表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/183

第2章『激情』part1

如峰月桜、居候始めました。

刑法第130条―住居侵入罪

正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。

刑法第235条―窃盗罪

他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。


一つの行為が二つの罪を犯した場合、観念的競合として重い方の罪で裁くらしい。

つまり住居に無断で侵入し盗みを行う『空巣』は窃盗罪と同じ罪刑量で罰せられる。

ミルは普段宮廷魔道具師として宮廷で生活している

その隙に家に忍び込む今回の作戦は日本では窃盗罪にあたる。

被害額によっては執行猶予つくらしいけど、異世界だとどうなんだろうな?


椿によって解決できたのはあくまで感覚鋭敏化の対症療法。

感覚鋭敏化になる要素は解決されていない

それに今まで通り異世界で負ったサクラの痛みは『思い出し痛』となって現実の俺に還ってくる

殺しや窃盗の経験が俺にどんなストレスを与えるか分からない。

サクラから今回の空巣には一切参加するなと言われた。

魔力以外のバイパスまで切っておけという徹底ぶりだ。


パソコンの動画によるニュースで富豪の家に忍び込んだ人間がどういう罪に当たるかって話をうんちゃらかんちゃら解説しているのを寝ぼけ眼でぼうっと見ていた。

サクラが眠った瞬間に俺の現実が始まる、俺が眠った瞬間にサクラの現実が始まる。

それは変わらないのだが今までは門を潜り抜けた状態でハッと意識を取り戻すような交代だったのに、椿が来てからはベッドの上で意識を取り戻すようになっていた。

頭は何故だか熟睡したかのようにスッキリしている。

記憶だけは実際に異世界にいたかのように鮮明なのに・・・


今回のことは俺の体への影響を図る指標になるかもな


「このブーツの活躍するときが・・・うへへ」

「椿は寝てると・・・」


硬い畳の上で雑魚寝していると頭がいくらすっきりしていても体の節々が痛い。

ぬっと体を起こすと部屋の主がパソコンから顔を上げた。


「あれ?起こした?」

「いんや」

「いつも早いね・・・ふあああああっ」


伊月葵の兄、藤堂勝海。

父親の藤堂庄司の元を飛び出して現在一人暮らししている。

普段の生計を自らのサイトの広告掲載料で稼いでしまっている彼のもうひとつの一面は朝四時までパソコンをカタカタさせ学校に行っていない廃人様である。

目を充血させ、極度の肩凝りで死にそうになってるが一応これも稼ぐための手段らしい。

ブログのネタ探し的な・・・?

彼の肩をマッサージしながら彼が寝ずに見ているニュースサイトを一緒に見る。


「いまさら空巣なんてネタになんのか?」

「掘り尽くされたネタでもコメント上手くやればサイト炎上させられるんだよ。」

「炎上させてでもサイト利用者増やしたいと・・・」

「契約上、サイト利用者数=収入だからね。今回も炎上頑張るよ!」

「炎上を頑張るってなんだよ」


藤堂勝海はそういえば・・・と表示されてる時計を確認しながら振り向いてきた。

本来なら美形な彼の顔は充血眼、隈、無精髭でスリーアウトだった。


「明日っつうか、今朝?どっちでもいいけど君と妹さんが居候してから三週間になるけどそろそろ家に戻れそうかい?」

「・・・聞かないでくれ」

「別に良い年頃の男女でホテル取れない事情とか分かるしきちんと家賃負担してくれてるから文句ないけどさ、やっぱり家に戻るべきだよ」

「俺もほんの数日で戻れるものと高をくくってたよ」


朝顔さんは何が何でも許さないという姿勢を崩さない。

スーザ先生によると朝顔さんが食事を作ってくれないほど怒っているらしく、毎日カップ麺やら出前らしい・・・米すら炊けねえのかあの二人は。

桔梗さんは珍しくプロジェクトに手間取ってるのか、帰って来ないし俺が自分で何とかしないといけないのかもしれない。


食事環境についてはこの1LDKの藤堂勝海部屋でも似たようなもんかもしれない。

パソコン、冷蔵庫、電子レンジ、寝袋ぐらいしかない彼の部屋では料理するのさえ一苦労だ。

あ、そいえば最近電気カーペット引いたんで少しだけ暖かい。

今まで藤堂勝海に料理はどうしてたのかを聞けば毎週幼馴染にお金払ってまとめて食事を作り置きしてくれてたみたいで調理器具が存在してなかった。

しかたないので朝顔が家にいない時に制服や着替えともどもと一緒にスーザ先生から野営用の調理キットを借りてきた。

けど火力足りねえし、炊飯は失敗ばかりだしそもそも屋内で使えるもんじゃないからと夕飯ぐらいしか使ってない。

忙しい朝昼は大抵コンビニ飯だ。


「、、、ますた・ますた?」

「ん、起きたか?」


三週間で大抵の生活リズムが出来ていた。

藤堂勝海が起き続けて

俺が5時くらいに起床

俺が起きたのに感づいて椿がぼんやりと起床

三人で朝食

俺達兄妹が登校ぐらいに藤堂勝海が就寝

みたいな感じ


一人暮らしだから居候しても大丈夫だろくらいな感覚で押しかけたが意外とうまく行ってる気がする

料理と三人(二人)が寝るには狭いという点さえ我慢すれば藤堂勝海は我が強い性格じゃないから同居しやすかった。


「んじゃ、飯買いに行ってくるか。」

「あ、ドクターぺッパー数本とおにぎり梅を」

「・・・栄養偏ってね?」

「好きなんだからいいだろ」

「ほいほい、、、」

「わたしもいきます」


ぶっかぶかのジャージを着て、髪がばっさばさになった椿を引き連れアパートを出る。

男所帯なため、髪をとかしてやるぐらいしか出来ないが彼女の為にも髪の結び方を覚えた方がいいのかな?

二人で近所のコンビニに入る。

当たり前だがあまり人はいなかった。


「何か食いたいものがあれば、持って来いな」

「はい、、、とはいってもM・Mと味覚似ているようなのでいつも通りM・Mと同じものでいいです」

「、、、そか」


藤堂勝海も我は弱い方だが椿はそれ以上に我を通そうとはしない。

それどころか俺のいつも二歩三歩後ろを歩く的なスタイルを一貫している。

確かに元はサクラの本質能力であるとはいえこの世界ではそれは関係ないんだからもっと・・・もっと自分を解放してくれればいいと思う。


「とはいえ知識も記憶も巡り巡れば元は俺か・・・」

「なにか言いました?」

「いんやなんでも・・・」


桔梗さんや朝顔に似た顔を見て、彼女の元が俺であることを今さら思い知らされた。

そして彼女についてのもろもろは俺の責任であることを改めて申し訳なく思うのだった。


「そういえば朝顔さんとは連絡とれましたか?」

「伊月兄にも同じこと言われたよ・・・着拒されてる相手にどうやって連絡とろうかねえ?」

「やはり話すべきでは?」

「荒唐無稽な話だぞ?今さら話せば余計に刺激するって・・・」

「M・Mは本当に不器用ですね」

「・・・ハイ×2」


頼まれた物と自分たち用にコーヒー牛乳と惣菜パンを買う。

帰り道を歩いていると藤堂勝海部屋の前に一人女の子が立っていた。

着物を着た人間というのは適切な時期になればいくらでも見ることが出来る。

けども、彼女は普段から着物を着ているだけの着こなし感があった。


「・・・あら?」


おかっぱ髪のその少女は俺達の顔を見ると、あらら?と小首を傾げた。


「もしかして、、、如峰月さん?」

「「そですけど」」


妙に藤堂勝海部屋がドタバタ音がするのに嫌な予感を感じながら、おっとりとした彼女の様子からたいしたことはおこってないと信じたい。


「ああ、あなた方の荷物は先に出しておきましたから大丈夫ですよ?」

「・・・え?」


どったんばったん音がする扉の前で笑顔の彼女とドン引きする俺達。

ついでに彼女が指さした先にはブルーシートの上に並べられた荷物。

てか、人様の荷物勝手に動かすんじゃねえよ。


「中で何が起こってるんです?」

「ああ、お義母様が今勝海さんを矯正してるので」

「お、お義母様?」

「あ、ご挨拶遅れました。私藤堂勝海の婚約者、()生月(いつき)()(おり)と申します。」

「あいつ引きこもりのくせに、こんな和装美少女と・・・」

「M・M、失礼ですから」


高校生の分際で婚約か。

如峰月本家と縁を切っているとはいえそういうのが早すぎるとか偏見を持ってはないが・・・身近な人間が身を固めてるって聞くのはなんか心がぐらつくな。


「てか、今更っすか?」


藤堂勝海が引きこもり始めたのは一年ほど前。

それなのに今更引き摺り出すとかいくらなんでも遅すぎる。


「伊月家と藤堂家はお義母様とお義父様が離縁されてからは仲が悪くなりましたから。今まで勝海さんがどうなってたかを知らなかったんですよ。それに、勝海さんって意外とガード固いですし。あなた方が程よくガードを崩してくださったお蔭で簡単に侵入できました(伊月母が)」

「・・・どうせだったら伊月にも声をかければよかったのに」

「まあ、、、勝海さんは葵ちゃんには情けない今の姿を見られたくないみたいだし武士の情けです」


婚約者コエェ・・・

幼馴染に料理作ってもらってたとか言ってたけど、多分この娘がその幼馴染だろう。

しかしその目的は藤堂勝海を引きずり出すこと

そしてこの日の為に何か月もかけるとは・・・


「そろそろ終わりそうですね・・・1LDKじゃなければ私も参加したんですけど」

「参加?」

「ええ、卯生月は

「僕は一生ネットの世界で生きるんだあっ!!!」

「あ、窓から!?」


ガッシャーン!という音と共に窓が割れる音がする。


「あらあら・・・二階なのに窓から飛び降りたみたい」

「あ、伊月兄」


窓から飛び降りたようで、額から血を流しながら必死で逃げ出すのが二階の玄関から見える。

彼女はそんな婚約者を見てあらあらと呟くと、手持ちの巾着袋に手を入れた。

ジャキン


「「・・・」」

「とう」


手から金属製の長筒を取り出したかと思ったら、一振りで伸びて薙刀に変わった。

てか、折り畳み式薙刀!?

そんな物騒な代物をさも当然かのようにもった美織さんは階下へと飛び降りて逃げ出す伊月兄の前に立ち塞がった。


「みっ、美織!おまえか、あの化け物を招き入れたのはっ!」

「しょうがないでしょう、伊月家にばれちゃったんですから。そもそも葵ちゃんにばれててよくも今まで伊月家に引きこもってるのがばれなかったって話ですよ」

「くっ、、、だらだら楽しい引きこもり生活が出来ると父方の方にひきとられたのにっ・・・」

「・・・取り敢えず伊月家が引き取りに来てくれたみたいですし再教育してもらいましょうね?」

「断る!あんな早起き早寝を心掛けてる規律正しい家に戻る気はない!僕は不規則な生活を送りたいんだ!」


初めて彼が我を通してる姿を見たがそれが『廃人生活を送りたいだと』は・・・

椿が初めて我を通すとき、、、こんな風にはなって欲しくない。


「くっ・・・」

「私とやりあうつもりですか?」


無謀にも傘を構える引きこもりと細身の薙刀を構える和装美少女。


「漢には!退いてはならない刻がある!」

「ほざきなさい」


ジりりと構え合うこと数瞬、先に動いたのは藤堂勝海だった。

先を手首に向けながら疾走する。

しかし武器が傘であろうとサーブルであろうと尺が足りない。

彼女の一振り二振りであっという間に寸断され・・・


「「「刃引きされてないっ!?」」」


ドン引きする俺

もう少し近づいてたら斬られてたと本気で怯える藤堂勝海

まだ現実の常識に慣れてない椿は喜び気味の声を出す。


「すごいです、M・M!有段者ですよ、あの人!迷いのない良い一閃でした!」

「・・・いやいや迷いなく人に刃物向けるって何?切り裂きジャックですか?」

「卯生月は薙刀で有名な一門ですからね。師範代の彼女なら傘だけこま切れなんて余裕じゃないですか?あの引きこもりにはいい薬でしょうよ」

「「いつの間に!?」」


逃げ回る引きこもりとそれを追う美織嬢。

それを見ていたらいつの間にかジーパンにセーターというラフなスタイルの女性が隣にいた。


「あ、いつも葵がお世話になってます~葵とあのバカの母の伊月晴海です」

「あ、ども」

「似てますね、手に刃物持ってるとことかが」

「そうですか~?」


義娘に?娘に?

椿が見ている視線の先には真剣っぽいレイピアがあった。


「いやあ、やっぱり伊月ってフェッシングの名門『だった』んでどうしても・・・ね?」

「真剣持つ意味ワカンナイデス・・・」

「ぐあああああっ!」

「どうやらあっちも終わったみたいね?」

「え?」


視線を戻せば伊月兄は美織さんにボッこられ済だった。


「さて、、、二度とこんな人間から外れた行動を取らせないようにアパートも解約させないと」

「お義母様、うちの家で根性叩き直しましょうか?そのまま、婿入り修行積ませられますし。」

「伊月ももう大きな力持って無いし婚約も既にあってないようなものなのに・・・意地でも結婚する気なのね。」

「ええ、お義母様♪」

「く、、、理想の、、、一人暮らし、、、がふっ」


藤堂勝海を引きづりながら去っていく。

剣と薙刀を持つ二人はまさしく母娘なのかもしれない。

血は繋がってなくても仲良くなれるか・・・難しいなあ家族ってやつは

しんみりとしていた俺が再び住処を失ったことに気付くのは数分後のこと。



「泊~め~て~」

「い~や~よ~」

「「・・・・・・・」」

「泊めろごるぁあ!」

「嫌じゃ、ボケェ!」

「・・・お二人とも何をなさってるんですか」


椿が呆れ顔で俺とハマリュウの喧嘩を見ていた。

俺は閉じられそうな扉を必死でこじ開けようとしながら

ハマリュウは必死で扉を閉めようとしながら口論を続ける。


「朝っぱらから何かと思えば泊めろだと!?誰がお前みたいな疫病神泊めるか!」

「ひでえな!野球部副部長がそんな酷いこと言っていいと思ってんの!」

「なら新聞部副部長で生徒会副会長のお前は友達を厄介ごとに巻き込んでいいと思ってんのか!」

「俺達は友達じゃない!」

「さらっと何言ってんだ!?」

「親友だ!」

「・・・いや、流されねえよ!?」

「「ちっ」」

「なに、この俺が悪い感じ!!?」


ハマリュウには力で勝てるわけがないのであっさりとドアから引きはがされた。

せっかくなので三人で登校することにした。

ハマリュウは朝練前から何でこんなに疲れなきゃいけないんだとため息をついて文句を垂れる。


「お前一人だけでも大変なのに何で隠れ妹まで面倒見なきゃいけねえんだ」

「隠れ妹?」

「お前のことだかんな、椿」


椿が首を傾げてるけど、お前が作った設定がそもそもの原因なんだからな?

忘れんな


「それに桜の最近の学校での八方塞がり具合は有名だし」

「・・・っ(望んでない方向でNPCからの卒業を迎えようとしていることに対しての涙)」

「ほら、言ってるそばから」

「?・・・・・・あ」


目を向けた先には朝練に行こうとしてたとのか朝日奈さんと優子と鉢合わせした。

優子は相変わらず俺を見る度に思い出すのか顔を赤らめてそっぽを向く。

朝日奈さんはそんな彼女を見る度に俺を涙目で睨んで来る。

・・・謝れば許してくれますか!


「「・・・おはようございます」」

「おはよっす」

「おはようございます」

「・・・・・・・・オハヨウゴザイマス」

「「朝練があるので失礼します」」


何故かお二人さんが気まずそうに俺から目を逸らし、気まずそうに敬語で挨拶。

そして気まずそうに去っていった。

頭を抱えざるを得ない問題が多すぎる。


「な?」

「・・・うああああああ」

「M・M、あのお二人とは三週間以上あんな感じですけどどうするんです?」

「こっちが聞きてえよぉ・・・」


キスされたことばらされた女の子のカウンセリングなんて出来ないし

キスしたことを幼馴染の大好きな女の子に説明出来るほど心臓強くもない。


「ま、頑張れや。何があったか知らんけど」

「・・・無理言ってごめんな」


ハマリュウは巻き込まれるのはごめんだとさっさと朝練に行ってしまった。

生徒会内部の話だから学校内にはそれ程広まってないのが幸いだが、あんまり朝日奈さんにああいう微妙な態度を取られると・・・その・・・朝日奈親衛隊が・・・邪推して・・・ね?


「ふう・・・」

「M・M、すごい数の視線を感じます」

「・・・逃げるぞ」




「あれ?如峰月?」

「ぜえ、、、ぜえ、、、、はあ、、、、はあ、、、、」

「おじゃまします」


教室では狙われるので、生徒会室に逃げ込んだ。

この学校の誰もが恐れる鷺ノ宮高校生徒会長兼新聞部部長、古畑真琴の縄張りであるため誰も侵略しないようなのだ。

お蔭でこの三週間お世話になってます。

息を荒げる俺をまたかと呆れたような眼で見ている古畑さんは再びパソコンに目を戻した。


「はあ、、、はあ、、、ふう」

「良く続くね~、仕事が後期はほぼないからいいけどさ・・・さっさと仲直りしてくれないといろいろしたいことできなんだけど~」

「すいませんね・・・」


古畑さんがカタカタやってる会議机の真向いの席に座る。

椿も俺の隣の席に座った。

彼女はそれでも一心不乱にカタカタやっていた。

・・・なにしてるんだ?


「新聞部の定期新聞も新人大会用の提出作品も出し終わったでしょ?なにしてんです?」

「君が台無しにした歓迎会をやり直そうと思ってね・・・普通にやるのも面白くないからちょっとゲームでもしようかなと」

「うっ・・・」


彼女は淡々と俺の心を傷付けながらカタカタを止めようとしない。


「いやあ、生徒会なんてろくでもないと思ってたけどこのパソコンの性能ぱないわ~」

「そっすか・・・」

「M・M、頑張るしかないです。朝顔さんと仲直りしないとどうにもならないです」

「その前に今日の宿どうすっかだな」

「何?三週間も経ってて未だに家帰れてないの?」

「ええ、それどころか伊月兄の家追い出されたんで今日の家すら怪しいです」

「ふくはははっ!」


古畑さんは手を休めることなく大笑いする。

相変わらず変なとこがツボらしい。


「いっそのこと今日はうち来るかい、椿ちゃん?」

「え、俺は?」

「可愛い女の子のうちに男連れてったらどうなると思う?」

「古畑さんは可愛い女の子じゃないですよ♪」

「ふふふ、、、黄金比派の人間に君が住む場所無いのにこじつけて黄金比の家に居候させてもらおうとしていると連絡入れといたよ」

「古畑さぁん!?申し訳ありませんでしたぁ!」

「「「「「「「「ほ~~~~づきく~~~~~~ん!お話があるんだけどぉ~~~~!」」」」」」」」

「もう遅い」

「ちくしょう!椿、今日から古畑さん家にお世話になれ!」

「は、はい・・・」



生徒会会館の玄関、裏口は間違いなく囲まれているだろうからとトイレの窓から飛び降りる。

朝日奈派からも黄金比派からも狙われている今、学校は危険すぎる!

表門も張られているだろうから、裏門からでよう・・・

走って、転んで、見つかって(ギャア!?)

学生の身分のはずなのに、何でこうもややこしいことに巻き込まれてるんだろう。

そして走った先にあるものは


「・・・そもそもの元凶ってわけな」


薄ら汚れて寂れた門

不吉で不気味な封鎖された門

でも俺は知っている、、、この門は異世界に『繋がっていた』ことを

本当は畏れおおいとまで萎縮させてしまうぐらい大きな立派な門になることを

この三週間何度も訪れたが、一度もこの門は俺が望む形にならない。


本来ならいつも通りひょいと飛び越えてしまう所だが、、、つい見て考え込んでしまった。


つい流してしまっているが、いくらなんでも不思議なことが起こり過ぎてる・・・

俺自身が変わったからか、サクラが変わったからか

若しくはツバキが生まれたからか

何かが変わったからこの門は俺には使えなくなったのか?

何故眠るだけで異世界に行けるのか?


若しくはもう『門』を使わなくてよくなったから、『門』の使用権が誰か別の人に移ったとか?


「まさかな・・・」

「何がまさかなんだ?」

「・・・伊月?」


声がしたので振り向くと伊月が立っていた。

彼女は声をかけてきた割には俺と目を合わせようとしなかった。

風が・・・強く冷たい風が二人の間を抜ける。


「どうしたんだ?いつもはもうちょっと遅いだろ?」

「生徒会室に忘れ物してたから早めに来たんだが・・・お前が見えてな?」

「追ってきたってか?」

「そうだ・・・そろそろ戻って来ないのか?」

「ははっ、、、どっちが居候か分かんねえな。その言い方は」

「・・・・・・・・」


伊月はあの日からずっと俺と距離をとってる気がする。

冗談一つ言っても笑ってくれない。

妙に悲しそうな顔をするだけだ。

・・・・すごく気まずい。

仕方がないので言葉を重ねて、話を逸らす。


「・・・・朝顔の様子はどうだ?」

「家からお前の写真がなくなった」

「え?」

「お前の部屋の物が全て、、、リサイクルショップに、、、」

「はあ!?」

「そして、、、そして、、、」

「もういい!聞きたくない!」


今日あたり話に行こうかと思ったけど絶対無理だわ!

蹴り殺されるッ!

伊月がどことなく遠い目をしている・・・とても遠くを見ている。

てか、話題が聞きたくない方向に逸れてるわ!


「私もスーザ先生も止めたんだが、、、まだまだ生ぬるいと、、、」

「ああ、、、そうか」


朝顔さん、、、本当に俺の妹なのだろうか。

血の繋がりのない『妹』椿と比べると・・・ねえ?


「飯は大丈夫か?血の気の多いもの食ってるか?」

「既に血の気の多い生活になってるのに?」

「・・・うわ、帰りたくねえ」


伊月の頬は良く見ると少しこけていた。

栄養が偏ってるからだろう・・・朝顔が食事を作ってくれないらしくレトルトやらインスタントばかりらしいし


「朝顔がそんな状態なら、、、食べる物についても適当にしてそうだな・・・」

「・・・?」

「伊月、、、朝顔に出来るだけ血の気の多いもの食わせてやってくれ」

「なんでだ?」

「朝顔はあんまり自分のこと喋んないから知らなかったかもだけど実は貧血気味でな?」

「本当か!?」

「普段は俺が夕食しっかり作ってるから大丈夫かもだけど朝顔がそんな状態だと不安だ。今日の夕食は外食でも行ってしっかり食わせてやってくれ」

「・・・そんなに思いやってあげられるのに何で朝顔ちゃんに説明しないんだ?何があったのか?」


・・・・伊月は気付いてるのか?

俺と椿が兄妹なんかじゃ無いことに?

伊月は俺に詰め寄りくしゃっと俺の制服を両手で掴む。


「私は『それ』でも構わない・・・私が関わるところじゃないから。でも、、、朝顔ちゃんにはきちんと説明すべきじゃないのか?お前の抱えるモノ・・・全部伝えなきゃいけないんじゃないのか!?」

「・・・妹としての意見か」


『妹』として『兄』に対して抱く思い

それをガツンとぶつけられた気がする・・・

でも彼女の行為にある一つだけ残念な部分

それが俺の心を動かすのを妨げた


「そういえばだが、、、今日お前の兄貴が伊月家に引きづりだされたぞ」

「え?」

「美織さんと伊月母が協力して、ついにな」

「それ、、、本当か?」

「ああ」

「・・・現実味が湧かないな。本当に本当か?」

「ああ」


ヒートアップしていた彼女が急に冷静になった。

だが冷えているわけじゃない・・・感情が溜め込まれてるだけだ。

そして抑えきれなくなって噴出する。


「なんで私を呼ばなかった!ぶん殴りたかったのにぃ!」

「・・・多分三人でタコ殴りされると死んじゃうからじゃないか?」

「でも、、、、納得いかない、、、、母様も美織さんも私がやろうと思ってたことを横から、、、むむむ・・・」


夏からずっと引きづり出そうとしてたのは伊月も同じか・・・

虎視眈々と引きづり出すのを狙っていたことは美織嬢も伊月も同じだろうが横から掻っ攫われた気分なんだろうな。


「ま、元気出せや」

「兄様も『私の主人公(まいひーろー)』も横から掻っ攫われるとは、、、何でいつも、、、馬鹿。」

「伊月?」


伊月は俺の耳が良いことを知ってる癖に微妙に聞き取れる声の大きさでそう言った。

・・・敢えて聞こえないふりをしたが

彼女が『昔の俺』を好きだったとしても、彼女は『今の俺』を好きなわけじゃない。

俺が『昔の俺』になれない以上、、、『私の主人公(まいひーろー)』について期待を持たせちゃいけないんだ。

だから掘り起こしてはいけないんだ、、、『私の主人公(まいひーろー)』は消えなきゃいけないんだ。


忘れなきゃいけないんだ。


「じゃ、俺はそろそろ行くわ」

「!? ちょ、学校は?」


伊月はそうは思ってないらしい。

顔にありありとまだ『話し足りない』という顔をしている。

頭の中で整理できても、無意識でまだ『俺の中にかつていた別の俺』を諦められないんだろう。

だが、『私の主人公(まいひーろー)』についてこれ以上話すんを許すのは寧ろ無責任だ。

俺は無視して裏門を乗り越え・・・


「そういえば、、、キスはホントなのか?」

「っ!?・・・うあっと!?」


ようとして思わず足を引っかけてしまい鼻から落ちた。

・・・痛い。

感覚鋭敏化が落ち着いてなかったら、この痛みで死んでたかも・・・そんぐらい痛い。

てか、それ以上に伊月からの逃がさんぞオーラが、、、、ヤヴァイ。

逃げ出そうとした瞬間、見ちゃったんだ僕ちゃん。

伊月(いもうと)の眼が朝顔(いもうと)と同じ目をしてたんだもんね!


鎖が張り巡らされ封鎖された門を挟んだ俺と伊月

隔てるのはたった一つの寂れた門

なのに俺は彼女を振りほどけない


「・・・したんだな?」

「は、、、はい」

「・・・・・・・・・・」


伊月の眼が、、、夏休みのトラウマを呼び起こす

・・・か、帰りたい

伊月が指を一本たてる。

その様子を俺は生唾を飲んで見届けた


「お前には今すぐにでも酷い目に合って欲しい所だが、、、一つだけ、、、最後に一つだけ聞いておきたいことがある。」

「ハイ、、、ナンデショウ?」

「お前からか?それとも白凪さんからか?」


・・・・・・・・・


「オレカラデス」

「そうか」


伊月はどこから取り出したのか拡声器を取り出す

そしてすっと息を吸い込んだ。



「如峰月が裏門から逃げ出そうとしてますよお!学校サボる気です、これぇ!」




「なんですってぇ!?担任の私の査定をさらに下げる気ですかぁ!?」

「「「「「「「「「「先生、粛清は我々朝日奈親衛隊に!特に理由はないですが粛清する気だけは満々ですから!!!」」」」」」」」」」」

「「「「「「「「なんのなんの!我々には彼を処分する正当な理由がある!穂のちゃん先生も朝日奈親衛隊も引っ込んでろ!」」」」」」」」」」


・・・・うわあああああああああ


「伊月おぼえてろよ!」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「待てや、この野郎!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

「うわああああああああああああん!(ガチ泣き)」


そして足がパンパンになるまでリアル○ごっこ(物理)

・・・どいつもこいつも俺になんの恨みがあるのさ!

朝日奈楓の心情「詳しい説明を!」

白凪優子の心情「顔を見れない・・・」

伊月葵の心情「むかむかぷんぷん」

如峰月朝顔の心情「・・・・・・・(超憤怒)」

如峰月桜の心情「・・・・・(走らされ過ぎて何も考えられない)」

藤堂勝海の心情「・・・・・・・・・(矯正されすぎて人格崩壊)」

ハマリュウの心情「ニヤニヤ」

卯生月美織の心情「矯正楽しい」

如峰月椿の心情「古畑さんの家、、、ふあんです」

古畑真琴の心情「あ、今日あの人が来るんだった」

新聞佑の心情「・・・・寒気がする。何かとてつもない厄介ごとに巻き込まれる気がするっ!?」

山梨小陽の心情「頑張って下さい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ