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異世界でもう一人の俺が暴れすぎてキチガ○と呼ばれている件について  作者: 浅き夢見む氏
第五部:かつて交わした約束は曖昧なままで心に残る<王国編>
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第1章持つ者と持たざる者part2

勇者召喚の儀が一段落着いた。

本来勇者であるべきゼノンが勇者でなくなり、俺がなってしまったことで召喚の儀の第二段階である『先代勇者と闘うことで勇者としての力を示す』ことについては日を改めることになった。

一日寝れば魔力全快するので別に長い日程組んで延期するほどでもないだろうと思ったが俺の相棒はそう思っていないらしい。


「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・(ぴく)」

「・・・・・・・(ぴく)」

「・・・・・・・(ざっ!)」

「・・・・・・・(ざっ!)」

「よく続くな二人とも・・・」


ベッドから動こうとするとシノンがピクリと動く。

トイレに行こうと立ち上がればベッドに叩きつけられる。

ならし尿瓶をあてがってくれと笑顔で言えば凍らされる。

どうすりゃいいんだよ、たく・・・


俺が寝転がされてるベッドの隣に椅子一つおいてシノンはトイレ・風呂以外は常にここにいる。

食事ですらここでとるほどに・・・

それをずっと見ていたゼノンが俺の隣のベッドから呆れたような声を出す。

現在俺とゼノンはそれぞれ治療を受ける為に王宮の医務室にほぼ軟禁されていた。

俺は怪我、ゼノンは魔力枯渇の治療で。

まあそれは建前で実際はサニア誘拐されないかの監視のためだろうか?

ゼノンがいれば俺は自由に動けない的な?


「ああ、監視付でもいいからこんな陰気な病室じゃなくて王都でだらだら飲み食いしたい・・・」

「怪我が治るまで絶対に駄目だ」

「えぇ?」

「自然治癒しかないんだから大人しくしててくれ・・・お願いだから」

「うっ、、、」


シノンが若干涙目で睨みつけてくる。

そういう目には弱いからやめてくれ・・・

思わず目を逸らすと面白そうにこっちを見てくるゼノンと目が合った。


「んだよ?」

「いやあ、仲良いなと・・・実の妹のように思っていた妹弟子が遂に身を固めるかと思ったらすこし感慨深くて」

「兄様!?」

「ああ、、、そういうことなら義兄さん的な扱いになんのな。よろしく」

「お前もさも当然な顔をするんじゃない!」

「いっだ!?シノン、お前体の怪我治せとか言いながら殴ってくんじゃねえよ!」

「お前が変なことを言いだすからだろう!?」


シノンが顔を真っ赤にしながら怒鳴ってくる。

てか、もう掴みかかってきている。

なんて日だ。


「だってお前が言ったんじゃないか、責任取れって」

「そういう意味で言ったんじゃない!」

「てかサニアとシノンも両方嫁に欲しいんだが・・・いいよね?」

「いいわけないだろう!」

「なんでだよ」

「何さも当然という顔でとんでもないこと口走っているんだ!?私はともかく一国の姫をそう簡単に嫁にもらうとか言うな!不敬罪で私が殺すぞ!」

「ああ、、、、そういやサニアは姫だったな」

「意外と何とかなるけどね」

「え、そおなん?」

「ニイサマッ!」


ガシガシッ!

髪をぐいぐいシノンに引っ張られる、、、禿げになったら責任取ってもらうからな!?

相変わらずシスコン・・・偽装姉妹だったとはとても思えない。

ゼノンはからかうのも飽きたのかベッド上でも仕事があるのか再び仕事関係の書類に目を戻しつつ口を開く。


「勇者というのは官位の中でも将軍クラスだからね。一国の姫であろうとも下賜されることもあるんじゃない?」

「むううううううう!」

「しの、、、くる、、、絞まってる、絞まってる!」


ふくれっ面で少し可愛いけど!

その顔だからって人の首絞めて良いことにはならないんだからね!?

パンパン腕を叩くとようやく解放してくれる。

面倒くさくなったのかゼノンはもう俺達を無視し始めてる。


「誰にでも手を出して・・・この下半身で動くキチガイめ」

「おい、人聞き悪いこと言うな」

「ごめん、ちょっと今のは聞き逃せないや」


でもやっぱり無視できなかったようだ。

ゼノンは頬をひくつかせながら片づけ途中の書類を机に置くのだった。

そんな感じでぎゃあぎゃあ騒いでるとトントンと扉をノックされた。


「元気か?」

「ご覧のとおりだ・・・」


トツカにツバキにさらにはミルにミミアンまで

俺が病室に軟禁されてる間それぞれミル屋敷やらに滞在しているらしい皆が見舞いに来てくれたらしい。

トツカからの土産をシノンの眼に届かない場所に置きつつ、俺は外の様子を聞くことにした。


「どうだ、王国民の様子は?てか、コウやメルキは?」

「一時期混乱してたけどだいぶ落ち着いたよ。今では君の似顔絵が信仰対象になってるくらいだ。コウさんは仕事はもう終わりだから次の仕事始めるって、、、メルキさんはよく分かんね」

「それはそれで嫌だな・・・・そして二人はそんな中でもいつも通りな」

「一応王国に拠点構えてるくせに王国の情勢全く気にしてなくて驚いた。流石は自由がモットーのフリーギルドだ。」


ミルがそう言いながら手渡してきたのは菓子折りだった。

そういや異世界でも見舞いはやっぱ菓子折りなのな。

興味深い事実だぜ。


「マスターお加減は?」

「どうですか?」

「もう戦えるぐらいは回復した、絶好調よ」

「嘘だッ!」

「・・・・・・お前は少し疲れてるんだよ」

「なんで私が間違ってるみたいな言い方してくるんだ!」


ミミアンにツバキがそれぞれ細かい入院用具の取り換えをしてくれながら尋ねてくる。

正直シノンは監視しかしてこないのですごく助かる。

・・・てか皆が来てるのにそれでも俺から目線を外さない彼女は一体何なんだ。


シバラク、シノン、ツレダシテ

ラジャ!


俺のハンドジェスチャで意図を把握したツバキとミミアンに引きづられていきながらも最後までシノンは俺を見ていた。


「お邪魔そうだし外で待たせてもらうよ」

「・・・え?いいのか?」

「ああ、外の空気も吸いたいし」


シノン達に続きゼノンも外に出ていった。

これで病室に残るのは俺にミルにトツカだけだ。

ミルは魔道具の様子が気になるのか部屋の一スペースを占領し俺の装備を点検し始めた。

集中したいようだし放っておくか・・・トツカと菓子を広げながらくっちゃべることにしよう。


「はあ、、、、俺の嫁はどうして話をあそこまで聞かないんだ」

「寧ろ何故あそこまで拒否されてるのに嫁だと主張する・・・嫁なら本の中に理想がいるだろうが」

「トツカ、、、お前はもう少し現実を見ろ」


本の中は俺にだけ優しく俺にだけ淫乱な女の子がいるんだぞと本気で怒鳴るトツカをまあまあと抑えつついれてくれた水を飲む。

ああ、、、、落ち着く。

本当は熱い緑茶が飲みたいんだが王国にもないししゃあない。


「監視もなくなったしようやくゆっくりできる・・・」

「監視ねえ、、、ゼノンさんはそんなに厳しいのか?」

「ちげえよ、、、シノンの方。ションベンにすら行かせてくれないとか何のプレイだ。」

「強制看護プレイ・・・やっぱり都会の女はコエェ・・・」


トツカがガクガク震えだす。

思いつく限りではほぼ俺のせいなのでツッコむのはやめておいた。


「ち、ちなみに次のガルブレイク戦までどれぐらいかかるんだろうな?」

「ああ、どうやら僕たちの時みたいに周囲に影響でることを想定して別の場所にするらしいよ」

「ふうん、、、」


ミルがどこから仕入れてきたのか分からない情報を『葉擦れ・変染態』をじっくりと観察しながら教えてくれる。

今度は流石に『曇脈展開≪クラウド・アクセス≫』でいくし、常時興奮状態で回り見えなくなるからその方が有り難い。


「どっちにしろ早く決めてくんねえかな・・・このままじゃシノンがずっとつきっきりだぞ」

「君はそれでも大丈夫かもしれないが、こっちは長ければ長い方がいい」


ミルがようやく点検が終わったのか目を凝りほぐしていた。


「しばらく『葉擦れ・変染態』は預からせてもらうよ?」

「え、そこまでか・・・」


外見上は刃こぼれ一つないがプロが見るとそうは言えないらしい。

ミルが置いた剣を『鑑定』したトツカがうげっと顔をしかめる。


「無茶な剣技のせいで刀身が歪んでやがる・・・オオラさんの鍛冶作品はまず手入れがそんなにいらない丈夫さが売りなのに・・・何でこうなった?キチガイ剣術のせいか?」

「魔力回路もズタズタだ・・・本来刀ぐらいの体積を想定した能力なのに壁なんざ作るから、、、しかも二回目はあんなに大きな壁を・・・これは魔力回路をもう一度引き直さないと」

「「もっと大事に使ってくれ」」

「はい、、、すいません」


職人二人に怒られちまった・・・

無理矢理刀に成形したものを魔道具で強引に固定し振り回し、本来剣の容量ぐらいを想定した能力を魔力のごり押しで巨大な壁の成型に利用。

それだけでも酷いのに最後には詠唱級の次元を越えたシロモノを多少削ったとはいえぶった斬り!

無茶は自覚してたけどやっぱり奥の手は奥の手だなあ、何度も使えねえ。

『二重混合型強化≪ミックス・アップ≫』もそれぞれの身体強化とは比べようもないぐらい消費が激しい。

身体強化の詠唱級があるとしたらそれと同じくらいの消費はしてるかもしれない。


「ただでさえ、奥の手は何度も使えないどころかガルブレイクに見せちまったしなあ・・・」


せめて『七番鞘・常識外』があればもっと戦いやすいんだが、あれと全く同じ物は現在行方不明の六代目ミルしか作れないらしい。


「性能は落ちるがレプリカなら創れるけど?」

「・・・いや、魔道具に頼り過ぎるのも良くないしここまでやってくれただけで十分だ」


ミミアンのこともあるだろうしこれだけしてもらってさらになんておこがましい。

第一、強敵と闘うのに他人の力ばかりに頼るのは主人公らしくない。

主人公なら自分の力で最後は勝つべきだ。

そう思って首を横に振るとミルはならと言いながら笑いかけてきた。


「じゃあ、君が『獄炎将軍』に勝った後を想定した魔道具を創るよ」

「別に無理しなくて大丈夫だぜ?」

「そういうもんじゃない、僕が面白いと思っただけさ。」


ミルはそれはそれは楽しそうに笑っている。

なるほど・・・ミミアンが最近ご機嫌なわけだ。

かなり厄介だったし寄り道だったかもしれないが彼らと関われてよかった。

そう自然に思えた。


「・・・・・・・・・・そっか」

「失礼します」


扉が規則正しく叩かれた。

どうぞと応えると病室にエルフの男性が入ってくる。

同じエルフ同士なら年齢がある程度分かるらしいが残念ながら人間の俺や龍人のトツカには判別できない。

ミルが頭を下げて会釈したので、それなりに年齢が高いのだろう。

それを差し引きしても服装がかなりカラフルなので、どこか中華風な王国のことだ。

官位が高い人なんだろう。


入って来たその人は入って扉を閉め、そしてドア前に立つ。

何をしゃべるんだろうと待っているとその人が口を開いた。


「失礼します」

「・・・いや、二度も言わなくて大丈夫です」

「いえ、、、入るや否や襲われると思ってたのでつい・・・」

「え、俺って王国中枢部にどう思われてんの!?」

「・・・・・・・」


視線を逸らされた

・・・・・・そういうことなのだろうか

トツカを見る、、、目を逸らされる

ミルを見る、、、何かおかしいことがあったかという目をしている

話題を変えよう


「御用は?」

「え、、、あ、、、女王陛下がお呼びです」

「・・・・・・・・・・・うす」


目線すら合わせてくれない、、、やっぱりそういうことなんだろう。






「どうも~~~~~なんちゃって異世界人で甘ちゃんで災害指定生物で破門された人でロリコン疑惑で変態でキチガイで薄っぺらい奴でパーティー結成おめで失い人でエロい人で自己犠牲の塊で疑心暗鬼で世界からあいらぶゆー!で疑似暴走魔力適合者で外見悪役で奇妙な友情で指名手配で窃盗未遂でミルの舎弟で連続強姦未遂で痴態公開で勇者を目指す者で主人公を志す者『曇の奇術師』サクラ=レイディウスです。正式なご挨拶は初めてでしたね、これからよろしくお願いします!」

「あの、、、私が悪かったです。ですから機嫌を直してください」


なんのことだ?

女王陛下への御挨拶の練習をしていたらネイルさんが涙目で謝って来た。

心当たりがない・・・・まあ、謝罪するなら黙って受け取っておくのが主人公ってもんだ。


二代目勇者副官のネイルさんの案内で謁見の間へと案内される。

涙目でどこかキョどっている彼は正直頼りない。

普段の彼がそうなのかそれとも俺の時だけそうなのかは分からんが俺の副官はもう少し落ち着いた人が良い。


「ネイルさんが案内ってことはガルブレイクも?」

「ええ」

「そうか、、、」

「暴、、、れないでくださいね?」

「さて、会う前にもうひと練

「すいませんっした~!」


ネイルさんの声が王宮中に響いた。

半ば土下座のようなことをしてまで挨拶の文章を考えさせて下さいと言うから彼に考えてもらった。

いやあ、悪いことしたなあ。

そんなつもり一切なかったのに。


待合室でささっと謁見用の服に着替えさせられ、挨拶用の文章を受け取る。

そもそもこの世界の文字は大陸共通であり、そもそも自然に分かるので苦労はない。

でも堅苦しくて格式ばった文章は読むのが面倒くさくてネイルさんには悪いがポイした。


「もうやだ、この勇者・・・」


ネイルさんがなんか隣で言ってたが無視して俺は謁見の間へと入った。

どうやら女王陛下に宰相にガルブレイク・・・王国中枢の中の更に中枢しかいないようだ。

適当な位置まで前進し、ネイルの動きを真似て跪く。


「女王陛下に勇者候補のサクラ=レイディウスがご挨拶を、そして度重なる非礼への謝罪とそれでも王国の官位の末席へと加えてくださった女王陛下の寛大さに謝辞と忠誠を申し上げます」

「受け入れよう」


ネイルさんがぷるぷる震え、涙目で睨んで来る。

いや、、、流石に作ってもらった文章を読まないなんて非道なことしねえよ?

なのに『逆に』裏切られた的な視線で睨まれるとは思ってなかったわ。

てか、ネイルさんおもしれぇ


「レイディウスよ」

「はい」


女王陛下が冬だというのに扇を口元に拡げ、ひらひらと舞わせる。

その横で巨木のように立つガルブレイク

いずれ争う二人と正面切って睨みあうこと数瞬。

一番最初に言葉を切ったのは女王陛下だった。


「お前はすごいな」

「・・・・はい?」


叱責か呆れかもしくは淡々とか

そう予想していた俺に掛けられたのは賞賛の言葉だった。

思わず眉をしかめてしまう、、、何かあるのかと

そんな俺の様子をみて女王陛下はくくくと笑う。

どうやらこの人は男前な女性のようだ。


「他意はない。まさか娘の為に国に喧嘩を売るだけでも驚嘆すべきところ・・・まさか最後は国のために働くとか言いだすとは予想外でな。だからそう評しただけだ」

「・・・はあ」

「そしてなにより実力もある、、、よって私としては三代目勇者はお前でいいと思っている」

「、、、、、、、、、まじっすか?」

「ごほん」


ガルブレイクの咳で自分の言葉が崩れてしまっていることに気付く。

・・・とはいえ聞き直すのもどうかと思うので言葉を変えよう。


「ありがとうございます」

「・・・『で』、なんだがな」


女王陛下がひらひらと舞わせていた扇をぴしゃりと閉じる。

空気がぴしりと引き締まったのを感じた。

あー、はいはい

どうやらこっからが本題ってわけね。


「レイディウスよ、いいかげん取り決めをしておかんか?」

「取り決めですか?」

「そうだ、お互いにこの内容を守るという誓約を交わし合うのだ」


誓約ねえ・・・

今ここにいないシノンが聞いてたら正気かって目で女王陛下たちを見るだろう。

自分で言うのも自虐的だが俺はあまり約束を守れる人間ではない。


いや、もちろん守ろうと努力はしている。

でも、いつの間にかサニアとかわした約束もシノンとかわした約束も既に具体性は失われ抽象的な部分だけが心に残っている。

彼女達が求めている約束の『根源』的な部分を無視したまま。


自分にとって一番都合の良い約束だけ心の中で勝手に交わした

実際に交わしたともいえないし、少し違和感が残る約束を守っている。

俺の怪訝な表情はそういう自分に対しての嫌悪だったのだが、王国側はそう捉えなかったらしい。

それまで黙を貫いていたガルブレイクが初めて口を開く。


「レイディウス、お前を縛ることは出来ないと分かった。だからお互いに益を提供しあう契約関係を結ぼうということだ。」

「・・・取り決めの内容をそれぞれ提案できると?」


ガルブレイクがやれやれと首を振りため息をつく。


「破格すぎる待遇だ。王国の今までの歴史の中で国と直接契約関係を交わした人間などおらぬぞ」

「・・・どうも」


偉そうな態度だと思うと同時に自分の扱いがかなり重いものと捉えられていることを知る。

正直ここまで大きな扱いをされるとは思ってなかった。

公国でも伯爵級の貴族様と良いお付き合いをさせてもらってたが、待遇が雲泥の差だ。


・・・・・・寧ろ誠実とさえいえる待遇だ。

ならこちらも誠実で返すべきだし、それが主人公だ。

腹割って話そう。


「サクラ=レイディウスとしての要求は・・・聖女サニアの命を犠牲にして欲しくないということと、溜魔石の流通制限解除。それさえ王国側が守ってくれるなら、俺は王国の為に戦う」

「・・・こちらの要求はお前が勇者として王国を守ること。だが、、、取り決め成立前にお前の見解を聞かせて欲しい。聖女サニアの命を犠牲にしないとはどういう意味だ」


宰相の表情は少し緩い

だが、ガルブレイクも女王陛下もその顔は険しい。

ちなみにネイルは空気に耐えられないと、こそこそ謁見の間から出ていった。


「勇者としての力を持たせるためにサニアの命を犠牲にするのが王国の勇者召喚の儀。だが、そもそも俺が勇者としての力を持っていたなら話は別だ。」

「・・・そんなこと証明できんだろう」


女王陛下が今までとは比べようもない低い声を出す。

だが、、、話を聞いてはくれるのか

採算性が無い話というもんでもないらしい。

そりゃそうだ、幾らなんでも根拠もなしに俺がこんな荒唐無稽なことを言うとは思ってないだろう。

・・・・ま、少々根拠が足りないんだけど。

証明問題なら0点になるほどに。


「その為の勇者召喚の儀だ。」

「「「?」」」

「本気のガルブレイクと、、、本気の義父さんと戦って勝てば俺自身に勇者の力があると証明できる。そして勇者としての力があるなら、サニアの命をわざわざ犠牲にしてまで新たに勇者を作る必要はない。」

「ないな」


・・・・当然女王陛下は否定する。

ガルブレイクも女王陛下と同じ様子だ。

やっぱダメか。


「まず、お前たちが本気で闘えばどちらかが死ぬ。更にいえばそもそもお前の全力が我が勇者に届く筈がない。」

「サニアの魔法陣級治癒魔術なら大抵の怪我は治せるはずだ。それにまだ俺は全力を出してない・・・確認してからでも遅くないはずだろ?」

「・・・・・・それでもない」

「なんでですか、陛下!」


女王陛下とガルブレイクは試すことすら意味がないと拒絶する。

なんだ、、、まさか勇者とやらは天使よりも強いんだとか言いだすつもりか?

そこまで強くはないと踏んでいる・・・そのはずだ。


「強さ云々かんぬんの話ではない」

「、、、お義父さん?」


ガルブレイクは少し感情が揺れているのか、周囲の空気を少し揺らがせる。


「例え勇者級に届いていたとしてもより確実に王国を守るためにさらなる力を与えるのは当然だ。それともお前は帝国に英雄連邦に人間同盟・・・三国に同時に狙われるこの国を守れる力が今あると確信をもって言えるのか?」

「・・・・・・それは」


女王陛下も俺に問いを投げかける。


「そもそも形式的な儀式であるはずの召喚の儀で本気で闘うなど・・・本来彼らに勇者としての力を持つことをしめす儀であるのに見届けに来た王国民を殺すつもりか。見届け人たちが危険だし、王国民たちの安全をどう確保するつもりだ。」

「遠くの景色を映す魔道具があるはずだ。それでなんとか・・・」

「『はず』・・・か。お前はそんな不確かな根拠で周囲の人間を動かすつもりだったのか?」

「それは・・・・」

「ひどすぎる、、、、やはり、、、、ない」


・・・・・・・・・このままでは押し負けるな。

最低限の条件を満たしていたはずだったがそれだけでは当然認められないか。

それもそうだけど・・・・今、いろんな面で押し負けている。

王国中枢部にいる彼らと俺の間に大きな差がある。


大きな責任を持っているからこそ、考え議論してきた。

時には知略を尽くし、心を尽くし

言葉を磨き、言葉を重ねて、度胸を振り絞る


彼らがこれまで立ってきた舞台に上がるために必要なもの

彼らが当然持っているものを俺はまだ持ってない。

戦い、叫ぶことしか出来なかったししてこなかった俺にはそれしかできない。


そんな彼らと対等に戦える材料は?

俺が持っている物は?

サニアを救うために彼らに対して訴えかけられる根拠は?


「では、、、交渉は決裂ですか?」

「「「!?」」」


自分でも冷たい声が出ていた気がする。

・・・・自分の声に気付かぬうちに込めてしまっていたのだろう

『お前らは俺の敵になるのか?』

そう込めてしまっていた。


「確信無くば動けない?そんなのヤバくなってから考えろよ。現在三国と戦争する『可能性』があるってだけで何でサニアの命が犠牲になる・・・こっちは最大限譲歩してんだ!これでだめなら俺もお前らの敵に回る!」


何もない俺が持っている物

それは『力』

現実では忌諱され侮蔑されるがここでは立派な代物だ。

たとえ脅迫に近くても・・・俺はこうすることしか彼らと対等になれない。

知も根拠も地位もないんだから・・・・・・・・こうするしかない。


空気が張り詰めた。


ガルブレイクは鎖を広げ

女王陛下は例の本質能力らしき扇を広げ

俺は黒雲を広げ

宰相は笑みを広げた


「そこまで」

「「「・・・・・・・・・」」」


宰相が俺達の間に立つ。

そして俺に背を向け女王陛下たちに相対する。

まるで・・・・・・俺の味方についてるように見える?


「言い方もむちゃくちゃ・・・・忠誠もなし。文官としては正直このような人間が勇者としては認められませぬ」

「・・・・なら何故だ」

「ガルブレイクに似ていて、、、似ていないからです」


女王陛下がひくりと眉を動かし、、、、そして俺をじいっと見つめた。

・・・なんだか、こそばゆいな。

ガルブレイクが鎖をしまい、俺も雲を既に納めている。

なのに彼女は扇をぎりぎりと握りしめ、、、そして俺を見続けている。


サニアが白髪・小さい・可愛いに対して、母である女王陛下は黒髪・美女・男前ってとこか


正直そんな妙齢の女性にじっと見つめられると照れる・・・てか顔から嫌な汗が出る。


「そうか、、、そうだな。」


どんな風にだろうか?

女王陛下は納得したのか扇を仕舞う。

そしてかつて俺が勇者召喚の儀を邪魔した時と同じように仕方ないかとため息をつく。


「女王陛下、細かい部分は私が受け持ちましょう。」

「もうよい、、、男が勝手なのはガルブレイクのせいで十分思い知らされた。」

「陛下・・・・・」


ガルブレイクが赤面している。

まさか、彼もキチガイだったのだろうか?

・・・・まさかね


「しかしもし仮にお前が我が勇者に勝ち、、、、勇者の力なしに勇者となったとしても王国を守り抜けなかった時は分かっているな?」

「・・・・・・・・・・」

「分かっているな?」

「・・・・・・・はい」


仕方ない。

それぐらいは仕方ないと呑み込んだ。

俺は自分の口で誓約をした。


いつもしている曖昧な約束ではなく具体的な制約を


「これを着けてもらう」

「・・・・分かった」


『曇感知≪サーチ≫』や『鑑定』をせずともガルブレイクが近づいて来て、敵意を潜めた瞳で渡してきたものの意味は分かる。

若干熱を持つ紅い鎖で作られた首輪。

これを首につけるということは・・・・・・制約を受け入れるということだ。


もし王国を守れずに、、、それでも見苦しくサニアの命を奪うことを拒否すれば


俺はこの首輪によって命を消される


そんな首輪を俺は自分の意思で首に取り付けた。


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