第1章NPCと主人公part1
・・・ああ、言いたいことは分かってる。
どんな痛い人間なんだ、お前はって言いたいんだろ?
そもそも俺はあんな俺になれるわけないし、あんな主人公としてとか、ヒロインとしてとかいうわけがない、、、分かってたよ、ちくしょう。
俺の名前は如峰月桜。
背は174cm。帰宅部を毎日満喫しているが、ある程度筋トレをしているので腹は割れてるし、触れば鍛えていることが良く分かる。
寝癖がいい感じでシャレオツになっているので、ワックスを使ったことが無いのが自慢だ。
あと、伊達眼鏡を愛用してます。
どうでもいいことだけど。
成績はかなりいい方で、運動神経は悪くない。
しかし、俺はリア充に慣れない・・・つまり、物語の『主人公』的ポジションにいれていない。
もっというと
文化祭で思いっきり引っ張ったりする立場に入れる人間でなく
卒業式に送辞を読むような立場でもなく
クラスを引っ張るムードメーカーでもなく
物語では、クラスメートAと表示されるようなモブであり
イベントを起こす側でなく巻き込まれる存在である。
つまり俺という人間を一言で表すなら
周りを引っ張っていく『主人公』のような人間になりたくて、、、結局なれなかった、この現実がもし小説やゲームなら『NPC』的な存在だ。
俺の発言は、どっかの主人公のように誰かの心を揺さぶることもなく、誰の心にも共感されない。
俺の行動は、どっかの主人公のように間違っていても最終的には認められるなんてことはないし捕まったり、批難される。
俺の思いは、どっかの主人公のように、必ず通るわけない
大局に、、、つまり主人公が優先される。
俺の学校では、主人公がいないと上手く回らないが、俺はいてもいなくとも何も変わらない。
俺の立場は、、、『主人公』の周りに集まる『重要NPC』のさらに下の下の『NPC』だ。
そんな俺が、主人公、主人公叫んでる夢を見るとは
「すんげえ痛い奴じゃん・・・」
なんだよ、あの真っ黒な中二病のローブは!
所々に入ってる白いラインは『混沌』属性だからとか言い出すつもりか!?
確かに、ああいう格好にはちょっと、、、主人公っぽいからそそられは、、、するけども!
俺は中二病ではない!!
しかも、剣を振り回すとか何考えてんだよ俺!?
銃刀法違反だから!
そして一番許せないのは、あんな可愛い女の子に主人公だからとセクハラ発言しまくる、マジさいてーなところだ。
主人公だからってセクハラしてもいいのはエロゲとラノベの世界だけである。
俺がしたら、キレられて即通報という制裁か金○を物理的に制裁される。
具体的にいうと、、、わいせつ罪で裁判か、、、やだなあ。
てかさ、、、
「どんだけ、『主人公』になりてえんだよおおおおお!」
俺にとって、『主人公』とは、リア充のような誰かを率いたり、誰かに尊敬されるような人のことだと思う。
主人公の言ってることだから
また主人公面白いことやってんな、まじってみっか
主人公だし、しょうがねえなあ
・・・とか、そんな目で俺は見られたい!俺は、誰にとっても主人公である人間になりたい!
俺の幼馴染の『あの娘のように』!
「うっさい、起きてんなら降りてご飯食べてよ!」
と、そんな感じで自己嫌悪に浸りつつ、うおおおおおおと叫んでいるといきなり扉が開かれた。
扉を開け、俺の痴態をじろじろと冷たい目で睨みつけているこの少女は如峰月朝顔。
陸上部に所属している為、肌は黒く焼けている。
そして男の子かといいたくなるほど髪は短い。
中学3年生だからかは知らないが生意気盛りで反抗期だ。
俺のことをお兄ちゃんとか呼んでくれず、いつも桜と名前で呼んでくる。
身内びいきかもしれないが、目はくりっとしていて笑顔は可愛い。
さっぱりした性格で社交的なので(しかも俺以外には優しい)、人気も高い。
おそらく物語で言えば誰かにとっての重要NPCになれる人材だ。
だが、頭が悪い。
「桜?明日の朝飯、抜く?」
「なんでだよっ!?」
妙に感の良い妹様が俺をキッと睨みつける。
女の勘ってやつは面倒だな、クソッ!
ちなみに、妹は朝早くから朝練があるためいつも4時起きであり、ついでにと俺の分の朝飯を作ってくれている。
ついでに起こしてくれる。朝5時に、、、寝かせて(泣)
妹の話によると、妹が眠いのに必死になって練習してんだからアンタも早起きして同じ苦しみを味わいなさいということらしい。
・・・とまあ、これまでの話からも分かるように、俺は妹に雑に扱われている。
俺にも少しは原因があるので、強くは言えないのだ。
まあ、、、理由はまた教えるよ。
「はいはい、朝顔さん。今行きますよ。」
「フン!」
朝顔が朝練用のジャージの裾をグイッと上げながら(育ち盛りだからとちょっと長いのを買った)ぷいっと部屋を出て一階に降りてった。匂いからして味噌汁でも温め始めたようだ。
いい匂いに腹をすかしながら、パジャマを脱いでブレザーに身を通す。
中学時代は黒の学生服だったが、やっぱりブレザーの方が楽だ。ネクタイはしなきゃならんが首の圧迫感が全然違う。
ブレザー自体も藍色っぽい下地に白のストライプが入ったもので、イギリスの学生服を参考にしたそれはかなりシャレオツである。
日本では滅多に見られないブレザーでこれを目当てに入ってくる人もいるようだ。そのせいで偏差値ちょっと高い。
まあ、俺は家が近いし成績的にもトントンだからとここにしました。面白くなくてごめんね。
それに袖を通し下に降りる。既に妹が食事の用意をして待っていてくれた。
下の食卓には朝顔と俺しかいない。
何故なら、両親ともに事情があって家にいない為に実質二人暮らしだからだ。
おい、、、一軒家に二人暮らしだからって、エロゲ展開は無いんであしからず。
「「いただきます」」
たいして会話もなく、箸が進む。会話するときもないことは、、、、ないけ、、、れども、基本的には夕飯の確認ぐらいだ。
てか、それすらあまり最近はしないかもしれない。
朝顔は俺がご飯一杯を食べてる間に3杯食ってるほど食事に夢中だし、話しかけても
「晩飯何がいい?」
「鶏肉使った奴なら何でもいい」
「そ、そうか、、、親子丼でいいか?」
「油多いじゃん、減量中だって言ったじゃん」
「そ、そうか、、、じゃあba、バンバンジーにしようか?」
「チッ、油駄目だっていってんでしょ。野菜蒸しといて、上に鳥肉蒸したの置いといてくれれば、後はこっちで食べるから」
「はい、ごめんなさい」
心おれるううううううう!
何だよこのお父さんが、年頃の娘に頑張って話しかけようとして、失敗する感じ!?
マジで涙が出てくるんですけど!?
そんな俺の様子をガン無視しながら朝顔さんは、時計を見て、ヤバ、というと立ち上がり、棚から鞄やら自転車の鍵やらを漁りはじめた。
「じゃ、もう行くから。後片付けよろしく。」
ちなみに、帰宅部の私めが夕飯から家の掃除まで完全に引き受けているのでございます。
妹の洗濯物は触ったら殺されるので、リポートすることは無いのであしからず。
まるで家事を全くしない旦那さんのような妹さんを横目で見ながらため息をつくと、俺も飯を片付け始めた。
「行ってらっしゃい、あなた。早く帰って来てね。」
「何?気持ち悪いからやめて。後、今日大会に向けて部員全員でビデオ見るから遅くなるし最悪夕飯外で食べるから」
油駄目なんじゃねえのかよ!?何外食してんの!?とかツッコミたいのをこらえて我が愛しの小生意気な妹朝顔さんを送り出した。
食器を洗って、朝のゴミ出し。やることしっかりやっておく(忘れると物理的制裁)
それから、自分の部屋と朝顔さんの部屋を軽く掃除機。最後にご飯をセットしておく。
いつの間にか、なんだかんだでいい時間になっていた。
うちの学校、私立鷺ノ宮高校は戦後間もないころから続くかなりの名門校らしい。
伝統校ではあるものの一年前に大改修をしたため、今では真新しく清潔な校舎で勉強できる。
とはいえ、裏に回れば旧校舎が残っており、今では閉鎖されているが不吉なうわさが多い裏門まであるなど歴史の古さを強く実感できる。
学生にしてみれば伝統よりもむしろきれいな校舎や偏差値とかの方が重要だと思うがね。
そんな我が高校はわずか駅から10分。なんて、すばらしい!
よって電車から降りて一人でぼうっと歩いていれば、あっという間に学校についてしまった。
、、、はあ、今日も登校テンプレはなしか。
ちなみに、登校テンプレとは曲がり角でごっつんことか電車の中で見つめあうとかいうイベントのことである。
俺がもし同じ立場なら、ちょっとどこ見て歩いてんのよとか、なにあの人さっきからじろじろ見てきて気持ち悪い。
・・・ねえ、駅員さん呼ぼうよとかになる。
うん、徒歩10分ではそんな都合の良いテンプレ起きるはずがない。
てか、起きなくてよかったのさ(泣)
と、そんなくだらない事を考えていると後ろから声をかけられた。
「如峰月君」
「はいっ!、、、あれ?」
おかしい、、、喜び勇んで振り向いたがそこには誰もいなかった。
声がしたのにいないとなると、これはもしや幽霊からのSOS!?
まさか、俺の霊能主人公的なフラグが立っているとでもいうのかっ!?
「我建超世願 必至無上道 斯願不満足 誓不成正覚 我於無量劫 不為大施主 普済諸貧苦 誓不成正覚 我至成仏道 名声超十方 究竟靡所聞 誓不成正覚 離欲深正念 浄慧修梵行 志求無上道 為諸天人師 神力演大光 普照無際土・・・・・」
「だ、誰が幽霊ですかっ!?下です!下を見てください!」
下を見てみると、小学生みたいなサイズのスーツを着て小学生みたいな背丈をした腰まで伸ばした長い髪の小学生がいた。
胸を張り、偉そうにしている幼女さん。手には『せいとめいぼ』と書かれた辞書のような分厚いノートを持っている。
「こんにちは、どこの水子霊ちゃんかな?」
「だ、だれが水子霊ですかああああっ、違いますよ!」
「ふむ、、、となると」
「となると?」
期待した目で見つめてくるのがとっても面白いのでからかってみる。
ワザワザ、同じ目線になるようしゃがみ込み、いい子いい子と撫でてあげながら、、、
「だめだよー、こんなところに小学生が遊びにきちゃあ。メッ!」
「ふ、、、」
「ふ?」
「ふんがあああああああああああ!」
『せいとめいぼ』でぶんなぐられました。反省。
ぶあっついもんでコメカミぶち抜かれたためめっちゃ痛い。目に☆。
「ロリネタでからかうなら、こんなに遠回りにしないでください!みじめです!、、、っていやそもそもロリネタでからかうのを止めてください!私は友澤穂乃華26歳国語教師!れっきとした成人なんです!生徒の前でも平気でタバコやテキーラぐいぐいやっちゃうイケない大人なんです!」
ちなみにここ学校の玄関前です。
ロリに怒られてるこの人一体なにしたの?みたいな視線で見られている。
主人公としてなら目立ちたいが、こういう羞恥プレイみたいな形では目立ちたくないんでマジ止めてください。
「すんませんした」
「、、、受け入れましょう」
なにこの羞恥プレイ誰得?感とお互いに多大な精神的ダメージを残しつつ話を変えることにする。
受け入れましょうと言いながらもまるで猫のように髪を逆立てキシャアと威嚇してくる先生にどうどうと言い落ち着ける
「で?どうしたんです?まさか、俺にけなされる為に声かけたんですか?」
「キシャアアアアアア、、、そんにゃわけにゃいでしょう。これをみてほしいにゃ。」
「ん?」
穂のちゃん先生という愛称で親しまれているこの先生は実は俺のクラス1-Bの担任さんなのである。
愛らしい見た目(笑)とは引き換えに親身な先生でもあるため、人気が高い。
てか、担任ってだけで既に重要NPCじゃん。
・・・・・・・ずるいわぁ。
人気の秘訣であるプにプにな手にある『せいとめいぼ』の開かれた1ページを見る。
―1-B部活動所属名簿一覧
旭 刑事 陸上部
朝日奈 楓 男女混合バスケットボール部
新聞 佑新聞部←名前読み間違えない!
壱岐 崇 不毛地帯採掘部
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如峰月 桜 無所属
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-以上37名。ただし、如峰月 桜のみ無所属であるため早急に入部させるように-
新聞君の名前くらい憶えてやれよとかツッコミどころ満載だが取り敢えず・・・
「先生、これ誤りです。」
「にゃんと!?・・・ごほん、それはすみませんでした。どこに所属したんですか?」
「はいはい、ちょっと待ってください・・・よし。」
無所属に誤り線を引いて帰宅部と油性ペンで書いた。
「にゃああああああああああああ!」
「あべし!」
『せいとめいぼ』でまた殴られた。
ふしゅう、、、ふにゃあと鳴く子猫ちゃんをもう一度人間に戻したら、指導が必要です!
と、生徒指導室に連れ込まれた。
抵抗するたびにコメカミに分厚い本が突き刺さる。
口のみが勝手に動く。
「やめてえええ、口では言えないようなことされるううううう!」
「な!?いいから来なさい!この!この!」
朝っぱらから、いい迷惑である。
襟首をひっつかまれながら引きずられて連れ込まれてしまった。
指導室について座るなり先生はいきなりオーバーヒートする。
「いいですか!うちでは一応、一年の間は絶対に部活動に所属していなければならないんです!強制です!そこんとこ分かってますか!?もう2か月丸々帰宅部生活エンジョイとか、学校舐めてるんですか!?」
「いや俺、部活動所属してましたよ。だから二か月丸々ってわけじゃないです。確か部活動が合わないなと辞めた時は、二か月の猶予期間が与えられましたよね?」
「ああ、そういえば一日弓道部に通ってすぐにやめてましたね。だから正確には1ヶ月29日帰宅部生活でしたっけ!」
「だから、あと一日は選択猶予期間があるはずです」
「お前みたいな屑の言い訳の為の権利じゃねえんだよおおおおお!」
「先生、落ち着いて、権利じゃなくて制度ですよ」
「ふにゃああああああ!」
「ひぎょま!」
もう、屑とか言っちゃうこの先生、アツすぎる!
ある程度殴って怒鳴って獣化して疲れたのか、へたり込んでしまった。
もう、経験上雷が落ちないことは分かっていたので、ふうと一息つくと立ち上がった。
「今日中にどっかの部に部活動入部申請出しときますよ。」
「で、退部届も一緒に出すと」
「、、、ははは。」
先生は俺の返事を聞くと、大きくため息をついて悲しげな顔をした。
「あなたが部活動を嫌がる気持ちも分からないではないですが、高校生活は一生に一度なんです。先生の時のように、生徒皆に一生の思い出に残る高校生活を送ってほしいと先生はいつも願っています。もちろんあなたにも過ごしてほしいと先生は願っているのです。」
俺は、、、
堅くなるか顔を何とか笑みにしてみた。
この半年で随分うまくなったNPC顔だ。
「先生。部活動とか行事とかって、皆必死にやってるじゃないですか?」
「え、ええ。」
「つまり、そういうのを青春っていうんですよ」
「それが、、、どうしたんですか?」
怪訝そうな顔をした先生に仕方なく青春の真実を告げる。
「主人公格の人間だけなんですよ。青春真っ最中の中で、諦めたりやる気のない状態でも青春してもいいのは。」
主人公格として青春がしたい俺はしょせんNPC。
NPCの役割は物語のただの潤滑油。
潤滑油の役割すら果たせないNPCを使うゲームがどこにある?
周りに排他され最後には最初に会った場所さえ残らない。
だったら、青春を程々にやってった方がいいに決まってる。
ぽかあんとしている先生を尻目に、生徒指導室を出た。
少し気分を悪くしてしまったので、アンパンと紙パックの牛乳を近くの自動販売機で買って教室で食べることにする。
俺の席は、廊下側の一番前。人が良く出入りするので落ち着かない。
とはいえ、穂のちゃん先生に絞っていただいたせいで、もうほとんどの生徒が席についていて着いてないのは朝練してる人達だけだろう。
ちょっと得した気になって、座ってパンの包みを開ける。
「よっ」
「あっ、てめっ!?」
あんパンを食おうとしたら背中をはたかれたため、取り落してしまう。
恨みがましく、そいつを首が痛くなるほど見上げる。
野球部の朝練終わりなのか制汗料の強いにおいが漂う190㎝を超えるこの大男は浜田龍之介。
運動神経バツグンで、基本的にリア充である。中学時代からの友人であるため今でもよく話すが、残念ながらもし高校時代に出会ってたら絶対に話さないタイプである。
坊主頭であるため、なかなか彼女が出来ないことが悩みらしい。
この通り性格はくそ意地悪いが、頼りになるやつで、体育祭では間違いなく団長を任せられる重要NPCだ。
愛称はハマリュウである。覚えてあげてください。
あんパンを拾い上げるのも面倒だったので、ほったらかしにして牛乳にストローを入れる。
「後で弁償しろよ?」
「わりい、わりい。まさか落とすとは思ってなくてさあ」
ちなみにコイツ俺の隣の席である。
「で?俺の背を思いっきりぶっ叩くような用事って何だ?」
「ああ、穂のちゃん先生に生徒指導室に無理矢理連れ込まれたらしいな。致したのか?」
ざわっ
「・・・」
「悪かった、悪かった。牛乳をどうするつもりだ。ストローの噴出孔を俺に向けるんじゃない!?ごめんごめん!」
「はあ、、、」
けらけら笑うコイツを本気で殴りたいところだが、殴ったところでこいつには効かんだろうことが容易に分かるし、しょうがないと諦める。
ざわつきが自然解消されぬまま、、、話題を変えることにする。
「そういえば、今日は文化祭準備実行委員の選出するって言ってたっけ。ハマリュウお前しねえの?」
「いや、ぜってえ無理だわ。先輩に聞いたけど。いつやるかも不定期で下手したら土日もやる羽目になるわ、6月から本番の9月までじっくりかけるから夏休みも被るし。第一、俺はレギュラーだからそんなことやってる暇ない!」
「そういえばもう、6月か。もうそろそろ衣替えか」
「え?まあな。俺なんてブレザーの下半袖だぜ。」
「ばれてもしんねえぞ」
ちなみにうちはたまに抜き打ちで服装検査があるため引っかかると一週間の奉仕作業に処せられる。
他の校則違反の場合も同様奉仕作業である。
・・・引っかかってしまえ。
そんな会話をしていると、疲れた様子の少年がこっちによって来た。
彼の名前は新聞佑君。
うちのクラスの学級委員長である。
みんな着崩すネクタイをしっかり締めていることに彼のまじめな性格が良く表れている。
イベントではいつも彼は、過労死寸前まで仕事をするためこうしてフラフラになっている。
ちなみに目元のくまとか取れると覇気のあるイケメン秀才顔になる。
「・・・やあ、なんの話?」
「いや、文化祭の実行委員の話とかコイツの服装の話とかな」
ドやっ!とブレザーを脱いでポーズを決めるハマリュウを新聞君は笑ってからため息をついた。
どす黒いオーラを放ち始めたので話を聞いてあげよう。
「どうして、そんなに疲れてんの?」
「聞いてくれるかい!やっぱり君は最高だ、桜君!」
「で?」
「ハマリュウ君、ナイスアシスト!実は昨日は候補曲を100曲全てY○U○UBEでダウンロードしていたら夜が明けてしまって、衣替えとか全く忘れてたなあとか思ってね!しかも、寝よっかな!とか思ってたら朝練前にこれもいいと思ったんだけどこの曲もお願いね!とか言われて、でもそれ見つかんなくて!だから違法サイトめぐってたらこの時間、そして今に至る!ちゃんちゃん!」
「「うわああああああ」」
このクラスで伝わる例の奴である。
このクラスでは結構な無茶ぶりがイベントの際には出るため、その埋め合わせに駆り出される新聞君はかなり忙しい。
しかも、人に押し付けるとかできないから結局、学級長の彼一人だけが過労死。
ノリのいい奴らの裏側で下準備をするその姿勢が、NPCっぽいのでこの新聞君とは気が合う。
ちなみに合唱コンクールの曲を探すだけで、違法サイトを巡っても平気なほど精神が摩耗するとは誰が思うだろうか・・・
「・・・って、あれ?」
「おい、大丈夫!?」
死んだように倒れそうになった彼を受け止め、席に寝かしつける。
彼の犠牲が無ければ、こうしてクラスが円滑に回ることはなかったろう。
「もう、疲あれたあよ・・・」
「いいんだ、お休み・・・」
彼は間違いなくこのクラスにおける重要NPCである。
皆から讃えるような視線を受けた新聞君を、席に着けゆっくりと寝かしつける。
勇者(廃人)ここに眠る
皆で黙とうを捧げ、安らかに眠る彼の元を去ってみると、牛乳パックが床に落ち盛大にこぼれていた。
「ゲ」
仕方が無しに、ロッカーから雑巾を取り出す。おそらく新聞君が倒れた時にでも衝撃で机から落ちたのか。
全く、余計な仕事を増やしやがってあの廃人(クラス1の貢献者)。
当たり前だが拾ってなかったので、アンパンも落ちっぱである。
「よっこらしょ」
しゃがみ込んでふき取り始める。
どろっとした牛乳製品だったせいか、ねばねばしてなかなか取れない。
そんな中、俺の目の前で扉ががらッツと勢いよく開かれて
「すいませーん、遅れました!」
教室全体に凛とした空気を流してしまえる声だった。
『主人公は遅れてやって来る』
そんなことを地で行ってしまえる奴だった。
彼女は『主人公』であり、そして俺の幼馴染である。
付け加えると、超越美少女であり、俺の友人(新聞君)を廃人にしやがったやつである。
明日13時までに起きられれば23時までに次の話投稿します。