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戦士の宴  作者: 高橋 連
三章 後編 「シャンピニオン山の戦い 其之参」
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銀の槍

【銀の槍】


 イディオタ伯討伐軍が攻め寄せ、今や戦場と化したシャンピニオン山中腹を下った辺りを、巨躯の男が獣の様に跳ね駆けていた。

 その男は長く美しい金色の髪を靡かせ、瞳は紺碧色に輝き、その巨躯を軽々と跳ね駆けさせる姿は、まるで猛々しい金獅子と見紛う様であった。

男は白銀に輝く肩当の無い胸甲を身に着け、手足には良くなめして鍛え上げた革の手袋と膝当の付いた長靴を履いていた。その身に防具を纏っていなければ獣と見紛う程に、男は気配を殺しながらも見る者を圧する何かを体より発して山中を必死に駆けていた。

 その時、男が不意に動きを止めて立ち止まった。

 辺りは静寂に包まれ、この地が戦場とは到底思えぬほど、一切の音が止んでいた。だが、大量の血飛沫と無数の王国軍兵士の死体が、山の木々や大地を彩るように、戦場という名の現実を示しだしていた。そのそばに、横たわる老人を抱き抱える様にして長い黒髪の青年が膝をついて佇んでいた。

 黒髪の青年の左腕は老人の体を労る様に大事に抱き抱えていたが、右腕はその老人の胸を深く貫いていた。黒髪の青年が老人の胸を貫いていた右腕を引き抜くと、老人の体は灰となって崩れ落ち、風に舞い飛び、散っていった。

 あたかも、老人の魂が天に昇っていくかの様に……。

 黒髪の青年は立ち上がり、老人の魂が天に昇るのを畏敬の念と悲しみに満ちた瞳で見つめ続けていた。その様を、獅子の様な巨躯の男も呆然と眺めていた。

「じじぃーーーーっ!」

 突然、男は全身に凄まじい闘気を漲らせ、怒りの形相で叫び声をあげた。その声は獣の咆哮を思わせるほど荒々しく、震えるほどに悲痛な叫び声だった。

 男は叫びながら黒髪の青年めがけて驚くべき速度で駆けた。そして、黒髪の青年を間合いに捉えると、手に持つ鈍く銀色に輝く槍に怒りで荒れ狂う闘気を乗せ、黒髪の青年の死角からその頭部を狙って必殺の一撃を叩き込んだ。

 金属同士がぶつかり合う音とは微妙に違った鈍い衝撃音が響き渡り、男が繰り出した槍は青年の頭部を貫く前に、黒髪の青年の右腕に装着された黒い得物に受け止められた。

(退がれ!)

 男の頭の中で、何者かの声が警告を発した。その刹那、男は我に返った様に飛び退がった。

(〈銀の槍〉よ、今のが見えたか?)

(いや……)

 〈銀の槍〉と呼ばれた男は、頭の中で何者かと会話をしていた。

 〈銀の槍〉は間合いを測りながら、黒髪の青年に集中した。先ほどの一撃を黒髪の青年が受け止めた事によって、青年が尋常ならざる者である事が分かったからだ。正確に言えば、受け止めた事自体は問題ではなかった。

 怒りに任せて叫び声をあげ、その上に殺気も消さずに襲い掛かれば、如何に死角からの一撃といえど有る程度の使い手ならば受ける事は容易であろう。問題はどうやって受け止めたかであった。

 〈銀の槍〉の一撃が黒髪の青年に叩き込まれる直前まで、青年はその身に寸鉄も帯びてはいなかった。有るはずもない得物が、突然にして青年の腕に現れたのだ。

(こいつは一体何者だ……。王国軍には見えないが……)

 〈銀の槍〉は改めて黒髪の青年を観察した。すると、更に不思議な事に気がついた。

 黒髪の青年はどうやら異国の者の様であり、〈銀の槍〉がじじぃと呼んだ老人と戦ったのだろうか、服は破れ上半身はほぼ裸同然の状態だった。しかし不思議な事に、返り血ではなく、いくつもの致命傷を負って大量に出血した様な血糊が体中にべったり着いていたが、その体には傷一つついてはいなかった。

 警戒を強め、間合いを取る〈銀の槍〉に向かって、黒髪の青年が初めて言葉を発した。

「おまえ……が……〈銀の槍〉か?」


第三章の後編スタートです!


各章の後編が続きの物語になっているので、前のお話を忘れちゃった方は、

2章後編を是非お読みください^^



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