第4章聖女と騎士と勇者part1
斬龍の片刃の大剣がすぐ目の前に迫る。
俺は右手の『常識外』でそれを思いっきり受けた。
しかし相手もそれを読んでいたのか刃が崩れないよう峰で俺の鞘に触れていた。
ガンと甲高い音が鳴る
そして『常識外』の斥力によりもう一度甲高い音が鳴りお互いの姿勢を崩す。
「っ、、、桜!」
「おう!」
完全に姿勢を崩す前に桜が背中に出現し俺を支えてくれる。
桜の強い押し込みを受け前を向く。
そのまま、まだ姿勢が崩れ倒れかけの斬龍が見える・・・『内在型身体強化』!
左手の新しい無骨な細身の剣を斬龍の胸元へ押し込む。
だが、、、まだ足りない。
足りない力を補うために、、、右手の鞘を左手の剣の柄に触れさせる。
「『押し込み突き』!」
『穿跡』とは違うベクトルの技。
高速の回転で貫く『穿跡』とは違い、『常識外』の斥力と腕力で貫こうとする『押し込み突き』
深く突き刺した剣は奥へ奥へと沈み込み・・・
「うむ、前より効いているでござるよ」
「!?」
斬龍の銀に輝く尾がいつの間にか視界の端に見える。
押し込みに回していた『常識外』を瞬時に防御させて防ぐが、斥力までは間に合わなかった。
体が耐え切れず吹き飛ばされる。
「あああああああああああっ!」
身体強化によって強化した足を強引に振りきることで空中で無理やり姿勢を変え壁に足をつける。
瞬間、全身にかかっていた制動力が全て足に集中し涙目になる。
「遅いでござるよ」
「わかってる!」
斬龍がすぐ目の前で大剣を振りかぶっていた・・・勿論向けられているのは峰ではなく刃だ。
左手の剣を両手で構え内在型身体強化をただ一撃を防ぐために強化していく。
空気が震える
心臓がその瞬間激しく跳ねる
つい、、、笑ってしまう
斬龍の全力を受け止めたせいで力を逃がした地面は激しくひび割れる
そしてその力が流れた俺の身体は激しく血と魔力が脈動する
現在進行形で力を加えられている俺の筋肉は激痛と鈍い痺れが走る
「『kock&knock』」
斬龍が峰を空いた手で何度も小刻みに叩く。
・・・振動がさらに俺の体に浸みこみ体がいう事を効かない!?
片膝をついた瞬間、斬龍は剣を再び両手で持ち直し最後の一押しを込めようとする
「・・・桜!」
「ぬ!?」
俺の『常識外』を持った桜がそんな斬龍の左脚に背後から『銀閃』をかます。
再びバランスを崩した斬龍に今度は俺が両腕で剣を突き刺し桜がその柄に常識外を添える。
「「『連結押し込み突き』!!」」
俺が腕力、桜が魔力。
二人がそれぞれ全力を費やし、先程よりも剣の手ごたえが変わっている。
・・・深く、深く、深く
沈み込ませられるだけ沈み込ませていく。
「「うおおおおおおおおおっ!」」
「・・・まさかここまでとは思わんかったでござるよ」
「「は?」」
俺の剣が深く深く沈んでいく・・・それもそのはずだ。
俺の剣の硬度が斬龍の硬度に負けていたせいで、剣先が押し込めば押し込むほど削れているんだから
俺が斬龍に当てたと思っていた部分は斬龍の大剣の腹だった。
「『sock&shock』」
「、、、、っ、、、、」
悲鳴が思わず詰まるほど大きな力が斬龍の大剣の腹から迸り、桜が掻き消え俺は空を飛ばされる。
視界が掻き消える中、斬る龍がこちらに向けてまた大剣を振り降ろそうとしているのが見えた。
「『zwilver&silver』」
見えない峰打ちの剣戟が叩きこまれ、、、その後に遅れて光の斬線がキラキラと光った。
「うっくう~~~~!」
「痣なら『内在型身体強化』で治せるでござろう?さっさとするでござる。折角『内在型身体強化』を上級冒険者にも引けを取らない段階まで上達させてきてるのに感覚を忘れられては困るでござる。」
「ちくしょう、、、おい!武器の性能差で勝ったぐらいで調子に乗ってんじゃねえぞゴラァ!」
「・・・お主の口の悪さはどうにかならんでござるかな。」
斬龍が俺の細剣の具合を確かめつつ、俺の口の悪さに溜め息をつく。
深呼吸して心を整える。
限りなく死合に近い試合で気が昂りすぎかもしれない・・・
「そもそもこんな細い剣じゃあ壊れやすくて当然でござる」
「一番使いやすいのがレイピアやサーベルなんだからしょうがねえじゃん」
「お主の剣はとことん異質でござるな。剣とは殺すための道具に過ぎぬのにあくまで護る剣であろうとするなんて」
「そういうもんなの」
「お主の本質能力も攻撃的な能力は無いでござるしなあ・・・しかも任意で使えないとかそれはもう本質能力ともいえないでござるよ?」
「あれは特殊なケースなんだよ・・・そもそも俺が桜の本質能力みたいなもんだし」
元々フェッシングの源流は『生命を掛けない』決闘にこそあり、一滴血を流させればそれで決着とするものだった。
後に斬る作用を加えられたサーベルにおいても同様で主に皇族の護衛騎士が持つ剣として使われた。
結局その本質は自分や誰かを護る為の剣であり壊したり殺す為の剣ではなかった。
「とにかく、今回の戦いでは魔術が使えないからこそ武器は重要でござる。どうでござるか?制作中の龍素材の剣の様子は?」
「今日仮完成らしいから見に行く感じだ。」
「龍素材ならこんなにひょろっちくしても折れはせんでござろう」
「ディスり半端ねえ・・・」
細いからこそしなるから背面刺しとか応用が効くのに・・・まあ長剣や大剣なんかと比べたら人気の差は一目瞭然だけど。
体に魔力を行き渡らせて回復を図る。
治癒魔術ならすぐに治るのに、、、待っている時間が凄くもどかしい。
いっそのことこのまま続けちまうか?
「だめです」
「!? 龍巫様・・・」
いつの間にか後ろにいた龍巫様は立ち上がろうとした俺の肩に力を入れて無理矢理座らせた。
相変わらずスカイに顔だけ似ている彼女は俺を丁寧な言葉でしかりつける。
しかし丁寧な言葉と裏腹に馬鹿力で押さえつけてきてもいる・・・微妙に似てるなあ。
「体を壊したら治す時間がさらに伸びます。」
「・・・龍巫様、前々から聞きたかったことが沢山あるんだけど今聞く時間あります?」
「ただ休むことも出来ないんですか?はあ・・・」
龍巫様は今の今まで『魔喰龍』に壊滅寸前まで追いつめられた湖の里の復旧だけでなく龍人の郷の防衛までやらなければならなかった。
ただひたすら剣をぶつけ合うだけでいい俺とは立場が違うと聞けないことが沢山あったのだ。
斬龍は聞いてもそれは龍の長である龍巫様の許可がなければ話す気はないでござると頑固だし、トツカの反応からも分かっていたが龍人たちが知らない話のようだし・・・
「何日も聞きたいことが積み重なってイライラしてんだこっちは!それとも・・・まだ時間が無いんすか?」
「もう、、、そんなに知りたいんですか?知ったからには他の龍人には知られてはいけませんよ?」
「わかった」
俺が頷くと彼女は念押しするかのように彼女はもう一度言う。
「いいですか?龍人たちに今日話したことは伝えてはいけませんよ?」
「・・・分かりました。じゃあまずスカイの犯した禁忌って何なんです?何か罰を与えられるようなもんなんすか?」
「その話なら、、、まず龍人とは何かの説明から入らなきゃいけませんね。」
「確か、、、龍応石に魔力をほぼ取られているせいで世界で最も弱い種族だよな。」
大筋は合ってますと彼女は首を縦に振る。
斬龍はそんな俺達の話が長くなりそうだと思ったのかどこかに行ってしまった。
「そして龍が守ってるって話でいいすか?」
「その理由はなにか知ってますか?」
「・・・たしか、龍人に育てられた恩があるんでしたっけ?」
「はい、、、でも私たち龍はそもそも龍人として育てられたんです」
「・・・は?」
「私たちはある日突然龍人から龍へと変わりました・・・そして龍人から龍となった瞬間その時側にいた家族、恋人、親友たちの記憶から私たちが龍人だったころの記憶が抜けてしまったんです。」
・・・つまり例えばトツカが龍になったとしたらトーリの記憶からトツカのこと全て忘れ去られるってことか?
てか、、、龍人が龍になる?
「え?スカイも斬龍も龍巫様もみんな元は?」
「はい、龍人です。まあ、前の世代の龍の記憶は無いんですけどね。」
「ねえ、、、前の世代って何?全然話がつながらねえ・・・」
混乱してきた俺を見て、龍巫様がそうですね・・・と顎に手を当て考え込む。
「そもそも私たち自体もあまり真剣に研究してないんですよね・・・取り敢えず龍が死んだらその龍の能力が適性のある龍人に移るってことが分かっていてそれを私たちは転生としてます。」
「適正・・・ドン・クラークの『狂竜化』っすか?」
「いいえ、あれは・・・転生のなりそこないです」
「・・・・・・なりそこない?」
「転生の条件の何かは満たしていたけれど、どれかは満たしていなかったんでしょう。その結果龍応石が取れても龍になれず『なりそこない』になる力だけが残ったんです。」
アイスドスライムすら一瞬で消し飛ばした『アレ』でなりそこない?
・・・龍はどんだけ規格外なんだ?
龍巫様はつまり・・・と結論を持っていく。
「私たちが龍人を護るのは私たちが元は龍人だからです。」
「・・・道理で得もないのにあんなに真剣に龍人を守るわけだ」
龍たちが龍人たちを守りたいって思いは本物だった。
それは・・・家族だからだろう。
桜だって日頃苦しめられていても、、、やっぱり朝顔さんは可愛いらしいからな。
「で?それで禁忌ってのは?」
「龍が元は龍人であると龍人たちに絶対に知られてはならないのです。」
「人の姿をとったことが禁忌か。でも、、、何で?」
「あなたは、、、自分の記憶が気づかぬ内に改変されてると知ったら平静でいられますか?」
「・・・いられねえ」
「だから飛龍が龍応石を使って自分の力を抑え込んでまで人に擬態したことは、、、駄目なんですよ、やっては」
龍が龍人であることを臭わすこと自体が禁忌か
「・・・でも何でスカイは人間になってまで俺達について来たんだ?」
「それは、、、あなたが黒くてキチガ○だからでは?」
「・・・は?」
なに?
ゴキブ○扱いですか?
出るとこ出ましょうか?
「かつて飛龍はスカイ・ドラゴナーという名前の龍人でした。そして彼女には父と母と兄がいました。そしてある日、兄と彼女は龍になりました。そしてその兄は黒衣の剣士に誘われて、、、人の里へと降りて行きました。」
「それって、、、まさか」
「はい、公国四代目パーティー『フェデラ』です。そして彼女の兄は、、、今は亡き義龍です」
「『フェデラ』って全員天寿まっとうしたって聞いてたけど・・・スカイは龍の中でもそうとう長生きなのか?」
「いいえ。義龍は全員を看取った後、、、病にかかり龍の中では若いまま飛龍と死別しました。」
考えを整理する時間が欲しくて、、、一人で龍人の郷の中心街を歩く。
やっと龍人たちがスカイが人の姿で帰って来た事にあんなに驚いてた理由が分かった。
意図的に龍が人の姿をとれないことを今まで知らないようにされてきたんだもんな。
てかそれよりもさあ・・・
「どいつもこいつも、自分の能力隠してやがったな・・・」
スカイは自分が龍と知られないように龍応石で人の器に収まろうとするし
サニアもシノンも自分の実力を隠してるっぽいし
どうやらあのパーティーで常に全力出してたのは俺だけなんじゃないか?
「はあ、、、何が何やら」
みんな何か隠してるせいでうちのパーティーは滅茶苦茶だ。
いや、確かに皆秘密を隠してもいい条件でパーティー組んだけどさあ?
大分仲良くなったじゃん?
今はばっらばらだけど・・・大分絆も深まってるはずだし、ちょっとぐらい腹割って話してもいいんじゃね?
「全く、、、どちらにしても仲直りからかあ」
女の子に困った時はトーリさんだ。
アリアさんを発狂させながらも俺と仲直りさせるという実績があるしな。
うん、後でお願いしよう。
取り敢えず今後の方針が決まったので、元々の予定をこなすことにした。
「こんちは~剣見に来ました」
「ああ、サクラくん。いらっしゃい。」
のれんをくぐって店に入ると、人の良さそうなお婆さんが笑顔を向けて来る。
エルミさんというドン・クラークの祖母、、、そしてソーラの曾祖母である。
この街で一番の鍛冶屋として紹介された店は郷を飛び出したドン・クラークの母の家族の家だった。
「あの人は今鍛冶場にいるから、、、ちょっと待っててね?」
「はい」
「その間お茶でもいかが?」
「ああ~お湯かジュースでお願いします」
「はいはい」
緑茶以外の茶が苦手な俺をあらあらと笑ってエルミさんは準備を始めた。
ドン・クラークの祖父であり、この龍人の郷一の鍛冶屋の主人のオオラさんはかなりの職人気質だ。
普段は寡黙であるが、鍛冶に関しては一切譲らない。
鍛冶をしてる際には奥さん以外の人間を誰も鍛冶場に入れないぐらいだ。
「はい、オルナップルの果実水、、、ついでに焼き菓子もどうかしら?」
「あ、ども・・・」
オルナップル、、、新世界だわ。
なんか甘くてミルクっぽい、、、今まで飲んだこと無い味だわ。
焼き菓子も似たような味がした。
「どうも・・・」
「オオラさん、こんちは」
焼き菓子をポリポリ齧っているとオオラさんがむわっと強烈な熱気を放つ鍛冶場から出てきた。
かなり熱を放っていたのか、彼は汗だくで近くに置いてあったタオルで体を拭くと戸棚から一本の剣を持ってきた。
「調整は済んでる、、、『常識外』にもすっぽり収まるはずだ」
「これが、、、」
手渡された剣を持つ。
常識外も見た目と違い結構な重さだが、この剣はそれ以上に重かった。
剣身自体は細いっつうのにまるで人一人を持ってるような気分だ。
龍の牙、龍の爪、龍の鱗
切り裂き、砕き、硬い・・・すべての要素を備えた素材を龍巫様から頂いた。
それを溶かして作ったのがこのレイピアである。
「銘は、、、『葉擦れ』」
「『葉擦れ』・・・すっげえ」
色々な龍素材が混じっているのか剣身の色は宝石のトパーズに近い虹色の光をたまに見せる橙褐色みたいだった。
一目見てこの剣は壊れないと確信を持てた。
「魔装加工はここでは出来ないからどこかの魔道具職人にして貰って欲しい。」
「そっすか、、、」
魔装加工とは武器に魔道具加工を施すことで特殊能力を発動できるようにするものである。
『常識外』の斥力も魔装加工によるものだし、『シークレットソード』の魔力量小upみたいなのもいわゆるそれである
説明が一段落付き、オオラさんはそれと・・・とどこか気まずそうに言った。
「儂の孫の、、、」
「ドン・クラーク」
「そう、、、ドンだ。未だにいたこと自体に慣れねえが・・・共鳴鋼として利用させてもらったが作ったのがレイピアだったせいか材料が余ってる。」
「あ~了解っす。」
「・・・サクラ君」
「なんすか?」
エルミさんが俺達の話題に割り込んできた。
彼女は神棚を指さしながら少し悲しげな顔をしていた。
神棚には一つの龍応石、、、ソーラの物が飾ってあった。
「あれはあなたの物なのよ?幾ら血がつながってるとはいえ私たちに譲ってくれなくてもよかったのよ?あなたの防具の材料になると思うわ。」
「何言ってんすか・・・会ったことが無くても家族は家族じゃないすか。ドン・クラークの石も本当なら譲りたいぐらいですよ?」
「それは駄目だ。武器の作成に妥協する気はねえ・・・例え材料が郷から出ていった娘の息子の石だろうとな」
なんとなくドン・クラークを彷彿とさせた。
自分の決めたことにどこまでもまっすぐで、、、どこまでも自分の大切な気持ちを犠牲にできる。
自分の孫の形見を材料に剣を打つなんて、、、どれだけ苦しかっただろうか
神棚に飾られたソーラの龍応石を毎日拝んで、、、会ったこともない曾孫に思いを馳せているのだろうか
この剣は今までのどの剣よりも大切に使おう
「ありがとうございました」
静かに頭を下げる俺を二人の老人は苦笑いしながら見つめ、、、顔を見合わせるのだった。
鍛冶場から出て、近くの人気のない広場で早速新兵器『葉擦れ』を試し振りにすることにした。
魔力を軽く剣に通すだけで、何倍にも剣の中で増幅される。
曇の魔力が剣にこんなに簡単に通るなんて・・・
一流の冒険者は自分の本属性に適した武器を持つというけどその理由が体で分かる。
「曇が剣に自然に浸みこんでる。これが共鳴鋼の剣・・・」
すっと振り降ろすだけで、黒雲が纏わりついた剣が空気を切り裂く。
突きが気流を新たに作り出す。
・・・異世界ならではだな。
こんなレイピアの作成は絶対に現実では無理だわ。
「・・・『動く曇道≪オート・ステップ≫』」
黒雲の道が俺を空へと運んでいく。
そこでわざと上空から飛び降りる・・・本当はそんな必要なんてないが雰囲気だ。
『内在型身体強化』で腕力を全力まで高めていく。
「行くぞ桜ぁ!」
「お、おう・・・」
桜が宙に現れ、俺の常識外をちょっと引き気味にもつ・・・何度も言うがここまでする必要はない。
地面に向け魔力を限界まで腕へ
桜が『常識外』へ魔力を籠め、限界まで斥力へ変換。
「「『連結押し込み突き』!!!」」
着地と同時に『葉擦れ』が地面へ突きささり、『常識外』が『葉擦れ』の柄へと叩きつけられる。
道具も、技術も、『内在型身体強化』も
全てが揃った一撃はゴンと地響きを上げながら、地を文字通り割る。
「サクラ・・・本当にする意味あったか?」
「修行パートの後は修行の成果を見せるのは基本だろうが・・・テンプレ舐めんなよ?」
「俺が言うのもなんだけど、、、たまに俺とお前が元は同じ存在だというのを全力で否定したくなるよ・・・」
桜がやれやれと首を振って消えていった。
その際に投げられた『常識外』を受け取り、『葉擦れ』をシャキンと納める。
・・・いい音だ。
これなら龍の鱗も貫ける・・・確信が持てた。
「ねえ、あっちの方だよ?音がしたのは」
「サニア!走るんじゃない!」
懐かしい声が聞こえてきた。
逃げる前に彼女達は俺の前に姿を現した。
「サクラ・・・」
「おにいさん・・・」
「・・・よお、ひさしぶり」
二人は買い物でもしてたのか大きな小包を抱えていた。
俺を見るなり彼女たちの顔は曇っていく・・・逃げ出したくなったがここで逃げちゃだめだ。
だって、、、ここに来てからずっと会ってくれなかった。
今ここで話せなかったらもうずっと話せない。
「『目潰光≪ブレーク・アイズ≫』!」
「『曇の支配権奪取≪ハッキング≫』!」
俺のテンションが最高潮にまで上がり切った瞬間、サニアが両手を突き出す。
光が急速に集まり、放出・・・は読んでいたので黒雲で包み込み、光は分解させてもらった。
買い物に来ただけのせいか魔杖ゲルーニカを忘れたようで、いつもより術式が甘い。
それに俺には杖にもなる『葉擦れ』がある。
魔術戦ではこちらに分がある。
「サニア、今のうちに!」
「うん!」
・・・とはいえ足は止められてしまった。
シノンがサニアをお姫様だっこして走り出してしまった。
「待て!『動く曇道≪オート・ステップ≫』!」
黒雲が道を作り俺を風を切りながら運んでいく。
人一人抱えた人間と、魔力強化した人間よりも早く動ける俺。
出足でつけられた差はすぐに縮んでいく。
「待てよ!ちょっと話し合おう!?」
「おにいさんと話すことなんて何もない!『光線≪オーバーレイ≫』!」
「ちょ!?『弾き飛ばせ』!」
常識外を剣ごと腰から引き抜き盾として構えた所に高密度の光の光線が突き刺さる。
暴走魔力により器用じゃなかったら、彼女たちに跳ね返すしかできなかったが今なら誰もいない方向へそらすぐらいは出来る。
光線を中心街の誰もいない場所へと誘導する。
「サニア!殺す気か!」
「シノン、今のうちに!」
「ああ!『凍れよ』『凍れ』『空気が氷に』『魔力は壁に』『剣を捧げて守りを創る』『氷剣・奉剣大壁』!」
「あ、、、、あいつらどんだけ本気で逃げてんだ・・・」
シノンが投げた剣が床に突き刺さりその剣からいきなり十メートルもの大きな氷の壁が作り上げられる。
こうなると雲の道で壁を越えて行くしかない・・・数秒ほどのタイムロス。
これは逃げる相手が身体強化保持者であることを考えるとデカい。
彼女は数秒で数百メートルを走り抜ける。
壁をぐいっとこえるように道を作り運んでもらう。
「『乱れに乱れよ』!『壊せ貫け』!『指し示られた自分の道は』!『自分の意思で貫き通す』!『光線斉射≪ガトリング・オーバーレイ≫』」
「連射!?『弾け』!」
壁を越え頭を出した瞬間、何筋もの詠唱級を越えた威力の詠唱級魔術が迫る。
あたりそうなのを『常識外』で防ぎながら安全圏へと全速で移動する。
俺がさっきまでいた場所を何十発もの掠っただけで人を黒焦げにする光線が通り、中心街の壁を貫く。
流石に騒ぎに気付いたのか周りの龍人たちが悲鳴を上げて逃げていく。
「なんだ!」
「あの黒雲、、、、奴が私たちの街を壊したのか!?」
「許せねえ、、、、あの黒雲出しまくりのキチガイ野郎!」
・・・不本意なことに俺のせいにされている
と、俺に声を掛けて来る人がいた。
「やめてええ!問題起こさないでえ!切腹したくないいいい!」
・・・支部長ォォォォ!
支部長は危ないからと皆に引っ張られているというのに俺を止めようとガチ泣きで暴れていた。
今更思い出したけど俺に案内札を渡した龍人の里火山支部支部長は俺が問題を起こしたらせっぷくだったなあ。
「・・・いい加減に止めないとな」
サニアは俺が追って来ないようにもう一度詠唱級魔術を使う気満々だし、シノンは中心街から出るのもやむなしと言えるぐらいのスピードで郷の端へと走っていく。
あっという間に姿は消えていって街中に消えてしまう・・・このままじゃ話し合う機会が失われちまう。
無理矢理はあまり好きじゃないけど仕方ない。
「『曇感知≪サーチ≫』」
『曇の網≪ネット≫』の主な用法は二つ
一つは雲を物体の表面に纏わりつかせその物体が何かを知る感知の力
二つ目は雲を絡ませ、拘束したり、締め上げる。
薄く不可視の黒雲が広く広く広がっていく。
薄くなれば出来ることは少なかったし、そもそもそこまで多くの物事を知ることは出来なかった。
広く広げる為に雲を薄くしたり、不可視にする為に失った能力もあった。
しかし疑似暴走魔力は出来ないことを出来るようにする。
『曇感知≪サーチ≫』によってシノンとサニアがどこを走っているのか
会話からこれからどこに向かうかを確認する。
雲の道を使って彼女達を追いながら次の術式を構成する。
『内在型身体強化』の修行のせいかか魔力操作がだいぶ上手くなってきた。
二つ三つぐらいなら術式の同時操作も出来る。
音を切って走りながら『曇の網≪ネット≫』のもう一つの用法を特化させていく
「『曇靭紐≪クラウド・ワイヤー≫』!」
「・・・!? 何だこれは、、、黒雲の糸!?」
シノンが足を思わず止めてしまうほどの強靭な雲の糸
『氷小刀』で斬りつけている様子を『感知できる』が糸は斬れない。
当たり前だ、、、修行のお蔭で魔力操作が上手くなったおかげで術式自体もだいぶ完成度が上がってるからな。
一気に距離は縮まり彼女達を再び捉える。
サニアが手を突き出してくる・・・最後の抵抗だ
「見つけたぞ!」
「魔力が残りわずかだけど、、、仕方ないね!『乱れに乱れよ』!『壊せ貫け』!『指し示られた自分の道は』!『自分の意思で貫き・・・」
「させるか!『雲よ!雲よ!曇天よ!』『空に逆らう愚か者が見えるか?あなたは今どこにいる?』『空よ曇れ!そして集え!神の右手は今此処に顕現する!』『曇神の審判≪クラウド・ジャッジ≫』!」
「キャッ・・・・もごもご・・・・」
黒雲の巨大な手がサニアの体を包み込み、口を塞ぎ詠唱自体を出来なくする。
その瞬間、目の前に氷の粒がマシンガンのように飛んできたので慌てて避ける。
「はあああああっ!『氷小刀』二本!」
「っ!?」
両手でクロスで斬りつけてきた氷の小刀をスウェイで避けながら『葉擦れ』を引き抜く。
そしてシノンがもう一度斬りつけてきたのを慌てて受け止める。
綺麗な顔と数間の距離で睨みあう
「シノン!話がしたいだけなんだ!」
「私たちはサクラと話したくない!」
「何でだよ!」
「何ででもだ!『氷脚甲』!」
「うおっ!?」
慌てて避けた所に、氷の剣を備えた脚が通り過ぎる。
右腕で常識外でも抜いてしまいたいところだが、俺の右腕は塞がってる。
左腕の剣もシノンの氷小太刀の変則二刀流をさばくのに一苦労だ。
うっへえ・・・傷つけたくないからあまり攻撃的な魔術は使いたくねえし・・・
今までならお手上げだった
「・・・っ!?」
シノンが攻撃をしようとしてその動きを止める。
桜が常識外を彼女の肩にトンと背後から置いていた。
「・・・まあ、二対一は卑怯だからな。俺ももう一人援軍を呼ばせて貰ったよ」
「・・・」
シノンが氷小刀を地面に落とし、からんからんと甲高い音が鳴る。
その様子を見てサニアの拘束魔術を解いた。
シノンもサニアも地面にへたり込んでしまった。
・・・斬龍や龍巫様には感謝だな。
まさかこうも簡単に二人を捕まえられるなんて
修行前の俺ならサニアが詠唱級魔術放ってた時点で返り討ちだし、疑似暴走魔力をもっと持て余していた。
「よし、、、ちょと話し合いたいんだけどいいか?」
修行のせいかに感動を覚えながら二人の方を見た。
・・・二人とも泣いていた。
・・・・・・・・・・・・・・・え?
「ふえええええん・・・」
「うっ・・・うっ・・・ううっ・・・・」
「え?ちょ?マジで!?」
「「うわあああああああああああああん!」」
心底悔しげに、心底絶望的に
感情の爆発の行きつく先にまで言ってしまった二人は街中だというのに大声で泣き出した。
涙をボロボロとこぼし、声を張り上げる。
こっそりと伺っていた龍人たちから非難の視線をガンガン受ける。
「ちょっと、、、、女の子に嫌がらせして泣かせてるわよ・・・」
「さいてー」
「あいつ、火山支部の連中が言ってたキチガ○だろ?泣くほど女追い回すとかマジで頭がキてるぜ・・・」
「もう、トーリに会わせない方がいいな」
「「うわあああああああああああああああああああん!!!」」
「慰めにもいかないでぼうっと突っ立ってるぜ、あいつ」
「これだから変態は・・・・あんな黒づくめの格好まじないわー」
「女心が分からない奴は馬に蹴られて死んでしまえばいいよ」
拝啓 斬龍 龍巫様 アリア殿
師匠であられるあなた方にお尋ねします
この状況どうやって切り抜ければいいですか?
早急にお返事お願いします。
斬龍「見てんじゃねえ!と龍人たちを追い払うでござるよ!」
龍巫様「女の子たちを慰めるのが第一です!」
アリア「諦めるしかないと思います」




