第6章如峰月桜と恋し乞い願う少女part3
「くはぁ・・・」
伊月は頬を染め恍惚の吐息を吐き、剣を振るう。
肌の悪寒に従い構えた鞘に入った剣を構えた所に新しい走り傷。
そしてまた筋力負けして、体勢が崩れる。
姿勢が崩れることを見越していたのか利き足を踏みつけられ、更にそこへ『銀乙女』。
頬をかすめるその刺突に恐怖する最中、視界を覆う影。
剣を持たぬ左手による目穿ちが迫っていた。
「ぐ・・・」
「はあはあはあ・・・・」
手首を抑えることで何とか貫かれるのを回避する。
しばし見つめあうこと数瞬。
俺は緩んだすきを見て後ろへとんだ。
ズザザと無様に背中で滑る中、伊月は足を振り上げた姿勢になっていた。
あいつ、、、金的かまそうとしてたな・・・
「なんてむちゃくちゃなんだ・・・」
命がけの決闘に汚いもくそもないとばかりに、脚封じ、目つぶし、金的なんでもござれだ。
足も踏まれただけにしては痛む。
靴に鉄でもしこんでるかもしれない・・・何て奴だ。
「お前が剣を抜かないから、こっちはのびのび攻撃できる。」
「そうかい。」
恍惚の表情を魅せたかと思えば、今は不機嫌だ。
足でも捻ったのか上手く力が入らんので、杖替わりに剣を使って立ち上がる。
伊月は俺が立つまで余裕のつもりなのかそれを見ていた。
「何をしてる」
「だっ!?」
そして蹴りを入れ、杖替わりの剣を吹っ飛ばした。
視界がひっくり返り、木の床に倒れこむ。
その際鼻を強く打ち付けたのか涙目になるほどの強い不快感、そして流血。
「剣を杖替わりにするなんて、、、自分で取ってこい。」
「!?」
思わず鼻をおさえて蹲っていると急激な浮遊感。
ぼやける視界の中でも何をされてるかはすぐに分かった。
伊月が俺を持ち上げていた。
嘘だろ、、、女の細腕で軽々と持ちあげられるような体格してねえぞ俺は
「ハアッ!」
「グハアッツ!」
そのまま壁に投げ叩きつけられ、肺の空気が一斉に外へ放出される。
そして、重力に従い地面にまた落ちる。
「ゴホッ、ゴホッ、、、伊月、、、お前の力の強さ、、、いくらなんでもおかしい、、、前の決闘の時と違い過ぎる・・・」
前の決闘の時は鍛えてるとはいえ、力は女のそれだった。
しかし今俺が相対する伊月の力はまるで二メートルの大男と相対しているかのような力だ。
剣を一撃受けるだけで鞘は歪み、手は痺れ、姿勢が崩れる。
軽々と持ちあげられては殴られる。
「当たり前だ、ドーピングしてるからな。」
「!?」
驚いたのはドーピングをしたことについてではない。
競技に身を置く彼女だからこそ、決闘という代物に薬品という『反則』を持ち込んだこと。
そして、彼女がさもそれを当然だという顔で言ったことにだ。
鼻血を取り敢えず拭い去り、俺は口を開く。
「伊月、、、決闘はいいさ。だがなんだこれは?真剣を振るってくるは、お前は卑怯な手段ばかり使ってくるは。挙句の果てには薬物投与?何考えてんだ!」
「心配しなくても冷凍血液に伊月家秘蔵の検査に引っかからない薬物を混ぜ込んだものを使っただけだ。競技なら反則はとられん。」
「そういう問題じゃねえよ・・・どうしちまったんだよ、ちくしょう。」
伊月がまた構えを作るので、慌てて近くに落ちていた鞘付剣を構える。
『銀乙女』
「ぶっ!?」
鞘で留めきれなかった力が、俺の方に迫る。
顔に鞘がぶつかるほどの力で、また二転三転と転がる羽目に。
ホントに、、、あの伊月が何でこんな汚い手段ばかりを・・・
「ああ、、、いいぞ、如峰月。段々、昔のお前の顔になって来た・・・」
怒ったかと思えば、泣きそうな顔に、かと思えば恍惚の表情。
サクラの時も桜の時も、絶対に相手にしたくない感情の移り変わりが激しいキレた状態。
彼女は急にあれだけ激しかった攻撃を止め、語り始める。
「バカでもわかるよ」
「・・・は?」
突然の話題変換、、、ついていけない。
コイツと居続けると殺されちまうんじゃないか、、、そんな予感が、、、いや、段々鋭くなってきている俺の感覚が本当に殺されると確信に変えてくる。
「何で気づかないこの唐変木!」
「わかんねえよ・・・」
伊月は俺の胸ぐらを掴み上げる。
あまりに理不尽なこの現状、、、腹が立ってきたので俺も目を合わせ睨み返す。
「この夏休み、どれだけの時間を無駄に消費した?」
「無駄にした時間?ねえよ、んな「何度剣を振れたと思っている!」・・・あのなあ、俺はフェッシングをやめたんだぜ?」
「たとえ止めたとしても、、、他の道を見つけてそれに向けて頑張っていたのなら、、、こんなことにはならなかったさ・・・でもお前ときたら夏休みは先生の使い走りとくだらない部活動。なぜそんなことの為に時間を浪費するんだ・・・なぜ自分の才能を大切にしてやれないんだ・・・」
「お前、、、怒ったり喚いたり、、、今度は泣きか?」
「泣いて、、、ない、、、」
伊月は眼元をぬぐい、鼻をすすりながらも言葉を紡いでいく。
「やりがいもない、、、成果もない、、、評価もされない、、、何でそんなことをしてるんだ」
「そんなの今も昔も変わんねえよ。」
「違う!」
彼女の声がひときわ大きく響く。
彼女の顔は真剣身を増し、気迫がまるで目の前に剣を突きつけられているかのごとく膨張する。
「お前が兄様に勝ったあの時、私はお前の全てに惚れたんだ!力をもらえたんだ!」
「はあ!?」
「お前の剣も!お前の戦いによって築かれたきた鋭い気迫も!お前の本質も!私はあの時の如峰月桜に確かに惚れていたんだ!」
・・・これは告白か?
てか、するにしても時と場所を選べよ・・・
『余計に』手を出せなくなくなっちまったじゃねえか。
伊月じゃなかったら剣を抜かずとも殴りかかるぐらいの抵抗をしただろう。
抵抗叶わなかったとしても、逃げるぐらいしたさ。
それでも俺の眼の前にいるのは伊月葵だから、俺は彼女を放っておけない
抵抗も逃げもしない理由はわかんないけど、彼女が俺に惚れてるんならなおさら放っておけない・・・
少しでも可能性があるなら言葉でこの場を納めないと・・・
「なんで惚れた相手にこんな真似すんだよ?嫌われたいのか?」
「お前は如峰月桜じゃない!同じ名前をした別の生き物だ!私はあの時の如峰月桜に会いたいんだ!戦いの中でまるで一本の剣のように研ぎ澄まされていたあの時のお前に!私は会いたいんだ!」
「わかった、わかった!何とかしてお前の言うそん時の俺になれるようにすっから、、、もう殺し合いはやめねえか?」
「昔のお前なら、、、そんなこと、、、言わなかった、、、」
伊月とは話したことが無いはずなのに、、、彼女のいっていることは全くその通りだ。
昔の俺は、、、こんなこといわない。
朝日奈楓に振り向いてもらおうと強がっていたあのときならこんな妥協を許すようなことは言わなかった。
伊月は俺を強い力で突き飛ばす・・・抵抗も何もできない。
「お前には申し訳ないが、、、私には時間が無いんだ。」
「時間?」
「決闘で、、、お前の中で惰眠をむさぼってる、腐りきった才能を再び叩き起こす!」
ちくしょう、時間稼ぎも出来やしない・・・
どうすりゃあいい!
俺は伊月葵にどうしてやればいい・・・
あの時の俺は朝日奈楓の隣に立てると信じ努力していた俺。
『主人公になれると信じてた』、、、そんな俺
今の俺は朝日奈楓を陰から支えられればそれでいいと考えてる俺。
重要NPCだとかいってはみたものの、、、ただの負けた犬。
あの時の俺へは到底遠い。
「無理だ、、、伊月。もうあのころへは戻れないんだよ・・・銀閃は一瞬しか視界に残らないように、、、脆いものだったんだよ。」
「・・・お前がそれを言うなあ!」
ドンと強烈な踏み込みと共に、鞘付剣と剣がぶつかり合う。
伊月が剣を振り降ろし、それが鞘と剣をつなぐ留金を破壊する。
伊月はにやりと笑うと刃先が食い込んだ鞘ごと剣をそのまま払い、俺から鞘を奪う。
・・・ヤバい、これで今まで以上に伊月が攻めてくることになる・・・
過程はともかく二人とも抜剣した抜身の剣を持ち、構えることになる。
伊月はついにやったぞと笑いながらも、、、すぐにその表情は曇る。
そしてそのまま立ち尽くす。
「どうしたよ?」
いつまでたってもかかって来ない彼女に声をかけた。
「帰ってきてよ『私の主人公』・・・」
「まい・・・ひーろー?」
筋力上昇の為に暗示でもかけてるんだろうか?
俺と剣を構え合うという状況が何かのスイッチになったのか?
それとも剣を抜いてすら俺が変わる様子が無いのに心が耐え切れなかったのか・・・彼女は座り込み剣を手放す。
彼女はまるで歳若い少女のようにいつもとは違う口調で話す。
「あなたのお蔭で剣だけで繋がってた私の家族が崩壊しても、私は強いままでいれたんだよ?あなたがいなければ、、、私は何を支えにして生きればいいの?」
「・・・それは。」
「あなたが私に勝って、、、フェッシングは決闘だって言ってくれたあの時のあなたにはまだ、、、あの時のあなたが残ってたから、、、死ぬ覚悟で決闘を行えば帰ってくると思ったのに、、、何であなたはここにいないの!」
俺は、、、俺は、、、彼女を今のままでは救えない。
昔の俺じゃないと、、、彼女の心の闇は払えない。
でも、、、あの時のように朝日奈楓の為にだけを考え動いていた・・・いや、動けていた俺はもういない。
だって今はもう他にも大切な人が周りにたくさんいるから
最も大切な恋人にしたい人の座が開いて、、、朝日奈楓を神聖視することが無くなって
そして新聞部のみんなや穂のちゃん先生とだべる時間が増えて
白凪優子や朝顔さんの理不尽な行動に困らされて
心が折れても支えてくれる精神面でも師匠のスーザ先生と飯食ったり
確かに昔も楽しかったけど、、、今も楽しいから、、、それを作ってくれる皆が大切だから
昔には戻れない
「ごめん、、、伊月の『私の主人公』は幻だ。」
「!?・・・完全に、、、昔のあなたの影が消えた。」
伊月が目を開いて驚く。
・・・伊月の勘の鋭さは異常だ。
俺だって今やっと改めて自分は重要NPCであることを再認識したばかりなのに・・・
彼女は俺の中から『主人公になろうとしている俺』が完全に消えたことを勘だけで確信した。
「嘘だ、嘘だ!彼が消えるなんて、、、彼が、、、こんな情けないのに負けるなんて、、、」
「そうだよ、、、もういねえんだよ。」
「叶いもしない恋の相手を、、、ただ見守るだけの奴に、、、彼が負けるはずがない!」
涙を流し、耳を塞ぎ、頭を振って、目をつむる。
伊月はそうして外界から混乱要素を全て排除し、自分にまた重い暗示をかける。
その枷は伊月に力を与える一方、伊月の精神を磨り潰していく。
「そうだ、、、彼を本当に、、、殺すしか、、、そうすれば、、、私の心に彼は残り続ける」
既に剣を振るう理由が崩れ始めている。
剣を振るって『彼』を起こすはずが、『彼』を殺すことで『彼』を心の中で生かせようとしている。
まともな思考能力が、、、奪われ始めてるんだろう。
伊月の握る剣から血が滴り降りる。
俺の血じゃない・・・皮膚がずりむけてんだ。
慣れない真剣なんて振るうから、手の平の皮膚が耐え切れなかったんだろう。
剛剣ばかり行っていたせいか、手首は赤く腫れてるし剣の刃もボロボロだ。
でも、剣を手放すことはない。
「伊月、、、聞いても理解できないかもしれないが、、、聞いてくれ。」
ぼそぼそ何か言いながら、剣を握り立ち上がる彼女に声をかける。
俺の手の中にある抜身の剣も何度も重い衝撃を受けたせいでひどく歪んでいる。
正直使い物にならない。
「ここは小説でも異世界でもない。」
「・・・・っ!?」
伊月がこちらに向かって駆けて来る。
彼女のスピードならほんの数秒で剣が俺に刺さるだろう。
そんな瞬間。
もし小説の主人公なら剣と剣を交えて、、、そして勝つだろう。
もしくは、、、この剣を受けて、、、正気に戻った彼女を説得か。
伊月を見捨てられない今、俺はどちらを選ぶか・・・
決まってる
ここは現実なんだ
「!?」
五百円玉が伊月の腕にぶつかり、剣が零れ落ちる。
その瞬間もう一枚の五百円玉が伊月の額へ吸い込まれる。
額はれっきとした急所。
いかに危険な薬や暗示で強化されたとしても、、、意識を刈り取る。
「まさか、剣をラケット替わりに使う羽目になるとは・・・」
盛り上がりも何もないあっけない幕切れだった。
でも、現実らしい幕切れだった。
俺の部屋で目覚めた伊月の第一声は、何だあの終わりは!だった。
「落ち着けって、、、現実で刃傷沙汰なんて起こしてみろ。二人そろって退学どころかムショいきだぞ。」
「だからって、、、私は最悪一太刀受けることだって覚悟してたんだぞ・・・」
「あのなあ、、、そもそもここは現実なんだ。どんなに欲するものがあったとしても、それを手に入れる為に使う手段は暴力でも剣でもなく言葉を用いなきゃいけないんだ。」
「それでだめだったから、こうして決闘を挑んだんだ。はあ、、、もう部活に戻らなくてはいけないのにあの時の如峰月には会えないし、兄様はあのまんまだし。しかも最後はアレで私は帰らなきゃいけないのか・・・」
俺のベッドで三角座りをして拗ねる彼女の額には未だに真っ赤な跡が残る。
少し撫でてやると彼女はとたんに痛がって飛びのいた。
「な、何をする!」
「暴力以外にも手段なんていくらでもあんだよ。例えば、ハニートラップを仕掛けて襲われるところを写真で撮ってばらまかれたくなかったらフェッシングもう一度やれとか、朝顔さんに性的興奮を感じてる証拠を偽造して同じくばらまかれたくなかったらとか・・・他にも・・・」
「もういい!なんだその性的でエグイのばっかは・・・」
俺は主人公らしくない汚いやり方が得意だ。
流れ的にここはこうでしょ・・・をぶっ壊すのが大好きだ。
剣での決闘っぽい流れなのに小銭で相手を気絶させるなんてまさにそれ。
どっから持ってきたその五百円二枚・・・とか超展開すぎるwwww巻きすぎwwwwとか言われるかもしれないけど、現実なんてこんなもんだ。
それに
「別に伊月と殺し合いするぐらいなら、今言ったことされた方が良い。」
「!?」
伊月が顔を真っ赤にして身体俺から遠ざけようとする。
なに?照れてるんだろうか?
それはそうだろう、前まで好きだった人から告白っぽいこといわれてるんだから。
俺は意地わるい笑みを浮かべながら伊月の手首を掴み逃げられないようにする。
「は、離せ!」
「お?あんなに力強かったくせに、えらくへなちょこじゃないか?ん?」
伊月がジタバタ暴れるので後ろから抱きかかえるように抑え耳元で囁いてやる。
クズ野郎と思うかもしれないが、俺は一応さっきまでは被害者だ。
これぐらいは意地悪してもいいだろう。
わざと声を落として
「伊月・・・お前は大切なんだよ。可愛い可愛い女の子としてな?」
「ひううぅっ!」
伊月が体をよじって逃げようとする。
しかし暗示と薬の副作用かその力は弱く、寧ろ俺にもたれてくるぐらい体力が落ちてる。
「襲ってしまえるな、、、今ならさ?」
「ああ・・・くすぐったいぃ・・・やめろぉ・・・」
耳元が弱いのは本当らしい。
変なとこだけ、俺と伊月は似てんよな。マジで。
照れくさいが折角なので本音で話してしまおうか・・・
彼女の体温が徐々に上がる中、俺は彼女にだけ聞こえる音量で囁く。
「俺は変わったのは間違いなくお前の影響もあるんだぜ?」
「!?」
硬直してしまった彼女の耳元へさらに囁く。
「今の俺を作る俺にとって大事な人の一人に伊月葵がいるんだ。そういう意味では伊月葵のせいで俺は変わっちまったって言えるな。」
「え・・・・え・・・・?」
「だからさ、、、責任取ってくれるよな?」
「はっ・・・はっ・・・ふえぇぇ?」
「ただいま」
「おう、おかえり。伊月、、、どうしてくれるんだ?俺はもう、、、お前を放っとけない。」
「え?なんでベッドに女の子上げて、しかも抱きかかえてんの?」
「うるさいな、先生。今は伊月を責めてるところでしかも今物凄くいい所なんだ。」
「「ふーん」」
「「あ」」
ぼこられました。
朝顔さんは弱ってる葵さんに何してくれてんだと俺の首を締め上げた。
先生は男が女性を襲うなんてそんな子に育てた覚えはないと精神面の師匠っぷりを出しながら俺に腹パンしてきた。
拷問は朝まで続き、いつの間にか伊月は家から消えていた。
「うう・・・散々だった。」
オールナイトで大興奮だった二人が延長線の前にと朝食を取ろうとしている隙を見計らってどうにか脱出した俺はカフェインドリンクをがぶ飲みしながら学校へと向かっていた。
先生は俺の感覚が鋭くなってることを知っているくせに平気でエグイ罰をしてくるし、血がつながった家族のはずなのに朝顔さんはずっとイキイキしていた。
あいつらマジで天罰喰らえ。
今日から学校だってのに最悪な始まりだぜ。
朝日奈さんと今日からは一緒に通えないしよ。
伊月葵もおそらく今日からは会えないだろうし。
伊月・・・お前が俺を主人公って言ってくれて、、、ちょっとうれしかったよ。
少しだけ『昔の俺』が報われた気がした。
まあ、現在の俺も大して報われてないけど・・・な。
それでも彼女にとって主人公であれたって今後一生心に残るであろうし彼女のことは忘れることはないだろう。
部活の練習が忙しくなると言ってたしあんな別れ方だからもう会う機会はほとんどないだろうが、、、元気でいてくれればと思う。
兄貴の件も陰ながら手伝ってやろう。
最悪古畑さんに脅してもらえば、すぐに家から飛び出すだろうし。
ちょうど同じ頃、藤堂勝海は凄まじい怖気に震えていた。
そんなことなんて露知らず、俺は学校に入る。
文化祭の準備はほぼ大詰。
学校の中は既に飾り付けも済んでいる。
そういや明日からは文化祭か。
怪我ばっかのイベントばかりですっかり忘れていた。
楽しみだなあ・・・もしかしたら朝日奈楓と回れるかもだし。
こんな気持ちになれたのも、昔の自分から完璧に変われて今の俺があるからだろう。
昔のすれてた俺なら、文化祭なんて『主人公たちの祭り』勝手にやってればいいとかおもってただろうし。
変えてくれた皆には本当に感謝だ。
俺と同じく皆が興奮でざわついている。
俺のクラスの教室も飾りつけはほぼ完成しており、ざわつき具合が・・・大きすぎる。
教室に入ると皆が俺の方を注目し、、、そして落胆した表情でそらす。
なに?傷つくんですけど、そういうの。
「新聞君、一体どうなってんの?」
「さあ?僕が今さっき来た時も同じ対応だったから。もっと早く来た人ならわかるかも、、、って、転んだのかい?怪我だらけじゃないか。」
「ま、まあね。」
暴力のトラウマ神に成りかけている彼に、暴力沙汰や拷問話はタブーなので誤魔化しているとハマリュウが後ろから背を叩いて来た。
「いよっす、桜!久しぶりじゃん!」
「おっす、ハマリュウ。良かったな、髪形戻って。」
何者かによってなされた謎のEXAカットは夏休みの間にきれいさっぱり戻されたらしく、ハマリュウは元の坊主頭に戻っていた。
「それはもういうなよ、おもいだしたくねえ・・・あ、転校生来るって聞いたか?」
「はあ?文化祭明日だぞ。」
「いや、急に決まったことらしくてな。穂のちゃん先生が今泣きながら資料作ってるらしいぜ。」
多分、二日酔いのせいだと思います。
「で、どんな子なんだ?」
「女だそうだ。なにやら全国クラスのスポーツ特待生だと。」
「スポーツねえ、水泳かな。」
「いや、武道の家の娘だと。」
新聞君は武道と聞いておびえはじめる。
新聞君・・・
新聞君は話を聞きたくなさそうにこちらを見ている。
仲間にいれますか?
はい
「いやだあ!小陽ちゃんが武道の技を覚えるフラグだあぁ!」
「桜、、、俺が野球で忙しい間に佑に何があった?」
新聞君の豹変ぶりにハマリュウがドン引きしている。
まあ、普段から付き合っている俺ですら一歩引くレベルだし。
ガチ泣きする残念イケメンを取り押さえて俺は話を続ける。
「で?武道っつうと剣か?」
「多分な。先遣隊によるとかなり背が高くて美人系だったそうだ。」
「いやだあ!聞けばフラグが建つぅ!」
「桜は随分歪んだな、夏休みの間に・・・お前ら相当辛かったんだな夏休み。」
「「・・・っ(涙目)」」
友情を噛みしめていると、扉が開く。
皆が注目する中入って来たのは、吐き気をこらえながら青白い顔した合法ロリだった。
「うぷ・・・皆席につけ・・・」
「せんせえ~、オブジェの関係で机椅子は全部外に担ぎ出してます。」
「じゃあ、、、床で正座。」
「「「「「「「「・・・・・・・まじ?」」」」」」」」
全員がおとなしく正座する中、穂のちゃん先生はよたよたとうんこ座りする。
間違っても教師がとる体勢ではない。
「うえっ、、、ふう、、、ああ、、、」
「「「「「「「「・・・・・」」」」」」」」
皆が新聞君にお前が何か言えと見つめる。
新聞君は視線を受け流せばいいのに生来のまじめさが祟って、真面目に発言する。
「あの、、、転校生は?」
「うぷ、、、ああ、外で待たせてます。」
「「「「「「「「「「「「いや、早く入れてやれよ!」」」」」」」」」」」」」
「騒ぐな、、、頭に響く、、、」
まだ酔ってるのか、彼女は頭を抱えて動こうとしない。
たく、、、飲み過ぎるからだ。
これだから合法ロリは。
不憫なので、教師の代わりに教室へ招き入れてあげよう。
そう思い、教室の扉へ近づく。
小説風に言うと、新キャラってやつか・・・伊月の時は優しくできなかったけど、、、今度の子は出来る限り気にかけてあげよう。
そう決心して扉を開く。
「き、、、昨日ぶり。」
「伊月葵、、、何でここにいる?」
担任に放置された可哀想な転校生は伊月葵だった。
彼女がうちの制服を着てるんだから、間違いないだろうが何故に転校なのか?
意味が分からん。
「いや、右手を捻挫してたらしくて、、、それを監督に伝えたら君はレギュラーには不適格だから転校しなさいと言われて、、、気付いたら特待生としてここに連れてこられた。」
「あの、狸ジジイ・・・」
ほっほっほ・・・いいことしたなと笑ってる表情が脳裏に浮かぶ。
殴りたい、あの笑顔。
「それでだな、、、急なことだったから住むところが見つかるまでまた居候させてくれないか?あんなことがあったばかりで、、、しかも急に言われても困るだろうが・・・」
右手に痛々しげに包帯を巻きつけ、しゅんと俯く彼女は俺と同じくらいの背なのになぜか小さく見えた。
たく・・・
「いっただろ?お前は俺にとって大切な人間だって。あんなことぐらいじゃ何も変わんねえって。気が済むまで居候しやがれ・・・いまさらだろう?」
「・・・ありがと、まいひーろー。」
「? なんかいったか?」
「な、何でもない!」
伊月が顔を真っ赤にして叫ぶ。
たく、、、こいつは怒りっぽくて嫌になる。
本当に昔は俺に惚れていたのだろうか?
コイツの言動からは全くそれが読み取れない。
ま、こいつが既に大切な存在であることは確かだし、俺が大切な人の為に頑張れる人間になりつつある以上、この不器用な女の子を手助けするのは変わらない。
俺と伊月葵の奇妙な二人三脚はまだまだ終わらない。
「ねえ?その子と『また』同棲するの?」
ひやっ
「あ、、、朝日奈さん?」
「ねえ?何があったの?如峰月君の怪我まだ真新しいよね?昨日はずっと騒がしかったし、、、まさか伊月さんを襲って返り討ちにあったんじゃ・・・」
「その前に、肩が痛いんだけど、、、」
彼女は笑顔を体裁でとってはいるが、俺の肩をギリギリ掴み目は笑ってない。
俺と彼女の会話はクラス全員に聞こえていたのか、伊月は皆の輪の中心へと引きずり込まれる。
1-Bは容赦ない奴らばかり集まってるので質問は皆ストレートだ。
「なあ、如峰月とどういう関係なんだよ!もしかして付き合ってんの!?」
「そ、そんなことはない!ただの居候だ!私と如峰月が、、、つきあうとか、、、」
「顔が赤い!・・・あのくそ野郎、こんなかわいい子を認知しないとか、、、死ねばいい。」
あれ?俺が悪いみたいになってませんか?
俺へ非難の目線が集まる中、質問は続く。
止めに入りたいが朝日奈さんが俺を掴んで離さない・・・
「あれ?怪我してる・・・どうしたの?この右手?」
「これは如峰月と・・・いや、何でもない。」
「まさか、デートDV!?駄目だよ、警察に行かなきゃ!・・・あの勘違い野郎、夜道に気をつけやがれ。」
待て待て待て!どちらかというと俺が被害者なんだが!
俺が首を振って伊月にアイコンタクトを送っていると、伊月が何かを察知したかのようにうんと首を縦に振った。
よし、、、頼んだぞ、、、
「私が一方的に迫って如峰月と『つきあった』結果こうなっただけだから!」
「「「「「「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・へえ」」」」」」」」」」」」」」」
「ちょっと待て!いったい今、何を考えた!」
「はい」
「なんだ!」
「肉体関係があるにもかかわらず恋人と認めてくれない下種野郎に恋人と認めてくれと迫ったら腕をねじられた」
「違うわ!せめて『つきあった』入れろバカ野郎!次!」
「はい」
「新聞君!」
「ヤンデレった伊月さんが・・・・包丁で・・・如峰月君を・・・ガタガタガタ」
「トラウマに触れるぐらいなら話すな!・・・大丈夫か?・・・次!」
「はい」
「ハマリュウ!」
「無理な体勢で大人のおもちゃでお互いを『突き合った』。そのせいで伊月さんは捻挫。」
「みなさん、高校生は清いお付き合いをしましょう!ハマリュウ、お前は廊下に立ってろ!」
駄目だ、、、味方がいない、、、
気づいて周りを見渡せば、皆が最低無視野郎を見る目でこっちを見ている。
「皆、誤解だ!」
「「「「「「「「でも、同棲するんだろ?」」」」」」」」
「・・・はい」
二人三脚する前にこの誤解が解ければいいが
「ふふふふふ、、、説明して?ね?」
特に朝日奈さんのが。
肩から異音がし始める・・・俺の二学期は脱臼スタートになるかもしれない。
・・・とんでもなく奇妙な二人三脚になるけど、お前のせいだからな、伊月葵?
エピローグは出来次第すぐに投稿します!




