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戦士の宴  作者: 高橋 連
三章 後編 「シャンピニオン山の戦い 其之参」
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ユィン

【ユィン】


 動きを封じた槍を外され、右腕の攻撃を防がれたユィンは少なからず驚いた。そして、防いだと同時に〈銀の槍〉が後ろに飛んで間合いをあけたので、ユィンも一先ず距離を取った。

(槍は完全に掴んでいたはずだ……)

(ユィン、どうやって外されたか見えたか?)

(いや……、見えなかった)

(戦場では洞察力が全てだぞ。まあ、頑張って考えろ)

 〈オメガ〉の言葉に、ユィンは何かが引っ掛かった。

(おい、〈オメガ〉。お前何か知っているのだろう)

 そのユィンの言葉に、〈オメガ〉は悪びれる風も無く答えた。

(ああ、知ってるぜ。当たり前だろう。俺はイディオタの中にずっと居たのだからな)

(では、何故先に……)

 ユィンの言葉を遮って、〈オメガ〉はユィンに諭すように話しだした。

(おいおい。何の為にイディオタがお前と戦ったか分からないのか? 死線を己の力で越えるからこそ、その先が見えるのだろうが。補助はしてやるが、答えは自分で見つけろ!)

(ああ、そうだった……) 

 〈オメガ〉の問いに答えながら、ユィンは先ほどの攻防を何度も思い返していた。

(おい、呆けている暇はないぞ!)

 〈オメガ〉の呼びかけと同時に、〈銀の槍〉が猛烈な勢いで襲い掛かって来た。

 〈銀の槍〉は長身のユィンが見上げる程の巨躯であったが、それを感じさせぬ動きで槍と体を一体化させて、全てを凪ぎ払うかの様に回転しながらユィンに斬撃を浴びせてきた。

 〈銀の槍〉が持つ槍は、魔力が込められた魔銀で造られた古代兵器の様であった。恐らく並の鋼なら紙の様に引き裂く程の強度であろう。その武器に〈銀の槍〉の闘気とあの回転が加われば、それこそ全てを打ち砕く暴風となるだろう。

 しかも、〈銀の槍〉はその回転しながらの連撃の合間にも、尋常ならざる速度で槍による刺突まで繰り出してきた。

 ユィンは攻撃を受け止めず、神経を全身に張り巡らせて必死にかわし続けた。

(おい! いつまでも避け続けられるものじゃないぞ!)

(分かっている……)

(お前の腕から生やしたそれなら、あの槍も受けられるのだろう?)

(ああ、だが今はまだかわして逃げるしかない)

 ユィンは必死に逃げ回りながら槍をかわし続けたが、徐々に受ける傷が増していた。

(ユィン、お前避けながらあれをやっているのか?)

(ああ! 作業中に話しかけるな!)

(はいはい、すいませんでした。しかし、いきなり実戦でって、お前馬鹿だろ?)

(…………)

 ユィンは〈オメガ〉に答えず、〈銀の槍〉の攻撃を避ける作業に集中した。

 〈銀の槍〉の攻撃はさらに回転が増し、その速度と鋭さはいつまでもかわし続けられるものではなかった。いつか破綻が生じるであろう。そして、それは案外早く訪れた。

 ユィンは逃げ回りながら、目眩まし代わりに地面の土を蹴りあげて〈銀の槍〉の顔に浴びせかけていたが、それに腹を立てた〈銀の槍〉が槍の穂先で地面を抉り、同じようにユィンの顔面に土を浴びせかけたのだ。

 槍の暴風を避け続ける事に精神を集中していたユィンは、その土をまともに顔面で受けた。

「くっ!」

 ほんの数粒の砂が、ユィンの目の中に入り込んだ。

 その砂粒を目の中から払う為に、ユィンはたった一度瞬いた。

(馬鹿野郎っ!)

 〈オメガ〉の怒号がユィンの頭の中で響き渡った。

 たった一度の瞬きだったが、常人の域を越えた二人の戦いの中では、その僅かな瞬間が致命的な隙となる。

 ユィンの隙を突いて繰り出された銀槍の切っ先は、ユィンが気づいた時には既にかわす事ができない必当の間合いに入っていた。


読んで下さって有難うございます!

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