ユィン
【ユィン】
「てめぇ、この国の言葉が話せるのか!?」
「いま……おぼえた……」
「今覚えただと……。ふざけるなっ! てめぇは何者だ! なんで俺の名前を知ってやがる!?」
「俺……の……名はユィン。先ほど……老師から……お前に伝言を言づかった……のだ……」
ユィンと名乗った黒髪の青年は、〈銀の槍〉が持つ鈍く銀色に光る槍に視線を向けながら答えた。
「老師ってのは、てめぇが殺したじじぃの事か!」
「あぁ……」
ユィンの瞳には、悲しみが溢れんばかりに満ちていた。
ユィンは、〈銀の槍〉に老師から託された言葉を話し始めた。
「老師は……亡くなられる間際に、自分の弟子の〈銀の槍〉か〈竜殺し〉に、最後の言葉……を伝えて欲しいと仰った」
〈銀の槍〉と話す間にも、ユィンのぎこちなかった言葉が段々と流暢になっていった。
「王国軍の新しい兵器と物量の前には、抗すべくもない。部下達を率いて山塞から脱出し、各々自由に生きよ……と。老師のお言葉、確かに伝えたぞ」
ユィンはそう言うと、山頂目指して歩きはじめた。
「まちやがれっ! どこに行く気だ!」
〈銀の槍〉から発する殺気に気づいたユィンは、さりげなく間合いを測りながら足を止め振り返った。
「〈竜殺し〉にも老師のお言葉を伝え、老師の部下達の退却を手伝いに行く……」
「なんでてめぇがそんな事までしやがる!? じじぃを殺した罪滅ぼしのつもりか?」
ユィンの頭の中で、何者かが呟いた。
(ユィン。この馬鹿、お前を殺すつもりのようだぞ)
(ああ〈オメガ〉。分かっているよ。だが、お前を託された事を話せば、俺の話を信用してくれるはずだ)
ユィンは〈オメガ〉に頭の中で答えた後、〈銀の槍〉に話しかけた。
「老師は俺に〈オメガ〉を託してくれた……。その恩義と期待に応えたいだけだ……」
それを聞いた〈銀の槍〉は、ユィンに向けていた殺気を爆発させた。
(ユィン、くるぞ!!)
〈オメガ〉の警告を聞くまでもなく、ユィンは戦闘態勢に入っていた。
ユィンの体を黒い闘気が纏い、腕だけでなく全身を黒い鎧が固めていた。さらに、先ほど〈銀の槍〉の攻撃を受け止めた腕の武器もより凶々しく変化した。
ユィンの瞳が妖しい光を放つ……。
その光を突き消そうと、銀槍が大気を切り裂き、異様な音と共にユィンに迫った。
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