第1章持つ者と持たざる者part4
四パートで納まりやした。
気づけば指が凍っていた。
魔術が甘かったのか黒雲の壁に穴が開いていた。
そこから強烈な寒風が吹きこみ一瞬で皮膚を凍らせていた。
「マスター!」
「・・・『曇靭紐≪クラウド・ワイヤー≫』」
雲の紐が穴へと奔り、織り込まれ、埋めていく。
少しずつ少しずつ少しずつ、、、密度を上げ、、、隙間を失くす。
強烈な吹雪風が押し圧けようとして来るのを必死で魔力を押し込むことで対抗する。
体は既に感覚がおかしい・・・でもここで倒れてはいけないことだけは分かっていた。
「・・・わりぃ、気が緩んでた」
「いえ、、、私もぼうっとしてました。」
黒雲の壁が二つ
俺達の側方を覆い一本の道を作っていた。
ツバキと二人雪山を登るために十全な装備はしてきたはずだった。
しかしそれでも・・・・冬の高山はとんでもなかった。
風が吹くたびに体の芯から凍らされ、風の強さで吹き飛ばされそうになる。
雲の壁を進行ルートに張り巡らせたは良いものの次は降雪の重りがのしかかる。
ばっさばっさと鈍りのように体に積もる雪の塊
それはのけてものけてもきりがない。
「・・・ここらで一旦休もう」
「そうですね」
俺達パーティーの中でも随一の体力を誇るツバキもどこか憔悴気味だ。
身体的な負担ももちろんだが精神的な負担も大きいのだろう。
俺は常に周囲に『曇感知≪サーチ≫』を張り巡らせてるから今が大体どこらへんかを把握しているが、彼女にはそれが出来ない。
吹雪で一メートル先も怪しい中、どれだけ進んだかもわからずに雪道を延々と進むのはあまりにも辛いだろう。
「・・・ドーム状となれ『曇の壁≪ウォール≫』」
黒雲を張り巡らせ下にも敷き詰め即席のかまくらを造る。
熱もある程度防ぐ黒雲は当然冷気も防ぐ。
魔力温存のためそんなに広くはないサイズだが、、、屋根があり寝転がれるだけでほっとする。
「「ふはあああっ・・・・・」」
二人揃ってため息交じりに荷物を放り投げ、倒れ込むように黒雲の上に転がる。
桜が気を使ってくれたのか顕現してくれ俺達の上着にこびりつく大量の雪を払ってくれる。
ツバキも俺も正直そんなこと気にしないぐらい疲労が溜まってしまっていた。
「雪山舐めてた・・・まだ全体の三分の一も進んでない」
「ついさっきまで暖かい暖炉の前で絵を描いていたのに・・・」
「相当疲れてるな・・・取り敢えず二人ともなんか食っとこうか」
桜はそういうとバッグを開いて水筒やら何やらを取り出し始めた。
「凍ってないか?」
「幸運なことにそういうのを防ぐ加工がきちんとされてる・・・これなら簡単な料理がすぐに出来る」
「まじか、、、アンナのやつ相当いいもの用意してくれたのな」
このドームの外は風一吹きで指先が凍るほどの気候なのに荷物類は殆ど無事らしい。
流石常時雪国とまで言われる魔国の魔道具だ。
王国製の魔道具ならこうはいかなかっただろう。
「・・・ただ溜魔石ついてないから調理に使う魔力は自前だ。」
「そっか、、、、背に腹は代えられないな」
ここでしっかり疲れを取っておくか、魔力を温存するか
正直魔術がなければとてもじゃないが進めない道のりであるし、本来の目的は特級モンスターの討伐。
逡巡するが休息を優先した。
桜がそっちの方がいいと頷き、コンロ型の魔道具を起動させる。
調理に使う分には余剰分の熱が密閉されたドーム状に充満しようやく人心地つけるようになる。
組み立て式の鍋に乾燥粉末を入れた即席スープが出来るまで、、、俺は周囲を出来るだけ探ることに専念しよう。
吹雪に隠れ狙撃する『雪崩の狩人』
空から目的地に向かえばこんな苦労はしなくて良かっただろうが高山病が怖い。
最悪死ぬ可能性があるんだから徐々に慣らしていかないと・・・・
それに高速で飛んでたらターゲットを見つけられないし、狙撃される恐れもある。
ま、どちらにしてもそもそもターゲットから狙われない限り発見は難しいだろうから狙われやすい場所にいた方がいいか?
山全体はとてもじゃないが俺と桜の魔力を出しきっても到底覆える表面積ではなく、道確保や戦闘分さらには休息用の魔力配分を考えるとさらに探索範囲は狭まる。
『曇脈展開≪クラウド・アクセス≫』使えば全然問題ないけど・・・・それも別の原因から不採用。
「せめてアリアがいれば・・・・」
彼女ならもっと効率よく雲を展開できるだろう。
網以外の方法で『雪崩の狩人』を捉えることだってできるだろう。
もう何か月も音沙汰ないがどこで何をしているのやら・・・・・
「もう『曇脈展開≪クラウド・アクセス≫』使いませんか?」
「それは・・・・」
あれを使えば俺の精神は高揚する・・・おそらく俺が地震を起こして山下の街にまで悪影響を起こすほどの雪崩を起こしてしまうかも・・・・
そんなことになっては勇者の資格剥奪とかなりかねん。
ただでさえマイナスが多いのに自分から更に危険に突っ込まなくてもいいだろう。
『曇脈展開≪クラウド・アクセス≫』を使うのは『雪崩の狩人』と戦う時だけ、、、それも出来る限り素早く片づけないと・・・
「最終手段だな・・・・まだ早い」
「やっぱりそうですよね・・・・・・ふう」
「ま、、、今は休め」
「「おお!」」
桜が乾燥粉末を溶かしたスープを手渡してくる。
暖かいってだけでありがたいのに、匂いがよくて涙が出そうだ。
かじかむ指で器を持ったら熱く感じすぎて落としそうになる。
床に器を置き折り畳みスプーンで一口掬い、、、飲む。
「くっはあああああ・・・・心臓まで熱が届くぜ」
「幸せです・・・・ありがとうございます兄様」
「ただのコーンスープで大袈裟だろ、二人とも」
因みに異世界産のコーンなので、色は少々ぐろい。
でも、美味いんだ・・・・これが。
体に流動する熱い栄養素が巡り、、、体全身が喜んでいる。
ツバキも俺も『炎衣』等で万全と言っていいはずの冬山装備を整えてきたが、やっぱりこういうスープとか食事をとると疲れていたんだなと思い知らされる。
「吹雪がおさまるか分からないが今日はもう休んで様子見るか?」
「やむをえませんね・・・」
「じゃ、俺は魔力温存しとくし後はガンバな」
「悪い、、、助かった」
あっちはあっちで大変だろうに桜は笑顔で大丈夫だと答えて消えていった。
ツバキがサクラの消えた先を恨めしそうに見つめる
「私も兄様みたいに消えられればいいのに・・・」
「それされると俺心折れるわ・・・」
流石に登頂開始時ならそれぐらい気にはしなかっただろうが、ここまで昇って来れたのは共に昇る人がいたからだ。
ツバキはくすっと俺の顔を見て笑う。
「冗談ですよ、こんなに辛いことをマスター一人にさせるわけにはいきません」
「・・・お前が俺の本質能力扱いじゃなくて一個人だったら嫁にしたいね、マジで」
「まったく、、、マスターはやはりマスターです」
共感というのだろうかなんというか
俺とツバキはベースが同じであるせいか気持ちが通じやすい
こんなに辛い苦行を共にさせることに対しての罪悪感とかがまったく感じないかといえば嘘になるが、他の仲間だったら絶対に連れてこなかっただろうという確信が持てる。
やっぱりツバキは他の仲間とはすこし違うんだなと再認識できた。
「・・・寝るか」
「そうですね」
あまりコストは良くないが自動的に雲を維持する魔術式を組み寝袋の中に潜り込む。
雪山で寝るなんて本来自殺行為だが、『炎衣』の熱効果でドーム全体が少し汗ばむくらいの温度になっている。
それだけじゃない・・・ツバキもいる。
暖房器具の力もあるだろうがこの暖かさは人が近くにいるからこそ感じ取れる暖かさだと思う。
翌朝
吹雪がある程度おさまり雲の壁を吹雪風対策に張る必要がなくなった。
休息も少ない回数で済み、俺もツバキも登頂に集中できるように。
何より今まで魔術頼りだった進路確認が視界で行えるのは有り難い。
雪が混じらないだけで風が少しマシに感じる。
日光が少し差しているお蔭か随分と高度を上げてきているのにまだ氷点下に達していない。
時には椿の『バトルブーツ』の飛翔効果で時には、俺の黒雲の足場で
崩された道を越えて先へ先へ
本当の雲を越える際に水浸しになり本気で肝が冷えたり
空気が薄くなっているせいか頭がくらくらしたり
平地では考えられないような特殊な生物を焼いて喰らったり
何でもあり、いつも暖かく、暮らしやすい
平地のありがたみをここまできてようやく思い知らされる。
水一杯が貴重な世界とか正直なかなか経験できない。
「・・・・見ろよ」
「随分遠くまで来ましたね」
雲に切れ目が走っていた。
そこから王都が小さく見えていた。
あそこに残した彼女は一体どうしているだろうか・・・・
怒っていないといいが
サクラが雪山攻略を始めてから三日。
「・・・・・・・・・・・・」
『黒の勇者』サクラ=レイディウス
まだ、勇者召喚の儀が終了してないので正確には(仮)がつく。
サクラがそれを聞けばガール○レンド(仮)とか絶空○界(仮)とかゲーム制作部(仮)とか(仮)付け最近流行ってるから主人公的に素晴らしいじゃないかとかほざくことだろう。
が、、、既に確定した事象と言っていい。
黒髪黒眼という異世界では珍しい風貌に黒雲を操る謎の魔術
それを評した『黒の勇者』という称号は既に王国だけでなく近隣にまで届いている
数か月後、、、『黒の勇者』といえばキチガイという情報まで出回るようになるのだが今はまだ『黒の勇者』が王国で誕生したことだけが伝えられている。
だから『黒の勇者』がキチガイであることを知っているのは今はまだ王国の中枢部と彼の仲間達だけ。
そして彼のことを本当に理解しているという条件をつけるならばその数は更に激減する。
今、ふくれっ面で王宮の医務室のベッドでふて寝している青髪の少女はその数少ない人々の一人に数えられる。
「サクラめ・・・」
「黒の勇者様(?)、、、にそんな口聞いちゃ駄目だよ?」
本来敬語をつけるべき相手だが相手が相手なのでどこか疑問口調になったサニアがシノンが寝ているベッドに肘をつきプラプラ足を遊ばせていた。
彼女とシノンを会わせるのは前科があるため本来は有り得ない。
だが、黒の勇者が文字通り命を人質に掛けている為に彼女と彼女はゆっくりと談笑できるようになっていた。
「誰が頼んだ・・・人質になってくれって・・・しかも特級モンスターをツバキとたった二人で」
「おにいさん変わらないね~」
「サニアは、、、悔しくないのか?」
サニアは特に激しい感情は込めず、にこにこしながらシノンの愚痴に返事をする。
ふくれっ面のままシノンは体を半分起こす。
サニアはきょとんとした顔で首を傾げた。
「何で?」
「何でって・・・私たちの為だとか言ってまた無茶をしてるんだぞ・・・」
「う~ん、、、そうだなあ・・・」
サニアは難しい顔で少し悩んでいたがああと手を叩いた。
「約束守ってもらってるからだ!」
「約束、、、?」
「シノンを大切にしてって約束。」
「約束、、、、」
それを聞いてさらにふくれっ面になるシノン。
そんな彼女を差し置いてサニアは少し頬を紅く染めはにかむ。
「だからかあ、、、おにいさんがい、、、いろいろしてきたのに今はそんなに怒ってないんだよねえ。シノンと私がほぼ昔みたいに王国にいれるのは間違いなくお兄さんのお蔭だし?」
「・・・サニアはいいな」
「どうしたの?」
「サニアとサクラの約束は守ってもらってるのに私との約束は守ってもらってない。」
「・・・確かお互い大事にしあう的な約束だったっけ?」
「・・・・・・・・・・大体はそんな約束だった気がする」
「シノンも曖昧じゃん」
「でも約束を守ってもらってないことだけは分かってる・・・・何であいつは一人で無茶をするんだ・・・何で私を連れていってくれないんだ・・・」
なんだかんだで連れてったもらえなかったこと怒ってるんだ・・・・
サニアは相変わらず口下手で頑固な姉の頭を優しく撫でた。
「相棒だったっけ・・・ツバキお姉さんだけ連れてかれて悔しかった?」
「・・・」
シノンは無言のまま首を縦に振った。
そっかあとサニアはきゅっとシノンを抱きしめる。
・・・どちらが姉役でどちらが妹役だったのか
今ではもうわからない。
「サクラのことが心配なんだ・・・私があいつの分まであいつを大事にしないと・・・あいつは自分を大事にしないから・・・絶対にどこかで自分自身を壊す。」
「シノン・・・」
「相棒だって言ってくれたのに、、、何で黙って置いてくんだ・・・」
「し~の~ん~~~~~?」
サニアはくいっと彼女の顔を横に向かせる。
「そうやって溜め込むのはいいけどもう他の人に八つ当たりしちゃだめだからね?」
「・・・・・・・・・・・・分かってる」
「分かってるで済むか!?」
トツカがボロボロで病室のベッドに転がされていた。
サクラが黙って逃げ出し、しかも特級モンスター討伐に行ったことを知ったシノンは大暴れ。
王宮の人間が気づく前にトツカが止めに入ったから大事には至らなかっもののトツカはかなりの被害を受けていた。
「俺の扱い酷くない!?」
「すまない・・・今は気がたってるんだ・・・」
「ひいっ!?」
「・・・・・シノンはしばらく会えなかったうちに拳の方は随分と饒舌になったね」
全てどこかのキチガイのせいである。
「早く帰ってきておにいさん・・・はあ」
サニアは呟きながらため息一つをつくのであった。
「・・・・・・・よし」
「これでミミアンさんは当分の間は大丈夫ですね」
二人して安堵の息を吐く。
溜魔石の採集及び転送を済ませた。
主目的はほぼ完了した、、、後は『雪崩の狩人』だけだ。
「邪魔が無くて良かった、、、吹雪も最初の頃以降はほぼなかったし」
「あ~早く下山してお風呂に入りたいです」
「ツバキはまだいいさ・・・現実の方では入れるんだから。俺なんて現実に行けないから本当に風呂なしだぜ?」
「そもそもマスターが熱系統の属性持って無いからでしょう?」
「・・・それに関しては悪かったよ」
溜魔石鉱道から粗方必要と思われる質と量を採集出来た俺達は足早に外に出る。
既に雪山攻略に入って七日と半日。
食糧はほぼ無くなりかけ、、、与えられた期間も残り少ない。
魔力だけは十全なので戦闘面では心配ないが、これ以上『雪崩の狩人』が奇襲をかけてくるまで待つのは難しい。
何よりこんな不便だらけの山奥なんてさっさと降りて麓でゆっくり風呂に入りたい。
「ツバキ」
「はい」
ツバキの手を握りこめられるだけ魔力を注ぎ込む。
周囲の魔力を強引にかき集め雲に変える。
ツバキが雲に変えられていく。
そして一人の人間の中へ。
「『曇脈展開≪クラウド・アクセス≫』!」
ジリ貧になる前にこちらから仕掛けよう。
久しぶりに全身を流れていく熱すぎる黒雲。
エネルギーが大きすぎてもう血管が焼き切れてしまうんじゃないかと思える程の錯覚
そして万能感
―マスター、、、雪崩は駄目ですよ!―
「なに、、、文句言う奴は薙ぎ払ってやるさ。ぶはあああああああああっ」
小さなことにいつまで悩んでいたんだか。
ビビり過ぎなんて主人公らしくもない。
ド派手に行かねえとな!
―・・・やはり私の方で粗方制御しないと駄目ですね―
「ぶはあああああああっ、、、『曇感知≪サーチ≫』」
ツバキがいるだけで不可能はほとんどなくなる。
流石に無理だと思えたことが簡単になる。
俺と桜二人分の魔力でも難しい広さの山を殆ど負担もなく黒雲が覆い尽くす。
荒々しく濃い、、、吹雪すら発生させる勢いを以て
―マスター!―
ツバキが伝えてくる情報を脳内で換算する。
・・・・いるな。
谷の狭間でじっとしてやがる。
だが、、、俺と同じ疑似暴走魔力が周囲にプンプンしてやがる。
「『動く曇道≪オート・ステップ≫』うううっっっっ!」
―ああ、、、大声で周囲の雪山が崩落していく・・・流石に英雄的主人公はこんなことしません・・・-
黒雲の道が俺を勢いよく空へと運ぶ。
そして雪崩なんたらがいる場所へ。
―マスター、いきなり行くんですか!?勝算は!?―
「んなもんねえよ!」
―そんな、、、―
「生命力を極限まで低下させコソコソ隠れてる野郎何ざに後れを取るかよ!即攻だ!ぶはあああ!」
―いつもより制御が効いてない?・・・今まで少しは私の話を聞いてくれたのに・・・まさかこんなリスクがあったなんて・・・-
たく、、、今日のツバキはノリがわりいな?
まあ、いいか・・・戦いだ!
さあさ血を湧き立たせていこう!
テンションがそのまま魔術に伝わっていく
内在型身体強化を湧き立たせ、黒雲が俺を視界が歪むほどの速さで撃ち出す。
ドシャアアアアアアアアアン!
目的物の付近に降りたつや否や刀を抜き放つ。
そして溜めて振り降ろす。
「『龍の剣術―飛閃』!」
焔の刀から撃ち出される飛ぶ斬撃
熱を伴った斬撃はあっさりと目的物を叩き割った。
・・・・・あ?
生体反応は、、、、、、、消えてしまった。
「ぶはあああああああっ、、、、戦い足りねえええっ!」
叩き割っても蘇るかもしれんので黒雲を拳に溜めつつ雪崩かんちゃらに近づく。
ピクリともしない
疑似暴走魔力を垂れ流す大猿。
・・・・・俺の剣術で真っ二つになっていた。
これが特級?
聖十剣のミスだったんじゃねえか?
未完成の斬龍の剣術程度で一撃なんて上級どころか下手したら中級扱いだ。
てか、こいつ・・・ほんとに雪崩のうんたらか?
―マスター・・・・雪崩の狩人です。聞いていた特徴と完全に一致してますから―
「だったらどうしてだぁ?」
―分かりません・・・・取り敢えずこの猿を調べてみないと・・・-
「しゃあねえな・・・潜り込め『浸みこむ曇≪ソーク≫』そして『曇感知≪サーチ≫』」
ちまちましたのは嫌いなんだがまあ仕方ねえか。
今は真っ二つの物体と化している内側へと黒雲を潜り込ませツバキに探らせる。
その間暇だ、、、、、地震でも起こして遊んでようか?
雪崩に乗って帰れば麓まで一瞬じゃね・・・俺って天才?
周囲を見渡す。
ここは崖と崖の狭間・・・麓がどっちか分からない。
まるで周囲が見渡せない場所に誘い込まれたみたいだ。
気づかなかったが降り立ったのは深い深い谷底・・・上からの光も上空の雲に隠されたのかほとんど届かない。
―・・・・マスター―
「ぶはあああああっ、、、何だ?」
―この大猿、、、、私たちが来る前に殆ど殺されかけだったみたいです。外からは分かりませんが全身の筋繊維がズタズタにされ、、、頭部の頭がいも粉々に・・・―
「なにぃ?まさか俺達の獲物を誰かに横取りされたんか?ぶはああああっ」
周囲を確認するが視界は真っ暗でどこに誰がいるか分からん。
ま、『曇感知≪サーチ≫』を張りめぐらせりゃどこに隠れてようがすぐに見つけ出すが。
―マスター、、、急に暗くなってませんか?-
「ああ、雲が上に張られてるみたいでな。また吹雪くかもしれん」
―・・・・私今黒雲を上に張ってませんよ?-
「知ってら、、、ぶはああああっ」
何を言ってんだ
ツバキに大まかな操作を任せてはいるが全権は俺にあるんだぞ?
黒雲が今どうなってるかなんて簡単に把握できるわ
―じゃなくてですね!・・・私たちは今、『雲より上』の高さにいるのに何で雲が上にあるんですか!?-
「・・・・ああ?」
そりゃそうだと上を見れば・・・雲の槍雨が降り注いできていた。
驚くより先に・・・・・・笑顔が口元に浮かんでいた。
「こりゃあいい!戦い足りなかったんだ!『曇震伝波≪ドンシン・クロッシング≫』!!!」
―待ってください!雲を操る魔術師なんて兄様とあと二人しかいなっ・・・-
拳から撃ち出した極大の衝撃波が槍を甲高い音を伴って折って折って散らしていく。
体に力を巡らせ脚から力を放出・・・反作用で飛び上る。
衝撃波が作ってくれた道を上へ上へ上へ・・・・
「ぶはあああああああっ、、、、色々と舐めた真似してくれたじゃねえか!」
空へ極大の衝撃波が飛び出していき俺も後を追って空へ。
雲を辿り谷底からの生還を果たした俺の前には白雲のローブを纏った少女とそれに付き添うように立つ桃色の髪の少女。
「・・・・・・・・・あれ?」
どうしようもないくらい沸騰していた頭が急に冷静になっていく。
暴走気味だった心の高鳴りが急に冷え切った。
・・・・おそらく人の眼が無いときに使うと静止の声がツバキだけになって暴走状態がさらに悪化するらしい。
―ということは・・・・暴走を防ぐことを考えると集団の前でしか使えないってことですか?-
俺のあまりの暴走っぷりにうんざりしていたのかいつもは俺を肯定してくれる椿が疲れた声を俺の中で響かせる。
・・・・俺は後で謝っておくことにしよう。
今は前だ。
ツバキの話すら聞かないほど暴走していた俺を我に変えさせるくらいの特大の爆弾の処理の方が先だ。
「・・・・・何でここにいる」
「あなたを殺しに・・・『黒の勇者』」
銀髪銀眼
人間とは思えない純白の肌
纏う白い雲はどこまでも静か
そして奇妙な排気口が二つ付いている杖
ずっと会いたかった少女アリア=レイディウス
「・・・・俺を殺す為?」
「ししょー、、、私ガ戦おウか?」
「問題ありません、、、『曇よ』」
「!?」
ダメ人間で
なのに魔術の天才で
美容とか一切気にしないくせにすんごい美人で
甘いものが大好きで
泣き上戸で
そんな彼女が
まるで人形のような冷たい能面を浮かべて
俺へと白雲を向けていた
「ツバキ!」
―いけます!―
『二重混合型強化≪ミックス・アップ≫』
全身の筋肉をFULLで
あらゆる力をMAXで
俺は体を振り切った。
白雲が俺がいた場にいた。
まるでさっきまであったかのようにいた。
『曇感知≪サーチ≫』を使うまでもない。
・・・もしあの場にいたら死んでいた。
それだけの大きな力がそこにあった。
「『曇の魔術-乱数現』」
『曇感知≪サーチ≫』でもなく理性でもなく
同じ曇の術師としての直感で
白雲が急に生じる瞬間を悟り高速で動きギリギリ回避する。
体が引き裂かれそうな痛み
無理して体をひねることで生じる違和感
急な運動の繰り返しで悲鳴を上げる肉体
ただでさえ雪で不安定なところなのに・・・・精神的な疲労も瀕死に近いレベルで高まってく。
でもそれだけのことがあっても生きてるだけでマシだと思えてしまう。
「はああ、、、、、はああ、、、、はあああ、、、、、」
「終わりです。『曇の魔術-大喰魔』」
アリアの周囲に展開された白雲がとてつもない魔力を伴って迫ってくる。
こいつ、、、、いきなり何なんだ!?
無理な行動のせいでもつれかけの脚では躱せない規模にまで膨れ上がった白雲が差し迫っている。
・・・・・・・・・怪我すんなよ
「刃を伝え!『曇震伝波≪ドンシン・クロッシング≫』」
紅い刃に集中され放出される国を滅ぼすことさえ可能な震撃。
代償として紅い破片を周囲に飛び散らせながら白雲へと突き刺さる。
目を右手で庇い、頬を若干斬りながらも白雲が消し飛ばされるのを確認した。
「・・・・・・流石勇者ですね・・・・流石。」
「何でだよ、、、、アリア」
役に立たなくなった刃を放り捨て、篭手を伸ばし即席の細剣を創り出す。
頼りないが、、、、無いよりましだ。
アリアは俺が白雲を打ち消したのを意外な表情で見ていた。
「ココノハ村にいた頃はあの攻撃で死んでいたはずなのに・・・やはりあなたはあの時殺しておくべきでしたか?」
「・・・・・・だからなんでアリアと戦わなきゃいけない!」
俺の声が山びこのように響き渡る。
だが、、、、それほど大きな声を出しても
彼女の耳には届かない彼女の心に響かない
「言ったはずです、、、、勇者は殺すと・・・・それでも勇者になったのは貴方。いずれこうなることは分かってたんじゃないんですか?」
「あんたが復讐したいのは帝国の雷の勇者だろ!?なんで王国を巻き込む!」
「そんなの勇者だからに決まってるでしょう?」
「・・・・・・・本気で俺を殺そうとしてるのか?」
「・・・・・・・・・・・」
答える必要なんてないとばかりにアリアから迸る洗練された魔力
疑似暴走魔力はあくまで暴走魔力を使えない魔術師よりも遥かに強力で高度な魔術を扱えるようになるというものであって暴走魔力適合者が不適合者に必ず勝てる保証をつけてくれるものではない。
完成された魔術師相手に・・・天才相手に必ず勝てる保証はない。
その証拠に『曇脈展開≪クラウド・アクセス≫』中だというのに戦闘に身が入らない。
怖い・・・・・
「・・・・・ちっ」
思わず出た舌打ちに・・・自分自身に対してした舌打ちが虚しく響き渡る。
シノンとサニアを救うことばかりに夢中で・・・アリアのことを・・・軽視していた。
勇者を憎む彼女が・・・英雄を殺したがってる彼女が・・・俺を許すはずがないのに・・・
何で俺は簡単に勇者になることを決めちまったんだ・・・・・
―マスター!自分を責めるのは生き残ってからにしてください!―
「!?」
意識を現実に引き戻す。
そして黒雲を割り込ませる。
気を抜いたほんの一瞬の間にここまで!?
背後を『鳥の眼』で見れば忍び寄ってきていた白雲が刃の形になっており・・・黒雲の壁と競り合っていた。
「・・・・・・強力だけど・・・・・・・」
黒雲と白雲の競り合い。
『曇脈展開≪クラウド・アクセス≫』の関係もあるが、、、黒雲と白雲の関係は変わらない。
黒雲の奔流が白雲を押しのける。
「・・・・・・・俺には勝てないぞ!」
冷静になれ・・・・アリアが相手だとしても俺には関係ない!
人を殺さないで倒すことは今まで何度もしてきたんだ!
治癒魔術で直せる範囲で攻撃し戦闘不能にする!
「それから話し合えばいい!!!!」
「ちっ、、、厄介な能力を・・・・」
アリアが舌打ちし、後退する。
と、、、、ここで桃色の髪の少女がアリアの前に飛び出した。
・・・アリアや俺みたいに雲を纏ってないから『外装型』を使わず『内在型身体強化』使っているのか?
まだ子供と言っていい年なのに、、、なんて技量だ。
「私に任セて!」
「ティアラ!?」
「『曇突くばかりの大男≪a towering giant≫』」
覚えのある魔力・・・・・・あの時の龍人の郷の魔術師!?
そのことに驚こうとする前に次に起こったことへの驚きに意識が集中させられる。
茶色の大きな雲が引き絞られ首がいたくなるほどの大きな雲の男に。
「GAAAAAAAAAAA!」
音と取ればいいのか言葉と取ればいいのか
人間には捉えきれない叫びのようなモノを響かせた雲男が拳を振りかぶりそしておろす。
ただ一つ言えるなら、、、速いッ!
「ぐおおおおおおお・・・・・・」
「GAAAAAAAAAA!」
両腕をクロスし耐える・・・・それでも膝が笑う。
『二重混合型強化≪ミックス・アップ≫』・・・しかも『曇脈展開≪クラウド・アクセス≫』で強化されてる。
なのに、、、、、体が軋む。
単純な力比べで負けてる!?
魔喰龍ですら片腕で弾き飛ばせるはずなのに…余裕がない。
「ティアラ!私だけで十分です!」
「私ノ方が強いンだからイイでしょ!」
・・・アリアより強い!?
そのあまりに聞き逃せない言葉に意識を持ってかれた瞬間視界が歪む。
横っ腹をぶん殴られたのだろう・・・・・込み上げる血反吐を宙に撒き散らしながらやっと気づく。
このままじゃ負ける・・・・・
「つば、、、き、、、、、アレ、、、、」
―・・・・まだあれはコントロールが!―
「く、、、も、、、おとこ、、、しゅう、、、、ちゅ、、、ぼべべえっ!」
込み上げてきたものをただただ吐き出し生理的な嫌悪感のせいで涙目に。
たった一撃・・・・しかも雲が血管を流れることでいかなる攻撃も通さないはずの『曇脈展開≪クラウド・アクセス≫』中に・・・・体力の半分は持ってかれた。
次喰らえばもう動けなくなる・・・・・それだけは確信できる。
「ツバキ!」
ー・・・・・分かりました!―
正真正銘最後の奥の手だ。
・・・・黒雲を茶雲の大男に巻き付け埋め尽くしていく。
「ッ!?」
ごっそりと魔力が奪われ眩暈がする。
・・・・流石の『曇脈展開』でもこれは負担が大きすぎる。
「ぁ、、、『曇突くばかりの大男≪a towering giant≫』がかき消された・・・・」
「何ですって!?」
ティアラが驚愕の声を上げる。
アリアが有り得ないという表情を見せる・・・ここで初めて人間らしい表情を見せた。
だが、、、、気を取られるな。
この魔術は、、、、、、、、危険なんだ。
―マスター・・・・・-
「やっぱりか・・・・おい二人とも、逃げろ!」
「「!?」」
黒雲の球体
耳障りで甲高い音をたてる球体
触れたものを呑み込むたびに腹の底まで響く音をたてる球体
なのに表面は静かで滑らか・・・・そんな球体が徐々に徐々に拡大速度を上げながら領域を広げていた。
「マスター!?」
「・・・・・・まじか」
黒雲の暴走
魔力だけが魔術に吸い尽くされ『曇脈展開≪クラウド・アクセス≫』が解除される。
当然魔術はコントロールを失えば解除される・・・・・!?
解除・・・・・されてない。
「魔力を込め過ぎたんです!あの巨人を消すにはかなりの魔力が必要で・・・・あれが解除されるには時間が掛かります!」
「くっそ・・・・」
強い眠気が頭を揺らす。
今、、、、一番来てほしくない副作用だった。
桜から魔力をもらい、、、もう一度『曇脈展開≪クラウド・アクセス≫』だとはいけない・・・
「起きて!」
!?
気づけばツバキに抱えられながら全力で頬をはたかれていた。
やばい、、、、寝落ちしてた。
くらくらする頭で痛みが走る別の部分を見れば黒雲の球体に寝落ちしてる時に巻き込まれたのかふくらはぎの肉があっさりこそぎ落されていた。
「・・・・わりぃ」
「いえ、、、、私がもう少し管理をしていれば・・・・」
「ティアラ!」
「「!?」」
別方向へと逃げていたはずのティアラとアリアが未だに元いた場所にいた。
「何してんだ!」
「ティアラが、、、、急に倒れて、、、、、」
アリアが泣きそうな顔で抱き寄せるティアラの顔は蒼白だった。
遠くから見ても脱力し、、、、唇は青く、、、、体がブルブル震えていた。
・・・・・・高山病?
「アリア!お前ここまでどうやって来た!」
「雲で一気に・・・」
「ちっ・・・・」
山を登る前に注意すべきことなのに・・・・・そんなことも分かってなかったのか
今まで『内在型身体強化』で強化してたから違和感程度で済んだのかもしれないが・・・俺がティアラの魔術を強引にぶっ壊したのが原因で魔力のコントロールが上手くいかなくなってたんだろう。
そのせいで悪化したのか・・・・相変わらずアリアはダメ人間だ。
アリア自身も軽い高山病にかかってるはずだ・・・・彼女自身は気付いてないけどよく見れば『外装型身体強化』がぶれ始めている。
「ツバキ・・・俺は良いからあの桃色の髪の女の子を麓まで運んでくれ!」
「マスターは!?」
「アリアを担ぐ!」
「・・・・・大丈夫なんですね!?」
「・・・・・・・・・ああ!」
眠気を少しでも飛ばそうと右ひじの痛覚点に篭手剣を刺し込む。
「ああ゛!?」
声にならない悲鳴をこ洩しながら篭手剣を引き抜き篭手に戻す・・・・良し、しばらくは持ちそうだ。
ツバキに離してくれと視線を送る。
桜からもらった魔力を雲へと変え道を作る。
動けなくなっていた二人をその道に巻き込む。
ほぼ飛ぶように動く俺とツバキはそれぞれ少女を抱え上げる。
既に黒球は俺達を簡単に呑み込める程に成長している。
常に走り続けないと、、、、削り殺される!
仕方ないとはいえ実験中の魔術を使うなんて・・・・やはり今日の『曇脈展開≪クラウド・アクセス≫』は理性が全然働いてなかった!
「『飛翔しろ』!」
何かあると困るから採集ついでに椿のバトルブーツの溜魔石を最高質の物に変えておいた。
ツバキはだらりと四肢をぶらぶらさせる彼女を抱き上げながらまるで背中に翼が生えたかのように見えない足場を蹴り黒球の届かない範囲へと翔んでいく。
ツバキがちらりとこちらを見てくるが俺は彼女を怒鳴りつける。
「バカ!早く下へその娘を連れていけ!その娘死んじまうぞ!」
「!?・・・・は、はい!」
ツバキは空気を蹴るように下へと落ちていった・・・・・
アイツの身体能力ならすぐに下へ行けるはずだ。
魔道具で空を飛べるんだから・・・・大丈夫。
大丈夫だ。
「離してッ!」
「寧ろこっちが・・・・」
雲を作って空へと逃げようと集中する暇がない。
黒球が物凄い勢いで迫ってきているし、眠気で意識はもうろうとしているし、アリアは暴れるし
くそ、、、、やべえ
「ぎいっ!?」
左脚が削り取られたふくらはぎの部分に当たったのか鋭い痛みが走る。
神経まで届く痛みが意識のレベルを跳ね上げる。
くっそ、、、、内在型身体強化がぶれていく・・・・
移動速度がみるみる間に下がっていく。
「何で敵の私を・・・・」
「お前が大事だからに決まってんだろうが!『曇の壁≪ウォール≫』!」
情けないが簡単に出せる魔術は壁くらい・・・
一秒も稼げない・・・・
くそ、、、、、、、くそ、、、、、まだ彼女に何も伝えられてない!
まだ、、、、、、謝ってない!
「シノオオオオオオオオオオオオオオン!」
黒の世界が迫る。
眠気が強大な重りとなって魔力を筋力を心を縛る。
・・・・・・・駄目だ・・・・・死ぬ・・・・・
ジりり・・・・
「くあっ!?」
「サクラ!?」
アリアを庇うように黒球の前に
右目が黒一色に・・・・・
何億もの黒の奔流が
幾重にも幾重にも幾重にも
交差し重なり逆流を起こし回転していた
そして何も見えなくなった
痛みが走り、、、、何も感じなくなった。
次回から第2章『あなたの名前を聞かせて』
如峰月桜に迫るデッドライン
如峰月桔梗の策略
そして必ず触れなければならない藤堂勝海の変貌について・・・
お楽しみに!




