ジュリアン
【ジュリアン】
村に着いたジュリアンが目にしたものは地獄と呼ぶに相応しい惨劇であった。
家は焼かれ、村人は殺され、愛する妹が長槍に貫かれて天高く掲げられていた。そして、その様を楽しむ様に下卑た笑いをあげる男達。
(なぜ俺を殺さない! なぜ俺を!)
ジュリアンは分かっていた。これこそが、己が犯した罪に対する罰なのだと。罪なき幼子を殺した自分に、神が与えた救いの無い罰なのだと……。
ジュリアンの中で何かが弾けた。神を呪う叫びなのか、正常な精神が砕けた音なのか、何かは分からなかったが、何かが弾ける様な感覚がした。
気がつくと、ジュリアンは妹を貫いた長槍を持つ兵士に飛びかかっていた。
怒りに支配されたジュリアンの頭は、右手に持つ物が剣だと言うことさえ忘れたのか、剣を持ったままの拳で兵士の頭を叩き潰していた。
卵を潰した様な音がし、脳髄が飛び散った。しかし、ジュリアンの心の中に、憎い敵を殺した喜びはなかった。
ジュリアンを突き動かした激しい怒りも憎悪も、それら全てが心の中より消え去っていた。あるのは只一つ。純粋な破壊への衝動。動くもの全てを潰し壊し殺さねば収まらぬ、獣の衝動。
下卑た笑い声を上げていた兵士の脳漿をその身に浴びながら、ジュリアンは聞く者の心を震わし恐怖させる雄叫びを上げた。
「ウオオォォォォー!」
ジュリアンの全身から銀色に輝く凄まじい闘気が溢れ、その身を覆った。
ジュリアンは頭を叩き潰した兵士の体を踏み台にし、ジュリアンに恐怖し動けぬ兵達ではなく、いち早く駆け出して逃げた兵達の方へと跳躍した。
凄まじい闘気によってジュリアンの体は鋼と化し、理性を失った心は闘争本能のまま獣となり、逃げ惑う兵達の体を紙細工の様に引き千切りながら村中を駆け巡った。
兵士達の返り血を浴びたジュリアンの全身は深紅に染まり、同じく村人達の血を浴びていた兵士達と最早見分けがつかなくなっていた。
この世の地獄と化した村の中で、全身を真っ赤に染めた男達が叫び駆ける様は、まるで墓場で鬼火が踊る様であった。
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