第1章如峰月桜と夏休みpart2
最近、毎日更新できてる自分を褒めてあげたい。
「えと、、、朝日奈楓関係ですかね?」
紅ういるを首から下ろしつつ、自分と同じくらいの背の彼女を見つめた。
背の高い女は皆こう、気が強いのだろうか・・・
自分を見下ろすがごとく、ぐいぐい詰め寄ってくる彼女に気圧されそうになっていた。
「朝日奈・・・?誰だそいつは?」
「・・・じゃあ、俺関係?珍しい。」
ういるるが俺の裾をグイグイ引いて、大丈夫?と顔で聞いてくる。
まあ、、、大丈夫そうだ。
朝日奈楓関係でこうやって詰め寄ってくる人間は、大抵暴力沙汰になることが多い。
昔は特に、朝日奈楓の幼馴染ポジションを妬む百合っ子達にガチで命を狙われることがあったしな。
ぶっちゃけ、フェッシングもそういう連中から自分の身を守るために始めたっていう事情があるしなー
笑えない昔の回想である。
とはいえ、俺関係ならまあ大丈夫だろう。
朝日奈楓ほど厄介な人間関係を俺は持ってないからな。
だって、俺普通だし。
そんなことをういるるに説明したら、スマホを突き出してきた。
-朝日奈氏の近くにいることや、我と桃園の誓いを結んでいることからも、お主も普通で・・・
もう一回、スマホをブン捕ることにした。
え?なんて書いてあったかって?
ろくでもないことが書いてあったよ。
「で?俺とはどういう関係?」
ぴょんぴょん目の前で跳ねているバカを押さえつけながら、
朝日奈関係のヤンデレ百合っ子でない限り俺の命は無事なので、取り敢えず話し合うことにする。
彼女は俺のそんな反応を聞いて、眉を不快げにひそめる。
「お前、、、伊月に聞き覚えないのか?『伊月』の名字に少しも引っかからないのか?」
「あ~~~、聞いたことがあるような無いような・・・って、あぶねえっ!?」
彼女は俺の回答を聞くなりブチ切れたようで、後ろに背負ってた黒筒からフェッシング用のサーベルを抜き俺に振り降ろしてきた。
ういるるを庇いながら、バックステップを取りギリギリで避ける。
彼女が振り降ろした剣で土が少し飛ぶのを見つつ、ういるるを後ろに逃がす。
ういるるの走る音を聞きながら、肩で息を切らせてる彼女に声をかける。
「伊月さんだったっけ?もしかして伊月なにがしさんとやらが朝日奈楓に惚れてるとかで、友達の俺に嫉妬してて代わりに成敗とかか?」
「うるさいっ!・・・うるさいっ!・・・なんで、兄様のことを覚えてないんだっ・・・なんで、サーベルを握ってるわけではなく、こんなところで小間使いみたいなことをしてるんだっ・・・」
俺のやっぱり朝日奈関係のヤンデレさん?という希望はやっぱり打ち砕かれた。
・・・やっぱり、俺関係か。
白昼堂々剣を引き抜くような人間の知り合いがいるとは、俺って奴は・・・
やっぱり俺はNPCから離れてってるな。
流石、朝日奈楓関係の重要NPCだ。
「決闘しろと、言ったはずだ・・・今の剣を避けれたなら、体は鈍ってないようだしな。」
彼女はサーブルをユラユラと揺らしながら、剣を構え直す。
「いやいやいやいやっ!俺は剣すら持ってないんだぞ!?殺す気かッ!?」
俺のそんな返事に、彼女はフンと鼻を鳴らす。
「私の兄様を倒せる人間だったんだ。私ごときの剣なら、素手でも決闘になるだろうよ・・・」
「いやいやいやいやっ!フェッシング辞めてもう一年も経ってんだけど!」
「うるさい、、、お前を倒すことで、、、私は、、、前に進めるんだっ!」
彼女は剣を再び上段に構え、ユラユラと俺に近づいてくる。
・・・ヤバい、、、伊月庄司とやらを思い出せれば、彼女も少しは落ち着くんだろうが、俺の今までは(てか今もだが)、基本朝日奈楓中心で回って来たので、朝日奈楓関係の人間じゃなければそこまで記憶に残ってない。
そもそもフェッシング自体、自分の身を守るためにやってたからフェッシング関係の人間なんて同じ部の人間ぐらいしか覚えてない。
「わ、、、悪かったよ。伊月庄司さんとやらを覚えてなくて・・・それにイラついてるんだろ?」
「ぐっ、、、それも理由の一つだ・・・でも、理由はそれだけじゃない!」
・・・駄目だ、話を聞いてない。
彼女は高い上背を活かした上段から、長い腕をしならせた一撃を加えようとして・・・
「はい、バカ騒ぎは終わりだよ。」
いつの間にか後ろにいた古畑さんに腕を抑えられていた。
伊月葵は後ろから取り押さえられたことに動揺したのか、サーベルを取り落した。
それでも興奮は抑えられないのか、既に人に介入され決闘は成り立たないというのに暴れ出し、再び剣を握ろうと古畑さんを振り払おうと暴れ出す。
「な、、、なにをするっ!?はなせっ!?・・・離せっ!」
「もう、、、しかたないなあ・・・伊月さん耳を拝借。」
古畑さんは流石に抑えられなくなってきたのか、彼女の耳にニ、三語囁いた。
ガクッ
伊月葵は膝から崩れ落ちた。
何で他校の人間の情報知ってんだってツッコミどころは沢山あるが、本当に古畑さんはパナいっすわあ。
伊月葵がそれだけは、、、それだけは、、、と縋り付いている。
「で?どんな知り合いか分かってないの?本当に?」
古畑さんは、脚に縋り付く彼女を指さして聞いてくる。
う~ん、マジでフェッシング関係は覚えてない・・・
「ええ、、、全然分かんないっす。」
「はあ、、、朝日奈関係以外は教えるつもりないし、君と彼女の問題だから突っ込まないけど、駄目だよそういう感じは。もっと周りを見ないと。」
「まあ、、、そうですね。」
俺の気持ちの籠ってない返答を聞いて、古畑さんはため息をつく。
「もう、、、君ってやつは。足元の君も今日の所は一回出直しな。そんなに頭に血が上ってる状態じゃあ自分のしたいことも出来ぬまま駄目になっちゃうよ?」
「・・・でも・・・」
「取り敢えず、決闘に持ってくならそうせざるを得ない状況に追い込めばいい。でもそれは今じゃない。わかるよね?」
「ぐう・・・」
こんな感じで伊月葵は追っ払われた。
「と、おもったんだがなあ・・・」
「なんだ?決闘がしたいのか?」
-決闘か・・・前世では息をするのと同じ数だけしたものだ。懐かしい、、、一興だ。我の前で余興として捧げよ-
決闘をせざるを得ない状況=決闘を承諾するまで付きまとわれる状況と勘違いでもしたのか、伊月葵は仕事してる間も常に俺の後ろを付きまとい、決闘、決闘と叫んでいた。
ういるるもスマホをぴょんぴょん跳ねながら見せつけてきて妙に煽ってくる。
そんなカオスな状況がついには夕方まで続き、俺は逃げるように調理室で料理を始めていた。
雇われてる女子フェッシング部の為の夕飯を作る作業だ。
作るのはただのカレーではあるが、そういうのもお嬢様方にとっては物珍しいらしく意外と好評だとか。
「お前、、、付きまとうならいい加減手伝ってくれ。新聞部67人に女子フェッシング部35人全員分のカレーを作らにゃならないんだ。」
本来なら新聞部の女子部員が後二、三人は来てくれるはずなのに、今日は作業が長引いているらしく俺とういるるの二人だけだ。
正直、猫の手も借りたいくらいだ。
俺の返答を聞いた彼女は、なら・・・と嫌な笑みを浮かべる。
「手伝ったら、決闘を承諾してくれるんだな!」
「ああもう、決闘でもなんでもしてやんよ!ほら、そこの野菜を切ってくれ!」
肉を切りながら、適当に返事をすると彼女はよっしゃと言いながら野菜をまな板に並べ始めた。
承諾しちまったもんは仕方ないと、すぐに肉を炒める作業をしているはずのういるるに新しく切り分けた肉を渡す。
「ういるる!頼むわ・・・って、何焦がしてんだよバカっ!」
妙にあたふたしてると思ったら、肉を焼いてるはずのフライパンはワインをかけたかのようなフランベ状態で、火の柱が上がっていた。
危ないので、ういるるを急いでフライパンから引き離して尋ねる。
「なんでだ!?なんで、酒もないのにフランベ状態になるっ!?お前一体なにしたっ!?」
ういるるは俺から目を逸らしつつ、スマホを俺につきだす。
-火はどんな尊いものも灰に変える。我の炎は穢れの炎。どんな肉ですら灰塵へと返す・・・―
「お前はスマホを持つんじゃねえ!じゃがいもの皮でも剥いてろ、バカ!」
彼女のスマホをぶんどって、代わりにピーラーを押し付ける。
そのまま、ようやくフランベが収まったフライパンに肉を放り込みさっさと焼いていく。
軽く焼き目が着いたらすぐに大鍋に放り込んでいく。
本来はもう少し焼いた方がいいが、カレーごと煮ればいい。
時間がないから仕方ねえ・・・
「なあ、、、如峰月・・・?」
「なんだ!もう切り終わったのか?流石だ、、、おい、なんでサーベルなんて持ち出してやがる?」
伊月は、全く手の付けられてない野菜の前に震える手でサーベルを持ちながら立っていた。
彼女は涙目でこっちを見てきた。
「ほ、、、ほおづき、、、包丁とやらを使ったこと無いんだが、、、サーベルで切っていいかな?」
「いいわけねえだろっ!お前は邪魔にならないところで座ってろっ!」
コイツラ、、、マジ使えねえ。
結局、ほぼ一人での作業になってしまった。
いちいち切る時間もなかったので、野菜はほぼこま切れ状態にしたり、肉はぶつ切りで適当に切り裂いたりとかいろいろ工夫して何とか間に合わせた。
カレーで良かった・・・他の料理だったら絶対間に合わなかった。
それに、朝顔さんの為に夕飯作ることがほぼ毎日だから手際だけは良くなってんだよなあ。
役に立たない中二病患者やフェッシングバカよりも俺の方が何気に女子力高い。
煮込み中の鍋をぼうっと眺めつつ、ういるるをパシらせて買わせた缶ジュースを飲む。
やっと一段落着いたので、辺りを見回す。
サラダとデザートは別の調理室でやってくれてるらしいから、後は米が炊けるのを待つだけだ。
100人並みの量を焚くので、有り得ないぐらいの大きさの炊飯器が三つ。
全力で稼働しているので、水蒸気の放出量が半端ない。
その炊飯器の横で、野菜を切り裂こうとしたサーベルを抱え込みながら座り込んでるバカを眺めつつ、カレーのあくを取り除いていると、くいくいと袖を引かれた。
引かれた袖の先を見てみると、ういるるがうつむきがちで立っていた。
「・・・ごめんなさい。役に立てなかった。」
彼女は小声で、申し訳なさそうに言った。
なんだ、、、普通にしゃべれるじゃねえか。
取り上げたスマホを返すのをその時は忘れてしまっていたのでそのまま俺も口を開く。
「気にしてないよ。あの後一生懸命、野菜洗ったり皮剥いたりしてくれたじゃんか。すっげえ助かってたんだぜ?」
「でも、、、」
そういって、顔を伏せる彼女はかなり可愛かった。
てか、ういるるの声を初めて聴いたなあ・・・
「ういるる、そうやって自分で話せるんだったら、スマホ使うのやめろよ。しかも、あんな変な中二病言葉も何で使ってんの?」
仕上げとばかりにチョコレートをパキパキ折って放り込んでいく。
ちょっと口につまみ入れながら、彼女の顔を見ると彼女はもじもじしていた。
掠れそうな声で彼女は答える。
「家族とか親しい人なら地声で話せるんですけど、、、そうじゃない人にはなかなか出来なくて。で、スマホを使うようになったんですけど、引っ込み思案ってバカにされる事があったから、、、バカにされないように、、、えらそうなしゃべり方研究したら、、、今みたいな感じに、、、」
「はあん、、、大変だな。」
缶ジュースを座り込んで落ち込んでるバカにも放り投げつつ、火を止める。
後は、本当に米待ちだ。
援軍ももうそろそろ来るようなので、もうすることは大してない。
「直したいとか思ってんの?その性格?」
「はい、、、なおせるなら、、、むぐっ!?」
余ったチョコレートを取り敢えず、ういるるの口の中に突っ込んでおいた。
涙目でこっちを責める目で見つめる彼女に俺は笑いかける。
こういう自分を変えたいって思うやつは嫌いじゃない。
サクラや俺も自分を帰る途中だからだ。
「ま、任せとけよ。」
ちなみにカレーは好評でした。
やっぱ俺って、女子力高いな(ドヤッ)
翌日、俺はういるると作業を行っていた。
合宿中は意外と忙しい。
夏休みが終われば、すぐに文化祭が始まるので広告ももう締切が近い。
広告作業も既に終盤へと入っていた。
なんか、広告も何種類も出すことを決めていたので
ういるると広告の不備が無いかを確認して、古畑さんのPCにデータを送信する作業を行っていると扉がガンと押し開かれた。
「伊月葵!はせ参じた!」
伊月が早速バカをやらかす中で、ういるるが俺の背に隠れる。
いつもだったら好きなようにさせるんだが、今日は彼女を俺の前に引っ張り出す。
彼女がスマホを取り出し始めたので、それすらも取り上げ懐にしまう。
「ほ、、、ほおづきさあん!、、、なにするんですかっ、、、」
彼女が俺の耳元で必死な声を出すので俺は答えた。
「さあ、、、変わろうか。」
ふるふる震える、ういるるとドシッと構えた、男らしい伊月が対面で座る状況が出来上がり、俺はそんな二人の間にもう一つ席を設けて座っていた。
「如峰月!この子と一言でも会話が出来たら、決闘をしてくれるのは本当だろうなっ!」
結構、昨日から会話しているうちに彼女も怒りが収まったようでオラの話を聞いてくれるようになった。
本当に、有り難いこった。
「おう、流石にフェッシングのルールにのっとった形でやることになるが約束してやる。」
「むう、、、まあいいだろう。・・・ところで、なぜこの子はこんなに震えているんだ?」
ういるるは震度7か?ってぐらい体を震わせ、冷や汗を流している。
目線は一回も伊月と合わず、さまよわせ続けている。
・・・無理かもしれない。
彼女が極端な引っ込み思案な性格を直したいって言ってたので、俺は昨日夕食中に伊月に協力してもらえるように頼むことにした。
自然治癒をまってじっくり時間をかけても、ういるるのあの性格は直らないだろうから、伊月葵みたいな話しかけづらい人間と話せるようになれば自信がついて直すきっかけになるだろうと思ったのだ。
「では、、、好きなものはあるか?私は兄様とフェッシングだ。」
「・・・・・・・」
彼女はがくがくしながら指を震わせ、スマホと書いた。
・・・スマホ返してくれってことか?
それとも、スマホが好きなのか。
どちらにしても、言葉にしなきゃ意味がねえよ。
「意味ねえから・・・喋らんかいっ!」
「ひうっ・・・・・」
俺が思わず怒鳴りつけてしまうと、ういるるは体をぎゅうっと縮こませる。
伊月は意地でもといった様子で、話しかける。
「じゃ、、、じゃあ、部活ではどんなことをしてるのかな?」
すると、ういるるはすくっと立ち上がるや否や、パソコンを指さしたり、カタカタ打つふりをしたり、また広告を指指したりとパントマイムし始めた。
で、伊月もバカなのか必死でそれを読み取ろうとする。
「あ、、、パソコンを?あ、あたり?使う・・・あ、違う?じゃなくて、、、打つ、、、あ、正解?で、、、紙、、、、?・・・ああ、そうか!パソコンで記事を打つ仕事か!」
「、、、んっ!、、、んっ!」
二人でやったねって感じでハイタッチし始める。
・・・
「会話しろっ、つってんだろうがああああああああああ!」
「「ひうぃ!?・・・・・」」
昨日の夕食準備の時みたいに、体を震わせ縮こまっている二人の前に俺は立つ。
伊月の頭をくっちゃクチャにかき混ぜながら怒鳴りつける。
「お前、決闘するとか言って俺に付きまとってんならもっとやる気出せや、ああん!?何二人でパントマイムしてんだ、コラッ!」
「す、、、すまない!すまない!」
伊月の説教済んだら、すぐにういるるのほっぺをぎゅうぎゅう伸ばし始める。
「ういるるも、しゃべるだけなんだからもうちょいがんばれよ!お前がすんのはしゃべるだけだってんのに、何、指文字とかパントマイムとかに頼ってんだお前は~~~~~~~」
「ひうっ、、、ひうっ、、、」
ういるるがパニックを起こし始めジタバタ暴れ出す。
そんな状況の中、伊月が俺の手を優しくつつみ、ゆっくりと俺とういるるを引き離した。
それから、じたばた暴れるういるるを優しく抱き留め頭をなでる。
決闘とか言ってるわりにはこういう事できるんだなとか感心してると、彼女は俺を睨みつけた。
「決闘はもういい!だが、持ってない人間に無理強いするのは止めるんだっ!誰にだって出来ないことはある!そういう時はゆっくりとその人のペースでやってあげなくちゃいけないんだっ!」
「そのペースで出来ないから、こうしてやってんだろ?」
俺が呆れ交じりにそう答えると彼女はかぶりを振ってそれを否定する。
「君は天才肌だからやればできると言い切れるかもしれないけど、人はいくら時間をかけても変われない部分は確実にあるんだっ!」
「でも、変わりたいってういるるは言ったんだ。そのためには誰かが、厳しくしてやんないと駄目だろ?」
それに、変われないって部分は俺は否定するぞ。
変わり始めてる俺やサクラに対する否定になるからな。
ぜってえに認めない。
「欠点はすぐにでも直すべきだ?そうしないといつまでも良くならない。」
「欠点?」
彼女は、俺が欠点と言った瞬間にプチンと何かが切れたかのように立ち上がった。
「彼女の引っ込み思案は欠点なんかじゃない!」
「「え?」」
俺とういるるがポカンとする中、彼女は言葉を続ける。
「彼女は私と少しでも意思疎通をしようと苦手なのに必死で体を動かしてコミュニケーションを取ろうとしてくれた!私と話したいって感情がガンガン伝わって来た!正直、とてもうれしかった!お前には話しかけても、言葉だけ返って来て、感情が一切返って来ないなんて経験がないからそういったことが言えるんだ!彼女は、、、私と、、、『会話』してくれているんだぞ?、、、その幸せが、、、お前には、、、分からんのか、、、?」
「・・・悪かったよ。ういるる、伊月。」
泣き始めた伊月を見て、流石に気まずくなったので二人に頭を下げる。
自分でも少々強引だと思ってたしな。
ういるるはそんな俺の様子をじいっと見つめた後、伊月の肩をポンポンと叩いた。
「・・・?」
伊月が顔を上げる中、ういるるは口を開いた・・・!?
「ありがとうございます。伊月さん。」
小さいくぐもった声ながら、間違いなく口は開いていて音は出ていた。
「く、、、紅、、、しゃべった?」
伊月が驚いた顔で、ポカンとする。
ういるるはそんな彼女に笑いかけて、話しかける。
「嬉しかったです。私の悪あがきを努力と認めてくれたことが。」
「あ、、、ああ。」
ういるるは彼女に手を差しだし、こう言った。
「私とこれからもしゃべってくれますか?友達になって下さい。」
俺も、伊月も驚いていた。
ここまで上手くいくなんて全然思ってなかった。
すんげえ、感動している。
「ああ、もちろんだ!私たちは親友だっ!」
伊月も感動したのか、思わずういるるを抱きしめる。
「あ」
ういるるのポケットから二台目のスマホが転がり落ちる。
そのスマホの画面にはこう書かれていた。
代話アプリ。
「「感動を返せ!」」
ういるるが人見知りを直すのはどうやらまだまだ先のようだ。
ああ、疲れた・・・
夜になり今の今まで、文化祭に向けた新聞部の作業を行っていた。
俺が発案者だから、こういう時には俺が最後までやんなきゃいけないんだよね。
もう皆、寝てしまっているような時間帯だ。
どうせならのんびり風呂にでも入ろうと、大浴場に向かう。
新聞君ですら寝ているような深夜の静かな廊下を、ポツリポツリと歩く。
辿り着いた浴場はのれんが三つ。
男湯と女湯と混浴。
混浴かー。
混浴って、混欲っていう表現もできるよなー。
ま、どうせこんな時間に入ってるやつなんていないだろうし入っちまおう。
ぶっちゃけて言うと男湯の方は露天風呂が無いので、何かいつも物足りないと思っていたのだ。
初日に混浴へと向かったバカどもの報告によると、入ってる女性は一人もいなかったようだが絶景の露天風呂があるらしい。
しかも、天然の温泉らしい。
折角軽井沢まで来たのに、温泉に入んないのは勿体ないしな。
女性が全く入んないなら、男湯みたいなもんだろ。
なんか、フラグになりそうなことを考えながら混浴ののれんをくぐった。
「おお!」
100人が泊まれるところなんて自然の家的な場所しかなかったので、山にあるような場所で料理とか掃除まで自分でしなきゃいけない旅館だったが、この混浴の温泉はかなり金かかってるな。
歓楽街の眠らない灯がきらめく夜景はとても素晴らしい。
白く濁った温泉は、かなり効能がありそうだ。
完全な露天風呂らしいその場所は、周りの隔たりもあまりなく、流れる風が少し心地いい。
掛け湯を一回浴びて湯につかる。
「やばい、、、今なら死んでもいいかも・・・」
疲れが湯の中に溶けてく気がする。
温泉特有の肌がスベスべになっていくお湯を何度も顔に浴びせながら体の疲れを溶かしていく。
はあああああ
意外とお湯の温度が高いようで、煙が濃く立ち昇っている。
白く濁った煙は意外と柚子のような香りがした。
「おい、、、だれかいるのか?」
濃い煙の奥から、声がした。
意外と遠くを見渡せなかったようで、温泉には俺以外にも入っていたようだ。
こりゃ、煙っつうより雲みたいな濃い湯煙だ。
「あ、、、います。」
自分でもバカみたいな返事をすると、白い霧の中から黒い影が出てきた。
・・・白い雲といい、
・・・裸と言い
アリアを思いださせる日だなあ。
「如峰月・・・・何故ここに・・・いる?」
俺を認識し始めた瞬間に、腰を抜かし、体を小さなバスタオルで隠し始める。
でも隠し切れない俺と同じ背丈の大きな体から、色白の肌がチラチラと見え隠れする。
・・・え?混浴に何入って来てんだよ、このバカ。
俺の目の前で伊月葵が必死で体を縮めながら、真っ赤な顔をしていた。
がんばってるわ、俺・・・




