第1章私立鷺ノ宮高校の文化祭part3
「最近影の薄いヒロインがいるんですって・・・」
「最近影の薄いヒロインがいる?・・・それは私のことかぁぁッ!!!」
「こ、、、この気迫、、、奴こそ千人に一人現れるといわれる伝説の超ヒロイン、、、スーパーヒロイン人白凪優子だ!」
二日目
一日目が三年生の演劇だったり、一二年生ならオブジェやミニ演劇など学校から与えられた学年共通種目のようなものをこなす日だとしたら、二日目はかなり自由である。
三年生ならこの日までの想いをこめてライブや自由ステージをこなすし、一二年は部活動ごとに展示やミニゲームの展示とかやったりする。
『一二年は部活動ごとに展示とかやったりする』
「おい、、、あれが新聞部らしいぜ・・・他の部とあそこだけ雰囲気違うよな。」
「ここに通ってるうちの兄ちゃんが言ってたんだけど、あそこの部長さんは何でも知ってるって」
「隣の副部長はエロゲ主人公らしいぜ?」
二日目になると学校も自由開放になる。
とことん自由な学校祭になる。
来年後輩になるかもしれない中学生も遊びに来るし、卒業生が楽器を持って在校生と対バンをしたりなんてことも昔はあったとか。
それぐらいいろんな人が出入りする日になる為、昨日以上にどこも人口密度が高い。
県内二位の在校生数を誇る我が校の全校生徒を丸々受け入れられるはずの新体育館ですらいつもより蒸し暑い気がする。
「ふ・・・あそこの三人組面白そうだね。スカウト(脅迫)してくるよ。」
「程々にしてくださいよ?恐怖のせいで志望校変えてしまうなんてことになったら本末転倒なんですから」
「分かってるよ・・・ねえ君達、武藤君に喜美縦君に粕谷君でいいかな?」
「「「!?」」」
新聞部のブースを除いてはの話ではあるが
俺は二日目の午前中は丸々クラスの方を手伝って、午後から新聞部の仕事を手伝うことにした。
基本的にやってることは古畑さんのスカウト(脅迫)と新聞特集(オモテの方の・・・)の無料配布だけだしとブースにいるのは俺と古畑さんぐらいだ。
俺がしている仕事っていっても遊びに来た卒業生に今年度の記事の特集を無料配布しているだけだし、他の部員には文化祭を楽しんでもらえるようにしてもらおうと来ないでいいと言ってある。
ちなみに伊月とういるるは二人で今日はミニ演劇や自由ステージを見に行くとか
伊月が今日は楽しみだと笑顔で言っていたので本当に良かったと思う
やっぱりせっかくの文化祭だし楽しんで貰いたいし
後は、、、俺をナチュラルにハブってることについて、ちょっと傷ついてたりなんてしないんだからね!
「はい、三名様~♪」
古畑さん何してんの?であるが
古畑さんの古畑さんによる古畑さんの為の新入部員の今の内からの確保である。
古畑さんはすれ違いざまにぼそりと呟いたり、ニ三語話しかけることによってまず
ガクッ
と膝をつかせて心を折った未来ある中学生をスカウトしていた
・・・心折られて未来あるとはこれいかに
ナニカに怯えたような顔をしたさっき古畑さんに話しかけられた学生たちは、入部しますと書かれた誓約書にサインすると足早に去っていった。
「いやあ、大量大量♪」
「・・・こんなことしてるから悪い噂が立つんすよ」
「いいじゃん、新聞部なんてとことん嫌われるか、とことん目立たないかのどちらかしかないんだよ?だったらみんなの意識に上がるようなすごい部活にしたいじゃん」
「うううん、そうっすけど・・・」
古畑真琴が入部したことによって当時廃部しかけだった新聞部が文化部運動部果ては生徒会にまで強い影響力を持つようになったって話はかなり有名なものだ。
追い出し会の時だって3年生みんな楽しい生活を送れたのは真琴のおかげだよって涙流してたぐらいだし。
俺だって恩義は感じてるけど、、、これは無いだろう?
運動部、文化部のブースが壁サークルのようにズラッと体育館の壁伝いに並んでいるのだが、新聞部の両隣に来る予定だった部活は、部員全員が謎の精神病によりいなくなっており新聞部を以上に褒め讃える部活が隣に来ていた。
「あの~サッカー部ですか?」
「ああ、新聞部のお蔭で全国大会出場を勝ち取ったサッカー部だよ!さあ、この書類を持って隣にGOだ!」
「はあ・・・」
みたいな感じ
周りからの自重しろって視線が凄く胸に突き刺さる・・・
古畑さんがまたどっかに行ったと思ったらいつの間にか屋台に行ってたようで、俺にたこ焼きとウーロン茶を差し出してきた。
「好きだったろ?」
「…ども」
「どうしたん、不機嫌そうな顔して?」
流石に部員が部長の方針に文句を頻繁に言うわけにはいかない。
こんな部活でも高校部活の暗黙のルールぐらいはあるんだ。
それに俺だって中学時代から彼女に世話になってるし、部活運営については彼女の腕を俺は誰よりも信頼してるつもりだ。
「古畑さん、、、たこ焼きにはコーヒー牛乳か緑茶がいいです」
「あ、飲み物要求するようになったか。我侭な後輩め」
「日本人ならウーロン茶とか邪道ですよ、邪道」
「コーヒー牛乳も結構邪道じゃない?」
彼女は変わらないねえと言いながら俺に緑茶とコーヒー牛乳を両方放ってくる。
…さすが古畑さん、俺のいうこと予想してたか
だったら最初からウーロン茶くれなきゃいいのに
たこ焼きを爪楊枝で口に一つ運ぶ。
「!?」
「旨いだろ?」
「そっすね、、、やたらと旨いたこ焼きっすね・・・」
彼女は毎年屋台にしては旨いって人気なんだと笑った。
そんな彼女は一見普通の先輩に見える。
実際彼女が恐れられ始めたのは高校からであり、寧ろ中学時代は御淑やかな優等生って感じだった。
「あ、獲物発見・・・次は如峰月に行ってもらおうかな?」
「ふざけんな」
訂正
中学時代でも腹黒さは大して変わんなかったと思う。
「それにしても黄金比生徒会長はすごいよねえ」
「おや、珍しい。古畑さんが人を素直に褒めるなんて」
「なんだいその喉に骨がかかったような言い方は。私だって認めてる人にはそれなりの礼儀は払うさ」
彼女はパラパラと今年度の特集記事を捲った。
表の新聞は先生にも検閲されるためにある程度学園や生徒会に肯定的な文章になる。
それを差し引いても黄金比生徒会長についての特集が表の新聞の大半を占めており、そのどれもが黄金比生徒会長を肯定的に評価する記事だった。
ちなみに新聞部の記事を最後に確認するのは古畑さんだから、この記事は彼女の黄金比生徒会長への評価を表したものと言ってもさしつかえない。
「去年の文化祭を知ってるニ三年は正直残念に思ってるところがあるんだ。来年はここまですごい文化祭は出来ないって」
「・・・ああ、黄金比生徒会長はもう三年ですからね」
この文化祭が終われば中間テストを挟んで政権交代が始まる。
この鷺ノ宮高校は特に生徒会の権力を強めにしているから、本来なら皆が注目するところだ。
でもぶっちゃけ今年に関しては、、、皆の関心は小さいじゃないんだろうか。
誰がなっても彼女は超えられないっていう思いがあるから
「残念だ、、、本当に残念だ・・・いっそ留年してくれたらいいのに。」
「なんてこと言い出すんだアンタは」
本当に留年させてしまいそうなので古畑さんは口を慎んでいただきたい。
俺が思わず冷や汗をかきながら非難の眼差しを向けているのに、彼女は爪楊枝を指で弄びながらじっと周りの様子を見ていた。
皆が自分の好きなことをしているのに、なぜか統一感がある。
シンとした静かな場所はどこにもなく、どこでも人が溢れ熱気にあふれている。
今回のスローガン『GOLDEN TIME INSTANTLY(楽しい時は一瞬で)』
二度と味わえないほど楽しい時間と空間
黄金比先輩が作り出したこの祭りは一種のテーマパークだ
でも、、、今この瞬間だけはいつまでも続かないと分かっているのにその楽しさに身を委ねてしまう
古畑さんですら、、、それを感じてしまえてるんだろう
「・・・来年もこんな文化祭がしたいなあ」
「そっすねえ」
まさかこんな気持ちになれるなんて、、、思ってもみなかった。
入学当時のままの俺だったら、NPCなんだから文化祭中も穂のちゃん先生から隠れる為に入部したどっかの部室で麻雀かゲームでもしてるべきだとでも言うんじゃないだろうか・・・
わずか半年でここまで変わっちまうとは・・・俺は本当に単純な人間だなあ。
「よし、決めた」
「・・・何をっすかあ?」
なんかセンチメンタルな感じになってしまいだるさを感じる。
脱力したまま彼女の顔を見る。
古畑さんはそれは・・・と口を開きかけて・・・指さした
「ねえ、何かトラブル起きてない?」
「あ、ホントだ。」
古畑さんが指さす方を見ると中央で部活と部活が言い争いをしていた。
そういや運動部は中央部に作った特設ステージを使って演武や体験型ミニゲームが出来たっけ?
古畑さんとの絡みで全然見てなかったが時間的に、、、野球部とバスケ部が半々で使ってるのか?
全く、、、せっかくいい気分だったのに何でトラブル起こすかな~
未だに伊月に貸したままなのでおれのTシャツはスタッフTシャツ。
生徒会が来るまで仲裁に入るか・・・
「ちょっと、危ないじゃん!」
「当たりそうになったら声かけるよ!」
「そういう問題じゃないでしょ!」
う~ん、どうやら硬式ボールを使うかどうかで揉めてるのか?
女子バスケ部の部長が怖くてやりにくいからゴムボールにしてくれって抗議してるのに対し、野球部がそんなもん今から用意できるかって反発してんのかな?
野球部も女子バスケ部も代替わりしたばかりなので部活間の交渉など初めてなんだろう。
お互い責任感が強くて妥協するとかそういう余裕を持てない時期だからか段々口論がヒートアップする。
・・・あ、女子バスケ部のリーダーらしき女の子が野球部の代表を殴った。
「ちょっと、待った待った!」
「離せ!」
慌てて女の子を取り押さえて二次被害が起きないようにする。
野球部の殴られたのはムッとした顔していたけど、俺が介入したとみると少しだけ落ち着いたようだった。
でも、暴力沙汰になったせいで空気は一気に張り詰める
「ちょっと代表二人話聞かせて!文化祭実行委員会の如峰月桜です!生徒会が来るまで場を預からせてください!」
「如峰月・・・新聞部の女たらし副会長か・・・分かった。」
「・・・何が分かったんですか?」
理由について小一時間ほど問い詰めたいところだが、野球部の代表からは承認を得られたので女子バスケ部はと暴れ回ってる代表の顔を確認する
彼女は俺の名前を聞くなりおとなしくなったので知り合いか?と確認してみると・・・あ
「白凪・・・そういや女子バスケ部の副会長だったっけ?」
「・・・ふん!」
彼女は俺と目を合わせるなり顔をそむけた。
「場預かるぞ?」
「・・・」
「一応確認するが、、、女子優位の結論にしないよな?」
沈黙は肯定とする
野球部の代表さんが胡散臭そうに俺に聞いてくる。
「いやいやサクラじゃあるまいし・・・そんなバカなことしませんよ。一応新聞部と文化祭実行委員会の看板背負ってここに立ってるんすから」
それに今は姿は見えないが野球部にはハマリュウ、女子バスケ部には朝日奈さんや白凪がいるんだ。
どちらかにだけよくするなんてことは絶対にしないつもりだ。
彼も俺の眼を見て何となく納得できたのか、分かったと頷いてくれた。
「野球部さんの方が冷静そうだし先にどういう事情なのか教えていただけますか?」
「・・・元々、この時間は野球部だけだったから中学生に硬球に触ってもらう機会を作ろうと硬球を使ったストラックアウトを企画してたんだ。でも、生徒会の手違いだったみたいで女子バスケ部のフリースローと被ってしまって、半々に使うことになったんだ。その時は問題なかったんだけど・・・さっき暴投した球が女子バスケ部の方に入っちゃって・・・ゴムボールに変えてくれないと怖くて活動できないって」
野球部の代表は面倒くさそうに頭を掻く。
まあ、元々考慮しなくていい事態が急に問題になっちまったんだもん・・・面倒くさいよな
白凪を見ると彼女はぼそぼそと話し始める
「同じ場所を半々に使うんだからそれぐらい考慮してて当然でしょ!見てよ、あそこの壁!当たった場所がへこんでるんだよ!いくらなんでも危ないでしょ!」
「こっちから硬球が飛んだら声かけるから避けてくれって言ってんのにゴムボールに変えろって聞かねえんだ。」
「素人によけられるわけないでしょ!さっきだって中学生の女の子にあたりそうになってたんだから!」
「ゴムボールだなんて今から数揃えられるわけないだろ!しかもあんなぐにゃぐにゃでストラックアウトなんてできるか!」
「ああもう、落ち着いてくれ!」
周りの人間が皆こっちを見ている。
まずいな・・・どっちが悪いとか簡単に判別できる事件じゃないだけに俺の手に余る・・・
せめてハマリュウや朝日奈さんがいれば冷静に話し合いできるだろうがこんな時に限って二人はここにいないようだ。
割り当て時間もそんなに長くないんだし早急に解決したいところなのに・・・
「う~ん、取り敢えず野球部の中でも体格がいいのがキャッチャーの装備をつけて野球部と女子バスケ部の間に並ぶてのはどうですか?」
「・・・なんで?」
「NI☆KU☆KA☆BE」
「・・・お前本当に文化祭実行委員会の看板背負ってここに立ってんのか?」
「私も今のは無いと思う」
野球部どころか女子バスケ部の人達まで駄目だコイツみたいな目で見られた
・・・まあ、そうでしょうね。
「そんなにキャッチャーの装備は無いぞ?」
「あ、肉壁自体はいいのか・・・」
野球部のガタイの良い人たちがブンブン首を振ってるけど・・・
野球部代表の人はそれぐらいならしていいと考えてるのか?
だったら・・・
「じゃあ、硬球が女子バスケ部に行かないように網張ったらどうっすか?あるでしょ?バッティングピッチャーの身を守るための網みたいな奴」
「ああ、なるほど・・・女子バスケ部の敷地に飛んでかないようにすればよかったか・・・考えてみりゃあ簡単なことか」
野球部の人は取りに行って来てくれと周りに指示し始める。
ようやく争いが終わったと皆の空気が溶けていき、再び祭りの空気が戻ってくる。
よかったあ、、、何とかなった・・・
俺は一応当事者に場を預かったものとして頭を下げておく
「すいません、なんか対策全部野球部の方でとってもらうことになっちゃって」
「いや、寧ろ中止になることすら考えてたからありがてえぐらいだ。」
野球部の代表はそういうとさっさと自分も網を取りに走っていった。
・・・ああ入ってくれてるけど腹立ってるだろうなあ
生徒会でも無い一年に仕切られて、勝手にああだこうだとさせられるのは・・・
二年の野球部の代表に陰ながらもう一度頭を上げておく。
さて問題は・・・
「白凪、、、お前手出すのはやり過ぎだから」
「うるさい!」
白凪は顔を合わせた時と同じセリフを吐くと走ってどこかに行ってしまった。
そんな俺を女子バスケ部の皆さんがジト目で見て来る
・・・あれ?俺が悪いのか?
半ば可愛い女の子が多い部活なだけにそんな目で見られると心が痛い。
「早くいってきな、後はこっちで何とかするから。」
「古畑さん?てか、なんすかその大荷物は」
「え?張る網だけど?」
古畑さんは何?って顔でこっちを見て来る。
よく見れば野球部が肩すかしを喰らった顔でこっちに戻ってくる
部室に行ってきたにしては早い戻りだからもしかしたら古畑さんに呼び止められたのかもしれない
「なんかスケジュール見たら絶対こういうトラブル起きるだろうなって思ってさ。先に用意しといたんだよね」
「・・・流石古畑さん。どっからつい最近改訂したせいで生徒会ぐらいしか持って無い運動部の演目っスケジュールを貰ったのかなんて話は聞かない方がいいですか?」
「まあまあ、運動部各部に割り当てられてる時間は少ないんだ。網取りに行く時間が省けたと思えばさ・・・黄金比生徒会長が作った祭りなんだ、争いが起きるのももったいない」
流石だな古畑さんみたいな空気が部活動中に流れる
恐れられてるっていうのは実力が認められてるって裏返しでもあるからな・・・
古畑さんの指揮によりさっさっさと安全設備が整えられていく。
今更来た生徒会役員も争っていた女子バスケ部員までもその指揮に入ってしまうぐらいだし。
俺もその指揮に入ろうとしたら皆に冷たい視線を向けられた
「「「「「「「「「お前は彼女を追いかけろ」」」」」」」」」」」」
男どもは俺達に任せろ・・・別にお前が戦力外って訳じゃないけどなみたいな目で見て来るし
女勢はこの糞虫が見たいな目で見て来るし・・・男どもはともかく女勢のその目線は理解できない
ハブられた感じがしてちょっと悲しくなったのは内緒だ。
こういう感覚初めてだなとか思ったが、よく考えたら今日の朝もハブられてたわ。
あっはっはっはっはっはっは・・・・・・・・・
人を殴ったのは初めてだ。
自分は間違ってないと思って振るった拳なのに凄く痛い。
殴った瞬間は怒りで心もお腹も頭も熱でいっぱいだったのに、、、時間がたてばたつほど冷たくなって体が震える。
そっか、、、凄く後悔してるんだ、私
「ふい~、朝っぱらから働きずめだったし座るだけでも随分楽になるなあ・・・」
「ほおづき・・・何しに来たのよ」
誰も来ないはずの新体育館の屋上へと続く階段に座って考え事をしているといつの間にか如峰月が座っていた。
彼は私を責めることも慰めることもせずただ隣に座っていた。
何も言わないくせに・・・私が立ち去るのは許さないといわんばかりの態度ではあった
改めて思うとこの後悔は、今隣に座って来た彼の言葉が無ければ気付かなかったことかもしれない。
ぼうっと意外と整っている彼の顔を眺めていると、彼は何かに気付いたのか無遠慮にもいきなり私の手を取って来た。
「な、何してっ!?」
「柔らかい手だこと・・・やっぱ擦り剝いてやがるなあ。殴り慣れてねえな?」
「いや、普通は慣れないから」
そりゃあそうかと彼は言うとポケットから携帯サイズの消毒液と絆創膏を取り出した。
「浸みるぞ?」
「いっ!?なにこれ・・・」
「治りが早い代わりによく浸みるんだ・・・ほい終まい」
あっという間に消毒液を塗られ、絆創膏を貼られた。
随分と手慣れた手つきだ・・・うちのベテラン監督と同じくらい傷の手当てになれた手つきだった。
「女の力だからそれ程痛くなかったと思うぜ?寧ろ殴った方が痛いぐらいだと思うし」
「・・・え?」
「一回謝るぐらいで済むことだって言ったんだよ。」
彼は私の目を見ながらゆっくりと言葉を重ねた。
「確かに暴力沙汰は悪いかもしれないが、白凪が怒った気持ちも俺には分かるさ。せっかく遊びに来てくれた中学生の女の子が怪我するなんてとんでもないことだしな。白凪も野球部も問題はあった・・・傷も軽いもんだし一回謝れば済む」
「、、、アンタが言うとすっごく自分のしたことが軽く思えてくる」
「そうそう、刃物で刺そうとしたり骨折るなんてことにならない限り大抵は謝れば済むんだよ」
彼はどこか達観した口調でそう言った。
彼にとってはそんなに簡単なことだったんだ・・・
私は彼に嫌われなかったんだ・・・そう思えた瞬間体から冷たさが抜けた。
凄くほっとした・・・ぐるぐる回っていた考えが少しずつ落ち着いてきた
「ん、顔色戻って来たのな」
「・・・う、うん」
どんなに彼に攻撃的な態度を取ったとしても、、、彼は私を許してくれる。
それは私が楓の友達だから?
それは彼の許せる範囲を超えてないから?
それは、、、私が彼にとって特別な、、、、
そういえばだけど・・・
簡単な救護セットを持ち歩いたり、地味に手にはいつついたのか分からない傷があったり・・・もしかして如峰月は
「ねえ、危ない目にあってるんじゃないの?若しくは最近危ない目にあったか・・・」
「ん!?なんで?」
・・・目が泳いだ
「だってさ、救護セットなんてなんで文科系の部員が持ち歩いてるの?身体も妙に切り傷が多いし」
「・・・これは中二病です」
「からかってる?」
「イヤ、キタルベキトキノタメノ、ジュンビノタメデス。」
「何で片言になったの?」
彼は冷や汗を流しながら私から徐々に距離をとろうとし始める
さっきまで偉そうに私に説教していた彼の様子はみじんもない
楓には話してるんだろうか・・・
私は部活もクラスも違うから、、、彼と接点ないし仲良くもない人と思われてるんだろうな
「ねえ如峰月、、、」
「しゃ、喋らんぞ!胸ぐらを掴まれてすごまれても俺は何もしゃべらん!」
「・・・え?・・・本当だ」
「ほんとだ?って白凪・・・大丈夫か?」
いつの間にか彼の服の裾をぐいっとひっぱっていた。
しかも自分から彼に顔を近づけていた。
なんか声をかけられなかったら、謝っても済まないことをしてしまったかもしれない
・・・何してんの私!?
わたしなにしようとしてたの!?
思わず赤くなる顔を見られたくないがために彼をグッと引き摺り降ろしてしまう。
彼もわざとではなかったのかもしれないが落下位置は私の太もも
「むごごごご!(何すんだと言ってるかもしれないが、よくわからない)」
「キャアアアアアアアッ!?」
彼の呼吸が思わず太ももに直接降りかかり、生理的にゾクッとくる。
我慢できないと思った瞬間、彼の顔を両手で持ち上げ膝を彼の顔に打ち上げていた。
彼の体から力が抜ける
「ふごおっ!?」
「きゃあああああっ!?ごめん~~~~!!!!」
彼の顔を慌てて抱き起す。
鼻を強く打ったせいか、彼は鼻血を出しながら意識がもうろうしている。
どうしよう、、、、あれ?
彼は凄くがくがくしながら、何かぼそぼそ喋ってる
耳を近づけると彼は・・・
「や、やわらかい・・・」
彼はそういいながら、顔を私の胸に埋ずめてきて・・・
彼を床にたたきつけてしまった。
「頭も鼻も痛い・・・なあ、何があったの?白凪迎えに行った後の記憶が全部飛んでるんだけど」
「うっさい、この変態!死んでしまえ!」
白凪はいつも通り男に対して強気なままだ。
全然覚えてないが、多分謝りに行けよ?とか言ったら記憶を失うまで殴られたんだろうか・・・なんて凶暴な奴だ。
まあ、いいけど
不思議な満足感に包まれていた俺は軽い足取りで校舎を歩いていた。
怒り心頭な(心当たりが全く無い)白凪はズンズン俺の先を歩いていく。
「てか戻らなくていいのか?」
「もう時間すぎてるわよ!今から戻っても気まずいし今日はもうサボる!」
「はいはい、、、」
放っておけなかったので彼女の後をついていく。
彼女は何をぷりぷり怒ってるのかユニフォーム姿のまま屋台の通りを歩く。
ここはもう一度来ていたので歩きなれたもんだ。
周りの視線が集まる中、彼女の隣を歩く。
「如峰月こそ戻らなきゃいけないんじゃないの?」
「い、言わないでくれ・・・」
今頃何サボってんだあの野郎と古畑さんがキレている様子が目に浮かぶ。
でも、今の白凪の様子で放っておくのもなあ・・・
ユニフォーム姿だし、変な男に声かけられないか心配になるし
「あ」
「ん?どしたん?」
白凪が急に立ち止まって一つの屋台を見ている。
射的の店だった。
彼女の目線の先にあるのは・・・でっかいうさぎのぬいぐるみだった。
ああ、女子高生の間で人気の『ラビラビ』ってキャラクターのぬいぐるみか・・・
すんげえ物欲しそうに見ている
・・・と、白凪はいきなり怒った顔になって、俺の方を向くと射撃の方を指さした。
「如峰月、お金出して」
「はあ?」
「慰謝料!慰謝料としてここのお金出して!」
「慰謝料って、、、寧ろ俺がもらいたいところなんだが、、、まあいいけど」
気分が変わればと思い彼女に小銭を渡すと彼女は早速コルクを詰めて撃ち始めた。
一発、、、二発、、三発、、、四、、、五発、、、
彼女は余程『ラビラビ』が欲しいのかバンバンそれを狙って発砲していく。
屋台のおっちゃんがそんな彼女を見てしょうがねえなあという顔をしている。
そりゃそうだろう
こういう射的の大物ってのは大抵重りだとか大きすぎるだとか取れないようにしてあるのだ。
ここの射的は一般的なもので、コルク銃で当てたものを落とせば手に入れられるという物だけど、、、だからこそあんなに大きなぬいぐるは落とせないだろう。
コルク銃の弾が当たってもちょっと揺れるぐらいだし。
「このこのこの!・・・もう一回!」
白凪は余程欲しいのか俺の樋口札を使いきる勢いでもう一回と叫ぶ
・・・いや樋口札使いきる勢い!?
何やってんの!?
「白凪さん、、、もうそろそろ・・・」
「うるさい!」
「・・・しょうがないなあ」
異世界での戦闘を思い出す
コウ・レイペンバーに胴体を消されかけた時のことを
アイスド・スライムの氷剣が真上を通過した時のことを
赤角灰狼が右腕に嚙みついたときの獣の匂いを
「ふう・・・よく見える」
気持ち悪くすらなって来た・・・コルクの軌道まで見えてくるんだもん・・・
コルク銃がぬいぐるみのどこに当たるとどう揺れるかをしっかりとみていく。
右腕部、作用方向に5度
左腕部、作用方向に4.5度
頭部、作用方向に6度
右ほっぺ、7度
左ほっぺ、1.3度
腹部、2.2度
脚部、ほぼ変動無し
「白凪」
「なによ!」
「右ほっぺの中心から少しだけ左狙ってみ?」
「・・・わかった」
恐らく屋台に出すようなぬいぐるみだからか造りが甘いようで重心バランスが少しずれてる。
撃つ場所による作用と重心バランスの崩れからもしかしたら取れるかもしれない
俺が声をかけたことで少しだけ冷静になったのか彼女の狙いは正確にぬいぐるみの右ほっぺに当たり始めるが・・・
「あ、もう少し右側・・・あ、今度は行きすぎだ!」
「もう!後ろからごちゃごちゃ言わないで!」
白凪がぶち切れる。
とはいえ、彼女の腕じゃあなあ・・・
いや運動神経はそれなりにいいから右ほおに当たってはいるんだけど、、、俺の要求するレベルに届いてない。
まあ狙うべき場所はコンマ数ミリのとこだからなあ、俺レベルの視力が無い人にしたらと目隠して撃てって言われてるようなもんか
「仕方ないなあ、、、貸してみ」
「嫌!自分でとる!」
「そんなくだらない意地で樋口札消されてたまるか・・・」
彼女の体を覆うように被さり、彼女と一緒に銃を持つ。
「ちょ、何して!?」
「自分でとりたいんだろ?狙いはつけてやるから・・・」
「むむむ・・・」
彼女が暴れなくなったので俺は狙いをつけるのに集中する。
「白凪・・・銃身ぶれてるから狙いにくい」
「はあ!?如峰月のせいでしょ!!」
「もう、、、よし一発目撃って」
パン
「ちょっと、全然ダメじゃん!」
「おい、動くなよ、、、今の一発は試射なんだから・・・」
「ねえ、、、さっきとほぼ同じ持ち方なんだけど、、、狙ってる所も変わらないし」
「違うね、、、さっきより右に1.4度ずれてる」
「屁理屈ばっか・・・もう勝手にしなよ」
彼女と出来る限り呼吸まで合わせようと、彼女と呼吸ペースを揃える。
二人分の手のブレが一人分になるまで彼女の呼吸の音を聞き彼女と同じ呼吸をする
「「すうっ、はあ・・・すうっ、はあ・・・」」
白凪の匂いってすごい落ち着く・・・
他の女の子同様いい匂いなのは確かなんだけど、、、バブルソープみたいな柔かい石鹸の香り
他の女の子の香りはドキドキとかムラムラとかいろいろ感じるのに、、、彼女の香りは安心させてくれる・・・すげえ落ち着く
徐々に心拍数は平常に近づきブレがほぼ半人分に・・・
銃身のブレが俺の要求するレベルに落ち着いた
「今」
パン
「何か言う言葉あるんじゃねえの?」
「・・・・」
白凪は俺に顔を見せたくないのか取ったばかりの巨大なぬいぐるみに顔をうずめている。
・・・改めて見ると抱きかかえてもあまりあるぐらい大きなぬいぐるみだがどうやって持って帰るんだろう?
白凪は無言のまま顔をうずめていたが、やっとのことさ顔を上げた
「ありがとう」
「・・・っ!?」
彼女の笑顔を普段は見れないから
不意打ちは反則だと思った
次回からサクラ=レイディウスへ!
第二章 魔国の影




