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戦士の宴  作者: 高橋 連
三章 前編 「白銀の闘気士」
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ジュリアン

【ジュリアン】


 怒りと憎悪に支配され白銀の獣と化したジュリアンの前に、別の獣が立ちはだかった。その獣は巨大で強く、力の差は歴然としていた。

ジュリアンは抗う術なく翻弄され全身を斬り裂かれた。痛みと疲労は極限に達し、もはや僅かな力さえも残ってはいなかった。

 後はただこのまま、倒れ死すだけだった。だがその時、ジュリアンの耳に声が響いた。

「妹と同じ様に腹をぶち抜いてやるよ」

 すでに正気を失い、人でなくなっていたジュリアンにその言葉の意味は理解できなかった。

 ジュリアンの心にあるのは、己を苛む罪の意識と、悲しみ、怒り、憎悪、そしてそれらが溶けあい生まれた獣だけであった。だが、その声が、響きが、何かがジュリアンの中に新たな憎悪を、怒りを、力を沸き起こらせた。

 ジュリアンが最後に沸き上がらせた力を振り絞り、己を獣に変えさせた男に襲い掛かった刹那、ジュリアンの頭の中にまたも声が響いた。

 耳からではなく、直接頭に、心に語りかけられた様な感覚であった。

(後ろだ!)

 ジュリアンは言葉ではなく、その声から感じるままに体を動かした。

 腹部を抉り、臓腑を撒き散らすはずであった一撃を、ジュリアンは身を捻ってなんとか避けた。しかし、腹部に受けた傷は十分に致命傷足り得る深手であった。

「ちょろちょろせずに、さっさとくたばりやがれ!」

 灰色の毛に覆われた獣人はそう言いながら、ジュリアンに止めを刺そうと向かってきた。その瞬間、薄汚れた乞食の様な小男が突然現れ、自分と獣人の間に立ちはだかった。

小男はまるで空より舞い降りた様であった。

「手前! どこから……」 

 そして、その薄汚い乞食の様な身なりの小男は、漂う様に宙に浮くと、喋りかけた獣人の頭を軽く掴んで握り潰した。

 恐怖で自分達を統御していた獣人の頭を、突然現れた小男が握り潰す様を見た生き残りの兵士達は、恐怖に狼狽え言葉にならぬ奇声をあげながら逃げ散った。

心を支配していた憎悪の獣も消え去った薄れゆく意識の中で、ジュリアンに小男が尋ねた。またも心に直接響き語りかける様な声だった。

(生きたいか?)

 罪のない幼子を殺め、その自分の愚かな行いのせいでさらに多くの人が殺された。最愛の妹までも失った。すべて己の罪によって……。

 ジュリアンは、自分はこのまま死ぬべきだと、死ななくてはならないのだと思っていた。しかし、口からでた言葉は違った。

「生き……た……い……」

 ジュリアンの言葉を聞いた小男は、子供の様な笑みを満面に浮かべ、何度も嬉しそうに頷いた。ジュリアンはその時みた小男の顔を一生忘れられないと思った。

 小男は何か小石の様な物を自分の額に載せた様だった。だが、すぐにその小石は感じられなくなり、代わりに体中に力が漲った。

(恐ろしい程の生命力じゃな)

 頭の中にまた声が響いた。しかし、さっきの小男の声とは違う声であった。

「だ、だれだ……?」

(ん? 儂の声が聞こえるのか? これは驚いた!)

「どうじゃ? 痛みはだいぶ楽になったじゃろう」

 小男が笑顔で話しかけてきた。見た感じでは三十過ぎの様だったが、言葉がやけに老人のようであった。

「あぁ、俺は一体……。頭の中で誰かが話しかけてくる……。俺は気が狂ったのか」

「適応者とは思ったが、いきなり完全適応とはな」

「適……応……?」

 ジュリアンは頭の中が混乱していた。

「儂の名はイディオタ。お主の頭の中の声の主は〈ゼータ〉という名じゃ」

「〈ゼータ〉? あん……た、一体?」

「今は喋るな。回復に専念するのじゃ。後でゆっくり話してやるゆえな」


あけましておめでとうございます^^

今年も宜しくお願いいたします!!

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