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戦士の宴  作者: 高橋 連
三章 前編 「白銀の闘気士」
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イディオタ

【イディオタ】


 数百年前の過ちの根を絶つ為、弟子の転生した魂を探して旅していたイディオタは、強大な気が放たれるのを感じ取った。そして、身を震わすような咆哮を聞いた。

(聞えたか、イディオタ。わりと近いな……)

(〈アルファ〉よ、正確な場所は分かるか?)

 イディオタの問いに、〈賢者の石〉の〈アルファ〉は答えた。

(北に真っ直ぐだ。あの煙が立ち上る辺りだな)

(村が何者かに襲われているのかもしれぬな)

 イディオタはそう言うと、怪鳥の様に跳ね駆けて村の南側にある林の木の上に登り、村の様子を眺めた。

(さっきの気は、あの小僧か……)

 焼き討ちされ、村人の死体があちこちに散乱している中で、一人の青年が領主の兵士達を相手に戦っていた。しかし、それは戦いというよりは、一匹の獣と、それに追い殺される人間達という感じであった。

(家族を殺された怒りで眠っていた力が解放されようだな)

 〈アルファ〉の言葉に、イディオタは頷いた。

(そのようじゃな。しかし、酷い事をしよる)

 村のあちこちに、村人の死体が散乱し、死体を貫いた長槍が幾つも大地に刺さっていた。

(ふむ……)

 何か気づいた様子のイディオタに、〈アルファ〉が尋ねた。

(どうした?)

(兵士達の指揮官らしき男がな……)

(知っている奴か?)

(いや……)

 イディオタは更に言葉を続けた。

(珍しい者だったのでな)

(珍しいとは?)

 イディオタの言葉が気になった〈アルファ〉は、指揮官らしき男を注意深く観察し、魔力の流れと闘気の流れに注意した。

(獣人か?)

(恐らくな。身につけている鎧も、あちこちに継ぎ目をいれ、そこに伸縮性のある糸を何重にも通しておる。たぶん獣化した際、鎧が弾けぬ為の細工じゃろう)

 時折、獣と人が合い混ざった姿に身を変える者が生まれる事があり、その者達は獣人と呼ばれ恐れられた。南方の大陸には、獣人達の住む国があるとの伝承もあった。

(しかし、なんでこんな田舎に獣人の騎士がいるのだ?)       

 〈アルファ〉の疑問は至極当然であった。この大陸では獣人は珍しく、その人間を凌駕した力により、獣人の戦士は各国から引く手数多で重用されていたからだ。その疑問に、イディオタは見当がついていた。

(あの村の様子からして、恐らくどこの貴族も奴を持て余したのであろう……)

(なるほどな……)

 村の様子はあまりに凄惨な光景であった。きっと、その残虐性によって獣人でも敬遠される程の悪名があるのだろう。

(獣人の男が動くようだぞ)

 イディオタが予想した通り、指揮官らしき男は体内の闘気を爆発させると、その体を一気に膨らませた。そしてその身を、体中を暗い灰色の様な毛に覆われた姿へと変えた。

(あの青年は勝てるかな?)

 〈アルファ〉の言葉に、イディオタが短く答えた。

(無理だな)


読んで下さって有難うございます^-^

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