第1章私立鷺ノ宮高校の文化祭part1
如峰月桜は不器用ですが、何か?
俺を何ヶ月も振り回しやがった文化祭も土日の二日間やってで終わりとなり、祝日の月曜日に体育祭を軽くこなせば俺は遂にあの山ほどの仕事の山から解放される。
今日はその初日で3年生メインの演劇やらダンスやらを見るのがメインになる、ちなみに明日は部活動主催の催し物やバンドなどの自由性が高いものになる。
ついでにいうと二日間、一二年生は作ったオブジェを見に来た人への説明やミニ演劇をし続けることになるが、あくまでそれはおまけとして、年に一度の祭りを楽しむことの方に力を注いでいる。
俺は役員に近いような仕事を与えられてたから、文化祭が始まるとどれだけ忙しくなるかとビクビクしていたが、意外とそれ程でもなかった。
俺が関わる仕事といえば新聞部の広報と文化祭実行委員会の仕事ぐらいで、新聞部は適当に祭りを回って写真とればいいらしく仕事というほどのものはないし、見回りとかも生徒会でやってくれるそうなのでぶっちゃけ暇である。
つまり他の一二年同様、ダラダラ文化祭を楽しめそうだ。
「ふわあ、、、久しぶりにがっつり寝たなあ。」
そんなわけで今日はぐっすりと登校ギリギリまで寝てからの登校になった。
…ん?
珍しく朝顔さんが起こさなかったな?と思った。
流石に最近忙しそうだったから今日ぐらいはと起こさなかったのかもしれない。
・・・いや、朝顔さんに至ってはそれは有り得ないだろう
あいつは何もなくても嫌がらせのように、鶏が鳴く時間に起こしてくるからな。
まったく、、、俺の妹がそんなに可愛い訳が無い。
俺は制服に着替えて部屋を出ると俺的には超禁断のシスター☆ルームをノックする
「ふあああい」
気の抜けた返事が聞こえた。
またかと思いつつ扉を開くと予想通りの結果が広がっていた。
居候達と朝顔さんが完徹でTVゲームをしていた。
どうやらやっているのは恋愛シミュレーションゲーム・・・いわゆるギャルゲーの主人公が女版のやつらしい。
それが意外にも面白かったらしく3人は俺が入って来ても俺の方を向くことなくTVにかじりついていた。
「この廃人臭…女ばかりの部屋とは思えん…」
夏休み終わりごろからうちに居候するようになった俺達兄妹の保護者の友人、スーザ・エクストリーム
そして、俺の友人で転校生の伊月葵。
この二人が来てからというもの、先生が二人を引き連れ、週末はこうしてよく完徹ゲーム大会を開くことがある。
昨日も先生がリビングで今日はいつもと違った種類にするから付き合って!遅くまでしないから!と泣きついてきたので全員でつき合う羽目になった。
俺は明日から文化祭だからと早めに切り上げたのだが、伊月と朝顔は確かまだやるって言ってたな…おそらく逃げ遅れたのだろう。
朝顔さんが先生のこくりこくりと舟を漕いでついに隣の先生の膝に倒れ込む。
流石に体力バカの先生と伊月は眠る気はなさそうだが、眼元には隈が濃く刻み込まれています。
フェッシングバカの伊月はフェッシングの指導を先生から受ける代わりに強制的にこれにつき合わされてるし、朝顔さんも小さい頃からお世話になってるせいか先生には頭が上がらないせいもあっただろうが、それほどまでに面白い傑作なゲームだったらしいことも原因だろう。
スマホのアプリゲームが主流になり、TVゲームを買う人間なんて少なくなってきてるっていうのにうちの先生は未だにレトロから最新までの全ての機種を揃えている。
ここだけ聞くとオタクな人間かと思うだろうが先生、スーザ・エクストリームは戦場カメラマンを本業としていたり、両親が白人なのに日本語上手いし、俺のフェッシングの師匠でもあるかなりのハイスペック・アウトドアな人なのでくれぐれも本人の前でオタクとか言っちゃあいけない。
「サクラ、ここは男禁制の場所だよ?」
綺麗な白人の顔が目の周りの隈とだらしない笑みで台無しである。
先生は自分の膝を枕にして眠る朝顔の頭をまるでおっさんのような手つきで撫でまわしながらゲーム画面を見ていた。
「もう朝だから寝ろって言いに来たんすよ・・・」
「いいじゃん、今日は土曜日だよ?せっかくの休日なんだから好きに過ごさせてよ。」
まあ、今日は土曜だし?
オフの朝顔さんと年がら年じゅう自由職の先生はそれでいいとして問題はもう一人の居候…
「伊月、てめぇ今日が何の日か言ってみろ…」
「…え?」
伊月はかじりついた画面から顔を離した。
彼女の眼元にも濃い隈が出来上がってしまってる。
おいおい、、、今日は文化祭だってこと忘れてやがったな・・・
もうそれ程時間が無いんだぞ・・そんな思念を込めて彼女を見る
伊月が俺の制服姿をじいっと見つめて数瞬、、、今日が休日ではないことを思い出したのか顔を真っ青に染め上げる。
「うわああああああああああああっ!忘れていたあ!?今日は文化祭か!」
「テンプレだなあ、、、その驚き方。」
伊月はコントローラーを投げ捨てるや否や、部屋に向かおうとダダっと準備をしようとするがパニックを起こしているのか、あたふたと朝顔さんの部屋の中を歩き回っている。
「ああどうしよう!?朝食も着替えも済ませてない・・・」
「いや、飯は屋台で済ませりゃいいだろうし、今日は上は配られてる文化祭Tシャツでも良いぐらい緩いんだぞ?髪を整える時間無いなら帽子でもかぶっとけよ。」
「え・・・そうなのか?」
焦りで涙目になっていた伊月がポカンとした顔で俺を見つめる。
伊月が転校してきたのはほんの数日前だからな・・・知らないことがかなりあるようだ。
急な変更だったし持って無いだろうから、鞄から文化祭Tシャツを放ってやると伊月はありがとうと言って自分の部屋へと急いで戻って行った。
「じゃ、俺は玄関で伊月を待ってから出ますわ。」
「はいは~い、、、じゅるり」
「あ、分かってると思いますけど、朝顔さん襲えるのは叔母さんに襲われる覚悟がある奴だけですからね?」
「わ、分かってるよお!何言ってるんだよ、桜はもう!」
「・・・・」
なんだかものすごく心配になって来た・・・
先生は金も持ってるしカメラマンとしても有名ではあるが、朝顔さんの貞操を狙っているとても危ない人でもあるのだ。
そんな彼女の目の前で朝顔さんがすやすや眠っているなんて、狼の目の前に肉をぶら下げるようなものだ。
流石に眠っている朝顔さんに手を出す人じゃないとは思うが・・・叔母さんの名前出したし、大丈夫だろう・・・・・多分。
いつまでもだべっているわけにもいかないので朝顔さんは先生に任せよう。
玄関の外で待ってると、伊月が息を切らしながら外に出てきた。
彼女はろくに整えてない頭を隠すためにキャップを被り、眼元には少しアイラインを引いていた。
「はあ・・・はあ・・・お待たせ・・・」
「じゃあ行くか」
伊月と二人並んで登校していると数日前の出来事が嘘のように感じられる。
伊月葵
昔の『主人公になりたい』と願い行動していた俺に惚れていたらしいこの少女は数日前、俺を昔の俺に戻そうと殺し合いを仕掛けてきた。
色々とあって今はこうして二人でのんびりと通学している。
絶対に元に戻れないと思っていたのに・・・さまざまな偶然が重なった結果俺達はのんびりとだべっていられる関係になった。
運命的な奇跡が起こって二度と合うことはないと思っていた彼女は今、俺と同じ家に住み、同じ学校に通い、同じ時間を共に過ごす。
彼女が好きなのは昔の俺だってことは分かってるし、俺も朝日奈楓が好きだけどさ・・・
少しぐらいドキドキしてもバチは当たらないんじゃないだろうか?
・・・ああ、伊月葵はやっぱり放っておけないなあ。
「桜は制服のままなんだな・・・もしかして私だけ文化祭Tシャツだなんてことはないだろうな・・・」
「お前、俺をどんな人間だと思ってやがる・・・」
伊月は俺を疑わしげな目で見てきてるけどね・・・
あ~でも、自分が他の人と服装違うと不安になるよなあ。
特に文化祭とか社会科研修とか・・・通学中同じ服装の人に会うまで何となく不安になるし。
彼女の不安を解消するために説明に入る。
「学校に着いてからスタッフTシャツに着替えるんだよ。」
「スタッフ?」
「ああ、広報用の写真係の仕事するから、後で生徒会から生徒会役員用のTシャツ借りれるんだよ。まあ、文化祭実行委員会の人間なら全員もらえるんだけどね。」
「へえ、、、でもわざわざ制服じゃなくてもいいんじゃないのか?」
段々と鷺ノ宮高生が増えてきているが、制服なんて着ているのは俺ぐらいみたいだ。
周りから何で制服着てんだ?みたいな顔で見られていく。
そんな視線に気づいたのか伊月がそんなことを聞いてくるが、こっちの服装の方が落ち着くんだと言って話を終わらせた。
でも悪目立ちしてるじゃないかと言い返されたが、新聞部に入った時点で悪目立ちしまくりだから今更だよと言い返してやったぜ!
あれ?涙が・・・
正門が盛大に飾り付けられ、校舎へと続く道は民間企業によるブースや屋台が並んでいる。
文化祭自体はまだ始まってないのに、やっぱり民間ってのはやる気がすごい。
ほとんどの屋台が既に開店していた、いやでも祭りが始まることを実感させられる。
気になる時間だが、相変わらずこの高校は駅からすぐの距離にあるので遅刻しないぐらいのほどほどいい時間帯に到着できた。
これなら伊月が食事をする時間もあるだろう。
伊月もお腹空いたなと辺りを見渡してるので、一度そこで分かれることにする。
「金は持ってるか?」
「ああ、兄さんが振り込んでくれてるんでな。」
「・・・そうか」
伊月が居候していることを伊月兄に報告したところ、伊月の生活費は彼が全てだしてくれることになった。
今は通帳だけのやり取りだが、いずれは会って言葉を交わせるようになれればなんて願ってしまうのは余計なことかな?
「じゃあ、十五分ぐらいしたらホームルーム始めると思うからそれまでには教室戻れよ。」
「ああ」
伊月がトコトコ最初に近づいたのはたこ焼き屋だった。
そんな彼女の食べるぞおって姿勢が、サクラのパーティーのスカイのように見えて少し笑えてくる。
・・・喧騒が少し頭に響いてきた。
俺は顔をしかめると耳栓をこっそりはめ、校舎に入った。
教室に一人で向かう・・・一人でいると何となく考えることは暗くなる。
俺のメンタルは異世界に耐えられるものではなかった。
その為に俺はサクラを、、、『主人公』を生み出した。
しかし俺は彼が『主人公』であり続ける為に彼と同じ感覚を共有し、彼を手助けすることを選んだ。
その結果、彼が異世界で過ごすことによる苦しみや痛みを共有するようになってしまった。
結果として戦闘のストレスが俺の五感を必要以上に研ぎ澄ますようになった。
視覚は必要以上に視力や動体視力を引き上がって、視界に物が入ると見え過ぎて頭痛がする。
聴覚は人の囁きまで聞き取れるようになってしまい、大きな声が聞こえるだけで心臓が跳ね上がる。
そんな感じで他の感覚も鋭くなりすぎて、寧ろ身体に悪い。
本来ならもう異世界から手を引くべきなんだろうがなあ。
本人格の俺がいないとサクラがどうなるか分かんないし、なにより・・・
「おはよう、如峰月君!」
「おはよう、朝日奈さん。」
明るい鈴のような声がして後ろを振り向くと、生徒会役員用のTシャツを着た彼女が立っていた。
文化祭時は服装だけでなくメイクや髪形まで規制が緩くなる。
彼女も今日は無礼講なのか、顔は少しメイクをしてるし、髪はスプレーでも使っているのかいつもよりウェーブがかかっている。
普段きちんとした服装をしてる彼女がそんな恰好をしてるもんだからギャップで心臓が跳ね上がりそうだ・・・いいなあこういうの。
彼女は素材が良いから少し派手にするぐらいが一番よく似合うのだ。
トコトコと近寄って来た彼女はキラキラと笑いながら声をかけてきた。
「あれ?制服で来たんだ?」
「うん、着いてから着替えようと思ってさ。」
「そっか、、、あ、教室にさっき会長が来て如峰月君の分のも置いてってくれたよ。」
「・・・強奪しあいになってなければいいが(ぼそっ)」
「何か言った?」
「な、何でもないよ!?」
アクティブ系逆ハー主人公が自ら持ってきて、パッシブ系逆ハー主人公とお揃いのTシャツ
・・・二つの派閥に引っ張り合われて、引き裂かれる未来しか思い浮かばない。
どうすんだよ、、、俺今日一日制服になるかもしれないじゃないか・・・
「そういえば文化祭Tシャツ着なかったの?確か如峰月君もらってたよね?」
「ん?ああ・・・今手元になくてね・・・」
彼女と喋ってるお蔭で少しだけ心が落ち着いてきた・・・
どうやらストレスを感じれば感じるほど感覚が鋭くなるみたいだ。
段々耳鳴りも収まって来た。
それだけ俺に影響を与えてくれる存在なのだ、朝日奈楓は。
だからこそ、、、異世界で彼女とうり二つの少女、、、ソーラを守りたいと思ってしまう。
彼女の幼馴染だからこそわかる、、、あまりにも彼女は朝日奈楓に似すぎている。
もしソーラに何かあって、、、それが朝日奈楓にも影響したら、、、俺はそれが一番恐ろしい。
例え俺が壊れても、、、彼女のためなら。
「もう!・・・聞いてる?」
「うわっ!?・・・あ、、、ごめん。考え事してた。」
ぼうっと考え事をしていたら数センチ先にとても端正な顔があって驚いた。
きめ細やかな白い肌がすうっと離れていき、ようやく彼女が不機嫌な顔をしていることに気付いた。
折角の祭りなのに不機嫌にさせちゃ申し訳ない。
「うちのオブジェ優勝できるかなって話だよ・・・もう」
「ごめんごめん、、、何かおごるからさ。機嫌直してよ・・・ね?」
俺がそういって謝ると彼女はポカンとした。
・・・ん?
まるで急にデートのお誘いされたかのような顔してるが・・・
「どしたの?」
「な・・な・・何をおごってくれるのかなあ?」
俺が声をかけると、彼女は何事もないかのように振舞ってるがどこかぎこちない。
そだなあ・・・朝日奈さんにおごるとなると屋台で軽く何かみたいなんじゃ駄目だし・・・
ああ、そうだ。
夏休みの合宿兼バイトで稼いだお金がせっかく余ってるんだ、けちけちしてられっかよ。
「満足するまで付き合うよ。いわゆる奉仕だね、奉仕。」
「満足・・・いくまで・・・奉仕・・・」
彼女は何を考えてるのか、赤面している。
・・・なにかミスってないか?俺?
なんかあんまりにも不自然だから、彼女に大丈夫?と聞こうとしたら朝日奈さんは大きな声を張り上げた。
「あ、、、朝日奈さん?大丈夫?」
「も、もう!もう!もう!ほ、如峰月君はいつからそんなに自然に女の子を文化祭に誘えるようになったの!?しかも、顔色一つ変えずにさあ!!このスケコマシ!昔はそんな軽い人じゃなかったのに!」
「・・・・・・・・ふぁっ!?」
そ、そだね・・・おごるってことはさあ・・・一緒に文化祭回んないと駄目だよね・・・
満足いくまでって・・・下手したら一日中一緒に回ろうぜ的な感じにも聞こえるよね・・・
顔色変えずに言ってしまえるとか・・・俺何やってんの!?
「・・・どうやら無意識だったみたいだね。」
「は、、、はははは・・・・」
俺が狼狽したのを見て、彼女は悟ったのか俺をジト目で見てきた。
そして小さくため息をついた。
「ご、、、ごめん。」
「もう、、、そんなことだと思ったよ。ばーか。」
彼女はたったったっと教室に向かって走っていってしまった。
「何やってんだ俺・・・」
思わず目を覆って壁に頭をつける。
いくら彼女の前では頭が働かなくなってしまうとはいえ、うかつすぎるだろくそボケ!
朝日奈楓は可愛い見た目に反して合理的なこと以外はしないのだ。
正義や正しいことなら積極的に動く彼女であるが、恋とかそういう不合理的なものを理由では動かないんだから文化祭誘ったとして
「なんで?」
みたいに言われるに決まってんじゃねえか!
今だからこそいうけど彼女の逆ハー要員が文化祭実行委員会中に誘ったときは「先輩と何で回るんですか?」とか「友達と回るもんですよね、普通。」とか「異性と一緒に回ると付き合ってるって勘違いされるんでいやです」と散々心折られまくってたんだぞ!?
あの地位も名誉も思いのままの朝日奈楓の逆ハー要員達がですよ!?
てか誘う気なかったのに断られたっていうのが心にかなりクルんだがあっ!?
「うおおおおおおおおおおっ!」
「あの、、、如峰月君?」
「・・・あ、朝日奈さん?」
壁に向かって慟哭していると、廊下の曲がり角から少しだけ顔を出した朝日奈さんと目が合った。
てか、今の奇行見られた!?
「見ないで、こんな僕を見ないでぇ!!!」
「どうしたの、如峰月君!?」
俺は顔を覆って座り込んでしまう・・・マジで何なんだよ今日は!!!
俺と朝日奈楓が落ち着いて話せたことって本当にあまりない・・・
彼女はでもそんな俺を見て笑いだす。
「よかったあ」
「うわああああああっ・・・え?」
朝日奈楓が廊下の角からひょこっと顔を出したままくすくす笑っているので俺は顔を上げた。
「なに?」
「ううん、少し安心したんだ。」
「・・・安心?」
「如峰月君なんか最近変わったから、、、でも変わってない部分もあるんだなって。」
「変わった?・・・そう見える?」
多分髪形とか外見とかではなく、、、内面の話か?
主人公ってやつは本当に鋭いな・・・
伊月と殺し合った時に俺は『主人公になろうとする自分』・・・『朝日奈楓の隣に立とうとした』昔の自分と決別した。
それを今のちょっとした会話の中で察したんだろう。
俺が朝日奈楓を改めてすごいなと感心していると、彼女は話を続けた
「ちなみに私今日は予定空いてるから、、、一日で財布空にしてやるから覚悟しといてね?」
「・・・ふぇ?」
俺と朝日奈楓が落ち着いて話せたことって本当にあまりない・・・
たとえば朝日奈楓が笑いながらオッケーくれたとしても、、、俺は耳でその言葉を聞けたとしても
頭に入るのには時間が掛かる。
・・・そして暫く歓喜の踊りを踊ることになるのだった。
まさか彼から誘ってくるとは思わなかったなあ・・・
ちょっと髪形やメイク気合入れたんだけど、効果があったのかな?
そんなことを思いながら教室に向けて歩いていると声をかけられた。
「あ、穂のちゃん先生。」
「どうも、朝日奈さん・・・別にかがまなくてもいいんですよ?」
目線を合わせないのは失礼に値するからと屈んで目線を合わせたんだけど、穂のちゃん先生は寧ろ不機嫌になってしまった。
・・・なんでだろう?
私がえ?と思っていると穂のちゃん先生はまあいいですと私に一枚のTシャツを渡してきた。
「これは、、、文化祭用のTシャツですよね?どうしたんです?」
今回の文化祭のTシャツは青と白色がメインで、生徒会役員と実行委員会だけが着れるスタッフTシャツは黒色と白色がメインである。
ちなみに両方のTシャツに白が入るのはうちの学校が鷺ノ宮で、鷺の白だかららしい。
でも皆既に文化祭Tシャツを配布しているはずだし、私も登校するまでは着ていた。
何で渡されるのか分からない。
「ああ、言葉足らずで済みません。転校生の伊月さん、まだ文化祭Tシャツ持ってないんですよ。私はまだ生徒会の顧問としての仕事が残っているので文化祭が始まる前に渡してあげて欲しいんです。」
「そうなんですか・・・それなら早く渡してあげないと。」
皆が文化祭Tシャツを今日は着ている。
そんな中転校生だからと一人だけ制服でいる状況を想像してしまう。
そんなの、、、いくらなんでも可哀想すぎる。
「じゃ、お先に!」
「あ、よろしくお願いしますね!」
伊月さんかあ、正直彼の家に居候するようになった美人さんって印象しかないんだよなあ。
文化祭準備や部活動が忙しくてあんまり話す機会が無かったのだ。
でも話しかけたら嬉しそうに返事してくれるから、結構いい人だって皆行ってるのを聞いている。
今日のことをきっかけに仲良くなれればいいけど・・・
教室に入ってみるといつの間にか先に入っていた彼が物凄い笑顔だった。
笑顔で黒い布きれ(あれスタッフTシャツだよね?)を振り回していた。
何か凄いご機嫌すぎて、新聞君や浜田君がドン引きしている。
「ははは!おまえらなにしてんだよお!スタッフTシャツがなんかヒャッハーな人が着てるベストみたいになってんじゃねえかよお♪」
「さ、桜君、、、桜君が壊れた・・・やっぱり働かせすぎたんだよ・・・」
「いや、寧ろ怒りで我を見失っちまったんだろうよ・・・だから言ったじゃねえか朝日奈派と黄金比派止めた方がいいって。」
「ハマリュウはんが面白いから止めるなって言い張ったんやろ。これはあんはんの責任やかんな。」
「ちなみに清廉君、、、あれ直せるか?」
「五千円くれたら十分以内に新品同様にしたるわ」
「まけろ」
「まだオブジェの仕上げが残っちょるのに、服の裁縫せんとあかんのやけど?」
「・・・わかった。」
どうやら直す算段がついたみたい。
よかったと思いながら教室を見渡すけど、伊月さんはいない。
「楓?どうしたの?」
クラスメートの相生さんが話しかけてきてくれた。
「あ、相生さん。伊月さん見てない?」
「え、伊月さん?多分、まだ外なんじゃないかな?」
「ありがと!ちょっと外見て来るね!」
「え!?すぐ戻ってきてね!」
教室を出て廊下を見渡す・・・あ、伊月さんっぽい人がこっちにむかって来てる。
・・・あれ?でもその人は文化祭Tシャツを着ていた。
走って近づいてみるとその人は間違いなく伊月さんだった。
「朝日奈さん、おはよう。どうしたの?」
彼女は屋台をまわって来たのか手にはたこ焼きや焼きそばを抱えていた。
何でスタイルいいのにこんなに食べてるんだろう?
やっぱり武道と室内競技じゃ運動量が違うのかな?
ってそうじゃなかった!
「い、伊月さん、、、どこでその文化祭Tシャツ手に入れてきたの?」
ちょっと彼女にはぶかぶかだけど間違いなく彼女が着ているのは今年の文化祭Tシャツだった。
伊月さんはえ?というと普通の口調で言ってきた。
「如峰月にもらったんだが?私のがやっと届いたと思ったんだけど・・・違うのか?」
「如峰月くんにもらった?」
・・・ようやく伊月さんが少しぶかぶかの文化祭Tシャツを着ている理由が分かった。
多分彼が自分のを彼女に着せたんだろう。
そうしたのは多分、一人だけ文化祭Tシャツを着てないっていう辛さを転校生の彼女に味あわせない為。
伊月さんが早くクラスの一員になれるようにと、周りと違っている点を少しでも無くすため。
全部は・・・伊月さんの為。
チリッ
・・・あれ?嫉妬かな?
心がざわついた。
でも、私はそれが間違っていると知っているから『自分勝手な』その思いを心の奥底に無理矢理沈めた。
よし、大丈夫
「そ、そっかあ。これ伊月さん用の文化祭Tシャツだって。先生から持ってってくれって言われたんだ。」
「え?これが私のなのか・・・有難う。」
「じゃ、教室に戻ろう!」
伊月さんが困惑してるので手を引いて教室に戻る。
教室に入ろうとすると丁度彼が目に入った。
「そっか、、、これは如峰月のか。・・・不器用な奴め。ふふふ・・・」
伊月さんが彼を見ておかしそうに笑った。
そして、とても大事なものかのように自分が着ているぶかぶかの文化祭Tシャツの裾を弄った。
チリチリチリ
私の心に今あるものは『正しくなくて』『不合理で』『人に押し付けてはいけない』から・・・
再び何重にも牢をして厳重に押し込めた。
それでも、、、伊月さんが羨ましいって思いは消えそうになかった・・・
次回文化祭をまわりますのでよろしく!




