第5章サクラと一つの終着点part4
「ちょっと感動してしまった私の気持ちを返せ!」
「・・・ごめんなさい」
「謝ればいいと思っているのか!」
「じゃあどうすりゃいいんだよ!」
「知るか!」
「もう、、、困っちゃう!」
「本当に綺麗に締まらないなお前は!」
俺だって悩んでるよっ!?
アイスド・スライムを確実に仕留めきれるだろうと思っていたのに、まさかダメ押しの駄目押しをくらわしてもダメだったとはなあ。
せめてあの弱点っぽいとこまで『曇の階段≪ラダー≫』を出せればいいんだが、ホントの魔力切れでそこまで行くことが出来ないから、剣で一撃というわけにもいかない。
てか、足腰立たないぐらい魔力切れです。
これで俺にどうしろというのか。
シノンは俺の髪や頬をぐいぐい掴んだり引っかいたりと攻撃してくる。
「もう!、、、もう!せっかく、かっこいいとか思ったのに!・・・私はどうすればいいんだっ!」
「え?かっこいい?」
「耳だけはいいんだな!このキチガイめ!」
「あ、今言ったな!?言ってはならないことを!」
「なにをお!」
「やるかあ!」
「そんなけんかしてる場合じゃないでしょお!?」
俺達は現在、アイスド・スライムから逃げていた。
ほぼ魔力枯渇で足腰が立たない俺達を担いだコウ・レイペンバーが悲鳴を上げながら注意する。
てか、シノンがさっきから攻撃ばっかしてくるので正直きっちいです。
あ、、、玉蹴られた・・・
そんな中、俺達を担いでいるレイペンバーがすっとんきょうな声を上げる。
「あ!?適当に逃げてたらモルロンド伯爵邸の方へ向かっちゃってた!?」
「「何やってんの!?」」
本来護衛対象を連れていくはずの場所に、モンスターを連れて突っ込む。
これじゃあ、ただのテロだ。
既にモルロンド邸までは一本道となっており、今更引き返すことも出来ない。
「な、何だあれは!?」
「おい、つっこんで来るぞ!?」
モルロンド邸の門を守る門番が慌てた様子で左右に飛び退く。
住民がほとんど籠るか都市の外に出ている中、きちんと業務に励んでいるのは流石だが、すぐに逃げんなよ・・・
「もうどうにでもなれえい!」
レイペンバーは壊れてしまったのかヒャハハ!と叫ぶと迷うことなくモルロンド邸に突っ込む。
モルロンド邸の中では意外なことに、俺達パーティーの監察官の人とモルロンド伯爵の私兵がいた。
彼らはよく訓練しているのか、速攻で詠唱すると攻撃魔術を展開する。
「「「「「「「「「『紅蓮の炎よ、紅き光で焼き尽くせ』『ボム・フレア』!」」」」」」」」
無数の火球が高速でアイスド・スライムへと集中し、大爆発を引き起こす。
まだ、アイスド・スライムが出たという情報ですらあまり出回ってないだろうに速攻で最も有効な魔術を集団で使うとは、、、流石だ。
しかし、、、せいぜい削り切ったのは俺達が逃げている間に再生した分のみ。
俺達が攻撃した時とは違い、自分の弱点が露出しているのか、生存本能が訴えかけるのか体の硬度や防御が発展している。
いくら詠唱級といえども殺し切るには足りない・・・
「くっ、、、屋敷に突っ込まれたら、、、中にいる者たちが・・・」
監察官がくっ!と顔をしかめると新たな指示を出す。
「殺しきれないなら仕方がない!予定通り時間を稼げ!」
「「「「「「「「「『紅蓮の炎よ、紅き光で焼き尽くせ』『ボム・フレア』!」」」」」」」」
再び紅き閃光が爆発し、屋敷の前でアイスド・スライムを押し留める。
その間に、私兵たちの後ろ側へと駆けこんだ。
「大丈夫かい!?」
監察官が血相を変えた顔でこっちに駆け寄ってくる。
何でいるのかと突っ込む前に彼から質問される。
「ドン・クラークさんは!?」
「あ~、安全な場所にいるんで、大丈夫です。」
「ハハハ、そうか・・・なら、コイツをさっさと片付けよう。」
ほっと安心した顔を見せた彼は、アイスド・スライムの方を向く。
生命本能に従っているのか元は人間とは思えないほどただの化け物と成り果てたアイスドスライムは、既に原型を留めていないにも関わらず、未だに倒れることはなかった。
それどころか
「VOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」
「な!?氷柱が剣状になってきてる!」
魔法が『意味』を持ち始めてる・・・
アイスド・スライムの攻撃は今まではただの氷の塊ばかりだった。
しかし今、アイスド・スライムの攻撃は明らかな変化を生じていた。
周りをうくアイスド・スライムを守る氷の塊は氷上の盾に。
浮かぶ氷柱は氷の剣へと変わり、モルロンド伯の私兵へと向けられる。
この世界の魔法や魔術は理想を象徴する。
剣は攻撃、盾は守護の象徴。
『意味を持つモノ』は意味を持つだけで、、、ただそれだけで威力が増していく。
それをアイスド・スライムが使うという事は、、、その剣・盾が今まで以上に強力で強固なものになるよう更なる魔力が込められているという事。
「VO!VO!VO!VOOOOOOOOOOOOOO!」
「!?避けろ!」
監察官が詠唱級魔術が宙を駆けて来る氷の剣達に切り裂かれるのを見た瞬間に回避の指示を出す。
しかし、今まで攻撃に意識を向けていた私兵たちには急な変化についていけていなかった。
俺達も同様。
氷の剣群が俺達を刺し貫こうと迫る
「仕方ない、、、『炎よ拡がれ』!『炎よ立ち昇れ』!『守護の炎よ壁となれ』!『大炎結界<フレイム・バリケード>』!!」
監察官が手をかざした瞬間、巨大な炎の壁が俺達を覆い隠す。
その壁と氷の剣が衝突したのかガリリ、ギャリリと嫌な音が立つのが聞こえる。
「ハハハッ、なんて魔力だっ!?属性的にはこちらが有利なのに・・・術式構成からあんな魔獣の方が上のレベルってことか!?」
前にシノンが詠唱級魔術で炎弾の大群を弾いたり、凍らせたりしてみせたように属性的には相性が悪くても、術式構成が強力だったり膨大な魔力を込められていたりれば打ち勝つ。
監察官が練った炎の壁は難なく貫かれ、死の牙が俺達へと降り注ぐ。
「伏せろ、皆アァァッ!」
「グッ・・・」
「くあああッ・・・・・」
「いくらなんでも、、、、これは、、、、」
皆が屈む真上を死の凶弾が空気を抉って通り過ぎていく。
炎の壁で遮られて少しは弱まっているはずなのに、凶弾は勢いを弱めたようには全く見えない。
俺達は屈みこんで躱せていたけど、前線にいたせいで躱し切れなかった私兵たちが地面に倒れ苦しんでいる。
「・・・ここまでか。屋敷は放棄だ!撤退する!」
監察官が被弾したのか、頭部から流れる出血部を抑えながら指示を出す。
その時、屋敷からメリッサさんが飛び出してきて叫ぶ。
「お待ちください旦那さま!まだソーラ様が中に!」
「な、なんだって!?すぐに逃げろと言っておいたじゃないかッ!?」
「形見の小刀を取りに行くと聞かなくて・・・」
「クソッ・・・!?アイスド・スライムが剣の矛先を屋敷に!?」
アイスド・スライムが向ける氷の剣の矛先が暴走でもしてるのか、それとも狙ってなのか、徐々に適当になっていく。
そして、それらのうちの一本が屋敷の一本へと向かっていく。
「旦那様ッ!あそこはソーラ様の部屋です!まだ、中にいるはずです!」
「分かってる!・・・誰か、あれを防げる魔術師はいないか!金は幾らでも出す!」
監察官がうろたえた顔で周囲を見回す。
副官らしき人が申し訳なさそうに告げる。
「旦那様、、、皆詠唱級魔術を攻撃に使ったせいでろくな魔力が残ってないです。たとえ、万全の状態であったとしても詠唱級の盾を破る攻撃を防ぐなんて・・・」
「ソーラは血の繋がりはなくとも大事な私の娘で・・・恩人の娘でもあるんだぞ!くそ!誰もいないなら私が至近距離から火炎魔法をぶち込んでやる!」
「旦那様!ドン・クラーク領と同じようにこの地を主なき土地にするおつもりか!」
「!?・・・くう」
監察官が副官に諌められて、膝をつく。
・・・この人も既に魔力枯渇ギリギリだったんだろう。
そんな状態でも、大事な娘の為にすべてを振り絞ってたんだ。
・・・屋敷に向けられた氷の剣が発光を増していく
魔力を溜めているのか?
だとしたら、、、屋敷が全壊する恐れがある。
多くの人が失われる命を嘆くが、何も出来ない。
何故屋敷に向けて攻撃をするのかと誰かが泣き叫ぶ。
監察官が泣きだし、崩れ落ちる。
シノンが隣で歯ぎしりし、コウ・レイペンバーは残った命を優先しようと俺達を今のうちだと引っ張り始める。
誰も、、、余力がある人間はいない。
だったら、、、主人公として俺がこの状況を変えねえと・・・
俺の理想に魔力が答えを教えてくれる。
・・・え?
魔力が無いはずなのに、、、何で魔力が教えてくれてる?
てか何故、魔力枯渇で使える魔法がある?
しかも、この答えは・・・?
まあ、、、しょうがない。
体の奥底に眠ってるらしい『出してはいけない』最後の魔力に手を触れる。
少しぐらいなら・・・いけるはずだ。
「ネッ・・・「させませんよ」・・・アリア・・・」
雲を練ろうと突き出した手にはいつの間にか雲の鎖が巻き付いていた。
雲アリアが、いつの間にか幼女状態を解いて、俺に魔術を使って来ていた。
彼女は残念そうに首を振る。
「あなたが限界まで死力を尽くした時、、、それでも人を救わなければならない時、、、あなたがどうするかを確認するために、、、この魔術を開発しました。『曇の魔術ー人形』、、、結局あなたは自分の命をないがしろにすることが分かって、、、残念です。」
「アリア!今そういうことを言ってる場合じゃねえだろ!」
「黙りなさい!あなたがしようとしていること、、、それだけは絶対に許しません!」
アリアが一喝する。
その気迫に俺は気圧され何も言えなくなる。
そんなこんなな間にも剣の発光は激しさを増し、手が付けられなくなる。
「大事な人を救うためなら、、、あなたが心から愛した人のためなら、、、『それ』を許したかもしれません。でも、会ったことのない人の為に自分の命を懸けてまで救うなんて・・・あなたは何も変わってない!なにも・・・なにも・・・」
「サクラ!お前まさか、『触れてはいけない場所』から魔力を引き出そうとしたんじゃ・・・何をしてるんだ!そこから魔力を引きだせば、最悪二度と魔術が使えなくなるんだぞ!?一生、無能と蔑まれることになるんだぞ!?」
シノンと雲アリアが掴みかかってくる。
俺のじゃない魔力が教えてくれる、最後の賭け。
『自分の将来を犠牲にする大魔術』
たしかに俺はそれを躊躇なく使おうとした。
確かにアリアが言うように主人公的自己犠牲にただ酔ってるだけの薄っぺらい行動かもしれない。
確かにシノンが止めてくれと言っていた、助けられた人や残された人の気持ちを考えない行動かもしれない。
でもな
「俺は人の命が失われそうなときに黙って見ているだけの人間にはなりたくねえんだよ!『曇の支配権奪取≪ハッキング≫』!」
「サクラ、、、止めてくれ、、、」
腹の奥から無理矢理引き出していく、得体のしれない魔力。
一瞬使うのを躊躇うが腹を決め、雲の鎖へ染み込ませる。
白雲の鎖がどろどろした赤い血のような色に変わる。
「これは、、、私の雲を、、、奪おうとしている!?」
紅い血色雲の鎖が雲アリアを縛り、拘束する。
「なんて禍々しい魔力、、、幼女体にしてまで力を温存させたのに、、、振りほどけない!」
いつもより魔術の効果が高い。
本当に心を込めた魔力だからか・・・人生最期と心を込めた魔術だからか。
頭の中に雲アリアの魔術構造が鮮明に流れ込んで来る程、その魔術をコントロールできる。
術式の構成難度は想像を絶する高さだ。
一見では把握しきれないほどの魔術式がこの一体の人形に込められてる・・・
詠唱級とは術式の複雑さも魔力量も桁違いだ。
まさか、魔法陣級魔術!?
いや、、、アリアの魔力総量じゃこの魔術は発動しきれない。
数か月で魔力が数十倍にも膨れ上がるなんてこと、まずありえないはずだ。
可能性があるとすれば、、、
!?
「ぐ、、、ああああああああああっ!?」
「さ、サクラ!?どうしたんだ!?」
「か、、、身体の内側で、、、魔力が、、、暴れ回って、、、アアアアアアアッツ!」
「はあ、、、はあ、、、『曇の支配権奪取≪ハッキング≫』といっても、やってることは連結魔術と一緒。他人の維持・放出する魔力を使う魔術ですね?でも、、、他人の魔力を無理矢理使おうとすれば当然反動は出ます。しかも魔力枯渇状態で喰らえば、その反動は相当な激痛なはずです。」
「ぐ、、、、あ、、、、、」
「なんで、、、なんでお前はこんなに無茶をするんだ・・・」
腹の内側で禍々しい魔力が暴走して、指一本動かせない。
本来なら暴走から守ってくれるはずの魔力ですら、もう一滴も残ってない。
やっぱり出してはいけない魔力だったのか・・・俺の大事な部分が少しずつ壊されてく。
「サクラ!?肌が・・・」
痛みでかすむ目を向ければ、皮膚が黒く染まり、静脈が赤く発光し始めていた。
雲アリアが慌ててその様子を見て、、、手遅れだと首を振る。
「使ってはいけないんですよ、、、『それ』は。中の魔力がサクラを食い破る、、、」
「なんだって!?サクラ!気を持て!しっかりしろ!」
ヤバい、、、意識が飛ぶどころか、、、寧ろ鮮明になっていく。
限界まで高められていく感覚とそれに合わせてインフレーションしていく痛み。
あ、、、、あ、、、、このままじゃどこかで俺が壊れる。
なすすべもないまま、、、、俺は体の操作もできない。
呼吸はけいれんを起こし、皮膚は暴走魔力で波打つ。
怖い、、、、どこかで振り落とされる・・・・
俺を乗せた感覚という名の暴れ馬は、俺をさらに鋭敏にシ、限界までスピードをアゲテイク
ダンダン、アリアやシノンたちのコトバガ、ユックリキコエテ・・・
マリョク二カラダヲノットラレテイク・・・
アア、、、『ナニカ』ニ、、、カワッテイク、、、
「ばかやろうが・・・・・・・」
「ぶはあッ・・・・・はあ・・・・はあ・・・・・はああああああ・・・・・・」
気付いたら、ぜいぜいと深い呼吸を繰り返していた。
「「サクラ!」」
二人の少女が俺の体をさする。
その手はとても暖かかった。
冷たくなってた体の体温が少しずつ、、、戻っていく。
・・・元の時間軸にまで、感覚が戻ってきてる?
「間に合ったか・・・魔力を譲渡する龍族の秘奥だ。二度とあると思うなよ?」
ドン・クラークが真剣な目でこちらを見ていた。
彼が俺の前にいた。
「な、、、なん、、、、で、、、、」
安全なところにいろって言ったのに・・・
俺の手をググッと握りしめ、熱い魔力を注ぎ込んでくれながら、彼は俺に返答する。
「この屋敷にアイスド・スライムが近づくのを見たら、、、身体が勝手に動いちまってた。何でかは俺にもわからん。たまにあるんだよな、、、気付いたら体が動くこと。」
「ああ、ヤバい!剣が!」
「VOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」
俺の意識が完全に戻ったことを確認して、ドン・クラークは立ち上がる。。
彼の目線の先にはちょうど今、発射された氷の剣が。
「ソーラぁっ!?・・・・・・・・クラークさん!?」
「落ち着けよ、モルロンドの坊主。『狂竜化』。」
監察官が叫んだ瞬間、ドン・クラークがいつの間にか監察官の後ろに立つ。
そして消える。
それと同時に、氷の剣が砕けた。
屋敷は無事だった。
「久しぶりだが、、、寧ろ調子良いぐらいだ。これが最後の覚悟ってやつかねえ?」
ドン・クラークが屋敷の前に気付いたらいた。
彼が動いた跡が黒く焦げて、、、深い足跡が残されている。
なんて力と、、、スピードだ。
龍の鱗を身体中に生やし、手は完全に龍の物と化したドン・クラークは満足げに笑う。
「心が珍しく動いたな・・・俺はどうやらこの後ろにある『何か』を守りたいらしいな」
「・・・VOOoooo?VOOOOOOOOOOOOO!!!」
「おっ?怒ったか?ホレ!よっと!」
無数の氷剣がたった一人の人間へと集中していく。
恐るべきはそれを腕の一振りで、粉々に砕く超強力な身体強化。
いくら『内在型強化』を煉獄山でも完璧に発動できるぐらいの適正があるとはいえ、ここまで強力な身体強化なんて・・・信じられない。
「いち、、、に、、、も少し上げねえと、、、近づけないな。」
ドン・クラークの魔力量が更に押し上げられる。
魔力がバーナーのようにゆらゆら上がり、龍の鱗がさらに全身をまわる。
目の形が獣のように流線型へと変わっていき、目の色が紅に。
「『狂竜化・二段』」
消えた。
その光景を腦が理解できず、皆の思考が一時止まった。
カシャンとガラスが砕ける音がして、ようやく思考が回り始めた。
皆が見上げた時にはアイスド・スライムを守っていた氷の盾が砕けていた。
砕けた盾の先にはべこんべこん、ひとりでにへこんでいくアイスド・スライム
「最高だッ!今日は『二段』でも意識を保ってられる!」
その姿は見えない。
目で追いきれない。
音が聞こえた所を見れば既に彼の姿が無い。
音速で辺りを飛び回りながら、拳を撃ち込みまくっているようだ。
「VO,,,VO,,,」
アイスド・スライムの体がひとりでに痩せ細っていく。
べこんべこん縮んでいき、一気に弱らせていく。
ドン・クラークがどこにいるかを目では追いきれない。
「ふへえ・・・ただの拳で詠唱級以上の威力か。」
コウ・レイペンバーがあれは反則だろ・・・と自分の反則能力をさしおいて呟く。
シノンが俺の頭ををぎうぎう抱え・・・絞め上げる中、ドン・クラークは再び姿を現す。
「ふう・・・きっつい。『二段』で消しきれないとか、なんて生存力だ。」
ほぼ俺のイメージ通りの龍人の姿で彼はそこに立っていた。
その拳は鉄を抉り
その足は空気を切り裂く速さ
高ぶる魔力は大地を揺るがす
弱ってる今の俺にはあまりにもその姿は眩しすぎた。
「VOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」
最後の抵抗なのだろう。
アイスド・スライムは全身を隠すほどの大盾を何十枚も生み出す。
そして、全身を覆う大兜を呼び出す。
徹底的な守りに入って回復の時間を稼ぐ気だな・・・
「キリがねえか・・・時間もねえし・・・しょうがねえ。『狂竜化・三段』」
全身の鱗が濃く深く刻み込まれていく。
「う、、、、アアアアアアアッ!?」
顔の形から揺らぎ、動き、変化を重ねていく。
骨格が、揺らぎ、動き、変化を重ねていく。
ドン・クラークは悲鳴を上げ、転げ回る。
それ程の激痛か・・・と、彼の普段を知っている俺だからこそ理解できた。
普段絶対見せない姿を周りに見せた彼はよろよろと立ち上がった。
その姿は、、、人ではなかった。
顔は既に龍頭に。
尻尾がドシンと地を打つ。
「ヘエ、、、マダ、リセイガノコルカ・・・モウホボ、マモノダッテノ二・・・」
それなのに、、、彼の眼にはまだ理性が残っていた。
片言の言葉だが、、、どれだけ人から離れても、、、彼は人だった。
彼はやれやれだと首を振ると、龍のかぎづめで重装備のアイスド・スライムを指さす。
「イマハマダ、リセイガノコッテル。『キョウリュウカ』ハ、、、サイアク、、、マリョクノコカツマデボウソウスルキケンガアル。ダカラ、、、コレガサイゴダ。」
彼は空を向き、最後の詠唱を始める。
「『オユルシクダサイ』『アナタガタヲ、モホウスル』」
史上最悪の犯罪者とまで呼ばれた彼が、たった一人の会ったこともない少女の為に詠唱する。
「『コノワタシノ』『アサハカサヲ』」
命を削って、心を砕いて
「『デモ』『コレダケハ、イワセテクダサイ』」
最後の詠唱を完成させる。
「『ココロハツネニ』『アナタガタノモトニ』」
大口を開ける彼の咢に強烈な発光を伴い、高密度の魔力が集中する。
「『アッタト』」
『義龍の咆哮≪ドラゴン・ブレス≫』
龍の最大最強の切り札であり、龍人程度が本来は使える技ではない。
それでもその威力は、、、折り紙付きだ。
真っ白に光り輝く一条の光線は高熱を伴って、あっさり貫く。
アイスド・スライムは沈黙し、、、鎧、盾が一瞬で溶け落ちる。
「ナゼ、、、、、ソンナ、、、」
その一言をぽつりと呟くと、、、アイスド・スライムは地面へ墜落した。
皆の視線が嫌というほど集まる中、、、核はカシャンと砕け散り、、、その目から光が消えた。
皆がその瞬間を見て安心した。
ほっと、、、自分の命が助かったことに安堵して息を漏らした。
そして勝鬨の咆哮を上げた。
「「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」」」」」」」」
私兵たちが大袈裟に飛んだり跳ねたり。
監察官までそれに混じって大騒ぎしている。
ドン・クラークはそれを見て、やれやれと首を振る。
「タク、、、タスカッタトタンニ、オオサワギシヤガッテ・・・」
本当なら混じりたいところだが、俺はシノンに一歩も動けないように頭をがっしり抱きしめられていた。
てか、鎧が痛いんで外してくれませんか?
仏頂面になってるシノンに声をかける。
「あのさあ、ちょっとぐらいなら動けるから混じってきていい?」
「だめだ。」
「・・・せめて顔にギリギリ当たってるこの胸鎧外してくれません?それからなら、いくらでもこの状態でいていいから。」
「・・・ふんっ」
「痛い!痛い!ごめん!ごめん!」
ミシミシ締め付けられていると、雲アリア(ようじょ)が近づいてきた。
「あなたが術式をめったくちゃにしたせいで、もう身体を保てなくなってきまちた。もうそろそろおわかれでちゅ。」
「今度はお別れを言ってくれるみたいで嬉しいよ。」
「嫌味でちゅね・・・男のくせに。」
「そうだよ、俺はネチネチ責めるのが好きな嫌な男だよ。」
雲アリアちゃんはそんな俺をニヤニヤしながらぽんぽんと叩いてくる。
わ、うぜ・・・
「何でちゅか~?師匠がいなくてさびしかったんでちゅか~?心配しなくても、私の『魔術の終着点』・・・いや、『曇の魔術の終着点』が完成したらあなたに逢いに来まちゅよ。」
「曇の魔術の・・・終着点?めっちゃ俺に関係あんじゃん。え?今どこまで分かってんの?」
「内緒でちゅ。ま、一応は免許皆伝あげてるんだからあなたが自分で気付くんでちゅね。」
「・・・まだ、分かってすらないんだな。」
「な、、、、なんでそうなるでちゅか!?わっ、分かってまちゅよ!もう、机上の空論レベルでは出来てるんでちゅっ!
「「き、、、机上の空論・・・」」
俺とアリアはもう一生会えないんじゃないだろうか?
シノンがぎうっと締め付ける力を強めてくる。
「・・・もしや嫉妬してます?」
「シネ・・・ふんっ!」
「いたたったたたたたたた!おい、マジで体ボロボロなんだからやめてくれ!肋骨もまだボッキボキなんだからなっ!」
「ふんっ!」
シノンさん、まじめんどくせえ・・・
雲アリアはその様子を見て大声で叫ぶ
「じゃあ、わたちも失礼しまちゅ!そこで一生イチャイチャしてればいいでちゅ!」
「お前、こういう時だけ火に油を注げるやり方を心得てんな!普段は全く空気を読めないくせに!」
「な、、、何でちゅか!その言い方!もう、、、さよならでちゅ!」
「ああ、寂しくなるな!元気そうでよかったよ!」
「・・・・っ、、、、このバカ弟子っ!」
アリアがしゅうっと白雲になって、、、アリアの魔力を残り香に変えて消えていった。
・・・ま、元気でやってんなら良かったよ。
すぐにまた会えることを期待してるよ。
俺も新しい仲間をアンタに紹介したいし。
それにしても、、、、『曇の魔術の終着点』?
なにをもって、奥義とするんだろう・・・ギリギリギリギリギリギリ切り着r義理rギリギリ切りいりギリギリギリギリ切りg理切り着入り切りギリリリリイりりぎ井桐井ギリギリ切り着rギリギリ意義ギリギリ着入り切り着入りギリギリ着r着入りぎりぎりぎりぎりぎりぎいりぎりぎりぎりいぎりぎりぎりぎいりぎりぎいいりぎりぎりぎりっぎりいぎgりいぎいぎりぎりぎいりぎりぎりぎりいぎrrgりいぎりいぎりぎりっぎり・・・
シノンが冷たい目で俺を見降ろしながら、強く俺の頭を締め付ける
「シノンさん、ギャグでは済まないぐらい・・・本当に痛いんですけど・・・俺、何かしました?」
「別に・・・」
シノンさんの機嫌が直ってから、自分でも探してみよう。
雲アリアが消えるころには、大分周囲も興奮が収まっていた。
シノンも取り敢えずは落ち着いたようで、ようやく解放してくれた。
ちょっとへこんだかもしれない頭をさすっていると、遠くから歩いてくる二つの影。
サニアがゆっくりと歩いて来て、サニアに支えられて歩くのは・・・スカイだった。
「「スカイ!」」
ゆっくりと歩く二人だったが、その二人は何か急いでいるようで・・・?
「スカイ、目が覚めたのか!?体はもう大丈夫なのか!?」
「そんなことより、あの牢獄にいた小僧はどこじゃ!」
「そんなことって・・・大事なことだろ?」
スカイはああもう!と髪をかきむしると、俺の胸ぐらを掴んで揺さぶってくる。
「で!?あいつは『何段』まで使ったんじゃ!?」
「ぐあっ、、、、サニア!こいつはいったいどうなってんの、、、、やっ!」
なんとか彼女を引き離して、サニアに事情をきく。
「いや、、、スカイおねえさんが、いきなり龍の魔力を感じるとか言って目覚めて、、、止めたけどどうしても行くって聞かないから・・・」
「それより、あのバカは何段まで使ったのじゃ!」
「えと、、、『三段』だったよな、シノン?」
「ああ、見事だった。特に最後の『義龍の咆哮≪ドラゴン・ブレス≫』は正直身震いした。何故、あんな単純そうな術式構成なのにあれだけの威力を秘めているのか・・・不思議だった。」
「さ、、、『三段』?しかも、、、ブレスまで?」
それを聞いて、スカイが頭を抱えてしゃがみ込む
あわててその横へと駆け寄るが、体が弱ってふらついたとかではなさそうだ・・・
耳を澄ますと、何かぼそぼそ言っている。
「あのバカ、、、精神が暴走した状態で『義龍の咆哮≪ドラゴン・ブレス≫』使うか、普通・・・どれだけの被害が街に出でていることやら・・・都市の半分?いや、『三段』に至る前にも暴れただろうし、都市の四分の三は使い物にならないことを覚悟か?そうなると、龍会でどやされるじゃろうなあ・・・」
「いや、意外と意識保ってたぞ?意識あるって言ってたし。」
「・・・あやつ程度の魔力じゃ無理じゃ。最低でもサクラ十人分の魔力量でもないとな。」
「いやでも、確かに・・・」
その時、随分静かになった喧騒が再び大きくなった。
「な、、、なんてことを、、、ソーラ。」
俺は監察官の声がした方向へと前の私兵をかき分けながら近づいていった。
「義父様の敵よ・・・私の義父様を・・・領主から追い落として・・・街の皆を皆殺しにしたその報いよ!」
「お前を守ってくれたんだぞ!」
「そんなこと誰も頼んでないわよ!」
「ソーラ、、、お前という奴は・・・」
何の話をしてんだよ・・・
止めろよ・・・まるで・・・ドン・クラークが殺されたみたいな言い方してんじゃねえよ・・・
何の為にここまでやって来たと思ってんだ?
どこか懐かしい女の子の声と監察官が言い争う声がする方へとついにたどり着く。
取り敢えず、、、現状を確認しねえと。
「どいてくれ!・・・!?・・・朝日奈・・・楓?」
バイパスを通じて桜が精神をガンガンぶらすのを感じる。
そりゃそうだ。
私兵に囲まれたその少女は、高価そうなワンピースを着て、、、例え手には血で赤く染まった小刀を持っていたとしても、、、声も顔も背丈も雰囲気も、、、彼女その物だったのだから。
返り血を浴びて、達成感に微笑む彼女は、、、あまりにも綺麗で妖美だった。
あまりの驚きに息も出来なくなる。
「桜・・・抑えてくれ・・・ここは現実じゃない・・・」
桜から魔力を限界までもらってなかったら、、、乗っ取られていたかもしれない・・・
それぐらい、桜は暴れ回っていた。
-何故、朝日奈さんがここにいる!?こんな危険な世界に!?
-おまえら、朝日奈さんを手荒に扱うな!
そんな桜の強烈な思念を伴う想いに心を囚われそうになる・・・
でも、今一番大事なのはそこじゃないだろ!
桜を一喝して取り敢えず落ち着けると、ドン・クラークを探す。
ドン・クラークはすぐに見つかった。
監察官が泣きながら抱きかかえてるんだから。
彼は背を斬られたのか、深く刺されたのかは分からないが、大きな血だまりを作っていた。
俺の後から来たサニアが慌てて近寄り、事態を把握したのか治癒魔法をかける。
「『回復灯』・・・なんで!?魔力が体に入らない!?おにいさん!これじゃあ傷を治せないよ!」
サニアが焦った顔でこっちを見て来る。
ドン・クラークはそんな俺達の様子を視えてないのか、ぼうっとしてる。
出血のせいで意識が混濁してんのか!?
「おい、ドン・クラーク!しっかりしろ!しっかりしろよお!」
「無駄よ・・・『回想刀』で斬りつけたもの。この刀は義父様の形見・・・斬りつけたものに今までの人生を全て振り返らせる魔道具!忘れたことまで思い出させるこの魔道具で、お前の罪を一つずつ数えてこい!そして悔やみながら死んでしまえっ!」
「お前、、、なんてことをしやがるっ!」
ここまでどれだけの後悔を重ねてドン・クラークが生きてきたと思ってんだ・・・
それを無理矢理回想させるなんて・・・あまりにも残酷すぎる・・・
しかも、アンタは命を救われたんじゃなかったのかよ・・・
朝日奈楓の顔ではあるが、、、言ってることは、、、どこまでも、、、残酷だ。
「死ぬ直前まで、、、今まで殺した人たちの、、、怨嗟の声を聞くがいい!」
「てめえ!その顔でそれ以上口を開くんじゃねえ!・・・!?桜・・・お前・・・」
思わず殴りかかろうとした俺の前に桜が青白い光を伴い顕現する。
・・・そんな、俺が発動したわけじゃないのに。
何で発動してんだ?
てか、桜は何で彼女を守ろうとするんだよ・・・
殴りかかろうとする俺の前に立った桜は朝日奈楓の外見を持っただけのただの少女を庇っていた。
まるでそれが当然であるかのように・・・
「退けよ、桜・・・一発殴んねえと気が済まねえんだよ・・・そいつはただ外見がそっくりそのままなだけで、朝日奈楓じゃねえだろ?」
「・・・・」
桜は無言で俺の前に立つ。
「「・・・っつ!?」」
気付いたときにはそれがさも当然かのように、桜は床に落ちてた剣を拾い上げ、俺は剣を抜いていた。
そして、どちらからともなく足を踏み出し
「やめねえか!」
「!?・・・ドン・クラーク?」
鍔迫り合いをするギリギリのところで、ドンクラークの声がし、立ち止まる。
剣を放り投げ、すぐに彼の元へ向かった。
ドン・クラークは俺の顔を見るなり、ぺシンと小突いて来た。
「お前はちったあ冷静になりやがれ・・・女に殴りかかるもんじゃねえぞ?」
「冷静にって・・・アンタ分かってんのか!?自分の現状!」
「ああ、もうすぐ死ぬな。」
「クラークさん!家には一応優秀な魔法を使わぬ外科医もいます!今は都市の外へ避難させてますが、呼び戻せば!「後十分ぐらいで着くのか?」・・・うう。」
監察官がフラフラと後づさり、しりもちをつく。
そりゃそうだ・・・守りたかった娘がまさか恩人を殺してしまうなんて・・・誰が思うものか。
そんな彼にドン・クラークは語り掛ける。
なんでだろう、、、彼はあれだけ自分の人生を振り返るのを怖がっていたはずなのに、、、寧ろ、『後悔が一切なくなっている』
「なあ、モルロンド、、、もし、俺に恩義を感じてるならティレ・・・いや、ソーラを無罪放免にしてやってほしい。」
「ううううっ、、、え?」
「はあ!?なにいってんだ、アンタ!あんたにとって一番残酷な殺され方したんじゃねえのか、アンタは!?」
「サクラ、、、落ち着けって。お前に言っときてえことがあんのよ。」
彼は妙に落ち着いた顔つきで、俺の手を握る。
「んなこと行きかえったら聞く!」
「サニアが今、治癒魔法かけてっから!」
「駄目だよ、、、身体中を禍々しい例の魔力が駆け巡ってっから・・・他の魔力を弾くんだ。お前はちょびっとだけだったからまだ大丈夫だったが、、、俺はもともと魔力枯渇だったから、、、『狂竜化』で使う魔力全てを、、、それで補ってたんだ、、、」
「!?あんた、、、『あの』魔力を使ったのか?」
俺の手を握るドン・クラークの肌は、真っ黒く染まり、静脈が紅く光っている。
俺と同じように、あの時、体の奥底に眠る『出してはいけない』最後の魔力を使ってたんだ・・・
じゃあなきゃ、『狂竜化・三段』で意識を保ってられるはずがない・・・
生命全てを犠牲にして初めて出せるこの魔力は、ほんのちょびっとの量でも同じ量の魔力の何十倍の効果を発揮するけれど、、、使い過ぎれば、、、中から喰い破られる・・・
ドン・クラークの黒紅化現象は首にまで既に進行していた。
肌をボコボコ波打たせながら、彼はにこりと微笑む。
「なんで、、、こんな無茶したのか・・・ようやく分かったぜ。あの『回想刀』とやらのお蔭で・・・」
左顔まで黒紅化しながらも、彼は壮絶な痛みがあるだろうにそれをおくびにも出さず俺に告げる。
「今は納得できねえかもしんねえが、、、ソーラを攻撃する前に、、、俺の元いた城に、、、俺の心臓に埋まってる二つの龍応石を持って向かえ・・・全部わかるから。」
「・・・わかった。」
彼の本気具合が俺の手を握る力から分かったので、取り敢えず約束することにする。
彼はそれを聞くと、、、安心したかのように笑い、、、今度はソーラを向く。
「ティ・・・ソーラだったか?いろいろ悪かったな。」
「お前に、謝られたからって何が変わる!」
「そう、、、だな。でも、、、礼を言わせてくれ。」
「!?」
ソーラが噛みつくような口調で何かを言いかけ、、、そしてやめる。
「君のお蔭で、、、俺は自分のしてきたことが、、、すべてエリーの望んでたことだって分かった。君が俺を殺さなかったら、、、俺は死ぬ直前まで、、、苦しんでいたろうから、、、」
「は、、、、はあ?なにを、、、いってるの?殺されて、、、しあわせ?思い出した記憶の何が、、、そう言わせるの?」
ソーラがガクッと膝をつき女の子座りになる。
彼女はもう何もする気力がないのか、呆然としている。
「君の母親は冬になると、よく体を壊してた・・・元気にやるんだよ?」
「クラークさん?ソーラは元は捨て子だったはず・・・」
監察官が彼の言葉に疑問を投げかけるが、それにこたえる時間はもうなかった。
黒紅化は全身へと及び、遂に彼の体を赤のラインが埋め尽くす。
「ああ、エリー。君の望むことをしてあげられて良かった・・愛した女性に望むもの全てを捧げる事は出来なかったけど・・・」
ぷちん
最も嫌われもっとも好かれた人間、ドン・クラーク。
一人の女性の為に人生の半分を費やした彼は
こうして人生を終えた
第五章終了。第六章は現実パート。




