第2章魔国の影part3
今章はpart4あります!
曇の道が見え始めた時から気付いてくれていたのだろう。
馬車が岩山の狭間に隠された深い谷の底に降り立つと、多くの龍人が俺達を待っていた。
龍人たちは案内札が指し示す龍の咢かと錯覚してしまうかのような大きな大きな洞窟の入り口を背に俺達に興味の視線を向けている。
抜刀などはしていないものの準警戒対象と捉えられているのか、武装した龍人の一人が恐る恐る近付いてくる。
ん?この人だけは他の武装してる龍人の中でも雰囲気が違う。
持ってる武器も刀に近い形状の剣だし、頭にはちょんまげ作ってる・・・まるで武人さんだ。
「龍人の里火山支部長から連絡は来ているが念のため案内札を見せていただきたい。尚、ここには龍様方がおられるので御御身の為にもあまり露骨な不作法はないよう願う。」
「分かってるよ、、、放り投げた方がいいか?」
俺は運転の関係上御者席に座っているのだが、声をかけてくれた武人さんは余程馬車が恐ろしいのか札を手渡しできる距離までやって来ない。
「いや、大丈夫・・・ええい!」
彼は目をつぶり一息力をいれるとダッシュで俺から札を分捕り、また馬車から離れた。
「はあ、、、はあ、、、確かに正式な紹介状ですな、、、不作法をお許し下さいサクラ殿。ようこそ龍人の郷へ」
武人が歓迎の言葉を述べた途端、安全とわかったのか龍人達が馬車に群がってくる。
武人同様怖いのかベタベタ触ろうとはしないが、しげしげと間近から馬車を眺めている。
「ははは、外に出たことがない者達ばかりでしてね?その空飛ぶ巨大な箱を分解なんてことはしないと思いますから御容赦を」
「分解?・・・まあいいけど中にまだ、、、」
「「「「「「「「!!!!!?」」」」」」」」
馬車の入口が開かれた事で龍人達が一斉に声にならない悲鳴を挙げて跳びず去る。
「なんだこの悪いことをしたみたいな気分は・・・」
「ちょっとおにいさん!また何かしたんじゃないの!」
シノンとサニアが龍人達の視線にきょどりながら恐る恐る馬車を降りる。
龍人達は余程俺達が恐ろしいのかシノンやサニアから半径五メートルぐらいは離れ、ブルブル震えながらそれでも好奇心には負けるのか目線だけは彼女達を捉えている。
イシルディア姉妹よ、、、俺がなにかしたみたいな責める目つきを今すぐやめろ
そんな感じの中、問題がひとつ起こった。
「ん?失礼、お連れの方の紹介状は?」
「え?これ一枚で大丈夫じゃないの?」
スカイも爺さんもそんなこと言ってなかったぞ?
しかし武人さんは申し訳ないという表情で首をふる。
「ご存知のとおり龍人は最弱の種族であり、龍様方の庇護によって生きている種族。残念ながら中には龍人を人質に龍の力を手に入れようとする人間もいる。案内札はそのような者たちを龍人の郷に入れないための身分証明のようなものなのだ。他所の方にしきたりを強制するのは心苦しいがサクラ殿以外の方は案内札をお持ちでないなら龍人の郷の中へは案内できぬ。」
「え、、、なんとかならないんすか?」
俺の質問に武人さんは首を横に振る。
「案内札の譲渡は通常支部長クラスの人間にのみ許された権限なのだ。・・・そしてもし案内札をもった人間が郷に不利益をもたらすような行為をすれば渡した人間が腹を切ることを条件に渡される掟。とてもとてもお二人の分は無理かと…」
あの爺さん軽い気持ちで何渡してくれてんだ・・・
今まで荷物の中でくっしゃくしゃに詰め込んでいた札が途端に重く感じた。
うーん、仕方ないとはいえ困ったな
周りの龍人達が怖がって姉妹に近づこうとしないのも案内札で身分保証されてないからのようなら、彼女達は置いていかなくちゃならない。
これ以上普通に住んでるだけの善良な人達に心労かけたくないし。
「二人とも、スカイと一緒に馬車の中で・・・」
「余が身分を保証する」
「あなたは一体?」
スカイがのんびりとそう言いながらバスから出てきた。
武人さんがスカイを見て怪訝そうに聞く。
スカイは一瞬きょとんとするがああと納得すると左腕をまくり上げる。
「『飛龍の左腕』」
スカイの苛烈な魔力が空気を震わせ鳥肌が出る。
俺達フェデラですら苛烈な魔力に体を縛り付けられる。
・・・彼女からここまで強烈な圧迫感は感じたことは今まで無かった。
スカイの左腕が龍の腕と化しただけなのに、、、まるで振り降ろされているかのごとくイメージが残る。
俺達をチラッと見ると、スカイは刀をしまうかのごとくゆっくりと腕を元に戻した。
「申し訳ありません、飛龍様!!帰還の連絡は届いておりましたがまさかその様なお姿でとは・・・」
龍人たちはスカイを見た瞬間強張らせていた体をつんのめらせながら全員が平伏する。
武人さんまで土に頭をつけてひれ伏している。
まるで現人神が目の前にいるかのような態度だ・・・
スカイはつまらなさそうにそれを睥睨すると歩き始める。
「お主らはそこの龍人にでも案内してもらえ。余は少し用事がある。」
「・・・っておい!?」
スカイは平伏したままの龍人達を放ったまま、龍人の郷へとつながるのであろうそれこそ龍こそ入れそうな大きさの洞窟へと向かい始める。
慌てて彼女の進行路に入っていた龍人たちが足をばたつかせたり転びんだりと物凄い焦りながらどいていく。
俺達はこの状況ではどうすりゃいいんかね?
このまま龍人たちを放っておくわけにもいかないので、スカイに追いかけるのはためらわれた。
スカイが洞窟の奥へと消えたのを確認してから平伏したままの武人さんに声をかける。
「あの、、、俺達はどうすりゃいいんすか?」
「もう、、、飛龍様の目には止まっていないのだな?」
「そうっすね」
俺の言葉を聞いた瞬間龍人たちは一斉に安堵の息をつく。
なんだかスカイが恐れられてるというか寧ろ、、、『不快にさせて見捨てられないか』と怯えてるかのようだ。
龍人の里火山支部の人間はこんなに龍に対して過剰なほど敬っていたりはしてなかったと思うんだが・・・
龍人の郷の歪さを少し感じながら、俺を恐る恐る見ている龍人たちとしばしの間見つめあった。
「サクラ殿?どうぞこちらへ」
「あ、ああ・・・」
いつの間にか武人さんとイシルディア姉妹が入り口前で既に立って俺を待っていた。
慌てて後を追いかける。
洞窟の中を武人さんの案内で進む。
洞窟の中はとても広く長く地下深くへとつながる迷路だった。
「龍人の郷が秘境とされているのはこの迷路も理由の一つなのだ。」
「へえ、、、確かに道に迷いそうだこれは・・・」
龍が無計画に掘り進めたからこんな風に広く長く地下深くそしてあちらこちらに三叉路やら二つ道やらが出来ているようだ。
ここまで入り組んでいる通路でしかも地下深くまで長い長い距離だと道に迷わないのだろうか?
俺達を先導してくれている武人さんは俺のそんな心配など関係なく迷うことなく進むべき道を選んでいく。
「やっぱり長い間住んでるとここには何があるとか分っちゃうもんなんですか?」
「え?いやいや、中心街までは龍人なら誰でもたどり着けるが龍様方がダミーとしての道までめっちゃくちゃに掘ったせいで隅の方まで知ってる人間はいないよ。この龍人の郷の使われている通路だけでも二千はあるといわれているんだし」
「「二千!?」」
蟻の巣穴じゃあるまいし・・・
「となると道を一本でも間違えたら一生この迷路から出られないんじゃ・・・」
「はっはっは!そのための龍応石じゃないか!」
彼が言うには龍人が生まれながら持っている龍応石は魔力を殆ど奪う代わりに龍や龍応石を持つ龍人と精神的なつながりを持たせることが出来るらしい。
龍は龍人の護衛などがなければスカイ(飛龍)などの例外以外は皆中心街に住むらしく、武人さんは龍応石で龍のいる方向を分かるので正解の道が分かっているようだ。
ちなみに入口の方には龍人が必ず十人以上は待機しなければならないらしく、その人が不慮の事故に会えば龍人たちは一生外に出られないとか・・・
俺達なんて何の目印もないんだからなおさらだろう。
くれぐれも龍人の郷の中は必ず龍人の案内の元で移動して下さいと何度も念押しされた。
「この光る石は何です?」
「ああ、暖色石と呼んでいる。ただ熱を放ちながら光る性質とかなり丈夫だという事は確認されててそれ以外は分からん・・・この龍人の郷の道は皆この石が敷き詰められてるんだがな。どこを掘ってもこの石が
出るもんだからもしかしたらこの石自体が積もって大きな岩山になって、それを龍様方が掘って今の形になったのかもしれん。」
洞窟の中はびっしりと暖色の光を灯す石が敷き詰められていた。
いや、むしろこの光る石を龍が削ってこの洞窟街を作ったって感じか・・・よく崩れないもんだ。
よっぽどこの高山の構成要素の一つ一つの強度が強いんだろう。
外ではこんな暖色石があるとは分かんなかったのは山全体に雪や土が積もっていたからかな?
ま、一年中冬景色な高山の奥深くにあるんだからしょうがないか。
「なんだかんだで考えらえた街ですよね・・・太陽の代わりの暖色石に招かれざる客を中心街に近づけない為の迷路。なにより地中に作ってあるから外よりも暖かく涼しい・・・道理的だわ。」
「あまり外には出ないんだが外の人に褒められるとうれしいものを感じるな。」
武人さんはハハハと笑う。
その声は反響し奥深くまで響いていく。
魔力の少ないため身体強化出来ない龍人の先導で歩いていることとかなり深くまで道が続いてるためまだまだ目的地に着きそうにない。
シノンやサニアは俺をガン無視だし話題にすることもないので、自然と武人さんに聞く内容はトーリやトツカについてのことになる。
「知ってたらでいいんすけど、あいつら元気ですか?」
「知ってるも何も私の甥姪だよあいつらは。君が来ると知って楽しみに歓迎の準備をしていた。」
「はは、そりゃあ奇縁なこった。」
「外の人は奇妙な言葉を使うね。奇縁とは・・・まあ甥姪を助けてくれたことに礼を言わせてもらえるんだから音は悪いが奇縁というのも悪くない言葉だな。」
彼は自分はトチキだと左手を差し出そうとして、俺の吊るされた左腕を見て慌てて右腕を差し出してきた。
申し訳ないと言った彼の様子に苦笑しながら握手を交わす。
「君のその腕、、、すごいな。治癒魔法でどんな傷でも瞬時に治るこのご時世に何をしたんだい?」
「何をしたか?」
「勝手に無茶して治癒魔法効かない体になって」
「私たちの意見無視して」
「自分勝手に怪我しただけ」
「「だよ(だろ)」」
「「・・・」」
シノンとサニアの機嫌の悪い声が重なり、気のせいか気温が下がった気がする。
トチキさんはその声をかき消すように無理に明るい声を出す。
「ち、治癒魔法が効かないとしてもここには魔術を使わない優秀な医者がいるから一度見てもらえばいい!」
「なるほど・・・魔力が少ない龍人だからこそ外科治療や内科治療が発達してるってことか」
優秀な鍛冶師が多いのもこの鋼鉄を豊富に含む岩山の中に住居を構えていることだけでなく、魔法に準ずる戦い方の模索の結果なんだろう。
足りないものを補うことで更に優秀な結果を引き出したってことか。
「じゃあお願いしようかな・・・」
「ふーん、おにいさんにとっては私の治癒魔法なんかより魔術を使わないなんてとてつもなく怪しい治療の方が信頼できるんだ・・・」
「い、いや、、、魔力効かないから頼るだけであって、他意は・・・」
サニアが嫌味に嫌味を重ねて来る。
責められる根本的な理由は俺にあるとはいえ、サニアは相変わらず俺にSな姿勢を崩さない。
「人の手なんて魔力の何億倍も役に立たないものに頼るなんてどうにかしてるよ!」
「何億倍って・・・」
俺がたじろぐとサニアはさらに詰め寄ってくる
てか幾ら魔力や魔術で文明が成り立ってるとはいえ言い過ぎだろう・・・
「そんなに私の治癒魔術は役に立たなかった!?そんなに私は役に立たなかった!?そんな危ないものに何で頼ろうとするの!」
「サニア!いくらなんでも龍人に失礼だろうが!」
「失礼?おにいさんのほうが私に失礼でしょ!攻撃魔法も使わせてくれないし!」
「それはお前の魔力操作の加減の問題だろ!ゴブリン倒すのに詠唱級規模の魔術放たれてちゃかなわんわ!」
「だから、、、だから、、、皆のサポートに回れるようにしてきたのに、、、」
「!?」
サニアがぼろぼろ涙をこぼしながら俺を睨みつけていた。
俺やシノンと比べてもさらに小さく細い体を振るわせて、、、本気で怒っていた
「暴走魔力を勝手に使っても、勝手に死にかけても言うつもりはなかったけど!モンスターの住処で寝泊まりなんて馬鹿なことをしていても言うつもりはなかったけど!・・・もう限界・・・」
「限界って・・・散々当たってきてたじゃねえか・・・」
主に精神的に・・・それでも彼女は溜め込んできていたのだろう。
サニアはトチキさんに縋り付く。
「もうおにいさんと一緒にいたくない!おにいさんとは別々の宿にして!」
「ええ!?」
「ちょ、サニア!?いくらなんでもそれは駄目だから!パーティーなんだから団体行動にしよう、な!?」
「どうせ『不完全』な私なんて必要ないんでしょ!全部自分で解決しようとしてさ!」
「トチキさんも困ってるから!いい加減に・・・」
「離して!」
手を掴もうとして、振り払われる。
嫌われてないとは分かっていてもやっぱりその動作は傷つく・・・
「治癒術師の私に何で一回も相談してくれないの!治癒魔術が効かないとしても皆の体のことは私が診るの!私のパーティー内の役割は『皆の健康管理』なんだから!人に頼る前に何で一度も相談してくれなかったの!?何で何回も声をかけても相談してくれなかったの!バカぁ!」
「シノン・・・」
シノンを助けを求めるようにチラッと見るとシノンもシノンでそっぽを向きながら口を開く。
「私もお前と同じ宿には泊まりたくない、、、てか顔も見たくない」
「おい!?リーダーだろ、シノンは!?」
「私はサニアみたいにお前にどうしてほしいかなんて上手く言えないし言いたくもない・・・だから私もお前とは距離を置きたい」
「コラ、サニア!お前のせいでシノンまでワケわかんない理由でキレはじめたぞ!?」
「人の手で治療なんだよ・・・」
「きいてないし~~~~~」
思わず目をおさえてしゃがみ込む。
サニアはそんな俺に何黙ってんのさ!言いたいことあるなら言えばいいじゃない!・・・と俺の頭をぽかぽか殴るは
止める立場のシノンは一人にしてくれ・・・って勝手に進もうとしてトチキさんに慌てて止められている。
遅いなと中央街からトツカが迎えに来るまでこのカオスな状況は続いた。
・・・結局援軍に案内人をも一人つけてもらい別行動することになった。
「都会の女の子ってやっぱり怖いね」
「トツカ・・・俺も今だけは本当にそう思うよ・・・」
どっと疲れた体を引きずりながらトツカの案内で中心街への道を進む。
もともとトツカとトーリの家で俺を泊めるつもりだったらしく何人も泊めるのは難しかったので、トチキさんの家で姉妹を泊めれたのはちょうど良かったのかもしれない・・・本意ではないが
トツカと俺に盛大に心の傷を負わせたあの邂逅からやや一時間。
シノンやサニアと別の道を通ることになった為に通常より更に一時間道を歩む羽目になった。
「ごめんなサクラ。客人をこんなに歩かせちまって。」
「いや、防衛の都合だろうしいいさ・・・ちなみに今どれくらい潜ってんだ?」
「龍様方が最大サイズでのびのびと飛び回れるようにと考えてしまうと、どうしても大樹の根とか何も遮るもののない広い広い場所が必要だってことで作られたからな・・・もうしばしってとこかな?」
何故か息苦しくもないし、龍ですら通れるほどの広く明るい道。
身体的な苦痛は無いとはいえ景色は一向に変わる気配が無いのでまいり始めてきてはいる。
「黒雲で道を把握して、『動く曇道≪オート・ステップ≫』で移動すりゃあすぐにつくのになあ・・・」
「それをしたら龍人皆が怯えちまうよ」
「怯えるって・・・攻撃されるわけじゃあるまいし」
「よく外に出ることが多い龍人の里支部の皆ならともかここに住む人たちは自分の弱さを自覚してる分臆病なんだよ・・・それを差し引いてもお前の雲は黒いから不気味なんだよ」
「不気味・・・」
思わぬ口撃を受けもしかして雲が黒いからキチガイとか呼ばれてるのか?と落ち込んでいるとトツカが声を上げる。
「それにもう少し歩けばつく・・・ほら」
「やっとか・・・なんじゃこりゃ!?」
龍人の郷とはそこまでに続く迷路のような巨大な道と龍人と龍が暮らす中心街によって構成されている秘境だと聞いた。
・・・でもこれは、、、地下帝国って感じだろうが。
遂に出口を見つけて外に出てみれば、目の前に広がるのは石造りの家、家、家。
道も整備されているし区画整理も行われているのだろう・・・下手したらモルロンド伯領よりも文明的には発達してそうだ・・・実際街の大きさだけならあっちより大きいし。
なにより驚いたのは・・・
「あのでっけえ祭壇みたいなの何?」
街の中央に鎮座する大きな大きな大きな建築物。
ピラミッドのように石を積み上げられた祭壇。
ただしその一つ一つの石が龍とほぼ同じ大きさの石だ。
よく見れば一つ一つの石には精巧な龍の彫刻がされてるし・・・手の器用さ半端ねえな
「あれは龍宮・・・龍様方と龍巫様が暮らす宮殿だよ」
「でっけえ・・・行ってみたいな」
「行くなよ?龍人でも許可なく立ち入れない聖域なんだから。」
「え~折角来たのに・・・」
「お前は止めても何だかんだで入ってしまいそうで怖いから言っておくが・・・もし入ったらお前に案内札渡した爺様は一族郎党切腹だかんな?」
「・・・そうだったな、そういや」
そのころ村長の爺さんは妙な寒気を感じぶるっと震えたそうな
トツカの案内で街を歩む。
当たり前のように龍人たちは弱さの象徴でもある龍応石をさらけ出し、街を闊歩している。
外の世界で会った龍人は皆龍人であることがばれない様に隠そうと必死だったが、、、この街が龍人しかいない町だからだろう。
閉ざされた世界であるため俺がもの珍しいのだろう、皆が俺をチラチラ見ている。
案内札を首から下げている為特に絡んでくる人はいないが、、、そういう意味ではあの姉妹は大丈夫だろうか?
「よし、ここがうちの家だよ」
「この世界きてから三階建ての家初めて見たわ」
建築レベルも高いのだろう。
基本石造りだが日本にもある一軒家とほぼ同じ大きさの家が立ち並んでいる。
そんな家の一つ。
それがトツカの家だった。
「ただいま」
「おかえり・・・!?おにいさん!」
「うほっ!幼女!」
ドアを開けるや否や幼女が胸の中に飛び込んできた。
あわてて右腕だけで抱き留める。
幼女は俺の左腕を見るとあわてていきなり飛びついてごめんなさいと離れた。
誰かなんて匂いで分かる・・・このまだ乳の匂いが残るこれは・・・
「トーリ!ちょっと背が伸びたな!まだ幼女だけど!」
「・・・おにいさんは変わりませんね」
ジト目で見て来るこの美少女・・・いやこの美幼女の名前はトーリ。
ココノハ村で俺が出会った初めての依頼人だ。
彼女はお母さんにでも結ってもらったのか丁寧な三つ編みを弄りながら拗ねた口調で俺を見上げた。
可愛いなあ・・・もう。
もうちょっと幼女の笑顔を見たいので懐に手を入れる。
「ほら、お土産もあるし機嫌直せよ。」
「わあ!もしかしてあの蜂蜜ですか!?」
幼女は甘いものに弱いのだ案の定すぐに笑顔に戻った。
彼女はどうぞ入って下さいと歓喜満面といった表情で俺の手を引く。
ほぼ石造りで出来ているこの家は歓待の食材が並べられた机まで石で出来ている。
とはいえ暖色石なんて特殊な鉱石まである場所だ。
ただの灰色の石なんかではなく様々な色の石が使われているのでむしろ温かみまで感じる。
「おにいさん!おにいさん!」
「ん?ああ、貴重だから大事に舐めろよ」
瓶一本にガッツリ詰めた『深森蜂の蜂蜜』である。
彼女はふわあっとそれを見るなり瓶の封を解き指にたらして舐めはじめる。
「おいしー!」
「モルロンド伯爵領は国中から物が集まる交易地だったからな。探してみたら意外とあって驚いたよ」
トーリが好きだろうと以前渡した『深森蜂の蜂蜜』・・・アリアの勝手に持ち出したけどばれてないようだし本当よかったよ。
前に雲アリアで会った時、殺されないかとびくびくする羽目になったし。
まあ危険を犯したかいはあった
彼女もやはり甘いもの大好きな女の子だったらしく目を細めて美味しいと大喜びである。
トツカがこらこらと言いながら瓶を取り上げる
「今から飯だろうが。手もべたべたにして・・・洗って来なさい」
「ええ・・・わかったよう」
「そういえば親御さんは?」
「そうだな、どこいったんだ?、、、トーリ知ってるか?」
「なんか飛龍様が人の姿で戻って来たとかで支部長の家に事情を聞きに行ったよ?」
意味が分からないと言った表情でトーリが聞いたままのことを言う。
意味が分かっているトツカは表情をこわばらせた。
「はあ!?飛龍様が人間のお姿になった!?サクラ、ちょっと俺も支部長のとこ行ってくる!」
「飯食ってからでよくね?お前にも土産あるしさ」
「そんな悠長な事態じゃないんだよ!」
「おいおい、幼女がおびえてるだろ?怒んなって」
「幼女幼女言わないでください!」
魔法で溜めたのであろう水入りのツボで手をぱちゃぱちゃ洗いながら抗議の声を上げてるが、トツカはそれどころじゃないと言った感じで焦ってる。
「なあ龍が人の姿を取るってそんなにまずいのか?スカイはこれからどうなんの?」
「それは!・・・サクラ?その懐に入ってるのは何だ?」
「え?トツカへのお土産の十八禁本だけど?なに?今ここで見たいの?しょうがねえなあ・・・」
「ナニ持ってきてんだ!?トーリの前でそれを出すんじゃない!」
なんだよ、折角持ってきてやったのに。
現代日本の同人漫画みたいな絵の使い方だったから思わず言い値のまま買ってしまった一品だというのに・・・
ちなみに純真無垢な少年が『狂竜化』しかけのお姉さん達に初めてを奪われるという素晴らしいものだった・・・とても素晴らしい一品だった。
トツカが見たいけど見たくない風な様子で俺の前で視線を揺らす。
「後で持ってってやるって・・・」
「ありがとう、兄弟・・・」
「屑どもが・・・」
「「!?」」
「どうしたんです?お兄ちゃん達?」
トーリの口から物凄い暴言が聞こえた気がしたが、振り向くと普通に笑顔の女の子がいるだけだった。
・・・聞き間違えならいいんだけどね?
トツカはしばらく妹の純粋な笑顔に罪悪感を覚えていたようだが慌てて首を振ると俺の懐を指さした。
「そうじゃなくて何だよ、その懐で光ってんのは!」
「え?」
懐を見ると本当に光っていた。
右腕を突っ込んで取り出してみると、懐から出てきたのはドン・クラークの龍応石だった。
魔力がいつもより暴れ回っているようで、ビッカーンと強く発光していた。
トツカが気持ち悪いものを見る目でその石を見つめる。
トーリも怖いのか俺の裾にしがみついて隠れてしまった・・・ぐっじょぶ、ドンクラーク!!!
「おいおいなんだよその石・・・」
「何ってお前らが持ってる石だよ、これも」
「んなわけあるか『鑑定』、、、本当に龍応石!?うそだろ、こんな機能があるなんて『視た』こと無い。まるで龍会議の招集光みたいだ・・・」
「なにそれ?」
トツカはなかなかあることじゃないらしいし、実物見たこと無いんだけどなと言ってから説明し始めた。
龍宮におられる龍巫様が必要と判断し、龍人の郷の中外全ての龍を招集する合図らしい。
この合図が出されると龍の全身がこの石のように光るらしい。
ちなみに拒否権はないらしく、テレパシーで龍巫様に事情を話さなければ強制召喚されるらしい。
「じゃあ龍でもないのになんでこの石はこんなに光ってんの?」
「ちょっと待ってな。魔力をかなり込めなきゃ分からなさそうだし。」
紅く染まる目が石の本質を探る
、、、と彼が眉をひそめた。
トツカは文字でも読んでいるかのように、石の性質を読み上げる。
「『狂竜化』?なんだそれ?それを経たことで石の本質が変化?」
どうやら龍人の中でも『狂竜化』はなかなか知られてないことらしい。
彼はそのまま書いてあることを読み上げようとして…トーリを抱き抱えて俺から逃げ出した。
「さらばだ!お前の事は忘れない!」
「ちょ、どうなってんだよ!」
トツカを引っ捕まえようと石を投げ捨てようとしたその瞬間
『世界が歪んだ』
「『黒曇衣』!!!」
このままぼうっとしてたら死ぬと感覚で判断する
瞬間的に発動出来るもっとも強力な防御術式を発動し、身体を丸くして頭を守る。
視界まで歪み平衡感覚も怪しくなる。
色んな性質の魔力が俺の身体にぶつかり、通り過ぎていく。
擬似暴走魔力を全力で注いでいるのに、、、防御が追いつかねえ!?
「あれは…特大の魔力の壁!?桜!魔力貰うぞ!」
視界の隅に大きな魔力の壁が映る。
てか、こっちがそこに引っ張られてる!?
魔力を注いで、衝撃に備える。
そして激突、、、「グハッ!!」
内臓がひっくり返るような衝撃と脳震盪。
魔力がコントロール出来なくなった。
壁は俺を更に引き寄せ、、、引きずり込んでくる。
壁に埋まる前に、視界に俺が引きずり込まれた世界が少しだけ映った。
濃密で濃い魔力が虹のように発光して渦巻いていた。
そして、、、多くの感情が渦巻いていた。
「ぶはあ!!!」
壁に取り込まれたかと思っていたが違う。
あれは膜だったんだ…
世界と世界を隔てる膜だ。
道理で似た感覚を知ってるはずだ…死にかけたのは初めてだがな。
「サクラ?」
「よう、スカイ、、、死にかけたわ」
「お、お主ここが何処かわかっとるのかえ!?そもそもどうやって入って来たんじゃ!?」
「知るかよ、、、いきなり連れてこられてこっちは被害者だっつうの!!…で?ここどこ?」
目の前にはスカイが座っていた。
どうやら異世界に飛ばされた訳じゃなさそうだ。
視界が安定しない状況だったから上手く事態を把握出来ないが、、、膜をくぐった瞬間、俺は上空に投げ出され地面に叩きつけられた。
そしてスカイが目の前にいた。
「何故掟破りがもう一人いるんだ!!!?」
その時天から怒声が響いた。
「お主何龍じゃ!?」
「まだ来ておらぬのは水龍ぐらい、、、だから召喚拒否を!?」
「待て!飛龍と異なり水龍は高潔なお方!こんな貧乏臭い格好な訳が無い!」
貧乏臭い格好で、悪かったな
空を見上げた。
いや、見上げるぐらい首を上げた。
俺とスカイを囲むように七匹の巨大な龍が俺達を囲いこんでいた。
・・・どうやら観光どころじゃ無さそうだ。
右手で剣を引き抜こうとしたが、世界に引きずり込まれてる間に落としたみたいだ…
幸運なことに『七番鞘・常識外』はあった。
舌打ちしながらそれを構える。
「さあ、龍退治だ!ドラゴン・スレイヤーになってやろうじゃねえの!!!」
次号で第二章終了です!




