は困難であった。

 それを、〈銀の槍〉は苦もなく長大な闘気の槍を創り、そして維持していた。

「闘気を……具現化……、お前……、す……凄いな……」

「お前のその腕のやつ、闘気を具現化したものじゃないのか?」

「お……俺のは……、闘気じゃな……い……」

 腹を押さえ、痛みを堪えるようにユィンはうずくまった。それを見た〈銀の槍〉は、ゆっくりと歩を進めながらユィンに近づいた。

(〈銀の槍〉よ、おしゃべりはその辺にして、さっさと止めを刺せ)

(〈ゼータ〉、この傷じゃ回復も追いつくまい。せめて最後の時くらい、静かに逝かせてやろう)

「その傷じゃ、いくらお前が〈オメガ〉の力で回復力を高めようと助かるまい。強敵へのせめてもの情けだ。楽にしてやろうか?」

 〈銀の槍〉の言葉に、ユィンは僅かに首を振ると、言葉を搾り出すように口を開いた。

「う……腕の武器……は……、骨なんだ、ほ……骨を変化させ、闘気を……みなぎ……らせ……硬質化させた……ものだ……」

 ユィンはさらに言葉を続けた。

「き……昨日のさ……魚は美味しかった……か……?」

「てめぇ、死にかけて気でも狂ったか?」

(はやく止めを刺せ!)

 〈ゼータ〉は必死に叫んでいた。〈銀の槍〉は〈ゼータ〉の言葉に従い、止めを刺すべく槍を構えた。

「いま楽にしてやるぜ……」

(御託はいい! 早くせい!)

(〈ゼータ〉、死にぞこないの世迷い事に何かあるのか?)

(お主は馬鹿か! 魔力の流れくらい感知できぬのか!)

 〈銀の槍〉が魔力の流れを見落としたとしても、それは仕方のない事だった。ユィンは先程使った転移魔法陣に微かな魔力を流し込み、呪文を唱える際の魔力の流れを悟られぬ様に撹乱していた。更には、分割詠唱によって魔術発動の魔力をも隠していたのだ。

(無駄な足掻きを!)

 〈銀の槍〉がユィンを狙って槍を繰り出そうとした時、ユィンの瞳が怪しく光った。

「ぬおぉっ!」

 〈銀の槍〉の足下から大地が隆起し、岩の腕が〈銀の槍〉の足を掴みながら襲い掛かって来た。

 〈銀の槍〉は、闘気の槍でその岩を打ち砕いていくが、大地からは岩の腕が無数に隆起し、足を掴み、その体を貫かんと襲い掛かってくる。

(結界魔法か!? しかし、詠唱も魔法陣もなかったぞ!)

(イディオタ様の得意な技を忘れたか)

 〈ゼータ〉の言葉に、〈銀の槍〉は己の師であるイディオタが、他愛も無い会話に呪文の詠唱を紛れ込ませるのを得意としていた事を思い出した。

(さっきの会話に詠唱を隠して紛れ込ませていたのか!)

(ご丁寧いに分割詠唱で魔力を隠してな。しかし、気をつければ見破れたわ! 小僧の詠唱はイディオタ様ほどの域に達してはおらん)

(ぬぅ! しかし、こんなもので俺は倒せんぞ!)

(時間稼ぎだろう)

(時間を稼いだ所でどうするというのだ? 奴のあの傷では、死ぬのを待つだけのはず……)

(小僧には〈オメガ〉がついている。何かあるのだろう。気を抜くな!)

(おもしれぇ! おもしれぇじゃねぇかっ!)

 〈銀の槍〉の闘気がさらに増してゆく。それにともない、その手の闘気の槍も一段と輝きを増していった。

 襲いくる岩の腕を粉々に打ち砕くその様は、まるで怒りで荒れ狂う鬼神の様でもあり、また面白い遊びを見つけた子供の様でもあった。

 それ程の時を要せずして、〈銀の槍〉は結界魔法を全て打ち砕いた。

「おい、もうてめぇを守る壁はねぇぜ!」

 枯れるどころか、さらに輝きと勢いを増した闘気を全身に纏い、それを具現化した全てを打ち砕く闘気の槍を輝かせながら、〈銀の槍〉はユィンに迫った。


読んで下さって有難うございます^-^

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