第2章サクラと白髪の姉妹part1
アリアが全く説明してくれなかったせいで、俺はこの世界の地理について今まで全く知らなかった。
今思うと、アリアに教わったことって魔法だけだな。
本当に、あの敬語美少女はダメ人間である。
・・・気を取り直して、地理の話だな。
自分の世界に名前をつける発想を持つ人はいないから、この世界の名前は分からない。
取り敢えずサクラ=レイディウスこと俺がいる世界を『異世界』、本人格の如峰月桜がいる世界を『現実』としておこう。
この異世界の全体を示した地図は持ってないから、俺の持っているココノハ村で買った地図で分かる範囲でしか俺も分かんないし。
地図によるとココノハ村も、モルロンド伯爵直轄領も同じ大陸上の同じ国上に存在する。
大陸名はアラルミア大陸、その中の『公国』というところに、俺は今いるらしい。
飛龍様も人間の情勢には詳しくないのでよく分からないが、アラルミア大陸には他の国がまだたくさんある。
あまりに多くの国がこの大陸内でもひしめき合ってるので、ちょっとの刺激で一気に戦争になっちまいそうだ。
実際、ココノハ村から南東に約一か月ほど進んだ距離にあるモルロンド伯爵直轄領も『王国』とやらと接しているようだ。
旅の間に立ち寄った村でも、モルロンド伯爵直轄領と王国間で一種触発の自体が半年前に起こったとか聞いている。
どうやらモルロンド伯爵と公王さんとやらの英断によって、戦争は避けられたようだが。
ま、今までのココノハ村などの田舎などでは出なかった『多国間』、『身分差』、『紛争』などのまるで現実をそのまま写し取ったかのようファクターがサクラのいるこの異世界でも出始めたってのは確かだ。
そんな現状を一番強く映し出している場所でもあるモルロンド伯爵直轄領。
『王国』と国境を合わせるもっとも緊張しやすい地帯であり、『公国』内でも有数の大都市だ。
国境沿いに有る為に、多くの人間が滞在する交通都市であるモルロンド伯爵直轄領。
当然、この都市には多くの冒険者が集まる。
ココノハ村も辺境にしては大きかったが、ギルドの規模だけでもココノハ村の約10倍。
常駐冒険者だけでも3000人を上回るこの冒険者ギルドモルロンド伯爵直轄領支部。
中級冒険者資格取得試験の開催が出来る程に大きな規模を持つギルドだ。
「一体どういう事だ!話が違う!」
都市の中でもかなり大きな建物の部類に入る冒険者ギルドのロビー中に一人の女性の怒号が響く
相対する女性のギルド職員もたじろいでいた。
怒りに震える短髪の白い髪の女性へ、ギルド職員は震える声で説明に入る。
「冒険者達から連絡がありましてあなた方より、良い条件のパーティーに誘われたらしく違約金を支払ってキャンセルしたのであります。違約金もこちらに。」
実は白い髪のこの少女と中級冒険者試験を組むと約束していた冒険者達が、直前になってパーティーを放棄していたのだった。
本来こうした突然のパーティー解散通知など冒険者としての評価を下げるだけなので滅多な事では起きない。
しかもこれが初めてではない・・・これで何度目だ?
違約金と簡単に払っているようだが、違約金だってクエストを何度かクリアしてやっと揃えられるような額なのだ。
それを越えるだけのいい条件で、しかも『自分達と組もうとしていた冒険者たちだけ』がこう何度も誘われるなんて普通は有り得るはずがない。
絶対にあの貴族の嫌がらせが絡んできている・・・少女は歯をギリッと噛みしめた。
実はこの短い白い髪の彼女は白く長い髪の妹と共に冒険者となっており、中級冒険者資格取得試験を受ける資格を持っていた。
しかし規定により、中級冒険者資格試験はパーティーで受けることが義務付けられている。
パーティー上限の4人を満たしてない今のままでは、中級冒険者試験の受験は許可されないのだ。
そこで、臨時で自分たちと同じようにツーソロでやってきていた冒険者やソロ冒険者二人などをこれまで何回か誘ってきてはいるものの、全て翌日には組んだ冒険者は姿を都市から消しており、残るのは違約金だけとなっていた。
今回もようやく組めたと思ったら、また突然の解散宣言と手切れ金。
試験開催日はもうすぐで、、、正直詰んでいた。
「……他に誰かいないのか?」
「ご存知だとは思いますが、今は時期的に中級冒険者試験を受ける為に既にパーティーを組んでる方が多いですからねえ。フリーで受験資格を満たしている方はなかなかいないかと・・・」
怒りで震える声で尋ねる少女に、ギルド職員は申し訳なさそうに答える。
少女を助けてあげたいという気持ちはあるが、下手に肩入れして面倒が起こるのだけは避けたいのだ。
少女は忌々しげに舌打ちをして、待っているであろう妹の元へと戻る。
・・・中級冒険者になろうと張り切っている妹をまた落胆させるのは心苦しい。
「おい、シノン!いい加減、冒険者なんて辞めちまえよ!」
下品な男の声がしたので、思わず剣を引き抜こうと腰に手を伸ばしながら振り返る。
彼女、、、シノンが睨みつける先にいたのは、下卑た笑みを浮かべた男達だった。
その男たちはギルドの依頼も受けずに、昼間からギルドの酒場に入り浸っていた。
「・・・この、腰巾着どもが。」
シノンが忌々しげにつぶやく、剣を抜こうとした手はもう片方の手で必死に押さえつけられていた。
彼女の悔しそうな顔を見て彼らはさらに笑い出す。
周囲の冒険者たちは彼らを軽蔑した目で見ていたが、誰も止めようとはしなかった。
なぜなら彼らは貴族の腰巾着兼護衛だからだ。
つまり彼らに楯突くことは、貴族と敵対することを示すので、誰も関わらないようにしている。
「クラナダ坊ちゃんに楯突くから、こんな目に合うんだよ!おとなしく姉妹ともども妾になるこったな!」
「貴族の面倒は楽でいいぜ!娼館に坊ちゃんがこもってる間はこうやって酒を飲んでいられるし、酒の代金まで経費で落ちる!妾になれば夜以外は自由時間がもらえるかもなぁ!」
驚くほど下種な言葉を投げかけてくる彼らの言葉を少しも耳に入れたくないので、すぐにそこから立ち去ることにする。
・・・サニアには聞かせられない。
自分の妹のことを思いながら、ギルドの外に出た。
彼女はあんな無能そうな人間たちにバカにされてはいるが、サクラと同じ飛び級下級冒険者である。
サクラと同じように、絡んできた何人もの自分より階級が上の人間たちをボッコボコにすることでこのモルロンド伯爵直轄領で冒険者になったかなりの実力者だ。
しかし本来なら、すごい人間が入って来たと話題になるぐらいで済むはずだった彼女と妹のデビューはボコボコにした人間の一人が貴族の子息であったことから大問題になった。
幸運なことにギルドは身分によって特別視しないなどの観点からギルドから彼女たちへのペナルティなどは無かった。
ところがその貴族が、毎度毎度ことあるごとに彼女たちへ莫大な財産を使って嫌がらせをし続けているのである。
彼女たちが体でもって慰謝料を払わなければ許さないと宣言して。
雇われた冒険者たちによる依頼達成の妨害、採集ポイントの占有。
実力により跳ね除けてきたおかげでこのような直接的な妨害は無くなって来たが、今度は間接的な絡め手に変えてきたようだ。
こういう状況が一か月続いているこの現状、、、中級冒険者と下級冒険者では待遇が違うので、なんとしてでも中級冒険者になっておきたかった・・・
具体的に言うと、ギルドからの保護を受けれる立場になるのだ。
たとえ、相手が貴族であろうとそれは変わらない。
流石に貴族といえどもギルドに抗議をされれば手を引かざるを得ないのだ。
つまり、サニアをこれからもあの下種達から守るためにも中級冒険者になるのは必須なのだ。
・・・試験すら受けれない現状があるが。
これで、次の試験開催日の半年後まで待たなくてはいけなくなった。
そのあいだも、あのクソ貴族の嫌がらせは続くだろう。
ここ以外で中級試験を受けようとすれば一年はかかる距離を移動に費やし別の都市に行くか、『王国』で受けるしかない。
身を守るために狙われやすい街の外に一年も身を置くなんて論外だし、『王国』はとある理由から入ることは出来ない・・・
今はなんとかなっているが、サニアに手を出されたら?
四六時中彼女を守り切れる立場にいられるわけではない。
半年も、彼らの手から彼女を守り切れるのか?
彼女を守るために王宮を出たのに、、、なんで彼女を危険にさらしているんだ?
心に重くのしかかる現実に、彼女は体を震わせ始める。
辺りを見渡せば、自分のことを気の毒そうに見つめる冒険者たちはいたとしても、手を差し伸べてくれる人間は一人もいない。
・・・どちらがサニアにとって幸せだったんだろう?
彼女を思いやってくれる人達がそばに沢山いる場所での幸せであり不幸な短命か、味方なんて誰もいないこんな場所で惨めに長生きすること。
思わずこみあげてきた憤りをギルドの前で叫ぶ。
「誰か!中級冒険者試験を受けるパーティーを組んでない者はいないのか!誰でもいい!誰でもいいから、私たちを助けてくれ!」
彼女の大きな声にギルドに入ろうとした冒険者、そしてギルド内の冒険者たちがこぞって遂に壊れたかと噂し合う。
美人で、実力のあるシノンとその妹はそれなりに有名だったのだ。
可哀想に・・・貴族なんかに楯突かなければああはならなかっただろうにと誰もが同情の視線を向けて、彼女から目を逸らす。
事情を知らないたまたま通りかかった一般人は彼女を気が狂った人間かと軽蔑の視線を投げかけ、、、そして、興味を無くし立ち去る。
事情を聴いてあげようなんて、奇特な人間はいない。
あるギルドの区域では男たちが彼女の大声を耳にし笑い転げる。
ギルドの腰巾着であり、シノンたちにボコボコにされた人間でもある彼らにとっては気に入らないルーキーが潰れたなんて話は愉快でしかないのだ。
笑いだけが不快にギルド内に響き渡る。
・・・やっぱりか、この世界であの子を守れるのは自分だけしかいない。
彼女はそうつぶやいて、フラフラとギルドを立ち去り始めた。
サニアになんていえばいいんだ・・・と考えながら。
そんな時、彼女の背中に声がかけられた。
「誰でもいいのか?」
・・・聞き間違えじゃない。
思わず胸の高鳴りを覚えて、振り返る。
そこにいたのは二人組の男女だった。
自分達と同じ年頃の彼らは、無駄にキメポーズを決めてそこに立っていた。
・・・さっきまで、自分に軽蔑の視線を向けていたように思えていた一般人の視線はもしかしたら彼らに向けた視線だったのかもしれない。
「なあ、、、サクラ。人の世はよう分からんのだが、初対面の相手に何でこんなポーズをとっておるんじゃ?」
緑色の髪の自分たちと同等かそれ以上の美貌を持った少女が、ババーーン!とか背景音が流れてきそうな立ちポーズをイヤイヤ決めながら言った。
そんな質問を投げかけられた少年は、大きく広げた手をしきりに組み替えながら、ばんばんポージングを決めつつ反論する。
「バカ!初対面の相手にはいい印象与えんのがコミュニケーションの基本なんだよ!テンプレ的に、ここは私たちとパーティー組むだけの強さがありそうだ・・・とてつもない覇気を感じる・・・とか思わせなきゃいけねえんだよ!主人公としては当たり前なんだぜ!」
そんなふざけたことを言っている少年は、中級冒険者を目指せる実力を持った下級冒険者にしてはみすぼらしい服装で、男の癖に頼りなさげな細い細剣しか持っておらず、またこの辺りでは珍しい黒髪だった。
・・・怪しい。ここまで怪しい二人組を見たのは初めてだ。
彼女の故郷でこんな人間を見つけたら、まず牢屋でお話を聞くことになるだろうくらいには怪しい人間だった。
「よう!俺はサクラ=レイディウス!『曇の奇術師』だ!」
「スカイ・ドラゴナー・・・『風闘士』じゃ。」
決めポーズからの流し目でこちらにビシッと決め顔を向ける冒険者にしてはみすぼらしい男。
恥ずかしげに顔を赤らめて涙目でこっちを見つめる緑髪の美少女。
・・・気が遠くなりそうだが、背に腹は代えられない。
ここは円滑なコミュニケーションをとって、仲良くならなければ。
サニアの為だと、自分に活を入れ、イヤイヤ彼らに近づく。
スカイと名乗った少女がこれが新たな犠牲者か・・・という目で見つめてくるのに対し、臨時パーティーだから!絶対に正規で組む気ないから!と目で反論し、リーダーらしき少年の前に立つ。
期待した目でこちらに決め顔を向ける少年と向かい合う
向かい合う・・・
なんていえばいいんだろう?
取り敢えず、逃げちゃだめだと彼をじいっと見つめる。
・・・それはまるで無言で見上げられる感覚。
無言で攻め立てられているかのように感じる長い長い時間だった。
少年も次第に勢いが弱まって来たのか、ふるふる震えだしてきた。
ああ、そっか。自分のやってることが恥ずかしいって気づいたんだと彼女は気付く。
じゃあ、早めにやめさせてあげないと。
彼女は、日本人では有り得ないほどの余計なお世話な優しさを発揮して言う
「ああ、、、、、、恥ずかしいならやめていいぞ?」
「ぐはっ!?」
サクラ=レイディウス、、、死因 恥辱死。
まるで桜がハマリュウから押し付けられた実妹物のエロ本を、朝顔さんに見つかって冷たい視線で晒された時と同等の威力の精神攻撃を受けた俺はようやく復活した。
気づくといつの間にかどこかの食堂に座っていた。
目の前では、胡散臭げな顔をした美少女とニヤニヤした顔でこちらをじいっと見つめる美少女がいて、俺の隣には呆れた視線でこっちを見る美少女がいる。
・・・皆、俺に精神攻撃を続けている(笑)
「俺のハートは防弾ガラスで出来てないんだぞ!?」
「・・・それがどうした。バカ者。いきなり大声出しおって。」
「サニアが怖がるだろうっバカ!大声出すなっ!」
「おにいさん、今までの冒険者たちの中で一番バカっぽいね。」
・・・・・・・・・・・・ぐはっ!
俺は公衆の前で3人の美少女から攻め立てられていた。
あれ?
何で俺、初対面のはずの年下の少女にまでバカ扱いされてるの?
「じゃ、、、サクラが気を取り戻したようなので、自己紹介をしようか・・・」
シノンが気まずそうに、仕切りだす。
優しすぎるだろこの子、俺の奇行を見なかったことにしてくれるとかっ!
・・・でもね、本当の優しさっていうのはツッコミを入れてあげることだと俺思うんだ。
だって、ボケたのに放置される主人公って需要ないだろ?
「私はシノン=イシルディア。職業は『氷剣士』だ。生まれは・・・・・・・だ。」
「私はサニア=イシルディア。職業は・・・・・・・・だよ。シノンは私のお姉ちゃん!」
「俺はサクラ=レイディウス。職業は『曇の奇術師』だ!生まれは・・・・・だ!」
「スカイ・ドラゴナー、『風闘士』じゃ。で?自己紹介はこれでいいんかえ?」
「「「待ってくれ、ツッコミどころが出てきた」」」
大事な自己紹介のはずなのに、どいつもこいつも隠し事ばっかりしやがって・・・
自分のことは棚に上げつつお互いに牽制しあう。
「サニア・・・職業秘密って何の冗談だ?連携出来ないだろうが・・・」
「サニアにあたるなバカ者!お前だって、生まれを秘密にしとるだろうが!」
「それはお前もだろ!」
「余は龍人の郷生まれじゃ。」
「あんたは龍かっ!逆に嘘くさいわっ!」
やばい、、、もうパーティー解散の危険が出てきた。
やっと人間と組めたのに出会って3秒後に解散とか、、、またキチガイとか噂される・・・
それだけは嫌だ!
決意新たに、シノンとサニアの方へと顔を向ける。
「取り敢えず、生まれは理由があって言えないが冒険者登録をしたのはココノハ村だ。きちんと、身分は保証されてる・・・怪しいもんじゃない。」
信頼してもらうために、ギルドカードを二人に見せる。
シノンが訝しげにそれを受け取り、眺め、返してきた。
しかしまだ納得してないのか、眉はしかめたままだ。
「確かに本物だ。しかし、こっちもいろいろと事情があるんだ。信頼のおけない人間は近づけたくない・・・」
「じゃあ、こうしよう。俺はあんた達の事情を一切聞かないから、あんたたちも俺たちの事情は詮索しない」
「まあ、妥当じゃないかの。」
俺の案にスカイが偉そうにつぶやく。
キセルをぷかぷかふかしながらで腹立つが、フォローさんくす。
「・・・しかし」
「シノン。」
悩むシノンの肩にサニアが手を置いた。
シノンがハッとした顔でサニアを見る。
「この人たち、今までパーティーを組んだどの人達よりもバカっぽいけど、一番信頼できるよ。」
「サニア・・・」
シノンはまるで聖女を見るかのように心酔した表情でサニアを見つめていたが、気を取り戻したのかブンブン顔を左右に振ってから、俺たちに頭を下げてきた。
「秘密ばかりで悪いが、その条件で頼む。」
「お願いします。おにいさん、おねえさん。」
「りょ。」
「まかせるのじゃ。」
こうして、臨時とはいえ俺は初めて人間とパーティーを組むことが出来たのであった。
とりあえずパーティーを組んだはいいがお互いの実力を未だに知らないので、取り敢えず下級クエストを受けてみることにした。
まあ、俺としてはスカイも曇魔術もあるので二人が役に立とうが立たまいがどっちでもいいんだがな。
人手足りないなら『自分であり自分でない者≪アナザー・ミー≫』で桜に手伝ってもらえばいいし、『嵐曇魔術≪スーパーセル≫』という最強のオーバーキル技があるしな。
どちらかというとシノンの見定めようという考えの方が先行してるんだよな。
まあ自分でも自分が分からないぐらいなのに、初めてあった人間じゃあ余計見定めが難しいだろうしな。
取り敢えず、実力示せばいいか。
食事を取った後、ギルドに戻る。
ギルドに入った瞬間、おい、パ-ティー組んでるぞ・・・と辺りが騒然となる。
「ぶふっ・・・」
スカイがそんな声を聴いた瞬間吹き出す。
・・・ああ、懐かしいな。
ココノハ村ではちょっと話しかけただけで
「ひっ、パーティーに入れられて、キチガイに洗脳されるっ!?」
とか言われて逃げられたなー。
後、初めて訪れたはずの村なのにスカイとクエストを受けに受付に行ったら、
「何か困ってることがあるんなら相談してね?だからこんなキチガイとパーティー組んでるんでしょ?」
とかスカイに受付嬢さんが声かけてたっけ。
・・・ココノハ村から遠くはなれたはずなのに、何で俺がキチガイだという噂が流れてるのかしらん。
今回もそういう事かしらん。
トラウマが頭に流れる中、ざわざわするギルドのロビーを泣きながら走り抜け、クエスト板に辿り着く。
流石というべきか、大きな都市のギルドのクエスト板はココノハ村よりもはるかに大きかった。
クエストの受付が済んだ瞬間、そのクエストの詳細が張り出された紙が板の一部ごと裏返り、新しいクエストが記された紙が現れる。
そのひっくり返り現象があちらこちらで起きており、全体的に慌ただしさや活気を感じさせる。
なんか、こうやってリアルタイムで変わっていく感じは東京株式市場とかを連想させるな。
皆で下級クエスト版の前に並ぶ。
取り敢えず一人ずつ好きな依頼を選んで、後から決めることにする。
そうだなあ、、、シノン的に実力が把握できりゃいいんだろ?
サニア的に文句とかはないらしいし、スカイも大して要求はない。
俺の長所である、雲による『殲滅力』をアピールしとくのが一番か。
・・・・・・・・だったら、これかな。
全員決まったので取り敢えず、クエスト表を見せ合う。
俺→『オークの里の規模調査』
シノン→『キャタピラーワームの素材採集』
サニア→『仔犬の捜索(初級依頼)』
スカイ→『大食い大会の欠場者の穴埋め』
「「「「・・・・・・・・・・・・・」」」」
見事にばらばらである。
いろいろおかしい所がある。
とにかく、ツッコミ待ちか?と思ったのだが、皆真面目な顔してこれを出したのを考慮するとふざけてるわけでもないらしい。
「俺は完璧だから全く問題ないとして、何で皆、そんなしょっぱい依頼受けてんの?」
「「「納得いかねえ!」」」
俺の意見に皆が反発する。
この中では二番目にマシな依頼を選んできたシノンが俺に向かって講義する。
「何がしょっぱいだ!お前の依頼だってしょぼいだろうが!なんで実力をみる為にクエストを受けるのに、調査依頼なんだ!そんな依頼受けてたら、達成に何日もかかるだろうが!」
「え?数時間で終わるだろ?」
「そうだな。」
「「・・・・え?」」
調査依頼にはいつも、『謎の黒い雲が里ごと覆い尽くした後何も残らなかった。再び里を作ることはないだろう・・・作る人材がもういないんだもの』と書いて提出したら成功になってたから基本そんな感じでずっとやってきていた。
ココノハ村の受付嬢も死んだ目で俺たちに調査依頼を渡してくるもんだから、『調査依頼=殲滅して来い』って感じで俺もスカイも理解していた。
つまり、俺が築き上げたこの画期的な方法ならば、わずか数時間で終わるし、依頼料も長期を想定した分もらえるし、ストレスも発散できるし、ついでに言うとシノンが俺の実力を把握できる。
「完璧じゃね?」
「「この、キチガイめっ!!」」
シノンとサニアにそのあたりを説明したら、いきなり罵られた。
「なんでだよ!?一石四鳥だろ!?」
「調査依頼で何、手抜きしてるんだ!?調査結果ぐらいまじめに書けよ!お金もらってんだろ!」
「書いてたよしっかり、毎回『何も残ってなかった』って書いたもん。」
「うがあああああああああっ!」
シノンが頭を掻きむしって動揺し始めたので、サニアの方を向く。
「で?なんで初級依頼なんだ?なんで、仔犬探しなんだ?実力見たいってシノンがこんなにうるさいのに。」
「だ、誰のせいだと思ってるっ!?てか、そんなにうるさくしてないっ!」
シノンが俺の耳元で叫びながら掴みかかってくる中で、サニアは照れた顔ではにかむ。
「依頼主の女の子が困ってるだろうなって思って・・・おにいさんやおねえさんを私は信用してるし。」
「・・・依頼関係なく、俺が探しとくよ。」
『曇の網≪ネット≫』を町中に張れば、すぐ見つかるだろう。
『嵐曇魔術≪スーパーセル≫』を使う事も考慮に入れておこう。
てか、今すぐ使おう。すぐ探そう!
・・・はっ、いつの間にか彼女の思い通りに動いていた。
ニコニコしている彼女を油断ならない奴だと見つめていると、スカイが不満げに俺に話しかけてきた。
「おい、サクラ。余には聴かんのかえ?」
「聞かないでも、分かるよ。二か月の付き合いじゃねえか。今、腹減ってるからだろ?」
「ふん、流石サクラじゃ。」
「言っとくけど、絶対その依頼は受けないからな!」
「なんと!?」
スカイと俺がぎゃあぎゃあ口論していると、パーティーリーダーであるシノンが疲れた表情でこっちを向いた。
「分かった・・・サクラたちはとことん規格外なんだな。」
「最終的には『しょうがないよ、サクラだもん』とか言われるのを目指している!主人公的に!」
「「「しょうがないよ、キチガイだもん」」」
「うわああああああああああんっ!」
俺がしょうもない苛めを受けて泣き始める中、シノンは席から立ち上がり口を開く。
眉間のしわを抑えながら、彼女は目をほぐし始める。
「もう君の好きなクエストを受けていいよ。私は頭が痛い・・・」
「まじで?」
「その間に、中級冒険者資格取得試験のパーティーエントリーをしてくるから」
「余は腹が減ったんで、ちょっと酒場に寄る。」
「おにいさん、よろしく!」
シノンとサニアは特別受付へ、スカイが酒場へ食事を取りに向かうのを見送ってから、改めてクエスト板を眺める。
うーん、好きにしていいって言われたし→『オークの里の規模調査』を選んでもいいんだけど・・・
主人公的にそれでいいのだろうか?
なろう主人公としては、読者も味方ですらも裏切る展開を選ばなきゃいけないんじゃないんだろうか?
何か悪乗りし始めた俺を桜がバイパスを通して諌めてくる
・・・分かったよ。
取り敢えず、『オークの里の規模調査』を取ろうとクエスト板に近づこうとしたら声をかけられた。
「あの、、、もしかして、ここでクエストを受けるのは初めてですか?」
「ああ、今日初めてここに来たからな。」
俺に声をかけてきたのは俺と同じくらいの年の少年だった。
冒険者にしては妙に小奇麗な服を着ているその少年は、妙に丁寧な言葉で話しかけてきた。
「初めてみた方でしたので、私から声をかけて見ようと思いまして。もしよろしければ、おすすめの依頼がありますよ?」
「え?まじ?」
少年が指さすその依頼を手に取る。
『ゴブリン盗賊団の討伐もしくは拘束』
盗賊か・・・アジトの場所も『曇の網≪ネット≫』を使えばすぐわかるだろう。
縄張りも結構詳しく書かれてあるし。
・・・しかも、依頼料は下級クエストの相場の2倍!?
すんごい財宝溜め込んでんのかな!?やんべえよ!?
金には困ってないが、あって困るわけでもないしこれでいこう!
「よし、これにするわ。サンキュー。」
「いえ、お役に立てたのなら幸いです。」
笑顔を浮かべる好青年に笑顔で返して、妙に強張った顔の受付嬢に提出してしまう。
それから集合場所の酒場で俺も飯を食っておくことにした。
・・・面白いから、受けたクエスト名は内緒にしてしまおう。
桜がバカ・・・と呆れている気がした。
桜が酒場へと消え、少年からは見えなくなった。
「よくやったな。」
顔から作った笑顔を消して、下卑た笑みを浮かべた少年はギルドの受付嬢の肩をポンポン叩いた。
「娘は・・・娘は大丈夫なんですか!」
受付嬢が桜が持ってきたクエスト表を握りしめながら、涙を浮かべる。
「平民程度が質問してんじゃねえよっ!」
少年は威圧するように受付の机を叩く。
受付嬢は驚き、身を強張らせる。
そんな様子に満足したのか、少年は一枚の紙を取り出し彼女の頬をなんどかぴしぴしと叩く。
「お前も大変だよな、夫が借金してお金もない。娘は今頃どこかの倉庫で恐怖に震えてる。・・・ま、俺は『貴族の責任≪ノブリス・オブリージュ≫』は果たす。平民との契約は果たすさ。ここに行け、成功報酬も置いてある。」
「・・・うっ」
受付嬢は紙を受け取ると、すぐにギルドから飛び出していった。
「ま、、、着くのが遅かったら見張りが手ぇ出しちゃうかもだけど・・・金は手に入るんだし文句ないだろ。」
そういって笑い始める少年の元に腰巾着の冒険者が近づく。
「クラナダ坊ちゃん、なんでこんな遠回りを?いつも通り金詰めばいいじゃないですか。だめなら、消せばいい。」
そんな声を聴いた少年は、ハハハと笑う。
すでにギルドのロビーは彼の場所になりつつあり、他の冒険者たちも受付達も巻き込まれては敵わないと外に出てしまう。
いつの間にか、少年と腰巾着だけになる。
そんな異常な環境の中、少年はさっきまでの綺麗なしゃべり方は何だったのかと言えるぐらい汚い話し方をしながら腰巾着を小突く。
「バカだなあ、、、やっぱりお前も平民か。あんなにやってもイシルディア姉妹が諦めないんだから、別の方法取った方が効率的だろ?」
「へえ、、、なるほど。」
流石坊ちゃんだとか囃してる腰巾着どもを見下した目で見る少年はそれにしても、、、と呟く。
「まさか、ギルドの受付嬢がクエスト表を改竄するなんてな~。報酬に釣られて、簡単に依頼を受けるあの馬鹿そうな平民も平民だが。」
彼はピシピシとクエスト表を叩く。
「ゴブリン盗賊団を知らないって、、、よっぽど田舎から来たようですね」
「ほんと、バカな奴だ・・・」
腰巾着達まで呆れた表情を見せる。
「もし、シノンたちがクエストの内容を知ったとしてもクエストの放棄は基本依頼料の3倍返還が基本。払えるはずがない・・・そしたらアイツらの借金を俺が肩代わりしてやって、アイツらは俺の妾入りだ。」
「クラナダ坊ちゃん流石です!・・・でも、もしヤケクソになって受けでもしたらどうするんです?」
少年は二ヤアと笑った。
「外部の人間なら死んでも構わない。弱ったところでシノンとサニアをさらえばいい。捕まってるなら、ゴブリン盗賊団から買えばいいしな。・・・ああ、どっちにしてもあの緑髪の女は好きにしていい。」
うひょおおっとか叫ぶ腰巾着を連れて、少年はギルドから消えていった。
クエスト受領印が押されたクエスト表が門が開かれたときに入った風でひゅうっと宙を舞う。
-クエスト-ゴブリン盗賊団の討伐か拘束
【補足:元ドン=クラーク伯爵城跡を中心に活動している。】
適正レベル:下級 報酬:公国金貨3枚 期限:未定
風にあおられた紙は、魔力が切れたのか本来の内容を示しだす。
-クエスト-ゴブリン盗賊団の討伐か拘束
【補足:最近では元ドン=クラーク伯爵城跡を中心に活動している。凶悪な盗賊団であり、魔術師も豊富にいるので上級者パーティー最低5つがレイドを組んで受領すること。】
適正レベル:上級 報酬:公国金貨600枚 期限:未定
風に舞う『上級冒険者用のクエスト表』は空をクルクルと舞った後、誰かのその後を現すかのように急降下して床へと落ちた。
クラナダと腰巾着が出ていったため、再びギルド内に人が戻っていく。
誰にも気づかれず拾われることもないそのクエスト表は行き交う人たちに気付かれることはなく、踏まれ、にじられ、汚されていく。
空からおとされただけでなく紙としての体裁すらなさなくなっていくその様子は、、、まるで絶望に落とされてから、追い打ちのように誇りも守りたいものさえまでも踏み躙られていく様子を暗示しているようだった。
真ん中、コメディだしセーフだよね?ヒロイン二人増えてるんだし、セーフだよねぇ?(震え声)




