第2章魔国の影part2
移動回!話はそれ程進まないっす!
彼女が泣いた所を見たのは一度だけ
彼女はそれからというもの自分の思いを封じ込めるようになった
正しいと考えたことを進んで実行するようになった
その一方で彼女は理性的な正しさに妄信するあまり、感情的な行動を理解できなくなってしまった。
例えば親が犯罪を犯した子どもを庇う気持ち
例えば男性が自分より優れた男性に嫉妬し友好を拒もうとする気持ち
例えば子供が初恋の近所のお姉さんに構ってもらおうと我が儘に振舞う気持ち
俺たちが普通に間違ってるけど仕方ないかと思うこの気持ち
それを彼女は理解できない、だから彼女は恋とそれを動機にした行動を理解できない。
理性的で合理で動く彼女にとってそれはどこまでも不合理で曖昧なものだから
彼女に恋した少年は彼女が泣いてる姿を見た。
そしてだからこそ彼女が誰にも恋をしない理由を知っている。
なのに彼は彼女から目を離そうとしない、身を呈して彼女に尽くす。
報われない、、、何の見返りもないのに。
昔彼に恋をしていた女の子なら何故そんな情けないことをしてるんだと言うだろう。
彼の答えは一つ
『彼女の笑顔が見たいから』
ソーラがインモラルに攫われてから一月が経った。
変わらないこともあれば変わったこともある。
一つだけいえることは、あまり良い方には行ってないってことだ。
「ふんふんふん・・・うう、ツッコミが欲しい・・・」
俺はひとり寂しく独り言を呟くが皆にガン無視されていた
あんまりにも寂しいので回想に入ろう
1ヶ月の間に暴走魔力は完全に俺の魔力に浸みこんで、俺の魔力は全く別物になった。
その結果、桜の魔力との共鳴率は40から25パーセントまで下がった。
ちなみにアリアとの最終的な共鳴率が55パーセントだったことからも、もう切り札の『嵐雲魔術』は二度と使えないと考えていい。
まあ悪いことだらけでもないんだが・・・
ドン・クラークの魔力が俺を守ってくれているのか、俺の身体を変質させたのか俺の魔力は暴走魔力と上手いこと溶けあったようで今までよりも魔力の操作や発動がなんつうかな・・・簡単になった。
そんなに魔力込めなくても、十分って感じ?
簡単に纏めるとな・・・
取り敢えず今の俺の魔力を擬似暴走魔力とし、桜が現状持っている魔力を自己資本魔力としておく。
基本的に暴走魔力が染み込んでいるため、疑似暴走魔力による俺の魔術は今までより強力で複雑な事が出来るようになった。
え?例えば?
『内在型身体強化』がシノンやスカイに鼻で笑われるレベルから卒業出来たりとかな?・・・これを成長といっていいのかは伏せておく。
後、擬似暴走魔力はベースが俺個人の魔力だから『嵐雲魔術』は無理だけど、今まで通り魔力バイパスで桜から自己資本魔力を貰うことは出来るようだ。
どうやら身体で勝手に擬似暴走魔力に変換されてるようなのだ・・・魔力バイパスを恐る恐る試した時は暴走したかとしばらくビクビクしてたが意外と大丈夫だった。
そんな感じである
俺以外の黙りこくってる奴等のことも述べておいた方がいいだろう。
何故俺が旅の途中で『ツッコミが欲しい・・・』だなんて泣き出す羽目になったり、寂しくて今こうして紙に自分語りを記している理由も分かるだろうから
1ヶ月経っても全くソーラについての情報は集まらなかった
公営ギルドの捜査網もモルロンド伯爵が権力でもソーラの目撃情報すら集まらなかった。
その間お前は何してたのとか思うかもしれないが、そうだな・・・
怪我治してたに決まってんだろうが、言わせんなよ恥ずかしい(/ω・\)
まあ、治癒魔術は効かないんで未だに包帯で左腕吊ってるけどね。
両利きで良かったよ、全く。
まあそんなわけだから、業を煮やしたモルロンド伯爵が俺たちフェデラに指名依頼を出してきた。
-指名クエスト-ソーラの手がかりを探しに龍人の里に向かって欲しい
【補足:娘であるソーラが誘拐された。手を尽くしたが何の手がかりも掴めない。今は少しでも手がかりが欲しい。聞いた話ではあなたたちフェデラの中には龍人の郷への行き方に精通している人がいると聞く。ソーラを攫った魔族が乗っていた魔物も龍らしいし一度情報を集めていただきたい】
適正レベル:不明 報酬:前払いで龍人の郷までの旅費と滞在費 依頼者:モルロンド伯爵
成功条件:ソーラについての有意義な情報提供若しくはソーラの奪還・・・最悪の場合生死の確認
どれほど苦しい思いでそれを書いただろう・・・
手書きで手渡された指名クエストの用紙は震える文字で書かれていた。
フェデラとしても少しでも情報が欲しいので即決で依頼を受諾した。
そしてその日の内に勢いのままメリッサさんが用意した馬車に飛び乗った。
・・・飛び乗ったまでは良かったんだがなあ
二つ問題が発生した。
一つ目はどの異世界トリップ主人公も感じたんじゃないだろうか?
馬車サイテー!
道も舗装されてない車輪もゴムなしスプリングなんて当然ない!
テンプレだぜえと数分乗った時点でもう降りた。
もうあんまりにも腹が立ったので魔術発動。
馬を見送りに来たメリッサさんに押し付け、進む予定の道に雲の道を走らせて上に馬車を乗っける。
何という事でしょう・・・メルヘンな空飛ぶ馬車が出来ているではありませんか・・・
俺の『曇の魔術』の疑似暴走魔力による強制レベルアップがここで活きた。
空に掛ける長い長い雲の道は俺達パーティーがふわふわ浮かぶ馬車に乗り込んだとたん、馬車を前に前に道の先へと押し出す。
そう、、、俺は今自分だけじゃなく、自分ごと一トン近くはある大型馬車を黒雲に乗っけて浮かすだけじゃなく、黒雲を流動させて馬車ごと移動させることまで出来るようになっていた。
今まで自分を浮かせるといえば『曇の階段≪ラダー≫』で足場を作るしかできず移動は自分の脚で足場を飛んだり走ったりとするしかなかった。
足場の維持だけでもかなり厄介であり、そこに立つとなるとぐらつかないように足場をさらに固めたりと、とてもとても上に乗ったものを動かすなんてできなかった。
ところが今では一トンぐらいならぐらつくことなく浮かすことが出来、少しの魔力を込めれば雲から雲への流動によって物や自分を移動させることが出来る。
名付けて、、、
「『動く曇道≪オート・ステップ≫』つまり進化した『曇の階段≪ラダー≫』に乗っかるだけで後は勝手に雲が目的地まで道を作って運んでくれるってことだ。運ぶ速度は乗っける物によって異なるが、現在馬車は高速道路に乗ってる自動車と同じくらいのスピードで空を飛んでいる。もし乗ってるのが俺だけの状態で『動く曇道≪オート・ステップ≫』を使えば頭を地面に向けたまま上空を空気を切り裂くほどの速さで駆けるなんてことも出来るかもしれない、、、小回りはききにくいだろうが身体強化した肉体よりもスピードは出るだろう。空気を切り裂く移動って主人公みたいじゃないですか?」
「もうやめてくれえええっ!!!」
現在高山の真上を『動く曇道≪オート・ステップ≫』の道が続き、馬車の窓が景色をすぐに移りかえていく。
まるで新幹線の窓から山景色を見ている気分だ。
流石に季節は秋ではあるが高山並の高度になると既に雪化粧が見え隠れするところもある。
これから冬が来ることを実感させられた。
本来なら何か月もかかる高山の雪道ではあるが、俺の天才的な閃きによって一週間もかからずに龍人の郷に到着することが出来るだろう。
それはいい、、、それはいいんだ・・・
二つ目の問題が俺を苦しめている。
魔術がいくら強化されていたとしても解決出来ない問題だ・・・
言ってしまうぜ・・・最近みんな俺に冷たいんだ。
・・・いや、冬が近いからとかそういうわけじゃないよ?
いつもなら笑顔を向けてくれるサニアはここ一か月俺を冷たい目で見ながら精神的にネチネチとなぶってくる。
今日も心労でつい書いてしまった日記をサニアは何を思ったのか俺の前でつまらなさそうな顔で朗読し始めた。
念入りに隠したはずなのに、シャワーから上がると既にサニアの手の中にあった。
慌てて返してくださいと泣いて懇願したらこの有様だ。
少しくらい感想とか面白いとか言ってくれたっていいだろうに、何の抑揚もなくただ淡々と俺の書いた絵日記をサニアは朗読する。
てか深夜テンションで書いた部分もあるので朗読マジで止めてください・・・
俺がついに鼻水まで垂らしてガチ泣きしながらギブアップすると、彼女はため息をついて舌打ちした。
「おにいさんが構ってくれってオーラ出すから構ってあげたのに、、、何その態度?」
「誰も頼んでないよ!?」
「ああ、喉が渇いたなあ・・・誰かさんのせいで水を近くの泉からくんで来ることも出来ないしなあ!誰かさんが何の相談もなく馬車を勝手にこんなに高くまで浮かすから!私たちをエロい目で見て来る誰かさんが・・・」
「はい、ただいまぁ!『曇の陶器≪クラフトワークス≫』!『曇の小雨≪ウォーター≫』!」
言葉責めに耐えられなくなり黒雲で作ったコップに、同じくらいの小さな黒雲からさらさらと落ちる雨を注ぎ差し出すがサニアはドンと馬車の床を踏み好機とばかりに俺をなじる。
「ちっ、遅い!!ここまで言わないと分かんないの!」
「うう・・・お代わりいかがですか?」
「だ~か~ら~!!!言わないと分かんないの!」
「はい、、、ただいま、、、」
サニアはお代わりのコップを一気に飲み干すと、ふうと一息ついた。
ソーラが攫われてからずっと彼女はこんな感じである・・・
俺の顔を見れば何故か俺をなじるように罵倒する。
それだけなら反抗期かと思うだけでいいんだが、何か無理してるように感じる。
それに俺が従順な姿勢を示すと余計イライラするのか更にキツイ命令を下してくるし・・・
「サニア、、、無理してないか?」
サニアは一瞬眉をぴくつかせると、深呼吸をした。
なんだやっぱり何かあったの・・・
「俺は遂に『動く曇道≪オート・ステップ≫』をマスターした。俺は今日から『空気を切り裂くハイウェイスター』・・・」
「ぎゃああああああああああっ!?ちょっと外見て来るわ!」
彼女は無表情で殺人兵器を起動させた。
急いで魔窟から脱出せねば!!!
「あっ・・・」
「なに?」
振り向くとサニアがこっちに手を伸ばしていた。
・・・一度目を瞬かせると彼女は何事もなかったかのように日記を持ち上げ
「『空気を切り裂くハイウェイスター』・・・なんて甘美な響き・・・」
「もうやめてえ!」
誰だサニアに俺の日記を渡したのは!!!
確かに皆最近構ってくれないけどサニアみたいな構われ方はごめんだ!
ちなみに一トンもあるだけあってこの馬車は設備が充実している。
四人座ってもまだ余裕のある乗車席。
水洗式のトイレにハンモックとはいえ就寝室や暖房設備としても利用可能な釜戸がある調理室。
かなり物を収納できる格納庫までだ
水は魔術で補給しなきゃいけないがシャワー室まで付いている。
勿論引く馬が五、六頭は必要になるがちょっとしたキャンピングカー並の快適な空間と言っていい。
サニアの口撃に耐えられなくなった俺はそんな快適環境から出ることにした。
外と言っても行ける場所は御者席か馬車の屋根ぐらいだけど・・・
まあ今もサニアが大声で暗黒日記を音読しているので、聞こえない場所ならどこでもいい。
「・・・」
「うっわ、寒っ・・・」
御者席は高速移動による空気抵抗をもろに受けており、座ってるだけで凍ってしまいそうだ・・・
本来『動く曇道≪オート・ステップ≫』なんて使えば真っ先に『何故普通人間が思いつかないようなことをするんだこのキチガイめ!』と怒鳴ってくるはずの彼女はそんな寒い御者席でマントにくるまって三角座りをしていた。
俺が隣に座ってもガン無視である。
雪すらたまに振る場所もある下の風景や轟轟と吹き荒れる雪風に思わず口笛を吹いて、そんなテンポのままシノン山にアタックをかけることにする。
「あ~シノンさん?ここは高山よりも高い位置にあるから冬場並の気温なのね?だから中に入らね?」
「私は氷属性だから寒い所は平気だ・・・」
「シノン、、、それでもこんな場所にいつまでもいるのは良くないよ?俺が心配だ」
「何で心配するんだ・・・」
「そりゃあ、、仲間だし、、、」
「どうだか、、、」
シノンはふいっと俺から顔を背ける。
おいおい、、、いつ拗ね拗ねフラグを踏んだんだ俺は?
シノン山アタック失敗である。
この一か月ちょっと彼女は俺が何をしても無関心を装う。
それだけならいいんだけど、少し自分をないがしろにするようになった。
俺より少し前で戦うようになったり、こうやって寒空の下で延々と座っていたり。
あまりにも自暴自棄過ぎるので注意すれば、頑固だから余計にムキになる。
そんなだから強くも言えない。
仲間だからとか相棒だから心配だと言えば今みたいにどうだかと頬を膨らませる。
もうどうすればいいのと気がふれてしまって、一回ふざけて抱き着いてコチョコチョしようとしたら丸三日氷漬けにされるし・・・
彼女がここまで怒ってるのは俺が何をしたからなんだろうか?
答えを未だに見つけられない、、、彼女達は俺にどうして欲しいんだ?
分かり合えないなら分かり合うまで話し合え・・・ドン・クラークの格言も彼女達自身が話し合うこと自体を拒否するなんて想定してなかったんだろうなあ
「もう行ってくれ・・・今はここにいたい気分なんだ」
「はいはい・・・」
仕方ないと席を立つ
「あっ・・・」
「?」
「な、何でもない!」
一瞬シノンがこっちを泣きそうな顔で見ていたかと思って一度目を瞬かせる。
シノンは既にこっちに完全に背を向けていて、自分が見た表情が正しいものかどうか確認は出来なかった。
「じゃあ、、、上に行くから、、、何かあったら言えな?」
「・・・」
返事が無い・・・
皆こんな感じで妙なのだ。
えらく俺に当たってくる妹に、自暴自棄な姿を見せる姉。
まるで俺を怒らせようとでもしているみたいに・・・
この二人以上に変な奴もいる。
「スカイ・・・飯もうすぐ出来るんだけど、どうだ?高山大鹿がいたからスモークにしようと思うんだけど」
「・・・サクラか。『いらん』のじゃ。」
スカイは『魔喰龍』と闘ってからというもの、いつも以上に物事に対しやる気をなくしていた。
あんだけ満腹キャラだったくせに食事すらあまりとらなくなった。
「おい、、、いくら龍の体だからって最近食事を一切摂ってないだろう・・・」
「龍だからこそ大丈夫なのじゃ・・・暫くここで寝とるからほっといてくれたも・・・」
シノンやサニアみたいに俺に攻撃的な態度はないけども、、、彼女は彼女で心配だ。
でも、、、俺より長生きしてる彼女にこれ以上何か言うのは余計かもしれない・・・
「飯は用意しとくから・・・釜戸ぐらい使えるだろうし、好きな時に暖めとけよ?」
スカイはふるふると手を振って分かったと示す。
まあ言えることはこんなものかと屋根から下に降りる。
「・・・あれ?」
御者台にシノンがいなかった。
馬車の中に入るとサニアまでいなかった。
・・・ん?
不思議に思いながら調理室へと進む。
調理室の扉を開けようとしたら人の話し声が聞こえてきた。
「ほらシノン!早く食べて!おにいさんが帰って来ちゃうよ!」
「そうは言ってもこれは意外と美味しいからじっくり味わいたい。」
「え?・・・ホントだ。おにいさんってホントに料理上手いよね・・・」
あいつら俺がスカイとだべってる間に飯ちょろまかしてたな・・・スカイがつまみ食いしてるのかと思ったけどお前たちの仕業か・・・
飯だと呼んでも来ないもんだからどうしてるかと思ったら、、、まさかコソ泥みたいなことしてるとは・・・
思わず扉を開いて一声かけてやろうと思ったが止めた。
態度的に本当に嫌われてるわけでないことは分かってはいたけど、、、彼女達の行動を見てようやく心から安心できたからだ。
だって嫌いな奴が作った飯なんておいしいなんて言いながら食わないだろ?
「一緒に飯を食べるのが嫌なぐらいには怒ってるってことか?なにしたっけ?」
きゃいきゃい女の子同士騒がしい声が溢れる調理室を後にし御者台へと戻る。
寒い・・・風が一段と強く吹いてるし・・・腹も減ったし。
懐からほんの大きさぐらいの一枚の札を取り出す。
札は方位磁石のようにある方向に向けてビインと立っていた。
龍人の里火山支部でもらった龍人の郷へ案内してくれる札だ。
その札はこの曇の道を進めば進むほど徐々に徐々に発光を増していた。
光の具合から見て、、、間違いない
もうすぐ・・・もうすぐスカイ、トーリ、トツカ、クリムゾン、龍人の里火山支部の故郷であり
全ての龍と龍人の拠点であり象徴
秘境『龍人の郷』へと辿り着く
『曇の魔術』がグレードアップしてるのに、『嵐雲魔術≪スーパーセル≫』は使えなくなり
パーティーのみんなが冷たくて、いつもみたいにキチガイって罵倒してくれなくなったり
ソーラが誘拐されたり、桜は思いつめるしと心配事ばかり・・・
でも、やっぱり俺は俺なんだろうなあ・・・
心配事よりもまず新しい土地では何が起こるんだろうって感情の方が俺の心を埋め尽くしてるんだから。
この時、俺の頭の中は『魔喰龍』のことなんてすっぽりと抜けてしまっていた。
その脅威は・・・徐々に徐々に龍人の郷へと迫ってきていることを知らないままに
二日後、、、曇の道は遂に龍人の郷に繋がり、、、俺達フェデラを乗せた馬車は秘境と呼ばれるその土地へと降り立った。
あらすじの予告通り修羅場を盛り込んでみました(笑)
次話から『龍人の郷』編本格スタートです!




