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異世界でもう一人の俺が暴れすぎてキチガ○と呼ばれている件について  作者: 浅き夢見む氏
第三部:周り全て変わるとして、変わらないものがあるとしたら<曇の奇術師編>
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PROLOGUEーTHREE いくら否定しても否定出来ない事実

第三部スタート!

サラサラと風が流れ、草木がユラユラと静かに凪ぐ

灰色の毛皮の狼の群れが草原の中を走っていた。


灰狼と呼ばれるこの群れは下級ではあるが列記とした魔物。

しかも群れとなっている。

級の設定は同じクラスのパーティーが一匹を確実に倒せることを目安に作られている。

つまり、中級冒険者に討伐依頼が出されるような『力ある』群れである。


本来、下級以上のモンスターは群れをなさない。

その強さ故に絶対数が少ないし、群れずとも獲物はとれるからだ。

しかし、圧倒的な個体が存在した場合は別だ。

灰狼の群れは一匹の大回りな大きさの灰狼に服従していた。

狼であるはずなのに、頭部から赤い大角を生やしたその個体は『赤角灰狼』と呼ばれる中級モンスター。

下級モンスターが戦わずして負けを認める『力ある』個体。


「グワウッ!」


赤角灰狼は大きな身体に見合う地を震わすような吠え声を上げ、疾走を止めた。

リーダーが止まったのだからと、他の灰狼も立ち止まる。

灰狼の中でも上位に位置する個体が、何故進軍を止めるのかと赤角灰狼の周りを走って講義する。

魔物の群れは一体一体が体格が大きく中々食事が行き届かないので、立ち止まる暇があるなら野兎の巣穴でも探したいところなのだ。


周りの灰狼も腹が減った、減った狩りを続けようと吠え出す。

しかし、赤角灰狼がとった行動は野性のものでありながら、知能を持つと断言出来る行動だった。


周りをウロチョロ走る灰狼を角で貫き、踏みつけ


「ガオルルルルッ!!!」


と一度だけ吠え、またあたりの警戒を始めた。


お前らのしたいことなぞ知らん、誰がこの群れの王か忘れたか?

知能のないお前らは俺の言う事を聞いておけばいい

引っ込んでろ


一瞬で騒がしかった群れが、周囲を警戒する歴戦の戦士達へと変わった。

仲間を殺したと糾弾させることなく

自分の望み通り動く兵へと群れを変えてしまった。


驚くべきはそれを当たり前に成し遂げるカリスマと強さ


赤角灰狼が何かを察知したのか、そろりそろりと腹を地に付ける程背を低くして動き出す。

奇襲をかけるために身体を周りの草木に隠そうとしている。


通常魔物の狩りは簡単だ。

声を上げるだけでどんな生物でも硬直するのだから、後はゆっくりといただけばいい。

赤角灰狼なら周りの灰狼に取らせて献上させればいいのだから尚更容易だろう。


その彼が

強さにかけては中級冒険者パーティーが死力を尽くしてすら倒せるか怪しい中級モンスターの彼が奇襲をかけようとしている

灰狼達の中で緊張が糸となって張り詰める。


何故、奇襲をかけなければならない程の強敵がいるのに襲おうとするのか?

そんなことを考える個体は一匹もいなかった。


リーダーはあくまで彼なのだから


彼が殺るといえば殺るのだ

目を獣性のままに研ぎ澄まし、爪牙を剥き出しにし、鼻であたりを探る。

赤角灰狼の後ろを音も出さずに追従する。


二十分という長い時間、彼の後ろを辿ると赤角灰狼がクルルルッと小さな喉声を出した。

本能的に意味を察知し、灰狼達は赤角灰狼が囲おうとしているであろう獲物の周りを囲んだ。



本能的に円となって囲んだが


えらく灰狼間の距離が狭いことに気付いた。


何故だ?

赤角灰狼が警戒するぐらいなのだから、余程大きな魔物かと考えていたのにと皆が考えていた。

囲んだであろう獲物も周囲には見当たらない


「グルルルルルッ!!!」


おい、どうなってる!

灰狼のなかでも発情期を迎えて血気盛んな若いのが赤角灰狼に抗議の声を上げてしまう。

その声に反応したのか、囲みの中心である箇所の草むらがざわざわと揺れた。


何かいると分かった瞬間、再び緊張の糸が張り巡らされる。

果たしてどんな魔物なのか、、、糸が何かあればすぐにブッチ切れるであろうほどまで張り詰め…


あっさりと切れた


「ふわあ、、、寝ちまってたか。」


見つからないのも当たり前だ。

草むらの中でずっと寝ていたのだから

というか、、、こんな魔物が蔓延る草原のど真ん中で、、、人間がすやすや眠っていた!?


この草原の中で一二を争う強さの赤角灰狼ですら、眠る時は洞窟や草原の外でしかも不寝番をつけるというのに・・・こいつは一体なんなんだ?


年をとり経験をつんでいる灰狼達達が後ずさる中、一匹の灰狼が犬歯を剥き出す。

先程、赤角灰狼に吠えた血気盛んな若い灰狼だ。

それに刺激されたのか、他の若い狼達も身体をバネのように縮め襲いかかる準備をしている。


人間なんざ腹の足しにもならない


赤角灰狼や経験を積んだ灰狼達が止めるまもなく、人間程度に怖気付いた赤角灰狼に取って替わってやろうと吠え声を上げる


「「「「「「ウヲオオオオォォォン!!!」」」」」」」」

「ん?うわ、こんなに近くまで魔物が…」


ようやく気付いたのかのろまな人間め

ビクッと驚いたその瞬間にチャンスと若い狼達が一斉に人間にのしかかり、歯を食い立てる。


あるものは柔らかくかぶりつけば美味くて熱い血潮が流れ込む喉部に

あるものは固く歯ごたえのある腕に

あるものは最も美味な臓器を求めて腹部へ


単純な数の暴力が細い身体に叩き込まれる


上がる悲鳴


灰狼達の


バキボキビキイッ!と牙が砕けボトボトと落ちる音。

折れた牙が口内に突き刺さったり、顎自体砕けた個体までいるのか口から血を吹きながら嚙みついた個体達が崩れ落ち、痛みで地面をバタバタともがいている。


「「「「「「「「「「「「クヲオオオオオン!?」」」」」」」」」」」

「う~ん、均等に魔力を流すんはやっぱり難しいな。魔力も籠めすぎると負担も大きいし。」


鎧も何もつけてない、半袖のシャツと長丈のズボンだけだ。

少し高めの身長に短めの髪。

男のくせに持っている剣は細剣で、前衛の戦士にしては体つきはこの世界の戦士たちと比べると華奢だ。

なのに、、、この男は、、、生身一つで若い灰狼たちの牙の猛襲を受け切った。


「グオン!」


灰狼たちが本能的な危険をより一層察知してざわざわと陣形が揺らいだ瞬間、我等が王が一声挙げる。

・・・!?

我が王の角から目に見えない何かが広がり、全体の士気が跳ね上がる。

不思議だ・・・恐怖が消えていく。

王に従っている限りは俺達はいつもよりも強く早く動けると本能的に分かった。


「へえ・・・せっかくだし俺も試したいことがあったんだ。」


本当だったら警戒していただろう俺達の目の前にいる男は右手をこちらに向けてきた。

その手から黒い結晶が生まれたかと思ったら瞬時に大きな黒雲となって我らを覆いつくしてしまう。

既に囲んでいるというアドバンテージは失われているが、王の不思議な力によって強くなっている俺達なら何の問題もないはずだ。


さあ、獲物を狩ろう・・・


そう思って一歩踏み込もうとしたら、バランスを崩して倒れこんでしまった。

なんだ・・・?と思った瞬間、背中が灼けるように熱くなった。

唯一動く首を背を見ようと動かす。

かすんでいく視界の中、自分の背肉が同朋の灰狼の手によって食われているのが見えた・・・





獣が本能に任せて共食いしあい、乱暴に肉を食い漁ったせいか緑の芝生は赤く染まってしまっていた。

共食いの結果、最後に残ったのは群れのリーダーらしい赤角灰狼だけだった。


「血の匂いが酷いな・・・ここにはもういられないなあ。」

「グルルルル・・・・」


お気に入りの場所だったのにと眉をひそめながら辺りを見回す。

そんな俺の目の前で競走馬並の大きさの狼が全身の毛を逆立ててる。

よっぽど警戒されているようだ。

所詮知能はあっても獣は獣ってことか。

そんなに恐れる程大したことはしてないんだがなあ・・・


狼の爪牙は『内在型身体強化』で皮膚を硬化させ防ぎ、赤角灰狼が角から仲間を強化し鼓舞する変な魔力波出してたから『曇の支配権奪取≪ハッキング≫』で少し魔力波の中身をいじって同士討ちを誘っただけだ。

たったそれだけであっさりと群れは使い物にならなくなったと言うだけの話なのだ。


ドン・クラーク暗殺事件から一週間ほどたって、リハビリついでに最近は『内在型身体強化』の訓練を集中的にするようになった。


魔力による身体強化には体の外に魔術によるパワードスーツのようなものを纏わせる『外装型身体強化』と体の内側で魔力を循環させて強化する『内在型身体強化』の二つがある。


簡単に発動ができ、鎧にもなるから今まで『黒曇衣≪コート≫』として『外装型身体強化』ばかりを使ってきたが、身体の内側から働きかけることにより魔力効率や強化効率が高い上級者向けの『内在型身体強化』は使えた方が良いだろうとできる限り『黒曇衣コート』は使わないようにしている。


前の戦いでも、もし使えていたら煉獄山の時も市街地戦でも苦労しなかっただろうし…

偉大で孤独な『彼』を失うことは無かったかもしれない

ま、今更な話だ。


「さてと、もうそろそろ帰るかな。」


そろそろ相手もしびれを切らしてるようだし

魔力を身体の内側で高速で循環させるイメージで身体強化する。

中々、身体強化と『曇魔術』の併用は難しく消えていく黒雲の代わりに細剣を抜く。

見つめ合う一瞬、最初に仕掛けたのは赤角灰狼だった。


「グルルルル…ギャウッ!!!」

「チッ、早えっ!」


予想外の速さで噛み付いてきた赤角灰狼の牙を右手で受け、力比べに入る。


「ガフルルルッ!!!」

「んにゃろう…」


巨体に押しつぶされれば、もうおしまいなので必死で力を籠める。

右腕に噛み付いている赤角灰狼の口から獣の濃い臭いが漂い、思わず嗚咽が出る。


「ぐぬぬぬぬ・・・」


内在型身体強化が上級者向けと言われる点は主に二つ

一つ目は常に身体の中で魔力を循環させなければいけないから、急な事態に弱い。

テンプレ的に襲いかかってきたところでしゃがみこんでカウンターを決めるつもりだったから、剣を持つ左腕以外の魔力が弱くなってしまい、このまま圧し掛かられ続けると体を支えきれず押され負けそうだ。


そしてもう一つ。

『外在型身体強化』なら魔力を込めるだけで『黒雲衣≪コート≫』などの強度や出せる出力を上げられるが、『内在型身体強化』は身体強度や筋力を上げようとするのに現状の魔力循環を続けながら、循環させる魔力量を増やす作業をするのでここぞという時に『溜めの時間』が必要になるのだ。


「ぎぎぎぎ・・・」

「グルルルアッ!」


押し潰されたらどかす自信がないから、さっさと溜めきりたいのだがこの溜めを疎かにすると体が『ぶっ壊れてしまう』のだから仕方ない。

身体がほぼ密着するほど近づいているから赤角灰狼の脚爪が当たることはないが、近くでブンブン振り回されるのはすごく怖い。

身体も徐々に押されつつあり、あまり時間が残ってないかもしれない・・・と思ったら左腕の『溜め』が終わった。


「くたばりやがれ!『穿跡』!」


パンッと左手から空気が爆発する音が鳴る。

銃弾が体に突き刺さるとき、実は周りの肉まで巻き取りながら貫くらしい。

それと同じく人外の力によりまさに高速の螺旋の回転と空気を切り裂く程の速さを加えられた細剣が突き刺されば

いくら強靭な魔獣の体であろうとも


細剣が突き刺さった結果とは思えないほどの大きな大きな穴が赤角灰狼の体に空いた。



「赤角灰狼・・・そういや中級討伐依頼にあった気がするな。」


『曇の網≪ネット≫』で覆って浮かせた赤角灰狼を引き連れながら、モルロンド伯爵直轄領へと戻る道を歩いていた。

未だに『内在型身体強化』に慣れてないので、『黒曇衣≪コート≫』を着ている時より移動スピードは下がる。


体っていうのは本来限界を出せないように作られている。

つまり移動スピードや筋力向上を強力にしようとすれば、身体を壊さないように身体強化も並行して行われなければ体が壊れるという大きなリスクがあるのだ。

特に魔力量が人よりも多い俺は注ぎ込む魔力量を一歩間違えればパンってなる恐れがある。

そんなわけで訓練が完成してない今は魔力をただ籠めるだけで良かった『黒曇衣≪コート≫』のような出力には到底届かないものとなってしまっている。


「ん?」


遠くから何か土煙を伴って走ってくる影が見える。

えらく早いなと思ったら目の前がいきなり霞んだ。

顎に一発喰らわされていた。


「またお前はこんな危険な場所で寝泊まりしてたのかあ!!!」

「グハッ!?」


シノンが鬼のような気迫で俺の眼の前に立っていた。

白く短い髪と気の強そうな美少女顔の彼女は、これでもかと怒ってそうな顔だった。

パジャマである所を見るとどうやら寝起きかな・・・いや違うっぽい

寝不足のようで眼元には隈が出来ている。


「寝不足のようですね?」

「お前が部屋に戻るのを待っていたら一晩たってしまったんでな?」


物凄く不機嫌そうな顔で『で?言い訳は?』という雰囲気を出していた。

彼女の手が堅く固く硬く握りしめられる。

それが振りかぶられる前に止めに入ることにする。


「し、シノン!お、落ち着いてくれ!なんでいきなり殴ってくるんだよ!」

「少し痛い目にあった方がいいか?『氷小刀』」

「わかった、わかった!本当にごめんて!」


シノンは俺がDOGEZAスタイルで抵抗の意思が一切ないのを確認すると、魔法で造り出した痛いでは済まなさそうな鋭い氷の短剣をぽいっと投げ捨てた。


「全くやっと怪我が完治したと思ったらこんな危ない場所で野宿するなんて・・・私に何も言わないで、、、心配したんだぞ(ぼそっ)」

「だって言ったら絶対ベッドに縛り付けられる・・・ヒイッ!?」

「はあ、、、はあ、、、気をつけろ、、、昨日からお前が帰って来ないと聞かされて心配で眠ってなかったんだ・・・手が滑ってしまうこともあるかもしれない・・・」

「ハイ、ワカリマシタ。」


シノンが条件反射的に投げた氷の短剣は俺の股から五センチの所で深々と地面に刺さりこんでいた。

駄目だ、、、冗談が通じなさそうだ・・・自分だってこんなところにパジャマで来てるくせに勝手な女である。

彼女が落ち着いたのを見計らってから、話を切り出すことにした。


「てか、今日はパーティー間のクエストは受けないんじゃなかったか?休みぐらい好きにさせてくれよ?」

「た、確かにそうかもしれないが・・・なんたってこんな場所で野宿しなくてもいいだろう?」


ここは元ドン・クラーク領にあるニカ草原だ。

前にゴブリン盗賊団と戦闘を行った場所である。

主をなくした二年の間に最もさびれた場所であり、公国内でも一二を争う数の魔物がはびこる草原だ。

中級クラスの魔物が多いため、危険な場所でもあるが修行にもピッタリな場所でもある。


「帰ろうと思ったんだけどめんどくさくなっちゃってさ。そのまま寝ちまったんだよな。」

「もう、、、」


シノンがチラッと俺が仕留めた赤角灰狼を見てため息をつく。


「流石に『種』の固有属性持ちなんだから心配はしてないが・・・万が一があるんだから気をつけてくれ。」

「魔力の総量はいつも気をつけてるよ。」


ぶっちゃけて言うとうちのパーティー全員、クラスは中級冒険者ではあるが一人一人のスペックが上級冒険者とさほど変わらない域に達している。

こんな中級クラスのモンスター程度では揺るがないぐらいの実力は持ち合わせているのだ。

流石にモンスター蔓延る地で就寝はやり過ぎだったかもしれないが・・・それはそれ、これはこれだ。


「・・・サクラ、右手怪我してるんじゃないか?」

「ん?ああ、消毒はしてるし問題ないよ。」


まだ『内在型身体強化』の熟練度が足りなかったようで、牙が若干腕に食い込んでしまっていた。

シノンは俺の傷を見るや否や、かがみこんで手をかざした。

止める間もないことだったので、黙って従うことにする。


「『治癒の粉雪』」

「・・・・」


数日前に覚えたらしい治癒効果のある白と青の混じった粉雪が彼女の両手に積り、彼女はそれを俺の右腕に塗りこみはじめた。

見の着のままで着たのか篭手も着けてない。

剣士のくせにえらく綺麗で柔らかい小さな手をしている。

そんな手が俺の手をさするもんだから下半身が少し落ち着かない・・・

シノンはというと特に恥ずかしがる様子はなく、俺の腕を眉をひそめながらさすっていた。


「段々治癒魔法が通らなくなってるな・・・」

「・・・段々暴走魔力が身体中に浸みこみはじめてるからな。」


アイスド・スライム戦で『出してはいけないところ』から引き出した魔力、『暴走魔力』。

たった一匙ほどの量が詠唱級魔術並の力を秘めたこの魔力は使い過ぎると内側から体を喰い荒らすだけでなく他者の魔力を弾き飛ばすという性質を持っていた。

俺も引き出した量はたった少しだったはずだが、ドン・クラークの助けがなかったら死んでいたかもしれない。


そんな暴走魔力だがドン・クラークが俺を守るためにくれた魔力と一緒に、徐々に俺自身の魔力に混ざるようになってきた。

もしかしたら彼が最後にしてくれた『秘奥』とやらが原因かもしれない。

そのせいかシノンやサニアの治癒魔術がかかりにくくなっているし、魔力枯渇にでもなればおそらく自動的に暴走魔力が体の中に入って・・・抑える普通の魔力が無い以上死ぬ可能性が出てきた。


「気をつけてくれ、多分これからは傷を瞬時に治すことが出来なくなる。サクラの命は一つしかないんだぞ?」

「分かってるよ・・・」


それでも強くならない限りは死ぬんだ・・・シノン、サニア、スカイを守るために『今』強くならなきゃいけないんだ。

そういおうと思ったが、彼女にそれを言うことは出来なかった。

シノンは俺の傷が治るまで、、、擦りすぎて赤くなるまで俺の腕をずっとさすってくれたから





「お?夜中にムラムラして朝まで青○かい?これはモルロンド伯に報告しとか・・・すいません、言葉の綾です・・・・イアタタタッ!!!?」


シノンが門番を『氷飛礫』で蜂の巣にしているのを放置して、俺はモルロンド伯爵邸の門をくぐった。

門番?

気絶しないギリギリまで痛めつけられたら解放されるんじゃないか?


あの事件があってから俺達を気に入ったのか、モルロンド伯爵は俺達パーティー『フェデラ』を屋敷に置いてくれている。

個人的に気になる子もこの屋敷に入るのでとてもありがたい待遇だ。

家賃食費光熱費全部タダ・・・もう勝ち組と言っていいんじゃないだろうかな生活を送っている。


風呂に入り汗と粉塵を流して、どこか日本を思わせるステテコっぽいのとダルダルの長袖シャツに着替える。

そのまま地面で寝たせいで痛い体を休ませようかとベッドに潜ろうとしたら戸を叩かれた

扉の外からモルロンド伯爵の秘書のメリッサさんの声がする。


「サクラ様、お昼の時間ですがいかがですか?」

「げ、もうそんな時間か・・・せっかく作ってもらったしなあ。今、寝間着なんすけど着替えるまで待っててもらえますか?」

「ああ、旦那様は外に出られてますのでお仲間内だけの食事です。皆寝間着なのでサクラ様もそのままでもいいのでは?」

「皆こんな時間まで寝てたのか・・・あ、じゃあお言葉に甘えて。」


寝間着んまま、ベッドから飛び降りる。

流石貴族のお屋敷、スリッパ一つが高級品と履きながら、今更ながらも空腹を感じ始めた。

それでも眠いと欠伸をしながら扉を開けると


バスローブ姿のメリッサさんがいた。


「ぶふっ!?」

「ど、どうされたのですか、サクラ様!?」

「どうしたじゃねえよ!なにそんな恰好で出歩いてんだ!?」

「ど、どうなさったんですか、言いましたよね?皆パジャマだと?」

「だからってバスローブはないだろ!?バスローブは!」

「とはいえ、私いつもこれで寝てますし・・・」


彼女は困りましたねえ・・・と言いながら腕を組む。

目がさえてきたわあ・・・

彼女の無防備な動作によって強調される谷間に思わず目を向けてしまうと背後から殺気を感じた。


「どこを見てるんだ、サクラ。」

「・・・シノンさん、屋敷内で『氷小刀』なんて使わないでくれます?」


別に貧乳っていうよりむしろある方なんだからそんなに怒んなくてもいいだろうに、シノンはいつの間にか俺の背に小刀を突きつけていた状態で立っていた。


「ほらメリッサさんも着替えてきてください!」

「ええ、スカイ様もサニア様も寝間着ですよ?」

「だからってなんでバスローブなんですか!ほら着替えて着替えて!・・・サクラ!お前もいつまでメリッサさんをじろじろ見てるんだ!目を潰すぞ!」

「治癒魔法が効かない俺になんてことをするつもりだ!」


本当に潰されては敵わないと慌てて目を手で覆うと、シノンが彼女を追い払っているようだ。

シノンさんもどうです?とか結構です、そんな恥ずかしい格好!とか聞こえた後、メリッサさんが立ち去りどこかの部屋に入る音が聞こえた。


「もういいぞ」

「ん」


目をおさえていた手をどけると仏頂面のシノンが立っていた。

俺と同じく風呂にでも入っていたのか、パジャマは新しくなっており仄かに洗剤の匂いがした。

髪がまだ湿気っているのか、青いナイトキャップを被っているのが子供っぽくて可愛い。

後、普段は胸鎧で押さえつけてるが今は何のさらしも胸鎧も着けてないのか、胸がボリューミィになっていて満足です!


「じろじろ見るな、ばか。」

「って、、、蹴んなよ・・・」


シノンはぽすっと俺の太もも辺りを軽く小突くように蹴ると食堂へ行く道を進み始めた。

蹴ったことで少しだけ満足したのか、彼女は鼻歌を歌いながら俺の少し前を歩く。

二人で食堂に入ると、サニアとスカイが眠そうな顔をして俺達を待っていた。


「おはよ~、しのんとおにいさん。」

「ふあぁ・・・眠くてかなわんのじゃ・・・甘いものが欲しいのう」


『運動』のお蔭で随分目が冴えた俺達と違って、彼女たちは本当に今まで眠っていたようだ。

俺を除いた三人がガールズトークで盛り上がり、ハブられ感を感じていると食堂に一人の女の子が入って来た。

メリッサさんが着替えて食事を持ってくるまで暇だ・・・と思っていたところだったが彼女の顔を見た瞬間一気に腹の中に重いものが入ったような気がした。

普段は彼女は食事は部屋でとっているし、出来る限り修行だ仕事だと外に出ることで顔合わさないようにしてんのに、、、どうやら今日の運勢はとことん悪いらしい。


「・・・・おはようございます。」

「・・・どうも。」


朝日奈楓とうり二つの少女、ソーラだ。

彼女も今の今まで部屋に籠っていたようだが、メリッサさんにでも無理矢理連れ出されたのだろう・・・

彼女は俺達を見るや否や気まずそうな顔をして食堂に入るのを一瞬躊躇したが、間違ったことはしてないという自覚があるようでわざわざ俺の真向いに座りやがった。


「何か?」

「・・・何もないよ。」


彼女は俺にとっては敵と言っていい。

ドン・クラークが死ぬ原因を作った人間なんだから。

彼女が意地になって屋敷にこもってなければドン・クラークは暴走魔力を使わなかっただろうし、彼に刃を突き立てなければ彼があんな最期を迎えることはなかった

彼女自身はと言うと死刑囚であったドン・クラークを当主の娘自ら首を刎ねたとして、むしろ忠義ある行動と公王からお褒めの言葉があったとかで御咎めなしらしい。


「「「・・・・・・」」」


かしまし三人娘はというと、こんな時に限って俺とソーラの様子を心配そうな顔で見てきた。

心配しなくても何もしねえよ・・・

一度は殴りかかるほど激昂したこともあったが、俺の本人格でもある桜が本質能力を暴走させて俺に刃を向けてきた。

彼にとってそれだけ朝日奈楓が大事な存在である証明でもあるし、その思いを一番よく知っている俺は絶対に否定はしない。


だからソーラに対して危害を加えることはしないが、、、仲良くできるかどうかは別だ。


「言いたいことがあるなら言えばどうですか?」

「あ?」


朝日奈楓と同様きっちりした性格なのか、皆がだらしないパジャマ姿だというのにソーラだけは服装どころか髪形までピシッと貴族の子女らしい恰好をしていた。

なぜだろう、、、そんな気にするまでもない小さなこと一つ一つにイラッとくる。


「・・・特に何もないが?」

「そうですか、私は正直そんな顔されてると不愉快ですけどね。いつ出ていかれるんですか?」

「はあ、、、うるさいなあ。貴族の女ってのはみんなそう厭味ったらしいのか?」

「なんですって!」

「ああ、キレやすいのか?平民のくせにってか?」

「・・・っ!?」


何となく分かる。

彼女は本当は優しくて、良い人間だという事を。

ちょっと恋に鈍感で真面目なだけの可愛い可愛い女の子なんだろうってことを。


それでも


それでも


ドン・クラークの事に関してだけは俺と彼女が相容れることはない・・・


「う・・・う・・・うう・・・」

「ちっ・・・飯はもういい」


悔しさで涙目になってる彼女とにらみ合うこと数瞬、先に折れたのは俺だった。

食堂を飛び出し、部屋に戻って扉を閉める。


「なにやってんだろ、俺・・・」


ポケットから取り出した二つの濃密な魔力が籠められた石を光に照らす。

烈火のように魔力が蠢く黒い石と静かにただ魔力がそこにある蒼い石。

龍人が生まれた時から持つ龍応石であり、本来彼らが一生を手放すことが無いはずの石だ。

そしてこれこそがドン・クラークとソーラが親子である唯一の証だった。


「主人公らしくねえなあ・・・くそ。」


ドン・クラークの魔力を感じる烈火のように魔力が蠢く龍応石はしょうがねえなあと言ってきているようだった。


「ごめん・・・溜め込ませちゃって・・・」

「また、勝手に出てきちまったのか?」


学生服姿の俺がベット傍の椅子に座っていた。

暴走魔力が混ざりこむようになってから、桜が実体化する時はほぼ実体として現れるようになった。

今まで思考のみのやり取りだったのが、言葉を交わせるように。

青白く光る半幽体は普通に色彩を持つ人間として出現。

なにより、、、出現自体が桜の思考によってのみ発動するか否かが決定されるようになった。


「ソーラは許せんが、、、桜の気持ちは俺が一番分かるしな。」

「それもそうだけど、、、言わないようにしてくれてんだろ?ソーラが悲しまないように。」

「・・・」


彼女が受け入れられないことは、はなから分かっていることなので彼女とドン・クラークが親子であることは伝えていない。

頼まれたってのはあるが・・・


「憎い相手だと殺してですらあれだろ?知ったらどうかなんてすぐわかるさ・・・」


かたきと思って殺してスッキリするのが普通なのに

どこまでも優しい彼女は自分の罪を自覚して部屋に閉じこもりがちになる。

どこまでも合理的な彼女は正しいと思ったことを曲げることが出来ない。

どこまでも不器用な彼女は自分の気持ちを整理できない。

どこまでも朝日奈楓に似ている彼女は、、、おそらくこのことを知ったら心を壊すだろう。


「ありがとう、サクラ・・・俺は彼女が苦しむ顔を見たくないんだ・・・」

「・・・あほらし。女の子と喋るときは軽快にセクハラトークが俺なんだ。喧嘩なんてよく考えたら俺らしくねえ。」

「なあ、、、文句は言いたくないんだけど、そういう事平気で済んなよ・・・サクラがキチガイって言われるたびに俺自身までキチガイって言われてる気がしてくるんだ。」

「ばーか、これが出来る事こそ主人公らしいんだろうが。」


桜がそれでこそ『サクラ』だといって消えていく。

・・・俺が『桜』だったころ、一度だけ朝日奈楓が心を壊しかけた姿を見たことがあった。

いくつもの奇跡があって、あの時彼女は持ち直せたが・・・あの時は本当に思い出すだけで辛い。

桜がそれを思い出したくない、彼女の苦しむ顔を見たくないっていうけど・・・

それだけは同感だ。


ガシャアアアアンン


「なんだ!?」


音がした方は・・・食堂だ・・・


ベッドから飛び降り全力で走る。

物凄い大きな獣が吠え声を挙げる音がする。

皆の悲鳴が聞こえる。

ソーラが何か言っている声がする。

ソーラが嘘だ嘘だと叫んでいる声がする・・・


俺はソーラと仲良くできない


それはこの先変わることが無い事実だ。


何度も何度も変えようと思えば変える機会があった。


しかし俺はその機会を意地になって拒否し続けた。


『俺はソーラと仲良くできない』


今、この瞬間


それは


『いくら否定しても否定出来ない事実』となった。

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