第5章サクラと一つの終着点part2
シノン回
人のいない道を駆け抜ける。
サニアの治療魔法は姉の目線であるが完璧だった。
腹部を刺されてまだ一日しかたってないというのにドン・クラークは私の走りについてきている。
恐ろしいホントに二年間幽閉されてたのか?・・・そう思える走りだった。
もしかして・・・ドン・クラークの身体強化まで『黒曇衣≪コート≫』で強化しているんじゃないだろうな!?
もう随分離れているんだぞ!?
「ドン・クラーク!もしかして・・・」
「ああ、そのまさかだ!あのバカ、戦闘しながら俺の体の治療と身体強化をしてやがる!それも有り得ないほどの魔力で!」
・・・どれだけ魔力を無駄にするつもりなんだ!?
そもそも全力で走れるというこの状況かも異常だ。
本来なら他の暗殺者を警戒して隠れながらモルロンド伯爵邸へ向かわなきゃいけないのに、他の暗殺者は全く影形を見せない。
サクラの曇の魔術は本当に異常だ。
黒雲をあっという間に都市中に広げたかと思えば、無数にいたはずの暗殺者を一瞬で無力化してしまった。
自然界に存在する火や水などの属性とはかけ離れている力、、、おそらく固有属性だろう。
もしかしたら、、、父と同じく『種の属性』なのかもしれない。
となると・・・大丈夫だろう。
いくら化け物ぞろいの上級冒険者が相手だとしても、種属性持ちなら大丈夫なはずだ。
それだけの力を種属性保有者は持っていることは父に育てられた私が一番分かっている。
そう、、、いずれかは敵となるその力を私は一番よく知っている・・・・・・・
「嬢ちゃん!周りを見てみろ!」
「!?」
ドン・クラークに声をかけられていつの間にか考えに没頭してしまっていたことに気付く。
慌ててあたりの様子を確認する。
「!?・・・・・・・・・・・・・・?暗殺者が出たかと思ったが、何もいないじゃないか。」
そういってドン・クラークを睨みつけると、彼はもどかしげに、、、いや、彼にしては珍しく焦ったような表情を浮かべていた。
「バカ!黒雲だよ!都市中を埋め尽くしていた黒雲が薄くなって消えかかってる!」
「・・・な!?」
言われて辺りを見回してみれば、いつの間にか街の中の黒雲が消え去っており、街は昼の明るさを取り戻していた。
この状況は、、、確か、、、サクラが言ってた、、、
昨日の夜、サクラと二人で話し合っていた時のことだ。
有り得ないことだと思うが一応知っておいて欲しいとサクラが話を切り出してきた。
「俺の黒雲は基本的には空気中の魔力で膨張していくけど、それを集める核は俺の魔力によって維持・操作されているんだ。」
「有り得ない、、、とはどういう事だ?」
「俺の魔力量は他人の云十倍だし、桜からもらえる。第一、本質能力が目覚めてから一度も魔力枯渇になったことが無いからな。」
「羨ましいな、それは・・・私は旅を始めてから魔力には悩まされてばかりだ。」
「まあ、、、使いまくってりゃいずれは成長するだろ?てか、それぐらいは魔術を使うものにとっては常識じゃねえか。」
「・・・っ!?そ、そういえばそうだな。」
まずい、、、知られてはいけない部分に踏み込みそうになった。
彼とスカイを巻き込まない為にも、私たちの秘密は出来る限り話さないようにしているのだ。
最悪の場合、国一つを相手取ることになるのだから。
サニアのような口のうまさが無い私は、取り敢えず話題を逸らすことにする。
不思議そうな顔をしている彼は意外と頭もいいので、感づかれてはまずい。
「っで!、で!魔力の残量の心配がないなら、どうしてそんな話を私にするんだ?」
「ん?何焦ってんだよ?シノンらしくない・・・ああ、その話な。今回の場合もしものことも想定したかったからさ。俺の体はサクラも含めて、二つしかないし。」
良かった・・・不思議そうな顔をしてはいるが、特に気にしてもないようだ。
まったく、普段はキチガイなことばかりを平気でするわりには、どこかの専門機関でしっかり学習でも積んだのか教養の良さを見せられる時がある。
下品にセクハラをかましてくるときもあるが、それでも平民のわりには他の男冒険者共より品もあるし。
本当に不思議な奴だと思う、とても良いやつだと思う。
まだ共に過ごした時は短いが、欠け替えのないのない大切な仲間だと思う。
「俺が本当にヤバくなった時のシグナルになるからさ。」
思い付きで突拍子な行動を取ったり、唐突な話を切り出してこさえしなければ。
「な、どういう事だ!?」
「いやな、俺がコウ・レイペンバーをどうにかし次第、スライム使いに向かうけど結構格上っぽいからさ・・・アリアが本気出した時と同じ匂いがするから。」
「・・・それで?」
「俺が考える最悪にヤバすぎる状況を先に教え解こうと思ってな。」
「最悪にヤバすぎる?サ、サ、サクラがそんなことを言いだすなんて、、、」
私の言葉を聞くと、サクラは俺だって人間なんだぞ?キチガイなんて呼ばれてるが・・・と笑われてしまった。
それもそうだが、、、サクラが怪我をする姿は想像できても、負ける姿は想像がつかない。
固有属性持ちとはそれだけの存在なのだから。
「一応曇の魔術は俺が核へと常に魔力を放出していくことで維持されてるんだ。つまり、俺に何かあったらその維持が揺らぐことがある。」
「維持・・・」
「大体優先順位の高い雲は、出来る限り維持するつもりだけど・・・魔力が足りない状況になったら、それが薄くなったり、、、最悪消えちまうから。」
「そんな、、、そんな後ろ向きでどうする!?守れるものも守れないぞ!・・・ッツ!?」
私が声を荒げ、詰め寄るがサクラはバッと片手を上げ私を制した。
その顔は、、、ドキッとしてしまうぐらい真剣だった。
サクラのくせに、、、生意気だ。
「最悪の場合を知っておくだけでお互い動きやすくなる。・・・来もしない援軍を待って無謀な戦いをすることは命の危険を伴うからな。俺の救援が来ないかもしれないってわかってた場合、すぐに逃げろよ?あのスライム使い相手じゃ、現状詠唱級二回でぶっ倒れちまうシノンじゃ勝ち目はない。」
確かに、、、現状の私ではサクラの援軍なしではスライム使いには勝てない・・・
だけど、それ以上に今のサクラの言葉には納得いかない箇所があった。
「もし、、、もしそんな状況になったら、お前はどうなるんだ?今、サクラは自分の身に危険が訪れたと分かった場合、自分の救援に来てほしいじゃなくて、、、自分を見捨てて逃げろという言い方だったな?」
「・・・そうだな。そのニュアンスで間違いないな」
「っ!?」
思わず剣を抜いて突きつけていた。
サクラはそんな私を見ても微動だにしなかった。
・・・なんでだ?
なんで、私はこんなに話すのが苦手なんだ!
彼に言葉を、、、投げかける言葉がいっぱいあるのに、、、先に手が出てしまう。
「私たちは、、、お前は、、、なかま、、、」
「まだ数日。まだ数日の仲。しかも、中級冒険者試験の間の仮契約だろ?そんな熱くなんな?な?」
「私は、、、お前はキチガイで、、、ひどいやつだけど、、、それでも、、、」
上手く自分の想いを言えない自分が憎い・・・
そして、自分を見捨てろって言ってしまうコイツは・・・もっと憎い。
自分でも知らない間に魔力がこぼれ出していき、空気が波打ち始める。
攻撃的な魔力がサクラを打ち付けるが、、、サクラはそれでもただただ私をじいっと見つめていた。
「サニアはどうする?」
「!?」
サクラは私がひるんだ瞬間に剣を払いのけ、私の手首を掴んで引き寄せた。
ち、、、力が強い訳じゃないのに、、、引き離せない。
「は、、、離せ、、、」
「しっかりしろ!お前の理想を一時の感情でぶらすな!」
「っっつ!?」
サクラは私を怒鳴りつけると、手を離した。
私はそのまま崩れ落ちる。
サクラはそんな私の姿を見ると、今までの剣幕が嘘のように慌てた様子で駆け寄って来た。
「悪い!シノンは強いから、、、少しぐらいなら大丈夫かと思って・・・」
・・・いつもの感じだ。
・・・腹が立つぐらいいつもの感じだ。
こっちはこんなにも腹がたっているのに・・・
「うるさい!私だって女なんだ!なにが強いだ!この!この!」
「ブハッ!ちょ、シノンさん!?剣の柄でボコボコ鳩尾殴んないで!?・・・ガはっ!いや、顔を殴れって意味じゃ・・・・ブホッ、ヒギャッ、ジョジョっ!?」
馬乗りになり、全力でサクラを殴っている。
言いたいことがあるのに、、、今の私は伝えたい言葉をまとめて、、、そして伝えたい言葉を拳、、、に乗せるつもりで剣を振り降ろす。
・・・ああ、父に剣をむやみに使うなといつも言われていたのに。
何故、サクラにはこうも簡単に鬱憤晴らしの道具として使ってしまうのだろうか?
「うるさい!黙って殴られろ!このこのっぉ!キチガイのくせに!セクハラ野郎のくせに!自分を大事にしないならいっそ私が殺して・・・」
「おい、剣先!剣先を顔に向けんな!殺す気か!」
「殺す気だあ!」
「やめて!ちょ、マジで振り降ろす気か!死ぬから!『黒曇衣≪コート≫』は頭の装備はないから、ガチで死ぬッ!?」
「お前を殺して、私も死ぬううぅぅぅっッ!」
「ちょ、ガチかあ!?『曇の網≪ネット≫』おぉぉぉぉッツ!」
「「はあ・・・・はあ・・・・・はあ・・・・」」
『黒曇衣≪コート≫』から飛び出した雲の塊が剣を絡めとり、剣先をずらしてくれたみたいだ・・・
気付いたときにはサクラの顔から一ミリ離れた場所に突き刺さっていた。
私の溢した汗が、ほおをを伝い、顎を伝ってサクラの顔に落ちる。
サクラの目の近くに落ち、彼は一瞬目をつむり、そしてサクラは再び目を開き、ごくりとつばを飲み込む。
「「はあ・・・はあ・・・・はあ・・・・」」
これは・・・どうするんだ?
自分でしておきながらだが、サニアほど世渡りが上手くない私は・・・この後どうすればいいか分からない。
てか、何、勢いに任せてサクラを殺そうとしているんだ私は!?
取り返しのつかないことを私は彼に・・・
「シノン、落ち着いたか?」
「へ?あ・・・」
「しッ、シノンさん!?」
あ、、、、あ、、、、、あ、、、
力が抜け、彼の体の上に崩れ落ちてしまう・・・
お、男の体にここまでしっかりと密着したことはなかったので、、、、身体が思わず硬直してしまう。
お父様やゼノン兄様とだってこんなにしっかりと抱き合ったこと無いのにっ!
細いと思っていたが、意外と体つきはしっかりしていて、、、鍛えられた筋肉は固い。
あれ?・・・私では付かないところまで筋肉がついている。
何故か気になってしまって、彼の体をじっくりと触ってしまっていた。
なんでだろう?病みつきになってしまう。
まず胸板・・・私では絶対につかない。
流石に乳首の周りは柔らかいが全体的に安心する力強さがある。
ん?
右腕と左腕では筋肉の量が違うな?
「シノン、、、べたべた触んじゃない。」
「黙ってろ、、、いいだろう?恥ずかしがるもんじゃあるまいし・・・」
サクラが耳元で何か喚いてるが、、、まあいいか。
私を女の子扱いしないような奴のいう事なんて気にするものか。
頬を寧ろくっつけ、全体的な密着具合を上げてやる!
「し、、、し、、、シノンさん!?」
抗議の声を無視して
剣を毎日欠かさず振っているのだろう。
剣を持つ腕である左腕は筋肉が一回り強い。
すごい、、、同じ剣士なのに私よりも手の平が堅い。
性別の差じゃない・・・私よりも剣を振ってるんだ。
だからこんなに私よりも剣ダコがあるんだ。
・・・意外とやるじゃないか。
腹筋は押したら石でも入ってるかのように強く反発するし、太ももは丸太のように固い。
特に、大腿二頭筋と尻の筋肉が面白い感触だ。
触る回数も自然と増えていく。
もしかして足を使う剣術なのだろうか?
そういえば、ゴブリン盗賊団と戦っている時の足さばきは見事だった。
もしかしたら秘密は、私にはない尻の筋肉にあるのか?
女だからか私にはつかないからな・・・
どういう仕組みなのかぐらいは知っておきたいな?
「意外としっかり鍛えてるじゃないか?特に尻・・・良い感触だ。」
「な!?シノン、お前、、、やめい!体をべたべた触るな!女の子らしくしろ!女の子はそうべたべた男の体は触らないんだよッ!」
「む!」
こいつ、、、私を女の子らしくないとまた言ったな・・・
童貞のくせに・・・生意気だ。
サニアみたいに口も上手くないし、、、世渡りもうまくないし、、、可愛い動作は出来ないが、、、私だって女らしく出来る・・・
さっきまでは強引に触ってしまっていたが、優しく撫でるように触る。
女の子らしいとか、、、よくは分からんが、、、サニアが私に触れるようにすれば女らしくなるだろう。
触るか触らないかのタッチ・・・
手の平でじっくり・・・指だけのタッチ・・・
もっといろいろあったな・・・全部やってやる。
「誰が女の子らしくないだ・・・情けない吐息を上げてるじゃないか・・・」
「うっ・・・・うう・・・・」
・・・必死で何か堪えてるな?
そういえば触られてることだけに意識を向けてると、耳や首筋をたまに舐められると体にしびれが走ったっけ?
舐めるのは、、、無理だ!
・・・恥ずかしい、、、、恥ずかしすぎるっ!
でも・・・流石に恥ずかしいが、、、息を至近距離から吹きかけるなら、、、
も、ムリだっ!
何故、シノンはこんな恥ずかしいことを、、、あ
「はあ、、、はあ、、、身体が、、、熱くなってきた、、、」
「あ・・・・あ・・・・あ・・・・」
あれ?耳元で囁くだけでもサクラは動揺してるのか?
男って単純だな?
もしかして兄様や父様も意外と単純なのかもしれないな。
サクラですらこのざまだし。
耳元で少し呼吸した息がかかるだけでびくびくするなんて・・・
「サクラ、、、」
「あ・・・・ああ・・・・・やっちまった。」
ん?
お腹にも固いものを感じる、、、、これは?
こんなところにも筋肉がつくのか?さっきまでは気付かなかった。
手で触って確認しようとしたら、サクラに慌てた感じで起こされた。
「シノンさん!?そろそろ起きようね!?」
「あ、、、まだ触ってない箇所が、、、」
「お前は男のことをもう少し学べ!このテクニシャン!・・・ご馳走様でした!」
サクラは腹が痛いのか、うずくまるような姿勢で私から遠ざかって行った。
何を慌てているのか・・・意外な一面があるものだ。
体の火照りが落ち着かない・・・もう少し触っていたいものだが駄目だろうなあ。
「はあ・・・」
熱い吐息を一度吐き出す。
サクラはそんな私の様子をドロっとした目で見つめてくる。
何かをこらえるような、真っ赤な顔で何かをこらえている。
何か?
・・・そうか!
「サクラ、、、どうだ?私も女らしいところはあるだろう?負けを認めるんだな!」
「え・・・え・・・?まさか、、、そういうことなのか、、、そんなあ。」
サクラがぐでえっと何故か力が抜けたかのか倒れ伏す。
何か小声でこの高ぶったのはどう沈めりゃいいんだ・・・とか言ってる。
高ぶる・・・何が?
「サクラ、、、?」
「ち、ちかうくな!・・・じゃ、なかった!そっ、そこから動くなよ・・・これ以上近づかれて、、、殴られたり、高ぶらされたくないからな、、、もう少しで大変なことになるところだった・・・」
「大変?なんで?」
「・・・シノンの父親に会ったら、まず娘の性教育はしっかりしろって怒鳴ってやりたいな。」
「何故そんなことがしたいのかはしらんが・・・お父様は私の近くにいる男はまず殺そうとするから、顔を合わせた瞬間もう炭にされてるだろうし、、、、話し合う時間はないと思うぞ?」
「主人公だから大丈夫!・・・といいたいところだけど、シノンの親父だしなあ。」
「な、、、何故私の父親だからなのだ!おかしいだろう!」
私はまた彼に詰め寄り、彼もやるか?と詰め寄る。
なんだか何をしているんだろう?
不思議な気分だ・・・さっきまであんなに腹をたてたり、、、身体が火照ったりとか、、、明日は命が危ないかもしれないのに、、、何でこんなにはしゃいでいるのだろう?
私と彼は、、、ただの仲間じゃないのか?
欠け替えない大切な仲間ではあるが、、、
仲間同士でこんなにはしゃぐ必要があるのだろうか・・・
こんなことで体力や精神力を消耗してる暇があったら、少しでも寝て魔力を回復させるべきなのに。
特に精神力は魔力と密接に関わることなのに・・・
彼は私にとって仲間以上の存在なのだろうか?
サニアと比べられないくらい大切な、、、大切な?
大切な、、、何なんだ?
「「ぷ、、、、くくく、、、」」
ま、取り敢えずは、、、
「あっはっはっはっは!」
「あはははは!」
同じタイミングで笑ってしまうぐらいは仲が良いようだ。
あまりに笑いが止まらないので口を押え、腹を抑えてみる。
駄目だ、全然止まらない!
苦しい、、、でも、精神が満たされれていく。
・・・なんでだろう?
そっか、サニアと同等、、、いや、それ以上に精神を満たしてくれる存在なのだろう、サクラは。
今まで彼とこんなに長く会話をしてなかったから、気付けてはいなかったけど、、、無意識では分かっていたんだ。
「シノン、、、お前の性格と本質能力、、、妙に合わねえなと思ってたんだ。」
「!?」
サクラが息を整えながら、話しかけてきた。
まさか、、、知ってたのか!?
「サニアを守りたい、、、それが理想だったからその本質能力だろ?」
「・・・ああ。」
「だったらさ、俺より優先してほしいんだよ。」
・・・剣を抜こう。
そして、もう一度殴ろう。
私がどれだけ迷ってると知ってて、まだぬかすのか・・・
今度こそ仕留めてやろうか・・・
私が魔力を高めていこうとしていると、彼はポツリと言った。
「ま、結局はシノンに無茶してほしくねえだけだけどな。」
「・・・え?」
いつの間にか、彼の顔から目を離せなくなっていた。
「出来る事なら、、、全部俺だけで済ませてしまいてえぐらいだよ・・・なんで女の子を戦わせなきゃいけねえんだよ」
「・・・サクラ?」
サクラは顔を伏せていた。
手で顔を伏せ、、、震えていた。
「サクラ?」
「アリアっていう師匠が、、、俺が警戒を怠ったせいで大怪我を負ったことがあってな・・・それからっていうもの目の前で女の子がけがを負うのを見るのが怖くてな・・・シノン、、、分かってくれねえかな?」
サクラは腰に纏った何の変哲もないただの剣をまるで世界を変える力さえある名剣であるかのように、心の全てをそこに乗せるかのようにググッと力を込めて握りしめた。
そこまで、、、剣に心を乗せられるものなのか?
同じ剣士でありながらも、、、いや、同じ剣士だからこそ、その覚悟の強さが段違いであることを感じた。
「サニアを守るためなら、、、俺は止めない。シノンの理想を邪魔する権利は、、、同じく主人公になりたいっていう理想を追ってる俺には邪魔出来ねえから・・・でもさ。」
やめてくれ、、、それ以上口に出されたら、、、
「俺の我儘、、、俺の我儘なんだよ。ドン・クラークの護衛は・・・だから、、、俺の我儘に、、、命をかけるなんて馬鹿な真似しないで、、、頼むよ、、、」
「それは、私も納得したことだ、、、お前の我儘なんかじゃ、、、きゃっ!?」
サクラにぐいっと引き寄せられ抱きしめられる。
感情が爆発しているのか、手が震えている・・・
どうして・・・サクラは・・・ずるい・・・
「都市中の黒雲が消えるぐらいの状況が起こったらそれはイエローゾーン。魔術や魔力を戦闘以外の場所にまで回す猶予が無いってことだ。そしてもし、、、最も最優先である、、、ドン・クラークに掛けた防御魔術が解けたら、、、それがレッドラインだ、すぐ逃げろ。俺の魔力どころか桜の魔力まで枯渇寸前か、、、俺の命が消えてるか、そんな状態だ。そうなったら、、、シノン、、、逃げてくれ。」
分かったと、、、答えるしかないじゃないか、、、
「まだ、、、イエローじゃないか・・・」
「バカ!さっきまであれだけの魔術をやってた奴がいきなりこんなに目に見える形で異変が起こるかよ!何か大きな重傷を喰らったんだ!」
「はやくモルロンド伯爵邸へ・・・」
「助けに戻ろう!・・・さあ!」
「いいんだ!」
「な!?」
ドン・クラークに言い聞かせてるのか、、、自分に言い聞かせているのか分からない
「サクラが言ったんだ!自分が死にそうになっても自分を優先しろって!自分の理想や命の方が大事だって!」
「仲間じゃねえのかよ・・・言われたからって・・・それでいいのかい?俺みたいな悪人守ってる余裕ねえだろ?」
・・・本当だったら、彼をおいてでも、、、この戦線を離脱するべきなんだ。
でも、、、でも、、、意固地になった私は彼の護衛を止めようとしない。
「お嬢ちゃん!」
ドン・クラークが私の手を掴む。
・・・振り払おうとすれば、簡単に振り払える強さなのに、、、振り払えない。
!?
ドン・クラークの力が身体強化もしてない私が振り払えるだと!?
ドン・クラークの弱り具合にも驚いたがそれよりも重要なのは・・・
スン
な、、、そんなバカなことがあるものか・・・
『黒曇衣≪コート≫』が、、、ドン・クラークの『黒曇衣≪コート≫』がどんどん薄まり弱まっていく
死なないって言ったじゃないか・・・
四人で再び集まって、、、あのふざけたパーティー名を変えようとか言ってたじゃないか・・・
何でだ・・・なんでだ・・・
何で・・・
ドン・クラークの『黒曇衣≪コート≫』が・・・消えた。
魔力枯渇寸前か、、、俺の命が消えてるか
シノンが大事だ。
サニアを守ることがお前の理想だろ?
俺の我儘のために命を犠牲にしないで
理想を、、、はき違えるな。
女の子が危ないことすんなら、、、俺に全部危ない部分が回ってくればいいと思う。
シノンは可愛い可愛い女の子なんだから、、、ムリせずに
逃げてくれ
頬を張られた
しっかりしろと罵られ、引きづられるように動かされた。
振りほどける、本当なら。
それが出来ないのは
「私にとって、、、あの、、、パーティーは、、、」
「あ!?それどころじゃねえって!スライム使いだ!この時までずっと待ってやがったんだ!」
あのパーティーは私がリーダーだ。
かけがえのない仲間だと正直思えるが、、、正直問題児だらけだ。
たった数週間の付き合いだが、、、いつもストレスで頭痛と腹痛が絶えない。
まずサニア。
とても可愛い。
マイエンジェル。
超のつく攻撃力
でも、唯一の欠点がたった二つだけある。
どんな時でもセクハラをしてくる所と、、、非常に残念なのだが魔力の操作が非常にその、、、苦手で、、、通常の魔術師の10分の一の精度しかない。
お蔭で我がパーティーはいつでもピリピリした良い空気で油断することはないだろう。
・・・あれ?サニアに欠点なんてないじゃないか!
それに今までの度重なるセクハラのお蔭で、サクラに一矢報いることが出来た。
そしてスカイ。
物凄い風を巻き起こして、敵を蹴散らす頼りになる前衛。
彼女のお蔭で皆を守り、指示を出すことに集中できる。
でも、食べるのが本当に大好きで、食べるためなら・・・仕事すらサボる。
煙たいからやめてほしいのに、私たちの前でも平気でフルーツの匂いのするパイプを吹かす。
でも、、、彼女がサクラについてなかったら・・・
私達とサクラをとりなしてくれてなかったら、、、こんなに楽しいことがあるなんて考えられなかった。
秘密だらけの私たちを・・・そんなこと無いようなものと考えてくれる彼女は・・・彼女は・・・私の初めてのかけがえない友人だ。
一番の問題児で、、、副リーダーのサクラ。
面白いぐらいのキチガイでぶっちゃけ他の冒険者たちから恐れられている。
彼と一緒のパーティーになってから、私たちにちょっかいがかかることが無くなった
・・・同類だと思われて。
町中でも平気で『曇の網≪ネット≫』を撒き散らすから、、、ある所では黒雲の魔王なんて呼ばれているらしい。
てか、噂によると魔国の一万の軍勢を追っ払ったとか、北の死の森で湖を作ったなんて馬鹿な話もある・・・彼の属性は曇だぞ?
いったいどんなバカなことをしたらそうなるんだ?
・・・してないよな?
あと、サニアが私にセクハラしてたり、スカイが無防備に服の胸元をパタパタしている時にじいっとそれはそれは気持ち悪いほどガン見してくるのは止めて欲しい。
理由は分からないが生理的に受け付けない。
サニアが童貞、童貞というからそういって貶しているが、、、そういうものだからじろじろ見てくるのだろうか?
そもそも、、、童貞とは何なのだろう?
そんなに童貞でなくなりたいのなら、パーティーリーダーとして手伝いぐらいしてあげてもいいかもしれない。
彼はパーティーで一番の問題児だ。
エッチな目でこっちを見てくる。
曇の奇術師だからだろうか、、、どんな時でも彼がイタズラばかり好んでる気がする。
パーティーリーダーの私のいうこと聞かないし・・・
キチガイで突拍子もないことをして、いつも周りを驚かせる。
凄く腹が立つ・・・
何が私が大事だから危ない目にあって欲しくないだ。
何が自分だけが危ない目にあえばいい・・・だ。
何が、、、何が、、、何が、、、
私の理想は『サニアを守ること』だ、、、
秘密だらけの私たちをどれだけ信頼してくれているんだ・・・
問題だらけの私たちをどれだけ救ってくれているんだ・・・
弱さだらけの私たちをどれだけ守るつもりなんだ・・・
嘘だらけの私たちをどれだけ信頼してくれているんだ・・・
少しだけエッチなあなたと過ごす日々はとても楽しかったです。私たちは冒険者ってこんなに楽しいものだったんだって・・・初めて知ることが出来ました。
曇の魔術を扱うあなたから世界の広さを学びました。私とサニアがそれぞれ自分の強さについて改めて考え、、、真剣に取り組めたのはあなたのお蔭です。
常識を超えた考えを持つあなたの言葉は私たちに勇気をくれました。嘘だらけなのに、、、なんでこのパーティーは心地よくて、、、ずっといたい場所だったか。そんなのすぐに分かることだったのに。
とてもとても強いあなたにあの日私たちは救われました。苦しい苦しい私たちの荷物をあなたは全部背負ってくれようとしてくれていたのですね。
ねえ、気付いてますか?
私はあなたに甘えてばかりで、、、何も返せてない。
私はあなたに怒ってばかりで、、、一度も優しくできなかった。
私はあなたを童貞、キチガイと貶すばかりで、、、一度も褒めたり、心を許さなかった。
私はあなたがいう事を聞かないと攻撃してばかりで、、、一度もあなたに秘密を打ち明けなかった。
もっと触れ合いたかった。
もっと優しくしたかった。
もっと話し合いたかった。
もっと笑顔を見たかった。
いつかいつかと思っていた出来事が出来なくなりました。
「うわああああああああああぁァァァッツ!!!!」
世界に色彩が戻った。
何をバカなことを・・・
彼の最後の願いは何だ?
ドン・クラークを守りたい・・・それを守ることで、、、彼への恩を返すだけだ!
剣を抜け!
足を踏み出せ!
魔力を込めろ!
戦え!
「お、、、お嬢ちゃん?」
良かった・・・ドン・クラークは怪我をしていない。
スライム使いは相当性格が悪いようで、周囲を大量のスライムで囲まれている。
なぶり殺しにでもするつもりだったのか。
遠く離れた場所から、一人の男が笑いかけてくる。
「やあ、シノン!君は僕が守るよ!だからそんな望まない仕事から手を引くんだ!」
「お嬢ちゃん、知り合いか?」
「いや、知らない。あんなデブ。」
小太りの中年はそんな私の言葉にでひゅひゅひゅと笑うだけだった。
「それはそうだよ!公営ギルドモルロンド伯爵領支部のアイドルのシノンに才能のない下級冒険者であるこの僕が話しかける事なんて出来るはずないじゃないか!」
「・・・下級冒険者あ!?この量のスライムをぉ!?」
ドン・クラークが辺りを見回す。
フレイムスライム、アイススライム、エレキスライム、ブリーズスライム、ダークスライム、ホーリースライム、ウォータースライム、バブルスライム、マリンスライム、エンペラースライム、ナイトスライム、レアメタルスライム、ゴールデンスライム、ファングスライム、ボックススライム、スカルスライム、アルビノスライム、ブラスタースライム、クロックアップスライム、ゾンビスライム、ソードスライム、スピアースライム、エンジェルスライム、デビルデビルスライム、仮面スライムライダー、ナイトスライム、プリズムスライム、鬼畜なスライム、幸せそうなスライム、奴隷なスライム、エロいスライム、ドSなスライム、ドMなスライム、超ど級の怒り狂ったスライム・・・目がいたくなるほどカラフルで種類に溢れているこのスライムたちを判別しきるのは不可能だ。
サクラは数を数えてしまうところだが、、、数えなくても分かる。
下級冒険者程度でこの数は操り切れない。
顎の肉をだらしなく揺らしながら、彼はキンキンとした声で話し出す。
「クラナダなんつうクソ貴族ががシノンたちを苛めている時に僕に助けを求めていただろうに助けてあげられなくてごめんね!僕があまりにも弱かったから、、、こんなに遅くなっちゃった。でもねでもね!
ある人の助けで遂に僕にも本質能力が生まれたんだ!『シノンに近づくは能わず≪ノー・シノン・アタッカー≫』。よく分からないけど、シノンの本質能力と似てるよね!これでシノンと一緒にいられるよ!これで君はあのキチガイと一緒にいなくていいんだよ!」
「「あ?」」
「こんな危険なクエストに大事な大事なシノンを手伝わせるなんて、おかしいでしょ!しかも、キチガイだって言われてるようなやつなんて、、、考えただけでもシノンにふさわしくないよね!さっさとそんな公国の老害を捨てて僕と新しいパーティーを組もうよ!なあに、中級冒険者なんて僕の手にかかれば「黙れ」・・・え?」
べらべらしゃべってくれたおかげで魔力を良く練られた。
詠唱する時間まであった。
馬鹿馬鹿しいコイツ相手なんぞ三秒で十分だ。
モンスター使い本人がこんなに表舞台に出てきてるんだから。
こんなに低能だったら、、、サクラと交代しておけば、、、私があの場に残っていれば、、、サクラは死ななかった・・・
「お前程度がサクラを評価するんじゃない。下級冒険者程度のクズが・・・『氷剣・輪廻』」
紅い細剣を振り回す。
青い閃光が走る度に周囲のスライムたちが凍り、生命を散らす。
ドン・クラークがひぃと慌ててかがむその真上を、力の限り、、、周囲の化け物を凍らせ、切り裂き、消していく。
「嘘だ、、、詠唱級は二回しか使えないんだよね?なんで味方の僕に使うの?僕は君の為に、君をいつも振り回すサクラっていう名の害虫の禍根を断とうとしてるのにぃ!ソニックスライムぅ!シノンを止めてぇ!」
「ああああああアアアアアアアッツ!」
紅き閃光、それが瞬く度に、世界は氷に満ちていく。
それを邪魔するのは高速の世界に適応した俊足のスライムたち。
いつものシノンならともかく、攻撃をしている今までのシノンなら防げない。
「サクラの想いをぉ、お前みたいな卑怯な奴に邪魔されてたまるかあっ!『篭手よ輝け』!」
シノンは右手で剣を振り回しながら、左手のみにつけた青色の篭手に魔力を込める。
彼と同じ防具屋で購入した魔法の盾を展開する篭手。
氷の属性を付加されたその盾は片手で振り回せるほどの軽さなのに
「そんな、、、そんなの今まで持ってなかったじゃないかッ!僕に秘密でそんな装備をつけるなんて・・・許せないッ、許せないぃっ!上級スライムたち!あの不愉快な装備を壊してしまえッ!」
熱酸を纏ったアシッドスライム、マグマに生息するマグマスライム、、、『氷剣・輪廻』は雑魚を切り払う広範囲攻撃用詠唱級魔術。
炎に強いそれらのモンスター達には利かない。
「グッ!?」
シノンはそれらの猛攻を剣ではなく、ただの魔法の盾を出す篭手で受け流していく。
精々発動級程度しか流せない、、、しかも範囲の狭い盾。
ドン・クラークに流れ弾を当てない為に彼女は被弾が増えていく。
「シノン、、、早くあきらめなよ。そんな死に掛けのおっさんに価値があると思ってるの?諦めなよ」
「・・・そ、そうだ、お嬢ちゃん!俺はもういい!それよりも、サクラの遺体が綺麗なうちに埋葬してやってくれよ!生きるのに疲れて自暴自棄になった俺なんかの為に・・・命を無駄にしないでくれぇ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「シノン!・・・シノン!諦めなよ!力の差を僕が君に教えてあげるからさぁ!」
「逃げろ、、、まだやりたいことあるんじゃねえのか!」
「『・ぉ・・・・・ぃ、・ぃ・・ぃ・・』『・・・・・・・・・・・』」
「え?」
「お嬢ちゃん、まさか・・・」
「『がぃ・・・・・ぇ・・剣に』『・・・込め氷の・・念』」
「シノォン!何故わかってくれない!何故無謀な詠唱をするんだぁッ!」
「止めろ、お嬢ちゃん!それで雑魚払いしたとしても、魔物使いを倒さない限り戦いは終わらない!自分の逃げるエネルギを残しておけ!」
彼は最後の魔力の一滴まで、、、人のために使っていた。
だから自分のために使うエネルギーはいらない。
したかったことが沢山あったはずなのに、、、彼が残した願いは私がかなえよう。
「『拡張される概念は時すら止める』!『氷剣・氷停』ィ!!!」
紅き剣が青き光を纏う。
火の力、、、熱の力。
本来、分子が運動することで働く力。
逆に分子を止めるシノンの力。
だからこそ有り得ないこの現象。
燃えながら氷の膜に閉じ込められるマグマスライム。
凍りつく、そして、砕けるアシッドスライム。
生き物だからこそ、『氷剣・氷停』の芯の能力が牙をむく。
上級だからこそ選別されている為、数は限られる。
氷の天敵となる上級スライムたちはシノンが剣を15回振る頃には全て死んでいた。
「でひゅひゅひゅひゅ!知ってるよシノン!君の魔力容量はぁ詠唱級二回でストップ!後、発動級一回すら使えないこの状況じゃあ僕は倒せないよねえ!シノンは優しいなあ!あんなキチガイでも一回はパーティーだった仲間!義理立ての為に一応は抵抗したんでしょ!でもでも僕にはわかってるよ!僕を怒らせない為にわざと無計画な魔力消費をしたんだよね!ほらほら、今なら許して上げるよ!何てったって似た本質能力の持ち主だからねっ!!『シノンに近づくは能わず≪ノー・シノン・アタッカー≫』と『攻めは能わず≪ノー・アタッカー≫』・・・お似合いだよねッ!」
どいつもこいつも、、、いい加減にしてほしい。
胸の皮鎧を剥ぎ取る。
「おっ?戦う気をなくしたのかなぁ?よく言うよね!よくしつけられたペットは飼い主に腹を見せるって!困ったなぁ・・・シノンはペットプレイが好きなのぉ?僕はきよらかな関係から始めたいんだけどォ?」
いい加減にしてほしい。
どいつもこいつも腹が立つ。
とてもとても許せない。
生理的に受け付けないこの気持ち悪いのも。
勝手に納得して、、、私のことを、、、勝手に決めつけるあいつのことも。
自分さえ危険な目にあえばいいという彼の考え方も。
彼の強さに甘えて、、、最後の最後まで、、、取り返しのつかない所まで、、、彼に自分の強さを隠していたことを秘密にしていたことも。
魔力が溢れ出ていく。
私の魔力は常人の何十倍、本来なら詠唱級二回ではへばらない。
・・・それだけじゃない。
それだけなら隠してこなかった。
分かる人には分かる独特の波長があるのだ。
独特の波長がでるほど、、、とても攻撃的なその魔力は、、、氷という属性を進化させる。
かなり長かったですね・・・ごめんなさい。




