PROLOGUEーFIVE心昂ぶり気が満ちて世界を今なら変えられそう
第五部開始!
取り敢えずと急場で案内された王宮の客間。
女王陛下の御墨付きがあるせいか王国の官吏たちも邪険に出来なかったらしい。
中々ゆったりできるスペースだった。
将軍級の官僚全員を交えた緊急会議の後、ゼノンとの勇者の座をかけた決闘に移ると連絡が入った。
・・・もしかしたらそれは建前で誰かさんの親切で少し時間をくれたのかもしれない。
俺達が部屋に入るとソファには小さな先客さんがいた。
ぷくっと小さな風船が二つ並んでいる。
白磁の陶器かと思える触求による性欲を湧き立たせる色の風船。
そんなある意味危険な代物を頬に抱えた王国の聖女様は俺達と目線を一切合わせてくれない。
「よっ」
「・・・・・・ふーん!」
「サニア・・・いい加減機嫌直せよ」
「私サニア・エーメルティーは現在あなたたちを無視中です」
「うっわめんどくせwwww」
「!?」
俺が思わず本音を口走るとサニアがびくんと反応し、そして振り向き様に睨んできた。
そしてずかずか近づいてくるといきなり鋭い脛蹴りをかましてきた・・・痛い。
「サニア、口より先に手を出すなよ」
「嫁にするとか言っといてその口の利き方はどうなの!」
「そうだよなあ今さらだけど公開告白とか流石キチガイだな」
「サクラが勇者になろうがなるまいが一生語り継がれていくだろうね、、、ソファ借りるよ?ふわあっ」
「流石マスター、主人公ですね!」
トツカは生意気にもニヤニヤしながら自分の仕事はもう終わったとばかりに地面に寝っ転がって禁書目録≪R18≫を読み始めた。
コウも後は若い方たちだけでとか欠伸交じりに言うとソファをドカッと占領しぐうすか寝始めた。
安定のサニアするーである。
俺達の中ではまだ自分勝手でないツバキですらサニアするーで俺に話しかけてくる。
「そういえばですが本当に私は出なくていいんですか?」
「ゼノン戦とガルブレイク戦で王国民に強弱を見せたい。出来ればゼノン戦は俺一人で」
「分かりました、、、、兄様は戦っていいのに私は駄目ってのは納得いきませんが」
ツバキは少し不満げにそう呟くと机に備え付けてあったナプキンで折り紙し始めた。
「相変わらず皆自由だね・・・」
怒る気が思わず失せる程の皆の自由っぷりにサニアは頬をひくつかせる。
・・・そういえばと彼女は口を開く。
「シノンは?」
「ああ、聖十剣の地位をうんたらかんたらとかで呼ばれたって」
「そう、、、一番会いたかったのにな」
「大丈夫だ、これからはずっと一緒にいさせてやる」
腰の細剣をぽんぽんと叩いて見せるが、サニアは不満げな顔を崩さない。
風船をふくふく指で突いてみるが、全然萎まない。
「おにいさん、ちょっと来て」
「はいはい」
ぐいっと意外に強い力で部屋のベランダに連れていかれ、入り口を閉め中の皆に声を聞かれないようにされる。
背中で扉を閉め俺が逃げられないようにこっちを睨み続けるサニアと対峙することに。
「どういうつもり?」
「つもりもなにも、、、言っただろ?皆一緒にいられるようにするって」
「・・・その約束よりもシノンを守るって約束の方を守ってほしかったよ」
サニアは溜め息をついて首を振る。
怒り狂っていたさっきの邂逅とは打って変わってどうしてくれるのと愚痴をこぼすだけ
「もう覚悟を決めてたのに、、、また揺らぎ始めちゃった」
「そんな覚悟はもういらないよ」
「っ!?」
彼女の息を吸う声がじかに聞こえる。
こうしてサニアを抱きしめるのは何度目だろうか。
一度目は後ろから遠く離れていくかのように思えた彼女を離さないため
二度目は口を塞ぐため
三度目は彼女に本心からの言葉を伝えるため
「サニアの身体も心も守るために俺は皆とここに来た・・・大丈夫だ。サニアを守るために俺は王国を守る。」
「・・・・・・・・ふぁか」
シャツに顔をうずめたままサニアはもごもごと何か言った。
何言ってるか分かんねえぞと言ったらガシッと強く足を踏んづけられた。
「シノン・エルリングス、聖女様を身勝手な判断で王国外に連れ出したこと及び長期に渡る職務放棄の罪は非常に重い。よってそなたの聖剣五位の座を剥奪及び国外追放の処置を取る・・・申し開きはあるか?」
「いえ、ありません」
王国騎士の最高峰の地位『聖十剣』がそれぞれ表情を作っている。
王国二代目勇者ガルブレイクは静かに目を閉じたまま腕を組む。
皆が沈黙したままなので女王陛下の言葉は良く響く。
この場でシノンは少し異質だった。
国外追放を命じられたのにその顔は特に痛手になってない様子で淡々と返事をしていた。
感情を使いきったというか予想していたことだから感情の起伏が揺れていないのか・・・どちらにしろ聖女だけでなくシノン自身も大きな成長を遂げて帰って来たのだろうという予想だけは当たっているだろうと皆は考えた。
「女王陛下、国外追放について異議を」
「・・・宰相?」
女王陛下どころか周囲の人間が皆ざわめく。
宰相は比較的穏健派で通っているが、甘い人ではない。
能力がなければエルフであろうがきちんと断罪する。
・・・だから何故?
周囲が疑問を抱える中百年文官を率い続けた才官が女王陛下に奏上する。
「サクラ=レイディウスの今までの行動を調べさせていただきました。その結果を元にシノンを国外追放するのはまずいという考えに至りました」
「・・・何を知った?」
サクラ=レイディウス・・・その名を聞いた瞬間聖剣達がざわめく。
シノンがうげっという表情らしきものを初めて見せる
ガルブレイクの眉がひくりと動き、ゼノンは少し苦笑い・・・
王国の上層部がここまで揺れるのは百年の歴史で今日が初めてかもしれない。
敵ではなく味方になりたいと言ってきてはいるが実際やっていることはただのテロ。
なのに聖十剣二位、三位を倒ししかも心酔させている
測りかねない人物、、、王国民も王国中枢部も同じ感想だった。
女王陛下が知りたいくないけど知らなきゃ駄目よね~という凄く嫌そうな顔で続けよと言う。
ケネリッヒ宰相は懐から巻物を取り出すとハリのある声を出す。
「王国に点在していた上級魔物のオーガの里山を一日でつぶす。山二つを地震で崩落させて自然界に悪影響を起こす。クエストをこなし過ぎて中級冒険者、上級冒険者に仕事を回せない日が何日も続く。抗議に向かった素行の悪い中級冒険者達が翌日からギルドに姿を見せない。どんな不正をしているのか現在まで受けたクエスト総数1675件の内失敗は0件。あと、、、王国国旗全てを黒雲で撃ちぬいた実行犯の可能性99.5%、、、更には魔術の実験かは知らないが黒雲が一日中覆っていた森一つが奇妙にねじ「ちょっと待て」・・・はい?」
「それは・・・たった一人で為されたことなのか?」
「黒雲を使う特殊な魔術を使うことから王国で起こった黒雲による普通では説明がつかない現象を集めてみました。背筋が凍りつくような嫌な魔力を感じたと現象が起きた周辺の住民からの証言もあるのでサクラ=レイディウスの起こした行為として間違いないかと」
「本当にそれだけのことをまだ少年ともいえるあの歳ででか・・・」
「ちなみに王国で起こした事件だけを述べています。公国や辺境での活動を含めると更に報告すべき案件が」
「「「「「「「・・・!!???・・・・」」」」」」」」
声に出さずとも周囲の表情や吐き出す吐息で驚愕しているかは分かる。
女王陛下は若干呆れにも似たヤケクソ笑いをしながら宰相に声をかける。
「宰相よ、、、お前の言いたいことが分かった。シノンを追放すれば『曇の奇術師』がどうするか分からないと?」
「流石に表立っては何もしてこぬでしょうが・・・正直あのキチガイが何してくるか予想がつかないです。わざわざ買う必要もない不況を買って心配の種を増やすこともないかと。それに今の彼女なら監視の役割も出来るでしょう。」
「え、ちょっと待ってください?」
「・・・どうだ、シノン?まさか二度も王国を裏切りはせんだろうなあ?」
「頂いた機会『出来る限りは』果たさせていただきます。女王陛下と宰相殿の恩赦と信頼、、、感激の極み、、、ううっ」
シノンは涙目でそう答えるしかなかった。
そんな光景を見ていたウルフォンは何故かこれからはシノンに優しくなれそうな気がした。
再び勇者召喚の儀の場所
魔道具で鍛えられた王国の建築技術は凄まじい
わずか一時間の間に王宮庭園には石造りの闘技場が一つ出来ていた
「・・・広いが狭いってとこかな」
五十メートル四方の石で出来た闘技場
タイマンで闘うには十分な広さではあるが、曇魔術やら詠唱省略式やらを思いっきり使うには少々手狭だ。
そして何より
「絶対に人を巻き込むな」
「絶対にやめてくれ・・・」
俺がポツリと放ったその言葉にシノンがブンブン首を振って駄目だと言う。
闘技場の枠ギリギリにまで詰め込まれた人人人。
王都中の人間が集まっているとさえ言っていいんじゃないだろうか?
雪が深々と積もる俺だったら暖炉のそばでぬくぬくしてたいぐらい肌寒いのにこれでもかと人が集まっている。
少しぐらい俺の魔術に巻き込まれても文句言えないだろう・・・少し騒ぎがあれば闘技場に人が乗り上げてきそうなぐらい混み込みだ。
「いやあ、、、流石に一キロメートル四方はないときついぞ?」
「お前一体どんな魔術を使うつもりだ、、、まさか魔法陣級使うつもりじゃないだろうな!?」
「魔法陣級なんて使ったら一瞬で干上がるわ、第一使い方も分かんねえし」
「・・・本当だろうな?」
なんか今にも獄炎魔術使ってきそうな感じですっごく嫌なんですけど・・・
残念ながら使えないのは本当だ。
詠唱級ならぽんぽん浮かんでくるが、魔法陣級となると一向にヒントすら浮かばない。
『曇脈展開≪クラウド・アクセス≫』が使えるからか暴走魔力を不完全ながら扱えるからか・・・魔術は死を間近に控えた中でそんな状態で生き残る最後の手段として誕生するもの。
そんな魔術の基本原則があるんだから現状魔法陣級に準じた魔術が使える以上魔法陣級は使えないのだろう。
「頼むぞさくらぁ・・・あまりお前がキチガイな行動ばかりとるとサニアが困る。」
「大丈夫だ、誰にも文句は言わせない。勝って勝って勝ってでお終いだ。」
「もう、、、お前が無茶ばかりするのも慣れたがこれだけは言っておく」
?
シノンにしては珍しい、優しく俺の頬に触れてきた。
寒気のせいか彼女が元々低体温のせいかは分からないが若干ひんやりした感触に両頬を包まれる。
じいっと見上げるシノンから逃げられなくてつい固まっていると彼女は一句一句ゆっくりと俺に話しかけてきた。
きちんと伝えたい言葉が俺に届くように
「お前が強がるのはいい。でもお前の後ろにはいつも私がいる、、、忘れるなよ?」
「へいへい」
シノンは俺にいいなと念を押すと客覧席へと戻って行った。
サニアか誰かが気を回してくれたのかコウやらトツカやらツバキやらの為に二階席が設けられている。
シノンもそこに座るのを確認してから俺は目の前の闘技場に飛び乗った。
「・・・この闘技場、想像以上に普通だ」
着地した感覚は本当に普通の石材。
少しは加工されてるもんだと思ったが全く感じない。
『聖十剣一位』に『種の魔術師』が戦うにはあまりにも酷い。
急場とはいえこれでいいのか?
思わず足場をトントンとつま先で叩いていると思わず耳を塞いでしまうほどの歓声が上がる。
服装は初めて会った時と同じで華やかな服。
温厚そうな甘いマスク。
「足場が心配かい?」
「・・・まあね」
聖十剣とはプレッシャーが段違いだ。
聖十剣二位、三位の本気は本気じゃなかったのかと疑うくらいだ。
この三週間で成長していたのは俺だけじゃなかったことを痛感させられる。
『曇脈展開≪クラウド・アクセス≫』でも勝てるかどうか分からないほどの気迫だ。
そんな気迫を発しているのに彼の顔は涼しげ、、、少し計算が甘かったか?
「心配しなくていいよ、女王陛下の方を見てごらん」
「・・・」
ゼノンが視線を動かすのにつられて女王陛下が視界に映る。
二階席の更に上の席、、、将軍に宰相に聖女に女王陛下。
「!?」
ぞくっと体に寒気が走った。
気づけば手が震えていた。
ふっと軽く笑う声が聞こえた。
俺と対峙するゼノンも冷や汗を流していた。
「別におかしいことじゃないさ、、、あれが王国最強なんだから」
「・・・暴走魔力もなしにどっからこんなに大量の魔力を」
『嵐曇魔術≪スーパーセル≫』を彷彿とさせエルフィリアでは有り得ない膨大な魔力が女王陛下の体の中から放出されそれが集まり一枚の扇になる。
「・・・何するつもりだ?」
「おそらく聖十剣七位の本質能力『結界』と聖十剣九位の本質能力『硬態』を使うんじゃないかな?」
「え?」
扇が一振り仰がれる
その瞬間俺達の立つ闘技場だけが別世界になったかのような感覚を覚えた。
外の景色は見える、、、だが外とは触れ合えないであろうことをなんとなく実感した。
扇が二振りめとして仰がれる
その瞬間地面に魔力が通った。
さっきまでとは安定感が違う。
これなら全力で暴れられる・・・いやそんなことよりも
「二つの・・・本質能力?」
「いや、もっと多いし、あの方は元の持主よりももっと上手く強力に発動できる。」
「どういうことだ?」
「勝てば教えてあげるよ」
ゼノンが刀を引き抜く、、、最初の刀身の色は赤。
俺もそれにならって橙褐色の愛剣を引き抜く。
それを見た観客たちがしんと静まり返る。
王国民は俺とゼノンをどう思っているのだろうか?
勝手な奴と真の勇者
王国を裏切るかもしれないからあんな奴倒してしまってください
みすぼらしいのに対してカッコいい
強いかどうかわからんのと王国でも指折りの強さ
「「『内在型身体強化』」」
お互いの剣にそれぞれの属性が纏い
体の奥底から力が凝縮され全身を巡っていく
女王陛下が気を利かせたのか三階席から一枚のコインを闘技場へと放った。
雪より重い王国金貨がキラキラと僅かに空からこもれでる光を受けて乱反射する。
『鳥の眼』がメダルの着地する瞬間を追ってくれている間に最初の一瞬に向けて準備をしていく。
より早くより強力な初撃を叩きこむために
「さあ『聖十剣一位』に『曇の奇術師』よ・・・」
どうやら戦闘を感じると若干ハイになるらしい。
用意された席から立ち上がった女王陛下は少し紅潮した頬のまま呟く。
それが聞こえたのは偶然か『内在型身体強化』のせいか
どちらにしても彼女の一声と王国金貨が落ちる音はほぼ同一だった。
「踊れ」
「『龍の剣術―飛閃』!」
「『詠唱短縮炎剣式:四の型』!」
焔の道と飛ぶ斬撃が激突する。
そしてやはり敗れ去るのは飛ぶ斬撃。
詠唱級の術式であることもそうだが、不完全な技ではやはり限界がある。
霧消した斬撃を呑み込んで更に加速する焔道
そしてその道を駆けて来るのはゼノン。
「ちっ、、、『動く曇道≪オート・ステップ≫』!」
雲の道が空へと伸びる。
その中へ腕を突っ込んだ俺は掛かるGに歯を食いしばりつつ移動を命じる。
半呼吸のうちに俺の視界は空へ
もう半呼吸のうちにゼノンがさっきまでいた場所に
「早いね」
「あんたもな」
奇しくも場所を入れ替えるだけになってしまった初撃・・・残念ながらゼノンにとられた。
こっちの方が鳥の眼使ってた分出だしは早かったのに結局押し負けてしまった。
やっぱり詠唱級を詠唱なしでしかも連続で使えるなんて反則だ。
しかもゼノンはそれだけじゃない。
「こっちの方がいいかな?『刃を呼び出せ』」
ゼノンが六代目ミル作であろう鞘に一度刀を押し込みそして引き抜く。
刀身は赤でも青でもなく緑。
「一体アンタは何属性なんだ?」
「それは戦いの中で明らかにしようよ・・・『詠唱短縮風剣式:五の型』」
「!?」
視界全面が風の魔力
スカイのお蔭で風魔術を受け慣れているからこそその風の魔力がただ物でないことを悟る。
「『風十字』『風斜十字』『風重ね十字』『風斜め重ね十字』」
ゼノンが機械的に淡々と剣を振る
しかし侮れない
剣の辿った跡は拡大し広がって巨大な風の斬線へ
更に風の斬線は周囲の斬線と補い合い風の斬線を斬『面』へと進化させていく。
「でたらめすぎだろっ!」
剣や発動級魔術で対抗しきれるもんじゃないし
詠唱級魔術は間に合わない
再び回避を選択する
「『動く曇道≪オート・ステップ≫』!」
雲の道が空へと伸びる。
その中へ腕を突っ込んだ俺は掛かるGに歯を食いしばりつつ移動を命じる。
半呼吸のうちに俺の視界は空へ
もう半呼吸でたどり着く場所は闇に覆われて、、、
「ぬぎいい!」
雲の道に片手だけでなく足に両腕まで全部ツッコみブレーキをかける。
ギリギリ間に合ったようで背中を少し掠る程度で何とか闇の斬面を回避する。
体のバランスを崩したせいで落下も当然雑になる。
空中から背中気味に闘技場へと降り立った俺に周囲からブーイングが起こる。
「油断しないでくれよ、、、まだまだ全開を出しきってないんだ」
「そうかい、、、」
少しは怒っていたようだ。
いたぶる気満々なお言葉を頂いた。
そんな彼の手にあるのは鳶色のどす黒い刀。
纏わせるのは当然闇。
「今度はさらに速くなるよ?」
「・・・・」
彼の手にする次の刀は白の刀
光の剣だ。
威力、速さ共に全属性随一の。
これはもっと早く動いてかねえと対応できないな・・・奥の手使ってくか?
「さあ、始めよう」
「『二・・っ!?」
腕が持ち上がらない
足が動かない
さっきの掠った背中から全身に掛けて闇が巡っていた。
まずい、、、闇の枷効果をすっかり忘れていた!?
『曇の支配権奪取≪ハッキング≫』は時間が掛かる、とてもじゃないが次の攻撃の回避が間にあわない!
「『詠唱短縮光剣式:五の型』」
『光十字』『光斜十字』『光重ね十字』『光斜め重ね十字』
それは斬撃と言う名のレーザー
それは斬面と言う名の極太レーザー
周囲の観客が思わず目を閉じてしまうほどの閃光が周囲を包む。
「ちっ、、、『曇の壁≪ウォール≫』!!」
「発動級程度で防げると思ってるのか!?無駄だ!」
黒雲は鉄よりも固い
今まで何度も魔術を防いできた
しかし、、、それでもゼノンの詠唱短縮式を防ぐにはあまりにも脆弱
熱と光で目が眩む中俺は何とか持ち上げた愛剣を構える、、、出来たのはそこまで
光が狂い、暴れた。
「・・・・・・大魔法玉と同等の光量」
「そ、そんなの喰らってサクラさん死んじゃったんじゃないですか!?そんなのノーセンキューです!」
客席から見ていたミルが正確にそう評した。
ミミアンが慌てたようにミルに話しかける。
七代目ミルが精魂込めて作ってくれた魔道具『大魔法玉』
数量はそんなにもてないし光と音を出すだけのものだけしかないが数十の人間を一斉に混乱させる程の品物である。
光を出すことがメインでない攻撃光魔術でそれを実現するとは・・・
「さすが聖十剣」
「そんなこと言ってる場合じゃないですって!」
多くの人間が思ったのと同じようにミルもまたそう評する。
ゴーレムをどこまでチューンアップしてもあの人外には勝てないと思った。
頼もしいと思う反面少し悔しい。
技術者の性だろう。
「ミル様!何を感心してるんですかッ!?」
「安心して、ミミ・・・サクラに渡したのはこの七代目ミルの最高傑作だ」
「・・・え?」
既に技術者のミルの眼には追えない速度で動いている戦場であるがミルの眼にはこの先の展開がある程度予測できていた。
異変に最初に気付いたのはやはり王国最強と獄炎将軍であった。
「おい、見えたか・・・」
「ええ、、、あの『色』は・・・」
「二人ともどうしたんですか!?やっぱりおにいさんが赤色に染まっちゃってたんですか!?」
「私にも教えていただきたく」
闘技場が土煙に包まれる中、女王陛下とガルブレイクはある『色』を見たらしい。
二人ですらやっとなのに後衛職のサニアに文官の宰相が見えるはずもなく揃って説明を求める。
女王陛下は視線を闘技場からそらす気はないらしく、ガルブレイクも同じ気分のようだったがサニアと宰相の視線に負け説明を始めた。
「光の中で一瞬巨大な夕焼けに近い色が見えたのです」
「・・・夕焼け?」
「ええ、、、ゼノンは自然属性の『火、水、風、土、闇、光』さらにはそれらの派生属性まで使いこなす万色の天才ではありますがあの色を出したことはありません。」
「おにいさんも黒色ってか黒以外出せないし・・・見間違いじゃない?」
「どこかで見たことのある色なのですが・・・どこだったか」
「ええい、もどかしい!『清める風』!」
女王陛下は一向に晴れない土煙に嫌気がさしたのか風を闘技場に送り込む。
完全なコントロールが出来ているのか風は砂埃を全て空へと打ち上げる。
一瞬でクリアな視界が確保された
消し飛んだな
詠唱級も間に合わない
剣技も不完全
防御術式も下手くそ
なにより闇魔術で拘束している
即効で終わらせて申し訳ない気持ち半々、ガルブレイクとのせっかくの一戦に水を差した割にこの様かとがっかりする気持ちの中でゼノンは刀身を納めた。
どうやら周囲の土埃を湧き立たせてしまったようで鼻がむずむずする。
意外と光量が強まってしまったせいか目が眩むしとどめを刺す前に少し目を休ませよう。
ま、どちらにしても瀕死だろうが。
「ええい、もどかしい!『清める風』!」
相変わらずせっかちな人だ・・・・
凛とした声が頭上で響き、濃い魔力が拡がる。
急激に強い風が周囲の土埃を巻き上げ、視界が急激に回復する。
流石陛下、、、闘技場はあれだけの詠唱級魔術が被弾しているというのに傷一つない。
汚れ一つないのは寧
・・・・ろ・・・?・・・?
闘技場には人っ子一人いなかった。
瀕死の死体も血も炭も
「ちっ!」
「!?」
前に転がって一撃を回避し、ニ撃目を振るわれる前に反転して反撃に移る。
目の前には信じがたい光景が
『無傷の』サクラ=レイディウスが剣をこちらに振り切ろうとしていた。
「あと少しで一発喰らわせられたのに・・・女王陛下め、余計なことしやがって!こっちはガルブレイク戦まで取っておくつもりだった奥の手使わされたんだぞ!」
「は、、、ははは、、、、面白い!評価を改めるよ、サクラ=レイディウス!君は僕と勇者の地位を争うにふさわしい!」
刀と細剣がお互いの魔力に反発し、再び距離を置いた。
「・・・・俺も同じ気持ちだゼノン。アンタは俺と勇者の地位を争うにふさわしい」
今、初めて会えたあの二人以外の強敵にワクワクしている自分がいる。
先程まで女王陛下の邪魔に憎憎しげな顔をしていたサクラも多分笑っている。
やはり自分も戦士なんだと自覚する。
将軍で十剣長でありながらも筆より剣を取っていたのはこの一瞬を味わいたいがためだ。
自分と競り合う実力の持ち主と全力で戦う機会を求めていたからこそ。
「アンタが魔道具を使うなら・・・こっちも使わせてもらおう。『這え』」
サクラが起動言語を囁くと左腕の銀色の篭手が腕を這い手を伝い細剣に纏わりついていく。
そして刀身は長く、厚く、斬ることを重きに置いた姿に
片手持ちから両手持ちの代物に。
「そして『染まれ』」
刀が橙色に変わる。
そしてその瞬間太刀から烈しい魔力が迸る。
サクラの構えが一部の隙のないものに、、、完璧で文句のつけようのない刀剣術の構えに
「これが奥の手、、、ミルがチューンして生まれ変わった『葉擦れ・変染態』の『葉擦れ・龍刀態』だ。」
サクラの手にある橙色の光をぎらぎらと放つ刀。
生理的な気圧され感に思わず生唾を呑み込み、、、そして笑いがこみ上げた。
やはり戦場はいい。




