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異世界でもう一人の俺が暴れすぎてキチガ○と呼ばれている件について  作者: 浅き夢見む氏
第五部:かつて交わした約束は曖昧なままで心に残る<王国編>
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第1章持つ者と持たざる者part3

多分4part行きます・・

首の鎖は常に熱を持っている。

誓いを一時でも忘れさせないためだろう。

・・・・・ま、見た目は悪くない。

周囲にはお洒落で通せそうだ。


「どうだキマッてるか?」

「・・・・・・・それなりにな」


お義父さんに首の鎖をちゃらちゃら見せてドヤ顔してみる・・・彼は一層眉をしかめるだけだった。

それでも抗議もせずにさっとつけた俺に少しだけ怒りが失せたのか、ガルブレイクはそれだけ言い残すと謁見の間を出ていってしまった。


「・・・お義父さん」

「さっきから言うべきかと悩んでいたが、、、そのお義父さんという言い方、あいつに聞こえなかったことにされてるぞ?」

「そこはまあ、、、女王陛下の御力でどうとでもなるでしょう?」

「・・・・・・・適当な奴だ」


女王陛下が諦め気味にため息を再びつく。

・・・そんなに何度もため息つかれると少し寂しくなるので程々でお願いします。

気を取り直して意識的にバカなことを考えるようにしていると、宰相がそういえばと話を切り出した。


「女王陛下、溜魔石についての要求はどうしましょうか?」

「すっかり忘れていた・・・どうするべきだかな」


どうやら俺の味方らしい宰相が切り出してくれた話題は溜魔石についてだった。

これについてはそんなに難しいものじゃないと思っていたんだが、、、二人の顔は『サニアの件』以上に眉をしかめていた。


「なんか・・・難しいんすか?」

「戦争が近づいている為に王国庫に溜魔石を溜めこまねばならないことは知っているか?」

「・・・ええ」


溜魔石は魔力を溜める性質があり、魔力が足りない若しくはない人間でも魔道具に設置すれば魔力を込めずに使えるし、砕いて飲めば少しは魔力が回復する。

戦争時には絶対に必要といえる物だ。


「溜魔石が採掘できるのは高山ばかり、一般人では冬のこの季節は採取出来ないのだ。」

「・・・雪山か」


山岳を職業としている人達でも冬の雪山は登らない。

それだけ危険と言う話だ。

だが、魔術師が豊富なこの異世界でならある程度は問題ないはず…

火魔術で雪を溶かし、体を暖めれば別に雪山だからとかいうこと事態はたいした問題じゃない。

つまり・・・・


「特殊な魔物が出没したとか?」

「そのとおり」


俺の回答と言ってもいい質問に宰相が答える。


「冬のこの季節でも魔術さえ使えれば充分溜魔石を採掘可能な高山はあるし、今までその山から冬の期間は流通を確保してきた・・・が、最近流通は止まってしまった。」

「採掘を妨害する特殊な魔物が出たと・・・」

「そうだ、目撃情報から推察するに『雪崩の狩人』だ。」

「『雪崩の狩人』?」

「上級指定の魔物であるはずなのに派遣した聖十剣すら重傷を負ってしまっている。そのせいもあって溜魔石の価格が跳ね上がっているのだ」


溜めこまなきゃいけない状況下でその物質が採掘出来ないとなると・・・流通制限掛けるしかないと


「お義父さんやゼノン義兄さんはどうだったんすか?」

「あ、もうそれで通すと・・・私は知らんぞ?」

「女王陛下」

「ごほん、、、、試していない。今は時期が時期だから戦力を割くわけにはいかん。最高戦力のあの二人なら尚更だ。」

「その時を狙って攻めてくる可能性があると・・・」

「そういうことだよ」


文官たちにとっても、武官たちにとっても、勿論女王陛下にとっても悩みの種だろう。

聖十剣が倒せないとなると上級か、、、下手したら特級扱い

地の利のせいもあるだろうがジョージやボボルノ並の人間たちが重症とかめんどそうだ。

が、、、ミミアンの寿命を考えると一刻も早く採掘に行かなければ。


「女王陛下、、、申し訳ないですが勇者召喚の儀の途中ではありますが俺を『雪崩の狩人』討伐に向かわせてください。」

「・・・特級モンスターの討伐経験は?」

「上級モンスターまでですね・・・ただメルキセデクの元で戦闘訓練積んでたんでまるっきり無謀ってわけでもないと思います」

「メルキセデク・・・あの天使か。彼女に鍛えられたせいだな・・・戦い方が妙に堂々としているのは」

「陛下、彼に任せてみるのはいかがでしょう?」


女王陛下と宰相の態度が一気に軟化する。

流石メルキセデク、、、天使だからか強さに対しての信頼度が桁違いだ。

天災とまで言われてる特級モンスターを討伐にしに行くとか・・・普通はギルド資格停止処分喰らうぐらいの無茶だ。


「ちなみに熱系統の魔術は?」

「本属性は曇で補助属性は調べたこと無いから分からないけど、防寒魔術は防熱魔術の応用で何とかなると思います。ミルから熱系統の魔道具借りてくつもりですし」

「ふむ、、、なら許可してみるか。どちらにしろこのまま放置してよい問題でもないし」

「そうしてくれると文官側としても有り難いです、、、正直戦争準備のせいでただでさえ経済が停滞してますから」


さて、、、誰を連れてくか

実力だけならメルキにコウだが、、、彼らをこれ以上巻き込むのは心苦しい。

シノンは獄炎魔術を使えるようになり戦力は俺に並ぶ勢いがあるがまだ不安定で持久力に不安がある。

トツカも同様だ。


ツバキぐらいか、、、魔術が使えないので防寒面に不安が残るがそれぐらいは魔道具で何とかなるか。

『曇脈展開≪クラウド・アクセス≫』は使えた方がいいだろうし、何より今まで相対した事ない特級モンスター相手に本気でいかない訳にはいかない


「じゃ、準備が整ったら討伐に向かいます。」

「分かった。入山許可証を発行しておこう。」


後は確認しておくことは・・・あ、そうだ。


「個人的に必要なんで少々溜魔石採掘していいですか?」

「流通に影響が出ない範囲なら報酬として認めよう」


女王陛下が大仰に頷く。

・・・よし

これで約束を一つ果たせそうだ。





「てなわけで魔道具貸して欲しいんだが」

「・・・そうだなあ」


メイン武装の『葉擦れ・変染態』が整備中だし、冬山攻略だしでミル屋敷に再びやって来た。

随分時間が空いたので庭とか俺や魔族ビグラスがぶっ壊した諸々は既に元通りになっていた。

相変わらず耳栓つけて魔道具の調整をしていたので耳栓取っ払って話を聞いてもらっていた。


ちなみに皆はそれぞれミル屋敷のどこかでくつろいでいるのだろう。

ツバキは基本ミミアンと一緒にいるし、トツカはミルのコレクションを愉しんでいる。

シノンは・・・多分まだ王宮に。


「これと・・・これぐらいかな」


紅い刀身の無骨な刀に無地の紅いマント

ミルが倉庫から持ってきたのはその二つだった。

普段からくそ重い細剣を腰に帯びてたせいか普通の剣の重さが頼りなく感じる。



「『焼刃』に『炎衣』。両方とも熱を纏う武器と防具だ・・・本当は細剣の方がいいんだろうが、手ごろなものは今すぐには渡せない」

「いや、、、刀の方が斬龍の剣術使えるしこれで十分だ。ただ、、、」

「ただ?」

「採掘の技術が足りないからそれを補う道具と魔法玉ポーチみたいに採掘した溜魔石をミル屋敷に飛ばす魔道具ないか?」

「少し期間をくれれば用意できると思う・・・」

「そっか、、、じゃあ旅の装具を適当にそろえてくるしその間に頼むわ。ツバキも探さなきゃいけねえし」

「ああ、、、、」

「どした?」


ミルが少ししかめっ面になっていた。

魔道具が揃えられないのかと思ったがそうではないようだ。


「二代目勇者との決闘前に何故そんなに無茶をしようとする・・・ミミアンの溜魔石はまだ余裕がある」

「魔道具研究の分割いてやっとだろ?」

「っ!?」

「長期的に見るなら今採掘の許可が下りたのは千載一遇のチャンスなんだよ。人の手を借りず自らの力で活路を見出せる・・・な」

「なら何故溜魔石を屋敷に瞬時に飛ばす魔道具なんて必要なんだ・・・それだけ危険ってことなんだろ?最悪自分が帰れなくなってもミミアン用の新型魔臓完成までに必要な時間分の溜魔石を僕たちに送れるようにと・・・」

「まあな」


正直優先順位は討伐よりも先に採掘だ。

ミミアンとミルの仲を守りたいと思ってしまった俺には経済停滞の解決よりもよっぽど大事だ。

それに・・・ミルにもミミアンにも借りがある。

久しぶりに約束を『約束した通りのまま』果たせるんだ・・・ここで踏ん張らなきゃ主人公じゃねえ。


「すまない」

「謝んなよ、、、居心地わりい。ミルの兄貴の協力が無けりゃあここまでこれなかった。アンタが押し上げてくれた高さから今度はあんたを引き上げ押し上げてるだけだよ。だから謝罪も礼もいらない」

「・・・はあ、君の仲間達の気持ちがよく分かるよ」


ミルはどこか呆れた目で俺を見てきた。

・・・そうだな、いつも仲間たちには悪いと思ってる。

特に彼女には。




『炎衣』で口元を覆い、ニット帽を耳を隠すぐらいまで深くかぶる。

夏なら怪しい人間だろうが今は冬なのでそれほど違和感はない。

王都の街を旅の装具を揃えながら歩いているが顔を隠していかなければならない。


「『黒の勇者』サクラ様に祝福を!」

「「「「「「「「「「祝福を!」」」」」」」」」」」


大広場では勇者聖女信仰者達が集まり、腹のそこまで響くほどの声を出している。

誰が描いたのか、、、俺そっくりな似顔絵が絨毯サイズの大きな紙に写し取られ張り出されてやがる。

こんな状況下では顔を出すや否やもみくちゃにされてしまう。

もうコソコソする必要がないとはいえ、簡単には街を歩けなくなったな・・・


「おばちゃん、、、新しい勇者を見たんだって?」

「ああ、うちの亭主と『万色将軍』と戦闘を行ったのを見に行ったんだけどね!それはそれは強いお方だったよ!こんっなに大きな黒雲を操って、綺麗な夕焼け色の刀でバッタバッタ魔術を切り裂いて!」

「・・・・・・・・・」


入ろうとしてた店の番をしていたおばちゃんと客がそんな話をしてるので慌てて店から出る。

どこも俺の顔を知ってる人ばかりで正直まともに旅の装備をそろえられない。

・・・困ったな

一度出直して王宮で揃えてもらうか?

でも、あんまり遅くなると夜の雪山に入らなきゃいけなくなる・・・それは困る。

時間は刻一刻と無くなっていくのに、、、


「・・・休むか」


歩き詰めで少し疲れていたのでたまたま目についたベンチに座る。

座るだけなのに身体の奥底からエネルギーが吹き出し、全身を巡っているような感覚になる。

疲れを全て呼吸に乗せるかのごとく、つい長い長いため息が出た。


「ふう・・・・・」

「随分とお疲れのようであるな」

「ああ・・・ってビグラス!?」


余程疲れていたのか、、、背後に六本腕の大男が立っていた。

反射的に『内在型身体強化』を展開し『焼刃』を抜き、ベンチから飛び起きる。

そして距離をとってビグラスを睨んだ。


勇者召喚の儀を邪魔した後は約束通り解放したはずだ・・・もう魔国に帰る道中だと思っていたのに。

何故ここにいる

もしやまた何か王国で悪だくみを・・・・


「何でまだ王都にいる・・・・」

「今日は戦いに来たのではない・・・会わせたい人がいるのである」

「・・・?」


俺が魔力を高めて警戒しているのにビグラスはといえば剣すら抜こうとしない。

それどころか俺に言いたいことだけ言うとついて来いと歩き出した。

・・・・ビグラスはインモラルみたいに罠に嵌めるタイプじゃない。

放っておいてもいいが何故かそれをすべきじゃないと思えた。

刀を鞘にしまい、彼の後をついていく。


「・・・・・どこまで行くんだ?」

「裏街まで・・・じゃないと人目につくのである」


そういえば、、、ビグラスが現れた時周囲に人はいなかったな。

とはいえ王国は魔族排斥を謳ってる国じゃないんだが・・・

それだけ魔族たちにとって他種族への恨みは深いんだろうか?


「・・・王都にこんな場所があったのか」

「この国で勇者を名乗るなら知っておくべき場所である」


地下へと潜るように建設された街がそこにあった。

冬でも地下にあるせいか生暖かくそして生臭い。

空気が籠ってるせいだろう・・・・病が流行ったら一発でアウトだ。

住む人々もエルフや人間はめっきり姿を見せず、その代りに獣人やら魔族やらの少数種族が多い。


活気はそれなりにあるし、王都より生活レベルが落ちはいるがまだ許容範囲内だ。


だが、、、王都のどこを見ても『俺』フィーバーだというのにここでは全くそれが無かった。

王都とはまるで別世界のような場所だった。


「ここはかつてエルフたちに追いやられた少数種族たちの名残である」

「・・・・追いやられた?」

「今は良い王がついており、人間が勇者であるから大分マシになったが昔の王国はエルフ以外がとても住める環境ではなかった。人間も・・・今では考えられないぐらいの扱いを受けていたのである。」

「へえ・・・・・・」

「そして当時迫害された魔族や獣人の子孫たちは今でもエルフを信用していない。勿論聖女勇者が我々を救うだなんてないと考えている。それがこの裏街に現れているのである」


フードもニットも取って大丈夫だと言われたので取った。

周囲の人間は俺をチラッと見はするものの特に気にしている様子はない。

何だろう、ちょおっとだけ悔しい。

いや、、、、自由に動けるのはいいけど、、、歓声を受けるのもまた良いってわけだよ。

まったく主人公心はフクザツです!


「着いたのである」

「・・・ども」


立ち止まったのは周囲と同じく木造りの二階建ての一軒家

ビグラスが扉を開き先に入れと譲ってくる。

一瞬ためらうが、その躊躇いも主人公的に見苦しいのでさっさと入ってしまうことにした。


「・・・」


ここ自体が冬でも暖かいためか暖房設備が皆無だった。

それどころかおいてある家具が無かった。

ただ木張りの床、壁、天井・・・窓すらない。

申し訳程度に二階へと続く梯子が掛けてある。

どうやらビグラスは外で待つようだ・・・扉が閉められたことを背中越しに知る。


「どうぞこちらへいらしてください」


頭上から声がした。

いつまでも耳に残る声だ。

高すぎるわけでもなく低すぎるわけでもない。

なのに耳に心地よく残る女性の声だった。


梯子を伝い階下へと昇る。

殺風景な一階とは異なり二階は天井から壁まで大きく変貌していた。

二階床に両手をかけ体を持ち上げる。


王宮の客間でもここまで滑らかな肌触りの絨毯はあっただろうか?

複雑な紋様が織り込まれたふっかふかの絨毯に土足で踏み入れることを思わず億劫に感じつい靴を脱いで隅に置いた。


大きな暖炉が近くにありそれが乾いた音を焚てていた。

暖かいはずなのに・・・どうして暖炉なんてと思った瞬間気付く。

暖炉が燃えているのにまだ寒いことに

嘘だろ・・・王国は南寄りのはずなのに何でこんなに『寒い』


「春になればここも少しは耐えれる気候になるんですけど・・・今は冬なので」


少しでも暖かさを求めているのか・・・暖色系の家具が揃えられている。

暖色系ってそれ程種類が多くはなく、似たようなものになりがちなのだがこの部屋に限ってはセンスがいいと思った。


部屋の主が部屋の窓側にいた。

天使メルキセデクに似ている・・・第一印象はそれだった。

そして次に感じたのは龍巫様や女王陛下と似ていると感じたそれが第二印象だった。

そして第三印象は、、、、


「初めまして、『黒の勇者』」

「・・・・どうも」


アリアと同じように人間離れした美貌だった。

歳は俺より同じか一つ上か・・・・そのせいかは分からないがアリアに対してみたいな気楽な付き合い方は出来そうにないなと思った。

服装から見て高貴な人なのだと思った。


紫色の長い髪に金と黒が混じった瞳、そしてちょこんと額から突き出した小さな二本角。

他は人間と同じ体格だが、雰囲気は柔かい光を伴った華があり人間とは思えなかった。

魔族?・・・・だがそのベースは何なのか全く分からない。

その娘は立ち尽くしている俺に対してとても柔かい笑みを向けてくる・・・美少女は見慣れてるとまで言っていい俺ですら思わず頬が熱くなった。


明らかに普通でないその魔族の少女は楽しそうに茶の用意をしていた。

・・・・本当に異世界の住人は茶が好きだな。

寒さを防ぐために三重窓にされている大窓の側で茶器を広げていた。

そして手招きしてきた。


「さあ、体が冷える前にお茶を飲んで温まりましょう」

「・・・」


今更帰りますとも言いづらいので取り敢えず椅子に座る。

自分の対席に彼女も座る。

目が合うと何故かキラキラ笑いかけてくるので目線を窓へと移した。

・・・窓の外は見たこともない景色が広がっていた。


雪で街が埋まっていた


「・・・ここは王国じゃないな」

「ええ・・・魔国です。ご心配なく、、、お話が終われば責任を持って王国にお返しします。」


いつの間に転移魔術をかけられていた?

軽く不可視の『曇感知≪サーチ≫』を張り巡らせてたんだが、、、全く反応できなかった。

てか、転移魔術使える人材が魔国にいるのか・・・

しかも疑似暴走魔力を使える俺の網をすり抜けるほどの高位術式・・・若しくは魔道具?


「やってくれたな・・・あんた魔国の何なんだ?」

「ふふふ、、、どうやったのかと問い詰められるかと思ってました」

「聞いても教えてくれねえだろ・・・魔族の奴らはいつもそうだ」

「・・・『いつも』ですか」


すこし寂しげな表情の彼女はどうぞと茶を薦めてくる。


「・・・・・・・・」


いつもなら異世界の茶は舌と体に合わないからと断るんだが彼女の表情を見て断れなかった。

器を手に取り少し燻らせる、、、匂いは嫌いじゃない。

口に少し含んでみる、、、、苦くて少しさっぱりしてて

やっぱり不味かった。


「名前は?」

「はい?」

「あんたの名前は?」

「あ、はい!私はアンナと言います!魔国の総責任者です!」


、、、予想はしていたが言葉にされると違和感を感じる。

どう見ても彼女は良い人だ。

なのにインモラルの非人道的な実験を認めてるというのが信じられなかった。

アイスドスライムが起こした惨劇・・・魔喰龍が奪った龍人達の幸せ

それをこんな優しそうな彼女が引き起こさせたってことだろ?

しかも・・・魔国の人間であることを誇りに思ってる。

まるで邪教徒の親玉じゃないか。


「で、その魔国の総責任者が何のようだ?」

「はい、寝返って欲しくて」

「帰る」

「あ、ごめんなさい!半分冗談です!」


よっこらせと立ち上がった俺の脚に彼女が縋り付いてきた。

もう話すこともないと梯子へと歩き出す俺の脚に全身でしがみついてくる。

脚とはいえ感覚器官・・・彼女の意外とある胸を感じる。

正直それをずっと味わっていたいが俺には既に嫁が二人いる・・・くそっ!


「王国裏切るわけにはいかないんだよ、、、離せっ!いや、、、やっぱ離すな!」

「どっちですか!」

「胸をもっとぎゅむっと押し付けながら体は離せ!」

「どんな化け物ですか!?」


くっ、、、これが魔国の罠か。

さすがインモラルの上司ダッ・・・姑息な罠を。


「くそぉ、、、俺と嫁たちの仲を不貞をばらすことで割くつもりだな!このエロックスさんめ!エロ漫画に出てきそうな名前しやがって!」

「えろまんがが何かは分かりませんが私の名前をバカにしないでください!」

「そうかい、、、じゃ気をつけるよ『内在型身体強化』!」

「きゃっ!?」


力が少し緩んだ時に『抜く』

どうやらそんなに戦士としては強くないらしい。

あっさり彼女の腕から足は抜けた。

急に拘束していたものを見失ったせいかどかっと彼女が頭を地面に打ち付ける。

助け起こす気にもなれないので出口らしき梯子へと歩き出す。


「じゃな」

「待って!『雪崩の狩人』討伐に向かわれるんでしょう!」


その言葉に足を止めざるを得ない。

流石におかしいと思ってたんだ、、、本来上級指定の魔物ぐらいで聖十剣がやられるとか

王国の邪魔をするように突然現れたとことかモロじゃないか・・・


「・・・・まさかまた魔国の仕業か?」

「いえ、あれは天然の災害です!」

「・・・・・・・本当だろうな?」

「その事についてが今日あなたをお呼びした理由です」


キャラクターがつかめない・・・さっきまでほわほわ笑っていたはずなのに今は真顔。

彼女は二つ・・・と指を二本立ててくる。


「私の話を聞くことで二つ・・・あなたに利点があります。一つ目は『雪崩の狩人』の情報、そしてもう一つは魔国側であなたが必要な装備を用意しましょう」

「・・・・・・本気か?俺はあんたらの邪魔しかしてないんだぞ?」

「それは確かにです・・・ですがこちらに利益があるんですよ」


例え嘘でも、、、ここまでやる理由はない。

嫌がらせが目的でもこの転移魔術で俺を僻地に飛ばすことだって出来たんだから。

わざわざ彼女と話す必要なんてないんだから。

なら、、、聞くだけ聞くか。


「話を聞かせてくれ」

「ええ・・・」


席に着くことはしない。

彼女のペースで長話になると何か危険だっていう考えが浮かんでしまったから。

指先が少し冷え込む部屋の中、美少女とタイマンで向かい合う。


「まず、、、各地で起きてる特殊な現象は知ってますか?」

「特殊・・・?」

「あなたも経験してるはずなんですが・・・そうですね・・・感じた方が早いでしょうか?」

「・・・暴走魔力」


アンナの全身から漏れ出す魔力

怖気が経つほどの濃くどす黒い魔力

でも俺にとっては既に体の一部と化している魔力

俺の魔力が『世界から愛された者だけが使える魔力』と評した魔力、、、暴走魔力だった。

俺ほどの濃度には達してないが十分疑似暴走魔力と言っていいものだった。


「今はまだ数例しか発見されてませんが最近この魔力に目覚める者達が増えてきているんです。」

「それがどうした?俺の知り合いでもコントロールしきれなかったとはいえ暴走魔力を使ってた奴はいた」

「そもそもそれがおかしいんです。今まで百年に一人程しか現れないものなんですからこの魔力の適合者は」

「・・・調査が甘かったんじゃないか?」


俺が納得いかないと思って口に出した言葉はあっさりと否定されている。


「お話は出来ませんがその理由は分かっていますから・・・それに今重要なのは適合者が目に見える形で増えてきてるか否かではありません。」

「・・・・どういうことだ?」

「『雪崩の狩人』がその適合者です。」

「!?」


しかも・・・と彼女は疑似暴走魔力を全く匂わせない状態にまでしっかりと体に納める。

俺より確実にコントロールは上手い・・・疑似暴走魔力と自己資本魔力の使い分けできてるなこの娘は

おそらく彼女は今は遠い記憶の彼方にいる朝日奈楓と同じ、生まれながらの主人公なんだろう。


「どうしました?」

「いや、、、なんでも」

「?・・・まあいいですけど。」


つい考え込んでしまった俺を見て、アンナがきょとんとした顔で首を傾げてくる。

俺のように主人公になりたくてなった者と望む前から既に主人公だった者。

暴走魔力は主人公にしか扱えない代物と考えた方がいいだろう。

そのことが無性に気になるが・・・今は置いておこう。


「で?どうして魔国が俺にそんなことを?」

「油断があるかないかで生存確率は異なります・・・確実に殺していただかないと春になればアレは魔国に生息地を移してきます。そのせいで春の魔国は大幅な打撃を受け・・・そして次撃に備える期間が無く・・・」

「春の魔国・・・『雪崩の狩人』は毎年北上してくるのか?それも何匹も?」

「え?、、、まあ、、、そうですね」


妙に的を得ない回答だった。

答えを隠した秘密主義の悪癖だ。


「悪いとまではいかないが要領を得ないから過度な秘密主義は止めてくれ・・・」

「それは貴方と私がもう少しお互いを信頼出来る仲になれたら・・・解決できると思いませんか?」

「!?」


いつの間にか彼女と俺の距離が近づいているように感じてしまってた。

彼女が笑いかけてくるだけで自分と彼女が既に何度も会っているくらい仲良くなれてる気がしてしまっていた。

彼女に言われるまでそんなことに気付かなかった。

道理で・・・圧龍や影龍が裏切るわけだ・・・彼女と話せば話すほど彼女のことを好きになってしまっている。

危険だ・・・・とても危険だ。


「まあ、いい・・・『雪崩の狩人』を倒さないで春になると常に冬の魔国に生息地を移すから王国で処理してほしいってことな?」

「はい、そのとおりです」


そう言って笑う顔一つがさっきまではとても暖かく感じたのに、、、今はただ寒々しく感じる。

笑いかければ笑いかける程、相手が喜ぶことを知ってる人の笑いだ。

『人をよく知ってる』人の笑い方だ。

本当に話を早く切り上げよう・・・このまま話していたら自分がどうなるか分からない。


「で、暴走魔力適合者な『雪崩の狩人』は・・・一体どういう感じなんだ?」

「基本的には吹雪に身を隠し遠隔地から氷柱を放って来ます。ただ、暴走魔力で強化されているので森林をなぎ倒す規模の雪崩を起こせます」

「じゃあ常に感知魔術を起動させなきゃいけないか」

「知っていて良かったでしょう?」

「・・・ああ」


悪戯気に笑うが一度気付いてしまえば・・・そんな笑顔を浮かべる彼女が怖い。

彼女が自分をある程度『造ってる』事に気付いているのに未だに彼女に対してプラスイメージを抱いてる自分がいるのを自覚したから

これが・・・本物の主人公か

アンナは俺がしていた想像以上に危険な存在だ。

彼女が本気になれば俺の仲間達は皆彼女につくかもしれない

・・・心のどこかでそんなことを考えてしまう。

考えてしまうことに危惧を抱いてしまう。


天性の彼女の味方を作る才能は

彼女自身の知能と俺の想像も及ばない何かが合わさることによって

もう化け物と言い表せるほどのものになっている。


「くすっ」

「・・・・・・・・」


ぞく


俺の警戒心を見透かすように笑う彼女に息を思わず吸い込む。

現実なら小悪魔的な少女と評せるかもしれない・・・けどここでは命がかかってる。

だから彼女を魅力的と思う前に怖いと思った。


「話を聞いていただいてありがとうございました。」

「・・・・ああ」

「またお話ししたいです」

「・・・・そうだな」


悪寒が奔る。

ガルブレイクを怖いと思うのと別質の怖さだ。

戦う術がまるで思いつかない。

俺は足早に梯子を降り、入る前は無かったバッグを背負い外に出た。

そこは王国だった。

・・・・・・・やはり、いつ転移魔術が掛けられたのか気付くことは出来なかった。


「魔国、、、アンナ、、、、あいつらは一体・・・・」


思わず口に出た言葉

それに答えてくれる者はいなかった。





「ふんふんふん♪」

「アンナ様・・・随分とご機嫌ですね」

「それはそうですよ、インモラル。イレギュラーが予想より大したことなかったのですから」

「・・・流石アンナ様。」


茶器が新しく用意され、新しく招かれた客はサキュバスの魂を取り入れた美女インモラル。

そして、、、ソーラ。

ソーラは彼女達の話をただ黙々と聞きながら茶をすすっていた。


「でも、、、イレギュラー一つでここまで変わるとは思ってませんでしたけどね」

「・・・『本来』はどうだったんですか?」


インモラルがどこか恍惚ぎみの表情を浮かべる。

この場所に入れることが、、、そして彼女にそう尋ねることが出来る自分自身に酔っている顔だった。

ソーラはそんな彼女をチラッと見て、、、そしてまた茶をすすった。

アンナはソーラのそんな様子を確認し一瞬苦笑いを浮かべると、インモラルに視線を戻す。


「まず、、、アリアの弟子はティアラ=レイディウス一人のはずです。だから『曇の魔術師』が三人いる時点でズレが発生してますね。また王国勇者はゼノンのはず・・・・そこもずれてますね。後はあなたが知る通りです」

「・・・・・・まあ、あまり大きなズレは起きてないので今まで気づかなかったという所でしょうか?」

「フラグ管理は幾ら丁寧にしてもズレは起きますから・・・・」


アンナはそういうと二冊の日記帳を取り出した。

一冊目は普通の日記帳だった。

但し二冊目の方は表紙に『二巡目』と書かれていた。

アンナは一冊目の方の日記帳を開き何かを確認しながら語る。


「どちらにしろあの程度では『奴ら』が現れる前に殺されるでしょう・・・おそらく『パンデミックアウト』か運が良くても『曇雷戦争』の時期か・・・・ん?」

「どうかなさいましたか?」

「いえ、、、、若しくはニ、三日の内の話かもしれません」

「あらまあ、、、、」


アンナが『奴ら』とまで評する者・・・ソーラは少しだけ興味を持ったがまだ彼らに心を許しているわけではないので発言はしなかった。

そんな中、アンナが再びイレギュラーについて死の予言をした。

インモラルはかなり恨みを抱く人物が死ぬかもしれないと聞いて満面の笑みを浮かべた。

ソーラはぴくりと頬を動かしはしたが、、、特に気にする様子もなかった。

そしてアンナは


「いずれ迫る『奴ら』との戦いに向け戦力を集めなければなりません・・・死の運命すら捻じ曲げる大きなイレギュラーに成長した場合、障害となるかもしれません。例え成長したとしてもあの人には到底かなうとは思いませんが、、、、警戒は続けましょう」

「はい」

「・・・・・」


インモラルはやる気たっぷりに、ソーラは無言で茶をすする。

アンナは笑顔を浮かべ、、、、そしてソーラの手をいきなり握った。


「!?」

「そこまで驚かないで」

「そうです、光栄なことですよ?」


言葉も発さず硬直するソーラにアンナは優しく笑いかけ声をかける。

インモラルはその様子を見て嫉妬ではなく満面の笑みを向ける。

仲間が増えたと喜ぶ


「あなたには魔国のことも魔族のことも・・・勿論私やインモラルのことも好きになって欲しい」

「・・・・・・は、はい」


ソーラは彼女に『話しかけられた』

ただそれだけで全身から発していた警戒心を薄めてしまった。


「そうです、、、仲良くしましょう?」

「なか、、、よ、、、く、、、」

「ええ、、、、いずれこの世に復活する『あの人』の協力を得るにはあなたの力が必要なんです。だから、、、あなたともっと仲良くしたい。あなたはどうですか?」

「・・・・・・仲良くしたいです」


僅か数瞬でソーラは変わった。

それを見てインモラルとアンナはそれぞれ優しく笑みを浮かべた。


もうアンナがどういう感じか分かったよね?

・・・・・ぶっちゃけ何番煎じだよって感じだね!

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