第6章如峰月桜と恋し乞い願う少女part2
藤堂勝海は俺から目を逸らしたままだった。
俺が声をかけているのに、心は少しも開く様子が無い。
それどころかむしろ逆効果だ。
壁に向けて俺は話しかけているんじゃないかと思えてさえ来る。
酷く冷たい表情になった藤堂勝海はぼそりぼそりと顔をそむけたまま語りだす。
「君は相変わらず目に力があるよね。」
「『フェッシング皇子』に言われたくないね。俺がどれだけ女性ファンにたたかれたと思ってんだ?このイケメンくんよお?」
「でも、君はやっぱり目に力がある。皆が引きつけられるような、、、うらやましいよ」
「・・・朝日奈楓の残り香でも染みついてるか、俺?」
妹とおなじようなことを言いだす兄貴を放り出して自分の匂いを嗅いでみる。
・・・自分じゃわからん。
主人公的カリスマ溢れる朝日奈楓の匂いなら1キロ離れてても分かるんだが。
てか、思い込みもいいとこだ。
俺は朝日奈楓のような人間じゃないんだから。
「何があった?何でフェッシングやめてこんなとこで引きこもってる?」
「君には関係ないよ」
「・・・伊月に何日も居候されたんですけどね。宿泊代請求しても?」
「あの力だけのバカ妹が・・・どんだけ?」
「こちらお会計になります。」
「・・・結構かかってない!?高くない!?」
「事情説明如何によりお安くしますが?半額ぐらいに」
寧ろ主人公らしくない汚い手段の方が得意だ。
藤堂勝海はため息をつくとポケットから財布を取り出そうとして、、、止めた。
「今日の夕飯は君のせいで出前を取らなきゃ。半額にして貰おう・・・はあ」
「最初からそうしてりゃあいいんだよ。」
「如峰月君、一応僕は君より年上・・・まあ、いいや。言っておくけど君に負けたからこんなことになってるわけじゃないからね。」
「じゃあ、なんなんだよ。」
俺が顔を解放すると、彼は痛がるそぶりを見せながら再びパソコンへ向かい直る。
彼は俺に背を向けながら話始めた。
「親が離婚しちゃってから家族バラバラになってさ、なんか全部だるくなって親父の家飛び出してここで一人暮らししてるだけだよ・・・ただそれだけの話。」
「伊月には何で会おうとしないんだ?」
「母方に引き取られてから、しばらく会ってなかったけど最近妙に会いに来るようになったんだよ。でも、こんな姿見られたくないから居留守使って追い返してる。」
「おいおい、なんだよそりゃあ・・・引きこもりの時点で恥ずかしいもんだろうが。」
「か、金は自分で稼いでるよ!」
「う~ん、恥ずかしいと思うぞ?学校はどうした?」
「・・・聞かないでくれ」
どよんとし始めたそいつを眺めてると、なんか泣き始めた。
僕は・・・僕は・・・とか言い始めたので取り敢えず家から出ることにした。
俺との試合にわだかまりはあるようだが、深い原因って訳じゃないみたいだ・・・
じゃあ、何で伊月はあんなに俺が再びフェッシングをすることに固執しているんだろう?
むしろ俺がやめた方がせいせいするだろうに。
「如峰月・・・」
「お、伊月。」
おんぼろアパートから出ると、階段に伊月が座っていた。
時計を見るともう既に昼休みは過ぎてる。
少しでも急いで戻るべきなんだろうがなあ。
サボりとドヤされることは確定だが、このまま放っておくのもね・・・
「歩こうぜ?」
「・・・ん。」
妙におとなしい伊月がとぼとぼ歩いてついてくるのを背中で感じながら、近くの自然公園の道を歩く。
ジャージ姿のようだが、練習のフリーランニング終わりにでも寄ったってとこか?
今はどの辺に住んでるんだろうか・・・別に戻ってきてもいいんだぞ?
いろいろ言いたいことがあるはずなのに、俺は何も言えなくなってしまっていた。
そんなに長い時間離れていなかったはずなのに、何を話せばいいか分からない。
もっと気軽な関係なはずなんだがなあ。
「あ~~~そのさ。お互い兄妹関係には苦労してんなあ。」
「・・・そうだな。」
駄目だ・・・出しちゃいけない話題出しちまった・・・
心なしか肌寒いのは9月になりかけているからだろうか?
伊月との会話もないまま、陽射しだけは強い道を二人で歩く。
「情けないと思うか?」
「別にいいんじゃねえか?金は稼いでんだろ?ニートじゃねえなら文句はないだろ?」
兄貴のことならむしろすげえとさえ思ってる。
引きこもるのはいけないと思うけど、迷惑かけないように自分で稼いでる。
妹への態度は正直くそだが、情けないかどうかって言えば・・・情けなくはない。
俺の正直な言葉だったが、伊月は苦笑いで首を振った。
「違う、私のことだ。」
「へ?なんで?」
「自分が情けないんだよ。如峰月をフェッシングの世界に戻すことも出来なかったし、兄様もずっと会ってくれない。ここじゃあ練習環境も整わないから、自分の剣も日に日に錆びついてくのが分かる。何もかも、、、中途半端だ。」
「中途半端って、、、俺はともかく兄貴は時間をかけりゃあ何とかなるかもしれないだろ?」
伊月は首を振った。
「夏休みまでだったんだ。期限は。」
「それって、、、」
俺の質問に答えることなく伊月は歩き出す、、、と思ったら足元に落ちてた木の枝を拾った。
伊月は道に落ちていた枯れ枝をヒュヒュンと軽く振り、、、ため息をつく。
「もう戻らなきゃ・・・これ以上練習をサボってるようじゃ、部に戻ることを私自身が許せないから。」
「まあ、、、その気持ちはわかるよ。」
クラスのオブジェ作成作業に関われなさ過ぎて、正直みんなは気にすんなって言ってくれてるけど居づらい。
今だってこうして、教室に戻れないし。
彼女ほどフェッシングに真剣な女の子ならなおさらだろうよ。
髪をかきむしりたくなってきた・・・不器用すぎんだよマジで。
「もうちょい緩くなれよ。心配になってくるぐらいだ。」
「心配?ふふふ・・・」
伊月は俺の言葉を聞くと、くすくすと笑い始めた。
不覚にもドキッとさせられた。
「・・・なんだよ?」
「いや、如峰月が私を心配するなんて・・・と思って・・・ふふふふ」
「お前の兄貴も伊月も、俺を何だと思ってる・・・」
「心配ないよ。」
「・・・」
彼女はいつの間にか俺の前を歩いていた。
「自分を情けなくは思うけど、、、譲れないものは分かってるから。大丈夫、、、決着付けるつもりだから。」
ただの迷惑な居候のくせに、、、そんな綺麗な何もかも悟りきった笑顔するんじゃねえよ。
その笑顔に引きつけられるバカな15歳のガキもいるんだけどな。
朝日奈楓の笑顔にすぐにやられてしまう重要NPCは本当に女の子の表情の変化に敏感すぎる。
「如峰月?」
「あ?・・・そっか、、、譲れないもの見つけたんか。とりゃ。」
「んあっ・・・何だぼうっとして、、、失礼だろう?」
いつの間にか伊月の顔が目の前にあった。
うわあ!?とか驚いて飛び退く程でもなかったので、取り敢えず押しのけとく。
ぎゃあぎゃあ何か言ってるのを放っておいて、軽く早歩きする。
「ちょっと待て、如峰月!」
「・・・ああ、もう。」
肩に力が入り過ぎな彼女を置いて歩き出す。
くそ、、、放っておいたら自分で自分をつぶしそうだ、伊月は。
本当に、後ろでぎゃあぎゃあいってる彼女は気分転換が必要じゃないかと思う。
だとしたら、、、ああ、ちょうどいいのがあったよな。
「乾杯!」
「「「「「「「「「「「「乾杯!!!!!」」」」」」」」」」」」」
川原のバーベキュー場を貸し切って、俺達新聞部は引退した三年生たちと一緒にバーベキューをしていた。
今日は夏休み最終日。
開業式の準備もあるのでと文化祭準備が一律禁止になっているのを利用して俺達新聞部は三年生の追い出し会兼文化祭準備終了お疲れ様会を開いていた。
「ぐっぐっぐ・・・ぷはあ!誰か酌をせんかい!ヒャハハハハ!」
「はいはい・・・古畑さん。焼酎ってそのまま飲むものなの?」
「水で薄めなきゃダメだよ!?・・・穂のちゃん先生、待ってられないからって本当にそのまま飲んでる!?」
「ぐびぐびぐび・・・瓶が足りねえぞお!」
「穂のちゃん先生、焼酎は瓶のまま一気飲みするものじゃないから!死んじゃう!」
乾杯の合図がなるや否や、すぐにおれ達と同じ机にいた穂のちゃん先生は酒呑童子と化し、手がつけられなくなった。
古畑さんが瓶を取り上げても、どこから取り出したのか缶ビールを水のように飲んでいる。
穂のちゃん先生は酒強いって聞いてて良かった・・・足りなくなったら暴れられそうだし。
「如峰月君焼けました、、、です。」
「お?早いな、サンキュ。」
もう肉やら飲み物やらは配ってあるので、俺達は自分の席の火だけを気にすればいい。
ういるるが焼いてくれたカルビをタレにつけ、ひょいと口に放り込む。
ぶるってくる旨さだ・・・バーベキューさいこ-。
俺は気分が良いまま、同じ卓のカップルに肉を薦める
「ほら、二人も今日ぐらいは仲良くしなさい。ういるるが折角焼き係してくれるんだ、ベストタイミングで食べなきゃ勿体ない。むぐむぐむぐ・・・」
「それより助けてくれ!」
新聞君と小陽ちゃんは今日も仲良く?・・・していた。
どうやら座ろうとしたときに肩と肩が触れ合ったらしく小陽ちゃんがキレたらしい。
懸命に小陽ちゃんを抑え込もうとしている新聞君の顔は恐慌に染まっている。
小陽ちゃんも新聞君に対しての行動が段々幼児化している。
新聞君がどさくさで手を握った瞬間、関節技。
話してる途中にいきなり、絞め技。
銀色に光るものは取り出さなくなったが、新聞君が接触するや否やすぐに手を出すようになってきた。
落ち着いたというべきか、寧ろ過剰になりつつあるというべきか・・・
「助けてよお!友達だろ!」
「命に係わらねえだけマシだろ?良かったじゃないか、美少女に殴ってもらえて。」
「確かに小陽ちゃんは可愛いが、殴る殴られるの関係はいらな・・・小陽ちゃん、落ち着いてッ!?」
「がるるるるッ!」
「ういるる、、、肉与えれば落ち着くと思うからお願い。」
「あ、はい。」
肉を与えることでようやく野生から帰って来た小陽ちゃんは他の卓の女の子に引きづられて、顔を真っ赤にしたまま移動していった。
新聞君が机になだれ込むように倒れこみ、ため息をつく。
生還できたことに余程安堵しているのか、、、いくらなんでも大袈裟だろう。
「ふう・・・」
「大変だねえモテ男は。ね?秀才型イケメン君。」
「またそういう言い方を・・・嫌味ならお断りだよ。」
そういって新聞君は網から焼けた肉を取って、口に含む。
「むぐむぐ・・・命の危機はなくとも攻撃回数は増えてるんだよ?」
「まあ頻度は低いが死の危険かちょっとしたことで爆発するのとどっちがいいかか。」
「どっちも嫌だ・・・なんで爆発するのか分かんないし、聞いたら顔を真っ赤にしてまた殴ってくるし、、、理不尽すぎるよ、ぼくの夏休み・・・むぐむぐむぐ・・・ガツガツガツ!うええええええんっ!」
「新聞君・・・泣きながら肉を食べないでよ。」
見るに堪えない
泣く彼のコップにフルーツ牛乳をついで、俺もついでにお代わりをつぐ。
副部長特権で買わせたが、、、生き返るほどの旨さだ。
自然の中で飲むとここまで旨いとは・・・
「肉とそれは合わないと思うぞ?」
「個人の嗜好だろ?好きにさせろよ。てかこんな時でもジャージの奴に言われたくないね」
「練習をしようとしていた私を攫ってきたのはどこのどいつだ?」
口に残る脂をぐいっとフルーツ牛乳で押し流していると、隣の席に座っていた伊月がようやく口を開いてきた。
気分転換になるだろうと無理矢理住所を聞き出し、今日はここまで引きづってきたのだ。
抵抗をようやく諦めた彼女は居心地悪そうに辺りを見渡す。
「なあ、本当に来てよかったのか?凄くアウェイな気がするんだが。」
「気にすんなって、幹事も新聞部の権力者達もいいって言ってるんだし。第一部外者とか言い始めたら穂のちゃん先生もそれに当てはまるし。」
ちなみに穂のちゃん先生は新聞部の顧問ではない。
新聞部の顧問は古畑さんが怖いから顔を一回も出さない幽霊顧問なのだ。
伊月は練習しなきゃいけないのに・・・とかそれでもぼそぼそ言い始めた。
まあ、時間たちゃあ少しは気が変わるだろうよ。
「うへーい!ブランデーはコーラと混ぜてコークハイにするんだぜえ!」
「それコーラじゃないよ!焼き肉のたれだよ!」
「・・・ぶごハア!?」
「ああ、、、ようやく席に着ける・・・如峰月少年、肉取っといてくれた?」
「え?こんなにあるんだからとっとく必要ないでしょ?」
肉は安さ重視でキロ単位で購入している。
既に腹一杯とギブアップしている方々もいるぐらいだ。
古畑さんはやれやれと首を振る。
「それでも取っておいてくれるのが優しさってやつだろう!部長し甲斐のない奴め・・・」
「うっわ、めんどくさ・・・」
酒呑童子ちゃんがようやく『沈』したので、古畑さんも席に着く。
彼女は俺達の話を聞いてたのか、疲れた顔をしながらも伊月に笑顔を向けた。
「めんどくさいって・・・あ、伊月ちゃん。こんな面倒なロリや酷い後輩みたいにならなければいくらでもはしゃいじゃって大丈夫だし。」
「び、ビールとジンジャーエールえお、まじぇるとシャンディーにぃ・・・」
「穂のちゃん、、、ジンジャーはジンジャーでもしょうがのチューブをビールにいれるのはマナー違反だよ?・・・如峰月、交代。」
「うい~、穂のちゃんおいで」
穂のちゃん先生から危険物を取り上げ、肉を食べてもらうことにする。
空きっ腹に酒がいいものとは思えんしな。
既に相当飲んでいるのか、本物の幼児みたいに目をこすって眠そうにしている。
「ほい、あ~ん。」
「あ~」
小さな口で差し出されたものをはむはむしている。
手にプレミアムな麦飲料を持ってなければ、小動物に餌付けしている気分を味わえただろう。
伊月がそんな俺達の様子を見てそわそわし始める。
「私も餌付けがしたい・・・」
「餌付け・・・流石に口に出すのは失礼だぞ。小動物扱いする子には餌付けはさせません!」
「如峰月君もなんだかんだで酷いね。」
「じゃあ、ういるるで我慢する。」
「!?私は小動物じゃありません!」
「・・・取り敢えず隣に座ってみ。」
ういるるを穂のちゃん先生の隣に座らせてみる。
あ、これは・・・
「「「「ぶふっ・・・」」」」
「な、なんですかその吹き出し笑いは!」
「いやだってこっから見ると、、、幼児が幼児の面倒見てるようにしか、、、」
「ありがとう、ちょっと元気出てきた。まったく小さい子は最高だぜ。」
「黙れ男ども。・・・うん、元気出して?」
「穂のちゃん先生との交渉材料になりそうだね、、、一枚ツーショットで撮っとこうか?」
「いい加減にしてえ!」
「ふえ?・・・よしよし。」
「せ、せんせえ~」
「「「「・・・(やっぱり幼児が幼児の世話してる)」」」」
ういるるが泣きそうになってるのを教師の本能か、穂のちゃん先生がよしよししている。
あんま苛めるのも酷だし話題を変えよう。
「そういや明日から学校だな~」
「明日から学校だな~」
「明日から学校だな~」
「明日から学校だな~」
「明日から学校だな、、、です」
「誰か話題つなげよ・・・」
協調性のない馬鹿どものために軽く話題を転がす。
「取り敢えず学園祭だろ?そしてすぐに確認テストか?」
「ああ、夏休みに学習を続けてたか調べるテストね・・・夏休みは小陽ちゃんに追い掛け回されすぎて勉強してないよ・・・」
「忘れてるようだけど新聞部も十月の新人大会に向けて準備しなくちゃいけないんだからね?」
「キーボードしばらく打ちたくない、、、です。」
「伊月ちんはどうなん?」
ういるるが漏らした言葉を普通に無視して古畑さんは伊月に話を振る。
ついでに無視されたういるるは幼女にまた慰められている。
話題を振られた伊月はというと、、、
「あ~、学園祭は同じ時期だと思う。」
「思う?」
「フェッシング部も10月ぐらいに秋季新人大会があるから、その関係で行事は参加しないで毎日練習なんだ。」
「ひえ~、かっつめだ~」
古畑さんがうちもそうする?と聞いてきたので俺とういるるは首を何度も横に振る。
新聞部はかなりダーティーではあるが、流石に行事の前日とかでも無い限り行事や試験を無視して活動をしたりはしない。
古畑さん的にはやろうと思えばできるけど、するメリットはそこまで大きくないそうだ。
「たいへんじゃない、、、ですか?」
「いや、一日練習を休むと取り戻すのに三日かかるから。」
「つっても周りの人間との交流とかあるし、イベントガン無視っていいのか?」
「交友関係はみなフェッシング部だから、困ったことは一度もない。」
「「「「・・・」」」」
伊月が普通のことを話している顔でとてつもないことを言っている。
ドンだけフェッシングキチで不器用なんだろう。
天才ではなく要領も悪いから人より多く練習を積む。
妥協することを知らないから人より少ない休みを取る。
一つのことしか目に入らないから人よりも余計な軋轢を生む。
「それはいけましぇんね~・・・ぐびぐび。」
俺達が掛ける言葉を探していると、少しは酔いがさめたのかドライな麦飲料をグイグイしながら穂のちゃん先生が伊月の太ももに座った。
伊月の太ももをぺしぺししながら彼女は話を続ける。
「たしかに~自分のしたいことへ集中することは大事でしゅ。でも~高校で得られた友人関係って意外と続くもんなんですよ?その機会を自分から捨てるなんてもったいないでしゅう。」
「高校で積み重ねた練習の効果は友人関係なんて脆いものよりも確実についてくると思うが?第一フェッシング繋がりで友達はいるし。」
・・・あのレズ集団は果たして友達と呼んでいいのだろうか?
どちらかというと伊月の恋人志望の方々といっていいんじゃないだろうか?
ま、とりあえず一つのことに集中していても友人はいるという伊月の反論だが穂のちゃん先生には効かなかった。
「ほんとにどいつもこいつも不器用ですねえ。ぐびぐびぐび・・・アルコール度数が足りないからハイボールを瓶のまま下さい。」
「・・・どうぞ。(止めるのを諦めた)」
「ありがとうございます、不器用一号君。」
「俺の名前は如峰月桜なんですが?」
「うるさいですよ?人が話してるのを邪魔するなんて、、、」
「・・・っ!・・・っ!・・・相手は酔っ払い、相手は酔っ払い・・・」
俺が左手を必死で抑えている間も穂のちゃん先生は酔っ払い口上を続ける。
「別にどう生きようが先生は構いませんよ、、、ぐびぐびごきゅり、、、でも、高校生でしか得られない経験を自分はこうだからとか変な枠に閉じこもる為に捨てるのは止めて欲しいって思ってるだけです、、、トイレどこですか?うぷっ・・・」
「ぎゃああああっ!?待って、穂のちゃん!私の方に向かないで!あと少し耐えて!」
「揺らさないで・・・うぷしゅっ。」
「いやああああっ!?」
古畑さんがロリを抱え上げトイレへと走り出す。
本当にあの人は・・・せっかくいいことを言ってたのと思ったのに・・・
まあ、それもいい所じゃないだろうか。
てか、そんな感じでまとめようとした所でフォローできない音が遠くから聞こえてきた
「うぼええええええええっ」
「ぎゃあああああああああああっ!!!???」
間に合わなかった。
何が間に合わなかったかって?・・・言わせんなよ。
取り敢えず帰って来た古畑さんが物凄く不機嫌だったので、皆で接待することになった。
三年生が引退することを惜しんで泣いた。
楽しいお別れ会だといいながら泣いていた。
三年生とは入った時期が時期なので一か月ぐらいの付き合いだ。
それでも
丸々一年以上共に過ごしてきた古畑さん率いる二年連中のように泣くことは無かったが、寂しく感じるものがあった。
何となく人と人との縁が大事だってことは理解できた。
「どうだった?」
「・・・」
人との付き合いが苦手な二人で帰り道を歩いている。
伊月はどことなく居心地が悪かったって顔をしている。
肉もうまかったし、フルーツ牛乳も楽しく飲めた。
でも、ちょっとだけ後味わりいな・・・
今度のバーベキューは人の涙が無いとこでしたいもんだ。
「ま、、、またやりたいって思えるぐらいには楽しかったか?」
「・・・」
伊月はずっと俺の言葉を無視したまま、俺の前を歩いている。
「伊月?」
彼女を送っているのは古畑さんに言われたから半分、心配だったから半分だ。
伊月は拾った枝をのろっ、のろっと振り降ろし、ぽいっと投げ捨てた。
「駄目だ・・・このままじゃあ駄目だ。」
「伊月?」
この街で彼女は腰を落ち着ける気が無いのか、常にジャージだ。
口を開けばフェッシングやろうとか、練習練習だと耳にタコが出来そうだ。
兄貴のことで落ち込んでることもあった。
それでも、、、彼女は剣に関しては俺に今まで愚痴をこぼしたことは無かった。
ずっと気を張って来たそれが、、、限界に達してるんじゃないか?
「カロリー取りすぎたな・・・体動かしたいなあ、今日は練習少しもしてないし。」
「はあ、、、何が言いてえんだ。ここは小説じゃなくて現実なんだ。言いたいことはストレートに言え。」
「なあ、如峰月?夏休み最後の思い出に決闘をしてくれないか?」
「・・・それで気が済むならな。」
言葉や楽しい行事でも彼女の心を安らげることはできないなら、、、望むことをさせてあげるしかないか?
伊月に連れられて古い洋館に連れてかれる。
「ここは?」
「伊月家の所有する屋敷の一つだ。」
「ツタの整理ぐらいしろよな・・・幽霊屋敷じゃねえか。」
「うるさいな、一応由緒正しい屋敷なんだ。伊月家にとっては。」
「そうかい。」
伊月がポケットから取り出した鍵で扉を開く。
バイオハザードみたいにぎぎいっと開かれる。
洋館の中は予想通り足を入れるだけでほこりが立つ。
女の子なのに彼女はそんなこと気にもせず奥へ奥へと進んでいく
「なんだよ、ここ・・・」
「ここは伊月家の人間が用意した舞台だよ。」
「舞台?決闘一つでえらく大層なことになるな。」
前みたいにフェッシングするようなもんだろ?
体育館でもいいじゃんかよ。
そんなことは言うのも野暮だからいわねえけど・・・
伊月が奥の部屋の扉を押し開く。
それでほこりがまた湧き上がり、せき込んでしまう。
掃除しとけよな、少しは・・・
「ここは頻繁に来てはいけない場所なんだよ寧ろ。」
「・・・?」
伊月が入るのに後からついていく。
そこは木張りの板が前面に敷き詰められた部屋だった。
一つだけおかしいのは、この屋敷は物凄く年季が入っているのにこの部屋の木板だけは少し前に取り換える機会があったらしく綺麗だったこと。
そして部屋の真ん中に長細い木の箱が二つあること。
伊月は迷うことなく箱の一つを取り、顎をしゃくってくる。
ああ、、、お前もとれってか?
「よっと、、、なにこれ重いんだけど?」
「防具は無いがいいか?」
「は?前と同じ決闘じゃねえの?・・・これは。」
妙に念入りに密封された木の箱を押し開ける。
・・・信じたくはなかった。
いつかこんなことが起こるんじゃないかって気はしてた。
でも、彼女が最も好きなものをこんなふうに台無しにするとは思えなかったから
俺はここに来たのに
でも現実は残酷だ。
現実は小説よりも奇なり
・・・中に入っていたのはレイピアだった。
抜かなくても分かる、、、刃挽きなんて一切されてない本物の武器だ。
感覚が鋭くなっている今の俺なら人を殺す武器特有の雰囲気だけでそれがそれだと分かる。
「おい、、、これ。冗談だろ?」
「そう見えるか?」
伊月が慣れた手付きで剣を引き抜く。
冗談じゃないことは顔つきですぐ分かった。
「抜け、如峰月」
「待てよ、、、そこまで本気になることかよ?」
「抜け」
「兄貴が負けたことの報復か?もう一度フェッシングを俺にさせたいからか?」
「ふう・・・ハアッ!」
「っつ!?力が強いッ!?」
彼女は一息つくと、俺に本気で剣を振り降ろしてきた。
側にあった剣が入った木の箱でそれを受ける。
その瞬間女性の力とは思えない力が全身にかかり吹っ飛ばされた。
「・・・箱が。」
本当に斬りやがった・・・真剣で。
伊月は顔色一つ変えることなく俺の元へ一歩一歩歩いてくる。
剣撃を受けた箱は真っ二つになっている。
俺の鋭い感覚が本当に危険だと全身に訴えかけ、肌がびりびりする。
「抜け、如峰月。言っただろう?これは決闘だって。」
「前の戦いは決闘っていわねえのか?」
俺の軽口に彼女はフフフと笑い首を縦に振る。
「如峰月が言ったんだろう?決闘とはお互いの譲れない意思がぶつかり合うこと。そして意思が強固で退かなかった方が勝つって。」
「へえ、、、ちなみに聞いていいか?こんな趣味の悪い決闘を仕組んだ伊月の意思ってやつをよ?」
伊月は一瞬言うのを『ためらった』。
でも、これは彼女にとってはよほど神聖なものだったのだろうか・・・
嘘はつくことは許されないと彼女は口を開く。
「私の願いは『これ以上情けない如峰月桜をみたくない』・・・だ。」
彼女が言っている言葉の意味が分からなかった。
でも彼女がこれまでかけてくれた言葉の中でも、心にここまでのしかかってくるのはこの言葉だけだった。
彼女が流す涙が憤慨の感情があふれた結果だから。
彼女の怒りが俺へとびりびりと届いていたから。
「これ以上不憫な貴方を見たくないんだ・・・」
恋焦がれた少女は自分の全てを犠牲にしてでも、恋する相手に乞い願う。
例え結果に血が伴ったとしても。
「」「」「」




