第1章『王国』part1
人が死ぬということについての境界線
つまり『人である』ということについての境界線
それについてあなたはどこで線引きすればいいんだろうか
現実世界でなら簡単に定義できるのだろうか
心臓が止まったら?
呼吸が止まったら?
瞳孔が開いたら?
最近では脳が死んだらなんて言われ始めてる。
宗教的な観点だけど悪事を働いた時点で心が死にその人はそこで一度死ぬことになるなんて考えもある
異世界での死についての考えは実はこれが一番近い
死んでも強い魔力があればレイスやゴーストシーフにすらなり得るこの世界。
治癒魔術で死の三兆候が出てすらも蘇生が可能なこの世界。
一番分かりやすい指標としてはその人の『本質』を失ったときとされている
考え方、生き方、行動の仕方
ありとあらゆるその人が『その人である』とされるものを失ったとき
つまり『本質能力』を失ったとステータスに表記された時
この異世界に生きる全ての生き物は一度死ぬことになる
公国国境沿いから最新式の馬車で約二週間の距離
ついでに補給を兼ねると三週間
王国の王都はそんなところにある。
モルロンド伯爵直轄領はもう見えない。
王国は公国と比べると種族比がある程度絞られる。
人間とエルフィリア、、、現実でいう所のエルフが多くを占める
エルフは本来長寿であるがこの国の歴史は意外と短い
当時栄盛を誇っていた帝国から独立したのが百年ほど前、現在の王は三代目である。
争乱の歴史がそうさせたのだった
王国の人口比に多くのエルフを含むのはその国の王がエルフィリアだからである。
そして帝国は人間至上主義
昔からそして今でさえも虎視眈々と帝国は目の上のタンコブを潰す機会を伺っている。
強力な『鉄人軍』そして『雷の勇者』が何度も攻めてきた
王国に『獄炎の勇者』そして『女王陛下』がいなければその歴史はさらに短くなっていただろう。
しかし忘れてはならない
王国が帝国からの侵略を跳ね除けられてきたのは
エルフの持つ超高度な魔道具作成技術があったからこそであることを
忘れてはならない
勇者を造り出すために
喪われる命があることを
「聖女様がご帰還されました!」
赤と黄色を基調とした王宮殿
文官と武官が左右に分かれ鎮座する中
その奥には黒のドレスを見に纏った黒髪のエルフィリアがいた。
彼女が扉を開けと手で示した事により扉の前に立っていたエルフィリアの近衛兵が扉を開く
その瞬間歓声が上がる
『聖女』サニア・エーメルティー
女王陛下の一人娘でもあり、光の派生属性『聖』を本属性に持つ
今まではその強大な力を扱いきれず、勇者を造り出すことが出来なかったが修行の旅に出たことでそれは改善されたらしい。
臣下達が歓声を上げたのは彼女の姿を久しぶりに見たことの喜びももちろんだが、彼女の身に纏う魔力が高度な技術によって良く練られていたからだ
彼女の成長をここまで大きく喜ぶのには理由がある
王国は今大きな危機に瀕している。
帝国に潜ませている人間の諜報員から帝国の食糧、兵装の価格が戦時の時よりも更に高騰しているという情報が入った。
それが示すのはただ一つ
帝国は全ての力を以て百年の因縁を終わらせようとしている。
歴史自体は短いが王国もそれなりの力を持っている。
百年のうちに魔道具といえば王国製といわれるようになったし、聖十剣といった後世の戦士達も育ってきている。
帝国だけなら今まで通り跳ね除けられただろう。
その一方で百年の歴史は王国に新たな敵を生み出した。
エルフは人間との融和をするべきではないとした黒エルフィリアが多くを占める『英雄連邦』
帝国の支援により王国から独立した人間至高の『人間同盟』
あくまで人間とエルフの融和を謳う王国は『帝国』だけでなく『英雄連邦』に『人間同盟』
三国に狙われることとなる。
帝国を相手にするには全勢力を以てとなる。
そうすると『英雄連邦』『人間同盟』から侵攻をうけてしまう。
王国を守り切れない
王国を守る選択肢は『人間を優先する』『エルフィリアを優先する』
そして『新たな勇者を生み出す』ことで軍事力を強化する
王国が選んだ選択肢は・・・・
「長きにわたる修行の旅ご苦労であった、聖女よ。」
「有り難き幸せ」
「『獄炎将軍』『十剣長』『聖剣六位』そなたらも聖女の迎えご苦労であった」
「「「ははっ」」」
宝石をふんだんにあしらったドレスを見に纏ったサニア
そしてその後ろに跪くガルブレイク、ゼノン、ウルフォン
女王陛下の言葉に四人は心境は違えどもようやく王国に帰って来れたという実感を持った。
「聖女は疲れているであろうからもう部屋に戻り休むがよい。今日は夕餉を共にしよう。」
「はい、ありがとうございます」
その時の二人は間違いなくただの親子のようだった。
少なくとも臣下達は女王陛下があんなに柔らかく笑うのは久しぶりだと感じた。
女王陛下に正式な別れの挨拶を済ませると、サニアは謁見の間を出た。
謁見の間から出る前に女王陛下が新たな勇者についての話を始めようとしているのを聞いた。
・・・気を使ってくれたのだろうか?
もう覚悟は出来ているのに、、、寧ろ聞かせて欲しいぐらいだ。
「お久しぶりです、姫様」
「宰相様?」
サニアは声をかけられた方を見ると、そこには若い男性がいた。
オックス・ケネリッヒ
エルフの為か見た目は若いが、百年の歴史を共に歩んできた忠臣である。
そんな彼が会議が始まってるのに、謁見の間にいないことは少し不思議だった。
「宰相様、どうして謁見の間にいないのですか?」
「いやあ、、、今日は文官はいらんでしょうと思いまして。仕事優先してました」
「・・・・いると思うけど?」
「ですよねえ、、、一応仕事はやってたし怒られないで済みませんかねえ?」
「無理じゃない?」
「ですよねえ、、、まあ秘書を代理で行かせましたしヤバそうだったら連絡来るでしょう」
「相変わらず適当だね・・・」
温厚でどこか適当
それでも彼は宰相であり続けたのは彼がマイナスを補って有り余るほど優秀だからだ。
「折角だしおじいちゃんとお茶でもしませんか?」
「ふふっ、そうだね」
エルフィリア独特のジョークを飛ばすぐらい柔らかい性格の彼に部屋へ招かれることになった。
側付きの女性を引き連れて、部屋へ向かうと既に用意されていたのかお茶の用意がされていた。
「ささ、公国のモルロンド伯直轄領からいい茶葉を手に入れたんですよ」
「、、、、、そっか」
宰相が薦めてくれたピルチの茶を少し口に含む。
冒険者時代にはこんな良い茶葉を使ったお茶は飲まなかった。
でも、、、たった一、二ヶ月のことなのにとても懐かしく感じるのは名前効果なんだろう。
「やっと笑いましたな」
「そう?」
「ええ、バリバリ作り笑いでした。あなたが生まれた時から見てきた私が言うのだから間違いないです」
「宰相には敵わないな・・・」
宰相はにこにこしながら、菓子をゆっくり咀嚼した。
それから部屋から下がるようにそれぞれのお付きの人間に言った。
二人きりになった部屋、そこでようやく喋るために茶を含んだ。
サニアを見た。
「大体何が起こったかは分かります。厳しい箝口令が敷かれたのであなたがしたことは王国民及び臣下たちは知りません。そして『知っている』者達も子供の気迷いと考え許しています、、、私も含めてね?だから姫様は今まで通り笑ってていいんですよ?誰もあなたを責めません」
「・・・ありがと」
彼女にとって王国は皆に迷惑をかけたという自責の念に駆られる場所だった。
それが少しだけ、、、少しだけ軽くなった。
やっぱり王国は私の帰る場所だと思えた。
「寧ろ責めていいんですよ?何故私が王国の犠牲になるんだって」
「ううん、、、ここがなくなったらエルフィリアと人は永遠に友好の機会を失っちゃう・・・寧ろ私は誇りに思ってる、この王国を、、、温かいこの場所を守ることが出来ることを」
「半エルフィリアのあなたらしい発言です、、、、どうやら私の方が無粋だったようで・・・そうだ!最近面白い冒険者に出会ったんですよ!」
宰相は自分が無粋なことをした自覚があるのか気まずそうに髪を掻くと話題を変えた。
サニアも出来れば明るい話をしたいのでそれに乗った
「冒険者?国の官僚が会う冒険者というと、、、上級冒険者?」
「ええ、上級冒険者です」
中級冒険者と上級冒険者の違い
実力に格段の差があることはもちろんだが、国からの依頼が増えて来ることに一番の違いがある。
王族や皇族の依頼
軍との共同での魔物討伐
必要とされる機会が増える
その為に上級冒険者となるものは国の官僚との面接をせねばならない。
最低限の礼儀を備えているか、実力は足りているか
『雇い主』に一度顔を見せに行くのだ
「上級冒険者で宰相クラスが面会って・・・よっぽど優秀なんだね」
「ええ、私設ギルドのモルトリオンドに所属したのがちょうど三週間ほど前。僅か一週間で規定のクエスト達成数を満たしただけでなく、ギルド長直々に推薦が来てましたから。実力も勢いも十分でした」
「一週間・・・たった一週間・・・凄いね」
冒険者をしていたからこそ分かる、、、その凄さが
一日に何十という依頼をこなさなければそれは出来ない。
だが常人が何十人いても逃げることすら難しい中級魔物をいとも簡単に始末し、休みなくそれを続けるなんてこと有り得ない。
よっぽどタフな人間でなければまず無理だ。
サクラ=レイディウスも昔は一日何十件とこなしていたようだが、、、中級冒険者クエストではそんなバカなことをする気はないと明言するほどだった。
どんな人なんだろう?
「話を聞くと面白いんですよ『主人公的に分かりやすい成長指針が欲しかった』とか『自重できなかった』とかまるで自分を物語の主人公のように話すんです」
「・・・・へえ」
三週間前にモルトリオンドに所属・・・私たちと別れたその日にもう王都についてたことになる
無茶すればできたを越えている・・・・有り得るはずがない
だから『彼』は有り得ない
「で、しかも茶を薦めたら上級冒険者になれるぐらいの戦士のくせに果汁水の方がいいなんて言うんですよ!」
「・・・そうなんだ」
茶は確かに飲めなかった
けどもけども、、、もし王国にきているとしたら・・・
あんだけキチンとお別れをしたはずなのに彼はすぐさま王国に向かっていることになる
下手したら馬車を用意してもらって乗っている頃には彼はもう出発済みということに
それはあまりにも情趣がないと、、、いろいろ台無しなんじゃないだろうか!?
だからない、、、、、だからない!
「もしかして、、、細剣じゃなかった、武器?」
「ええ、よくご存じで!」
「・・・・・・」
悲報:確定
「ももも、もしかして黒髪黒目?」
「どうしたんです、そんなに焦って?いいえ、銀髪黒目でした」
「・・・・ほっ」
朗報:勘違い
「姫様、さっきから表情が変わって面白いですな」
「そ、そうかな・・・」
サニアは背中をだらだら流れる汗を感じながら、落ち着こうと茶を口に含んだ
「で、一番の特徴なんですが黒雲をつか
「ぶばっ!?」
そしてその茶を吹き出した
「『曇脈展開«クラウド・アクセス»』! 」
「『存在力転化』!!」
白い翼から腕へと伝う羽根を纏った拳と静脈が黒く染まった拳が激突する。
そしてその瞬間濃密な魔力と別質の力が放射状に広がる。
「プラスアルファだ!」
銀髪の少年は爆心地にいながらもその力をしっかりと受け流しており連撃の為に銀色の篭手を纏った左拳を振るう
左拳から鋭く光る刃が伸び上る
「甘いよ」
「嘘ん!?」
しかしその腕は翼を生やした女性には『甘い』技だった
右背翼がグンと伸びてその腕を抱え上げ、少年ごと放り投げる。
放り投げるというよりは撃ち出すの方が正確かもしれない。
凄まじい勢いで飛ばされた少年はこのままでは近くの大岩へと叩きつけられるだろう。
しかしその前に補助魔術が間に合う
「『柔かく細かい』『積りに積もる』『衝吸雪』!」
青い髪の少女
青い少し短めの片手剣を持った少女の魔術が走り、銀髪の少年の背には柔らかい大量の雪が召喚される
「ぶはあああああああっ。サンキュー、シノ・・・・ソニン!」
青髪の少女にギロッと睨まれた少年は慌てた様子で言い直す。
ソニンは今はそのことは置いておこうと思ったのかすぐに新しく魔力を練り始める
「カラス!もう一度私にやらせてくれ!」
「・・・了解!」
「おいおい、、、まあいいけどさ」
ソニンが剣を鞘にしまう間にカラスと呼ばれた少年は再び突貫する。
彼の腕には大きな大きな黒雲の腕が
いつの間にか詠唱を済ませていたのか
押さえつけようと腕を伸ばす
「『曇神の審判≪クラウド・ジャッジ≫』!」
「ま、出来れば御の字か。『存在力放出』!」
有翼の女性が翼をはためかせるとその翼から硬質化した羽根が射出される。
それは『曇脈展開«クラウド・アクセス»』で強化された大腕
それが無数の穴空きとなって瓦解する
「さ、お次は、、、っと」
「ぶはああっ、行くぞ!」
身体を更に黒雲で覆っていたのかその瓦解した黒雲を突っ切って無傷のカラスが剣を引き抜く。
銀色の篭手に握りしめられた橙褐色基調の細剣を限界まで振り切る
流石にこれは『甘い』技ではないのか有翼の女性は翼が造る気流にのって大きく後退する。
そして更に動く
「『存在抜刀』!」
「『龍の剣術:受け流し』!」
有翼の女性が両腕に何かを掴んで振り降ろす
ガ!
ガン!
細剣に打ち下ろされる二本の大剣
しかしそれは・・・・
「翼が大剣になるとかどんな生態系してんだよ!?」
「天使に常識訴えてどうすんよ(笑)」
「くそっ、主人公っぽい台詞盗られた!『龍の剣術:迫』!」
「うあっ!?」
剣の腹から迸るのは気合による迫
翼を新たに生やした彼女は吹っ飛ばれた勢いのまま空を舞う。
そして、そのまま迫ってくる。
迎え撃つカラスは腕を上げ、、、、そして地に倒れ込む。
背後に立つは青髪の少女、ソニン。
「!? 空に私を打ち揚げることが目的だったか!?」
「『拘束しろ』!『獄ぎ』!『灼け』!『熱縛』!」
シノンの両腕から紅い鎖が奔り出す。
その強大な大鎖は簡単に有翼の少女の手から翼大剣を弾き飛ばす。
獄炎魔術の威力はやはり絶大だ。
発動級でさえ『嵐曇魔術≪スーパー・セル≫』並だからな
そして身体に巻き付く
後は燃やして溶かすだけ
・・・・その効果をもたらす鎖が消えた
「「「やっぱりか・・・」」」
戦闘を続ける意思が無くなったためカラスもソニンも有翼の女性も魔力を納めた。
「・・・腹減った・・・ちょー腹減った」
「はいはい、、、食欲の方で良かったよ。性欲だったら3○だからねえ」
「ぶん殴られる未来しか思い浮かびませんけどね」
俺は荷物から取り出した干し肉をガジガジ齧りながらもはや激痛と化している空腹感を必死で納めようとしていた。
『曇脈展開«クラウド・アクセス»』は相変わらず使用後に何らかの欲を湧き立たせるようで今日は空腹だった。
俺とシノンの相手をしてくれた天使メルキセデクはそれじゃあ飯食いに帰るかと歩き出した。
「シ、、、ソニン?」
「・・・・あ、ああ。どうした?」
「飯食いにいくってさ」
「わ、わるい。少し考え事をしたいから・・・」
「・・・そっか」
『青い髪』を弄りながらシノンは落ち込んだ様子でどこかに行った。
「マスター、主人公なら慰めに行かないと。英雄的主人公なら余計に」
「むちゃむちゃ・・・腹減ってて今は無理だ」
「ああ、性的に食べちゃうと」
「・・・・・・・食欲が性欲に変換される恐れがあったらな」
正直今すぐにでも慰めに行きたいところだけど、今行っても途中で空腹で倒れ伏す未来しか思い浮かばない。
隣を歩くツバキはそんなことあるわけないじゃないですかあと笑うが、他人事だと思って・・・
「『曇脈展開«クラウド・アクセス»』も使用後のこれさえなきゃ便利なんだがな。うう、腹減り過ぎてマジで腹が痛い・・・」
「英雄譚に書けない裏話ですね!」
「ツバキ、、、むちゃむちゃ、、、後で覚えとけよ・・・」
「ふらふらじゃないですか、ほらつかまって下さい」
「・・・本当に散々だ」
遠くから戦闘を見ていたトツカがのんびりと俺達の方へと歩いて来ていた
・・・今日で王国にきて三週間
未だにサニアを救う目途は経っていない。
取り敢えずサニアを救うことを大前提にすぐさま公国を旅立って王国に辿り着いた。
地理とか王国側の戦力といったあらゆる情報を集めるには少しでも速く王国へ行く必要があった。
『動く曇道«オート・ステップ»』の限界速度で本来なら馬車で二週間の距離を一日で行くという恐ろしいことをやってのけたのだが
トツカが気絶
シノンガチ泣き
俺(INツバキ)ヒャハってる
という状況になった。
仕方ないね
そしてそのまま王国にある私設ギルド『モルトリオンド』のコウ・レイペンバーを訪ねた
彼は突然訪ねてきた俺たちの様子を見て驚いていたようだがすぐに状況を把握すると俺達に色々なアドバイスをくれた。
まず私設ギルドモルトリオンドに所属してギルド長の天使メルキセデクの協力を仰ぐこと
そして王国側からいずれマークされるであろう俺とシノンは髪の色を変え偽名を名乗ること
最後に上級冒険者となれば王宮の役人に会う機会があるから王宮を一度見ておけといわれた。
ちなみに俺の髪は現在くすんだ銀髪でただのカラスと名乗っていて
同じくシノンは髪を水色に近い青色に染めソニンと名乗っている
染めてみて思ったがやっぱり染める時は茶色ぐらいがちょうどいいみたいだ、はではでしくて正直浮いてる。
今度染める機会があれば茶色にしておこう。
取り敢えずこの三週間はひたすら準備を重ねた。
メルキと暇さえあれば戦闘を繰り返して経験を重ね
ギルドに依頼を出して情報を集めたり、自分で依頼をこなしたり
そして上級冒険者として王宮の中を見て回った。
結論として今のままではサニアを救うことは無理だ。
王国側の最大戦力『獄炎将軍』『女王陛下』
獄炎将軍だけでも手に余るのに女王陛下とまで闘ってられない。
それにそいつらと闘う前に『聖十剣』やら王国兵士やら戦うべき相手が多すぎる。
こっちの戦力は
シノン、トツカ、ツバキ、桜、俺のたった五人
シノンはつい最近になってようやく精神的に落ち着いてきたので格付けは中級冒険者、実力は聖十剣に及ばない
桜も聖十剣には及ばない。
トツカを戦闘に巻き込むわけにはいかないし、ツバキは『曇脈展開«クラウド・アクセス»』時は俺の中だ。
実質一人でサニアを救うのか・・・それが出来るのか?
天使メルキセデクの勧誘が出来ればいいのだが・・・彼女は俺達の実力を見ないとまず何とも言えないと今日の今日まで保留にされている。
出来ることなら今日にでも結論を出してほしい所だが・・・
「「「「「ご馳走様でした」」」」」
シノンを除いた俺達パーティ―とメルキと途中で何故か合流してきたコウ
計五人で食卓を囲んでいた。
モルトリオンドのギルド長室に運び込まれた大量の食物を胃に納めた俺達にコウが話を切り出した。
「君たちから受けた依頼に従って王宮の様子を探ってたけど、今日サニアさんが帰って来たみたいだよ」
「「「!?」」」
かなり早く王国についたみたいだからどれくらい時間かかるかと思ってたが、ここまで差が出るとは思ってなかった。
「すごいよねぇこんなに差が出るなんて。風属性の魔術師でもこんなに早く移動できないよ?」
「流石マスター、HIJOUSHIKIです」
「俺はしばらく黒雲見るだけで足が震えたけどな」
「後で旅行するか、オラ?」
「「ごめんなさい」」
二人が涙目で首を振る中、俺はコウとメルキを見る。
「二人とも、、、時間がないから答えを聞かせて欲しい。サニア救出に協力してくれるのかを」
「仕事としてなら請けるよ・・・なんだかんだで君たちには迷惑をかけたからね」
コウはうんとうなづいてくれた。
彼の全てを消失させる両腕は頼もしい、彼の力があれば随分楽になるだろう。
思わず手をグッと握りながら次はとメルキを見る。
ところが彼女はというと微妙そうな顔をして翼を繕っていた。
「う~ん、手伝ってあげたいけど・・・モチベーション上がんないなあ」
「モ、モチベーション?」
思わず聞き返すと彼女はそうだよとうなづいた。
「そもそも今サニアちゃんを救出しようとしても多分前の二の舞なんじゃないかなあ?」
「二の舞?」
「足手まといを庇うことになる、そしてサニアちゃん自身がそもそも救われることを望んでない」
「、、、っ」
思わずつんのめった俺に彼女はさらに畳みかけて来る。
「一応私が参加すれば足手まといの分も庇えるけど、、、、それだったらそもそも参加させないでおけばいい話だよね?」
「・・・シノンは獄炎属性を使いこなそうとずっと努力してる」
「いやあ、、、あれは心の問題でしょ?満足に使える氷属性だけ使ってた方がましだよ、、、それでも足手まといだけど」
どうやらシノンは父親のガルブレイクに対する恐怖からか今までずっと『獄炎』属性を使えなかったらしい。
聖十剣と戦うには必要だからと『獄炎』属性を使いこなせるよう訓練はしている、、、、いや今俺達が食事をとり終わって団欒をしているこの瞬間でさえも訓練しているであろう。
しかし、、、、足手まといだ。
いずれは使いこなせるかもしれないが、今回の戦いは間に合わないだろう。
「そしてもう一つ、、、『王国』自体がヤバい」
「・・・・・」
「三国から攻められてるこの状況でサニアちゃんを強引に誘拐しても、彼女を逆に苦しめるだけだよ。それに私はこれでも愛国心がある・・・出来れば王国をほろぼしたくない」
「・・・・・・・・・」
「よく考えな。私が納得できる理由を・・・私が参加すべき理由を」
天使、、、ステータス上ではアンジェルと表記される。
彼らはこの世界で最強とされている種族である。
生物は基本魔術を使うのに魔力を使うのに対して彼らは『存在力』というものを使う。
存在力はそのものが世界で存在し続ける為に必要な力。
天使は自らの『絶大的な個として存在し続けるための力』を消費する。
その術式変換効率は暴走魔力とほぼ同等。
使い過ぎると魔力における魔力枯渇同様、世界に存在するための力を使いきるため世界から消失してしまう恐れがあるがそれでもノーリスクで暴走魔力を使えると考えれば天使が種族的にどれほど優遇されているかが分かる。
「君が強いことはこの平和と正義を司る天使メルキセデクが保証するよ。やりようによっては天使を倒せるほどだ。でも、、、『その力をどうする』つもりだい?ハッキリ言わせてもらうけど君の力は迷いが生じてる。そんな君を私は怖いとは思わない」
「サニアを救いたいって気持ちだけじゃダメなんすか?」
「・・・じゃあ、言い方を変えよう。君はどうすれば『サニアちゃんを救える』のかもう一度考えるべきだ」
「『サニアを』・・・『どうすれば』・・・『救えるか』・・・」
「答えが出たら教えて、、、そしてその答えが納得できるものだった時、、、私は全ての存在を以て君たちの手助けをしよう」
サニアを救うために・・・俺が・・・・なすべきこと?
強くさえあればよかったのは今まで皆に甘えてきたからだろう。
俺は今回の選択で選ばなきゃいけない
そして受け入れなきゃいけない
そして背負わなきゃいけない
サニアの死の可能性を
王国が滅び一人の少女の心が壊れる可能性を
足手まといと大事な相棒を切り捨てる可能性を
主人公として選ぶ覚悟を持たなきゃいけない
「マスター」
「サクラ」
「?」
ハッと顔を上げるとトツカとツバキが俺を見ていた。
その顔は笑ってた。
「「気持ちのいい選択をしようぜ(しましょう)」」
「・・・・・・・そうだな」
そうだ、、、誰かを悲しませる選択を選ぶなんて俺らしくない
まず俺が選ぶべき選択肢は誰もが笑える選択肢であるべきなんだ。
俺が正しいって心から信じれる選択肢であるべきなんだ
「コウ、、、後時間の猶予は?」
「・・・一週間。それがおそらくリミット」
「分かった」
最後の最後まで・・・・本当の最後まであがいてみせる。
サニア一人称の方が良かったですかね?




