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異世界でもう一人の俺が暴れすぎてキチガ○と呼ばれている件について  作者: 浅き夢見む氏
第五部:かつて交わした約束は曖昧なままで心に残る<王国編>
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第2章あなたの名前を聞かせてpart1

お見合いには二つの意味があると俺は考えている。

名家上流の方々の交流、、、、、そしてモテない男の救済手段としてだ。


見合いには紹介者による仲介が絡む。

つまり会ってしまえば人間関係が絡むが故に簡単には断りにくい、、、いや話が固まればほぼ断れないものだ。

かなりゲスイ考え方だが俺の最終的な手段・・・・そんなもんだと考えていた。

いつかはお世話になるかも・・・くらいに考えていた。


「まさか前者の方でとは・・・」

「何か言った?ぶつくさ言ってると正直気持ち悪いんだけど」

「・・・・ぐすっ」


朝顔以上に厳しい精神の刃をお持ちの俺を含めた三兄妹の叔母の如峰月桔梗さんが付添人として俺の隣に座っている。

俺とは違い普段から着ている彼女は俺よりも体にぴっちりと合った感じだった。

凄くじろじろ眺めまわしたかったが、心の刃を振り降ろされかねないのでやめておく。

一方俺が着ているのは店の人に一応サイズを測ってもらったはずなのに妙にぶかっとしていた。

スーツを初めて着る人は皆こうなるらしい・・・ほんとかよ。


「ほら、しゃんとする。」

「・・・・はあ」


桔梗さんがほら相手方が見えたからと俺を叱咤する。

だが、やる気なんて出るはずもない・・・

まだ俺は魔法使いではないし見合いにそこまで希望を託すほど追いつめられてる歳でもないし。

ホテルのロビーのソファ・・・星がつくほどの一流のホテルのロビー。

予約した席であるのか紙が机に貼り付けてあった。


ご予約

如峰月空木様

皐江月詩音様


相手が誰かもわからない・・・まあそれはいい。

何よりの問題は・・・俺、如峰月桜自身のお見合いではないということだ。






本当に久しぶりの帰宅だった。

取り敢えず諸々の問題はひとまず置いておいて久しぶりの家族での一時を楽しんだ。

その次の日のこと。


「・・・・・・くしゅっ」


女子かって

そんな小さなくしゃみを一つこなした俺は閉じ切った目蓋を少しずつ開いた。

朝顔は確か椿と一緒にスーザ先生の部屋にお持ち帰りされたから今日は起こしに来ないだろう。

枕元、、、正確にはクッション元でバイブ音が鳴っていた。

充電機に繋いだままのスマホからだった。


時刻を見れば既に十一時をまわっていた。

・・・・・・約束は確か二時だったっけか。

朝飯を食うには遅すぎて、昼飯を食うには早すぎる。

ああ、もういいか水だけで。


「あ゛、あ゛、、、、あ゛」


のっそりとこたつから這い出た。

喉の渇き具合がヤバすぎて、脱水気味だ。

やっぱりこたつで寝るのは体に良くないらしい・・・熟睡は出来るんだがな。

何でわざわざリビングで寝てるかというと可愛い可愛い我が妹の朝顔氏に俺の部屋の家具を全て売っぱらわれたからである。


俺がほぼ悪いから仕方ないとはいえ俺の『部屋』くらいは残してほしかった。

・・・何があったかはご想像にお任せする。

だが、、、、、、名状しがたいことになっていたとだけ言っておく。


「・・・・・・・・・そいえば」


伊月が夜遅くに帰って来た。

伊月家の方に用事があるとか言ってたがえらく時間が掛かったようだ。

帰ってきた伊月はどことなくぼうっとしていたのを覚えている。

椿が同じ部屋になるから狭くなるぞと伝えたのに、ああと生半可な返事をするだけだった。


家にいられない間彼女の様子が徐々におかしくなっているのを感じていた。

そろそろもう一度話し合う必要があるだろう。

冷たい水をぐいっと飲み干しながらそう思った。


「おはよう」

「・・・伊月、ちょうど良かった」


今日は祝日だから学校は休みだ。

冬休みが近いんだから休みなんてなくても良い気もするが、ガッツリ寝れるんだしそれはそれでいいと思う気もする。

ちなみに生徒会も新聞部もこれと言って仕事がない・・・桔梗さんが持ち込んだ厄介ごとさえなければ一日中寝ていただろう。

伊月は・・・そんな時でもトレーニングを欠かさない。


「なんか飲むか?」

「ああ」


冷蔵庫に入っていた緑茶のペットボトルを放ってやる。

強めに投げてしまってしまったが伊月は難なくそれを受け取りぐいっと飲み干した。


「・・・結構オーバーワークになってないか?」

「そうかな?」


どうやら疲れとかのせいじゃなさそうだ。

伊月自身が成長してるせいかある程度の量なら苦も無くこなせるようになってるのか。

・・・・・・・今、夏休みの時みたいなことが起これば今度こそ死ぬかもしれない。

情報を得ねば!


「あのぅ、、、伊月さん?」

「・・・・・うげ」


俺がせっかく歩み寄ろうとしたのに伊月は凄く嫌そうな顔して後ずさった。


「えぇ・・・何でそんな嫌そうな顔なんよ」

「お前がそういう口調と顔で話しかけてくるときは碌なことが起きないと白凪さんが言っていた」

「あんにゃろ・・・・・」


伊月はガチで警戒してるのかすぐに俺を殴れるように少し腰を低めに構える。

・・・・そんなに警戒するようなことしましたか!?

これ以上詮索すると間違いなく俺の心を壊されることだけは間違いないので話題を変えとこう。

とはいえ早々話題を思いつけるほど饒舌でもないんだが、、、、


「あ、そういや昨日は何の用件だったんだ?」

「・・・想像とは違ったがろくでも無いことだったな」

「ご・め・ん・ねッ!!!」

「まあいい・・・いずれ分かることだしな」


伊月はそういうとシャワーで湿った頭をぽんぽんタオルで叩きながらソファに座った。

座れってか?

相対するように向かいのソファに座る。


「で、、、何があった?」

「笑うなよ?」

「笑うな?、、、伊月家で何があったん?」

「正確には兄様にな・・・」

「伊月兄、、、矯正施設から脱走して行方不明とか?」

「その方がまだマシだったよ」


伊月はそう言うと、溜め息をこぼす。

かなり離れているはずなのにふわっと石鹸の香りが香ってくる。

シャンプーの香りなのだろうがまるで伊月の吐息がその香りのように錯覚してしまう。


濡れ姿といいジャージ姿のくせにどうしてこう色気があるのか・・・

そろそろ追い出さないと間違いが起きそうだ。

・・・・ま、そんなことより


「如峰月?」

「お、おお、、、で聞かせてくれよ。あの後どうなったんだ?」

「ああ、、、美織さんに強制されたせいで記憶と人格が狂ってな」

「へえ・・・それは大変だった・・・は?」


一瞬異世界かここはと辺りを見渡したが残念ながらマイホームだった。

聞き返す必要はない。

きちんと伊月の口から『藤堂勝海の記憶と人格が狂った』と伝えられ脳はそれを処理した。

・・・異世界ならまあ分かる。

だが、、、、ここは現実だぞ。

んなドラマみたいなことがパンパン起きてたまるか!


「何があったらそうなる・・・・・てかマジか!?」

「・・・・・どうせ面白がってるくせに」

「いやあ、、、寧ろ引いてるかなあ・・・」

「それはそれで傷つくな、、、ふふふ」


伊月は俺に笑顔を向ける。

・・・・どこか余裕がある笑いだった。

いやいや、何で笑えるの!?

伊月さんいろいろあっておかしくなっちゃった!?

君は鷺ノ宮生徒会唯一の常識人扱いなんだから勘弁してよね・・・・あ、俺が常識人じゃないと自分で認めてしまった!?


混乱する俺の前で当の本人はどこか遠い場所で起こった話をする。

・・・そう錯覚するぐらい淡々と語る。

口元を少し緩ませて、のんびりと。


「始まりは美織さんが卯生月の婿にふさわしいように強引に修行を積ませたらしいんだがその際中に脱走したんだ」

「さもありなんだな」


卯生月家は武道の家

一方藤堂勝海はエリート引きこもり

修行がどんなもんかは知らんが逃げ出すに決まっている。


「で、、、逃げてる途中でパソコン抱えたまま滝から落ちたらしい」

「どこでどんな修行させられてたんだよ!?」

「で、捕まって・・・」

「捕まって?」

「その後にいろいろあって記憶を失った」

「滝から落ちたのは理由じゃないんかい!」


結局卯生月美織が原因じゃねえか。

もうあの藤堂勝海に会えないと思うと故人を偲ぶ的な気分になる。

・・・・・・てか病院に行かなければならんレベルだろうが。


「久しぶりに会ったら『初めまして伊月家のお嬢様、私卯生月家の侍従の勝海と申します』だぞ・・・」

「侍従ぅ?・・・執事的なやつか?」

「そうだ、、、どうやら兄様の中では自分は幼いころから卯生月家で美織さんの側付きとなるために育てられたことになっているらしい」

「えぇ・・・」

「しかも、卯生月家の養子扱いだから美織さんとは結婚できん設定らしい」

「え・・・美織さんくたびれ損じゃん」

「ざまあみろだよ・・・人の兄を何だと思ってる」


伊月はフンと鼻を鳴らす。

伊月は遺憾に思ってるようだが、伊月家は引きこもりでさえなければいいらしい。

要するに放っておこう・・・らしい。


「母様も適当だし・・・・ま、時間に任せるつもりだ」

「そ、そうか・・・・」


もし俺が『初めまして如峰月家のお嬢様方、私朝日奈家の侍従の桜と申します』とか妹たちにほざきでもしたらどうなるか・・・・

上の妹には溜め息つかれ、下の妹には鉄拳、、、いや鉄脚を喰らわされるだろう。

寛容なことだ・・・・・・・・


「笑ってもいいんだぞ?私ですらなんか笑いたくなってるし・・・・」

「いやあ、、、、限度があるだろ」


何も知らない赤の他人が聞きでもすれば腹抱えて笑うだろうが

伊月とも伊月兄ともある程度親しい付き合いしてるので流石に笑えん。


「てか、伊月も変わったな」

「・・・ん?」

「いや、、、、伊月は剣で語り合って記憶を呼び覚ましてやるとか言いだすと思ってたが時間に任せるだなんて」

「そういえば・・・・そうだな・・・・」


伊月は俺の言葉を噛みしめながら少し考え込む。

そして顔を上げた。

少しだけ微笑み、、、そして少しだけ俺に考えさせる含みを持たせて、、、悪戯気な表情をみせた。

その時初めて、、、いつもは騒がしいとすら思ってた彼女が大人の女性に見えた。


「私もいちおう女だからな・・・心は変わりゆくものさ」

「・・・・なるほどねえ」


随分と余裕がある・・・

まるで昨日の彼女と今日の彼女とでは別人かのように

剣、剣言ってた彼女が成長したのは本当に女だからだろうか?


何か大きな出来事が起きたのか

本当に気まぐれか

病気にでもかかったか


残念ながら判断するには情報が足りなかった。






約束の時間になったので待ち合わせの場所の黄海市市役所に電車を使ってやって来た。

クソ寒くて涙目になるが桔梗さんを待たせるわけにはいかないので急ぎ足で市役所に。

十分前には辿り着いたはずなのに遅いというメールが届いていた。


「・・・・あ、役所じゃないのね」


待ち合わせは役所かと思ったが桔梗さんは一応政治家。

役所から出たのでは目立つのだろう。

メールで改めて指定された場所は近くのカフェだった。

チェーン店ではなく、手ごろな値段ではない高校生では二の足を踏むくらいの。

・・・・・ジャージで来るんじゃなかった。


「いらっしゃいま・・・・?」

「・・・・・・待たせてる人がいるはずなんですが」


店の扉を開けると店員が『ま』の口のまま固まっていた。

ま、どう見えても客には見えんわな。

桔梗さんの名前を伝えるとああと店員は得心した顔で案内してくれた。


「ふぉふぉはっわね」

「せいぜい五、六分でしょ?」

「『わふぁひ』のふぉ、おっふんね」

「・・・・・気をつけますよ」


パソコンをカタカタさせたまま彼女はサンドイッチを咥えたままの口をもごもごしていた。

行儀悪いなと思いながら席に着くと片手がキーボードから一瞬離れたかと思ったら俺の方へメニューが滑らされてきた。


「ふふぉふぉうわよ」

「どうもっす」


奢ってくれるらしい。

昼飯は食わないことに決めていたのでココアと軽食としてサンドイッチを注文した。

両方とも時間が掛かるものではないのですぐに来た。


「ふぃんほうふはいものを」

「庶民の味なんすよ・・・本当はコーヒー牛乳が飲みたいぐらいですし。第一食いながら喋ってる桔梗さんも貧乏くさいです」

「もむもむ・・・ごくん。子供舌に言われたくないわね」

「へいへい・・・・苦ぇ。」


大人のココアだったみたいだ。

カカオ多めとかポリフェノール多めとか余計なことしたんじゃないだろうな・・・

勝ち誇る桔梗さんの顔を出来るだけ見ないようにしながらサンドイッチを摘まむ。

・・・・・・うめえじゃん。


「舌は肥やしときなさい。いずれ役に立つときが来るから」

「・・・・・・うす」


大人の世界で?

それとも桔梗さんが戦ってる世界で?

若しくは如峰月家で?


答えが聞きたくなかったから返事は簡潔にとどめた。

桔梗さんもそれ以上つっこむことはしなかった。

桔梗さんは仕事合間にほつほつと摘まみ、俺はちびちび齧った。

・・・値段に釣り合った味かもしれない。

凄く美味かった

でも、一皿四千円はぼったくりだと思う。


「さて、、、」

「?」


俺と桔梗さんの皿が空になり眉をしかめながらココアをようやく空にしたころ(とてもじゃないが残して帰れるお値段じゃなかった)、桔梗さんはノートパソコンを脇に抱え立ち上がった。


「そろそろ行くけど・・・適当に服を仕入れなきゃね」

「えぇ?」

「別に敵を作りに行きたいなら構わないけど?」

「・・・・・はあ」


如峰月家に呼び出されたらしい。

見合いがどうとか俺を借りたいとか・・・桔梗さんも正確なことは分かってないらしい。

ただ・・・呼ばれたからには行かないといけないらしい。

やっぱりうさんくせえ。


桔梗さんには恩がある。

そしてこれからもせめて俺が生計をたてれるようになるまではお世話にならないといけない。

てか桔梗さん自身がそうすると決めたからには俺が高校辞めて生計を・・・みたいなことは許さないだろう。

てなわけで、桔梗さんに迷惑かけないために如峰月家の呼び出しは断れない。


カフェから二人して出るとそこには一台の車が停まっていた。

一見普通の大型乗用車だった。

窓にはスモークガラスが張り巡らされた。

だが、、、中は明らかに違っていた。


「お父さんは何で逃げ出したんだ?ここまで恵まれてて・・・」

「さあね」


シートから何まで大改造されてるのか?

外見からは考えられないくらいの大改装だ。

冷蔵庫的なモノはないが席はかなりのものだし、空気は丁寧に香りづけされている。


・・・・・・本物の金持ちは賢い。

金持ちであることを理解して、それを周囲から隠す。

どうやら金だけ持った成金じゃないな。

古くから生き知恵を持つ鷹・・・いや(うぐいす)か。

家紋を示す鶯が小さくグラスに彫られていた。


随分可愛いと思って手を出せば肉を引き千切る。

溜め込んだ餌は誰かの血肉。

見た目とは裏腹にその腹は黒い。

そしてその血脈は延々と種を紡いでいく・・・・


「・・・だからかねえ」


そういうのがお父さんは嫌になったんだろう。

俺も嫌だよ。



ふと気づけば夕方になってた。

普段の桔梗さんならこんなに時間を奪われるだなんてとブチ切れるところだが不思議と黙ったままだった。

眠りもしなければ、しゃべりもしない。

ただ偶に思い出したかのようにジッポの火をカチリカチリとつけては消してはを繰り返していた。

俺はスマホを弄っていた・・・誰かと連絡を取る気分じゃなかったのでなろう小説を延々と読み続けていた。

県をいくつ越えた?

日間ランキングの一位から五位まで、、、第一話から最新話までを読み切ったぐらいの時間は経った。

二度と来る気もないから外は見ていない・・・高速道路を結構な速さで走ってた。


「そろそろよ」

「・・・頭が痛い・・・気持ち悪い・・・首が痛い」

「ずっと小説なんて読んでるからよ」

「ネクタイ苦しい・・・スーツ体にあってない・・・」


色々理由をつけて行かなければならないのかと暗示で聞いてみたが、桔梗さんは答えるまでもないと目で示してた。

竹林の中を車が走る。

標識もないのに整路はされている。


雪の中でもお構いなしに静かにそれでいて早く目的地に進んでいく。

そういや、、、運転手とは一言も話してなかったな。

雪道を何時間もそれもここまで完璧な運転してくれたんだ。

礼くらい言っとこう。


「快適な運転でした」

「!?」


壮齢の男性運転手はびくりと肩を上下させると、ミラー越しにに顔を伏せながら一礼した。

桔梗さんはそんな俺に呆れたと言う。


「当たり前でしょ?仮にも如峰月家の運転手なんだから」

「いや、どんだけだよ如峰月家」

「着きました」


低い声が響く。

いつの間にか停車していた。

ぼうっとしてたわけではないのにブレーキに気づかなかった。


「行くわよ」

「・・・はい」


ついていけない。

何から何まで別世界過ぎる。

桔梗さんはこんな世界で生きていながら、よく俺達みたいな泥臭い者達と会話できるな。

・・・正直俗世からかけ離れた場所に来た気分だ。


体に合わないスーツ

育ってきた環境

臭い、容姿まで全て受け入れられてない気分になる。


雪化粧により白く染まった竹林。

その中心には屋敷が一軒建っていた。

山梨家より二周りほど小さい。

・・・が、あそこの屋敷が広いのは人を多く収容するためだ。

選ばれた人だけ住むならば広さばいらない。

ただ格式と風靡があれば良い。


古い伝統屋敷かと思ったが、壁の白塗りは少しもハゲが見つからない。

所々木材が使われているが細工は綻びなく、湿気で色が変色している部分も見られない。

定期的に手入れする財政的余裕があるのだろう。


桔梗さんは車から先に降りると迷うことなく門の前に立つ。

それから蝶番を大きく数回に渡って叩きつけた。

1分も待たないうちに小門が開く。


「どうぞ」


伊月兄に教えてやりたい。

本当の名家の使用人は自己主張しないのだと

笑みを浮かべてはいるし、鬱屈してるとかマイナスイメージを持つことはない。


だが、使用人の後ろ姿を追いかけながらこんなことに気付く。

この使用人に抱く印象が『流石如峰月だ、使用人への教育が行き届いている・・・』であって、美人だとかどんな顔だったかとかどんな風な外見だったかは全く記憶に残ってなかったことに


「桔梗お嬢様と・・・ご子息様がいらっしゃいました」


広い広い廊下を歩かされ、通されたのは屋敷の奥


「通せ」


声が通る。

使用人がその声を聞いて襖を開く。

鶯の掛け軸が掛けられた書斎。

パソコンやTVはないが、書籍は洋丁のもの。

どこか明治や昭和、、、そんなものを感じさせた。


「よく来た」

「お久しぶりです、お父様」


名前だけは桔梗さんから聞いていた。

如峰月水仙。

如峰月家の家長で、、、お父さんのお父さん。


「君が、、、か。」

「どうも」


桔梗さんの隣で取り敢えず同じように床に正座し取り敢えず同じように一礼する。

・・・家族に対して正座しなきゃいけない

そんな家はく・そ・く・ら・え


寡黙な様子はガルブレイクに近い。

けども彼はシノンに対してこんな態度は求めないだろう。

彼らはなんだかんだで家族だ。


けども、、、、目の前にいる男性は俺達の態度を常然として受け入れる。


さっきの使用人と同じだ。

家に帰ってみればどうせこの男の印象は二つしか残ってないだろう。


『流石如峰月家の家長、、、凄い覇気だった』

『本来六十を超えてるのにそうは見えない』


他に何も残らないし無理にこれ以上頭に入れておく必要もない。





「これは如峰月から君への仕事の斡旋と捉えていただいて結構」

「仕事?」


熱い緑茶と茶うけの菓子が三人分。

そして壮麗の男性と美女とNPC。

如峰月水仙が机の向こう側から手渡してきたのは大きな背開きの白の冊子。

見るからに高価そうな白の冊子を開くとそこには着物を着た一人の少女が映っていた。


「ああ、、、お見合い写真。」


記憶にとどめておく必要もないか・・・取り敢えず良家のお嬢様って感じ。

ついでに言えば見合い相手としてある程度想像してたよりは顔は可愛い。

ま、、、写真なんていくらでも加工できる時代だ。

どうでもいい。


「君には如峰月空木として、彼女に一度だけ会ってもらいたい」

「如峰月・・・・空木?」


誰それ?

桔梗さんの方をちらりと見るといつもならめんどくさいと突っ撥ねられるのに丁寧に説明してくれた。


「兄様の一人息子・・・アンタの従兄ね。」

「そんなの実在してたんすか?」

「私もそんなに会わないし・・・」

「へえ」

「ちなみに空木の写真だ」


如峰月水仙はひざ元からさらに一枚のお見合い写真を差し出してくる。

確認すると・・・まあ、何とか偽れるかと思えるくらいには顔も体格も似ていた。

・・・・・・・写真の奴の方が美形だが。


「で、、、この如峰月空木さんはどこに?」

「家出だ」

「・・・・・・・」

「驚かないのか?」

「さもあ・・・・いでっ!」


喋ろうとしたら桔梗さんに水仙からは見えない絶妙な位置で抓られていた。

目だけで余計なことを言うなと圧を掛けられていた。

・・・・はいはい。


「もう大体わかってると思うが空木を見つけ出すまでの間、空木になって欲しい。残念ながら如峰月家の人間で空木になれそうな者は君しかいないのだ。」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」


桔梗さんがチラッとこちらを見た。

その目は彼女にしては珍しく心配してるみたいだった・

・・・・心配しなくても断りやしないよ。

俺だってもう子供じゃない。

相手がいくら憎いからって大事な人を守るためなら土下座くらいする。


「分かりました」

「なら頼む」


如峰月水仙が俺の言葉に満足げに頷く。

多分この男の中では例え勘当しようが如峰月の血が流れているのだから、如峰月の為に働くのは当然とでも思っているのか?

いや、、、、それが当たり前なのだろう。

ああ・・・・・・・そんな当たり前ぶっ壊してしまいたい・・・・?


「・・・・・・・」

「・・・・・・・」


桔梗さんが水仙に見えない場所で俺の手を握っていた。

・・・いつの間にか手汗でびっしょりになってて・・・桔梗さんも彼女には似合わずびっしょりと手汗をかいていた。

・・・・・・・・大丈夫だよ、桔梗さん。

彼女の優しい手をゆっくりと振りほどき首を傾げた。

そして彼女を見ぬまま前を向いた。


「話が纏まったところで、そろそろ報酬と具体的な仕事の話に入りましょう」

「・・・・・・ッ!」

「いいだろう」


これは仕事だ。

報酬をもらってその代りに働く。

封建社会だよ、封建社会。

家族の為に働かなくていい・・・・勿論失敗しても報酬をもらえないくらいの損。


勿論明らかなミスはしないさ。

自分が空木じゃないとかばれたりなんて絶対しない・・・報酬が絡むんだし。

程々に適当に

努力義務はまもらせてもらおう。


失敗してもダメージが無い・・・・誰かの損益を与えてしまったと後悔しなくていいんだ。

なんて楽な仕事を回してもらえたんだろう。


でも


この仕事が成功しても精神誠意を尽くしてないから達成感は得られないだろう。


何より成功して喜ぶ者達の笑顔を見て反吐しか湧かないだろう。


家族の為に大事な人の為に動けるって

そしてその人たちの笑顔を見ることが出来る

それってすごいことだし、幸せなことだったんだな・・・・


自分がいかに恵まれてたかを今更ながら痛感した。

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