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戦士の宴  作者: 高橋 連
三章 後編 「シャンピニオン山の戦い 其之参」
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銀の槍

【銀の槍】


 〈銀の槍〉はユィンの体術に驚嘆を覚えていた。

(おい! さっさと終わらせろ。遊ぶとろくな事はないぞ)

 〈銀の槍〉は〈ゼータ〉の言葉に怒鳴り返した。

(簡単にやれるんだったら、とっくにやってるぜ!)

(確かにあの若者はかなりの使い手で、完全に槍の間合いを見切っている。だが、その銀槍なら間合いを狂わせて捕らえるのは容易いであろうが?) 

 〈銀の槍〉が操る銀槍は、ただの槍ではなく、古代魔法で鍛えられた古代兵器であった。その優れた点は、強度や軽さもさる事ながら、操者の闘気に反応し、その質量を長さも太さも自由自在に変える点であった。

 通常、武器を持った者との戦いでは、特に間合いが広い武器相手ほど、その間合いを掴む事が戦いの帰趨を決するほどに重要となる。

 しかし、〈銀の槍〉が操る銀槍は、〈銀の槍〉の闘気に反応してその長さや太さを変える為、間合いを掴んでの見切りが不可能といって良かった。ましてや、その武器の特質を知らぬ者相手なら、戦いの最中に槍の長さを僅かに変えて間合いの見きりを間違えさせる事で、その切っ先に捕らえるのは簡単であった。

(もうやってるんだよ! それでも捕らえられねぇ!)

 〈銀の槍〉は、戦いながら槍の長さを短く長く微妙に変化させてユィンの見切りを狂わそうとしたが、ユィンは一瞬のうちに変わっていく間合いに反応し、悉く〈銀の槍〉の繰り出す攻撃をかわしていたのだった。

(ならばどうする。安易な攻撃を繰り返しているとこっちが足下をすくわれるぞ)

 〈銀の槍〉は〈ゼータ〉に悪戯を思いついた子供の様に、にやつきながら答えた。

(へへっ。こっちもあいつにお返ししてやるさ)

 〈銀の槍〉は笑いながらも、腹の中は煮えくり返っていた。

 それは己の槍を悉くかわされたからではない。己の技量には絶対の自信を持っていた。〈銀の槍〉にはそれだけの自信を持つに値する努力も、経験も、才能もあったからだ。それ故に、腹を立てるどころか、その己の槍をかわすこの青年に有る種の尊敬や、戦いに生きる者だけが持つ強者のみを認める感情が芽生えつつあった。故に、〈銀の槍〉が憤っていた理由は別の事であった。それは子供の様な理由であった。

 ユィンは槍をかわしながら、〈銀の槍〉の攻撃を狂わせ凌ぐ為に、事有る毎に地面の土を蹴っては〈銀の槍〉の顔に浴びせかけていたのだ。〈銀の槍〉は己の顔面に砂を浴びせられっぱなしという事に、我慢がならなかったのだ。

 〈銀の槍〉はそこらの悪戯小僧と同じく、仕返しをしてやろうと思ったのだった。

 〈銀の槍〉は、ユィンの間合いに入る前に己の体の死角で槍を長く変化させた。そして、ユィンの間合いへと踏み込む瞬間、槍の切っ先で地面を抉って大量の砂土を舞い上げてそれをユィンの顔面に浴びせながら、鈍く銀色に輝く槍をユィン目掛けて繰り出した。

 ユィンは槍の切っ先と間合いに集中し、砂土を顔面に浴びるにまかせたが、不運にも数粒の砂がユィンの目に入り込み、その目を閉じさせた。

(おい、今だぞ!)

(わかってらぁ!)

 〈ゼータ〉に勢い良く答えた〈銀の槍〉は、この瞬間を見逃さなかった。

数粒の砂を目から払い落とす為に、ユィンが一瞬だけ瞬いたその瞬間を狙って繰り出した槍は、完全にユィンの頭部を捕らえたはずであった。受けるのであればまだしも、かわすなど鬼神をもってしても不可能な事であった。

 しかし、ユィンはその槍をかわした。かわしたと言うか、完全に槍の間合いから逃れていたのだ。

(おい、どうした? 見えたか?)

(いや、奴の動きが全く見えなかった。どんなに素早く動こうが、あれを避けられるはずがねぇ)

 有り得べからざる事態に驚きを隠せない〈銀の槍〉に対し、〈ゼータ〉は警告を発した。

(来るぞ!)

 言われるまでもなく、〈銀の槍〉はユィンの動きに注意を怠ってはいなかった。いなかったが、またしても完全にユィンの動きを視界から見失ってしまった。

 ユィンを見失い動揺する〈銀の槍〉に、〈ゼータ〉が叫んだ。

(後ろだ!)

 〈銀の槍〉は、辛うじてユィンの攻撃を槍で受け止めた。だが、完全に槍の間合いの中に入られ、如何に槍の長さを自在に変えられると言っても密着した近接戦では分が悪かった。しかも、またしてもユィンをその視界から完全に見失ったのだ。

 だが、〈銀の槍〉もこれまで幾多の死線をくぐり抜けてきた歴戦の強者であった。目で追えぬので有れば、その気配を読むべく神経を研ぎすませた。そして、ユィンの気配を掴んだ刹那、その気配が消えた。いや、跳んだ、そんな感覚であった。

 ユィンをまたも見失ったが、ユィンの攻撃の瞬間に気配を掴んだ〈銀の槍〉は、その一撃を何とか槍で受け止めた。

(どうやらイディオタ様のあれのようだな……)

(あの野郎、いつの間に……、まさかっ!)

(恐らく、お主に土を浴びせていたのではなく、せっせと魔法陣を書いていた様だな)

(畜生! 抜かった!)

(ぼやいてる暇はないぞ、次がくる!)

 今度は〈銀の槍〉が、死角から次々と繰り出されるユィンの攻撃に追われる羽目となった。


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