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異世界でもう一人の俺が暴れすぎてキチガ○と呼ばれている件について  作者: 浅き夢見む氏
第二部:激昂する乙女は剣と舞い、狂う咎龍人は最愛を想う<曇の奇術師編>
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第1章如峰月桜と夏休みpart3

混浴、、、それは混欲なセカイ・・・

「こ、、、、こっちを見るなあ!」

「グハッ!」


彼女のモデルみたいな均整の取れた肢体に思わず目を奪われていると、彼女はフェッシングで鍛えた神速の掌底突きを俺の顔面にブチ込んできやがった。

俺が湯船の中でもがいている中、彼女はザバリと湯船の中から飛び出していった。

あんにゃろう・・・とか思っていたら、入り口のドアを何度かガチャガチャする音が聞こえてきて何故だ!とか叫ぶ伊月の声が聞こえた。

湯船の濃い湯煙のせいで、全く先が見えないので彼女に尋ねる。


「お~い、どうした?」

「と、扉に鍵がかかってるんだっ!」


彼女の途方に暮れた声が声が浴場中に響き渡る。

あ、、、そういや、あんまり遅い時間になると防犯上の関係で鍵閉めるとかいってたな。


「どうして!?おい!誰か開けてくれ!中に人がいるんだっ!」


彼女が必死になって扉をガンガン叩く音をBGMに俺は再び湯船の中で体を伸ばした。

何かこういう、ハプニングもサクラでなれてしまっているからな。

命の危険に合いまくってるサクラのと比べるとこんなの大したことない。


「おい!お前も外に呼びかけろ!・・・へくちっ!」


彼女が俺にも声を出させようとして、くしゃみを出す。

・・・意外と、決闘決闘言ってるわりには可愛いくしゃみだな。

俺はそんなことを思いつつ、彼女に声をかける。


「こんな時間じゃあ、誰も混浴なんて確認しに来ねえよ。俺たちがいないことに気付いた誰かが確認しに来るまで待つしかない。それよりこっちに来いよ。風邪ひくぞ?」

「このセクハラ野郎っ!なんで、男のお前と一緒に風呂に入らにゃならんのだっ!」


彼女が金切り声を上げて、反論する。

・・・ごもっともだな。

バイパスが強まった副作用で、サクラの発言が俺にうつっちゃてるんだよな。

主人公気質とかは全くうつんないのに、こういうどうでもいいところばかり影響を受けてる。


「・・・くちゅん!」


結構標高が高い所にあるこの旅館は、夜になるとかなり冷える。

このまま、湯船の外に出てたら風邪ひいちまう。


「おい、決闘でもなんでもしてやるから湯船に入れ。風邪ひいちまったら、明日からの練習どうするつもりだ?」

「う、、、うう。」


彼女が再び湯船に入る音がした。

音の方を思わず見たら、彼女と目があった。

殴られた。




「なんでこんな感じになってんの?」


俺と伊月は濃い煙が立ち込める湯船の中でお互いに背中合わせになっていた。


「遠くに行けばこの濃い煙なんだ。全然見えなくなると思うぜ?第一この体勢は落ち着かない・・・」


生肌同士の背中がくっつくような状態になっており、温泉ですべすべになってるのか元々すべすべなのかは知らんが、かなり気持ちいい感触が背中に広がっていてむず痒い。

しかも、彼女のちょっとした動きが背中合わせで伝わってくるから余計にすべすべの感触を意識させられる。


「う、うるさい!どうせ遠くにいたとしても私がきゃっ!とか悲鳴を出したら、どうした!とか言って、近寄ってくるだろうが!こうしておけばお前が私の裸を見てないのは明らかだしな!」

「はあ!?そんなエロゲみたいなことするわけ・・・そだね、この体勢が一番安全だね。」


二か月前に美少女のパンツ見る、胸揉むなどのエロCGにもなりそうなイベントをこなしてしまっている前科者なのでないとは言い切れない。

いや、有り得そうな状況は確実に起こると言い切れるだけの素質が俺にはあるっぽい。

え・・・やだよ?

実は俺は18禁ゲームやノクターン小説の主人公でしたみたいなオチは・・・

俺がなりたいのは朝日奈楓に釣り合える人間としての『主人公』であって、そんなラッキースケベな酒池肉林になりたいわけじゃない。


「てか、、、俺を後ろ向きに座らせて、お前が俺を振り向かせないように押さえつけりゃいいんじゃね?こんな背中を合わせるような恥ずかしい状態にもならないで済むし。」

「お前、、、嫁入り前の淑女に、殿方の背中をまじまじと観察したりべたべた触れと言ってるんだぞ?この変態が。」

「・・・そういや、そうだったな。アンタは一応、お嬢様だったな。」

「お前、、、今度は私の根本から否定するつもりか・・・そんなに私を思い通りにできないのが腹立たしいか、、、この鬼畜めっ!」

「うん、、、マジごめん。取り敢えず、脱水症状になる前にこれでも飲んどけよ。」


敢えて温泉の中でコーヒー牛乳やフルーツ牛乳を飲むという、史上最高の贅沢をしようと何パックも木桶の中に入れておいた紙パックの味付き牛乳を彼女へと背中越しに手渡す。

その最中にさわっと触れてしまった彼女の黒髪は絹のようにすべすべしていた。


「・・・気遣いは出来るようだな(ぼそっ)・・・ありがとう。」

「おう、気づかいできるのが、俺だからな」

「・・・っ!?」


ナグラレタ-。


温泉酒ならぬ、温泉牛乳しながら軽井沢の夜景の光を見つめる。

この濃い湯煙も、流石にこの絶景を隠しきることは出来ないようだ。

二人で紙パックちゅーちゅー言わせながら、夜景をぼんやりと見つめる。


「なあ、如峰月。お前はいつも紅や誰かのために動いてるのか?」

「え?」


どれくらいぼんやりとしてたか分からないまま、伊月がそんなことを聞いて来た。

そういや、俺らしくないことしてたなとか思ってしまった。

自分の中心はあくまで朝日奈楓であるし、彼女以外の人の為に動くことなんて今までそうなかったことだった。

まるで、ラノベ主人公みたいなことを何故してしまったのか・・・


「とある人の影響でな。親しい人が困ってるなら、少しぐらいは手伝ってやりたいって思えるようになったんよ。」

「ある人、、、?お前には、その、、、恋人とやらがいるのか!?」


何驚いてんだか、、、妙に動揺し始めたのが背中越しに伝わってくる。

・・・そんなに、恋人いない面してますかねえ。


「ばーか、男だよ。なに色気づいてんだ婚前前の淑女のくせに。」

「な、、、なんだと!?私だって、年相応に色気づくわっ!バカ者!」


ぎゃあぎゃあ騒ぎ始めたバカは放っぽりだし、三本目の贅沢に突入する。

フルーツ牛乳で甘くしつつ、コーヒー牛乳でいったん苦めに抑える。

そして再びの苺牛乳は反動で奥深い甘さを舌に伝えてくる・・・


そんな至高の贅沢を温泉という最高の環境で楽しみつつ、俺は再び考察を深める。

結局、サクラの主人公気質に影響されたんだろうなあ。

主人公にはなれないし、俺が目指してるのも朝日奈楓の重要NPCだけど、やっぱり憧れてしまうんだ。

皆をぐいぐい引きつける主人公ってやつに。

ういるるの件も俺がきっかけになってやれたらとか思ってしまった瞬間に体が勝手に動いていた。

まあ、、、結果的には失敗だったけど、これからもそういう風に動いてもいいんじゃないかって思えたし。


「なあ、、、如峰月。」

「ん?」


彼女は体を震わせながら聞いて来た。


「私はお前にとって親しい人間に入るのか?前に進みたいから決闘を受けて欲しいって言ったら受けてくれるのか?」

「そうだなあ・・・」


出会いは最悪ではあったが、彼女と俺は僅か二日の間で物凄い量の会話が出来てたんじゃないだろうか。

良い所も悪い所もお互い知ることが出来るようになったんじゃないだろうか?

間違いなく、、、俺と彼女は親しい仲になるんじゃないだろうか。

だったら、、、彼女の頼みぐらい聞いてやりたい。


「うん、俺と伊月は親しい間柄だな。じゃあ、決闘も受けてやってもいい。」

「本当かっ!・・・・うううっ!」


よっぽど俺の答えが嬉しかったのか、興奮のあまり振り返った彼女は、俺の背中をまじまじと見てしまい再び元の姿勢に戻る。

彼女の背がいつもより熱くなっているのは、間違いなく赤面してるからだろう。

暫く経って、ようやく彼女の熱が引いたころ、彼女は口を開いた。


「決闘は新聞部合宿の最終日。私たちが普段練習している体育館に来てくれ。」

「決闘内容はサーブル協議でいいよな?フルーレとかなんとかはやったこと無いし。」


サーブルってのは突くだけでなく切ることも含まれており、フルーレは子供や女性向けで突くことのみに特化したフェッシングだ。

当たり前だが、サーブル部門の方が動きは激しい。

始めたころは動き激しい方がかっけえからと始めたが、今ではなんであんなに疲れるのを選んだんだろうと後悔している。


「心配せずとも、私もサーブル専門だ。防具や剣は顧問から借りろ。腰回りとかはともかく背丈は同じみたいだからな。」

「ええ・・・おっさんの防具かよ。嫌だよ。」


当たり前だが、剣道着同様洗いにくいものなので匂いもしみつくのだ。

マジでおっさんの汗が染みついた奴なんて着たくない。

もう、最悪、俺防具なしでもいいぐらいだ。


「心配せずとも、うちの先生は新品の防具を体験用に二、三個用意している。それを借りればいい。」

「え?持ち歩いてんのかよ?何なのそのフェッシング広めたいぜい的なおっさん。」


人のよさそうな顔しときながら、実はフェッシングキチだそうだ。

部活だけでなく、フェッシングの教室の講師まで引き受けてるとか。

その関係で、男性用の装備も一通り積んでいるとか。


「、、、まあ、それならいいけどさ。でも、使い慣れてない装備ってのは結構なハンデじゃね?前にも言ったけど俺は一年近くやってないんだぜ?」

「フン、よく言う、むしろ、それぐらいあって五分だろう。『銀閃』の二つ名が泣くぞ?」

「・・・何故それを覚えている?」


それは当時の全国紙で取り上げられた時の名前じゃねえか・・・

不動の天才を打ち破った神速の突き、まさにそれは『銀閃』だった。

とか、紹介されてるのを見て思わず冊子を引きちぎったのを覚えている。

それからいっつも『銀閃』、『銀閃』言われて泣きながら帰ったのは笑えない黒歴史である。


「ふん、忘れるものか・・・私の兄様を破ってから、出てきた二つ名だからな。」

「なあ、前から思ってたんだけどその兄様って俺とどういう関係なんだ?何がアンタをそこまでかりたたせてるんだ?」


彼女の肩がびくんと跳ねた。


「・・・それは、、、」


彼女がためらいつつ口を開こうとしたその時、あかないはずの扉が開いた。


「お~い、桜君いる~~~?」


古畑さんの声が聞こえる。

もしかして、探してくれていたのだろうか?

本当に、古畑さんには頭が上がらない。


「では、最終日に。」


さっきまでとは明らかに違う堅い声を出して、伊月は俺の背から離れていった。


「ウワッ!?伊月っち!?いたの!?」

「すまない!奥に如峰月もいるから、まだ閉めないでくれ!」

「ええ!?何で一緒に入ってんの!?」


遠くでそんな声を聴きつつ、もう一パック牛乳を開けた。

・・・俺は彼女と彼女の兄に一体何をしてしまったのだろうか。

自分の覚えてないなんて都合の良い浅はかさがすんげえ嫌になった。


「ほ~お~づ~き~く~ん、説明してもらおうか?」


後、食い込んでいたいのでそんなにギリギリ肩を掴まないでください、古畑さん。

俺の夜はまだまだ長くなりそうだ。



最終日になった。

決闘なので出来る限り感覚を取り戻そうと、空いた時間はスマホで動画を見たりしていた。

ぶっちゃけ筋トレは昔と同じくらいの量はこなしてたので、感覚重視の訓練である。

でもやっぱり、ブランクはデカい。

サーベルの持ち方から足運びまで素人みたいな雑さが出ている。

実戦の感覚はサクラのお蔭で失われてないけど、周りから見たら素人同様に見えるだろう。

・・・まあ一回きりだし、しょうがないか。


そんなことを思いつつ、聖ロンディウム学院女子フェッシング部が練習している体育館に俺は再び足を踏み入れた。

顧問のおっさんを探していると、近くにいた女子部員があっちですと指さして教えてくれた。

彼は前と同じく、放送室の小窓からずっと練習を見ていた。

部屋に入ってみると、顧問の先生はフェッシングの装備一式を畳の上に並べ、自分は窓の外から練習風景を眺めていた。


「どうも、新聞部の如峰月桜です。今日までお世話になりましたので最後に挨拶をしに来ました。」


そう挨拶すると、おっさんというよりはむしろジジイ化しつつある感じのその人は真剣に見ていた窓から顔を上げこっちを向いた。

大柄な体格ではあるが、確かに背丈は俺と同じくらいだ。


「やあ、お世話になったのは寧ろこっちの方だよ。学園長が是非にと薦めてきたのが高校生の部活だと聞いたときは大丈夫かと不安になったがものだが、練習用具の運搬から食事の用意までマネージャーよりも働いてくれてたと聞いている。本当に今日までありがとう。」

「いや、こちらこそ。」


がっしりとした手を差し出されたのでその手を握る


「・・・・・」

「・・・・・」


一向に離してくれないので、お互いに握り合うことになる。

え?なにこの人?

そっち系?

離すどころかむしろ試すかのごとくギリギリと締め付けてくる。

こういう時は力を籠めていかないと、痛いので比例的に俺も力を籠めていく。

変な空気が辺りを包む中、顧問の先生はほっほと言って手の力を抜いた。


「鈍ってないようだね。凄い握力だ。」


そういって、手をふるふると痛そうに顧問の先生を見ていると何となく意図が分かって来た。

やっぱりそっち系なんだろう。


「儂は高徳。生粋のフェッシングファンだ。君が昔のままで嬉しいよ、『銀閃』」


どうやら、そっち系ではなく試していただけらしい。

彼は床に並べられた防具やサーブルを指さして、感慨深げに言う。


「残念ながら君が使うような上等なやつは無かったが、毎日私が手入れしている物の中で君の体格に合わせたものを家から持ってきた。」

「え?そこまでしてくれたんですか?」


個人的には、体験の人に貸し出す新品を貸してもらえりゃよかったんだがな。

そんな俺の様子をみて、高徳先生はほっほと笑った。


「『銀閃』が使うような装備を適当な間に合わせで済ませるわけにはいかんよ。第一、今日はそれを使って『銀乙女』と闘るんだろう?余計、生半可な装備は渡せんよ。儂も部員たちも楽しみにしとるしな。」

「・・・は?」


あいつ、どんな言い方で先生に伝えたんだ?

しかもあいつもとんでもない二つ名つけられてんのな。

今度からかい交じりでおちょくってやろう。


「じゃあ、、、借りてきますね。」


思わぬ事態に動揺しながらも、剣や装備を抱え込み腕に抱く。

着付けは意外と覚えていたので、簡単に装備できた。

驚いたことに、当時の俺が愛用していた装備とほぼ同じものですごくしっくりくる。

剣の長さまで当時の物と同じだ。

ちょっと、自分で詰めるとか工夫してたんだが、よく知ってんなあのおっさん。

剣をまじまじと見ながら、思わず感心してしまった。


有り難いことにクーラーをきかせてある涼しい体育館の中に入る。

ぶっちゃけ、真夏のクソ熱い中にこんな装備をつけるつもりはなかったので有り難い。

軽井沢の涼しさと、クーラーに感謝していると人だかりが出来てるのを見つけた。

なんだ?と入ってみると、、、ファンタジー的なナニかを見てしまった。


「せ、、、センパイ、やめてください・・・」

「嫌ですわ、お姉さま。今はマリアと呼んで下さいまし。ほら、また汗をかいてる。拭って差し上げますわ。」


伊月の防具の内側に手を潜り込ませ何かもぞもそやっていた。

胸がいつも以上に膨らみ、指がもぞもぞと動いていた。

な、、、悩ましい光景である。


「ひゃあっ、、、あなたもどさくさに紛れてそんなとこ嗅がないでっ!」

「え?これから『銀閃』と戦うんでしょ?汗臭くないか確認してるだけだよ?でも、いつも通りの葵お姉さまの匂いだね。安心した。」


どうやら、先輩どころか同級生にまでお姉さまと呼ばれているらしい。

伊月の同級生で友達らしきその子はもう少しだけと言って、伊月の脇に顔を再びうずめた。


「い、、、いやあっ!そんなえっちな仕草で太ももを撫でないでッ!だ、、、誰!?いま誰かお尻を触った!?」


百合百合しいその場を俺はそっと離れることにした。

簡単に説明しておこうか。

沢山の可愛いお嬢様たちが粗相の無いよう汗とかかいてないかの名目で伊月の体を触りまくり嗅いでいた。

しかも汗をかいてたら、服の内側にタオルごと手を突っ込み拭いていた。

うん、めっちゃえっちい光景でした。

一五歳童貞には刺激的すぎる光景だったよ・・・・・

フィニッシュに近づいているのか、伊月が多くの女性に絡みつかれながら体を震わせる。


「だ、、、だめ!マリア様がみてるうううぅぅぅぅ!!!!」


そんな光景を遠くからぼうっと三角座りで見つめていた。





「悪いな、、、合宿の最中に私の我儘に付き合ってもらって。」


息を荒げながら伊月は俺と向かい合っていた。

ぶっちゃけ、女性ホルモン的な匂いが体育館中に散布されており非常に居づらい。


「大丈夫だ。新聞部の合宿は最終日は遊ぶことになってて、暇だったからな。『お姉さま』。」


まあ正確に言うと、新聞部はこれからボートで川下りをするとか言ってたがそれをキャンセルしてきているんだが、言わんでもいいだろう。

・・・新聞君、普段から川に流されてるらしいけど大丈夫かな?

正直トラウマが再発して、気絶している様子しか思い浮かばないんだが。


「・・・じゃ、じゃあ、ルールを説明するぞ。型はサーブル型で。有効打五本先制で勝ちだ。」

「オッケー、やろうぜ。『銀乙女』。」


彼女は体をふるふる震わせながら、必死で二の句を継いだ。


「そ、、、それで、、、本来なら「攻撃権」が生じ、相手がその剣を払ったり叩いたりして向けられた剣先を逸らせる、間合いを切って逃げ切るなどすると、「攻撃権」が消滅し、逆に相手が「攻撃権(すなわち反撃の権利)」を得ることになったりするなどのルールがあるが、、、覚えてないだろうから攻撃権は無視で、当てれば有効打ってことにしよう。」

「助かるぜ!『百合乙女』!」

「くうっ・・・」


攻撃―防御―反撃―再反撃といった瞬時の技と剣のやり取りがフェッシングの魅力であるが、今回の決闘はより『決闘』を意識したものらしい。

剣で相手を獲る技術や、足運びによる駆け引きを重視したものになっている。

赤面しながら震える彼女をからかいながら、俺はフェイスガードを被り彼女に声をかける。


「よし、始めようぜ!マリア様がみてくれてるうちにな!」

「お願いだから、説明をさせてえええええぇぇぇっ!」


試合に入れるのはまだかかりそうだ。




ようやく、落ち着いた伊月と俺は剣を構えて向かい合う。

周囲の女子部員もいつの間にか俺たちの周りに集まってきている。

てか、お姉さまコールのせいでアウェイ感がきつい。


「・・・この時を待ってたよ。如峰月。」

「そりゃどうも。」

「本当に待ってたんだ、本当に。」

「そうかい・・・」


黄色い声援の中、彼女の声だけは真面目だった。

殺気が全身を刺激してピリピリする・・・

ここまでの気迫の剣士はサクラのいる異世界でもそういないぞ・・・

剣を構える左手をギリッと握りしめ直す。


ビイィィィィッ


開始ブザーが鳴った瞬間、伊月の右腕が銀の閃光を残して掻き消える。


「・・・っつ!?」


体を強引に左側にねじることでそれをかわす。

少しでも触れると有効打突になるので、体がふらつくほどに大きく飛んだ。

いや、、、そうでもしなければ、よけられないほど早かった。


「どうだ?、、、『銀閃』。お前が兄を倒した技だ。この一年間の訓練の末に手に入れた技だっ!」


・・・高速の足さばきによる力を余すことなく突きへと流す技『銀閃』。

あまりの速さに腕が消えたように見え、残像のようにサーベルの反射光のみが残る。

まるで、自分を鏡越しに相手をしているようでやりにくい・・・


「はあ、、、びっくりだよ。」


思わず、そう返した

フェッシングでは初手の突きや切りで決着が着かない場合、お互い体をぶつけ合い体の隙間を狙って突き刺す密着戦へと移動していく。

その例に漏れず、彼女と俺はお互いに近づきせめぎ合う。


「だが、『銀乙女』はまだ見せてなかったな?」


彼女は左肩を俺に激しくぶつけながら右腰をひねるように構える。

・・・ゼロ距離の、『銀閃』!?

最初に『銀閃』を見せられていたお蔭で対応は出来そうだ・・・

体を再び、捻っていく。

・・・駄目だ、遅い!?


『銀乙女』


腰の回転と強烈な踏み込みにより、銀の閃光はまるで女性のような丸い曲線を描いて突き刺さる。

気づいたときには左の脇腹を抉るように突き進んで、彼女の右腕は俺の懐まで入っていた。

ビイッと有効打の笛ブザーが鳴る。

辺りからお姉さま!と歓声が上がる。


伊月が良しという顔で離れていく中、俺は驚いていた。

あの技を再現するだけでもとんでもないのに、曲がるゼロ距離の『銀閃』かよ・・・

防具で守られているはずの脇腹はジンと痛み、よく見ると黒焦げが出来ていた。

そこまでの威力があんのかよ・・・

音に遅れて、有効打を示す赤い光が灯る。


「どうだ?」


彼女は、俺の目の前で満足げな笑みを浮かべた。


「ああ・・・避けられなかったよ。」


俺は感心したようにうなづいた。

不規則な曲がる軌道にゼロ距離からの高速突きなんて避ける方が無理だ。

有効打になるのは仕方がない。


「流石ですね。」


再び向かい合う中、高徳先生がいつの間にか俺たちの間に立っていた。

先生が部屋から出てくるなんて、、、と周りが騒然とする中高徳先生は口を開く。


「如峰月君の良い部分を丸々奪い去るだけでなく、絶対不可避の『銀乙女』を作りだすフェッシングの名門『伊月家』の期待の才女、『銀乙女』伊月葵。」


「そして」


有効だがどちらかを示すポールが緑色に灯る


「不可避の技であることを理解し、彼女よりも早く一撃を加える『銀閃』如峰月君も。」


俺の側のポールのみが光っていた。

つまり、この戦いは俺の勝利だったってことだ。


「納得いかない!私の体には一切有効打を示すポイントが無いじゃないか!」


彼女は体をくるりと回し、自分のノーダメージを主張する。

その瞬間、皆が俺がしたことを認識する。


「お姉さま、、、背中、、、」

「背中?・・・い、いつの間に」


背中には有効打を示すポイントが入っていた。

伊月が呆然とする中、高徳先生が説明してくれる。


「流石、『銀閃』・・・背面刺しですか。」


フェッシングのカウンター技、背面刺し

自分から突っ込んでくる相手に密着していき、腕を相手の後ろ側へと持っていきながら背中に突き刺す技だ。

フェンシングの『振込み』という、強烈な握力で剣をしならせていかなければ出来ない技だ。

握力のある男性ぐらいしか使えないから、周りで見ていた女子部員の反応も遅かったんだろう。


「そんな・・・一年もブランクがあるはずなのに・・・私より力も技術も速さもあるなんて・・・しかも『銀乙女』にカウンター?何でそんなことが出来るの?始めて見る技なんでしょ?」


伊月が呆然とする中、主審役の子が俺たちに再び定位置につくよう手で示す。

伊月が慌てたように、定位置へと走っていく。

再び位置につき、開始のブザーが鳴る。

彼女は得意の突撃技が効かないことを知るや否や切り替えてカウンター主体にしたようだ。

切り替えが早いのは流石だけど・・・


前戦と比較すると、微動だにしない。

試しに、俺から今度は一歩だけ進んでみる。

彼女は俺の足に合わせて、一歩『退いた』。

残念だが、もう結果は決まったようなものだった。




「な、、、何でだ。」


伊月が膝をついてぜいぜいと息を荒げる。

周りは騒然としている。

当たり前だ。


5-0


全国上位常連の名門フェッシング部のレギュラーが出した結果とは思えない。

だが、彼女たちも伊月も結果よりも中身に対して騒然としているようだ。


「な、、、なんで最初は善戦と言ってよかったのに、後の4戦は一歩も手が出ないんだ・・・」


そう、、、カウンター主体に変えた瞬間、俺の剣はまるで伊月に吸い込まれていくかのように面白いほど当たっていき、逆に伊月の剣は俺に一度とすら有効打を与えられることが出来なかった。

最後にもう一度苦し紛れに放った『銀乙女』ですら。

伊月は手を地面へと振り降ろす。


「私の剣がお前と比べて不完全だったのか!?それとも、最初は本気で戦ってなかったのか!?」


流石に不憫だったので、一応理由を話してやる。


「退いたからだよ。」


周りが?な表情をする中、一応の説明をする。


「異性間の筋力差とか、『銀乙女』は元々は俺の技だから一回見れば慣れちゃったとか、いろいろあるけどフェッシングは元々決闘だから、後ろに進んだ時点でもう負けが決まってしまう協議なんだ。」


つまりカウンター主体にするにしても相手が進んで来たら、退がるのではなく寧ろ迎え撃つぐらいじゃなければ勝てないのだ。


「まあ、決闘って基本的にお互いの主張のどちらが正しいかを決めるために行う事だから、引いてしまった時点で負けなんだよな。ほら言うじゃねえか、気持ちで負けたら既に負けって」


伊月や皆ががそんなこと考えたこともなかった顔をしている中、伊月に手を差し伸ばしてやる。


「今度俺とやるときは、絶対に引きたくない自分の意思を一つ決めて見な。そうすれば、体が自然に退くなんてこと無くなるから」

「絶対に引きたくない・・・自分の・・・意思・・・」


伊月は俺の手を取りながら、ぼんやりと呟いた。




伊月がずっと何かを考えてるかのように、ぼんやりとし始めたのでお暇することにした。

俺はこの先フェッシングをすることはないから、彼女とはもう二度と会うことはないだろう。

そう思うと残念だが、鷺ノ宮に戻れば文化祭実行委員会の仕事に奉仕作業が待ってる。

彼女のことを考える時間なんてすぐに無くなってしまうだろうから、彼女のことを考えるのはここで終わりだ。


まあ、彼女が自分の絶対に引きたくない意思に気付くことが出来ることを期待はする。

いやあ、いいものを見せてもらった!これはもらってくれ!と押し付けられたフェッシング一式を背中に背負いつつ外に出る。


「お疲れ」

「・・・新聞君?」


そしたら、玄関前には新聞君が立っていた。


「どうしたの新聞君、こんなところで。新聞部は今頃、川下りをしてるはずだけど。」


俺が驚いたように駆け寄ると、彼はにっこりと笑った。


「最後の日くらい君と一緒に遊びたいなって思ったんだ。せっかくだし、テニスでもしないかい?」


新聞君は、後ろに背負ったテニスラケットを見せてくる。


「いいね!でもいいのかい?川下りとか皆楽しみにしてるって聞いてたけど?」


新聞君は申し訳なさそうに聞いた俺の声にニコッと笑いかけてこう返してきた。


「川なんて行ったら、トラウマが再発してちびっちゃうよ。」

「・・・そっか。」


新聞君の笑みはとてもとても疲れ切っていた。

この後は、二人で軽井沢の街を楽しみまくった。

途中で小陽ちゃんに遭遇してヤバいことになったが結構楽しかった。

夏休みで遊んだ日は思い返せばこの日だけだった。


だって、ここから先の日はずっと奉仕作業と文化祭の準備しかしてないからな。






彼が、新聞君と軽井沢の街へと飛び出していた頃の話である。

放送室の小窓から再び練習を見ていた高徳先生は後ろに誰かいるのに気付いて振り返った。


「おや、伊月さん、、、いい戦いを積んで一段階成長したようですね。」


彼の眼から見た彼女は、絶対に退けない自分の意思を見つけたのか、今まで感情の行く先を見失っていたようにぶれていた表情は、強い決意によって見違えていた。

おそらく今の彼女なら『銀閃』をも打ち破れるのではないだろうか・・・そう言い切れる何かがあった。


「先生、、、しばらくお休みを下さい。」


彼女はそういって頭を下げた。

本来なら、有り得ないことである。

全国大会常連の女子フェッシング部200人の中の強化メンバー37人の頂点のレギュラーに位置する彼女がサボりだなんて周りにも示しがつかないし、彼女の為にもならない。

だが・・・


「『銀閃』の言ってた、退かない意思・・・とやらに関係あるのですか?」


高徳先生の言葉に彼女はくいっと頷いた。


「私はもっと強くなるために、、、自分を前に進める為に、、、」


彼女はグッと力強い目で高徳先生を貫き言い切った。


「絶対に退かない意思を手に入れる為に『銀閃』如峰月桜を再び復活させます!」


彼女が如峰月桜を追いかけて、鷺ノ宮市を訪れるのは本当に直ぐのお話。

第一章終了!第二章はサクラ=レイディウスから!

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