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異世界でもう一人の俺が暴れすぎてキチガ○と呼ばれている件について  作者: 浅き夢見む氏
第二部:激昂する乙女は剣と舞い、狂う咎龍人は最愛を想う<曇の奇術師編>
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第4章サクラと嫌われ者ドン・クラークpart2

モルロンド伯爵直轄領。

『王国』と国境沿い隣接する交通都市であるこの場所は非常に賑わいを見せる大きな都市だ。

中級冒険者試験を受けるためだけにここに滞在するつもりだったが、こんなに賑わってるとは思いもしなかった。

ココノハ村では人間が多かったが、この都市では獣人、トカゲっぽい人、エルフ、ドワーフと多くの人間がいた。


公国の関所は他の国より緩いらしく、公国自体もアラルミア大陸のほぼ中心に位置するためほとんどの国に行くためにはまずこの国を通っていくことになるからだ。

ドン・クラークの薦めにより休日をもらった俺は、多くの行き交う人を見ては異世界ならではの服装、外見などに目を奪われていた。


「あまりうろちょろするなよ、サクラ。優先順位はサクラの兵装を整える事なんだから。」


シノンは普段は皮鎧でがっしりと締めているのに、今日は緩いワンピースみたいなのを着ている。

水色がメインなのは、彼女のこだわりだろう。

そんな感じで今日は服装だけなら休日だってわかってるはずなのに、なんで彼女はこうも真面目なんだろうか?


「今日一日丸々あるんだから大丈夫だって。時間はあるし、金もある。久しぶりのシャバなんだからもうちょっとゆっくりさせてくれよ。」

「しかし・・・」

「てか、スカイとサニアは?」

「スカイは宿で一日中ねてるって言ってたが・・・サニアは起きれたら起きるとか」

「あいつら・・・俺が牢獄であくせく働いてる間、何してた?」

「寝てるか、、、買い物してるか?」

「ひどい!ひどいよっ!」

「だってゴブリン盗賊団の一件で失った魔力がまだ回復しきれてないし、装備の修繕用具も買い足したかったし」

「・・・うん、ごめんな。ちょっと被害妄想強すぎだわ。」


意外とみんな真面目に働いてくれていたようだ。

牢獄で意外と精神に来ていたようだ。

スカイはともかくシノンやサニアは真面目に俺が出来ない部分をいろいろしてくれていただろうに。

良く辺りを見渡せば、ここは当日通ることになる護衛ルートだ。

・・・中級試験に合格したいのは俺だけじゃないもんな。


「てか、回復率はどんくらいだ?俺やスカイは魔力量が常人より多いから全然問題ないけど、二人は?」

「私もサニアもゆっくり時間をかけれたから、十分回復できたよ。」

「そっか、それならよかった。」


どうやらシノンとサニアは魔力量も回復率もそれほど大きくないようだ。

常人の魔術師は大体詠唱級魔術1、2回でガス欠になるぐらいで、何日もかけて回復するようだ。

不便なもんだ。


俺の場合は『自分であり自分でない者≪アナザー・ミー≫』の効果の一つ『魔力供給バイパス』で桜の魔力をもらえるからそんなにやりくりに苦労したこと無いし、特殊体質なのか一晩寝れば回復するからそんな心配したこと無い。

・・・なにこのチート。

なんか自分の考えで周りを考えてる節があるな、反省しなくては。


「シノン、大体の店回ったんなら鎧扱ってるとこ案内してくれよ。」

「そうか、そっちの鞘を先にかたずけると思ったんだがな。」


シノンが俺の鞘のみの方を指さす。


「これ良い鞘らしいからな。どうせだったら、良い鍛冶師がいるので有名な龍人の郷で剣を作ってもらいたいしな。これもそれなりには気にいってるし。」

「シークレットソードを・・・気にいってる?もしや、魔力量がカスなのか?」

「そういう意味で気に入ってるわけじゃねえよ!?恩人からもらった大事な剣なんだよ!」


例え、粗チ○や低身長を隠すための道具と同列のシロモノだとしても、アリアからもらった剣だから最後まで大事にしたい。

・・・ま、個人の事情だけど。

行商人がバザールを開いている区間を通り過ぎ、工業区間へと入っていく。

そこに入っていくと客層なども変わっていくのか、ドワーフや冒険者達の割合が増え金属や火の匂いが増していく。

シノンの格好がぶっちゃけ不釣合いだが、彼女はそんなことなど気にしたふうもなく、慣れた足取りで一軒の店の前で立ち止まった。


「・・・気をつけろよ?」

「・・・おい、凄く不安になるこというんじゃねえ。」


シノンは逃げようとする俺の腕をがっしりと掴み(微かな胸の柔らかさを感じて抵抗を止めた)、ドアを押し開く。


「いらっしゃいませ!ご主人様!お嬢様!」


異世界に来て、、、防具屋に来たはずなのに、メイド喫茶に来てしまったみたいです。

シノンをジト目で見ると、彼女は一応街一番の防具屋なんだ・・・と呟いた。

猫耳の女の子がニコニコしながら寄って来た。


「シノンおねえちゃん!また来てくれてありがとうニャ!」


・・・シノンさん?

あなた店員さんに『おねえちゃん』とか呼ばせてるんですの?


「ち、ちがう!いや、違わないんだが、ちょっと待ってくれ!」


シノンが慌てたように手をブンブン振る。

いや、でも、、、あなたシスコンだし・・・

そんなこと考えてたら、犬耳のメイドっ娘が俺の裾をぐいぐい引かれた。


「ご主人様は呼び方のオーダーはございますか?くそ犬、道帝、エロガキ、冒険者(笑)などがございますが?」

「なんでM男が喜びそうな名前なんだよ!?ご主人様でいいよ!」

「つまりご主人様はいたいけな美少女にご主人様と無理矢理呼ばせることに性的快感を覚えるという事でよろしいですか?」

「・・・いいよ、それで。」


うわあ・・・と息があったかのように身を寄せ合い始めたケモ耳美少女メイド達を見て結論を下す。


「よし、別の店にしよう。」

「「「「「「「「「!!!!!?????」」」」」」」」」


なんでって顔してもだめだからな?



あの後、最終兵器らしき超美幼女に「もう、、、帰っちゃうの?」と言われたため、他のメイドさん達とシノンからのないわああという視線を省みることなく俺は席に座ることにした。

がっつり喫茶店のような雰囲気の店の中にケモ耳メイドたちが普通に接客している。

・・・異世界に来たはずなんだが、なんだこりゃ。


「ほら、メニューだ。」

「・・・おお、ってメニュー?」


シノンから渡されたメニューを見てみると、、、まぜまぜ♡とかあちゅあちゅ♡とか挙句の果てにはご主人様セットなんてわけのわからん食事メニューだった。

・・・防具買いに来たんじゃねえの?

しかも、普通の飯処よりも高くないでござるか?


「シノン、、、説明をくれ」

「・・・ここの主人はかなり多忙でな。待ち時間をつぶせるように、工夫していたらこうなったらしい。」

「・・・で?なんでお姉ちゃんなんて呼ばせてんの?」

「さ、サニアが・・・(涙目)」

「そうかい。」

「・・・」

「・・・」


どうしよう、話題が尽きた。

俺は気分落ち込んでるし、シノンはこういう時に騒ぐ人じゃないから空気が重い。

・・・あのメイド共は下ネタしかしゃべんないからな。


二人してどよんとしていると、メイドさんの一人が失礼しますと言って自分で持ってきた椅子に座った。

よく見れば、さっきろくでもない接客をしてくれた犬耳メイドさんじゃないか。

彼女はニコニコしながらどこからかメモを取り出した。


「本日はどういった御用件ですか?採寸から在庫の確認までなら私たちで出来ますが?」

「あ、ここは真面目なんですか・・・じゃあ、俺用の全身鎧を見たいんだけど。」

「え?その体格で全身鎧?無理でしょ。ハン!」

「お前、真面目にするかしないかハッキリしろよおおッツ!」


鼻で笑われたので、流石に泣きたくなってくる。

一応日本ではガチムチよりすっとしてる方が評価高いんだからなっ!

なんか悲しくなってきたしやる気も消えかけなんで、取り敢えず要望だけ言ってしまう。


「中級冒険者として恥ずかしくない前衛用の防具で、軽くて丈夫なの・・・あ、見栄えが良い方がいい。」

「見栄えって、、、ご主人様予算は?見た所、ご主人様らしさが全然ないですが。」

「笑顔で何でそんな毒を吐けるのかが非常に気になるぜ・・・公国金貨100。」

「・・・・・・しばらくお待ちください♪ご主人様♪メイドのアロロがすぐにおすすめの品をお持ちいたしますね!」

「「態度が急変した!?」」


メイドのアロロが機嫌よく店の奥に入っていく。

これは、、、上客の時だけ機嫌が良い店?

ろくでもねえな!


「シノン、、、本当に街一番なんだろうな?」

「う、売上的には・・・」

「どんだけこの街の冒険者はドMなんだよっ!?」


非常に不安になっていると、食事が出てきた。

シノンの元にはぐるぐるまきまきぱすた、俺の所にはぺこぺこいえろー♡である。

シノンは普通に食べてるけど、、、俺のこのオムライス、、、勢いで頼んだが、、、何の卵なんだろう?

お金持ちのご主人様♡とか書かれてるソースをちゃぱちゃぱスプーンで突ついてると、シノンが口を出してきた。


「食わないなら、くれ。あーん。」

「・・・ん」


口うるさいくせに、意外と小さな唇に小さく切り分けたオムライスを運んでやる。

シノンがあーんと顔を近づけてきたせいで、必然的にじっと見てしまう。

白い髪と同じくらい色白の肌は剣士のくせに傷が全くなく、綺麗すぎる。

唇もぷくっとピンク色に染まっており、なんかエロい。


「ほら、手が止まってる・・・あーん。」

「!?・・・ああ、ほい。」


なんか、むず痒い時間が過ぎていった。


「お待たせしました!」


結局シノンはぺろりと二人前を片付けてしまった。

まあ、冒険者の前衛は体が資本だから意外と女性でも食べるしな。

俺ですらここに来てから食事量増えてるし。

・・・いや、スカイほどは食わねえよ?

食事が終わったのを見計らっていたのかアロロとニ、三人のメイドがカートに鎧を何式か積んでもってきた。


「そういえば、鎧着たことあります?」

「あ~、無い」

「そうですか、、、シノンおねえちゃんは?」

「・・・(赤面している)、だ、大丈夫だ。私が教えるから。」

「かしこまりました!ご主人様!シノンおねえちゃん!じゃあ、この平均的な金属鎧から!」


シノンやメイドたちがキャッキャッ言いながら取り付けてくれたそれは・・・動けないほど重かった。

西洋の騎士のようなそれは幾らなんでも重すぎた。

てか、顔まで隠されて暑苦しすぎる。


「やっぱり無理でしたねえ・・・」


アロロは当然といった顔でうなずく。

・・・ちょっと、イラッと来たので強がって見る。


「ま、魔法で身体強化すれば、動けるさ・・・」


けど、俺のその言葉に対して答えは大きなため息だった。


「戦わない間も魔力を使う気ですか?魔力切れで逃げる時になったらどうするんです?」

「う・・・」


アロロは仕方ないとぱっぱと俺から鎧を取り外す。

シノンが苦笑しつつ俺の肩をポンポンと叩く。


「私も初めて鎧を着せられた時は、まず同じことをまずさせられたよ。防具の基本は、自分が常に動ける重さであるべきだって。」

「じゃあ、全身鎧は無理なのか・・・」

「そうでもないです。」


アロロが割り込んできたので、二人してそっちの方を見る。

アロロはちっちっちと指を振りながら偉そうに語り始める。


「確かにお客様はあらゆる意味で『平均的な』金属鎧は着れませんでしたが、この店はあらゆる意味で・・・本当にあらゆる意味で飛びぬけていますから!全身鎧なら普通の鋼じゃなくて、魔物の毛皮を使った皮鎧や希少金属を用いた鎧を使えばいいんですよ!」

「ほぉ・・・なんでそれを最初に言わない?」


超!肩が凝ってしまって体がダル重いんだけど。

アロロはその言葉をふっつうにスルーしやがって鎧をニ、三見せる。

全てシノンが着ているようなのとは、色が違いカラフルなのばかりだった。


「冒険者でしたら隠密行動することもあるでしょうし、金属同士こすれる音を出してしまう金属鎧はよろしくない・・・となると皮鎧がよろしいですね。ダークウルフ、レッドオーガ、ゴールドオーク・・・公国金貨100の予算で、軽くて丈夫で・・・あと見栄えが良いとなるとこの辺ですかね?取り敢えず、レッドオーガ着てみますか。」


金属鎧よりは服のような感覚で着れるそれは、意外と軽く・・・柔らかい。


「おい、、、これ大丈夫なのか?こんなにぐにゃぐにゃで」

「あ、魔獣皮製の皮鎧ははじめてですか、ご主人様?魔獣は魔力を流すことで自分の毛皮の硬度を上げており、それを応用したのがこの皮鎧なんです。」

「魔力を流す・・・ね。」

「おお!ご主人様、意外と魔力の量、質ともに高いようですね!これなら十分すぎる程です!」


シノンやアロロが感心したかのように、金属を軽く凌駕するぐらいの硬度になった皮鎧をコンコン叩いている。

俺もなんとなくペタペタ触って確認してみる。


「・・・」

「どうしたんです?ご不安が?」

「あ、いや、、、これ以上の硬度を出すにはどうしたらいい?これ以上魔力を込めたら壊れそうなんだが」

「!?レッドオーガ以上のクラスの魔獣の皮で作るしか・・・いえ、これ以上の魔獣の皮はおいてないです。三か月ほど待っていただけたら、なんとかなると思いますが。」

「そっか、、、全力『黒曇衣≪コート≫』の三分の一の硬度しかねえからなあ・・・ちょっとキツイかも。」

「三分の一!?・・・その『黒曇衣≪コート≫』並の皮鎧は・・・最低でも公国金貨2000は必要ですね。」

「・・・まじかあ。しょうがないかなあ。」


周りがドン引いているが、何となく納得もしていた。

アリアがいつも戦闘時は魔法で造ったローブを纏っていたのはこのためだったんだろう。

魔力が切れれば裸に近い危険な状態になるし、防御に貴重な魔力を裂く羽目になるが・・・強度はそれらのデメリットを一掃する。


・・・困ったな。

冒険者として舐められない為に防御力を捨てるとか本末転倒だ


「サクラ、、、前衛の鎧装備は暗黙の了解であって、上級冒険者の中には裸で戦ってるやつもいるそうだ。」

「・・・暗黙の了解どころか、社会のルールをガン無視してんなその人。・・・そうだ、『黒曇衣・部分強化≪スモール・コート≫』」


皮鎧として装備しているのは胸当て、ガントレット、脚甲、ブーツ。

出てきた黒雲が鎧のない部分をカバーし、見た目上はコートの上から皮鎧をつけているようにも見える。

全体的な防御力は低下しているが、魔力の消費コストは大幅に下がっている。

・・・うん、これなら一日中維持できる。


「見た目はどうだ?全体的に足りない部分を補ってみたんだけど?」


シノンたちは呆然とした顔でそれを見ている。

アロロがハッと気を取り戻したかのように目をぱちぱちすると急に声を張り上げた。


「それでいいじゃないですか!なんでわざわざ買いに来るんです!?」

「いや、防具屋がそれいっちゃあいかんだろ・・・」

「防御力より評判とってちゃ意味ないですから!」

「まあねえ、、、とりま、中級冒険者試験の間は評判とかもあるしこれにしとくよ」

「サクラ、、、お前の体の方が試験の合否の何十倍も大事なんだぞ?」


シノンが心配そうな顔でそういってくる。

・・・ま、この皮鎧も公国金貨100に見合うだけの頑丈さはあるだろうし、まあ大丈夫だろう。

アロロは呆れたようにため息をつくとまあいいですと言った。

そして、俺の方を笑顔を向けながらこう言った。


「お買い上げでよろしいですか?」

「あ、、、じゃあ、お願いします。」

「ありがとうございます、ご主人様!ちなみに当店ではただいまサービス期間としてメイドたちが愛情をこめてお客様のご購入された皮鎧に♡の刺繍を施しておりますがいかがですか?」

「・・・結構です。」

「え~、ご主人様ノリ悪い・・・」


防具屋のくせに、なんでメイド喫茶にしたし・・・

最後までそうツッコミを入れざるを得ない場所だった。

後、美幼女メイドがまた来てくだちゃいごちゅじんちゃま!と言ってくれたのでまた行こうと思っています。

・・・冗談だよ?


異世界で日本文化もどきに触れ合い、新装備について何の感慨ももつ余裕がなかった。

ま、浮かれることがないだけましか。

シノンも疲れ切った顔でぼうっとしている。

そういえば前に来た時に注文でもしていたのか、彼女の手には包みがある。


「シノン、それ何?」

「ああ、手数を増やそうと思ってな。ちょっとした魔道具だよ。」

「へえ・・・ん?あれ、サニアじゃね?」


黒雲を張り巡らせていたために感じた方を見れば、サニアがぴょこぴょこ走ってきていた。

運動不足のくせに、長い髪をばさばさ動かしながら走ってきている。

・・・あ、転んだ。


「サニアあああぁぁぁぁっ!?」


シノンが必死で駆け寄っていく。

・・・サニアもサニアだが、シノンのシスコンぶりも大概だ。

所でそこに意外な出来事が起こった。

シノンが駆け寄って、助け起こすがサニアがそれを振り払ってこっちに駆け寄ってくるのだ。


「どしたん、サニア?」


息を切らせて駈け込んで来た彼女に尋ねてみる。

サニアは必死な表情で叫んだ。


「煉獄山が何者かに襲撃されてるって!スカイが今向かってる!」




煉獄山から煙が上がっていた。

魔法が使えない環境下でも、道具内で魔力の流れが完結する魔道具は使えるようだ。

魔法を使えない無力な囚人たちが逃げ惑う中、様々な奇怪な道具を持ち運んだ冒険者たちが走り回っていた。

どっちが悪人だ・・・治安を乱していいとでも思ってんのか?


「青玉!」


一つだけなら、発動級にも劣る。

でもそれが十なら?

二十なら?

全ての青玉を叩き割れば、周りの火種ぐらいは消せる。


「何だてめえは!」


商売敵とでも思ったのか、大砲のような魔道具を持った冒険者の一人が炎弾をぶっ放してくる。

曇魔術の使えない今、レッドオーガの皮鎧に防御は頼り切ることに・・・

いや、

腰の鞘を引き抜き、炎弾に叩き下ろす。


『七番鞘・常識外』


その能力は魔術までも斥く、防御出来る鞘の形をした魔道具。

簡潔だからこそ、魔力さえあればどこまでもその力は増していく。

炎弾が放たれた時よりも、こちらの魔力を加えて、更に強力になって跳ね返る。

その結果は見届けなくとも明らか

悲鳴が聞こえるころには、既に俺はその場を走り去っていた。



「ドン・クラーク!・・・ここにもいない。」


とりあえず中心部の彼の牢に来てみたが、いない。

落ち着け、、、ずっと行動を共にしてたんだ、、、

もし何もないときのこの時間だったらいつも何してる?

・・・その周辺部にいるはずだ。


「・・・食堂?」


タバコが切れそうなときは、いつも食堂に一番のりで駆け込んでいた

そして、いつも飯の時間ぎりぎりまで刑務作業してるんだから、その辺で逃げ込めそうな場所は食堂しかない。

・・・間違いない。


「案内してくれない?」


後ろに振り向きざま鞘を振りぬく。


「っと、アブナイ!?・・・さっきの緑色の髪の女の子もそうだけど話は聞こうよ!?」

「!?」


全ての物質及び魔術を弾く鞘を素手でつかみ取られていた。

・・・あの試験官、不良品を掴ませやがったのか?


「白玉」

「うわっ!?」


取り敢えず白玉により至近距離で『音』と『光』の爆弾を炸裂させた隙に距離を取る。

ここでようやく相手の姿を見ることが出来た。

俺よりニ、三歳年上ぐらいの眼鏡が似合う青年だった。

運動というよりは読書が好きそうな感じの青年だった。

彼は両手を前に突き出す特殊な構えを取りながらこちらに笑いかけた。


「君、『内在活性型身体強化』出来ないみたいだね。だからそんな魔道具を使わなきゃ僕の手を振りほどけなかった。・・・その割にはそれは魔道具『七番鞘・常識外』。実力と魔道具が釣り合ってないね。」

「・・・なんか偉そうでムカつくな。黒玉」


一個じゃ絶対足りなさそうだったので、全部の黒玉を体にたたきつける。

・・・体に無理はかかるが、これで一時的に『黒曇衣≪コート≫』と同等の能力は発揮できるだろう。

シークレットソードを引き抜き、右手に『七番鞘』を構える。


「どうやらドン・クラークの居場所を知ってるようだが教えてくれる気は・・・?」

「シッ!」


自分の手札が魔法玉、鞘、剣術しかない現状。

最も信頼できるのは如峰月桜の全てが詰まった剣術。

『銀閃』

銀の奔流が目の前の男の肩へと流れていく

獲った!


「避けれないなら、防げばいい!」


優男は肩の前にとっさに右手を寄せる。

しめたもんだ、これで利き手一つ奪える。


ばしゅう


!?

呆然とする俺の眼の前に『無傷』の右手が迫る。

身体強化で高速化した腕で、ありったけの赤玉を掴みばらまく。


「今度は火の玉!?いくつ魔道具を持ってるんだ!?」


優男が俺に触れようとしていた腕を切り返して距離を取り直す。

その隙にありったけの赤玉、白玉をばらまきまくる。

音、光、炎、熱、煙

ありったけの攪乱要素がたった一室の中で暴れ回る。


「桜!見といてくれ!」


それだけ相棒に告げて、部屋から飛び出す。

そして、使えなくなったシークレットソードを少しは為になるかと一応投げ込んでおく。

黒玉の身体強化は・・・まだ残ってんな。

食堂へと俺は走り出した。


その一方で『鳥の眼』を利用した桜の目でその後の様子を見ていた。

まず、優男は一番の脅威である目の前に浮かぶ火の玉をすうっと払っていった。

その瞬間、火の玉はあっさりと消化されていった。

いや、それだけじゃない。

あんなに昼間のようにビカビカと光っていた光までもがいつの間にか薄れていた。


音だけは残っていたようだが大して問題ではなかったようだ。

彼は辺りを見渡し俺がいないのを確認すると、ため息をついた。

彼はそのまま、部屋の扉に手を触れた。

能力が分かった・・・手で触れた部分の物を魔術・物質関係なく消し去る力か

・・・撤退してよかったようだ。


本来手のひらを貫くはずだったシークレットソードは今までの半分くらいの長さにまで短くなっていてその表面はやすりで磨かれたかのようにすべすべになっていた。




体の皮膚にのみ魔法効果を与える本質能力なら、ギリギリここでも発動可能か

曇の魔術が使えるのならまだしも、今の段階では最も相手にしたくない奴だ。

触れたものをなんでも消し去るとか、肉弾戦したら負け決定じゃないか。

魔法玉もバーゲンセールみたく使いきってしまったし。

黒玉の効果も段々切れてきた・・・


「ドン・クラーク!」

「!?さ、サクラさん!?どうしてここへ!?」


食堂へ這う這うの体で転がり込むと、そこにはピカオが血の付いたナイフを握りしめて立っていた。


「ドン・クラークは!!!」

「・・・さあ」

「その、ナイフは?」

「・・・さあ」

「誰の血だ?」

「・・・さあ」


目線が一点から動いてなかった。

わざとなのかそうでないのか、どちらにしてもなんとなくそこだと分かった。


「っ!」

「あ、待って!」


ピカオの制止を振り切り戸棚を押し開く。

そこにいたのは、ナイフにより腹部に傷を受け眠るように気絶したドン・クラークだった。


「アハハハハハハハハ!誰かに殺されるぐらいなら、腹心であるこの俺に殺された方がましだろうよ!俺が誰にも邪魔されないようにやっと今日この場を創り出したっていうのに!・・・本当にアンタは邪魔だなあ!」

「・・・」

「家族を捨ててまでついていったのに!この人は護衛に俺ではなく、『内在強化』すらできない中級冒険者を選びやがった!そんなに死にたいんなら、、、俺が殺してやるさっ!あの人の名誉は俺が守るんだっ!毒入りタバコをスパスパ吸わせてなぁ!痺れとかで分かんなかったのかねえ!それとも、毒で死ねるとでも思ってたのかねえ!あははっはははははははははっはhhっはっは!」

「・・・アンタの為に、説得してくれって頼まれてたんだ。」

「あ?」

「あんたの家族に全部俺のせいだから、ピカオのことを許してやってほしいってお願いしてくれって・・・頼まれてたっていってんだよお!」

「・・・へ?」

「近づけなかったのは、、、アンタの今後の為だろ?いつまでも、大罪人の腹心なんて肩書背負って生活できるわけない。アンタに、、、アンタに生きて欲しかったから、、、ドン・クラークはアンタに護衛をさせなかったんだろ?」

「そんな・・・うそ・・・だろ?」



結局ドン・クラークは一命をとりとめた。

彼が目を覚ましたのは死刑執行日の前夜。

もう本当の意味で最後の夜だった。

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