閑話:もし私の願い叶うなら
「ねえ、この馬車揺れ過ぎじゃない?」
「そうですか?一応外交権限で最高級の馬車を用意させたんですが・・・」
「はあ・・・」
ゼノンがそうですか?と聞いてくるがそうですなのだ。
おにいさんの『動く曇道≪オートステップ≫』による空中馬車は移動はもっと速かったし揺れなんて少しも感じなかった。
聖女として最高の待遇を受けている筈なのに名もないただの中級冒険者だった頃の方が快適だったとか一体何の冗談なんだろう?
「退屈・・・王国まであとどれくらい?」
「そうですねえ、、、後二週間はかかるかと」
「二週間・・・」
話しかけてもまともに返事してくれるのはゼノンだけ
ウルフォンは妙に緊張してるのか私が話しかけても返事がおざなりだし
ガルブレイク元将軍は何が面白いのか御者席に座って馬車を動かしている。
景色も雪ばかりで見るものが本当に何もない
「はあ・・・」
「退屈なら書物でも読まれては?」
「書物ね・・・何の本?」
「生理的に受け付けない部下と一緒の馬車に乗った時に役立つ10の方法です」
「ゼノン・・・ウルフォンが涙目になってるから」
ゼノンは冗談ですよと私に本を手渡してきた。
・・・公国の御伽噺か
「何?ゼノンはこういう本を読むの?」
「いえ、ウルフォンがサボりながら読んでいたのを没収したんです」
「・・・そ」
ウルフォンも何だかんだで大変だ。
直属の上司に王国の現勇者
さらには王国の象徴聖女と一緒の馬車でこれから二週間も一緒にいなければいけないんだから
「ウルフォン?ちょっと読ませてもらうね?」
「いえ、、、お構いなく、、、ぐすっ」
「何だ?まるで僕が君を苛めてるみたいじゃないか・・・どうなんだウルフォン?」
「はい、、、私から謝罪の気持ちを込めて献上したものです・・・」
ウルフォンがねちねちねちねちゼノンにいびられているのを見るのは忍びなかったので書物に逃げることにしよう。
・・・・・・・・公国発展の影に勇者有り。
とくに有名なのは公国一代目勇者パーティー
そして公国四代目勇者パーティー『フェデラ』
女勇者、黒衣の剣士、神官、龍のうちとほぼ同じ構成のパーティー
今となってはずっと昔のようなことに感じる
「サニア様?」
「・・・・ん?」
ゼノンが不思議そうな目でこっちを見ていた
「どうしたの?」
「いえ、、、笑っておられたようでしたので・・・何か面白いことが?」
「そうかな?」
頬をさすってみるが確かにちょっと笑っているかもしれない
楽しかったあのころを思い出させてくれたから
幾ら魔力を費やしたとしても時は巻き戻すことは出来ない
未来を見る手段すらあるというのに過去を変えることは出来ない。
運命の大きな流れに妨害でもされているのか、過去に関わる術式だけはどれだけ魔力を流しても発動できないのだ。
よってどんなに理不尽だったとしても我々は今を・・・過去に戻れればなんて後悔なんてしなくていいように必死で毎日生きなければならない。
二度とやり直すなんてことは出来ないのだから。
「サクラ・・・後で話があるんだ。」
「ん?なに?」
中級冒険者になれたことを祝うあのパーティーから数日が経った。
モルロンド伯爵の厚意でこの街にいる間は逗留していくといいと屋敷に部屋を用意してくれた。
ソーラおねえさんのお沙汰もようやく下り屋敷の中は少しだけ穏やかな空気を取り戻していた。
そんなある日のこと
モルロンド伯、メリッサさん、シノン、スカイおねえさん、サクラおにいさん、そして私の六人で朝食をとっている時にシノンが話を切り出した。
「ふぁなひ(話)?」
おにいさんはテンプレだぜえと相変わらず訳のわからないことを言いながら、骨付き肉に齧り付いていた顔を上げた。
呑気なそんな様子とは裏腹にシノンの顔色は青い。
それはそうだ・・・私は既に話す旨を聞いてはいるが、今まで秘密にしていたことを話さなきゃいけないんだから。
「何の話なのじゃ?」
「あ、、、出来ればパーティーだけで話したいんだ。」
「ハハハ、そんなに大事な話なのかい?じゃあ私たちは席を外そう。」
「あ、悪いね。モルロンド伯爵。」
モルロンド伯爵とメリッサさんが気を利かせてくれたのか部屋を出ていく。
ここまでして貰ったんだからきちんと話さなきゃ駄目だよシノン?
「で?何の話?」
「それはな。実は・・・実は・・・ひ・・・・・・ひ」
「ん?」
「久しぶりにクエスト受けに行かないか!」
「「・・・(それぐらいなら二人がいてもよくないか?)」」
「・・・はあ」
話すならスパッと話せばいいのに、シノンはいいのかなあ?と情けない顔で私の方を見てくる。
だから大丈夫だって・・・笑顔を向けてあげるとようやくシノンは安心した表情をみせた。
でも、気付いてる?
無意識に話題そらしちゃったから、もう話を切り出せる雰囲気じゃないよ?
切り出すのを失敗するのは何度目のことか・・・
今日もシノンはなんであの時言わなかったんだろうと後悔する一日を送ることになりそう。
『王国』
それが私たちが産まれた国だ。
私たちはその国で聖女とその聖女を守る騎士をやっていた。
この国では聖女の命を犠牲にすることで強力な力を持つ勇者を創り出すことが出来る
他の国でも似たようなやり方で勇者召喚を行っているらしく、国それぞれに私と同じ聖女と同じような存在がいるとか。
本来なら勇者を呼び出す筈だった私がなぜこんな王国から遥か離れた公国にいるのか?
何故王国にいないのか?
理由は簡単だ、シノンが私を連れて一緒に逃げ出してくれたからだ。
逃げ出す少し前の時のこと
帝国がもうすぐ攻めて来るという情報を鵜呑みにした陛下は勇者を召喚して戦力を増強しようとした。
聖女としてまだ成長しきってない私では勇者召喚は失敗する。
それは分かり切ったことで家臣皆が反対した。
それでも陛下は納得されることはなく、召喚の儀は執り行われることになった。
獄炎の勇者の娘であり私を守る十人の騎士『聖十剣』の一人、シノン・エルリングス。
歳が近いからと仲良くなった私の姉のような存在である。
引きこもり気味の私と比べ、戦闘訓練ばかり受けているシノンは私より体が大きく本当の姉のように思ってはいた。
けど、私を連れて逃げ出してくれるなんて思ってもみなかった。
彼女とは仲が良くても所詮は王国に忠誠を誓う騎士。
だから彼女が王国を敵に回してもあなたには生きて欲しい、逃げましょうと言ってきた時は驚いた。
未熟とはいえ私は聖女の名を担うもの。
そんな無責任は出来ないと断ったけど、彼女は頑として譲らなかった。
「失敗すると分かってるのに、実の妹のように思っている友達の命を無駄にさせたくないんです。」
半分本当で、半分は嘘だと確信した。
彼女は私が本当はまだ心の整理がついてないことを分かってたんだ。
シノン、、、ごめん。
私は少しだけ彼女の言葉に甘えさせてもらうことにした。
妥協に妥協を重ねた結果、私が聖女として完成されるまでの間、他国へ逃亡することにした。
さすがに自分の責任まで放棄できなかった私の我儘だ。
シノンもしぶってはいたが最後は王国に戻るというこの一見意味のない約束を承諾した。
それからというもの様々な苦労を負いながらこの街までようやくたどり着いた。
温い宮殿生活で鈍った体のせいで熱を出したこともある。
シノンの父が怒りで私たちをかくまった街一つを半壊させたのを遠くから見た時はシノンはガクガク震え暫く魔法が使えなくなってしまった。
そんな過去を持つ私たちといると、この二人にも危険が及ぶかもしれない。
公国にいる間は隊を率いて連れ戻すような真似をしてこないとは思うが、シノンの父が単身で乗り込んでくる程度は可能だ。
確実におにいさんは無茶をしてでも私たちを守ろうとするだろう。
そしてもし、争うことになればおにいさんは間違いなく殺される。
例えもう一人のおにいさんと使う連結魔術が使えたとしてもあの獄炎の勇者には敵わない。
ガルブレイク・エルリングス
『獄炎の種』をもつ王国の勇者
その鎖はいかなる獣も拘束し灰燼に帰す。
王国で彼を恐れていないのは私の母親の陛下ぐらいだろう。
秘密を話すという事は彼らを危険に否応なく巻き込んでしまう。
彼らが知らなければ迷惑をかけることなくいざという時はそっと側を離れられる。
そう思って伝えようとは思わなかった。
けど、、、秘密のままにしていてはいけないと二人で相談して決めた。
秘密を守るために実力を隠していたせいで、、、皆が命の危険にさらされたからだ。
もし、、、シノンが魔力を封じる鎧を最初から外していれば、ここまで悪い状態にならなかった。
私が本気で聖女として成長しようと努力を重ねていればあんなことにならなかった。
またいつアイスド・スライムみたいな危険なことが起こるか分からないのだ
話すべきことは話さないといけない
・・・今思い返すと本当にこの時に話すべきだった
だって結局私が不意打ち気味に話す羽目になったし・・・
本当にシノンは一向に話そうとしなかった!
自分から話すと言いながら一向に話そうとしないし!
話したかと思ってたら話してなくてしまったって龍人の郷では恥ずかしい気持ちにさせられたし!
この時だって・・・
「クエストねえ・・・暫く戦闘はいいわ。暴走魔力がまだ順応してないから魔術使うのは怖いし・・・せっかくだし迷子の子猫のクエストでも受けてみるか?」
「あ、ああ・・・もう一つ話があるのだがいいか?」
「ん?なに?」
「さっきからもじもじしおって、、、早く本題があるならいえい。」
クエストの話が纏まってようやくチャンスが来たっていうのにシノンときたら・・・『まだ』ためらっている。
まあ、気持ちはわかるけどさ・・・
事情が事情とはいえ、今までパーティーなのに秘密にしてたんだ。
信頼し合わなければいけないのに嘘をついて、しかもそのせいで皆の命が危険にさらされた。
謝って済む問題じゃないもんね・・・切り出しにくいよね・・・
今考えると真実を切り出して二人が怒ってパーティー解散とか言いだしたら、、、シノンはそれが怖かったろうと思う。
でもその時の私にはイライラにしかならなかった。
しょうがない、、、私が言うしかないかとため息一つつく。
元はといえば私にも責任があるんだし。
シノンがあたふたしているのを怪訝そうに見つめる二人に声をかける。
「おにいさん、おねえさん。大事な話があるんだ。」
「なんだ、サニアは知ってることかよ・・・何の話?」
「何から話せばいいかな・・・実は・・・」
「大変だあ!レッドホーンが街中で暴れてる!」
「中級モンスターが何で街中に!?」
「貴族が道楽で子供のレッドホーンを街中に持ち込んだらしくて、親が怒って攻めてきたそうだ!」
「・・・大事な話はまた今度にして、まずは騒ぎを落ち着けよう。行くぞ、スカイ。」
「うむ。あそこら辺は旨い飯屋が多いしの。」
「あ、待って・・・」
止める間もなく二人は窓から外に飛び降りると、騒ぎのする方へと走り出していった。
「「・・・はあ」」
今日こそは話そうと思ったのに・・・
これは明日になってから、昨日話せばもっと話しやすかっただろうにと後悔するタイプだ。
このままではためらえばためらうほど話しづらくなってしまう・・・
今日、、、そう今日中に話をつけなきゃ!
「シノン!今日中に話すよ!何としてでも!」
「・・・サニア?急にどうしたんだ?」
「いいから!」
可愛く首を傾げるシノンをベッドに押し倒してしまいたいが、今はそれよりもすべきことがある。
一刻も早く騒ぎを鎮めて秘密を打ち明けないと!
多分今日を逃したら本気で話す機会がなくなる気がする!
・・・この時の私の勘は大当たりだった。
結局今日は話すことが出来ずそれはずるずると引きずることになってしまうのだから。
でも私は必死に頑張ったと思う。
シノンをせかしてすぐに彼らの後を追う。
抱えてもらって騒ぎの場所へと向かった。
すぐにその場所は分かった。
「フハハハハ!畜生風情が!余に力比べを挑もうとするからじゃ!」
「・・・囮にされた上、レッドホーンの下敷きにされてる俺にも気をつかえや、コラ。」
「うるさいのう、魔術もろくに使えないお主が生意気言う出ないわ。」
「しょうがねえだろ、まだ体から暴走魔力が抜けないせいで魔力を上手く練れねえんだ。」
おにいさんの上に頭の紅い角を折られた巨大な黒い牛が転がされ、その上でおねえさんが仁王立ちし高笑いしていた。
本当にあの二人は・・・皆がみてるじゃん。
恥ずかしいなあ・・・
「お、サニア、シノン。助けてくれ・・・」
「お、短いのに、長いの。どうじゃ、この成果は!」
「『お、』じゃないよもう・・・」
二人で何とかおにいさんを引きずり出すと、おにいさんはふい~と息を吐いた。
レッドホーンはおねえさんがひょいと担ぐと、どこかへもっていってしまった。
もしかして、、、食べるつもりじゃないよね?
おねえさんは本当に良く食べるから、例えあの量の牛肉でも食べきってしまいそうだから恐ろしい。
先日も上級冒険者クラスの報奨金丸々高級菓子で消費したと聞いたときは視界が真っ白になったのは記憶に新しい。
一応、一般人の生活費半年分なんだけどね・・・簡単に消費してしまうお姉さんは本当に恐ろしい・・・
「じゃあ、せっかくだしギルド行こうぜ?迷子の猫探しだったっけ?サニアが前したいって言ってた奴。」
「あ、話しがあるから屋敷に・・・」
「夕飯時でもいいだろ?」
「そうだけど・・・」
おにいさん、、、手ごわいなあ。
おにいさんは私達の静止も聞かずに歩き出す。
後ろをついていく中、シノンが耳打ちしてくる。
「やはり、私が話した方が良いと思うんだ」
「いったい何の根拠があってそんな妄言吐いてるの?」
つい辛辣な言葉を吐いてしまい、シノンは涙目になる。
彼女には悪いけど信用してないから、しょうがない。
私なら彼女ほど躊躇わずに言えるし。
しかし、シノンも負けずに言い返してくる。
「私とサクラは前衛どうし!阿吽の呼吸でたまに言葉を介する事無くお互いの意思を読み取ることがある!」
「まあ、前衛どうしお互い欲しいものが分かるのかもね。」
「つまり、言葉を介さなくても私の言いたいことを伝えることだってできるはずだ!」
「…」
いつから私の姉はここまで残念になったのか…
「見てろよ!」
「あ、ちょっ!?」
「冷たッ!?ちょっ、シノンさん!?何してくれてんの!?」
止める間もなくシノンは魔法を使っておにいさんを拘束してしまう。
おにいさんはいつも着ている真っ黒なコートを出してなかったせいで、あっさりと捕まってしまう。
シノんは拘束するや否やおにいさんの顔をむんずと掴みじいっと見つめる
「…」
「…シノン?」
おにいさんが何?という顔で首を傾げる。
シノンはそんな彼の顔をじいっと見つめ続ける。
おにいさんはだんだん目線をぶらしはじめ冷や汗をかき始める。
シノンは『紅剣・桃紅』に手を添えながら更に顔を近づけじいっと見つめ続ける。
「・・・・・・ゆるして・・・ください」
「「なんか謝り始めた!?」」
おにいさんはがくりと地面に四つん這いになるとなんか告白し始めた。
「実はサニアに止められてるのに戦闘訓練始めてます・・・ばれてないと思って調子に乗って昨日は魔物の生息地で寝落ちしちゃいました・・・」
「「・・・」」
おにいさんは本当に・・・
おにいさんの体は暴走魔力のせいで治癒魔法が通らなくなっている。
なのにもう訓練再開してるとか・・・・しかもこっそり
しかも寝落ち・・・・
シノンの背中から強烈な怒りの気迫を感じる。
おにいさんは脂汗をだらだらかきながら腰のポーチに手を当てる。
「あ、あれ?違った?」
「いや、、、違わなくなった。たった今な?」
「・・・・・・逃走あるのみ!」
「っ!?・・・待てぇ!」
おにいさんが魔法玉ポーチから大量の玉をばらまき姿をくらました。
それを追ってシノンもどこかへ行ってしまった。
・・・あ、もうだめだ。
秘密を伝えるのは諦めることにした。
結局一人残された私はこのまま屋敷に帰るのもしゃくだから当初の予定通り迷子の仔猫探しのクエストを受けることにした。
ギルドの受付員が今日はあのキチガイさんは一緒じゃないんですねとほっとした顔で言うのに愛想笑いを返した私はギルドの外に出る。
「さて、、、迷子の猫がいそうな場所・・・どこかなあ?」
探す猫は魚が好きらしいし・・・食べ物屋のゴミ捨て場にいるかも
可愛いくて小さな動物は好きだからつい鼻歌を歌いながら街を歩いてしまう。
「お、長いのじゃないかえ?」
「スカイお姉さん?」
広場で勝手に火を焚き勝手にバーベキューを始めてるスカイお姉さんが私に手を振っていた。
近づいてみるとスカイお姉さんは串を一本差し出してきた。
「長いの、取り敢えず一本食うのじゃ」
「あ、ありがとう・・・」
朝食食べたばかりなんだけどな・・・
スカイお姉さんの厚意を無駄にするのも悪いので受け取って食べることにする。
美味しいけど出来れば空腹のときに食べたかった
スカイお姉さんは脚一本を豪快に焼きながら私に笑いかけてきた。
「疲れてる表情じゃったからの・・・どうじゃ元気でたかえ?」
「おねえさん・・・ありがと」
スカイおねえさんは一見何も考えてないようで実はパーティーみんなのことをよく見てくれてる。
ぶっきらぼうに見えてとても優しい
スカイお姉さんは優しい手つきで私の頭を撫でてきた
「どうせ秘密を打ち明けられずに困っておるのじゃろう?」
「!?」
「心配するではない、、、秘密の内容までは知らん」
「そ、、、そうなの?」
「何年生きとると思うとるのじゃ・・・何か言いたそうな表情から分かったわ」
スカイお姉さんは脚一本をぺろりと食べながらにやりと面白そうに笑った。
「サクラは落ち着きがないからのう・・・大方話す前にどっかへいってしまったという所じゃろう?」
「うん・・・全くその通りだよ」
話そうとすれば事件が起きるし
打ち明けようとすれば話を逸らされるし
少し気を緩めればいつの間にかどこかへ行ってしまう
「じっとしていられない性分なんじゃろう・・・わかってやれ」
「そうだけど・・・」
「それにお主はまだ打ち明けたくないんじゃないのかえ?」
「え?」
「今の楽しい関係が変わるのが怖いって顔をしとるぞえ」
「そうかな?」
「くっくっく・・・分かりやすいのお」
頬を触ってみるが自分ではよく分からない。
笑ってるかどうかぐらいは自分でも分かるんだけどそこまで分り易いかなあ?
「そういえば館に帰っとるもんじゃと思うたがどうかしたのかえ?」
「うん、迷子の猫探しのクエスト受けよっかなって」
「迷子の猫・・・野良猫なら武器街に多くおると聞いたがのう」
「ふ~ん、じゃあ行ってみるよ」
「余もこの塊を処理したら手伝うけえ」
スカイお姉さんの胃袋は何で出来ているんだろう?
どこかに食べたものを転送でもしているのだろうか?
そんなことを考えながら武器街に行ってみた。
「野良猫は確かにいるけど・・・飼い猫はいないなあ」
ここにいる猫は皆野生って感じでふてぶてしかった。
餌を差し出せばぱっと飛び掛かってきて掻っ攫うような強い猫ばかり
飼われるような猫はいなかった
「また来てにゃ!シノンおねえちゃん!」
「あ、ああ・・・」
・・・・・・あれ?
目がおかしくなったかな?
猫耳少女達が同じく猫耳をつけたシノンをお見送りしてる・・・
「し、、、しのん?」
「さ、、、さにあ?」
シノンは私に気付くや否やさあっと顔色を青ざめた。
「な、、、何でここにいる?」
「迷子の猫探しに・・・それよりシノンこそその猫耳何?てかシノンおねえちゃんって・・・」
「さささ、サクラに嵌められてこの防具屋に押し込まれただけなんだっ!」
「おにいさんが?」
その割には楽しんでたみたいだけど?
シノンの頭に取り付けられた猫耳はああ楽しかったとでも言いたげにぴこぴこ動いていた。
私の視線に気づくとシノンは慌てて頭上の猫耳を覆い隠した。
「そそそ、そういえば最近高台で綺麗な毛並みの猫が暮らしてるって聞いたことがあるぞ!」
「そうなの?」
「あ、ああ・・・」
「そういえばだけどさ、、、言った?」
「・・・・・言ってない」
「もう・・・」
シノンはすいませんとばかりに私に頭を下げ猫耳もぴこんとへたり込む。
・・・かわいいけどさ
「どうするの?もう私言わなくてもいいかなんて思いはじめちゃったよ?」
「そんな・・・言わなきゃいけないだろ」
「じゃあさっさと言ってよ」
「うう・・・苛めないでくれ」
シノンは自分で自分の首を絞めているのを自覚しているのか、ああ・・・と手で額を覆った。
しかたないなあ・・・そういう所も可愛いけど
・・・と、ここでシノンが出てきた防具屋というよりは喫茶店から慌てた様子の猫耳少女が出てきた。
彼女はきょろきょろと辺りを見回してこちらを見つけるとお~いと手を振りながら走って来た。
「シノンお姉ちゃ~ん!ご注文の猫尻尾忘れてるにゃ~!」
「・・・しのん?」
「う、、、、うわあああああああああああっ!」
「ちょ、待ってニャお姉ちゃ~ん!」
「おねえちゃんとよぶなああっ!」
シノンが顔を覆って逃げ出していった
サクラおにいさんも大概だけど、シノンもなかなか落ち着きがない
・・・似た者同士だと思うのは私だけだろうか?
モルロンド伯爵領の観光資源でもある高台
恋人たちが夜になると逢瀬を行う生粋のデートスポットらしい
独り身でここに来るのは抵抗があったけど仕方ない
ひいひい言いながら高台にやって来た。
「よしよし、、、食え食え」
「・・・みゃあ」
・・・おにいさんが私が探していた猫を餌付けしていた
もしかして今日一日中猫と遊んで時間を潰していたのだろうか?
見つかるかもしれないからと高台から一歩も出ることなく?
「・・・おにいさん」
「うっわ!?サニア!?」
おにいさんは猫を抱き上げると私から数歩距離をとった・・・野生にちょっと帰ってない?
私はおにいさんが座っていたベンチに座るとおにいさんも座りなよと手招きした。
おにいさんはシノンが怖いのかびくびくしながら辺りを見渡していたが私が一人だと分かるとようやく私の隣に座った。
「シノンは?」
「この近くにはいないと思うよ?今頃は猫尻尾つけられてる頃だろうし」
「猫尻尾?」
おにいさんはそういえば猫好きだったよなと私に猫を手渡してきた。
・・・間違いないこの猫だ。
本当にこういう時のお兄さんの運は神がかってるよね・・・神様に贔屓されてるんじゃないかと疑うくらいに
「みゃあご」
「ふふふ・・・くすぐったいよ」
「俺より懐いてる・・・くっ、これがNTR!」
「ねとられ?なにそれ?」
「・・・いや、知らなくていい」
猫と遊んでいるとサクラおにいさんは少し嫉妬してるようだった。
シノンが最近おにいさんに構いきりなんだから猫ぐらいいいでしょ?
夕焼けに染まる街
アイスドスライムの暴走による傷跡がまだ残るけども
それでも綺麗な街だと思えた
「ねえおにいさん?」
「ん?」
「皆いつまでも一緒にいれるかなあ?」
「・・・サニアは一緒にいたいか?」
「うん」
キチガイと避けられてた昔が嘘みたいだ
そう言って照れくさそうにおにいさんは頭を掻いた
「ま、守るって約束してんだしそのついでに望むだけ皆一緒にいられるように動いてやるよ」
「ほんとに?」
「・・・・・・何故に疑う?」
おにいさんが嘘をついてるようには思えなかった。
・・・私たちの未来はどうなるんだろう?
いずれ秘密を打ち明けるだろうか
いずれ王国の手の者につかまるのだろうか
いずれ勇者召喚の儀をさせられるのだろうか
そしてそのときシノンはどうしてるんだろう?
私の為に地位も名誉も家族も犠牲にした彼女は幸せになれるんだろうか?
私の未来が途切れてしまったとしてもシノンの未来だけは幸せであってほしい
もし私の願い叶うなら私のこれからの未来がいくら不幸なものであっても受け入れられる
だからシノンには幸せになって欲しい
シノンはおにいさんに会ってから変わった
王国を出てからというもの誰も信用せず常に警戒して緊張していた彼女は頼れる存在が出来たことで柔らかくなった。
私を守ることしか考えなくなっていた彼女の頭の隅にいつもおにいさんがいるようになった。
シノンの話すことの大半がおにいさんについての愚痴になった
・・・・・・・・・・・・・・シノンは今おにいさんのお蔭で幸せそうだ。
「おにいさん、、、シノンをよろしくね?」
「・・・本当にどうしたんだいきなり?」
「な~んでもない!・・・・あ」
「お、シノンにスカイじゃねえか・・・せっかくだし今日はここで飯にするか」
スカイお姉さんがレッドホーンの丸焼きとシノンを担ぎ上げて高台まで昇ってきていた。
おにいさんはその様子をみていい景色だし飯にしようと言ってくる。
スカイお姉さんはなんか他にもいろいろ食べ物を持ってきてるようでニコニコしてる
シノンは財布を眺めてため息ついてるからお金を出させられたんだろう
「宴会するならモルロンド伯爵やメリッサさん・・・後ソーラも誘ってみればよかったな」
「そうだねえ」
夕焼けに染まった街を私は忘れない
楽しかった思い出を忘れない
皆で冒険した記憶を忘れない
そして願ってる
こんな私の為にすべてを犠牲にしてくれたシノンがこれからは自分の為に生きてくれることを
これからはずっとおにいさんと幸せに暮らしてくれることを
それが叶うなら・・・こんな私の命なんていらない




