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異世界でもう一人の俺が暴れすぎてキチガ○と呼ばれている件について  作者: 浅き夢見む氏
第五部:かつて交わした約束は曖昧なままで心に残る<王国編>
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第2.5章焔の追憶、誓いの鎖part1

過去編を入れたいので予告なしに投稿!

主人公一切絡まない系です。

勿論この章読まなくても3章から普通に読めるようにしておくのでこの章は読み飛ばしても全然大丈夫です!

王国の謁見の間

エルフと人間が作った国にしてはエルフの割合があまりにも大きすぎた。

それもそのはず現代から二十年前の王国ではエルフの力の方が強かったのだから。


三代目女王陛下がまだ雛君と呼ばれていた時代

ガルブレイクが勇者でなかった時代

そして氷巫女が生きていた時代


何もかもが当然今とは違っていた。


シノンもサニアもゼノンも生まれておらず

帝国の牙が特に鋭く迫っていた時

何よりも・・・・この時はまだガルブレイクは罪人として扱われていた。




高官たちの前に一人の『罪人』が連れ出されていた。

手荒な扱いを受けたのか顔を丸々と腫らし口からは血が垂れている。

彼の体には猛獣用の巨大な鎖が幾重にも巻きつけられその上から分厚い氷で固定されていた。

凶暴な人間なのかと思うかもしれない・・・・ただここまでされているのがたった十二歳の人間の少年であることが罪人であるのに謁見の間にまで引きづり出された原因であった。


「罪人ガルブレイク・エルリングス。名に間違いはないか?」


宰相が訪ねた声に対し少年は無言で首を縦に振るだけだった。

だらりと垂れる白髪から血が零れ落ちた。

そしてこうべを垂れ、跪くその様子は全てを諦めてるようにも見えた。

『王国祖』の妹であり光の勇者の後妻の二代目女王陛下はそんな彼の様子を悲しげに見つめる。


「なあ宰相よ・・・我が国にエルフ優勢の嫌な流れが出来ていることは知っている。だが、、、人間の子供に対してここまで酷いことをするほどこの国は腐っているのか?これでは帝国と何も変わらないじゃないか・・・」

「あ~・・・これは王国の内包する問題とは関係なくですね・・・いや関係はしてるっぽいんですけど・・・・してもいないというか・・・」


エルフの高官たちが自分たちに非難がむくとは思ってなかったのか若干ざわついている。

隅に追いやられている人間の高官たちはエルフの女王陛下が持つ意外な考えにほうと感心した顔をした。

そしてエルフの代表である宰相は・・・・そんな二派のことなど意にも介さず曖昧な答えを返した。

女王陛下が無言のまま圧をかける。


「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・口止めされてるんですよ」

「・・・・・・・光の勇者に?」

「まあ、、、、そこ関係とだけ」


宰相がやむなしといった様子で首肯する。

女王陛下はちらりと隣の空席を見てため息をついた。

いつものことと。


「もしやこの少年が氷魔術で拘束されていることも・・・・・口止めされている内容か?」

「ハハハハ・・・・」


宰相が脂汗を流し笑いだす・・・・

官僚たちがどうやら話の気が変わってることに気付くと同時にドカンと扉が押し開かれた。

押し開かれた門の前で仁王立ちしていたのは人間の少女だった。


黒髪で目が蒼い少女だった。

体格は既に大人に近いものだったし一部に関しては既に大人顔負けのものをお持ちだったりする。

それでもまだ子供だといえるのは顔つきがまだ苦労を知らない子供特有のものであり、謁見の間にいきなり飛び込んでくるような落ち着きがないというか・・・常識が無い行動をする人間だった為である。


「間に合った!」


皆の顔が引きつる。

だが誰も彼女に抗言出来ない・・・それもそのはずだ。

彼女は二代目聖女セシル・イシルディア。

人間の聖女とはいえ王国に勇者聖女信仰がある以上無視できない権威を持っていたから。


「はあ、はあ、、、待てと言っているのに・・・・」


そしてセシルを追って黒髪のエルフが走ってきていた。

彼女はセシルが間に合ったと叫んだ事に対して間に合わなかったと顔を手で覆う。

その彼女を追って一人の男性が追って来ていた。

女王陛下は頬をひくつかせ、宰相は笑い顔のまま固まる。

官僚たちが慌てて礼の姿勢をとる。


「女王陛下、お話が!」

「待て、セシル!」

「離せ、ヒナ!」

「お~い、落ち着け?」


女王陛下に飛び掛からんかの如くズンズン歩く『氷巫女』セシル・イシルディア

その彼女を羽交い絞めにしてる女王陛下と光の勇者の娘『雛君』ヒナ・エーメルティー

彼女二人を止める気があるのか分からないが取り敢えず声だけはかける『光の勇者』ロイ・エーメルティー


「ロイ、、、、あなたの仕業ですね?」


女王陛下が非難する声を上げると光の勇者は苦笑いでその非難に答える。

金髪で長身のエルフ。

あまり印象に残りはしないが明るい人を引きつける笑みを持っている。

そんなロイは暴れる二人の後ろでたははと頬を掻いた。


「いやあ、、、ちょっと手加減がね?そのせいで時間がかかっちゃって・・・」

「存在自体が戦略兵器なんですから勝手に行動しないでください・・・・てか、いつまでそこにいるつもりですか?」

「・・・・そういえばそうだ。」


女王陛下が敬語で声をかける。

そして当然のようにロイは彼女の椅子の肘かけに腰掛ける。

女王陛下は貴方の席は隣ですとグチグチ言いながらもまんざらでもなさそうだ。

二人はそういう間柄だった。


「さてと、、、いい加減二人とも落ち着きなさい」

「「!?」」


定位置が埋まってようやく安心したのか女王陛下は表情を一瞬緩ませ、そして未だに騒いでる二人に険しい表情を向けた。

殺気の籠った一陣の風。

ただの風属性ではなく特殊な風魔術。

威力のない風でありながらそれはぎゃあぎゃあ暴れてる二人を冷静にさせるには十分だった。


冷静になってようやく自分たちの不手際に気付いたのか慌てて跪く二人

偶然かは分からないが彼女達はガルブレイクの隣で横一列になって並んで跪く形になった。

顔を血みどろにしているガルブレイク

顔を真っ青にする雛君

そして反省しながらもまっすぐ女王陛下を見るセシル


「・・・・・宰相よ。聞いていた話では聖十剣と互角に戦う犯罪者の少年としか聞いてなかったが本当は何があった?」

「私が語るよりもこの少年が語るべきかと」

「・・・!?」


初めて少年の眼に生気が戻る。

弱き頃は言葉を求められなかった、奪われて生きてきた。

強くなってからは語る前に殺してきた、語る前に奪ってきた。

だからこそ目の前の光景が信じられなかった。


皆が自分の言葉を待っていた。

自分が語るのを待っていた。

肌がざわざわと波立ち、悪寒が奔る。

驚きと同時に強い感情がこみ上げ、、、吐きだしそうだった。

でもその気持ちが何なのか自分でも分からなかった。

だから余計に気持ちの整理がつかずただただただただ気持ちが悪かった。


「・・・・・・・・・・」

「気持ち悪いか?」

「!?」


自分の心を正確に言い当てる遠慮のない無邪気な言葉。

横からかけられた言葉だった。

まっすぐと自分を見る顔。

同情も優しさも軽蔑もないそして自分を不快にさせないただただまっすぐな顔だった。


「今まで『聞こうとも見ようともしてこなかったお前たち』に聞いてもらう言葉なぞないと思っているのか?」

「・・・・・・・・」


自分でも分からなかった心に抱えていたものをいい当てた。

少し高い眼線からかけられた言葉は自分と同じ立場の言葉だった。


「誰にも守ってもらえなかったから誰かにいつも奪われ続けたから・・・泣き叫ぶのを止め強くなったんだろ?お前と私は同じだ。」

「おな、、、、じ?」

「おい、なにやっ・・・」


ヒナと呼ばれたエルフの少女が止める前に、セシルは一瞬でガルブレイクの氷を溶かし鎖を解く。

場が張り詰める中、女王陛下が手を上げる。

見守れと・・・・光の勇者が女王陛下にありがとうと囁いた。

周囲がそんな状態であるのに一番危険な場所にいるはずの彼女は真剣な顔で向き合っていた。


「まだこの国は優しくない・・・エルフの貴族が人間の母と子を目の前を通り過ぎたという理由で蹴り殺そうとする。そしてそれを庇ったはずのお前を聖十剣を呼び出してまで処刑させようとする・・・・だからお前のような強い人間が生まれたんだ。」

「・・・・・・・あんたも?」

「本当はエルフの誰かが受け継ぐはずの『聖女』の力・・・・人間の私に宿ったのはお前が強くなったのと同じだと思う」


聖女が罪人の血で濡れた手を両手で包み込む。

ひんやりとした手の平の奥には熱い何かが脈動していた。

彼と彼女は世界が優しくないからそれぞれ別の形で強くなった人間だった。

ただガルブレイクは壊す強さ一方セシルは


「私たちは王国を優しくするための転機点なんだ。」

「・・・・・・・・・てんきてん?」

「悪い、、、言い方が難しかったか・・・・・・取り敢えず私たちがきっかけになるんだ。」

「・・・・なん・・・の?」

「強い者が弱い者を助け、人間とかエルフとかそういうの関係なく同じ『王国の民』となるきっかけだ。」


理想に酔った言葉と笑い飛ばすには『聖女の力』が人間に引き継がれたことに説明がつかない。

だから場にいる全ての官僚たちは真面目な顔つきでセシルの言葉に耳を傾けていた。


「今まで誰もが奪われないために強くなってきた・・・だがここからは『強くなれなくて奪われてきた誰か』の為にその強さを使わなきゃいけないんだ」

「・・・・・・・・」

「だから私に力を貸してくれ・・・あの時戦って分かったんだ。お前の強さと優しい心がこの王国には必要なんだ。」

「・・・・・・俺が・・・・・優しい?」


思わずガルブレイク自身、鼻で笑ってしまった。

人を殺し、盗みを働き、家族殺しの禁忌まで背負っている。

それでも優しいと目の前の少女は断言する。


「・・・・・・・・・」

「光の勇者さんと私とセリでお前の無実は証明できる・・・だから一緒に王国を守ろう!」


目の前で熱く語る少女。

でも、ガルブレイクは気づいていた。

その彼女の背後で自分を冷たく見つめる少女の姿に。

セシルの視界外で手に扇を構えいつでも自分の行動に反応出来るようにしている姿を。


「・・・・・・・・」

「おい、さっきから黙ってるんじゃない!」

「・・・・・・・・」

「ああ、もう!お前を捕まえる為に三人がかりでボコボコにしたのは悪かったから!しょうがないだろう、お前が強いんだから!言っておくが悪いようにはしないから落ち着けと言ってるのにお前が大人しくしないから詠唱級氷魔術を使う羽目に・・・・」


ヒナは目で語っていた。

断ろうがどうだろうが気にはしないのだろう。

ただガルブレイクがセシルに危害を加えないかを警戒していた。

周囲を確認すればヒナと同じようにしているエルフたちがいた。

勿論人間たちも。


猪突猛進に進む彼女は陰ながら誰かにずっと支えられてきたんだろう。

だからここまで明るく楽観的なのだろうと思った。

そしてその後に、だから彼女はここまで『正しくあれた』のだろうと思った。

味方を引きつける生来的な才能が彼女を正しくあり続けさせることを可能にしたのだろうと思った。


「・・・・・わかった」


そういう人間は今まで見たことがなかったのでもしかしたらこんな自分でも変えてくれるのではないかと思ってしまった。





「これがセシルだ」

「・・・・・こうか?」

「違う!それはヒナだ!」

「普通自分の名前から覚えさせないか?」


聖女を守る十の剣

騎士の中でも最高峰の十人

勇者、女王陛下を除くと王国最強

ガルブレイクはそんな聖十剣『見習い』と言う位置につけさせられた。


「駄目だ!絶対に最初は私の名前を覚えさせる!」

「そうはいっても・・・・ほら」

「ぐうううううう」

「ふんっ!」

「いだあああああっ!」

「大陸語は基本的に一度覚えればどの国でも使えるんだからな!超大事なんだからな!」

「だからってめんどくさい!」

「ふんっ!」

「いだあああああい゛っ!」


氷を纏った拳が振り降ろされこっくりこっくりしていたガルブレイクは地面をジタバタ転がる羽目になった。

本来なら聖十剣にしてもよい実力があるのだが、歳がまだ少年と言ってもいいほどの年であるだけでなく読み書きも出来ない。

罪人で無くなったその日から、セシルの監視下で読み書き礼作法の勉強をさせられていた。

とはいえ今まで戦いしかしてこなかった彼が簡単に成果を出せるはずもなく、大抵ゴロゴロ頭を抑えて転がる羽目になっていた。

恰好から入ろうとむっちりとした黒の教師服を着たセシルはふうとため息をついた。


「たく、、、何故やる気が無い・・・」

「お前の教え方が悪いんだ、この天才肌め」

「・・・もう・・・セ・・さ・・あんたは嫌だ。」

「なにぃ!?」

「うがあああああああああっ!」

「何をやっているのやら・・・・・・」


基本セシルの側をついて回っている王国王女のヒナはそんな二人をどっちもどっちだとため息ついた。

セシルがああもうと黒髪をくしゃくしゃかきむしり吠える。


「第一私のことはセシルねぇと呼べと言ってるだろう!私は15なんだぞ!三つも年上なんだぞ!」

「俺より弱い奴を名前で呼びたくない」

「なにぃ!?」

「いだああああああっ!」


話を聞いていたヒナは悪戯げに微笑む。

エルフであるため人間と同じ年齢で考えれば50は超えているが精神年齢はセシルと大体同じだった。

外見も大体同じくらいの年に見える。

そのせいか二人は仲が良かった。


「・・・・ちなみに私は?」

「くっ、、、、ヒナねぇ」

「ふんっ!」

「ぐわああああああああああっ!」


だがそれとこれは話が別だった。


「ヒナ!ガルは『私の』弟分なんだからな!」

「俺はあんたのものじゃない」

「うるさい!」

「いだああああいっ!」

「懲りない奴・・・・セシルも少し落ち着け・・・お前がむきになればなるほどコイツもムキになるんだ」

「・・・・むうううううううううう」


セシルが頬を膨らませガタンと席に着く。

ヒナはそんな彼女を相変わらずだとほほえましく思いながら茶を淹れて彼女に渡した。


「・・・・ありがとう」

「焦らなくてもいい、、、随分覚えが良くなってる。」

「でも私にはガルに希望を与えた責任がある。だからどこに出しても笑われない騎士に早くしてあげなきゃ」

「・・・・・・・・あれ、騎士にすることだったっけ?王国を守るとかどうこうはどうした?」

「一緒に王国を守るにしても最低限土台を整えてあげなきゃいけないだろ?」

「・・・・・・随分入れ込んでるな」

「ヒナ、、、からかってるな?」

「どちらかというと悪い男に引っかかってるんじゃないかと心配してるんだ。」

「ヒナ」


同じ呼びかけながら有無を言わさぬ響き。

セシルとヒナ

ヒナの方が戦士としての強さは格段に強い。

血統の差がもろに出ていた・・・・にも関わらずヒナは目を逸らした。

セシルがカシャンと茶器を机に乱暴に置く。

カップから零れ出た茶がガルブレイクの必死の書き取りの山々にがしゃんと染み込んでいく。


「ガルは確かに・・・罪人と呼ばれるだけのことをしてきた。でも、あいつは優しい人間なんだ。」

「何で優しいと思った?」

「傲慢なエルフの貴族から人間の母子を庇った。十分だろ?」

「それはあいつの同情であって、、、あいつが善とは限らないんじゃないか?」

「・・・・・どういうことだ」


セシルが不快だと言わんばかりの表情で睨む。

ヒナはそんな彼女の様子に全く動じることもなく冷静に言葉を紡いだ。

目を一度逸らしたが正しいと信じるが故に彼女の方へ戻して。


「ガルブレイク・エルリングス・・・エルリングスの家は人間の貴族の家だがガルブレイクは当時の当主が気まぐれで使用人に手を出し産ませた子らしい。」

「!?」

「正妻の激しい苛めで母はすぐに死亡・・・そして自分を守る為に魔術の才能を開花させた。」

「それで・・・?」

「母の為に復讐を果たした、、、そして自分の境遇にほだされてあの時も行動しただけかもしれない。そしてそういう話は悪人でもありえることだ。いや、、、罪の数を考えれば悪人と考えた方が得心いく。」

「!?・・・・・・それでも・・・・・・・それでも私はガルを信じる」

「常識で考えろ、、、人を殺すことを生きるために選んできたんだぞ?人を殺すことで復讐を選んだんだぞ、当時たった十にも満たない子供が・・・・・何故悪でないといえる?」


ヒナはいずれ王国を担う。

だからこそ理論的で誰よりも冷静に考えられる。

猪突猛進に進みいつも人に自分を後押ししてもらって着た彼女にはヒナを納得させる言葉が見つからなかった。


「・・・・・・・・・」

「私が悪かった」


だけど涙目の目で訴えていた。

私は間違ってないと。

ヒナは彼女の今までを知っているが故、自分が言い過ぎていたことを認めた。


「ヒナも見てきたろ、、、ガルと戦って、、、ガルと今日まで話してきて、、、何で信じてあげられない」

「・・・・・・・・それはそうと」

「なんだ急に?」

「あいつどこ行った?」

「!?」


二人の目線はさっきまでガルブレイクがいた場所に。

そこには紙が1枚。

たどたどしい字で『遊びに行ってきます』と書かれてあった。


「ガル~~~~~~~!」


セシルの怒りの雄叫びが王宮中に響いた。






「おや、ヒナか」

「どうも、父上・・・・あいつ来てますか?」

「いや、、、、ガルブレイクは来てないけど?」

「では、、、、」

「待ちなさい、折角来たんだゆっくりしていきなさい。」

「でも、仕事中・・・」

「ただでさえ仕事で忙しいんだ、娘が訪ねてきて追い返すなんて寧ろ論外だよ!」

「あなたがいっつもほっつき回って書類仕事溜めなければ全然問題ない量なんですよ?・・・今日は缶詰め確定なので今のうちに家族の触れ合いを、ヒナ王女。」

「・・・・・はい」


ガルブレイクが逃げ込む場所は意外と少ない。

聖十剣達等王宮に駐在できる程の高官位の騎士のみが利用する訓練場と食堂。

後は光の勇者の執務室ぐらいだった。


「ガルブレイク・・・歴史を残しやすい良い名前ですね。あなたの名と張り合えるくらいの」

「ロン・・・君は優秀だが相変わらず歴史への偏愛が強すぎるね」

「歴史に直接関われなかったらこんな仕事の量と給料が釣り合わない仕事してませんよ」

「それもそうか・・・ヒナ、二代目勇者につける副官はこういう癖のあるのをつけちゃ駄目だよ」

「はあ・・・・」

「「ははははははははははは!」」


空気が一気に重くなる。

そして乾いた笑いが二つ響く。

一応仲は良いんだけど・・・・お互い皮肉屋なので譲らない。

光の勇者であり私の父のロイ、そして歴史家で書類処理能力に秀でていると宰相から推薦されたエルフのロン。


帝国との争いが絶え間なく罪の続くこの国を支えてきた二人である。

どちらが居なくなってもこの国は成り立たなくなると確信がどこかにあった。


「そういえばガルブレイクはどうだ?」

「正直経歴からは信じられない程普通です。若干生意気ですが」

「生意気なのは負けず嫌いの裏返しです。成長が楽しみですな。」

「ヒナ?」

「正直、あいつに関してはセシルと私では温度差があって・・・」


セシルが探しに行こうと言い出した時も正直乗り気ではなかった。

もし探した結果、何かとんでもない事をしているのを発見して・・・セシルが傷つくことになるかもしれないから

父はそんな私にゆっくりと語りかけてくる。


「ヒナがそういう役割を担ってあげてるから、セシルは優しくなれるんだよ?」

「そうでしょうか?」

「エルフにだけ優しくでもなく、人間にだけ優しくでもなく、種族を超えて王国民を守る優しさを虐げられてきた側のセシルが持てたのはヒナがセシルの心が折れないように守ってきた時間があったからだよ」

「正直私達は貴方達が優しくなれる土台作りしか出来ませんでしたしね」


父はヒナは凄いなぁとニマニマ笑い、ロンさんは尊敬の眼差しを向けてくる。

尊敬する2人にそう言われて悪い気はしないが、本当にそうなのだろうかと自信は持てなかった。

だってセシルはともかく、私自身はまだなにも形に残るようなものを残せていないから

だから私は返事を濁した。


「そうでしょうか・・・」

「・・・それでも迷うならガルブレイクと共に二人で分けることだ」

「本末転倒じゃないですか」

「彼もそれを望んでるみたいだけどね・・・一度話してみると良い。」

「父上、、、知ってたんですね?」


父が合図するや否や聖十剣のコリン・ハーネスが隠密魔術を解いて現れた。

彼女の本質能力は『魔里眼』

魔力でトレースした相手を物理限界を超えて眺め続けることが出来る。


「コリン、ガルブレイクは?」

「・・・・今終わったみたいです。」

「そうかい、、、彼には一度稽古をつけてあげないとな」


どうやらあいつのことを常に監視していたようだ。

父はコリンと二三言小声で話すと立ち上がった。


「せっかく遊びに来てもらって悪いけど今からセリの所に行かなきゃいけなくなった。」

「母上の所へ?」

「ちょっと先に話しとかないとまた誤解されちゃうだろうから・・・」

「?・・・分かりました、失礼します。」

「あ、ちょっと待って!」


立ち上がろうとしたら父は慌てて私を止める。

そしてコリンに声をかけた。


「ヒナが誤解するとまずいから先にヒナにも説明しといて!」

「分かりました」

「誤解?」

「じゃ、急ぐから!夕食は一緒に!急ぐぞロン!」

「やれやれ・・・・二代目候補は貴方同様騒がしい人ですね」


父はそう言ってロンさんを連れて部屋を出ていった。

あまりの急ぎっぷりにポカンとしているとくいくいと袖を引かれた。


「・・・・行きましょう」

「は、はい」


コリンさんは綺麗なエルフなのだが、いつも無表情で怖い。

彼女についていき王宮を歩くだけなのに、なぜかとても不安に陥る。

王宮内は私とコリンさんの権限なら父母の私室以外はどこへでも出入りできる。

しかしガルブレイクは許されていない。

今はまだ聖十剣見習いであり騎士職でない彼では入れない場所は沢山ある。


「・・・・どうして」

「戦闘が派手になり過ぎたようです」

「戦闘!?」


コリンさんが殆ど説明もなく急にとんでもないことを言いだす。

王宮で戦闘とか冗談だろう!?

本来王宮では勇者選定の儀の時以外は私闘含む戦闘行為は厳禁何だぞ!?

しかも限られた人間しか入れない場所でなんて・・・


「あいつは一体・・・・何をしてるんだ!」


誰が一番迷惑を被るか分かっているのかと吐き捨てるとコリンさんはいきなり歩を止めた。


「ガルブレイク君はそう簡単に牙を振るう人ではありません」

「!?」

「私も監視の中で気付きましたが寧ろ周囲に気を配り誰にでも優しくできる少年です。」

「・・・・・・」


コリンさんがここまで語る以上真実なのだろう。

だが、それでも・・・


「私は・・・・軽々しく人を攻撃できる人間を信用できない・・・・」

「なら何故牙を振るったか・・・・理由を聞いてみては?」

「ちょ!?」


コリンさんは私がようやく振り絞った言葉をあっさりと跳ね除けてさっさと歩き出した。

歩を進めていくと私ですらあまり立ち入らないかなりまずい場所に踏み入れていく。

王宮内の菜園だ。

王族の為に常に様々な薬草を育てる場所で医務官の中でも限られた人間しか立ち入ることを許されない場所。

木々で常におおわれ、光もあまりささない場所。


「あいつ、、、こんなところで・・・・」

「・・・・・・」


コリンさんは無言のまま道なき道を進んでいく。

『魔里眼』は凄いな・・・・木々で覆われた中でも確実にあいつを捉えているらしい。

血の匂いはするが人が動く音はしない。

人が生きている音がしない。

視界が木々に覆われていて少し先の様子が見えないからこそ不気味に感じた。


「・・・・・うっ」


酷い・・・・・視界が開けまず感じたのはそんな感情だった。

人間が転がっていた。

そして山が積み上げられていた。

まるでゴミの山のように適当に。

そしてなにより・・・・・彼らは王宮の近衛兵だった。


「あ、ヒナねぇ」


そして山のふもとでするすると塊を引きずっていた少年が血みどろの顔で振り向いた。

ガルブレイクだった・・・・・人を何人も殺したばかりだというのに全く気にした様子もなく。


「・・・・・お前」

「?」

「どういうつもりだ!」

「・・・・・なんか悪いことした?」

「お前、、、、」


思わず血が頭に上り、扇を呼び出し、振り降ろそうとした。

その瞬間コリンさんが前に立ち塞がった。

ガルブレイクはこくりと首を傾げる中、コリンさんはつたりと汗を流しながら彼を庇っていた。

ギリギリで何とか扇を止められた・・・・・危なかった。


「何をしてるんですか・・・・」

「落ち着いてください、ガルブレイクが殺したのは・・・・・聖女様に差し向けられた暗殺者たちです。」

「!?」


周囲の死体を目を凝らし確認する。

頭が混乱していたせいで気付けなかったが彼らの手には王宮では有り得ない毒塗りの刃物やら武器が握られ、近衛兵の格好こそしてはいたが顔は見たことがないエルフばかりだった。

・・・・・・・・何が起こっていたんだ、ここで・・・・


「エルフよりでも人間よりでもなく王国民として皆を大切にする・・・・・言うは簡単ですが今までエルフ優勢の中で甘い汁を啜って来た者達にとっては邪魔になるということです」

「・・・・セシル『さん』に殺気向けてた奴らがいたから追って来たらたくさんいたし殺しちゃったけど問題あったかな?」


ガルブレイクは当たり前のことをしたのにという言い方と表情で首を傾げる。

・・・・・・・・問題はある。

近衛兵の格好をしている以上ガルブレイクが近衛兵を殺したという容疑。

なによりこの菜園で戦闘行為をしたということ・・・・・

父が監視をつけていなければガルブレイクどころかセシルにまで責めは発生しただろう。


だが、もし・・・・・・・この偽近衛兵たちがセシルに何食わぬ顔で近づいて来ていたら?

その時我々は彼女を守れたか?

確実に守りきれたか?


「・・・・・・・・・・すまなかったな」

「・・・・・何で謝るんだ?」


私が頭を下げるとガルブレイクは返り血を浴びた顔をきょとんとさせた。


「お前が何の理由もなく人を殺すと思ってしまった。」

「人を殺すのは生きるためだったから・・・・・別にそう思われるような生き方してたし・・・・問題ない」

「そうか・・・・コリンもありがとう。お蔭でガルブレイクを勘違いで殺さずに済んだ」

「いえ・・・・・・」


コリンさんは首を振ってこう答える。


「私にできるのはここまでですから」

「・・・・・?」

「そういえばさ・・・」


何のことを言っているのかと眉をひそめた瞬間、ガルブレイクは急に口を開いた。

二人の視線を受けながら彼は自分でも不思議だと得物の血がこびりついた大鎖を見ながら口を開く。


「今まで殺すときは何も感じなかったのに、セシルさんを守るためにやってると思ったら不思議と変な気分になったんだ。」

「・・・・・・・・セシルを守るため?」

「ああ、、、、俺は学が無いからなんて言えばいいのか分かんないけど、あの人の為に戦うのはなんかほわほわって気分になる。」


彼はそう言ってにこっと笑った。

共感は出来ない・・・・・彼のような人生を歩んできたことはないから。

だけど彼と同じ感覚は知っている。

セシルの意思に沿って動いている間は自分は間違ってないと信じて進むことが出来る。


彼女はいつも正しく優しいから


だから今はまだ何も成してない自分でも自信を持って進めるし

彼女の為ならいくらでも戦えるし

彼女を守るためなら全て失っても構わないとさえ思える。


「そうか・・・お前もそうか」

「どうした、ヒナねえ」


今ようやく、、、、彼を信頼し優しくしてあげられると思えた。

まだ背の低い彼の頭を払うように撫でる。

彼の白髪はぼさぼさで全く手入れされておらず、、、血がこびりついて酷いことになっていた。

そんなんだから彼は体をゆすって嫌がるがそれでも撫で続けた。


まだ彼は幼いからそんな自分の気持ちに気付いていないのだろう。

自分が本当は殺したくなくてそれでも殺さなければ生きてこれなかったから殺しを普通のこととして心を閉ざしていることに。

セシルと会えたことでようやく自分の意思で選択でき始めているということに。

だから殺したことを肯定できる感情に初めてなれていることに。


今はまだ常識もなく不安定で未熟だ。

だがきちんと私たちが導けばこの少年は王国を守る立派な男になる。

そして私と一緒にセシルを守ってくれるだろう・・・・ガルブレイク本人は今は素直になれてないみたいだが言葉の端々にセシルへの好意がにじみ出ている。


「一緒に・・・セシルを守ってくれ」

「?・・・・当たり前だ」


ガルブレイクは何を言ってるんだという顔でそう答えた。

どういう展開でもきちんと章で区切るので少しだけお付き合いください!

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