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異世界でもう一人の俺が暴れすぎてキチガ○と呼ばれている件について  作者: 浅き夢見む氏
第二部:激昂する乙女は剣と舞い、狂う咎龍人は最愛を想う<曇の奇術師編>
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第4章サクラと嫌われ者ドン・クラークpart3

最も人に嫌われもっとも人に好かれた人のお話を

スカイの戦闘能力は主に普段纏っている風によるらしい。

つまり外的魔術をすべて無効化する煉獄山では、本当に身体能力と野生の勘しか頼れるものはなかった。

しかも、人化している状態では幼龍程度まで実力は下がる。

こんなんじゃ、あの手強い優男は倒せないだろう。


「スカイ・・・ここまで怪我する前に逃げろよ」


俺の前に寝ているスカイは抵抗力を奪うためか、身体のあちこちの箇所が消失させられたらしく大量の出血をしていたようだ。

不幸中の幸いなのは、サニアの光魔法による治療が功を奏したようで今は穏やかな表情で眠っていることだ。


現在、俺達とドン・クラークは拠点を都市のはずれの宿に移していた。

ドン・クラークの護衛を考えると、魔法も満足に使えない煉獄山では刺客を迎え撃てないからだ。

それに監視の名目もあるため、モルロンド伯爵の手の者が宿のあちこちに潜伏している。

そうとはいえ・・・不思議なことに都市に入るまでは激しい襲撃が何度もあったというのに、既にこの宿に潜伏してから何日も経つ今、一向に刺客は姿を現さない。

こうなってくるとやはり決戦は死刑人の顔見世として、街中を練り歩く明日に備えているのだろう。

・・・そう、ドン・クラークが目覚めることのないまま、遂にその日を迎えようとしていた。


「坊主、、、今日は、、、何日だ?」


後ろから掠れた声がする。

振り向くと、ドン・クラークが青白い顔で立ち尽くしていた。


「起きたのか!?サニアがいたはずなのに、どうやってここまで来たんだ!?」


ドン・クラークはサニアが今の今まで別の部屋で治癒魔法をかけていたはずだと聞いていたのに・・・

ドン・クラークは焦点の定まらない視線のまま、しばらく黙っているとああそうだと口を開く。


「お嬢ちゃん、魔力枯渇になってる・・・それを伝えに来たんだった」

「!?」


ドンクラークを抱え上げ、部屋へ向かうとサニアが真っ青な顔で倒れていた。


「サニア!サニア!」

「おにい、、さん?ごめん、明日は満足に戦えないかも、、、」

「十分だよ!なんでこんなになるまで治癒魔術を使ったんだ!」

「・・・へへ」


ドン・クラークをおとなしく寝ているように言いつけ、サニアを抱き起こす。

サニアは全身の力が抜けているのかだらりとしていて、余計に体を軽く感じさせた。


「サニアは覚悟でやってたんだ・・・今は寝かせて少しでも回復させてやってくれないか?」

「シノン・・・」


いつの間にかシノンが部屋へ入ってきていた。

シスコンのくせにこういう時だけ落ち着いた口調のシノンは、俺の肩に手を置いた。

手には紙袋がある。

・・・そっか、食事の買い出し頼んでたっけ。

サニアを二人で別室に寝かしつけてから、再びドン・クラークの寝ている部屋に戻る。

しばらく時間が経っていた為かドン・クラークは安定した寝息を立てていた。

シノンと二人で食事を取りながら現状の整理をする。


「サニアのお蔭で皆の峠は越えたが、、、絶望的だな。」

「スカイは戦闘不能だし、サニアは魔力枯渇。護衛対象は死にかけ・・・せめてあの奇襲がなければもう少し状況はマシだったんだが。」


シノンが悔しげに唇を噛みしめる。

あの後、泣き崩れたピカオを取り敢えず奮い立たせ、ピカオの案内で抜け道を通って脱出したまでは良かったのだが都市に入る直前で再び襲撃を受けてしまった。

その時既に俺は武器を失い、大量の黒玉使用の副作用でボロボロ。

頼れるスカイも戦闘不能状態。

前衛がゼロという絶望的な状態だった。

仕方がないので『嵐曇魔術≪スーパーセル≫』を使用しなんとかここまで逃れた。


・・・逃れたまでは良かったのだが、その奇襲のせいで全員重傷。

サニアは今の今まで、俺達の治療をしてくれなければならなかった。

戦闘が厳しいのはスカイやサニアだけじゃない。

シノンは既に詠唱級魔術を二度使用しており、明日までに詠唱級一回と発動級二、三回使えば切れてしまうぐらいの魔力が回復するかどうかすら怪しいのだ。

俺もとっさに術式を組み立てたせいで『嵐曇魔術≪スーパーセル≫』の後遺症がもろに出ている。

身体が思うように動かない。


「・・・せめてもう一日あればいいんだが。」

「交渉はしてるんだけどな。」


明らかな異常事態だから、ドン・クラークの処刑日を変更してくれるよう試験官からモルロンド伯爵に頼んでもらっているんだが、公王様とやらの命令は絶対らしく延期はないそうだ。

それどころか死んだ時点でも依頼は成功とみなすんだから、お前らにはむしろラッキーだろというニュアンスのことまで言われた・・・


「敵はおそらくあの優男・・・あれの攻略法がなあ。戦ってみて実感するが、相性がくそ悪すぎる。」

「奇襲時にもいたな・・・あれはフリーギルドの人間らしいぞ。」

「フリーギルド?・・・ああ、私設ギルドか。有名なのか?」

「ああ、巷で有名な『モルトリオンド』ってとこの幹部らしい。名前は、、、コウ・レイペンバー。公営ギルドランクでは上級だったはず。」


アリアと同等かよ・・・道理で手強いはずだ。

後から回収してもらったシークレットソードを抜いて確認する。

本当に折れたとかそういう感じではなく、まさしく『なくなった』としか表現するしかない異様な傷痕だった。

やはりもう駄目になってる。


「こりゃもう駄目だよな・・・やっぱり。」


シークレットソードからくりぬいた装飾品の宝石を売っぱらって、その金で買った新しいレイピアを身につける。

ぶっちゃけ何の魔装加工もされてないただのレイピアだが、重さ・形状などの細かい部分を出来る限りシークレットソードに似せてもらった。

まあ、どんなレイピアを持とうがあの『手』の攻略が出来なければ意味ないが。

シノンが気を変えたいのか一度パンと手を叩く。


「まあ、プラスに考えれば奇襲に来た人間の大体の戦力を知れたんだ。対策を立てやすくなった。」

「シノン、、、そうだな。注意すべきなのはあの優男と、、、奇襲時にいたスライム使いか。」

「そうだな、、、要注意はその二人か。スライムは原則炎や光などの熱しか弱点が無いからな・・・どうするか。」

「上手くいくか分かんねえけど、俺の『曇の増成≪パンプアップ≫』で魔力を吸い取ってみるか。優男も、、、町中に被害を出すのは避けたいけど、最悪の場合は、手で消しきれないほどの雲を『嵐曇魔術≪スーパーセル≫』で呼び出して押し流すのも手だな。」

「うん、そうなると・・・私が他の奴らからドン・クラーク殿を守ることになるな。」

「すまねえな、、、頼り切る。」


シノンは気にするなと首を振った。

その時、ドン・クラークがううっと反応を示し始めた。

シノンと慌てて近寄る。。

ドン・クラークはその物音に気付いたのか目を開いた。


「うん?さっきのお嬢ちゃん?・・・じゃねえな?・・・お前・・・エリーか?」


どうやら意識がはっきりしてないらしい。

シノンを別の誰かに投影しているようで、エリーと語りかけながらドン・クラークは笑いかける。


「俺、、、頑張ったよ?もうすぐ、、、自分の意思ではなく、、、他人の手によって死ぬんだ、、、最後まで諦めずに生き抜いたんだから、、、君の所に行けたら、、、笑顔で抱きしめてくれるよね?」

「「・・・・・」」


ドン・クラークらしくもない、とても優しい言葉の口調だった。

何故か軽々しく話しかけてはいけないと思い二人とも黙っていると、ドン・クラークは流石に異常に気付いたのか段々意識をはっきりさせてきた。


「あ、、、、あ、、、、、、、、あ?サクラに、、、知らない顔の嬢ちゃん?・・・エリー見てねえか?」

「こいつはシノン。アンタの護衛に着いてもらう俺の仲間だ。」

「どうも」

「シノンか・・・髪形がエリーに似てたからつい昔を思い出しちまった・・・」


驚いたことに、、、ドン・クラークは泣いていた。

目からぽろぽろ涙を流し、鼻水をすすりあげていた。


「おい、大の男がめそめそ泣くなよ・・・アンタはもっと強いんじゃなかったのか?」

「そうだ!あんたの命は私たちが守る!気をしっかり持ってくれ!」

「あ?・・・ホントだ、泣いてるな俺。ちげえよ、死ぬのが怖くて泣いてるわけじゃねえ・・・今まで自分がしてきたことをエリーが・・・俺をどんな目で見るかが不安だったんだ。」


・・・ドン・クラークにとってエリーってどんな存在なんだよ?

自分の命以上にその人からどう思われるかが大事とか。


まるで如峰月桜にとっての朝日奈楓のようで


とてもとても、、、危なっかしい。


「エリー、、、どうすればよかったんだ?俺は君が望む世界を作ろうと、、、君が嫌う手段を使った。俺は、、、」

「ドン・クラーク、どうせ明日にはすべてが決まるんだ。もったいぶらずに教えてくれないか、そのエリーについて」

「・・・そうだな。エリーがどう思うか、、、他の人間の視点から考えてくれると俺も有り難いしな。」


ドン・クラークはぼそぼそと語り始めた。

もっとも嫌われもっとも好かれたドン・クラークの一生を創り出したエリーという少女のことを。






俺は一応、龍人だ。

・・・驚いたか?

龍人のお袋が人間の男と駆け落ちしたらしくて、俺は公国のある村で生まれたんだ。

知ってると思うが、龍人は元々体が弱い。

流石に龍人だってことはばれなかったが、昔はいじめられたもんさ。

そんな俺をいつも助けてくれた少女、、、それがエリーだ。


彼女は豪商の家系で比較的裕福な家系だったのか村のガキより一回り大きくて力も強かった。

それに気も強くてなあ。

髪なんて男みたいに刈り込んで、その頭でバッコンバッコン頭突きをかましてた。

・・・そんな強い彼女に正直憧れた。

俺の親父はただの鍛冶屋。お袋は体が弱くていつも寝込んでる。

そんな自分と比較して、なおさら彼女に憧れてたんだろうよ。


俺と彼女が10になる頃、大きな転機があった。

エリーの家が新貴族となり、領地が与えられることになったらしい。

それでエリーは家族と一緒に村を出ることになった。

エリーはその頃になると、体つきが女らしくなってきてな・・・村の男一同惜しんだもんさ。

おっと、失礼・・・ここにはお嬢さんがいるんだった。


話を戻すぜ。

エリーがいなくなってからというもの、悪いこと続きでな。

親父もお袋も悪い病にかかって亡くなっちまうし、土地はだまし取られるし。

村長の厚意で下働きしながら食いつなぐ惨めな暮らしをせざるをえなかった。

そんなころだった。


エリーが村を出て2年が経った頃、とある噂を耳にしたんだ。

エリーの身内が疫病にかかっちまったって噂だ。

初恋といってもいい彼女が困ってるんじゃないかと不安になった俺は、すぐに村を飛び出し彼女の元を訪ねた。

・・・ちがうな、ただ彼女に会いたいと思っただけだった。

ぶっちゃけ、天啓が舞い降りたんじゃないかと思ったもんさ。

それから、あの村へは一度も戻ってない。


運命すら感じて喜び勇んで彼女の元へたどり着いた。

その頃の俺は12歳。

子供だと油断してたのか簡単に彼女の住む屋敷に潜り込めたよ。

・・・そして、彼女に出会えた。


涙が出るほど嬉しかった。

彼女は会えなかった2年間でとても美しい少女に変わってたんだから。

気高く、、、そして賢く。


お互い旧交を喜び合ってから、彼女の現状を聞いた。

どうやら、親戚の助けを借りて今は彼女が当主としての仕事をしていたそうだ。

同じ貴族になったことがある今では、幼い少女を当主として全権を与えることを疑問に思うべきだったんだろうが、彼女は同じ年とは思えないほど賢かったし、俺も恋にやられて盲目だった。

今でも思うよ、なんであの時無理矢理にでも彼女を連れ出さなかったのかって。


それから二年間、俺は彼女の元で執事補佐として働いていた。

ぶっちゃけ彼女の側にさえ入れればどんな仕事でもよかったんだが、、、彼女は俺に教養をつけろってその仕事をしろって聞かなくてな。

そんなわけで彼女の仕事を近くで見る機会も増えたわけだ。


貴族時代の治世のコツも彼女のそれを見て勉強したんだ。

仕事の一つにエリーとのお茶会ってのがたまにあったんだよ。

そん時によく話題になったのが、『理想の政治』ってやつだ。

どこから仕入れたかは知んないが、彼女はいろいろ知識が豊富でな。


人が代表者を決め合って多数決で政治を行う王のいない社会とか

田を一時的に休ませることで田がより上質になるとか

馬よりも早く走る鉄の車輪の仕組みとか

借金をすることで逆に経済を活発にさせる方法とか

他にもお前さんがいた煉獄山の囚人に自分の食事を作らせることで、経費を削減するとか


当時はまだバカで冗談半分に聞いてたけど、、、彼女の理想にずっとついていきたいと願ったもんだよ。

そんなこんなで三年間。

本当に幸せな三年間だった。


その幸せが突然終わったのは、ある噂が立ち始めた時のことだった。

俺がここにきて三年目の春、ちょうどエリーは両親を失い塞ぎこみはじめた頃のことだった。

領主の身内が他国の間者らしいって、そんな噂が立っていた。


その頃になると、当主としても世間に認知され始めたエリーはすぐに噂の真相を確かめた。

・・・そして、その噂が事実で間諜は後見人である叔父だと知った。


エリーは泣きながら、叔父を責めた。

叔父はエリーの怒りに土下座で答え、必死に謝罪していた。

エリーも叔父の熱心な謝罪を受け、仕方ないと許すことにした。

俺は打ち首にして、今すぐにでも公王に突き出すべきだと言ったがエリーはこれ以上家族を失いたくないと俺に泣きながら叫んだ。


それで終わればよかったんだが・・・そんなに甘いもんじゃなかった。

公王の全権代理者が手柄をたてようと直々にエリーの領へとやってきて、真相を問いただしに来たんだ。

本来見過ごしてもいいような小さな事件だってのに、自分の手柄を大きく見せようと罪を誇張したんだ。

・・・そして、叔父が裏切った。

元々、いざという時のスケープゴートにでもするつもりで当主に据えたんだろう。

それぐらいスムーズにすべての責任は管理が行き届かなかった当主にあるとされた。


エリーは当主の座から引き摺り降ろされ、叔父が新しい当主となった。

力のない俺は、何もできなかった。

エリーのお蔭で発達したはずの領土なのに・・・あいつは我が物顔でエリーを屋敷から追い出した。

何より許せなかったのは、エリーのお蔭で豊かな生活が送れてるというのに、、、領民たちが今までの恩も忘れて裏切り者と彼女に石を投げたことだ。


彼女と泣きながら街を出た。

それからというものエリーは日に日に衰弱していった。

石の当たり所が悪く寝たきりになってしまったこともそうだが、彼女の精神がもう駄目だった。

俺に出来ることは、、、彼女の世話だけだった。


寝たきりになってしまった彼女は、笑いもしないし、しゃべりもしない。

でも不思議と、近くの丘から街を見る時だけは笑顔を浮かべて・・・それが無性に悲しかった。

彼女は争いが嫌いな故に、、、理想の政治を行えなかったんだ。

俺がもっと強けりゃなあ・・・そんなことばかりだったよ。


優秀なエリーがいなくなってからというもの、土地はドンドン荒れていってんのに彼女はただ笑うだけ。

そんなのってねえよな。

世界はなんで彼女にこんなに厳しいんだ。


そして、、、世界は彼女の安寧さえ汚した。

あのクソ叔父は、自分の糞みたいな治世に不満が高まってきているのを知ってとんでもない噂を流しやがった。


前領主のエリーは実は魔女で、この土地に悪い呪いを流している・・・


ある日街に買い物に出て帰ってみると、俺と彼女が住んでいた家が燃やされていた。

そして、彼女の最後を目撃した。

魔女裁判に掛けられて、街の広場で火刑にかけられてたんだ・・・


彼女はもう何もしゃべれないはずなのに、クラーク!クラーク!って喉をつぶすぐらい大きな声で叫んでいて・・・俺は・・・俺は・・・


エリーをこんな目に合わせた街を恨んだ。


コイツラを殺したい、自分の弱さが恨めしい・・・そんな感情が腹から爆発するようにこみあげて、、、視界が真っ赤に染まっていた。

気付いたら、、、龍人の証である龍応石が肩からポロリと落ちていた。

その瞬間、体の重りが吹っ切れたかのように全身が軽くなってな、、、目の前の人間を引きちぎっていた。


もともと俺の本質能力は、観察眼だったんだが・・・龍応石を取って龍人でなくなったことによって俺の本質も変わったようでな・・・

気付いたときには町が一つなくなっていた。

それからはお前も知ってる通りだ。


街からいち早く逃げた叔父を殺すために、悪の全てを掌握し

エリーが死ぬ原因を作った、当時公王の使者であった今の公王の兄貴を殺すために今の公王の権力争いを手伝い

エリーが好きだったあの土地を取り戻すために、あの土地の伯爵になった。


多くの人に非常だと罵られたよ

多くの人に名君だと褒め称えられたよ

多くの人に英雄だといわれたよ

多くの人に野蛮だと陰口を叩かれた


でもそんなのどうでもよかったんだ


エリーが望んだ世界を再び作りたかっただけなんだから。


・・・やり方はエリーが最も嫌った暴力だがな


そんなある日、彼女が今の俺をどう思っているのかが急に怖くなった。

だって、どれだけやっても俺のもとにエリーは帰って来ないんだ。

エリーにもし非難されているとしたら、俺は今まで何をやってたんだ?

怖くて伯爵であることが出来なくなった。


そんな時、モルロンド伯爵が王国の使者ともめたって話を聞いた。

都合がいいと思った。

俺が責任を被ってやれば、伯爵でいなくて済むんだから。

残された領民?

エリーがいないのに何で気にする必要がある?

自分の命?

自分で命を絶つような真似をすれば流石にエリーに怒られるだろうが、誰かを庇ったっていう美談なんだ・・・むしろ褒めてくれるだろう。


「そんな感じでモルロンド伯爵と話をつけ、見事に今に至るって訳だ」

「「・・・・・・・・・」」

「ふう、、、長い話になっちまったな。嬢ちゃん、悪いが酒を買って来てくれないか?エリーのことを考えると今夜は素面でいられそうにない。」

「あ、、、、ああ。」


シノンが部屋を出ていくと、彼は震える手でタバコを手に取った。

曇の魔術で軽く擦ってやり火をつけてやる。


「悪いな・・・」


ドン・クラークは涙でぐちゃぐちゃの顔で紫煙を吹かす。

俺は、、、涙をぬぐう事すらしてやれなかった。

彼になんて声をかけてやればいいか、、、どう接してやればいいか分からない。

出来るのは、共同生活の間で条件反射にまで浸みつけられたタバコの火つけ。


それだけ


「サクラ・・・」


ドン・クラークが涙を服の裾でぐいっと一気に拭いながら、声をかけてきた。


「何?」

「俺みたいになんなよ。」


ドン・クラークは遠い目をしていった。

俺はその意味が分からなかった。

こんなにカッコいい男みたいになるななんて、、、何でだよ。


「何でだよ!アンタかっこいいじゃねえか!好きな女に一生をかけれるなんて!そんな漢どこにいるよ!」

「ちげえよ・・・」


俺が胸ぐらを掴みあげて、怒鳴りつけるがドン・クラークはいたく冷静に俺の言葉を跳ね除けた。


「別に好きな女の為に一生を使おうが、半端に関わろうが結構。そうじゃねえ。」

「どういう事だよ・・・」

「自分で決めたことが出来たかどうかだ」

「・・・は?」

「俺の人生は、彼女がしそうなこと、、、彼女が喜ぶであろうことを想定して積み上げてきた・・・それが今だ。」

「・・・」


いつの間にか胸ぐらから手は離れていた。

ドン・クラークは話し続ける。


「今・・・彼女がどう思うかと死ぬ間際になってずっとびくびくしてやがる・・・サクラ、男なら人のことなんて考えず自分で決めたことだけをやれ!そして自分が決めたことに絶対後悔すんな!・・・俺みたいな情けねえ奴にならないでくれ。」


もう疲れた・・・酒が来たら呼んでくれ


そういってドン・クラークは眠りについた。

部屋から出ざまに、彼の寝顔を見る。

その顔は、、、あまりにも不安で憔悴し切った顔だった。

そんな彼の顔は、、、初めてだった。

そして、、、一番見たくない彼の姿だった。


「サクラ、、、」


シノンがいつの間にか帰ってきていたようだ。

シノンが持ってきていた酒を枕元に置き、部屋を出た。


「サクラ、、、彼は死にたいそうだ。言いにくいが、、、元々死刑なんだし、、、私たちが頑張っても、、、」

「シノン、それは正しい・・・」


シノンがとても悔しそうに言う言葉はとても正しい。

でも、、、間違ってる。

ここで自分を曲げれば、、、絶対後悔する。


後悔してでも賢い道を選ぶ


それが中級冒険者になるという事だと、ココノハ村で言われた。

俺だってここで無理して無数の刺客と戦うことが正しいこととは思えない。

・・・でも、俺は主人公として賢い道ではなく自分が正しいと思うことをしていくって高らかに宣言した。

理由なんてこれだけで十分だ。


「俺は、、、あの人をみすみす殺させたりはしない」


シノンがため息をついて首を振る。


「短い付き合いだが、、、サクラはそういうと思った・・・だから私はお前を信用しよう。もう寝る・・・明日は任せておけ。」


シノンが妙に頼もしい様子で自分の部屋に戻って行った。

剣の柄を持つ手が興奮で震えるのが分かる。

間違いない、、、俺はこの仕事に誇りを持ってるんだ。

これから死んでいくことを既に受け入れている人の寿命をただ延ばすだけの仕事ではあるが、この護衛任務は意味がある。


最高の男の最後の名誉を守れるんだ。

彼はその辺の有象無象に殺されるなんて不名誉を得て良い人間なんかじゃない。

最後は投げやりだったかもしれないけど、、、多くに人に恨まれ、、、貶されている人だけど、、、桜と同じように一人の少女の為に一生をかけたすごい人なんだ。

自分のことは何一つわかんないけれど

彼の最後の花道を用意したい、、、この気持ちは自分で決めたことだ。


自分で決めたことなら文句ねえよな?ドン・クラーク?






そして夜は明けていく


次回第五章はそのまま異世界編で進める予定です。

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