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第5章『意志』part1

これは終わりじゃない。

この後には帝国含む三国との戦争が待っている。

・・・・・・・・とはいえ一つの終わりを迎えることは間違いだろう。

守るべきものの中から守りたいものを省いてしまっているのだから。

一つ確かに・・・・・・

『大きな終わり』がそこに確かにあるのだろう。


深夜

王国中の国旗が撃ち抜かれたというわけのわからない事件が起きたその日の深夜のこと

ガルブレイクは女王陛下に呼び出されていた。


「髪を切った方がよいのではないか?」

「・・・は?」

「髪を切ったほうがよいというておる」

「いえ、しかし・・・何分やるべきことが多い身。すべてが終わってからでも・・・」

「うるさい、そう言っていつも逃げておる。もうお主は将軍ではなかろうが」

「それでも勇者としての仕事が

「散髪を余が自らしてやる。ついでに会議だ。」

「は、はあ・・・」


黒髪の美しいスレンダーなエルフ

王国の第三代君主である。

その彼女の私室でもう6,7日後のこととなった勇者召喚の儀の打ち合わせをしていたらそんなことになった。

旅を三週間、そして連日の準備。

気にはならなかったが鏡の前に座らされると意外と髪のえり足が跳ねている・・・やはり女性はこういうことは気になるのだろうか?

王宮内であるからある程度気にはしていたつもりだったが、忙しさには敵わなかった。


「で、娘の方はどうだ?」

「・・・雇っていた監視は既に契約を終了させましたので分かりません。公国にまだいるか・・・若しくは王国に既にいるか」

「監視を解除?お主らしくない」


女王陛下はすすすと特殊な香油を浸した櫛で私の髪を梳きながら意外そうに言った。


「勘当したので父親として干渉する義務がもうない・・・というある意味義務的で自分的なルールと言いますか、、、それが一番の理由です。まあ、そもそも精々上級冒険者程度の腕。あいつの持ち出した聖十剣も既に廃棄・・・放っておいても問題はないでしょう」


問題は娘の隣にいた・・・あの男の方だ


「そういえば新しい五位はまだ決めてないのか?」

「聖十剣の決定権は既に新将軍のゼノンにありますから・・・あやつも妹弟子がいなくなったのを惜しんでいるのかなかなか」

「そうか・・・」


どういう髪形にするかと聞かれたのでしばらく切らなくてもいいようにと答える。

女王陛下は肩をすくめつつサクリと鋏を入れ込んだ。


「勇者召喚の儀は大事な式典なのじゃぞ?きちんと身なりは整えよ」

「整えろと言われましても・・・あれはほぼ形式的なものでしょう?寧ろ勇者召喚した後からが問題です。」

「それでも大事な式典だ」

「・・・そうですな」


王国の中で将軍級の地位の者から推薦された強者が強さを示し

そして皆の前で聖女から内なる勇者たる力を引き出していただく

最後に先代勇者と新勇者が王国民の前で戦って強さを示す。


王国民はそう捉えている

しかし実際はこうだ。


王国中枢部で既に決めた勇者候補を強者として祀り上げ

聖女が本当に力を与えれば衰弱で倒れ伏すからその場では力を与えるようなデモンストレーション

最後に形式だけ本気で闘ってるように見せて王国民に納得させ

後でこっそり本当の勇者の力を与えさせ勇者を生み出させる。


勇者召喚の儀を形式上の者とする理由は二つ

一つ、実際は聖女が死ぬことで勇者が生まれることを王国民は知らないという事情

二つ、勇者クラスの強さを持つかどうかなんて勇者クラスの強さを持たないと判別なんて出来やしない点


形式上のこの儀礼・・・本当の意味は王国民に新勇者を認めさせることにある。

聖女・勇者に三代を支えられた王国にはいつの間にか信仰が出来ていた。

それがあるからこそ皆安心して暮らせるし、どんな逆境でも立ち向かえる。


勇者であり、幾度も勇者の力を使いながら戦線を駆け抜けてきた自分はそれを良く知っている。

いつの間にか勇者がいなければ王国は駄目になっていた。

聖女がいなければ王国は揺れるようになってきた。


「・・・ふう」

「ため息をつくな。」

「厳しいですな・・・女王陛下はお綺麗だが厳しすぎる。良い縁談が来てもそれでは逃げられますぞ?」

「丸坊主にしてやろうか?」


女王陛下が歳を重ねるごとに更に美しくなる顔を笑顔で輝かせながらぐしっと私の髪を掴む

・・・怒ってるなこれは。


「す、すいません。口が過ぎました!」

「・・・よい」


彼女も自分もいろいろあって今は独身だ。

でないとこうして私室を夜に訪れるなんて出来ないが。

気楽な関係ではあるが、タブーは存在する。


「お前だって髪を気にしてくれる新しい女房を作れば良かろう」

「っ!?」

「・・・すまぬ」

「いえ・・・・・・」


沈黙の中、鋏の音だけ聞こえる。

自分も藪蛇をついたし、陛下も藪蛇をついてしまった。

・・・だから『聞かなかった』ことにしておこう


「私は三週間前に『正真正銘』独りになりました・・・二人で住んでいたあの家も正直肌寒く感じる程で。そろそろ・・・それもいいかもしれませぬ」

「・・・ガルブレイク」

「聖女様を取り戻すときにシノンの隣に一人の男がいました。私と同じ『種』の魔術師です。」

「聞いてる・・・」

「すいません、少し嘘をついていました。」

「?」


一度深呼吸し、自分がこれからいう言葉が間違ってないかを確認する。

・・・間違いはないだろう。


「あの男はおそらく、、、素の能力だけなら勇者候補のゼノンより強いです」

「!?」

「おそらく陛下と私だけ・・・王国であいつの強さを正確に測れるのは私たちだけです」

「何故それを言わん!今代の勇者候補より強い者がいるならばそれを勇者にせねばなかろうが!」

「聖女は渡さんと最後まで抵抗してきてましたからね・・・無理だったでしょうが」

「お前は自分より強いとは一言も言っておらん。無理矢理引きづってこれただろう!?」


女王陛下の怒りはもっとも

それをしなかったのは・・・・自分勝手な理由だ


「娘をこれ以上王国の呪われた歴史に縛り付けたくなかったのです」

「!?」

「その男をシノンは慕っておりました・・・まだ幼い鳥が、母親鳥を追いかけるようなそんなものでしたが。せめて娘だけは王国から解放したかったのです・・・母親のセシルのように・・・王国の為に人生を振って欲しくなかった。だからその男は王国に連れてきたくなかった。必ずその後ろにはシノンがついているだろうから」

「・・・・・・・・・・・そうか」


同じ宿命を持ち・・・その重さを知る私たちだけに・・・いや、同じ重さとその辛さが分かるからこそ

私は本当の理由を彼女に伝えたし、彼女は私を赦してくれた。


「特級よりの上級冒険者か。」

「そのくらいかと・・・・」

「聖女をもう一度求めてきたとしたら?」

「その時は娘よりも寧ろ簡単に仕留められるでしょう」

「・・・・・・ならいいが」

「それに警戒が一番高まる勇者選定の儀に聖女様の誘拐にくるわけがありません。今日来ないというならばもう来んでしょう」


警戒を緩める気で『王国国旗撃ち抜き事件』を引き起こしたのがもしあの小僧だったとしても、、、幾ら戦力を分断しようが意味はないのだ。

あの小僧の力量では所詮不可能。


私と陛下が聖女の側を離れ無い限り聖女を奪うことは出来ない。


第一、聞いている外見とあの時見た人相が違い過ぎている。

女王陛下はそれもそうかと最後の仕上げに入る。


「・・・聖女を国一つ敵に回してまでも守ろうとするか」

「若いというか・・・愚かと言うか」

「まるで昔の私たちみたいだな」

「そうですね、、、現実を分かってなくて、、、理想だけ信じて、、、そして

「終わったぞ」


先の言葉を続ける前に陛下に両肩を叩かれた。

聞きたくなかったのだろうか・・・まあ言いたくもなかったが。


「ありがとうございます・・・だいぶ楽になりました」

「・・・すまぬ。時期が近いせいかどうも要らぬことまで話したみたいだ」

「いえ、、、気が楽になっていただければ」


陛下がすっと顔を伏せる。

その顔にかかる光沢のある黒髪をどかしながら彼女は私をまっすぐ見た。


「王国の危機を救うために娘すら犠牲にする愚王であるが、、、余に最後までついて来てくれるか?」

「仰せのままに」


国一つ意のままに動かす権力

そして勇者を越える程の『受け継がれてきた』強さ


それを持つ彼女ですら不安になる。

だから私は膝を屈して目に見える形で忠誠を示した。


「『獄炎将軍』・・・いや『二代目勇者』。政務に戻って良し」

「はっ」


陛下の私室を後にする。

事務室に戻る途中で声をかけられた。


「将軍」

「・・・ゼノンか。お前も仕事か」

「いえ、仕事は部下に押し付けたんで問題ないんですけどご報告が一つあったので探してました」


眼鏡をかけた青年。

貴族のような華やかな雰囲気を持つが、実際は庶民の出。

私が幼き頃に才能を見出したため、養子として引き取ったのだった。

本来ならエルリングスの姓を名乗ってよいのに名乗らないのは遠慮の為だろう。


「将軍、そういえばなんですが結局サクラ=レイディウスは来ませんでしたね」

「・・・将軍は止めろ」


僕の中ではあなたはずっと将軍ですよとゼノンは笑う。


「それでも既にそれはお前の地位なのだ・・・私を将軍と呼ぶことは自分の責任を放棄するようなものだぞ」

「相変わらず厳しいですね。正直しょ、、、師匠が僕に将軍職を譲るのは十年は先かと思ってたせいもありますよ」

「ふん、この戦乱の時代に確かなものなどそうあるか」

「いやあ、、、今が絶頂期でしょ、師匠は」


敵わないなあとゼノンは笑う。

・・・詠唱短縮式を作りだし、聖十剣一位にいる天才。

更に若きその身で将軍職と十剣長を兼ねているお前に言われても嫌味だとしか思えない。

そう返すとゼノンはただただアハハと笑うだけだった。


「部下を酷使すれば仕事はほぼなくなりますよ!将軍職を兼ねようが兼ねまいが負担は全て部下にかかるだけです」

「私の育て方のせいか?その嫌な上司っぷりは」

「いやあ、、、これは生来のものですよ」

「・・・そういえば聖女様の護衛は今どうしてる?」

「ウルフォンと女性の聖十剣にさせてます。あいつ、また本買いに仕事サボってたんで罰として今日から勇者召喚の儀まで毎日不寝番させるつもりです。魔道具で常に聖女様の位置も把握してますし、勝手にいなくなることも出来ないかと」

「・・・程々にな」


三週間の旅の中ずっと見てきたがおそらく嫌な上司に積まされたストレスを解消するために本の世界に没頭してるようにも思える。

・・・シノンもゼノンも弟子であり大事な子供であるがやはり二人とも育て方を間違えたかもしれない。


「そいえばですけど、、、『王国国旗撃ち抜き事件』やはり例の邪悪な魔力が残ってました」

「そうか。人相が違うと思ったが・・・」

「それでも現場で感じたあの魔力は忘れもしません、『曇の奇術師』のものでした」

「なら、、、やはり王都にいるということか」

「はい、、、残念ながら目撃情報はありませんが」


ゼノンに念には念をと王宮を離れられない自分の代わりに現場に行ってもらったが功を奏したようだ。


「だが、、、いったい何の目的で・・・」

「そこなんですよね・・・まさか自分の実力を知らしめるためではあるまいし」

「寧ろ警戒を上げるだけ・・・聖女を奪い返す為にこの国に来てるはずなのに何故・・・」

「最後のお別れ・・・とか?」

「拳を合わせればわかる、、、そんな殊勝な性格ではない」

「・・・ふーん」


ゼノンは何故か含み笑いをしながら私を見て来る。


「どうした?」

「いえ、、、将軍がもし『曇の奇術師』と同じ立場だったらどうするかなと思いまして」

「・・・何故だ?」

「もし将軍が何の責任も義務も背負ってなかったらあんな感じになるのかな・・・って思っちゃって」

「似ていると、、、言いたいのか?」

「いやあ、、、似ているというよりは生き方が同じって感じですね」


生き方が・・・同じ?


「ゼノン。お前から見て私はどんな生き方をしている?」

「誰かの為に戦うことを誇りに思ってる・・・それを当たり前と思ってる・・・そんな生き方です」

「・・・自覚がないのだが」

「ふくくく、、、『曇の奇術師』も同じだと思いますよ」


からかわれてる気分になる・・・だがもし似ているのなら奴の目的が分かるかもしれない。


「私には敵わないはずだ・・・でも諦めないはずだ」

「ほう・・・・」

「だから、、、、、それでも、、、、あんな事件を起こしたのは、、、、視線をそらすため」

「視線を逸らす?」

「ああ・・・我々と王国民のあいつに対しての情報が混乱してる・・・つまり今は情報の連結が取れなくなってる。本来我々が探してるのは『聖女を狙う黒髪で憎たらしい顔の』アイツなのに王国民が知ってるのは『王国旗を狙う銀髪で変に特徴的な顔の』アイツ・・・視点を明らかにずらされてる」

「でも、、、寧ろ結果として我々は『曇の奇術師』の存在を知り警戒を強めた・・・本末転倒では?」

「そうか?今のままではどっちにしろ聖女は救えないんだ。私に陛下がいる限り絶対に不可能なんだから」

「そうですね・・・じゃあどうして?」

「俺なら、、、確率を上げるためにだ」

「確率?」

「例えば、、、火薬庫や武器庫を破壊したり、、、警戒が薄くなる国家公認魔道具師の家に忍び込んで魔道具掻っ攫う」

「・・・え?」

「確率を上げて、、、少しでも。無謀ではなく確実にしようとし、、、それでもだめなら無謀の中につっこもうとする。なら・・・」

「じゅ、、、将軍!」


私があと少しで結論に達しようとしている中、一人の兵士が慌てたような表情で駆け寄って来た。


「どうした!」

「ミル様が、、、王宮にいません!」

「なんだって!?」


そうだ、、、ミルを狙うしかない

兵士にゼノンが詰め寄る


「説明を!」

「ミル様の部屋に食事をお届けしに入ったら、、、全く別人の女性が・・・捕縛しようとしたら逃げられ・・・申し訳ありません!」

「「女性?」」

「黒髪でも銀髪でもなく・・・白でもなく?」

「は?」

「答えるんだ」

「は、はい!赤毛の、、、エルフでした」


・・・・・サクラ=レイディウスでもなく、シノンでもない。

あの時見た一味の中に赤毛のエルフはいなかった。


「取り敢えず違うようですね・・・」

「ああ、、、だが・・・」

「どちらにしても兵をミルの屋敷に派遣します。王宮にいないなら屋敷の方も心配です」

「・・・・聖十剣を派遣できるか?」

「・・・・・・・本気ですか?」


私はゼノンの質問に首肯する。

周囲に人がいないことを確認し、兵士に下がるよう命じる


「後は任せろ・・・今日はもう休んでいい」

「し、しかし!」

「責任取れるか?取れないなら後は我々に任せ、今日のことは口外しないことだ」

「っ!?・・・は、はい!」


兵士が足をぐらぐらばたつかせながら走り去る。

本当は真面目な兵士なのだろう・・・悪いことをした。

しかし善良な王国民に聖女の秘密を知られてはならないのだ・・・本当にすまない。

わびと言ってはなんだが、もう将軍職ではないが顔を覚えておこう

周りに聞こえないようゼノンの耳元で理由を説明する。


「もし、、、あいつらが関わっているのなら並の兵士では太刀打ちできない。私やゼノンが出れば警備が薄くなり思うつぼ・・・最低でも聖十剣を・・・それも内密に」

「根拠も何もなく聖十剣は出せませんよ・・・想像じゃないですか」

「頼む」

「・・・・・・・・分かりました。現在動かせる聖十剣は二位と三位。使いと向かわせるには戦力過剰ですが、、、彼らをミルの屋敷に向かわせます。」


それから数刻の後

ゼノンに安眠から叩き起こされた聖十剣二位と三位はミル屋敷に向かった。

そして、、、屋敷の荒れ具合に唖然とするのだった。




時刻的にはミミアンがサクラとトツカに事情を説明している頃

屋敷の主七代目ミルと客人の魔族ビグラスは秘密の会談を続けていた。


「そんな、、、師匠が・・・」

「それを踏まえて決断するがよいのである」

「・・・・・・・・・まだ決められない」

「お主、、、魔国はそんな悠長に待てないであるよ?こっちにつくか元鞘に居続けるか・・・中立はもっとも危険な立ち位置であることを自覚せよ」


ミルはすうっと一呼吸置くとぎっと睨みつけた


「あくまで魔国と僕は対等のはずだ・・・あくまで技術と技術を交換するだけの関係だったはず。」

「そうであるな・・・」

「僕が最も欲しい技術をこっちにつかなければあげないと言いだしたのは・・・急に契約違反をし出したのは魔国だ。お前たちは既に信用を失ってることを忘れるな?」

「契約とは対等であるからこそ結ばれる、、、弱みを知られた時点でお主は負けているのであるよ」

「・・・・・・何だと?」

「王国も同じことを思っているのではないか?ほら」

「・・・何故聖十剣がうちの庭に?」


庭を指さされ窓から覗けば聖十剣二位と三位が庭の惨状に驚きつつ、庭を探っていた。


「まさかエマがしくじったのか!?いや、、、僕が王宮にいないからといって聖十剣が来るか!?何故!?」

「どうやら考えてることは同じなのでござるよ」

「なに!?」


魔力の高ぶりを感じた。

後ろを振り向けば六本の闇の剣を引き抜くビグラスが


「おい!この場は僕が納めるからじっとしててくれ!」

「もう無理である・・・聖十剣が来てる時点で分からんのかお主は」

「どういうことだ・・・」

「裏切りがばれていたのであるよ」

「!?」

「そして、、、それでもお主の技術を買いたいようである」

「・・・・・・・・・・・そんな」

「もう中立というぬるま湯にはおれんであるよ?王国につくか、魔国につくか・・・そして弱みがあるお主はどちらについても今より苦しいだけ・・・言ったであろう?早く選択すべしと」


ミルは何かが壊れる音を聞いた。

裏切り者とバレ、、、今まで通りの待遇は望めないことを

王国につけば飼い殺し、魔国についても飼い殺し

ミミアンは・・・・どうなるのか?


「ま、まずは送り込んできた聖十剣の始末が先か。よく見ておくがよい・・・勝った方がお主の『飼い主』である」

「そ、、、そんな、、、」

「恨むなら自分の弱さを恨め」

「ぼ、、、ぼくのせいで、、、ミミアンが?」

「そう、、、お前のせいである」


ミルは涙をほろりと流した。

ミミアンへの謝罪を込めた涙を一筋

ミミアンを結果的に早死にさせてしまう自分の情けなさに二筋

迷ってしまった自分の愚かさに滂沱


「うわああああああああああああああああっ!」


頬を掻きむしり、髪を引き抜く。

地面を転げ回る。

喉が焼けこげる程叫ぶ。

気が遠くなる・・・それでも頭の中に浮かぶミミアンを消せない。

自分への様々な不の感情が消せず

感情が人格を壊した。





「庭が・・・ここまでされてるとは思わなかった」

「しかも、、、この被害は想定外じゃな」


聖十剣三位ボボルノ・オーリエが庭に残された地割れをなぞる。

唖然とするエルフの青年の背後に立つ壮年の男性は長いあごひげをなぞりながらため息をついた。


「どうやらゼノンの小僧の言う通り、中々の強者がいるようじゃな」

「叩き起こされた時はどうしてやろうかと思ったが・・・悔しいがナイスな判断だったな」


聖十剣二位ジョージ・ツェルノスは腰から黒と紫で彩られた大ぶりのナイフを引き抜く。

そしてそのままボボルノの首根っこを掴んだ


「下がれ!」

「え?、、、っておお!?」


ボボルノがずざあっと引きずられる。

ジョージが見た目からは考えられない筋力で移動したせいで長い長い引きずられた跡が残る。

ついさっきまでいたその場所には六本の槍のように長い大剣が突き刺さる。

慌ててボボルノも立ち上がり背中のパルチザンを構える。


「気配は消してあったと思うが・・・流石聖十剣であるな?」

「年季が違うんじゃよ。その大ぶりな剣を作る際の魔力の放出を感知出来た。」

「微かに制御したはずだが・・・」

「魔力トレースする義眼を仕込んでおるのでな」

「なるほどである・・・」


ジョージ爺さんが右目のコメカミをトントンと叩く。

大剣の上で器用に立つビグラスはどうやらと切り出す。


「正直言うと獄炎将軍とやりあってみたかったのであるが・・・相手に不足なしのようであるな!」

「魔族の若造が・・・あのお方の前ではお主ぐらいではそうもたんぞ?」

「いやあ、、、若気の至りは大事だと思うぜ、ジョージ」

「エルフのお主が若い側に立って物を言うな。お主なんだかんだで儂と同じ年じゃろうボボルノ」

「はっは、エルフィリアジョークだよ」


ボボルノとジョージはどうやら仲が良いらしい。

見た目は息子と父親ぐらいの差がありながら実年齢的にははそうでないようだが、そう感じさせないだけの仲の良さを感じさせた。

魔族のビグラスが思わず片方殺してしまった場合、この仲を壊すことになるのかと惜しむぐらいには


「ジョージ程の感知能力はないが・・・戦闘には自信があるんでさっきの不覚は忘れてくれ」

「ボボルノ、、、お前の実力は否定せんが・・・お前の感知能力の低さは単純に周りに気を使わないお主の駄目さのせいじゃ」

「うっさいなあ」

「・・・・・始めても?」

「「どうぞ」」


ビグラスが腕試しとばかりに『常闇の剣』を六本の手にそれぞれ生み出し、三本ずつ撃ち出す。


「『爆発槍』そして本質能力『増殖マルチプル』」

「『常闇の盾』」


ジョージ爺さんは手に大きな闇の盾を出し、三本の剣をそこに沈めこませる。

闇の特性だろうか、、、衝撃音もなくぬぷぷと何処かに剣が消えていく。

対してボボルノは炎を纏ったパルチザンを一度振るう

一度、、、なのに爆発音が三回


「・・・面白い本質能力でござるな・・・しかも炎の派性属性『爆炎』」

「悪いね、ジョージ。また派手さで俺が勝っちまった」

「ボボルノ死ね」


耳元で爆発が起きたせいでキーンとなったジョージがナイフで小突く。

ボボルノはそれは勘弁と避けつつ、、、またもや魔術を


「『詠唱短縮爆槍式:一の型』+『増殖マルチプル』」


ボボルノが何気ない動作でパルチザンを前に突き出す。

届くはずない距離にいるビグラスがそれを避ける。

何しろ避ける前にあった場所には爆発光があったのだから。

そして視界の中にはパルチザン

投げた?

いや、、、増えたというべき


「俺の『増殖マルチプル』はどんなものでも制限なく増やす・・・槍の斬撃でもジョージ爺さんの髪の毛でもな!」

「死ね、ボボルノ」

「・・・厄介な。しかも詠唱級を詠唱なしに?」


避け切れなかった腕の火傷を闇魔術で保護しながらビグラスが唸る。

ボボルノはパルチザンを構え、そして再び振り降ろす。


「『増殖マルチプル』」

「!?」


地面に大きな穴が開く。

斬撃を幾重にも増やし、増えた斬撃が土を斬り刻んで斬り刻んで

そして上に乗るものを支えられなくなるほど耕される

急に穴が出来たことでバランスを崩したビグラスの頭上にはボボルノが飛び上っている。


「悪いが意外と俺は根に持つタイプなんだ・・・だから頭上から六本だ。」


『詠唱短縮爆槍式:二の型』+『増殖マルチプル


増えたパルチザンを振りかぶって投げる。

投げられて赤熱化したパルチザンは増えて増えて増えて増えて増えて六本に

先端に爆発エネルギーが込められた六本の槍は全てビグラスに突き刺さる

そして最低詠唱級六発、、、それ以上の威力が解放される。


巻き起こる砂利を纏った旋風

熱が解放され、寒気がつつむ夜の街を熱気で埋め尽くす。

そしてボボルノは着地し、連続バク転。

決まった・・・とか言いながらジョージにドヤ顔した。


「ふう、、、ちょっと頑張りすぎたかな?」

「死ね、ボボルノ」

「さっきからそればっかじゃん!?」


うっとおしげに振りかかる土埃を払いながら、ジョージはドヤ顔のボボルノを小突いた

小突き返すボボルノに小突き返すジョージ

シノンならとうに気絶しているであろう詠唱級六発以上のエネルギーを使いながらもぴんぴんしてるボボルノもボボルノだが庭が詠唱級六発分以上の力が解放され既に更地と化してる中、、、土埃ぐらいしか被害がないジョージも十分に人を辞めている。


「それに何終わった顔しとるんじゃ」

「え?」

「はーっはっはっはっはっは!」


闇を身体中に纏わせた大男が周囲の土燼を吸い込みながらぬそぬそと出てくる。

そして闇の衣を剥ぎ取って出てきたのは・・・無傷の六本腕の魔族


「詠唱級『強化闇纏衣』が間に合わなかったら死んでいたな!」

「『外装型身体強化』・・・詠唱級のは初めて見るな」

「防御力と瞬間的な力の発現量を優先するなら最高の術式である!コスト度外視で並の魔族では十分で干上がるがな!」

「「・・・・・・」」


そんなバカな魔術があるかとツッコみたかったが自分たちもそう言う類の術式を使える立場なので言えなかった。


「さあ、、、そろそろ聖十剣二位のお主も戦わんのか?『常闇の剣』」

「・・・どうやらジョージも戦わなきゃいけないようだぜ?」

「そのようじゃな・・・こんな化け物相手にどう戦おうか、、、ぬっ!?」

「な、、、、、なんだ!?」


大きな光と大きな音が周囲を急に包みだす。

まるで何百個もの発光源と発音源があるかのように。

魔国側も王国側も予想しなかった方向からなので視界と耳が一時的に使えなくなる。







「生きてるか?」

「どうやら・・・な」


ジョージとボボルノはお互い背中合わせになり、どこから攻撃が来ても反応出来るようにしていた。

その判断はある意味正しく、、、ある意味無駄で、、、最終的には間違っていた。

視界と聴力が回復する中、、、彼らの足元にどさっと大きな巨体が落ちる。


「ぜはあ、、、ぜはあ、、、、男とはいえ同情するが、、、、ミミアンの左腕の分だ・・・」

「え、あったよな?」

「・・・そういえばそうか。じゃあ、全部俺の分」

「すっごい理不尽な気がする」


聖十剣二人の足元に落ちてきた巨体はビグラスだった。

・・・余程男としてあってはならない一撃を喰らったのか白目を剥いている。

まるで、、、砕けるまで何度も破城槌を叩きつけられたかのような・・・そんな状態。

ビグラスの下半身の『強化闇纏衣』は一部だけ完全に砕け散っていた。

ついでに言うととてつもない大きな大きな大穴が庭に開いていた。


「「ななななんてことを・・・」」


聖十剣として幾度も戦を潜り抜けてきた。

こういう状況に陥ったこともある。

だからこそ・・・自分は相手にこういうことはしないぞと思うものだ。

それなのに、、、、馬鹿みたいな魔力量で形成された詠唱級魔術を遠慮なくぶち当てるなんて・・・そんなのキチガイの所業だ。


「さあ、、、、次はお前らの番だ」

「ジョージ、、、魔族のアイツも相当怖かったが・・・・俺はコイツの方が怖い」

「・・・・・同じ意見じゃ」


聖十剣二位と聖十剣三位

王国の何千人もの騎士・魔術師の中の最高位の戦士

悪名高い魔族の中でも上位魔族であろうビグラスと闘っていた時でさえ余裕があった彼らの顔は恐怖で彩られていた。

砕かれた強敵ともビグラスのプライド(物理)

新たに立ち塞がるキチガイと常識人(?)

新たな敵の強大さに恐怖にまみれる聖十剣二人ガクブル

ガルブレイクとゼノンに対し怨念の呪詛を唱えながら聖十剣二人はキチガイに挑む!

全ては己のプライド(物理)を守るために!

若干内股になりながら戦う聖十剣二位の本質能力とは?

キチガイの前に現れる懐かしい人物は?

全てが絡み合いながら、、、一人覚醒する人物が?


次話もお楽しみに!

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