表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でもう一人の俺が暴れすぎてキチガ○と呼ばれている件について  作者: 浅き夢見む氏
第二部:激昂する乙女は剣と舞い、狂う咎龍人は最愛を想う<曇の奇術師編>
34/183

第5章サクラと一つの終着点part1

モルロンド伯爵直轄領はいつも賑わっている。

しかし、今日だけは面白いほど人がいなかった。

街からほとんどの人間が離れるか、家の中に隠れているか、、、その二つだ。

いつもは道に並んでいる露天商までも今日はどこかに行ってしまっている。

ドン・クラ-クの暗殺に巻き込まれまいと逃げたんだろう。


「顔見せなのに、、、人がいないとかどうすんだよ・・・」

「むしろ無関係の人間を巻き込まないように出来るんだ。良かったと思うべきだ。」

「むうっ!むぐうっ!」

「そだなあ・・・場所によっては遠慮なく『嵐曇魔術≪スーパーセル≫』を使えそうだし、悪くはないか。」

「むぐうっ!むぐうるっ!」


とはいえこの状況は変だ。

シノンと俺とドン・クラークが道の真ん中をゆっくりとモルロンド邸まで進む中、閑散とした街並みに足音だけが良く響く。

・・・顔見世する相手がいないのに顔見世でこんなゴーストタウンを練り歩く羽目になるとはな。

本当に国がすることって、たまに本末転倒なことがある。


「むぐうっ!むぎゅうっ!」


とはいえ、国の権威などのお蔭で助かっている面もある。

言い方があまりよろしくないが、勝利条件がハッキリとしているのだ。

モルロンド邸に攻撃を加えるのは公国への反逆とみなされる云々かんぬんで、俺達はドン・クラークをモルロンド邸まで運べば勝ち。

逆にそれまでに殺されたら負け。

泥沼化すれば戦力に限りがある俺達の負けは確定なので本当にありがたい。


「むむっ!むぐうっ!」

「ああもう、うるさいな!人が考え事してんだから黙っててくれよ!」


おれはそういって、後ろを俺に引きづられてきている黒い物体の顔部分の黒雲を一度消した。

そこから現れたのは怖い顔だった。

鬼の、、、形相でした。


「「ひいぃ!」」

「何驚いた顔してんだ!?お前の仕業だろうがっ!?朝起きたらいきなり変な魔術で全身拘束されるわ、引きづられるわ、、、いったい俺が何をしたって言うんだ!?そもそも・・・・・」


何という事でしょう。俺に引きづられてきた黒いもぞもぞとしたミノムシはなんとドン・クラークだったのです。

ドン・クラークはぜいぜいと息を荒げて、抗議の声を上げている。


「・・・やはり、これはなかったんじゃないだろうか」


シノンがひくひくと頬を引くつかせながら、そう言うのを聞くとドン・クラークは鋭敏に反応する。


「ちょっと待て!?お嬢ちゃんはまともだと信じていたのに!一回は同意したって言うのか!?この異常な状況を!」

「ああ、、、まあ」

「くそっ、やっぱりキチガイの周りに集まるのはやはりキチ・・・」

「ちょっと待て!?私をサクラと一緒にするな!」

「別におれキチガイじゃねえし!・・・キチガイじゃねえし!」



本来協力し合わねばいけないはずの3人に既に取り返しのつかない不信感が芽生えている。

ドン・クラーク氏は二度と拘束されるまいと俺を殺気の籠った目で見つめてくるし

シノンは護衛対象であるはずのドン・クラークに対して抜刀し


「私をもう一度キチガイ扱いしたら、女にしてやる」


と、とんでもないことをのたまわれているし

俺は俺で二人の挙動にちょっと引いている。

・・・なんだこれ


「・・・はあ、いったいどうなってんだ?この拘束の意味を教えてくれ。」


ドン・クラークは自分の全身を余すことなく包み込んでいる黒雲を忌々しげに見つめながら説明を求めてきた。

流石は大人だ、適応能力が高い。

不可視上の影響による弱体版『曇の網≪ネット≫』で辺りを探って、周りに暗殺者たちがいないことを確認してからドン・クラークを一時的に解放・・・はしなかった。

理由が理由だからだ。


「暗殺を防ぐために、かなり高密度の黒雲をアンタに巻きつけてるんだ。これで並の魔術じゃアンタに衝撃すら通らない。・・・身動きすらとれねえと思うからいっそのことと簀巻き上にしちゃったがな。」


通常の黒雲の硬度ですら、鉄の剣では逆に折れるほどだ。

一本の矢すら通す気はないが、万一のことがある。

要人に防弾チョッキをつけるのと同じようなもんだ。


ま、防御範囲も硬度も防弾チョッキなんぞとは2桁は異なるはずだが。


「・・・なるほどな、引きづられてんのは何でだ?」

「暗殺の基本は狙撃。地面に近ければ近いほど周りの建物に遮られやすいから、狙いにくいんだ。」


小説の知識だが、一応は現代知識である。

現代知識使う俺って何か主人公っぽい・・・いいね!

ドン・クラークは一応は納得したのか、それでも納得しきれていないのか髪をかきむしろうとして手が黒雲の中に閉じ込められているのに気付くとため息をついて止めた。


「・・・そこまで自分の命に未練はねえんだがな」

「なにいってんだ。アンタの事情は分かったが、俺はそれを納得してねえ。・・・実は、俺はあんたをモルロンド邸まで連れてって助命嘆願するつもりなんだ。」

「!?・・・何言ってやがる」

「き、聞いてないぞ!?」


ドン・クラークが驚愕で口をあんぐりと開け、呆然とする。

面白いぐらいの顔だった。

シノンも同じような顔しているのがまた面白い。

多分、、、国の差かなあ

中国で毛沢東が絶対信仰されてたように、シノンやドン・クラークも王の命令は覆えしてはいけないものだという固有の考えがあるようだ。

・・・ようやく俺の普通が他の人にとってはキチガイである理由が少しは分かった気がする。


「・・・ま、ムリなのはわかってるが、最低限世話になったんだ。暗殺者なんかに殺されたなんて汚名をアンタに着せたくないだけだ。」

「・・・」

「あんたの名誉を守りたいだけだよ・・・最低限のな」


ドン・クラークがポカンとした顔をしたままで固まっているのをいいことに、自分の想いを言ってのける。

・・・本心ではあるが、なんか調子に乗りすぎたかもしれない。

くッサイ台詞を吐きすぎて恥ずかしいんだが・・・

俺が内心、周りに変な視線を受けないだろうかとか不安に思っているのを隠していると、シノンが恐る恐る口を開いた。


「なあ、ドン・クラークの名誉を守るのが目的だよな?」

「ん?ああ。だからドン・クラークの命を守るんだ。」

「でも、、、いくら命を守るためとはいえ、この状況は外から見ると・・・」

「・・・」


・・・外から見ると


護衛対象なのに


謎の素材で全身を拘束され


町中を引きづりまわされている


ドン・クラーク


「名誉とか・・・もうあってないようなもんじゃないか?」

「・・・どうしてこうなった!?」

「「ほんとだよ!」」


取り敢えず俺はシノンのせいにすることにする。


「どうして、止めてくれなかった!」

「逆に何故私が止めること前提になってるんだ!」

「シノンが『道帝と下僕たち』の唯一の良心だろ!俺のストッパー役だろ!?俺にキチガイ行為をさせて周りにキチガイとか呼ばせて心が痛まないのか!」

「そおんなっ、明らかに損な役回りになった覚えはない!第一、お前は止めたって聞かないだろうが!今回だってノリノリでドン・クラークを拘束するわ、全速力で引きづるわ・・・じゃないか!」

「一言止めれば今回は流石に気付くわ!」

「私だってお前の目的が彼の名誉を守ることなら、止めたさ!護衛が真の目的だと思ったから、カオスな見た目の隣を歩くことを我慢しようと思ったんだぞ!?寧ろ、感謝しろ!この童○!」

「お前、言ってはならないことを!」

「ぷ、、、、くくくく、、、、ガッハッハッは!だああああっひゃっはっはっはっは!だめだあ、、、なんでお前はそんなに面白いんだよお・・・」


ドン・クラークがいつの間にか笑い声を上げていた。

こんなゴーストタウンみたいな人もいない陰気な場所で

命を狙われているヤバい状況下で

昨日までエリー、エリーと泣き叫んでいたのに


今までで一番というぐらいの大声を上げて笑っていた。


「面白い!本当に面白い!サクラ!お前は何でか分からんが、エリーそっくりなところがあるな!あいつも、公王陛下に忠誠を誓ってないとこがあってな・・・公王陛下へ上納金を送って覚えを良くしてもらうよりも領地に少しでも貢献することを頑張ってたなあ。」

「「・・・」」

「決めたぞ、サクラ・・・お前もエリーと同じく大事なものに対して、王の権力でさえも、他人には揺るがせない心がある。・・・俺が持てなかったその心をお前が持ってるなら、、、お前からエリーの望んでいたことが何だったのか、そして何をして欲しかったのかを学べるかもしれねえ。だから俺はお前に賭けてみてえ・・・生きる・・・生きるぞ、俺は・・・今度こそエリーが望んでいたことをやってやるさ」

「『黒雲の蓑≪ミノムシ≫』解除、『黒雲衣≪コート≫』へ」

「お!?」


生きる気があるなら、自分で身を守る気持ちがあるなら、、、こんながんじがらめにする必要はない

そう思って、無駄に彼を囲っていた衣を最低限まで剥いだ。

これで彼も自分でこの道を歩んでいける。


「じゃあ、行こうか」

「ああ」

「ちょっと待ってくれ」

「「?」」


ドン・クラークが歩き出した俺達を呼び止めたので、振り返る。


「どうしたんだ?ここは煉獄山じゃないんだから、魔法は使えるはずだ。何か支障があるのか?」

「いや、、、支障はないんだが・・・」


俺の言葉に対しあれは言いづらそうに、自分が着ている、『黒雲衣≪コート≫』をつまみ上げた。


「・・・もしかして、動きにくいか?俺のイメージに頼るせいで大して種類はないが、デザインは変更効くぞ?」

「マジか!どんなのだ!」

「半袖とノースリーブ。」

「・・・もういいよ。」

「どうしたんだよ!はっきり言えよ!あんたの命に関わることかもしれないんだぞ!」

「いやな・・・命とかにはまったく関わり合いが無いんだけどな・・・」

「・・・?何?」

「このコートのデザインが自意識過剰すぎてあんまり着たくない・・・」

「「・・・・」」

「いや、、、いちおう、魔力負担してもらってるし?我儘も言いづらいしな・・・」

「神は死んだ」

「「サクラ!?」」


ちょっといたたまれなさ過ぎて、しばらく逃げた。

ぐっだぐだになった結果、結局『黒雲衣≪コート≫』を着ることになったドン・クラークが不思議そうに言った。


「そういや何で俺は一切の拘束をされてねえんだ?」

「いや、モルロンド伯が必要ないっていってくれたらしいよ?」


囚人の拘束を権限で解くとか、、、何か深い考えがあるのか、、、それとも、、、ただの気の迷いか

どちらにしても、戦力が増えてラッキー。

とか考えていたが、そうは問屋がおろさなかった。



「あ、俺の魔法は期待すんなよ?」

「え?何で?」

「俺の能力は『狂竜化』。詠唱級の威力を四肢に宿すトンデモ身体強化だが、意識が飛んで誰が誰だか分からなくなる。魔力が強けりゃある程度抑えられるんだが、、、ピカオにやられた傷の治癒に半分以上割かれてるし、そもそも二年間の煉獄山の生活で全盛期の十分の一の魔力量しかない。」

「まあ、、、元々期待してなかったんだ。切り札程度に考え解くか。」



隠れていてもしょうがないと、道の中心を歩む。


広場に近づくにつれて、こちらを見ている視線が増えていくのを感じる。


いや、『曇の網≪ネット≫』に感じるので、いるんだろう。


残念ながら『曇の網≪ネット≫』では剣を持ってるとかその程度までしか分からない。

元々俺の黒雲は、俺以外の人の体や水などには入っていかない。

詰まる所、剣を持ってるとかぐらいしか分からないので誰が敵で誰が味方かなどは把握しきれないのだ。

よって微妙に役立たずなところがある。


「桜、、、手伝って、、、『嵐曇魔術≪スーパーセル≫』」


青く光る俺が隣に立つ。

黒雲が爆発し、街が闇夜のように暗く染まる。

いつもと異なるのは、黒雲が『降りてくる』

本来大陸を覆うほどの雲がたった一つの街を覆うためだけに密集する。


「な、なんだいきなり!いきなり何を始めるんだサクラ!」

「落ち着けシノン!予定にはなかったが、こっちから仕掛けよう!戦力を一気に削り取ってやる!」

「だから、そういう行動を止めろっていって・・・く、暗い!手の届く先ですら見えないんだが!?」


・・・そして、条件を絞る度に雲はドンドン密度を上げて雲は小さくなっていく。

ドンドン密度を上げた結果は吸う空気まで黒雲が混じるほど、、、、いささか怖い。

しかし、それでいい。


「「『曇の網≪ネット≫』」」


今手に入れられる情報で足りないなら、もっと情報を手に入れる受容器を増やせばいいんだ。

精々何を持っているかどうかの判断が限界だった『曇の網≪ネット≫』は人の体温、呼吸の頻度、心拍音、、、流石に人の内部には入れないのは変わらないが、人の皮膚だけでも読み取れることは多数。

そして、俺は敵が誰かを確信する。

結局『嵐曇魔術≪スーパーセル≫』により『曇の網≪ネット≫』も数段階も進化を遂げているのだ。

これも名前を変えるべきか・・・


『嵐曇の超密大網≪オーバー・ストーム・ネット≫』


あまりの情報量で脳味噌的にヤバいことになってることと、あまりにも狭すぎる効果範囲であること(狭くしないと脳がパンク)に目をつむればこれほど便利な術式はない。

密度が高いために強度も増した『曇の網≪ネット≫』で締め上げ、絡め、天へ打ち上げる。

ま、この戦の間は戻って来れない程度のダメージは与えられるだろう。


「たまや~」

「え?何が起こってる?」

「サクラ、、、お前のせいか、ここら一帯で聞こえるこの悲鳴はあ・・・」


ドン・クラークは『嵐曇魔術≪スーパーセル≫』はまだ間近で見たのは二回目なので俺の仕業だと今の今まで気づかなかったようだ。

慌てた声とは反対に、シノンは全てを悟っているようで、視えないはずなのに俺の足をギリギリと踏みしめる。

・・・痛いんですけど?


二人が俺が突然『嵐曇魔術≪スーパーセル≫』を使い始めたので、文句を言い始めるがひどくないですかね?

あのなあ、、、こうしたおかげで随分こっちが有利になってんだぞ?

ドン・クラークに殺気を向けていた人間のみを大空へと打ち上げ無力化したお蔭で、こっちに殺気を向ける奴は僅か数名。

ニ、三人は賢いから撤退していくが、、、黒雲をそれぞれの方法で防ぎ切り、更に反撃しようとこちらに来る者も・・・


「シノン、やっぱりあの二人だ。」

「サクラは本当に頼もしいな。すごくムカつくときもあるが・・・私はどうすればいい?」

「そうだな、、、ドン・クラークを連れてモルロンド伯爵邸へ急いでくれ。俺はこのままリベンジするわ。」

「・・・コウ・レイペンバーは対策が見つかってないんだろ?大丈夫か?」

「シノンは剣技中心の術式構成だろ?剣を壊す恐れのあるあいつとは闘わせられねえよ。・・・向かう途中でスライム使いに会うと思う。俺が行くまでしのいでくれ。」

「分かった。ドン・クラーク、急ごう。」

「あ、、、ああ。」


ドン・クラークとシノンが走っていくのを見送ってから俺は振り向いた。


「えらく親切じゃないか。ずいぶん待ってくれたもんだ。」

「よく言うよ、今の今までこのうっとおしい雲?を纏わせ続けてたくせに。」


うっとおしげに体に纏わりつく黒雲を、片手でさらっと払いながら優男が物陰から現れる。

やはり、手で触れたものを消す能力であるようで、『嵐曇の超密大網≪オーバー・ストーム・ネット≫』で詳しい情報を得られるからこそ、黒雲が消し飛ばされていく感覚をリアルに感じていた。

・・・ぐっ、脳味噌がいい加減限界だ。


「『嵐曇の超密大網≪オーバー・ストーム・ネット≫』解除、、、あんたの反則能力でいきなり攻撃されたらお手上げなんでね。それにしても、、、攻撃的性質じゃないとはいえ『嵐曇魔術≪スーパーセル≫』で何十段階も強化された『曇の網≪ネット≫』をで拘束されたんのに動けんのかよ・・・上級冒険者は化けもんばっかか?」

「君だって化け物だろ。なんだいこの魔力量は?街一つを覆う魔術なんて、魔法陣級の魔術じゃないか。見た所、、、リスクもありそうだけど」


『嵐曇の超密大網≪オーバー・ストーム・ネット≫』が解除された影響で、夜の街は少しずつ明るみを取り戻していく。

ようやくお互いの顔を見ることが出来た。

蛇のように黒雲で締め付けた効果は少しはあったようだ、レイペンバーは内臓にダメージを喰らったのか口から一筋の血を流し、左腕の裾は千切れとび、大きな巻き付かれた形状の痣が出来ていた。

俺は目立った外傷はないものの、脳味噌がガンガン揺れて痛いし、オーバーヒートしたのか鼻血が鼻から止まらない。

レイペンバーはボロボロの姿でにっこりと笑う。

強者の見せる余裕の笑みだった。


「君の『魔術の終着点』はどこにあるんだろうね?」

「魔術の・・・終着点?」

「そっか、、、君は実力だけならすでに上級冒険者だけど、ランクはまだ中級冒険者か。知る必要ないと判断したのかな、君の師匠は?」

「そもそも、、、おれはまだ下級冒険者だあ!桜っ、いくぞ!白玉!」

「な!?まだ持ってたのか!?」


使ってくれとピカオから託された魔法玉の異次元ポーチ。

試験段階で有る為量産は難しいが、倉庫から直接取り寄せる魔法がかかっているらしく補給の心配がないようだ。

むんずと掴んだ白玉を床にたたきつけ、辺りを白一色に。

レイペンバーが目をつむって動けない今のうちに、、、決めてしまおう


上空の黒雲が全て俺の腕に圧縮していく。

圧縮、圧縮、圧縮。

大陸をも覆うほどの黒雲がたった一人の人間の手のひらに集まっていく。

圧縮から繰り出すのは、雲の奔流『曇の一撃≪ショット≫』

大きな大きな、、、あまりにも大きな雲が『曇の一撃≪ショット≫』を超える圧縮率と規模を持って、俺の手から解き放たれる。


「「『嵐曇の極一撃≪オーガ・ストーム・マグナム≫』」」


それはまさに黒雲が洪水となって押し寄せるかのよう。

道いっぱいに広がる黒雲は圧縮によって封じ込められていた強大な質量を解放させていく。


「手でしか消せないから、体にダメージが残ったんだろ!?だったら全身くまなく一撃必殺を叩きこむだけだ!詠唱級の盾ですらしのぎ切れない膨大な質量だ!押し流されろッ!」

「へえ・・・」


とんでもない速さの黒雲の川はあっという間に一人の人間なんて飲み込んでいく。

彼が笑みのまま沈んでいったのがすごく不気味だった。

あっけなさ過ぎて逆に気持ち悪くて、、、俺はサクラに一度霊体に戻ってもらった。


上空から眺めてもらう。

黒雲の川が『嵐曇魔術≪スーパーセル≫』解除により消えていく。

・・・ちっ、大技二回で魔力残量はともかく体が重い。

集中力が切れてしまったせいで、黒雲の維持まで甘くなってきてやがる。


いつもより早く黒雲が消え去っていく。

どっかにいるはずのレイペンバーを上空から『鳥の眼』を使って探していく。

流石にあの膨大な質量を丸ごと喰らったんだ。

手で消失できるっつっても限りはあるし、防御できない部分が絶対にある。

遥か遠くまで流されているはずだ。

それを見越して、『鳥の眼』は俺から視線を外し、遠くへと焦点を・・・


「見た所、、、もうそろそろ限界みたいだね。」

「!?」


声が後ろから聞こえた。

バカな!?

後ろにいるってことはあの莫大な質量を完全に防ぎ切ったってことか!?

そうじゃなきゃ、距離的に俺の後ろに立ってることは有り得ない!


「本質能力、『消滅を象徴する両腕』」


気付いたときには後ろから胴体を優しく抱きしめられていた。


「あ、、、、あ、、、、あああああああああああああああっ!?」


痛みは走らないが間違いない、レッドオーガの皮鎧が、、、『黒曇衣≪コート≫』があっという間に消されていく。

まるで豆腐に包丁を入れ込むみたいにレイペンバーの両腕が体へと沈みこ・・・


「ギャアああああアアアアアアアッツ!?」


殴られた痛みなら耐えられる。

骨折ならなら慣れっこだ。

つねられた痛みなら涙目で済む。

切られたら、、、即刻治療だ。


しかしこの痛みは何故痛いか分からないから怖い。

体の皮膚が、、、内側から消されていったいるのかどうかさえ、痛みを感じる部分が消されていってるから分からない。

まるで体の内側をドリルで直接抉れれてるような・・・・


「はあっ・・・はあっ・・・」


気付いたときには大量の血を肋骨があったであろう部分から流していた。

青く光る人間が俺の近くに倒れ伏している。

・・・体がザワザワして、、、全身の筋肉が悪寒で震えている。

地震で揺れているかのようにガクガク震える手でポーチから黒玉を取り出し体にぶつける。


身体に影響を与える黒玉を使えば、出血ぐらいは止められる。

震える体を抑えながら、レイペンバーをにら見つけると彼はまぶたを切っていたようでそれを抑えながら笑っていた。


「全部その黒曇の衣だったら時間的に間に合っただろうけど、、、あまりにもその皮鎧は脆かったね」


どうやら『黒曇衣≪コート≫』を消し飛ばすのに時間が掛かっている間に、桜が俺のレイピアでレイペンバーに攻撃してくれたようだ。

俺の痛みがフィードバックしたせいか今は気絶してぶっ倒れているようだ。

『自分であり自分でない者≪アナザー・ミー≫』はシンクロ率を100%を超えるから、痛みとかは俺が感じる以上に敏感になってしまう。

・・・そのリスクを負ってまで俺を助けてくれたのか。


桜が気絶したことにより霊体へと戻る中、レイペンバーは口を開く。


「君に言っておきたいことがあるんだ。まず、僕の消失させる部分は腕全体だ。煉獄山では魔力の出が悪かったから効果を手に集中していただけで、これが本来の僕の能力。」

「能力、、、封じられてたのは、、、俺だけじゃなかったって、、、ことか、、、ゴブッ・・・・」


体に溜まった血が口から吐き出される。

・・・内臓怪我したこと無いから分からんが、、、内臓がバーナーで焼かれたかのように熱い。

キツイ、、、あまりにもキツイ。


「でも、、、終われねえよなあっ!『曇の一撃≪ショット≫』×沢山!!!」


最初からこうなることは分かってたんだ。

ボロボロまで追いつめられることも、、、死にそうなほど痛みを与えられることも

でも、、、諦めねえって決めたんだ。


薄まっていた空気中の黒雲が再び濃くなっていき、圧縮・放出をあちこちから。


「君に『魔術の終着点』について教えてあげよう。」


黒雲が何十筋もの奔流となって、レイペンバーを刺し貫こうとする中、彼は地面に両手を触れる。

流石に何十点からの同時攻撃を両腕だけでは防げないはずなのに、、、彼は笑っている。


「本来魔力とは、人が自分の願いをかなえる為に人に属性と本質能力を与えるものといわれている。」

「それがどうした!」

「つまり、、、その二つを組み合わせた先には自分の願いを具現化した、『個人個人にとっての魔術の理想形』があるんだよ。『土装』」


土が、、、レイペンバーの腕を覆い尽くし、土の大きなガントレットを形成していく。

俺の『曇神の審判≪クラウド・ジャッジ≫』を彷彿とさせる大きな大きな腕。

身体強化を併用しなければ持ち上げる事さえかなわないだろう。


「すべてを消失させる両腕、、、そして本属性の土魔術で形成された僕の腕の『延長線』。土が無いと使えないが、、、結果をご覧あれ。」


ブオン!


「両腕を一振りするだけで、すべてを消し去るッ!」

「・・・まじかよ。土の腕にまで物を消滅させる効果を付与させたのか?」

「どちらかというと、、、腕と認識しているから効果を発揮するってところかな。」


恐らく最初の『嵐曇の極一撃≪オーガ・ストーム・マグナム≫』は土の腕で自分を包んで、身を守ったんだろう。

消せる面積が何倍にも増えているし。


「まだだ・・・」

「そうだね、まだだ。『どこまでも届く大きな腕』『土で造ろう大きな腕』」

「!?」

「『腕が足りないなら増やせばいい』『材料の土は沢山あるのだから』」

「『く、、、ちっ!」


詠唱を防ごうと魔術を使おうとした瞬間、腕が振り降ろされたため避けることにする。

ちぃ・・・一撃必殺すぎて、よけるのに精いっぱいだ。

魔術を練る暇がない!

詠唱は俺の苦労も虚しく完成する。


「『八つの手で私は世界を動かす』『土蜘蛛』」


土が体を這っていき、鎧のようになっていく。

元々の二本に加え背中から更に六本増えていく。

まさか、本来の腕の数より増えていても腕として認識!?

そんなの・・・


「そんなの・・・滅茶苦茶だって顔してるね?でも、これこそが『魔術の終着点』。人間の理想ってのは誰もが満たせないように叶えるためには常識では有り得ない奇想天外で滅茶苦茶な力が必要なんだ。きみのだって相当滅茶苦茶じゃないか。」

「・・・それもそうだな・・・ごぽっ」


背中の六本の腕が足となるのか、信じられないほどの速さでこっちに向かってくる。

何をもって『世界を変える為に沢山のどこまでも届く強力な腕』を理想としたのかは分からないが

同じように俺も主人公になって欲しいという桜の願いを元にした俺も・・・


『魔力バイパス』で桜の魔力をもらって鎧を脱ぎ捨て、久しぶりに『黒曇衣≪コート≫』を着る。

そのまま『鳥の眼』で全体の様子を把握する。

いつもと同じ俺の戦闘方法。


俺が決めた主人公らしい戦闘方法だ。


体に溜まった血も吐き出したし、『黒曇衣≪コート≫』で出血も抑えた。

主人公としてばっちりキマッタ服装も着た。

・・・そうだ、そうだ。

『嵐曇魔術≪スーパーセル≫』が効かないだけじゃなく、何でも消滅させる腕なんてトンデモ能力を見せられたせいでいつの間にか焦っていたみたいだ。


「『雲よ!雲よ!曇天よ!』」

「無駄だよ!『土蜘蛛』を潜り抜けて僕にダメージを与えられると思っているの!?」

「『空に逆らう愚か者が見えるか?あなたは今どこにいる?』」


レイペンバーの言葉に返答することはなく、黒雲を集め大きな右腕へと


「『空よ曇れ!そして集え!神の右手は今此処に顕現する!』『曇神の審判≪クラウド・ジャッジ≫』」


流動する巨大な腕がレイペンバーを掴もうとするのに対抗してか、八本の腕が『曇神の審判≪クラウド・ジャッジ≫』と対抗する。

当たり前だが、『曇神の審判≪クラウド・ジャッジ≫』がガリガリと削られ見る間に小さくなっていく。


「さっさと終わらせるよ!」


魔力をさらに込めたのか『土蜘蛛』が発光し始める。

削りのスピードもさらに増していく。


「ああああああああああああアアアアアアアッ」

「さあさあさあ!終わりだあ!」


相性が元々悪いのだろう。

ただ存在する黒雲に対して、消滅させる土蜘蛛の八足。

手数も、質も、攻撃力も及ばない。


「・・・何故だ?なぜ消えきらない!?」

「はああああああああああっ!」


脳はガンガンするし

体はだるいし

怪我で涙目になりそうだし

『黒曇衣≪コート≫』以外は泥だらけ


それでも、『曇神の審判≪クラウド・ジャッジ≫』は『土蜘蛛』を止め切っていた。


「あんたがくれたヒントだろ?黒雲は普通の物質より少しだけ消しにくいって・・・」

「ま、、、、まさか、消した瞬間に新しい黒雲を生み出して、消された分を埋めてるのかっ!?」

「いわゆるテンプレってやつだよ!テンプレ舐めんな!」


魔力をガリガリ削りながら『土蜘蛛』を、、、レイペンバーを取り押さえる。


「くっ、なんて馬鹿力だ・・・もう大量の魔力を消費してるはずなのに・・・何故まだこれだけの力が・・・」

「お前に一つ言っておく。」

「?」

「いくらお前の理想がなんだろうがああだろうがかんけえねえ・・・」


桜が目を覚まし動けるようになって


「俺の主人公になりたいって願いは」


レイペンバーの後ろから攻撃する時間は稼いだ。

レイペンバーがいつの間にか彼の背中に飛び移った人間を確認する前に仕掛ける。


「「他人の理想や言葉ぐらいじゃ揺らがねえんだよ!」」


『銀閃』


更にも一つ『銀閃』


本家・本元・神速の連撃がレイペンバーの肩を貫く。


「グアアアあッ!」


レイペンバーが身動きできない現状を危惧してか『土蜘蛛』を一度解除して、俺から距離を取る。

桜も再び奇襲をかける為に霊体に戻る。


「はあ、、、はあ、、、君を侮っていたようだ。両腕がピクリとも動かないよ。」


だらんと両腕をぶらぶらさせたレイペンバーが息を荒げながら睨んでくる。

ようやくあのふざけた笑みを崩せたって訳ね。

・・・よし。


「「魔力枯渇になりかけじゃねえか(ないか)」」


お互い強がりを見せながら、詠唱をする。

二人とも退く気はない。


レイペンバーの両腕が使えない今

レイペンバーが『土蜘蛛』を運用する魔力が切れるのが先か

サクラの体の限界が来るのが先か


それが勝敗を分ける



「『土蜘蛛』」

「『曇神の審判≪クラウド・ジャッジ≫』」


違う


どちらが最後まで諦めないかが


勝敗を分ける


第五章は四部構成の予定です。

そして第六章は現実編で三部構成にしていって、エピローグをつんで第二部終了という形にしたいと思います。

応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ