第5章NPCの本質part1
5章突入です!後4話で第一部終了です!
「連結魔術?」
翌朝アリアと共に家の庭で一万の魔物の大群を退ける最善の方法について考えた結果、アリアがそんな提案をしてきた。
2人でアリアが作った白い雲の机と椅子に座りながら、俺は聞いたことのない言葉に首を傾げる。
一万という大軍と戦うには、いくら対多数専門属性『曇』の専門家のアリアと数十人分の魔力量を誇る俺がいたとしても難しいのでどうしようかという話になった時のことだった。
「連結魔術は魔術師の間では魔術の机上の理想形って言われてます。」
アリアはそう言って即席の地図をトントンと叩きつつ、サマンサさんが新しく作ってくれた異世界のお茶やクッキーを楽しんでる。
まるで、今まで食べ損なってた分を取り戻すかのようにぼりぼりぼりぼりぼりぼり齧って飲み食いしている。
サマンサさんはそんな彼女の様子に苦笑いしながらも何も聞かずにクッキーを焼いてくれてる。
・・・有り難い話だ。
あっ、今の言い方主人公っぽい!
「で?連結魔術って今まで習ったこと無いけど、そんなにすごいもんなの?」
相変わらず美味しいと思えない異世界の茶を口で転がしつつ雲を手に纏わせる。
「連結ってことは二人で協力して魔術を使うってことだと思うけど、そんなに効果あんの?普通、そういうのって、集団的な魔術だろ?大人数であるからこそ、その効果があるんじゃないのか?テンプレ的に。」
アリアは自分も雲を手に纏わせ、俺のとぶつけ合い始めた。
「前も説明したと思いますけど、魔術って基本的に欠陥品なんですよ。覚えてます?」
彼女は自ら属性を作りだす程の魔術の天才でありながら、そんなことを言い出した。
・・・けど。
「・・・それは、魔術しか取り柄が無いアリア自身が欠陥品だという自分の存在否定になるぞ?」
「な、なにいってるんですかっ!?私だってそれなりに取り柄は、、、ぐすっ、ぐすっ。。。」
・・・泣き始めた。
じ、自分でもダメ人間だって自覚があるのか。
このままじゃ話が進まないので、慌てて自分の知ってる魔術の欠陥を話す。
「たっ、確か!魔術の操作に本来必要な魔力の数十倍を使ってるって話だったっけ!そのせいで、本来の魔術の威力も規模も出し切れていないってことだろ?・・・アリアには可愛いっていう一番の取り柄があるから大丈夫だよっ!だから泣き止んで!」
「そうですね。」
「ウソ泣きかよ!立ち直りはええな!」
アリアはメソメソと覆っていた裾から涙のなの字もない顔をしてやった顔を出すと俺の雲とアリアの雲を混ぜはじめた。
「いつもからかってくるんですからたまにはしかえしですっ!・・・つまり、連結魔術っていうのは、操作を片方に全て集中し、もう片方が威力や規模の維持魔力の放出係に分担することです。それによって、操作に集中できるから操作にかかるロスがほぼなくなり、通常の何十倍もの威力の術を出すことが出来ます。」
「・・・なるほど。じゃあ、他の魔術師も使ってんだな。そんなロスが少なくて威力は何十倍なんだから。」
アリアは俺のそんな言葉を聞くと大きくため息をついた。
「ま、机上の話ですけどね。」
「あ?」
アリアは雲の机に立てかけてあった杖を掲げてニヤッと笑った。
折角ですし、試してみますか?とそう言って、俺の剣と杖を重ねるようにと指示してきた。
雲の机と椅子を消しつつ、アリアと剣と杖を重ねるように持つ。
「私が操作を担当しますから、ひたすら雲を出し続けてください。いいですか?出し続けるんですよ?」
「おっけ。『曇よ』!」
剣から黒雲を出そうと魔力を出そうとし始めるが、妙に体が重い。
アリアも既に操作をし始めてるのか額から汗をこぼして歯を食いしばってる。
、、、てか、全然雲が出ない。
いつもなら雲なんて、魔力を込めれば込めただけたくさん出てくるんだが、アリアの操作しようという魔力が俺の雲を生み出そうという魔力が反発しあってるのか、結果として何も生まれない。
「連結魔術は結局は魔力の相性。当然同じ属性を持ってる者同士じゃないとできないし、たとえできたとしてもシンクロ率が低いと、、、反発しあうんです。もっと、私の魔力を侵食させてください!魔力の出もいつもより悪い!」
「くっ、、、はああああああああっ!」
アリアの魔力が染み込むように自分の魔力のをいじってみると、ぐぐっと入ってくる感覚があり、俺が生み出す雲の核に彼女の魔力がまとわりつく。
・・・けど、気持ち悪い。
まるで、神経を直接取り出されて針でつつかれてる気分だ。
しかも、そっちに気を向けすぎると今度は魔力の出が悪くなってきてる・・・
「コラ!気持ち悪い感覚は理解できますが、もっと集中して!もっと出して!」
「わかってる!」
段々慣れてきたのか、アリアの魔力が徐々に俺の魔力を動かし始める。
二人の間から、灰色の雲が漂い始める。
ぶっちゃけ、俺の黒雲やアリアの白雲と比べるとあまりにもボロボロの形で、小さすぎる。
・・・って、灰色の雲に気を取られた瞬間、雲の制御が乱れる。
「サクラ!反発が強まってる!魔力の出も弱まってる!これじゃあ、暴走・・・!?」
アリアが突然倒れこむ。
「アリア!?」
「維持に集中して、、、、暴走しちゃう、、、」
アリアが魔力操作しない分が一気に俺にのしかかる。
「・・・つっても、、、俺だけの魔力なら、、、ぐっ、、、できるけど、、、アリアの魔力が、、、俺の体ン中にまで侵食して、、、くる、、、、があっ!?」
暴走したアリアの魔力が、シンクロ仕掛けてた俺の魔力に混ざり合い始めた。
そして、シンクロしようと受け入れ気味になっていた俺の体の中に入り込み、アリアの魔力は強制的に俺の魔力を自然界に引きづりだす。
す、、、凄い勢いで引きづりだされてしまう。
こ、、、これじゃあ、、、すぐに空っぽになっちまう。
灰色の雲は奇妙な乱回転をし始め、俺の手には負えなくなる。
その様子をヤバいと感じて止めようとするが、二人分の操作によって何とか維持できたものを一人で制御できるわけがない。
「ま、魔力が・・・体が・・・」
先日喰らった魔力枯渇一歩手前の状態になり、膝から崩れ落ちる。
当然コントロールする魔力もなく、どんなふうにこの魔術が暴走するのか予想もつかない・・・
「ま、、、、まずいです、、、」
俺と、アリアのほとんどの魔力を吸い上げた灰色の雲は妙な気迫を纏い始める。
そして、乱回転する灰色の雲はますます回転速度を増していき、、、
ぷしゅう~~~と、空気が抜けたかのように萎んでいった。
ふ、不完全燃焼・・・魔術にすらならなかったのか。
「「はあ、、、はあ、、、はあ、、、、はあ。」」
そんな雲の様子を見て、安堵のため息を二人ともこぼす。
・・・けど、見間違えようもない程の大失敗だ。
俺の普段の黒雲の100分の一の威力も規模もない。
「アリア、、、?どうしたんだ?何が、、、起こったんだ?」
アリアは地面に這いつくばりながら、憔悴しきった顔を上げた。
「反発を防ごうと、、、相手の魔力を受け入れようとすると、体の中に相手の魔力が入り込んじゃって、外に無理矢理魔力を放出させるんです。それで、、、魔力枯渇に。私が先にその症状になっちゃって、、、操作が効かなくなるから、、、連結魔術も不完全燃焼に。」
「反発させても、、、シンクロさせ過ぎても、、、駄目ってことね。まさしく、机上の理想形だわ、実現性が低すぎる。」
アリアと俺は寝っ転がりながら仰向けになる。
お互いの息を整える音だけが響く。
しゃべる気力すら奪われかけていた。
「ぐっ、、、、これなら、、、普通に戦った方がいいんじゃね?」
魔力のシンクロを失敗すれば、隙だらけになっちまう。
しかも下手したら、普通に魔術を使うよりも魔力を浪費してるのに威力は普通より低いなんてリスクまである。
これじゃあ、、、実戦じゃあ、使えない。
しかし、アリアは首を横に振る。
「いえ、、、これにかけるしかないです、、、今回は、、、失敗でしたが、、、成功すれば、、、普段の何十倍の威力を出せますから。」
それに、、、と、彼女は起き上がった。
「練習すればするほど反発は減って来ますし、雲の魔術は性質上、自然魔力を取り入れて発動時よりも増幅していきますから普通の属性の連結魔術よりも規模や威力は跳ね上がるんです。まあ、『理論値で』、ですが。」
「・・・わかった。他に手は無いんだから、それにかけよう。」
俺も、女の子が立ち上がってんのに主人公がいつまでも寝っ転がってられるかと立ち上がる。
二人でまた構え直す。
ジタバタしてなきゃ始まんない。
守るべきものの為の戦いはもうすぐそこに迫ってきてるんだから。
「せっかく、残り魔力が少ないんですから、、、まずは少ない魔力で連結魔術が出来るようにしてみましょう。」
「おっけー。」
二人の間にまた小さな灰色の雲が出来始めた。
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盆地とは、地層や岩石の軟らかい所が選択的に侵食されて、周囲よりも低くなったものであり、俺のいた現実世界では盆地は防御の面に優れていることや、平坦な土地であることから、内陸都市が立地することもある。
それでも、、、一万の魔物がうじゃうじゃできるほどデカい盆地は見たことが無いけどな。
蟻の群れのようにざわざわ蠢くその様子に生理的な嫌悪感を抱く。
俺たちは盆地で決戦を行うと決めていた。
指揮する上の人間の頭が良いと分かったお蔭で、絶対にここに全軍を置くと予想が出来たからだ。
龍対策に人質を取らせようとゴーストシーフを火山中に張り巡らせてたことから知能が高いことは簡単に予想できる。
この盆地のあちらこちらに植物や動物などの食料、湖の飲料水が豊富にあることも理由の一つだ。
一万もの魔物を従わせてるんだ、糧兵の確保は最優先だろうしな。
絶対に一度はここで全軍を休ませると思ってたぜ。
頭が良い上官様には感謝だぜ。
・・・と、指揮官がある程度頭のある魔物であることに感謝するのはどうなんだろうなとか思っていると、後ろからアリアに声をかけられた。
「サクラ、いつまでも魔物たちの様子を眺めてないでこっちに戻ってきてください。奇襲がばれてしまいます。」
その声にああと反応して、アリアと再び周りの岩場に色を似せた迷彩布を被る。
結局、俺とアリアはココノハ村の連中にこの危機を伝えようとはしなかった。
いざとなったら何も知らないサマンサさんを気絶させて、避難するつもりだからだ。
この危機を知ったら絶対に村に残るだろうことは目に見えていたし、アリアが協力してくれるのもサマンサさんの命を守るためだから仕方がない。
危機を伝えないのは無責任だとか後から言われるかもしれないが、危機を知ってたとしても知らなかったとしても、俺とアリアが現状の最高戦力。
俺たちで駄目なら村は滅ぶし、『後から』なんて言ってられない。
もう、滅ぼすか、滅ぼされるか・・・しかないんだ。
「さすがに、明け方は冷え込むな。」
「そうですね。」
昨日の夜から、明け方にかけてまでずっと俺たちは何も食わずに隠れていた。
明け方である理由は二つ。
一つは、軍勢ていうのは性質的に明け方が一番反応が鈍く、夜襲を警戒していた者たちも気が抜ける時期だから。
そして軍勢のほとんどが火山での活動を前提にしているモンスターばかりであるため、明け方の冷気で動きは鈍くなるからだ。
つまり、今が狙い目であることは間違いない。
おもむろにアリアが立ち上がったので、俺も立ち上がり剣を抜く。
「もう、後戻りは効かないですよ?失敗=戦闘不能ですから。」
アリアが下の魔物の群れを見下げながら、覚悟の籠った声でそう言った。
あらためて、作戦を思い返す。
相手が頭のある魔物であり、元々龍を生け捕りにするための軍勢だったことを考慮してこの作戦は練られた。
つまり盆地というすべての軍勢がすっぽりと入る場所で、連結魔術を用いて龍を生け捕りにできないところまで数を削ってしまえばいい。
一万と聞くと、流石にビジュアル的にも無理ゲ感がするが、龍との戦闘不可能にまで追い込む数と考えれば、倒す数は4千程でいい。
それなら、修行により随分と安定した連結魔術でも達成可能だ。
周りは警戒してる節は無い。
俺もアリアも気合十分。
大丈夫、、、失敗しなければいい。
「大丈夫だ。始めよう『曇よ』」
試行錯誤により、俺が雲を放出し、アリアがそれを雲でハッキングする形が一番やりやすいことが分かった。
とはいえ失敗すれば威力が並以下だったり、相手の魔力が流れ込むことによる魔力枯渇になる点は変わってないが、成功率は2割を超えた。
剣から溢れ出る黒い雲が俺たちの頭上へと、、、空へと昇っていく。
「『曇よ』」
その後を追うように剣と重なる杖からも白い雲が噴出され、黒い雲にまとわり始める。
よし、、、反動も小さい。
俺たちの雲に気付いたのか、軍勢の中からギギィと声がし始めるがまだ遅い。
・・・よし、雲が灰色になり始めた。
魔力の供給に集中するために目を閉じる。
すごい、、、アリアの魔力による反発が最初のころと比べると全然感じない。
アリアが物凄く丁寧に操作してくれてるからだろう。
これなら失敗せずに済みそうだ。
既に雲は、連結魔術の効果により盆地の2割は覆えるくらいの大きさになってきている。
雲が周囲の魔力を吸収していくから、俺たちが雲を出せば出すほど加速度的に雲は増していく。
魔物たちの騒ぎ声が段々増してきているが、大丈夫。
何事も無ければ間に合いそうだ。
俺がミスしておじゃんにしないようにしねえと。
「サクラ」
アリアがそんな中、声をかけてきた。
目を開けて、アリアの顔を見る。
アリアの顔は蒼白で、苦しそうで、、、、、、、
「ごめんなさい」
吐血していた。
「アリア!?」
倒れ伏すアリアを慌てて抱きかかえる。
濡れた感触がして、その手を見るとべっとりと血がついていた。
手を置いていたアリアの背には大きな出血痕が刻まれており血がどくどくと漏れ出してる。
何が彼女を襲った!?と辺りを見渡すと宙に一本の大ぶりのナイフが浮かんでいた。
バカな!?辺りには注意を払ってたのに何故!?
、、、とそんな緊急事態の中でも連結魔術失敗のリスクは俺の体に降り注ぐ。、
「・・・ぐあっ!?・・・くそ、暴走による、魔力の過剰放出か・・・このままじゃ、魔力枯渇になる。
その前に、、、『曇の網≪ネット≫』」
操作できなくなったアリアの魔力が再び俺に流れ込み、そして俺の魔力と共に勝手に抜けていく。
その前にと、連結魔術の雲の制御に見切りをつけ新しく黒雲を生み出す。
「・・・アリアは連結魔術の操作に集中しきり、俺も魔術の維持に集中しきり。辺りの警戒がおざなりになったせいってか、クソッ!」
連結魔術を使う前にせめて辺りを雲の網で確認しておけばアリアが死に掛けることは無かっただろうに・・・
空に浮いていたのは、ゴーストシーフ。
全身が魔力の、潜伏特化のゴーストの上位体だ。
なぜか大きなナイフを手に持っているが、その刃にはアリアの血がべったりと垂れている。
「・・・ああああああああああああっ!『曇の増成≪パンプアップ≫』!」
漏れでる魔力を必死にせき止めながら、何とか対ゴーストシーフ用の魔術を使う。
黒雲が全身を包もうと迫ってきているのにゴーストシーフは微動だにせず空を見ていた。
まるで、同族の敵は討ったと晴れやかな気持ちでいるかのように。
からんからんと大ぶりのナイフが落ちる音がした。
どうやら、ゴーストシーフが持っていたあのナイフは実物だったようだ。
「アリア!アリア!・・・ぐうっ、出血多量に魔力枯渇が重なってるせいで、意識すらない!これじゃあ、死んじまう!」
俺自身も、体から抜け出る魔力をほとんどせき止めることが出来てない。
幾ら、人よりあるとか、改良された連結魔術によって魔力枯渇の勢いはマシになってるとかいろいろと都合の良い展開があるからと言って、、、、これはまずい。
アリアを運ぼうとして立ち上がろうとした、膝が魔力枯渇の影響で震え、、、崩れ落ちる。
「はあ、、、はあ、、、ヤバい。」
剣を杖にもう一度立ち上がろうとした瞬間、空気が割れた。
「ははっはっはっはあっはははははあははっははは!やあ、おにいさん!お疲れのようだね!感じ的に!」
暴走により萎みかけていた灰色の雲を割るほどのソニックウェーブを引き連れて、一人の少年が空を飛んで突っ込んできた。
「ちい、、、見つかったか!アリア!すぐに村に連れてってやるからな!『曇の壁≪ウォール≫』!」
「無駄だよ!それッ!」
高速で突っ込んでくる少年と自分の前に残り少ない魔力で壁を作りだすが、少年の拳一発で粉々にされる。
そして、壁と共に風圧でブッ飛ばされてしまう。
壁である程度は相殺されたはずなのに、、、視界が二、三度暗転して、床をしばらく滑る。
「ち、、、こ、こ、こ、『黒曇衣≪コート≫』!俺を立ち上がらせろ!」
抜けていく魔力を無理矢理かき集め、体に部分的にコートを纏わせる。
・・・冷静になってみりゃ、そりゃそうだ。
身体強化もまともに出来ないのに、『曇の壁≪ウォール≫』がきちんと働くわけがない。
体の不調と魔力不足による甘い術式構成による不完全な身体強化のせいで、体は全然思うように動かない。
それでもなんとか立ち上がり、剣を構えて立ち上がる。
「へえ、、、死んだかと思ったよ。感じ的に。」
恰好だけは普通の村人のような服装をした少年は、体に釣り合わないほど大きな緑色の翅をパタパタさせ、ゴーストシーフの持っていた大ぶりのナイフをひゅるるんストン、ひゅるるんストンと空中に投げては取る、投げては取るを繰り返していた。
「・・・お前が、ゴーストシーフに辺りを偵察させてたのか?」
「ん?ああ、僕のナイフを勝手に持ってった奴か。なんか君たちの雲を見た瞬間、仲間の敵とか叫んでったらしいけど・・・情けないね。片方に傷をつけただけで死ぬなんて。感じ的に。」
そういって、嘲笑った。
「でも、作戦の邪魔になりそうな人間を見つけ出したんだ。褒める部分はありそうだね。感じ的に。」
「・・・そうかよ。」
どうやらナイフさえ取り返したら、帰ってくれる・・・とは思えない。
少年は今は俺の方を見もせず、ナイフで手遊びしてるが次の瞬間殺されそうなほど空気は極まっている。
「毎回殺す相手には敬意?を払わなきゃいけないそうだから一応名乗っとくね。感じ的に。」
最後に一回投げてそれを宙でつかんだ瞬間、いきなり俺の目の前に現れた。
「!?」
反射的に持ち上げたレイピアに首を狙った一撃が叩きこまれる。
不完全な身体強化のせいで、あっさりと体は吹っ飛ばされる。
そんな戦闘を行っている間にも、魔力はどんどん体から抜けていき、身体強化はますます甘くなる。
「僕は魔国第四師団第三幹部『最凶』!本名は・・・忘れちゃった!感じ的に!」
一撃受ける度に体が浮き、身体強化が抜けていく。
こいつ、、、遊んでやがる・・・
レイピアの本来の使い方も、俺本来の戦い方も出来ぬまま、体は流れて弱っていく。
何とか魔力を練って、『曇の網≪ネット≫』で動きを封じなきゃ・・・
「ぐっっ!?」
気づいたときには、後ろにいた。
攻撃されるのをギリギリで受け流す。
だめだ、、、視覚外に瞬時に高速移動して攻撃する手段まである奴相手に、立ち止まって魔力を練る時間なんてあるはずがない・・・
羽ばたくたびに、体を転移させ、四方八方から剣戟を加えてくるため、必然的に体は動かされ続け、体力はガンガン削られていく。
このままじゃ、じり貧だ・・・
「この、、、やろ。『曇よ』!」
最後の力を振り絞り、顔の辺りを黒雲で覆わせることで、一瞬だけ『最凶』の体が止まる。
・・・この魔人を止める魔力ですら、残ってないが仕方ない。
「喰らえ!」
逆転を狙って、首に全力を込めた一撃を差し込む。
・・・感触が無い。
『最凶』の体が歪んで消えていく。
「おにいさん、いつからそれが実体だって勘違いしてたの?感じ的に?」
俺の目の前には前傾姿勢で懐に入り込んでくる『最凶』の姿が。
「い、いつの間に!」
「バイバイみたいだね、おにいさん。感じ的に。」
目にえぐりこもうと突き出されるナイフを避けるため、体を後ろにそらし、飛ぶ。
あれ?
足が滑った。
体が流れて、ひっくり返っていく。
そうか、、、魔力が完全にゼロになって『黒曇衣≪コート≫』のアシストが切れたんだ。
一瞬、体が完全に空に抱かれて宙に浮く。
全く体が動かないその状況下で、空だけはバカみたいに青く澄み切っていた。
ちきしょう・・・
「結局、主人公にはなれないみたいだな。」
魔力枯渇の苦しさは伝わってはくるものの、俺自身はNPCとして冷静にその状況を捉えることが出来ていた。
相手の勢いを活かしたカウンターも狙えず、無様な様子を見せるサクラ=レイディウスに失望していた。
失望
格好よく言った言葉であったが、、、これがあるってことは期待してたんだろう。
彼が、ヒロインを笑顔して自分の意思を貫ける『主人公』であり続けることを。
サクラは、、、如峰月桜にとっては、希望だったのだ。
彼が出来るなら、、、俺も主人公であれるかもしれないと。
いや、、、、自分の分まで主人公であってくれると。
「それでいいのかい?」
いいわけない
「どうしたい?」
サクラが主人公である為に助けてやりたい。
「じゃあ、何故それをしない?」
何言ってんだよ。俺に出来る事なんて何もない。
痛みを伝えてもらうことは出来ても、俺はサクラに触れることさえできないんだぞ!?
サクラの悔しさがビンビン伝わってくる!
この体にはないはずの曇の種の思いだし痛から!魔力過疎なのに魔力を必死で引きづりだそうとする全身の痛みから!
それなのに、ふざけたこと言ってんじゃねえよ!
「・・・ヒントはもう全部出てるじゃないか。まだ分からないのかい?」
うるせえよっ!
どうせ、俺が何しようが、俺もサクラも主人公になんてなれやしないんだっ!
「落ち着けないなら、彼は死ぬ。」
・・・・・・・・分かったよ。教えてくれる気があるなら教えてくれ。
ここは現実なんだ。
ラノベみたいに妙なヒントはいらない。
正解だけくれ。
「・・・おっけー。その考え方忘れちゃいけないよ。本人格である君が、その考え方でいることが大事なんだ。」
本人格?・・・もしかして、サクラは俺じゃない?
「君だ。」
てことは・・・俺は多重人格か?
でも、、、ドラマでもあるけど、多重人格の場合本人格と交代人格間の記憶と感情は切り離されるはずだけど、俺の場合それが無い。
「ここでサクラが生まれたからだよ。」
・・・は?
「君がここに初めて来たとき、君は未知の世界に対して恐怖を抱いていた、そして、水の中で溺れかけるなんて死の恐怖を抱いた。・・・そして、パニックを紛らわせようともう一人の自分を生み出した。それがサクラだよ。君が元々持っていた、未知なるものに興奮を覚える主人公である人格を。」
・・・ついてけない。確かに、多重人格の発症にはストレスが関係してるはずだけど俺の症状は多重人格じゃない!
「この世界で生まれたものは総じて魔力を持ってこの世界に現れる。つまり、魔力が生まれる瞬間が君と本質能力が生まれた瞬間なんだ。そして、、、サクラも同じ時を持って生まれたんだ。サクラは君であって君じゃない。そして、大きなパイプが形成されたんだ。」
パイプ?・・・もしかして、サクラはこの魔法がある世界でただの人格ではない者として、俺の中にいるのか!?しかも、感覚や記憶を共有できるほどの強い絆がある!?
「そう、、、異世界の危機から自分の身を守るには君のような主人公になりたいって気持ちを鬱屈させてる引っ込み思案よりも、主人公になるって言い切るぐらいの強気じゃないと駄目だったから。僕はサクラを桜の中に作った。」
俺は、、、サクラで、、、桜だった。
「忘れないで。サクラは間違いなく君だ。でも君じゃあない。この世界においてはそれが事実だ。・・・みてごらん、君が混乱してるうちに決着が着きそうだ。」
あ!?魔力切れ起こしてる!?このままじゃ、死んじまう!?
俺が主人公でいられなくなる!
「いいね、、、そう、大事なのは桜がサクラを主人公でいさせたいって思いが大事なんだ。それがこの本質能力のキーワードなんだ。」
本質能力・・・?
「とにかくまずはもっとパイプを強めるんだ!サクラが桜を認識できるぐらいまで!ヤバい!殺されそうだ!」
はあ!?どうすりゃいいんだよお!?
「サクラが主人公であってほしいって、、、サクラが異世界にいる意味を認めてやってくれ!もっと強くサクラのこの世界での存在意義を認めてあげて!それだけでいい!」
わかった!
サクラ!聞こえてるか!お前が主人公であってくれないと俺まで困る!
お前は俺の無くなったはずの希望なんだ!
頼む!俺が諦めた夢をお前が代わりにかなえてくれ!
主人公であってくれ!
俺を主人公にしてくれ!
「それでいい・・・・・」
「はっはあ!足が滑ったかな!取り敢えず、土にはりつけだあ!感じ的に!」
声が聞こえる。
『最凶』がナイフを振り上げる姿が『視える』
いつの間にか、体に熱が戻ってきてる。
前にもあったなこんなこと。
火山全体を黒雲で覆ったとき、同じことが起こった。
あれは、潜在的に主人公が限界振り絞ってやり切ったっていうシチュエーションを叶えたいっていう
桜の潜在意識が働いたからなのかもな。
後ろ脚を限界まで下に直し、踏み込む。
それと同時に消えたはずの『黒曇衣≪コート≫』が完全復活した袖を振るい、右腕で俺の視界からは見えない『最凶』の手首を掴む。
空しか見えなかった青空には、ずっと見てくれてる人がいたんだ。
俺が、、、主人公であることを望んでくれた人がずっといたんだ。
体全体を使って、起き上がり驚愕の眼でこっちをみる『最凶』に笑いかける。
「わりいが、見てくれてる人がいるんでね。桜が俺を見限らない限り、俺は絶対に死ねないんだ。」
左手に掴んだレイピアから勢いよく黒雲が立ち昇り始めた。
視点変更多くてごめんなさい。でも、チートですよ!チート!筆が進みますわ!




